東方狸囃子   作:ほりごたつ

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ガールズのトーク? そんな話


第八十七話 思慕するあまり患う

 縁側に腰掛けモヤモヤと煙を漂わせながらペラリとページを捲り目を通していく、誰がどんな風に書かれているのか気になり、あたしの事を書いてもらった後に今代の阿礼乙女が纏めた求聞史紀を読ませてもらっている。

 書かれている内容は正確に捉えていて関心出来るものから、まるで見当違いな物まで様々に書かれているが中々に楽しめている。特に阿求の憶測が面白い、あの竹林の蓬莱人が忍者の末裔だったとはさすがに思いつかなかった。

 言われてみればもんぺに両手を突っ込んで高速で空を飛ぶし、炎を放つ事も纏う事もできる上に死んでも蘇る忍法火の鳥が使えるのだ、あれを忍者と言わずになんと言おう。伝説の忍者集団との関系を訊ねてみると、何それ、としらばくれるとか素性を隠そうとしているのがバレバレだ。

 全く、忍者のくせにこうして書物に記録を残されるなんて、こんな風に書かれていると妹紅は知っているのだろうか?慧音と中の良い阿求が書いた物だ、それなら同じく慧音と仲がいい妹紅もきっと知っているだろう。

 後で顔を合わせたら少しからかってみよう、藤原さんは貴族だと思ってたけど本当は義賊だったのねなんて言ってみよう。焼かれて釜茹でにされない程度にからかって遊びたくなった、今年になってまだ顔を合わせてないから楽しみだ。

 妹紅も面白かったがもう一つ面白い憶測で書かれた人がいる、英雄伝なんて項に載っていたがあの男のどこを見れば英雄要素があると思えるのだろうか、自身の営む店ですら営業要素のえすらないというのに英雄なんてちゃんちゃらおかしい。

 

 訂正してやろうかと思ったが止めた、こっちもこっちでからかうネタに使えそうだ。

 区分といえばあたしの区分は妖怪の欄に収まる事になった、妖獣だと書かれたが実態が曖昧でその他扱いらしい。

 あたし程度でその他扱いになるとすればその他が一番多くなってしまう気がするが、実際にいる連中を思い返すとその他の割合が多くなっていそうで、歪な者達の楽園である幻想郷らしいな、と書かれている者の名前を眺めて薄く微笑んだ。

 

 氷の妖精から始まって炎の蓬莱人で終わる妖怪図鑑。危険のある妖怪について学習して身を守りましょうって本だと思っていたが、実際に中を読んでみると対策本というよりも、阿求の憶測や推測が混じった紹介本といった感じになっていた。

 誰かについて客観的な視点で語られていて対策らしい物も載っているが、そこよりもこの幻想郷のどこに行けば会えてどうすれば知り合えるのかを紹介しているように思えた‥‥素敵な幻想郷ライフを、正しく言葉通りの本になっているように読み取れる。

 読みながらニヤついてみたり鼻で笑ったりしていると、そんなあたしの姿を見て何かに満足したように微笑んでこちらを見る阿求。何を笑っているのか聞くと、書いた物が読まれてすぐに反応が見られるのは良いものですねと微笑みながら呟いた。

 

 この気持ちはよくわかった、本ではないがあたしも作る側になる事がある。あたしの場合は料理だったり意地の悪い意趣返しだったりするがそこそこ喜ばれ感謝される事もある。

 何かしらを与えた者から何かしらの反応があればやはり嬉しいものだ。面白い読み物のお礼にと思い、従者を呼んでもらい少し台所を借りられないか聞いてもらった。

 従者に一瞬身構えられてしまったが、主の言葉に折れてくれたようで一緒に立つなら構わないという事になった。広く使いやすい台所に立ち、少し早めの昼餉を人妖ならんで調理していく。

 

 妙齢の女性にしては手際よく勧めていくこの従者、調理中に求聞史紀に書かれるような妖怪と台所に並び立つなんてと少しの恐れを見せながら言われた。危険を知らせる意味合いもある本に載るあたしだ、警戒されて当然だと思うから気にはしない。

 けれど、先代の頃はよく来てこうして台所に立っていたと伝えてみると、だから調理器具の場所がわかるんですねと微笑まれた。気にしていなかったが何がどこにあるかわかるくらいには通って料理し本を読んでいたはずだ‥‥これもその気なくのうちに入るのかね?

 だとしたならあたしの持ち味にも良い面があったなと小さく笑った。

 

 蜂蜜で少しだけ甘みをつけて出汁を利かせた卵焼きとほうれん草のおひたしに、油揚げと豆腐の味噌汁という昼餉よりも朝餉に思える食事を主と二人で取った。卵焼きを食べて懐かしい味だと笑う阿求、これくらいで喜ぶならもう少し早く作ってあげても良かったかもしれない。

 気が向いたら以前のように訪れてテキトウに食事をしてもいいかもしれない、他の者よりも短い時を生きる相手。見た物を忘れることはないが味わった物を覚えているかわからないので、どうせならもっと強く覚えていて欲しいと思った。

 

 目的も済ませて食事も済ませた昼下がり。食後の一服も済ませてそろそろお暇するかと、今日はそろそろ帰るわと阿求に告げる。また来てくださいと昔のままに言ってもらえて素直にはいはいと答えると、はいは一度でいいと窘められた。

 窘められたことに対してはいはいわかったと理解を見せず答え直すと、天邪鬼でしょうがない人だと笑われた。人じゃないから今日来たし、天邪鬼だから嫌だと言われてもまた来ると最後に告げると、はいはいと返事をされその言葉を聞きながら屋敷を後にした。

 時間はまだ早いがやることもなくなってしまい、今日はなにをしようかと稗田と表札のかけられた門の下で立ち止まり考える。するとどこかから呼ばれているような感覚を覚えた、声で呼ばれているわけではないが確かに呼ばれている声。

 耳に届く声ではないが、心の内で呼ばれていると感じられる呼び声のようなモノ。暇も時間もある今を埋めるには丁度いいかもしれないと思い、聞こえてくる呼び声に誘われるまま足を動かした。

 

 呼び声は稗田の屋敷のすぐ近くから聞こえてきていて、ある人里の一角から呼ばれていたらしい。けれどなんでまたここから聞こえるのだろう、ここは慧音の寺子屋で午後は放課となり誰もいなくなるはずだ。

 誰もいないはずの寺子屋で一体誰が呼んでいる?

 そんな事を考えて寺子屋の屋根を眺めていると、あたしの背中にこんにちは~! と元気な挨拶をぶつけてくる者がいた、勢いと声量から誰が声の主なのかすぐにわかった。

 毎日毎朝妖怪寺の参道を掃き清めながら、通りを歩く相手に声をかける妖怪寺の読経するヤマビコ、幽谷響子ちゃん。声に振り向きこんにちはと返答をすると、耳と尻尾を揺らして笑顔を見せてくれた、挨拶一つでこうも笑顔を見せてくれる響子ちゃん。

 毎朝こんな笑顔で挨拶されれば人も警戒心なんて持たなくなるはずだ、あの寺の顔になるには丁度いい山彦ちゃんだろう‥‥それでも少し不思議に思った、この子が寺を離れるなんて買い物かミスティアとのライブくらいのものだが、なんでまたここに来たのだろうか?

 

「あれ? 一輪やぬえは呼ばれなかったのに、アヤメさんも呼ばれたんです?」

「もってことは響子ちゃんも呼ばれたクチなのね、何かしらね。耳と尻尾のせいかしら?」

 

「でも親分さんは聞こえていない感じでした、化けてて耳も尻尾もなかったからかな?」

「見た目にはなくても実際は生えているから聞こえないわけはないわね。人のいないハズの寺子屋であたし達を呼ぶなんて、どこの誰で何かしらね」

 

「わたしとアヤメさんだと、一緒に読経して怒られたくらいしかないですよ?」

「そうね、一緒に仲良く南無三されたわね。そういえばあの時はあたしだけ座禅修行をさせられたけれど、響子ちゃんウマく逃げたわね」

 

「逃げてませんよ! 日課の掃除が済んでいなかったから、先にそれを済ますように言われただけです」

「ふぅん‥‥ま、いいわ。取り敢えず今日のコレには関係ないし」

 

 あたしと山彦、それほど共通点がない二人をを呼び出す相手とは誰だろうか、てっきり里近くの妖怪全てに聞こえているものだと思ったが、響子ちゃんの話では一輪やぬえには聞こえていないらしい。耳や尻尾を持つ一部の妖怪だけに聞こえる声なのか?

 それだとしたら姐さんに聞こえないわけがない、言った通り消していても生えていることには変わりないのだ。聞こえても聞こえてないふりをしただけか?あの姐さんが呼びかけに応じないなら大した事ではないのかもしれないが、思惑がわからない以上下手に突っつく事はできない。

 あたし一人ならひょいひょい乗り込んで真正面から問いかけるが、響子ちゃんが一緒ではそれはやりにくかった。愛想を振りまく寺の顔、そんな者に万一手荒な事でもあり血なまぐさい事にでもなればあの寺がまた封じられる。

 戻ってもいいと言ってくれた者が住まう場所、それを失うのは心苦しく思えて安易な行動が出来ず、二人で寺子屋の前に佇み話す事しかできなかった。

 

 けれど人里のど真ん中とは言わないが、人妖の争いや血なまぐさい事を御法度としている人里で声なく妖怪を呼び出すこの行為、呼び出しただけで手を出してこないやり口には覚えがあった・・一瞬脳裏に浮かんだのは昨晩襲ってきた者達だがすぐにそれはないなと思い直した、あいつらがここで襲ってくることなんて億が一にもないだろう。

 確かに人里はあいつらの領域で術を行使するなら竹林よりも容易だろうが、その領域を荒らしてまであたし達を狙う事はないはずだ。生きる場所を守るために動いて荒立てて、その結果生きる場所から追われたのでは意味がない、しかしそれなら一体誰が?

 二本の尻尾を揺らして悩んでいるともう一人、同じく呼ばれたらしい耳と九本尻尾付きの者がやって来た。

 

 右手には食料品の入った買い物かごを下げて、左手には竹串に刺さった厚手の油揚げを持ち、フワフワの九尾を揺らしてこちらに向かい歩いてくる妖獣の頂点、八雲藍。

 

「買い食い、しかも歩いてなんて行儀が悪いわね」

「アヤメか、マズイところを見られたな‥‥あの子には内緒にしておいてくれよ?」

 

「藍の態度次第ね、買い物? 息抜き? どうでもいいけど来たついでに付き合いなさいよ」

「この声にか? なんだ、アヤメも呼ばれたか。まぁそうか、狸だからな」

「わたしはなんで呼ばれたんですかね、狸や狐じゃないんですが?」

 

「命蓮寺の山彦か、お前の場合は見た目で呼ばれただけだろうな。見た目はそれらしく見える」

 

 特に警戒する様子もなく、内緒にしておいてくれと言いながらも油揚げを立ち食いする金毛九尾。買い物ついでの偶の息抜きだろうし告げ口なんてする気はないが、口ぶりからすると藍にはこの声がなんなのかわかっているような素振り。

 狐が真っ先に理解出来て一応は狸であるあたしも呼ぶこの声、ついでに山彦も呼ばれたようだが響子ちゃんは山彦としてよりも見た目から呼ばれただけらしい。犬っぽい耳に尻尾、見た目の共通点は確かにあるが‥‥狐に犬、それと狸か。

 藍の落ち着き払った態度と少しの言葉がこれがなんなのか示してくれていた、里で妖怪を呼び出しているのに管理側の藍がのんきに買い食いしたままでいるのだ、このメンツとその態度から大方の予想はついた。

 だが、呼ばれているはずの狸の御大将が動かないのがわからない。あれか、人に化けている今は狸としては動きませんよってことか。形はともかく儀式として呼ばれているのに来ないなんて、あたしがいるからいいやって事かね。

 どうでもいいか、こんな呼び出しなんて久しぶりだ。姐さんに代わり狸として話を聞いてあげよう、妖怪らしく儀式召喚には応じてやらないと相手も困るだろうし。

 

「で、これってあれなの? 確証があるなら教えて欲しいわ、九尾様」

「私は狐でお前は狸、その子は見た目が狗に近い、それでわかるだろう? 確認するほどの事でもないだろうに」

「わたしは犬じゃあないんですけど」

 

「まぁいいじゃない、耳も尻尾も可愛いわよ。それより狐狗狸なんて久しぶりだわ、誰がやっているのかしら?」

「決まっているさ。呼ぶのは昔から変わらず、大概その手の事に悩む若者だ」

 

「その手の事ねぇ、直接聞けば早いのにそう出来ない初心さが可愛いところかしら」

「コクリ? あのぅ‥‥置いてけぼりは困るんです」

 

 藍の言葉で確信を得てそのまま可愛い悩みについて二人で話していると、まだ理解しきれていない山彦に答えが欲しいと言い寄られる、見た目狗っぽいが当人は狗ではないし、これで呼ばれる事なんてないだろうから判らなくても当然といえば当然か。

 しかし皮肉な相手を呼び出したものだ、患う気持ちを伝えられずあたしや藍のような口で騙す妖怪を呼び出して答えを聞こうとしたのに、真正面から大声で相手に話しかける妖怪も呼び寄せてしまうとは、本当は声を大にして伝えたいという心の現れかね?

 取り敢えず神託が欲しい相手のことは置いておくか、このまま放っておいて耳を垂らす姿を見ているのも可愛いが、この子は元気に過ごしている方が似合うと思うし。

 軽く説明を、そう考えた辺りで狐狗狸の一番始めに名を連ねる者が代わりに説明をしてくれた。

 

「人が言うにはこっくりさん、当て字で狐狗狸さんという。本来はもっと低級な動物霊を呼ぶものなのだが」

「大方知ってる狐と狸、ついでに狗っぽい形を思い浮かべて行った。結果あたし達が呼ばれたってところね」

「それで呼ばれたら何をしたらいいんです?」

 

「稀に紛失物の捜索、取引の当否なんて相談もあるが九割九分違う相談事だ。丁度山彦もいるし大声で伝えてもらうか?」

「他人には言いにくい悩み事だからあたし達を呼んだんだろうし、九尾様の息抜きにいいんじゃない?ついでに色も覚えなさいよ」

 

「覚えたところで魅せる相手がいないな、無駄な事をする暇はない」

「あら、あたしに魅せてくれてもいいのよ? 甲斐甲斐しい姿以外、艶やかな姿も是非見てみたいものだわ」

 

〘だから置いてけぼりは困るんですってば!〙

 

 藍に詰め寄り頬に手を添えようとした瞬間に真横で怒鳴られて耳がキーンと鳴る。さすがに近距離、それも不意打ちで物理的にでかい声を浴びせられてはたまらない。頭の中で『ですってば!』がくわんくわんと反響して困惑していると、同じくやられたのか藍も帽子を取り頭を抱えて耳を見せていた。介護生活中の風呂上がりですら見せなかった耳、なんということはない至って普通な狐耳だった、隠すくらいだからてっきり誰かと揃いの金のリングピアスでも付けているのかと思ったが、そんな事はなかった。

 耳に向かうあたしの視線に気がついたのか、耳に飾りを付けて地底で去勢でもされたかと耳についての軽口を言われてしまう。そんな軽口に対して笑いながら、去勢の真逆で多く求められていて困っていると軽口を返していると、また置いてきぼりを食らっていた山彦が何か大声を発したようだ。あたしは声を逸らして被害を被ることなくいたが、金毛九尾には二度目の口撃も効いたようで、縦に開く瞳孔を厳しくした金色の瞳で山彦を睨んでいる。これから可愛い相談事を聞くのだからそう怖い顔をするなと窘めると、あたしに窘められたのがお気に召さないようで耳の鎖を引っ張られた。

 

「引っ張るための鎖じゃないんだけど?」 

「耳元でチャラチャラと、五月蝿くないのか?」

 

「鎖の枷なんてそんなもんでしょ、慣れればどうってことないわ。それに枷があるくらいのが成就した時燃え上がるものよ?」

「そういうものか、色香を放ち惑わせば早いと思うが」

 

「魅せる色はあるくせに色のない物言いをするわね、過去に傾けられた者達が可哀想」

「今傾いてるのはお前の頭だがな、もう少し強く引っ張れば傾けるどころか外れるか?」

 

「これから他者の恋わずらいを聞くんでしょうに、外れるとか傾くとか幸先悪いことばかり言わない方がいいわ、本当に疎くて困る」

「そういったモノは紫様の範疇だと」

 

〘だぁかぁらぁ!!〙

 

 本日何度目かの山彦の物理的な口撃、あたしは能力を行使し続けているから囁くくらいの声量くらいしか聞き取れないが、となりの狐耳には結構なダメージのようだ。また窘められると警戒しているのか何も言ってこないが、態度は何かを言いたそうにしている八雲の式。

 さっきからあたしにノッてきては山彦にしてやられている妖獣の頂点、注意力を逸らされていれば藍も引っ掛かるのかと笑っていると話を聞いた後で覚えていろと脅されてしまった。縦に開く瞳孔が少し怖いがあたしはナニをされてしまうのか、出来れば相談内容と似た色のある行為なら嬉しいのだが。

 少し期待して瞳を潤ませると掴まれたままの鎖を強く引っ張られて涙目にされた、地底でジト目にも思ったがスイッチじゃないんだ、気安く引っ張らないで欲しい。

 

 さすがに響子ちゃんに悪くなってきたので話を進めて寺子屋へと入った、中にいたのは二次性徴を迎えるかなってくらいの人間の女の子。想いを向ける男の子とどうしたら仲良くなれるか悩み、親から聞いたこっくりさんを試してみたらしい。聞いたものとは随分と違った現れ方をした狐狗狸を見て目を丸くしていたが、九尾を覗けばそういった話が嫌いではない少女姿のこっくりさん達。ひと通り少女の話を聞いてそれぞれの答えを述べてみた。

 正面から男の子に思いをぶつけるべきだという犬役の山彦、科の作り方を教えるからそれで落とせと真顔で言う狐。そのどちらも出来ないから今こうして悩んでいるというのに‥‥

 二人に言われて強く悩んでいる顔のままでいる少女、この子は小さな胸を痛めているというのに機微のわからない者達で困りモノだ。

 

 そんな困り顔の少女に優しく呟いた、好きな相手に想いを伝えるなら飾らずに悩みも全て言ってみなさい。二人とは違った助言をしてあげると少し悩んで微笑んでくれた少女。

 明確な答えではないし、コレを踏まえて想いを伝えたからといって必ず報われるものではないが、この手の事に悩んでいる者は結論は出ているが誰かに背を押されたいというだけの者が多い。

 自分で結論を出せる力はあるのだから変な入れ知恵をせず行動したほうが良いと思っての助言、それにもし報われなかった時に余計な入れ知恵のせいにしてしまったら、後々のこの子のタメにならないだろう。短い生なのだから色々考えて謳歌したほうが良い、そう思っての助言だったが、それでスッキリしたのか感謝を述べて、お帰り下さいこっくりさん達と、儀式の終わりを告げる咒を言い放つ少女。

 

 少女に頑張ってとだけ告げて三人で立ち去り、外で反省会という名の世間話をしていると何故か二人に感心された。あたしとしては言葉の通りに呼び出しに応じて願い通りの助言をしてみただけなのだが、それが不思議だったらしい。

 今までのあたしならテキトウに笑って変な助言をして終わりだったのに、最後に頑張ってと応援までしたのがあたしには似合わないらしい。随分な言われようだが思い返さずともその通りだったと思えて、言い返す言葉を探してしまう。

 いいものが何も思いつかずとりあえず、格好と一緒に気分も一新したのよ、と船幽霊に言われた言葉を借りて二人に言ってみると更に関心されてしまい少し恥ずかしくなった。

 謀るつもりが謀られる事が最近多くて立つ瀬がなくなってきていると感じてはいたが、まさか褒められて瀬が狭まってくるとは考えておらず妙に居心地が悪い。

 

 船幽霊の言葉を借りたから水攻めでもされたのかと考えたが、あいつのは穴あき柄杓だったな‥‥それなら自分から瀬の深みに進んだだけか。

 いつか足元を救われて流されそうだが、こういった事であれば流れてみるのもいいかもしれないと、狐狗狸の輪の中で思った。




小学校くらいの頃に流行ったような覚えがあります、こっくりさん。

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