東方狸囃子   作:ほりごたつ

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第九十三話 竹林で香る花

 肩を並べて二人で考え、答えが出ずに頭を増やす。増えたのはヨレヨレのうさ耳付けた元軍人と今夜辺りに角を生やす女教師。あたしの我儘通すにはどうしたらいいか、教鞭をとる先生に聞いてみたが答えは出ない。硬い頭で考えてもダメだったかと呟くと、頭の代わりにげんこつがあたしの脳天に降ってきた。夜を前にざわついていて頭は少し敏感だから代わりにげんこつで我慢しろということらしい、硬い頭に比べればなんという事はない拳。

 それでも痛い振りをしてうっすら目に涙を浮かべてみせると、泣くとは思わなかったのか少し慌てて大げさな仕草であたしをあやす人里の守護者。波長からわかるのかジト目で見てくる兎の視線に思わず笑うと、動きを止めて震えだした人里の世話焼き教師。

 もう一発来るかと身構えていると、あたし達三人を眺めていたろくろ首が吹き出した、なんだ、他の奴らと同じように笑えるんじゃないかとその笑顔を見ながら笑みを浮かべると、時間をおいて二発目のげんこつが降ってきた。

 

 寸分違わず同じ所にもらえばさすがのあたしでも痛くて本格的に涙目になった、両手で痛みの震源地を撫ぜるとそれを見ていた三人にまた笑われた。こっちは笑えない痛みだというのに人でなし共め。

 明るい顔と声が増えて雰囲気は良くなったが、それはなんの解決にもならず答えの出ない問題に向かい悩んでいると、隣に座る兎が頭の耳飾りを揺らしながら素晴らしい案を出してくれた。

 

――何もしなくてもいいんじゃないですか?

 

 ぼそっと小さく言われた言葉、それを言われてあたしを含めた他の三人全員が思考も体も止めてしまうが続けて言われた言葉で納得できた。

 

――うちも結構な事をやらかしたけど、何もしてませんよ?

 

 偽りの月を浮かべて紫が夜を止めたあの異変、確かに結構な大事で幻想郷を揺るがす事だったが、異変を起こした側に対してなにか罰則なんて課せられることはなかった。異変の側にいたあたしや鈴仙もそうだし起こした張本人である八意女史にも何もない、あるとするなら人里と関わるようになり医療の知識を授けるようになったくらいで自分達の得意分野、その裾野を広げたくらいだった。

 そこから考えればこのろくろ首も異変の側だが利用されただけの言わば被害者だ、あたしよりもよっぽどマシな部類で罰せられる事はないなと鈴仙の言葉に納得させられかけた時、もう一人の月の異変関係者が反論を述べた。

 

――だが、人里で暴れた件は別だ

 

 言いたいことはわかるが暴れたくて暴れたわけじゃないし被害はなかったじゃないかと反論する、追いかけられて子供が泣いたくらいの事に目くじら立てるほど狭量で頭が硬かったのか、そう言い返すと言い淀んでくれた。

 理由は兎も角、人里をなかったコトにするのもそれなりの事なんじゃないかと間髪入れずに述べてみると、あれは守ろうとしただけという返答、なら次からは赤蛮奇にも手伝わせたらいいと強引に引っ掛けた。

 

「自警団の人出が足りないんでしょ? なら頭数増やすには丁度いいわよ?」

「言葉を交わして悪い者ではないとわかったし、今までも隠れて埋もれていたくらいだ。里を荒らす気がないのもわかるが…」

 

「煮え切らないわね‥‥ならさっきの騒ぎも歴史として食ってしまえばいいのよ、それなら誰も気にしない」

「それでもだな、本人の意志というものも…」

 

「ないわ、あたしのやりたいようにする。我儘な少女のお願い、教師なら叶えてくれてもいいんじゃない?慧音先生?」

 

 頭の硬いこの人里の守護者相手に論では話が進まないと考えてひたすらにゴリ押す、いくら突っぱねられても引かない姿勢を見せ続ければそのうちに折れてくれるのを知っているし、こうなったあたしは面倒臭いのも自覚している。

 ズズいと寄り添い手をとって乞う、下から顔を見上げ瞳を潤ませながらお願いと小さく呟く。これでも折れてくれないようならもっと面倒臭い事になるが、そうなる前に折れるようだ。肺に貯まった空気全てを吐き出す溜息をついてくれた。

 

「わかった、私は構わない。が八雲や霊夢の方は知らんぞ」

「里の守護者がいいと言ったのよ?ならあの二人もきっと何も言わないわ、それに言ってくるならあたしだろうし…そうなったらごめんなさいするから大丈夫」

 

「それでいいなら後は本人次第だが?」

 

 当人は放っておいて勝手に二人で結論を出したが何も言ってこない赤蛮奇、思う所があれば言ってくれて構わないのだが脅すだけ脅した後に好きに言えといっても無理な話か。

 それでも気にしないで貰えるとありがたい。

 そもそも気にされる程ではないはずなのだが、さっきはげんこつ貰って涙目になるあたしを見て笑っていたくせに。変なところで斜に構えてはさっきよりも痛い目に遭う事になるのに、先人として少しだけ言っておきたくなった。 

 

「蛮奇はこれでいいのかしら? 何も言わないけど」

「私は言える立場にないから、それに利用だけしてそれに乗っかれと言われても」

 

「あたしに利がないと?」

「返せるものがないわ、あんたにもそっちの教師にも」

 

「慧音はともかくあたしにはあるわ、人間嫌いの妖怪が人に混ざって自警団にいるなんて滑稽で面白いもの」

「それは‥‥いやいい、わかった、言う通りにするわ。どっちにしろここで折れないと面倒になるんでしょ?」

 

「あたしとしては面倒な方でもいいわよ、頭が外れてその上増える。色々されそうで楽しそう」

「下世話な話に振るのも癖なの? 誰もがノっかると思わないほうがいいわ」

 

 人が落とそうと言った言葉をダシに落としてくれた頭の座りが悪い妖怪、うまいこと返されて兎と教師に笑われ言われたこっちは首の座りが悪くなってしまう。二人の笑い声に合わせて微笑むろくろ首、中々やってくれるじゃないか。

 少し感心して話は終わりとらしく言い切る、声に合わせて席を立つと連れた二人も一緒に立ち上がり狭い長屋を後にした。見送りなんてものはなく最後に出た教師と別れてそれぞれの住まいに向かい帰路に着いた。

 

~少女帰宅中~

 

 帰る途中少し探したが人里の喧騒の中に黒白姿はなかった、大方次の容疑者候補のところにでも喧嘩を売りに行ったのだろう。おかげで首が繋がった、今いないということは手遅れにはならずあたしは上手い事やれたようだ。

 あの黒白の性格を鑑みれば気に入らないならその場で突っかかってくるはずだ、そうされないのだから今回は目を瞑ってくれたのだろう。幼い少女の割には合理的な考え方、魔法使いらしいのかと帰路の途中で少し思った。

 

 蛮奇の長屋には思ったよりも長い時間いたらしい、すっかりと日が落ちてもうすぐ夜を迎える頃。時間と時期がこれくらいだからあの教師も折れたのだろう、変身後は気にしないが変身する姿はあまり見られたくないなんて以前に言っていた。

 角と尻尾が生えて色が変わるくらいで何も変わらないと思うが、そう思うのは常に化けて形を変えることに慣れたあたし達化け狸だからだろうか。月に一度しか変われない者の気持ちはよくわからない。

 月に一度といえばこの竹林にもいたか、慧音よりも変身に対して気を使う者が。慧音が変身するくらいだからあっちも今頃変身しているだろう、毎月の満月の夜に狼の姿に成るご近所さん。

 普段も人間と然程変わらないが変身後も然程変わらず少し毛深くなるだけ、本人はそれが嫌で変身後の姿を見せないがこれを聞いて少し違和感を覚えていた。伝承で聞く狼男と比べれば変身しても変わらない姿の竹林のルーガルー。

 大した変化がなく狼らしさもないのだから狼女というよりも女狼のほうがしっくり来るのではないかと、響きも女豹のようでなんとなく淫靡に聞こえ悪くないと思うが、生真面目な彼女には少し合わないか。

 そんなあたしの軽口に返答するように何処か遠くからアオォーンと遠吠えが聞こえる、毎月の事で珍しくもないその遠吠えに反応することなく竹林に足を踏み入れた。自分の縄張りに戻って安心したのか、隣に並んで歩いている永遠亭の元軍人から幾つか、先ほど長屋で起きた事に対しての質問を受けた。

 

「アヤメさんってよくわからないですね、なんでわざとげんこつなんて」

「時間稼ぎ、満月だし手早く切り上げて帰りたい。そう考えてる慧音の時間を無駄遣いしてみたのよ」

 

「じゃあ泣いたのも?」

「そうよ、あれくらいで泣いてたら涙が安くなるもの。鳴くなら誰かの胸の中のがいいわ」

 

「強引だったのは切り上げ所を作ったんですか?」

「よく見てるわね、今日は鈴仙を見直してばかりだわ。報告してくれる鈴仙も冷たくて良かったし、歩いて火照る体を冷ましてくれてもいいのよ?」

 

「それは師匠にでもお願いして下さい‥‥途中までは格好良かったのにどうしてもそうやってオチをつけるんですね」

「永琳じゃ物理的に冷たくされるもの、それじゃ心地良くないわ。それに明るい雰囲気のほうが話も明るく纏まるものよ? 何事も楽しくなんて、ありがたい邪仙様の言葉もあるし」

 

 別の意味で邪ですと良い反論をもらいながらいつもの軽口を交わして止めていた歩みを戻す、少し歩いていくと土地の造りからか少しだけ竹林が薄い場所へと着いた。ふと見上げるとまん丸できれいなお月様、竹林の緑に空の黒、ところどころ黒い点があるが綺麗な真円のお月様、その淡い黄色が美しくて足を止めて見上げていた。

 今頃忙しく歴史の編纂をしているだろう半獣を思い出し薄く笑うと、遠くからまた咆哮が響いてきた。妖怪のお山にいる生真面目天狗の号令に近いがこちらは号令というより野生の雄叫び、それも狩られる寸前という悲痛な叫び。

 

 最初に聞こえたのはこのお月様に釣られて鳴いているようなモノだったが、今聞こえたのは悲鳴に近い。里の騒ぎの様な事がここでも?鈴仙と顔を合わせて小さく頷くと叫びの聞こえてきた方へと駆けた。

 最後の叫び以来聞こえなくなった狼女の遠吠え、荒事程度で済んでくれていればいいが。余程の手合でも相手取らなければ死ぬことはないと思うが、幻想郷にいる余程の手合は何をするかよくわからない。

 慣れない心配をしながら走ると、遠くで優雅に佇む瀟洒な従者と腹ばいで倒れる狼女の姿が見えた‥‥余程の手合なんて言うんじゃなかった、相手取りたくない部類の人間がいる。

 

「半分狼の血はマズイと思うわ? 毛皮のコートもまだ早いと思うけど?」

「存じております、アヤメ様。ですが、いつの間にか手元にあったコレに動かされてしまいまして」

 

「短剣? ナイフ以外も持つなんて切れ者らしいわね」

「褒めて頂けるのはありがたいのですが、いつからあるのかわからないコレは『妖器』のようで、少々扱いに困っております」

 

 昨夜の携える短剣、言う通り妖物なのだろうがなんだろうかこの感覚、物よりもあたし達の近い妖気。似た感覚をしっているはず‥‥あぁ付喪神になりかけているのか、忘れ傘や面霊気から感じるソレに近い。

 しかしそんな代物が勝手にあったとは、あの屋敷で元々封じられてでもいたのだろうか。今まで訪れた時には感じなかった妖気、人間が長く扱うには危険な物だと思うが‥‥咲夜ならば問題なさそうだ、扱いに困る程度と言うし、取り込まれたりはしないだろう。仮に取り込まれてもあの屋敷なら魔を従え知識を貪る魔女も居る。

 心配事はないしとりあえずはこの状況が知りたい、聞くついでに今泉くんを拾っていくか。

 

「完全で瀟洒な怪しい従者、そうなってしまうのかしら?」

「そうなる前に止めますし、なるわけにはまいりません。お嬢様とのちょっとしたお約束もございますので」

 

「そう、レミリアとの約束じゃ破るわけにはいかないわね」

「ええ、アクマで主ですから。それよりもご無事で何よりです、美鈴も心配しておりました」

 

「心配かけた、ありがとうと美鈴達に伝えておいて、後で枕持参で行くから」

「畏まりました、それでは失礼させていただきます」

 

 言うが早いか消える従者、音もなく消える姿はまさに瀟洒だが人間離れし過ぎているといつも感じる。蒼の瞳を紅くさせて闇夜に消えた瀟洒な従者、『も』と言われたから『達』と言ったが彼女にも感謝は伝わっただろうか、伝わったなら嬉しいが。

 それにしても随分な怯えようだ、あたしに隠れる軍人兎。

 過去の異変で手ひどくやられて怯えるのはわからなくもないが、肘とスカートを握りしめるのはそろそろやめてくれないだろうか、震える姿は可愛いものだがいい加減離してもらわないと皺になり困る。

 妖物のせいで少し怪しい感じがしたが荒事にならずに済んで良かった。退治された狼女も生きてはいるようだし、しかし真面目な彼女があの人間離れとやりあうなんて何があったのだろう?

 起こして少し聞いてみるか、怪我もあるようだし鈴仙にみてもらおう。

 

「大丈夫? 今泉くん」

 

 返事はない、死んだか?

 いや、肩は揺れている。

 

「今泉くん? まだ起きられないの?」

 

 突いても揺らしても動かない、が耳も揺れた、なら釣るか。

 

「起きて? お月様の光を浴びすぎていつもより毛深いわよ?」

 

 言葉を聞いて両腕をつきガバっとエビ反りすると、どこ? どこ? と顔を振り乱して自分の体を弄る狼女、言われた部位を教えて欲しいのか切ない表情を見せてあたしを見つける今泉くん。

 答えを教えてあげようと意地の悪い笑みを浮かべると、最初は理解出来てなかったようだが切ない表情から少し険しい表情へと変えていった。そんな顔色を気にせずに右手を差し出し体を支えて少し語りかける。

 

「あれに喧嘩を売るなんて、命知らずにもほどが有るわよ?」

「ただでさえ興奮してるのに、からかってくるものだから」

 

「からかわれたって、酷いことでも言われた?」

「だって『あっしは満月を見ると変身するでガンス』って馬鹿にしたのよ! 私の気持ちも知らないくせに!」

 

「なにそれ? そんなに怒ることかしら?」

「囃子方さんまで!……ってこんな怪我をしてまで怒ることじゃないわよねぇ」

 

「怪我してから気がつくの? 満月だと中身まで狼になるのかしら?」

「そうやってま…」

 

 何かを言い掛けてそのまま気を失う竹林のガルル、半分だけ起こしていた体が地に落ちる前に抱きとめる。抱いた瞬間に香る花石鹸の香り、髪や体毛から発せられるそれがいかに普段から気にしているかを語ってくれる。

 なんでもない事だと思ったが体を抱き寄せそれを嗅ぐとあたしの考えを変えさせてくれた、赤の他人が気にしていない些細な物でも、それを言われる当人からすれば結構な大事のはずだ、あたしのように開き直って自ら面倒くさい態度を取れるのならいい。けれどそう出来ないから今日のように溜め込んだものが爆発してしまうのだろう、赤蛮奇も言っていたな、溜まったものが弾けてああなったと‥‥今泉くんも同じように何かを溜め込みすぎたのかね?

 意識なく腕の中で重くなる良い香りを纏うもふもふ女、見た目にはそれほどひどい怪我ではないが声をかけて揺すっても目覚めないご近所さん。万一等ないとは思うが永遠亭で診てもらおうか、幸いあそこの助手もいるんだ、一緒に行けば話も早い。

 

~少女来院中~

 

 背負って歩いて竹藪の中、途中連れ合いの軍人兎が落とし穴に落ちかけたりと小さなトラブルはあったがそれ以外は何事も無く、何度か背負い直しながら歩いて永遠亭が見えてきた。

 鈴仙に先に行ってもらい簡単な話を通しておいてもらい、あたしよりもほんの少しだけ大きな背丈の狼女を背負い歩く。あたしのほうが大きければ背筋を伸ばしてお姫様抱っこと洒落込むのだが、自分より大きな相手にそうしてもなんとなく格好悪い。

 腕力だけなら出来ないことはないし、彼女の格好もふわりと広がるロングスカートでお姫様抱っこが似合いそうだが、何らかで意識を失った相手で遊ぶわけにも行かず素直に背負って戸を潜った。

 

 女医に預けて一心地、診察室を抜けて奥へと入りブーツを脱いで縁側に腰掛け足を投げる。夜空に浮かんだお月様を見やり、あたしの周囲だけ朧月にしようと煙管を取り出し燻らせた。

 何の気なく手にした煙草の葉だったがあたしの体毎水没したはずなのに湿気ていることはなく、減らずのバッグは減らないのだから同時に変わらずでもあるのかと、素晴らしい物を頂けたと軽く撫でた。

 そんな変わらずのバッグを撫でて月に雲を陰らせていると、変わらずの姫様と同じく変わらずの従者二人から少し話を聞くことが出来た。

 

「任せてそれほど経ってないけど、ダメだったの?」

「誰に向かって何を言うのよ、それに怪我自体は大したことないわ。うどんげの治療だけで十分なくらいよ」

 

「それで?」

「原因は単純にパンクしかけただけよ、何かから押し込まれた器よりも大きなモノのせいでパンクしかけて気を失った。妖気に合わせて気も大きくなり荒くなったりするだろうけど、発散できてるから今はもう大人しいものね、溜め込んだままだと危なかったかもしれないわね」

 

「何か、ね。心当たりがあったりしないの?」

「ここから滅多に出ない私達よりアヤメの方が心当たりがありそうよ」

 

「それがなんにも、出歩いててもわからないから引き篭もりに聞いてみたんだけど、輝夜は何か知らない?」

「引き篭もってるからわからないわ、そんな都合のいい物の事なんて知らないわよ」

 

「そう、ありがとうお姫様。永琳も治療感謝しておくわ、ツケでいい?」

「貸しでいいわよ、払う気のないツケは利かないの」

 

 亀の甲より年の功とは良く言ったものだ、伊達に昔から姫様していないな輝夜姫。それにしても物か、どういった物かは語ってくれなかったが少しでも指針が出来たのはありがたい、物探しなら得意な身内がいる。早速今日にでも行ってお願いしてみるか、あのネズミ殿も人里にある寺に関わりある者なのだから騒ぎの原因探しと言えば不満を言いながらも手伝ってくれるはずだ。こういう時に顔が広いと動きが早くて色々と捗る。

 なんでもかんでも他人任せだと言われればいい返す言葉もないが、その分野に長けた者が近くにいるのならそれを頼っていいはずだ。それに頼られて気を悪くする者なんてあの天邪鬼くらいしか思いつかない。とりあえずヒントも貰ったし早速動くとするか、永琳に貸しを作るなんて後で色々とありそうで少し不安だがご近所さんの命に比べれば安いものだろう。また耳飾りでも付けて飛び跳ねれば納得するだろうし後の事は後で考えよう。

 縁側で煙管を叩き火種を落として出立しようとしたが、隣に腰掛けてきた輝夜に声をかけられて動きを止める。引き篭もりの永年暇人が次は何を言ってくるのか。 

 

「次は何処へ行くの? 話次第ではもう少しだけ教えてあげるわよ」

「出し惜しみするならいいわ、難題じゃないけど探す楽しみもあるもの」

 

「忘れ去られた小人族、それを探してみたらいいと思うわよ」

「断ったのに教えてくれるなんてお優しい事ね、見返りは土産話でいいのね?」

 

「話が早くて助かるわ、出来れば楽しく過ごしてきてよ? 笑えない話だったら追加するから」

「普段貰ってばかりだし寄越せと言われるのも偶にはいいわね、追加で夜伽くらいなら付き合うわよ?」

 

「寝室を毛だらけにされちゃ掃除するイナバが可哀想だもの、それはなしね」

「輝夜までつれないのね、最近断られてばっかりで女として廃りそうだわ」

 

 それなら私が代わりに付き合ってあげると言ってきたのは永遠の従者八意永琳、だがこれはあたしから断った。別の意味で体を弄ばれるのが目に見える、丁重にお断りするとアヤメもつれないじゃないと微笑まれた。なんだ、そっちの誘いだったのかと一瞬だけ考えたがそんな事はないとすぐに思い直した。治療に使うような雰囲気に見えない紫色の液体が入ったフラスコ、それのお陰で踏みとどまれた。

 それにしても小人族か、聞いたことがない種族だが本当にいるのかね?

 いや、聞いたことがないからこそいるのか、ここは幻想になった者達の楽園なのだから。




獣臭いとか濡れた犬の匂いがするとか言う輩は、膝に矢を受けたらいいと思います。


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