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夕日は沈み、空の支配者が太陽から月天に変わり終わった。 虚無の曜日、トリスタニアのウィリアムの酒場亭では連日日中に勤労に勤しんだ酒飲み達がひと時のお祭り騒ぎを起こしていた。
「毛布にくるまって燻ってる暇があるなら~可愛いあの子をファックしにいけ~」
「「「「ハイ♪ハイ♪ハイ♪」」」」
酒の肴というか、御目当ては虚無の曜日にこの酒場で開催される私、ギムリと愉快なバンド仲間2名が送るプチライブ。
私がこの店で唄い始めてもうすぐ1年にせまろうかという所だ。
幸いにも私の演奏はトリスタニアの労働層に受け入れられたようで、安定した集客率を勝ち取っていた。
それが少し誇らしい私であった。
「キャー! ファントム様~~」
「『それゆけチェリー』を唄ってくれ~」
「バーロー!次は『14美少女アナルブッチャー』だろ!」
「どっちも名曲よ! 両方歌って~」
「ヘドバンヘドバン」
「ヨシュアく~ん! こっちむいて~!」
「デイジーちゃ~~~ん! この後おれにしゃくしてくれ~」」
1年間の成果が出始めてウィリアムおじさんもご満悦である。
ん?
ファントムってのは私の事だ(爆笑)
烈風カリンよろしく仮面をしているため、お客には私の正体がわからないようになっている。
それでも私の正体を知りたい熱烈なファンがデイジーに詰め寄り困ったデイジーは私が以前に話していたオペラ座の怪人を思い出し、咄嗟に彼はファントムよ!…と苦し紛れに返答したものが口コミで広がってしまったのが原因だ。
正直に言おう!とても恥ずかしい……。
いや、まぁ職場や家族に迷惑をかけないように変装する歌手やバンドは多いからありっちゃありだけどね。
びーきゅるとか。
みどりぃぃぃぃぃぃ!とかな!
そんなこんなで今日も演奏をしている俺なのだが、実は今現在演奏中なのに冷や汗ダラダラの危機に陥っている。
ライブをする時は毎回多かれ少なかれ緊張するものだが、なぜ今まで以上に緊張しているかというと答えは簡単…いるんですよ!
お客さんの中にですね?緑色の髪と凛とした気品をかもし出すメガネが特徴のアノお方が……。
ミス・ロングビル。
サウスゴータ領の元令嬢マチルダ・オブ・サウスゴーダ様が酒場の隅に腰かけて私達の演奏を気持ちよさそうに拝聴なさっているですよ!
しかも時より目が合うとニッコリと優しい笑みを浮かべてくる始末ですよ?
バレた?
バレテルンデスカ?
とまぁ、そんな緊張したライブも無事に終わり、いつもなら3曲は行うアンコール演奏も1曲のみに短縮して、そそくさとバックヤードに引っ込まして頂きましたよ。
「ふ~、なんとかなったかな」
「兄貴?今日はどうしたんですかい?えらく汗かいてますね?」
普段と違う様子に気づいたか、ヨシュアが心配そうにたずねて来た。
「いや、ちょっと店に知り合いがいてさ?たぶんバレてないかな…かな?」
そういって苦笑しながら流れた汗を拭き、一杯の温いビールで喉を潤す。
熱気に当てられたてかいた汗と冷や汗で体内の水分は思っていたよりも消耗していたのか黄金色に光るビールの喉越しが普段より心地よく感じた。
まぁ、水分が足りない時にアルコールを摂取するのは、アルコールを分解するためにさらに体内の水分を消耗させるため本来タブーなのだが、そこは水に流し…いや、ビールに流してくれ。
「ぷはぁ~!うめ~~!」
「兄貴…なんか貴族のぼっちゃんにはとても見えないッスよ…」
「ほんとね…」
呆れたような2人に構わず2杯目に手をつける。
ハルゲニアで酒といえばやはりワインなのだが、そこはやはり日本人だったころの名残か、仕事終わりはビールのほうが口に合ってしまう。
我ながら立派な庶民派である。
貴族の人物像を崩壊させるような私の行動を見る2人の冷めた目にはすでに慣れたものである。
とりあえず3人で今日の打ち上げも兼ねね楽しく談笑していた所に鼻をだらしなく伸ばしたウィリアムさんが1枚の手紙を持ってやってきた。
「おう!3人ともおつかれさん!ギムリ…っと今はファントムか!ハハハ!なんか偉い美人さんがお前にこの手紙を渡してくれってよ!いや~あまりにべっぴんさんだったから思わず引き受けちまったぜ」
快活に笑うウィリアムさんに呆れながらも、そんな美人さんからのファンレターに嬉しさを感じ、手紙を受け取り中身を読む。
内容自体は普通のファンレターなのだが、このファンレターにしてはずいぶんと上質な紙を使っていることから品を感じる。
グラシャラボロス!
「その美人さんってどういう姿見だった?」
「ん?そうだな~髪は綺麗な緑でよぉ。キリっとした目にメガネが似合っててな?どこか仕草のひとつひとつに気品がある感じだな。平民の服着てたが、ありゃきっと貴族か元貴族だな。隠しているようだったが腰に杖持ってたしな。 でもどっかでみたことあるような~」
はっきりしない物いいだが、おそらくあの人からだろうとあたりをつける。
ミス・ロングビル…ね。
ただのファン?
ぶっちゃけ学院の生徒だってばれてる?
どうなの?
「……どうなんだコレ?」
「「「?」」」
『疑問』
『焦燥』
『不安』
そんな思いを残して使い魔召還の儀前日の夜は過ぎていった。
天気は雲一つ無い快晴。
時より吹くハルケギニアの大地独特の乾いた生暖かい風が時より春1番を彷彿させる。
場所はトリステイン魔法学院ウェストリ広場にて、貴族の卵達が今か今かと自分の召還する番を待ち続けていた。
そんな騒がしい群集の端でギムリはニューヨークの地下鉄駅なみに暗いダークな空気を漂わせていた。
サブウェイ!
このハルケギニアに生を受けて十数年…とうとうこの日がやってきた。
そもそも召還の儀とは、読んで字のごとく、メイジが生涯を共にする使い魔を召還するサモン・サーヴァント。
時に主人の剣となり、時に主人の盾になり、時に主人の心を癒し、いついかなる時も主人を手助けすることを使い魔に誓わせるコントラクト・サーヴァントを行うことである。
ちなみに、この使い魔召還の儀式が、ここトリステイン魔法学院の進級試験でもある。
「とうとう始まるんだ原作。 なんか今まで何してたの俺って感じ、ハハハ」
気づけば乾いた笑いがこみ上げて来た。
そんな私を心配してか同級生のレイナールとフェンツェルが話しかけてきた。
「ちょっとギムリの様子おかしくない?大丈夫か?」
「そっとしといてあげようよフェンツェル。きっと緊張してるんだよ?いくら過去に失敗した人がいないからって失敗しないわけじゃいんだかさ…実は僕もちょっとね」
そう言って少し緊張した面持ちのレイナールにワックスが肩を叩きながら大丈夫さと優しげに接する。
過去を見ても、この使い魔召還の儀に失敗した貴族はいないのだ。
どんなショボメイジだろうが必ず成功する。
だから誇りのやたら高いトリステインでは進級試験なんかにうってつけではあるだ。
すでにカエルやらモグラやら幻想種やらの召還を終えた生徒達はそれぞれの使い魔達を讃え賞賛しあい、ヴェストリ広場は賑わいを見せていた。
キュルケ嬢とタバサ嬢は原作通りサラマンダーと風竜を召還しており、やはりその2匹の存在感はその他の使い魔とは一線を画していた。
さてさて俺の使い魔だが、ぶっちゃけどんな使い魔が出てくるのか楽しみでしょうがなかったりする。
変な使い魔だったらどうしようかと云う不安も勿論あるけどね。
個人的にはタバサ嬢の風竜とまではいかなくても空を飛べる使い魔が希望である。
なぜか?
だって馬って長時間乗ると尻が痛くなるからである…。
毎週のごとくトリスタニアと学院を往復している私には是非とも欲しい空移動である!
切実だ。
「では、ミスタ・アッサンブルーム。始めてください」
コルベール氏に呼ばれ、私は呪文を紡ぐ。
「我が名はギムリ・ド・アッサンブルーム。五つの力を司るペンタゴン。我と共に長き時を過ごし、我に従いし、使い魔を召還せよ」
……………
…………
…
しかし何も起こらなかった。
「あれ?」
思わず唸る。
失敗した?
どういうことだろうか?
詠唱が悪かったのかと思いその後、何度か詠唱を変えてみても成功しなかった。
「ふむ…これはどういう事でしょうか」
コルベール氏も一緒になって不思議そうに唸っていた。
この召還の魔法はコモンスペルであり、基本メイジであるならます失敗しない魔法なのである。
これにはさすがのコルベール氏もお手上げ状態で、取り合えず僕の召還は後回しという事になった。
ふむ。
この結果は予想していたかった。
まさか使い魔が召還できないと…。
さすがに留年はまずいし、なんとかしないと思い、足りない脳をフルに使って考える。
魔力の込めは充分だった。
でも何かが足りないような。いや、むしろ何かが間違っている気がした。
詠唱?
いや、この魔法に発動ワードは特に意味を成さない。
どんな適当な発動ワードでも『何か』アクションは起きるはずなのだ。
現に広場の端で未だにサイト少年を召還出来ずにいるルイズ嬢だって、発動ワードを変えても爆発というアクションを毎回必ず起こしている。
何が間違っている?
もっかいやってみるか。
ふと閃いた私は、コルベール氏に頼んでもう1度試験を受ける事に。
「我が名ギムリ・ド・アッサンブルーム。五つの力を司るペンタゴン。我の召還に従いし、超キュートでクールでキュークな使い魔よ! 顕現せよ!」
目の前に光が宿る。
よかった。どうやら成功したみたいだ。
やがて、光が消えその姿を表しはじめ…
広場に大きな咆哮が走った。
「グルゥァァアアア!!!!!!!」
赤い毛皮に赤い鬣(たてがみ)。
鋭く光った目にいかにも獰猛そうな大きな牙。
体長は…でかい!3メートルはあるぞ!
人間と百獣の王ライオンを混ぜたような顔面に太く大きな尻尾には無数の棘。
そして巨大な蝙蝠(こうもり)羽を広げた姿は食物連鎖の頂点に君臨するに相応しい威厳を持っていた。
「おお~これはマンティコアですよ!やりましたねミスタ・ギムリ!」
コルベール氏は揚々と私に賞賛の声をかけ、周りの生徒達も突然の咆哮に吃驚したものの、その姿を見て「すげ~!」っと云う声が聞こえてきた。
「ミスタ・アッサンブルーム? 呆けていないで、契約を」
思わず固まってしまった私に先生は肩を叩き、正気を取り戻した私は、マンティコアとの契約を済ました。
「すごいじゃないダーリン!マンティコアを召還するなんて!さすがよ!」
どこからともなくやってきたキュルケ嬢が賞賛の声をかけてくれた。
でっかい羽根付きライオン…もといマンティコアは何が嬉しいのか私の顔をペロペロとまた大きな舌で舐め始めた。
舌がザラザラし、時々鋭利で巨大な白い牙が頬に触れるのがなんとも言えない感情を私にもたらしていた。
傍目からみると大きな猫みたいな感じであろうか。
「また派手なのを召還したもんだねギムリ」
「………いい使い魔」
さらにどこからかやってきたギーシュとタバサ嬢。
「ハハハ…」
思わずこみ上げてきた笑いと引き攣った顔から流れてくる涙をマンティコアは不思議そうに眺めながらも、私の顔をペロペロ舐めていた。
父上、母上、不詳の息子は…………なんかスゴイの召還しちゃいました。
ルイズ嬢ですか?
すいません今それどころじゃないんで後にしてください。
8話へ跳べイサミ!