ギムリの夜明けは明後日のほうへ   作:nicks

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魔法学院での1日


1話

「フライ!」

 

 詠唱を終えると私の足がすっと地面から離れる。

 そしてしばらく安定を保ち、一度心を落ち着かせてフライの魔法を切り、すかさず詠唱を始める。

 

「エア・カッター!」

 

 自由落下をしながら風の魔法を天空に向けて放つ。

 

 そしてすかさずフライをかけなおし、中空を維持し殴る蹴る等の体術の訓練。 

 

 殴る蹴るって言っても暴行じゃないからなっ!

 シャドーだよ! シャドー!

 DVするやつは豚箱いけっ!

 

 

 この世界の魔法は同時に使えないので、せめて空中戦が出来るようにと四苦八苦した結果がこの戦法である。

 

 魔法学院に入学し、ひとしきり入学直後の喧騒が収まりつつある今日この頃。

 私は朝一番に、校舎裏の隅で魔法と体術の訓練をしていた。

 

 これが私の日課である。

 

 

 日課である。

 

 

 日課……。

 

 

 すまん嘘だ。

 

 たまに思い出したように早起きしてしまった時にはこうして訓練しています。

 

 どーでもいいけど、継続は力なりって言うけど、継続できる才能ないと難しいよな。

 

 すまん、ほんとどーでもよかったわ。

 

 

 

 さておき、フライを打ち切り、懐からナイフを取り出しそれをひたすら振りぬく。

 空中戦で格闘なんてと思ったかもしてないが、このナイフも実は魔法発動体である。

 

 魔法を使用した後、同じ魔法発動媒体よりも別のものに切り換えた方が発動速度が上がる気がするのだ!

 

 

 

 

 気がするのだ。……うん。

 

 

 

 

 

 まぁ、基本的にメイジの戦闘におて空中戦はない。

 あっても飛竜にのった竜騎士くらいだ。

 

 つまり戦闘になれば上空に逃げてしまえばどうにでもなる!という訳だ。

 よしんば、フライで上がってきても、そこは空中戦を想定していた俺に分がある戦闘になるという。

 

 俺の発想力がアインシュタイン!

 

 テンションに身を任せ、俺はその日、風になった。

 

 

 

 学院生活のほうでは、なんだ。

 授業が始まったよ。

 

 まぁ、始まったと言っても1年生の最初なんて基礎からである。 

 

 学院と云っても、生徒は貴族の子弟なわけで、たいていの基礎は家で教わってきているはずなので、もはや流れ作業も同然である。

 

 まぁ、学生独特のほんと~は得意な魔法の癖に、あえて「いや~魔法苦手で~」とか言い出す奴とか「私は火のラインだが、君は何系統のラインだね?」とか嫌味なことを平然という野郎もいる

 

 

 どの世界でも嫌味な奴はいるもんだ。

 一生ママのおっぱい吸ってろチェリーボーイ。

 

 と、授業そっちのけで他所事を考えていたら、隣の席の少年が話しかけてきた。

 

 

 

 

「ギムリィ、君はどう思うんだい?」

「ん?マリコルヌ何がだい?」

「話ぐらいきけよ」

 

 

 彼はマリコルヌ・ド・グランドプレ

 私が学院にきてはじめて出来た友人である。

 肥えた豚だが非常食ではないのであしからず。

 

 

 

 切欠は食堂で食べきれない量の食事に困っていたら、彼が物欲しそうに俺の食事を見ていたので、よければ食べないかい?っと声をかけたら神を見たかのようにに感謝しながら二食分、食事を食べた事である。

 

 このいやしい豚めっ!

 飛べない豚はただの……ってこいつ飛べたわ。

 飛べない豚がただの豚なら、飛べる豚はなんといえばいいのだろう。

 

 

 フライングピッグ。

 

 

 まぁ持つべきものは食の友であるポーツピッグくん。

 

 

「だから~舞踏会での事だよ~」

「ん?なんかあったっけ?」

 

 

 話を聞けば先日に行われたスレイプニィルだか何だかの舞踏会で、キュルケ嬢に誰かが魔法を放ち、彼女の衣服が破れるという事件があったそうだ。

 もちろん私はそんなような原作イベントがある事は知っていたので、華麗にスルーして部屋で惰眠を貪っていましたよ。原作知識様様です。

 

 

「ふふ、君達も犯人はミス・タバサだと思ってるのかい?」

「え?やっぱりちがうのかいギーシュ?」

 

 そんな事を喋っていると現れました。

 個人的死亡フラグ誘発ランキング5位のギーシュ・ド・グラモン!

 

 極力係わり合いになりたくない人物なのだが、悲しいことにマリコルヌと仲良しさんらしく、女生徒を誑かしていないときはけっこうな高確率で僕らのほうにやってくるのだ。

 

 

 ちなみに今日も薔薇をくわえています。

 しかも微妙に似合ってます。

 残念なイケメンです。

 女の谷間に挟まれて溺死しろ!って感じです。

 彼は舞踏会の最中、ダンスそっちのけで一心不乱にハシバミサラダを食べていたタバサ嬢の近くにいたそうで、彼女が犯行に及んでいない事を知っているそうな。

 じゃあ犯人をしっているのか?っと聴いたところ、それはわからないと返ってくる。

 肝心なところをみない男である。

 いや、えてして男とは迂闊な生き物であるからしょうがないか。

 

 浮気が必ずバレるとかな。

 

 

「ところで、ギムリ少々頼みたい事があるんだが?」

「ん?なんだいギーシュ?」

「実は…例のあれをまた仕入れてくれないかい?」

「あ~オッケ~」

「おっけ?」

「了解ってこと」

「なるほど。助かるよギムリ。すっかり嵌ってしまってね」

「ギムリ?なんのことだい?」

「あ~、歯磨き粉のことだよ」

「歯磨き粉?」

 

 

 このハルゲニアには歯磨き粉という代物が一切無いのだ。

 現代人の私としてはそこら辺思うところがあり、簡易的な歯磨き粉の作成に成功し、たまたまそれを使用しているところをギーシュに見られてしまい。

 

「キミの歯の白さと爽やかな口臭の秘密はこれだったのか!」と譲ってくれ、売ってくれと懇願され、歯磨き粉がすっかり気に入ったギーシュが他の生徒達に紹介したりしているのだ。

 ギーシュ経由で女生徒にまわったりして、金髪縦ロールの女生徒が触発されたりしているらしいが、そこは割愛。

 

 

 ちなみにもちろん御代はバッチリもらっている。

 ちょっとしたお小遣い稼ぎみたいなものだ。

 材料なんてそこら辺にはえてる薬草で代用できるため、元手がタダのぼろい稼ぎである。

 

 

「へ~。だから君の近くからはなんか清涼な香りがするんだギムリ。今度、僕にも試させてよ」

「まいどぉ~」

「ギムリ…。君は、なんか商人みたいだね」

「ははは、そうだねギーシュ」

「「はっはっはっは」」

 快活に笑うギーシュとマリコルヌ

「ほっといてくれ…どーせ貴族っぽくないよーだ」

 

 

 私の近況はこんな感じです。

 

 貧乏は敵である。

 

 

 

 

 

 

追記、実家から仕送りが届きました。

中身はアッサンブルーブ産で採れた大根でした。

 

 

「…いや、だから何よ?金は?」




2話へ続く

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