WINNER
マリコルヌ!!
嘘です。すいません。かっとなってやった。
「それじゃ、ミスタ?決闘の合図をお願いしますわ」
「立会」
場所はウェストリー広場にて、夕日は落ち、広場の芝生を夕闇が侵食しているように薄暗く静まりかえった夕刻。
面前には敵意を剥き出しの女生徒と、それを静かに、だが確かに怒りを目に宿した女生徒が向かい合い、決闘開始の開始はまだかまだかと催促していた。
一人はゲルマニアからの留学生『情熱のテェルプストー』ことキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
もう一人はガリアからの留学生『ユキカゼ』タバサ改めシャルロット・エレーヌ・オルレアン。
さて、いったいどうしてこんな状況に陥ってしまったのか―
理由は至極単純!
授業後、ギーシュに頼まれていた歯磨き粉の材料を調達すべく学院から少し離れた森に出掛けていた。
野生のミントてオマっ!
ミントは他の植生を犯しまくるのに、なぜ森に普通に生えてるんだろうなっ。
世界ってミステリー!
あらかた採集を終え、日も落ちそうなので学院に帰ってみると、ウェストリ広場前で件のタバサ嬢とキュルケ嬢を見かける。
原作キャラ達との遭遇に思わず進行方向を変更しようとする俺。
「ちょっと? そこミスタ? 少し付き合って頂けないかしら」
「決闘…見届け人」
だがしかし、丁度いいところに来たと2人に連行される。
断る勇気が無かったんじゃない!
断われる空気じゃなかったんだ!
こんな俺を誰が攻められようか……。
あいるびーばっく!
そして今に至る―
予期せぬ原作キャラとの接触に警戒したりタバサ嬢からチラチラと向けられる、さっさとしろはじめろや!的な視線やらで現実逃避を開始したい気分でいっぱいだった。
「それでは…私としては大変不本意ではありますが、私が決闘の立会い人を勤めさせて頂きます。両者、伝統に従い宣誓を…なんかもうめんどくさいから省略します…はじめ!」
「なんかおざなり過ぎて釈然としないけど、まぁいいわ!覚悟しなさいチビメガネ! ツェルプストーの情熱を踏みにじった罰は昔から火炙りって決まってるの! さぁ、ファイアー・ボール!」
「……エア・カッター」
っとなんだかんだグダグダに始まった決闘だが、二人の魔法の錬度はすごかった。
火のトライアングルであるキュルケ嬢の火系統魔法は、もはや火炎魔法って呼べば?というほどの威力とスピードでタバサ嬢に向かって行く、しかしタバサ嬢は身体能力のみでそれを見事に見切り、即座にエア・カッターで反撃する。
タバサ嬢のエア・カッターは視界には移らないが、エア・カッターが通ったと思われる道呈は地面が日本刀で切り裂かれたかのような鋭意な軌跡を残す。
ハッキリ言おう!俺のエア・カッターと比べると月とすっぽんだ!
「キャ!」
予想外の反撃に思わず女性らしい悲鳴を上げるキュルケ嬢。
みれば彼女は衣服は破れ、薄い服からのぞく褐色の肌からは赤い血がにじみ出ていた。
これが北花壇騎士の実力かと目を見張っていると、キュルケ嬢はかなわぬと悟ったか、即座に降参を宣言。
終わってみれば一瞬の試合であった。
かっこよく描写する暇もなかった。
アポロジャイ!
その後、キュルケ嬢は「私が舞踏会で受けた風魔法はあなたの魔法よりよっぽど弱かったわ。疑ってごめんなさいね」とタバサ嬢を犯人と疑った事とタバサ嬢の大事にしていた本を焼失させた事を誠実に謝罪しタバサ嬢もそれを承認。
そして俺に向き合い礼を述べた。
「ミスタもお付き合いしてくださってありがとう」
「感謝」
うん。基本的にいい子達なんだよね。
「いや、自分なんもしてないんで!仲直りできてよかったですね!ハハ」
「ふふ、ミスタったら。それじゃそろそろ、あちらで這い蹲って隠れてる方々にも登場してもらおうかしら?ファイアーボール」
「ウィンディ・アイシクル…」
「ほぇ?」
原作通りに仲直し、うんうんと唸っていると彼女達は茂みに隠れて様子を探っていたヴィリエ・ド・ロレーヌ一向をひきずりだした。
そういえばいたんだ…すっかり忘れてたし気づかなかった。
そして彼女達によるの彼女達のための彼女達による制裁の時間の始まりをつげた。
「あわわわぁぁ」
「わわわたしたちは関係ないわよ!」
「そそそうよ!これはミスタ・ロレーヌが言い出した事で…」
「ち!ちがうんだ!僕らはただたまたまここに居合わせただけで「問答無用!ファイアー・ボール!」
「「「キャー」」」
手始めにロレーヌの取り巻きの女生徒達を摂関!
そもそもこの事件は風系統の高名なメイジを輩出する家の出身で、自身も風系統のラインメイジのロレーヌが入学直後に自分よりも風の魔法を自在に操るタバサ嬢にプライドを傷付けられ、決闘を持ちかけるも返り討ちに遭った。それを根に持ち、キュルケ嬢に彼氏を取られた女子グループと共に下劣な復讐を企んだ…みたいな事件だったはずだ。
それを見て腰を抜かせながら顔を青くしているロレーヌ…まったく哀れな男である。
今にも漏らしそうなロレーヌを哀れみながら見ていると、不意にタバサ嬢が俺のローブの袖をくいくいと引っ張ってきた。
「なんだいタバサ嬢?」
「あなたにも迷惑かけた…………始末」
「「え?」」
思わず疑問符をあげる私とロレーヌ。
「あら?面白そうじゃない!ミスタ!乙女の心を弄んだその男に焼きをいれてくださいな?」
それはいい提案だと揺れる大きな双子山の前に両腕を組み同意するキュルケ嬢。
関係ないが、彼女の双子山はアニメで見るよりも、リアルでご立派でございます。
だがしかし…あえて言おう!
「なんでさー!?」
俺が馬鹿な事を言っている間に会話の流れを聞いたロレーヌがなぜか顔色を戻し、鼻息荒くやる気まんまん状態になっていた!
キュルケ嬢はすっかり余興気分で私に黄色い声援をおくりはじめ、タバサ嬢すら『やってしまえ』と目で語るように私を見据える。
ロレーヌは自分のプライドを取り戻す千載一遇のチャンスとばかりに目をギラギラさせ私の全身を睨みつけるように観察していた。
「まさかそんな肉だるまに僕の相手が務まるとでも? 平民の傭兵みたいじゃないか……ふん、私の風の餌食になってもらうよ!エア・ハンマー!!」
「!!グハ!?」
惜しげもなく圧縮した空気の塊が急な事で動揺している俺の腹部に鈍い音をたてて直撃した。
150キロで投げられたドッチボールが腹部に直撃したかのような衝撃を受け思わず膝を突きそうになる。
「どうだい?もうすぐトライアングルになる僕の風の腕前は!
君がどこの誰で、君が何系統の魔法を使うか知らないが、今後の参考にしたまえ!」
舐めくさったようにロレーヌが挑発してくる。
なんだこのくそファッキンボーイ。
なんで俺がトライアングルクラスのエアハンマーを食らわなくちゃいけねーんだよクソ!
なぜ?こんな状況なった?
どこで間違えた?
ギーシュと仲良くなったから?―否
タバサ嬢とキュルケ嬢からの要請を断りきれなかったから?―否
ロレーヌとかいうこのクソガキが存在しているから?―正解!
不意に胸の奥から熱いものがあふれ出るようかように熱もおった感覚に襲われる。
そして、我慢できずにこぼれ出しだ。
「くっくっく…
ハァーーーーハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「「「!!?」」」
突然壊れたかのように笑い出す私にキュルケ嬢タバサ嬢ロレーヌはそれぞれ疑問顔になる。
ローブの懐から杖とナイフを取り出す。
腕輪はすでに装備済み準備は万端。
「ハハハ!いいぜ…やってやんよぉぉぉクソガキ!こっからはお勉強の時間だぁ!苦情や文句はあの世でのたまわれや!…レビテーション!」
「ななななにを…うわぁ!」
満面の笑みで奴の四肢をレビテーションで浮かす。
急に浮き出し自由を失った体に戸惑うロレーヌ。
「初手こそテメーにとられたが安心しな!こっからはずっと俺のターンだ!いっくぜぇぇぇぇぇライトニング・ボ-ル!」
「ブ!!」
ライトニングプラズマの劣化版ライトニング・ボール。ようはファイアーボールの雷版だ。それを4つ生成し、空中で身動きがとれないロレーヌの両手両足に狙いぶつける!
豚のような悲鳴をあげるロレーヌがあまりの痛さと理不尽さに降参を告げようとするが、俺の時間は終わらない!
杖を投げ捨て、声が発せられる前に全力で奴に向かって疾走する。
「!!」
腕輪を媒介に風を纏わした強化したコブシで奴の鼻っ柱をぶん殴る!
そのまま腹部目掛けてアッパーカット少し浮き上がったところでさらに打ち上げるように掌底。即座に右足に風を纏わして右の上段蹴りを食らわせる。
「ブゲェ!」
衝撃で5メートルほどぶっ飛んでいくロレーヌ
あまりの惰弱さに舌打ちする。
「チッ!弱すぎんだよテメー! 人様に喧嘩売ったんだ。 当然ぶっころし確定だよ! ジャックポットだ! スリーセブンだ! おめでとう! ハッピーだね! そして幸せなまま死ねやこらっ」
「ブホ…ぁぁぁぁぁ…なんなんだキミは!?降参だぁ降参するぅ!ごめんなさいぃぃぃ」
先ほどまで整った顔立ちは今は無く、奴の鼻はへこみ両手両足の衣服はボロボロに焼け焦げ
必死に涙を浮かべながら降参を懇願してきたが…無視!
派手に見えるが、私が使った魔法のひとつひとつはタバサ嬢どころかキュルケ嬢のファイアーボールに威力も速度も精度も届かない代物だ。
これでピーピー言ってたら今後生きていけねーよ!
「しょうがねぇ……興ざめだわ、次が最後だ。 耐えきったら生かしておいてやるからありがたく思えよ」
「ひぃ~~」
ロレーヌを見下ろす。
「集え我が作りし闇雲よ!架の者に雷の罰を与え給え・・・」
急速にロレーヌの周囲に空気が収束し、それが小規模ながら乱回転をはじめる。
そこに急激に冷やされた冷気が加わり、所どころでバチバチっと電気の火花が鳴り始める。
トライアングルになって初めて再現可能になった魔法を展開させる。
「プラズマ・・・・・・・・・・サンダーーーーーーーーーーー(笑)」
「ギャーーーーーーーーーーーー」
奴を覆っていた小規模な雲から激しい雷光が生まれ直撃する。
最後に一際大きな悲鳴をあげながらロレーヌは地に伏した。
「安心しろ手加減はしてやったから死にはしない」
そう最後にカッコよく締めくくると急に頭が冷えてきた。
辺りを見ればキュルケ嬢とタバサ嬢がポカンと口をあけていた。
沈黙。
沈黙沈黙。
沈黙沈黙沈黙。
はずい。
やらかした。
厨二全開だぁぁぁ。
ポカンと口をあけている女生徒2人。
あまりの恥ずかしさとやっちまった感にうなだれている私。
ころがっているロレーヌ。
実にシュールであった。
もういいや…帰ろう。
「あぁ~すいません2人方、そんじゃ俺はお先に失礼しま~す
あ!こいつらの後始末は好きにしてくださ~い」
俺は思考を放棄し、依然として呆然としている2人を背に帰宅した。
広場に残された2人と1人――
「ハッ!タバサだったかしら?えっと…何がどうなったの?」
「…理解不能」
「ミスタ!ってもういない!?」
「…ついさっき…帰った」
「そう…ねぇ、これからタバサって呼ぶわね?」
「…好きにすればいい」
「それじゃタバサ…コレ(ロレーヌ達)どうしましょう?」
「放置…どうでもよくなった…」
「それもそうね…ところでタバサ!あの刺激的なミスタはお知り合い?」
「…同じクラス…授業で1度見た…あとは知らない」
「そう…じゃあ明日から忙しくなるわねぇー!」
「…悪趣味」
とそんな会話があったそうな。
ちなみに、その頃会話の中心人物は―
「ぬぉぉおおおお!恥ずぃぃぃぃぃぃ!
いやだ~~~!絶対にタバサ嬢に目つけられた~~~!
暗殺されるんだぁぁぁ~!わぎゃゃ~~~~~~!NOOOOOOOOOOOO!!」
自分にサイレントをかけ、ひたすら奇声をあげて自分の行動を死ぬほど後悔していた。
3話へ!