東方狸囃子   作:ほりごたつ

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時間はないけど調子に乗って続き物、そんな話。


第四十壱話 ぶらり温泉巡り ~壱~

 生まれた国は何処だったか、ただ日ノ本ノ国のどこか外れ、皇室が国を動かしていた時代という事だけ覚えている。私達と変わらない普通の人間が、私達とはちがう者として扱われるのか、わからないままに生きていた時代だったはずだ。

 そいつらが一言悪だ善だと決めつければモノの価値が決まる時代、静かに慎ましく毎日を過ごしいてた私達はその内の悪とされ‥‥あいつらは私達を笑い嘲り蔑み嬲り‥‥ついには殺し始めた。

 私達の体には尾があるとか、体から光を放ち惑わせるとか人外の力によって水を汚すとか……普通の人間と何も変わらない姿で惑わせることなど出来なかった私達は反論したが、水質汚染だけは反論できなかった。

 

 私の里の主な収益源は鉱山。

 鉱山で採掘した銅を加工したみづかね細工を朝廷に献上したりするのが私の里での主な仕事。私達の作るみづかね細工は丁寧な仕事が見えると評判で、都の貴族や宮中でも重宝されて欲する人も多いと聞いた。評判を聞き私達も躍起になり更に多くの銅を掘っては献上した、そこまでは良かったけど、いつからだろうか、宮中で原因不明の疫病が流行りだした。

 それも決まって病に伏せるのは私達の里で作られたみづかね細工を身につけるようになった宮中の者達ばかりだ。私達はその原因を理解していたしついにあっちでも出たかとも思った、里の者もわずかだが同じような疫病にかかり死んでいく者がいるからだ。

 だが、それを宮中へと伝えることはなく、秘匿とした。 

 

 みづかねとは水銀。

 私達の鉱山で採掘される銅は良質で、普通の銅では見られないような鈍く流れるような光沢があるのが特徴だったが、その色合いは水銀が混じっているからこその色合いだった。だが水銀の怖さなどわからず見た目ばかりに目がいってしまい、これほど美しいモノならと装飾品として加工をし始め、飛ぶように売れ出したのだが事態はすぐに起きた。

 一番最初に彫金師から死んでいき、次第にその家族掘り出した鉱夫とその家族と病は広がっていった。

 

 何が原因なのか。

 私達は里の外へ話が漏れる前に解決策を探し始め、彫金の際に水を使うのが原因だろうと考えた。ある程度貯めた水瓶の中で銅をみづかね細工へと加工することで光沢が増すとわかり、そうするようになってから彫金師が死に始めたからだ。

 ならその加工を形を変えて行えば発症は抑えられるだろうとなり、対策として流水。

 川の流れで常に清めながら加工を献上品を作り続けた。

 結果彫金師は発症する者がなくなりはしなかったが激減した。

 だが中には危ないからもうやめようと言う者もいたがそうはならなかった。

 これ一つで里を盛り上げ里の者を生き長らえさせてきた仕事。

 宮中からの注文も増えるばかりでやめられるわけなどがなかった。

 これを危険視する物は里を追われ野へと出された、私もその一人。

 

 しばらくしてある変化が起きた。

 鉱山から流れる川に面した村々の者達が全員病を患い死んでいくと噂が立った。

 その病は宮中で流行ったものと酷似した死に様で、川の上流のにあるあのみづかねの里でも同じく死んでいるという噂。

 絶対に里の外へと漏れないよう秘匿としてきたものがついに漏れてしまった。

 ただこの時も里の者は少し勘違いをしていた。

 川で清め綺麗にすれば毒性は出ないと思い込んでいたのだ。

 実際、彫金師達が発症することが少なくなっていたから毒は消えた、そう思い込んでいた。それがみづかねの里よりも下流にある村々が病で全滅したと聞いて、里の者全員が凍りついた。

 噂が流れてから時を待たずして、私の故郷は焼かれ全てが燃え落ちて里に残った人達は無残に殺された、病を放ち朝廷に仇なす者達だと烙印を押され蹂躙された。

 私達の装飾品をあれだけ褒め称え重宝した朝廷が手のひらを返して、私達を逆賊だと討滅した。

 

 奇しくも里を追われた者達だけが生き延びることになったが、それも難しくなって来ていた。

 里を追われた生き残りがいる、そんな噂も立ち私達は国を散り散りになり逃げた。

 散り散りに逃げた者も少しずつ追い詰められ、私も何度も追われ命を危険に晒さらしたがどうにか生き延びていた、そうして逃げた先で少しの話を聞いた。

 今はもうない懐かしい故郷の噂話の内容、それは、あの里は人の里ではなく病を操りじわじわと人を殺す妖かし共の里だったという話‥‥暗闇に潜み8つの目を輝かせて殺した者の肉を喰らい、疫病を振りまいて操り病に伏せる者を嘲笑う、恐ろしい者達だと、病に伏せる者の側で這いずり舌なめずりする姿はまるで蜘蛛のようだと。

 

 他の里と何も変わらない私の故郷だったが、何処へ行ってもそうした話ばかり。

 最初は否定しちがうと声を荒らげたがそれが原因で追われる事も増え、次第に否定をすることはなくなり私はそうなのだと心を病むようになった。

 病は気から、心を病み隠れ場所の廃坑で動かなくなり数日。

 急に体も心も軽くなり動けるようになった、何があったのかすぐには判らなかったが少しずつ理解していった。

 

 髪は色素が抜け黄金のような色、瞳は闇の中輝きを放つようになった。

 着ていた者も逃げ続けてボロボロになった布切れではなく、茶で統一され腹から胸に6つに黄色のボタンがついたもの。

 下半身に目をやると丸く膨らんだ形状で、まるで蜘蛛の目と腹のような格好に見えた。

 姿だけではなく力にも変化が見られた。

 今まではただのか弱い村娘だったのが、岩を砕き木を裂いても余りあるほどになっていた。

 新しく宿した力にも慣れたある時、隠れ場所の廃坑を人が訪れた。

 宮中から遣わされた者達だろう身なりと着物が整った者達ばかり。

 あいつらのせいで‥‥

 そう思考した瞬間には辺りは血と肉が散らばり私はその者たちを喰らい笑っていた。

 腹が満ちて我に返り気が付いた、あいつらが願った姿になった……成り果てたと。

 

~少女帰想中~

 

「そろそろいつものが来るんだけど」

「いつもの?」

 

 いつか縁側で約束した地獄温泉巡り、あまり時間をおいてしまうと億劫になるからすぐに行こうとぬえに手を引かれて大穴を降る途中。

 あたしが来ると必ずと言っていい頻度で首を狙う者が、そろそろのはずだとぬえに伝えて待っていた。

 

「そぉぉのぉぉお首もらったああぁぁぁ。。、、」

 

 きたきた、と声の方向を二人で見つめると鎌を頭上に振りかぶりテンション高く突っ込んでくる木桶が見える。いつもなら勢いが静まるまで逸し眺めて楽しむのだが、今日はぬえもいるし早いとこ旧都へと向かってひとっ風呂浴びたい。

 あたしとぬえが小さく構え木桶と交差する瞬間に強引にとっ捕まえる手でいくことにした。

 

「捕まえたわ」

「何やってんのキスメ?」

 

「アヤメにぬえ? 久しぶり、明けましておめでとう。今年こそ首頂戴ね?」

 

 新年でも変わらず物騒な挨拶を済ませていつものように木桶を抱えて更に降って、そろそろ次に定番が出るかなと眺めているとキスメが何か言いかける。

 

「なんだかヤマメ、機嫌が悪い」

 

「へ? ヤマメこんなとこに住んでんの?」

「そろそろ来ると思うけど、機嫌悪いの? 珍しいわね」

 

 ぬえの質問は無視してなんとなく表情の暗いキスメに問いかけると、今日は朝から機嫌が悪くて巣穴に行っても出てこなかったそうだ。あの明るい地底のアイドルが珍しいなと、それでもたまにはそんな日もあるだろうと気にせず降っていくと少し降った先で罠にかかる。普段なら糸など貼られてない暗がりで油断した、気がついて逃げようと暴れまわるキスメもどうにか道連れにして三人仲良く糸に絡まる。

 

「ベトベトして剥がれないんだけど、ちょっと! 変なとこ触らないで」

「変なって‥‥元々よくわからない青い変なのじゃない、なに、これが弱いの?」

「ほんとにやめ!‥‥んんっ‥‥」

 

「新年から女二人で乳繰り合ってないで‥‥ヤマメの糸だから私の鎌じゃ切れない、罠にかかればさすがに来ると思うけど」

 

 背から伸びる青い何かを摘んだり引っ張ったり撫でたりする度ぬえがピクっと震えて身を捩る、面白くて糸そっちのけで遊んでいたら余計に絡まった。

 キスメから軽いお叱りを受けるまで続けていたが、さすがにやりすぎて腕も動かせなくなるほどに絡まるとそれを笑う声が聞こえてきた。

 

「あんたら揃ってなにやってんのさ、キスメまで混ざって‥‥おぉぬえじゃないか、随分と久しぶりだねぇ」

「ヤマメ、挨拶は後にしてどうにかして欲しいんだけど」

「ぬえちゃんだけこのままでもいいわよ? 楽しいし」

 

 ぬえに睨まれるが、動く指だけをわきわきとさせると友人に見せる顔ではないひどい表情を見せてくれた、少し遊びすぎたか、覚えていれば後で謝ろう。

 そんなあたし達を見て笑いながら糸を解いてくれるヤマメ。

 機嫌が悪いようには見えないが、キスメの勘違いだろうか?

 

「食えない獲物の為に糸を張ってるわけじゃないんだけどねぇ」

「食べるならアヤメちゃんのが美味しいわ、私から出るよくわからない出汁とか木桶の出汁とかマズイわよ?」

「あたし食べられちゃの? 優しくしてね、ヤマメ?」

 

 体に残る糸くずパパっと払い着物を少し崩して肩を晒す、ヤマメもぬえも笑ってくれたがキスメだけどこかの第三の目みたいなジト目なのはどうしてだろう。

 

「なに、ヤマメ機嫌悪いの? お腹でも痛い?」

「こういう時真っ直ぐだと話が早いわね」

「あぁ~‥‥寝覚めが悪かったのさ、お前らのコント見てたら気が晴れた」

 

 悪気のない真っ直ぐない質問。

 あたしには少し難しい物の聞き方だ、柄でもないし性に合わないが少しだけ羨ま‥‥おっと、妬ましくなる。

 

「それより二人連れなんて珍しい、どうしたのさ?」

「年始の挨拶ついでの地獄温泉めぐりよ」

「ついでに埋まってた頃のぬえちゃんの話を肴に一杯」

 

 あれは封印だったと騒がしいぬえは置いておいてヤマメとも新年のご挨拶。

 本当であれば行き来が禁止されているとかなんとかで、地上と地底の者が顔を合わせることはないと思うがヤマメに聞けば地上に抜ける穴が他にもいくつかあって、ヤマメもたまに地上に出るようになったそうだ。

 確かに素直に決まり事守るような連中じゃないし、あたし達は悪魔じゃなくて妖怪だ。約束を破っても気にしないだろう、それが破ってもいいと思える約束事なら。

 

「温泉巡りて事は地霊殿もか、たまには私もさとりの顔でも見るか」

「そうよ! 遊びは楽しく大勢で!」

「旅は道連れ世はなんとやら、どうせならキスメも一緒に温泉ね」

「桶に貯めてね?」

 

 徹底してるわ。

 

 

 人を喰らい病を撒いてあるべきように日々を過ごし結構な月日がすぎた頃。

 私の巣穴を人間たちが襲ってきた。

 四人の屈強な男たち。

 またいつもの人間が私の罠の掛かりに来たかと高笑いしながら見下していた。

 それが私の間違いだった、たかが人間と侮ったのが運の尽き。

 清め払われたのか退魔の刀を身に受け、足を失い危うく命も失いかけた。

 どうにか残りの足を犠牲に逃げ延びることが出来たが人間の中でこれほどの者が出てくるとは思っていなかった。

 とりあえず力を取り戻すため身を隠そう、そう考え山へと篭もり隠れた。

 

 ある程度力を取り戻し人も襲えるようになった頃、いつかの男達の噂を聞いた。

 なんでもあの大江山の鬼どもを退治してみせたと、だがそれが元で病に伏せて虫の息だと。

 これはあの時の借りを返すいい機会だ、そう考えすぐに動いた。

 怪しまれぬようにいつか私を退治しに来た法師の皮を被り人に化け都へと紛れた。

 噂通りに床に伏せる男を見つけたがただ殺し食らうのは面白くない、捕らえて巣穴で恐怖の色に染めて喰らおう。

 そう思いつき忍びこんだのだが糸で絡め取る前に切りつけられた、どうやら釣るためのブラフだったようだ。

 この短刀も退魔の宝具だったのだろう、傷口が塞がることはなく撤退を余儀なくされた。

 身を滅ぼしていく傷口を取り去るため已む無しと、私は体を小さくわけその場を逃れた。

 しかし、それも愚策だった。

 別れた私の体達は普段ではやられることもないような半端な退治屋に次々と討たれていく。

 さすがに運の尽きかと思い始めた時、とある妖怪の話を聞いた。

 なんでも妖怪たちの楽園を創るそうだ、これは逃げ場所にちょうどいいと思えた。

 

 また追われる生活をしながら妖怪の楽園を目指し逃げ続けた。

 

 

 新年早々に寝覚めの悪いものを見てしまった。

 顔を出しに来たキスメに悪いことをしたね、後で一言謝っておこう。

 どうせ他にやることもなく大穴に吊り下がっているんだ、いつでも構わないか。

 そう思ったが朝から私の糸に掛かった奴らがいるらしい、一気に三人もだなんて珍しいね。

 

 なんだい、人間じゃない上に見慣れた顔が三つあるわ。

 一人はやたら騒ぐ懐かしい顔だし、もう一人は随分楽しそうだ。

 私の糸が絡まっていくのを気にせずに遊び呆けるなんて、さっき見た奴らとは真逆の顔して楽しそうにしてるじゃないか。

 まったく釣られたままでも降ろしてもやかましい奴らだ、恐れられ疎まれた私達に悠長に年始回りだなんて変わり者ばかりだし。

 

 しかもそのまま温泉なんて、ここをなんだと思ってんだ‥‥

 まぁそれでもたまにはいいか、馬鹿に付き合うのも悪くないね。

 ついでに私も年始回りといこう。

 普段はしないような事して見せた時のあのジト目の顔で笑い始めといこう。

 いや‥‥もうすでに笑ってたわ、なら笑い始めじゃあなくて笑わせ始めといこうか。 




というわけでまた地です。


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