今朝もおいしいスープとボリューム満点の食事をじっくり堪能し、授業前の腹ごなしと、レイラの食事を兼ねて使い魔用の厩舎まで出向く事にした。
見上げれば、空は蒼くて太陽はいつもと変わらずシャカリキに大地を照らしていた。
今日も実にいい天気である。 太陽を落とせそうだ。
何言ってんの俺?
さておき、ふらふらと厩舎前まで歩いていると、2人の女生徒が自分が召喚したマンティコアのレイラを見上げていた。
一人はクルクル金髪縦巻ロールで小動物を彷彿させる幼さを残している印象受ける小さくて可愛らしい体躯をした美少女。
とても可愛い少女だ。
なぜ西洋風の少女は可愛いのだろう。
いや、もちろんピンキリだってのはわかる!
だが、元ジャパニーズの血が騒ぐんだ。
俺を解放しろ!
燻ってんじゃねーよ!っと。
心に眠る何かがギャラクシアンエクスプロージョンしそうだ。
……失礼。 ちょっと錯乱した。
気にしないでくれ。
もう一人は清楚な茶色のロング。キリリと吊りあがった目が、なんとも勝気そうな雰囲気をだしている。
見立てでも百七十センチちょいオーバーのデルとこでてへこむと子へこんだ美女だ。
ふつくしい。
いや待て、あれは一見優等生タイプに見えるが、あれは将来、絶対に夫を顎で使うタイプだ。
私の男心に眠る何かが彼女は亭婦関白であると訴えている。
俺の中の人がそう言ってるんだ間違いない。
どちらにしても、見覚えの無い顔の2人組みである。
マンティコアが珍しいのだろうか?
女性にしては少し変わった趣味である。
「俺の相棒カッコイイだろ?」
マントと制服から下級生であろうと見切りをつけ、上級生だと云う事で警戒されないように気さくに話しかけてみる事にした。
「わぁ」
「ぬぉ!」
身長差のある凸凹美少女後輩コンビは急に後ろから声をかけられ吃驚させてしまったようで、小さい背丈の少女は可愛らしい悲鳴を、逆に勝気そうな長身の子はうら若き女性らしからぬ、何とも言えない悲鳴をあげた。
ぬぉってオマ。
だが、そこ後はさすがの本物貴族令嬢。
私を見ると急に取り繕ったかのように姿勢を正した。
しかし、残念な事に勝気の少女よ……『ぬぉ』は無いだろう。
手遅れ感半端ねぇーよ。
「どっどどどうも、わたくしはコルフィーヌ・ド・ルーベンです。 みんなからはフィーって呼ばれてますっ」
意外な事に先に立ち直ったのは気弱そうな少女のほうだった。
小さな体をいっぱいに動かして、挨拶する様は栗リスを彷彿させます。
神奈川県の鎌倉にいっぱい生息していましたね。
予断ですが、野生のリスは病気持ちが多いので迂闊に触ってはいけません!
お兄さんとの約束です。
「へぇ…あなたがこのマンティコアを呼んだミスタね?
私はアンネ・アンデュ・ド・コルスティーヌ。 アンネでいいわ」
慇懃無礼とはこのことか。
茶髪の背高い少女はまるで先ほどの「ぬぉ!」を無かった事の様に優雅にサラサラ茶栗色のロングヘアをなびかせた。
「ご丁寧にどうも、ジミル・ド・アッサンブルームだ。 気軽にギムリ先輩と呼んでくれたまえ」
まぁ、ともかく挨拶を返す。
挨拶は大切です。
かなりガチガチな縦社会である貴族社会では挨拶しなかっただけで、決闘だのどーのという事に発展する場合がリアルにあるからだ。
怖いね貴族社会!
小生意気な現代っ子が着たら即死んじゃうだろうね!
デスバイブ!
「アッサンブルーム? どこらへんの方かしら、あまり聞き覚えが無くてよ?」
「ん? しがない田舎町だからしょうがないよ」
アンネ嬢は私の全身を頭からつま先まで舐めるように挑発的な目で眺めた後、ふふんと鼻息をならした。
そんなアンネ嬢の背中に隠れるように恐縮した態度を見せるコルフィーヌ嬢。
かわいいよ!フィーちゃんかぁええよ!
一方見かけ通りなのが悲しいかな、挑発的な態度を見せるアンネ嬢。
「ふむふむ、見た目通りガッシリして筋肉質。 なかなか鍛えているのね」
「はぁ、どうも」
私、この子苦手だ。
どうもこういう上から目線の子は前世から苦手なんだわ。
ほら? なんていうか基本、私ってチキンハートなのでっ!
それに比べコルフィーヌ嬢のおどおどした様子と言ったら……たまりません!
ん? ルーベンス? どっかで聞いたような……まぁいいか。
「それで、私と使い魔に何か?」
「ふふ、いいえ。 今日は挨拶だけよ。 行きましょフィー」
「ううう、うん。 待ってアンっ」
そう言ってスタスタと踵を返して厩舎を後にしようとする2人。
なんだろうか、このモヤモヤとした不完全燃焼感は。
私の心に眠る逆境魂に何故だか火がつき、彼女達の後ろ姿に向かって――
「ぬぉ!」
思わず呟いてみました。
フィーセ嬢の方が立ち止まり、こちらに振り返ろうとした瞬間に、私はレイラに跨り上空へ非難した。
地面のほうで降りてきなさいとかどーか聞こえますが、無視です。
私はただ「ぬぉ!」っと呟いただけなんですから。
フライハイ!
そんなフラグめいた邂逅があってから2日が経った本日。
俺は自室で今夜酒場で演奏するライブプランを一人「あぁでもない」「こうでもない」と呟きながら頭を悩ませていた。
路上ライブ等と違い、定点ライブ演奏と云うものはアドリブやその場の空気で乗り切れるようなものでは無い。
オーディエンスとの一体感。
つまりは調和や共有という要素も成功への大きな鍵になってくるからである。
そのためにアーティストの中ではライブ前や前日にイメージトレーニングを行う者達が多い。
中には座禅を組んで瞑想をする人もいるそうである。
「とかく選曲が難しい。
整理ライブ初期こそハルケギニアの人間に受け入れやすいようにポップス、古典ロック、バラード等中心に演奏をしてきたが、そろそろラップやR&Bなんかも取り入れてみてはどうか……悪くないかもしれない。 いや、でもさすがにバランスが悪いし、前衛的すぎるかな」
素人に毛が生えた程度の私が毎週のようにライブを行うには緊張の緩和などの意味も込めて、こうやってライブを想定したイメージトレーニングは必須であったのだ。
「やはり、前列の女性は私に惚れているな。 ふふ」
イメージトレーニングの途中、妄想が過ぎてしまうこともしばしば……。
まぁ見逃してくれ。
「誰が誰に惚れてるのよ?」
「ウップス!!」
振り向けば、モンモランシー嬢が勝手に私の部屋に入って来ていた。
「どんな驚き方してんのよ」
そういって彼女はスタスタと部屋に備えてある椅子に、私と向かい合う形で座った。
「モンモランシー? ここ男子寮だよ?」
「知ってるわよ」
「そして私の部屋ですよ」
「そりゃそうでしょう、アンタに用があったんだから」
いや、いいんですけどね?
ただノックくらいして欲しかったです。
ともかく、モモランシー嬢は何か私にお願いがあるそうで―。
「ギーシュが落ち込んでる?」
「そうなのよ」
聞けば先日、ルイズ嬢の召還した人間使い魔君に決闘を挑んでボコボコにされたらしい。
案の定、ギーシュのプライドはズタボロに。
さらに学生間での彼での風評が酷い事になっており、それを気にして今にも首を吊りそうな状態だとか。
すっかり忘れていましたが、原作イベントですね。
サイト少年がやってくれたようです。
ちなみに決闘時の私と言えば……。
なぜか件の後輩少女達と会った後、レイラの機嫌がすこぶる悪くなってしまいまして、甘噛みという名の本気バイティング(噛付き)から逃げる事数時間。
その後訳もわからず謝り倒して、なぜか尿を……(マーキングですか?)されていたりで、サイト少年の勇姿は拝見できなかったわけです。
まぁ、変に原作に関わらずにすんで良かった……のか?
ちょっと観てみたかった気持ちをあるんだけどね。
「私が喋りかけても、ぜんぜん反応してくれなくて」
「さみしいと?」
「べべべべ、別にあああ、あんな間男の事はどうでもいいのよ。
でも、空気が悪いって言うか? なんか可哀想って言うか、ほっとけないって言うか――」
ツンデレですね。
素直に言えばいいのにトリステイン貴族の女性はプライドが高くて評判ですからね。
ツンデレはルイズ嬢に限った事ではないのです。
そう、ここトリステインはツンデレ貴族の国と呼んでも過言では無い国ですからね。
「それで私に何をしろと?」
そもそもガンダールヴなんてチート野郎を相手にするからいけない訳で、いや『魔法の使えない平民に負けた』と云う事実のほうが重要なのか?
この世界の貴族の少年少女は『貴族は平民よりどんな点でも優れている』なんて本気で信じ込んでいますから、当然、平民に負けたギーシュの世間体も悪くなる訳で……今に至ると。
「彼を慰めて欲しい……いや、駄目ね。
余計にプライドが傷つくし……あぁ! もう、とにかくなんとかしなさいよ!」
「えぇ! 全て丸投げですか! なんという横暴!」
「あら忘れてしまったのかしら?
私がいなかったらあなたはとっくにブリミルの所に先立って逝ったのよ?」
新歯磨き粉事件のことですね。
あの時はお世話になりましたミス・モンモランシー様。
「それを言われると辛いモノがりますです……ハイ」
「まぁ、あまり期待はしてないけど、こういう時って男同士のほうがいいんでしょ?
私が慰めると逆効果ってキュルケに言われたし」
そう言うと少し影を落とすモンモランシー嬢。
まぁ、貴族男子は矜持だけは1人前ですから、好いてる女性に同情されるなんてギーシュじゃ耐えられないでしょう。
キュルケ嬢もよく男心を理解なさっていますね。
「何ができるかはわからないけど、やれるだけやってみる」
「とりあえず頼むわ」
「了解ですマム」
とは言ったものの、実際どうしらいいもんか?
なんとか10話へ行け!コイキング!