東方狸囃子   作:ほりごたつ

40 / 218
第三十八話 縞尻尾の長い夜 ~〆の答え合わせ~

~少女帰想中~

 

「という感じで人形遣いを手厚くもてなして、また待機位置に戻ったらいつの間にか異変は終わってたのよ」 

「アヤメ話を盛ってない? あの宴会で見たあんたは無傷どころかボロボロだったじゃない」

 

 人が折角格好いい感じで話を〆たのに余計な事を追加する蓬莱人、それでもあたしは話を盛ったわけではない。異変の最中は話した通りなのだがその後、異変が解決されて屋敷が元に戻った瞬間に発見された人形遣いの姿を見て相棒が激昂しそのまま弾幕ごっこに突入したのだ。初の弾幕ごっこの時のように加減されたものではなく、鬼気迫るものが見え隠れした黒白の本気で攻められて為す術なくボロボロにされた。

 

 いつもの黒白なら弾幕ごっこの後は快活に笑い、勝ちを自慢するように話しかけてくるのだが、今回はそんな事はなく永琳に預けた人形遣いのところへすぐに戻っていった。てっきり人形遣いの方の一方的なものと思っていたが、黒白の方も思うところがあるのだろう、パートナーとして異変解決に当たるくらいだ。気の置けない仲なのだろう。

 

 確かに人形遣いがああなったのはあたしのせいなのだが、互いに納得してのものだ。

 それなりの説明をすればあの黒白も理解はしてくれたのだろう、でもあたしは特に言い返すこともなく怒りに任せた弾幕ごっこを受けた。頭で理解は出来ても心で納得は出来ない。言葉だけで納得できるほどあの黒白は大人ではないだろう、異変という大事を解決してみせる実力はあるが良くも悪くもまだ幼さの残る少女だ。つまらない鬱憤なんぞ持っていても辛くなるだけ、今なら貯めこまずにすぐに晴らせるのだからそれに付き合うのも年長者の役割というものだろう。

 

 黒白に撃墜された瞬間。

 もしかしたらこれも見物料に含まれていたのかもしれないな、と少し考えた。

 

「出来ればドンチャン騒ぎの前に着替えたかったんだけど、スキマがダメって言うのよね」

「笑いどころが一つ増えただけじゃ、気にもしてない癖にしおらしく語るもんではないぞ」

 

 あの時のあたしの姿を思い出して笑う妹紅と女将とはちがって、マミ姐さんは穏やかな笑みを浮かべながらそう話してくれる。話しの全てを語らなくてもなんとなく通じるものがある相手に恵まれて、あたしは意外と幸せ者なのかと思った。

 あのイタズラうさぎのおかげなのだろうか、それとも別の何かがこうしてくれているのか。

 酒の回った頭で考えても答えは出ずにモヤモヤするだけだったため、今はいいやと酒を煽った。

 

「そういえば正解はなんだったの?」

「うん?‥‥あぁ人形遣いに言った事?」

 

「アリスさんは能力に気が付いたような話だけど」

「能力については正解ね。知を求める魔法使いだけあってすぐに気づいたのには素直に感心するわ、でも能力だけ見て他が疎かになった。結果、読みをハズして血塗れになったってとこね」

 

 あたしの見せた能力を攻防しながら考察し正しい答えへとたどり着いた、それだけでもあの人形遣いが戦闘中にどれほど冷静にいたかがわかるというものだ。惜しいのはあたしが化け狸だという事には気を回せず、化かされるかもしれないという意識を逸らしたままに戦ったこと。攻め手を見せるならそれ以外に見せない手も持っていないといつ何に足を掬われるかかわらない、年季や実戦経験の差が出たものかもしれない。

 

「じゃあアヤメさんの言う正解はなんなの?」

「そんなの簡単よ? あたしを倒せたなら正解、わかりやすいでしょ?」

 

「趣味が悪いのぅ、シバき倒して口の聞けない相手に答えは聞けん。なら正しい答えはなんだったのか? 考察は正しかったのか? と悶々とする事になるじゃろ、そんなんだから面倒だとか厄介者だとか言われとると自覚しとる……から厄介者なんじゃな」

 

 語らなくてもう今どんな視線を向けられているかはわかる。それがおかしくてクスクスと笑うと更に視線がひどいものへと変わった気がしないでもないが、まぁいい、どうしても気になるのならあの人形遣いはあたしに直接聞きに来るはずだ。

 アレも知を求める種族だ、一時の恥など気にもしないだろう。

 

「そういえば、見物料は払ったのに異変の一番盛り上がるところを見てないけど良かったの?」

「最初と最後にいいものが見られた、十分な見どころがあったのよ。それで満足」

 

 異変の前まだ変化のない月を見上げ冷たい眼差しを見せた永琳、あれはいつも通りの眼差し。

 だが、何かの術式を施して輝夜へと向けた眼差しはいつも以上に冷えた、なにか張り詰めたような瞳に思えた。それまでにも何度も永遠亭にお邪魔して輝夜や永琳とは顔を合わせて話したが、あの永琳の瞳から感情が伺えるような事はなかった。死も終わりもない変化のない人間の見せた小さな変化、それを見られただけでも見物料を払う価値は十分だったのだが、月が戻ってしまった時とその月を戻した犯人を知った時の表情もまた秀逸だった。

 

 月が戻り魔力を放つことがなくなると永琳は不安と決意の混ざったような表情を見せた、あの表情は鬼気迫るものでそれこそ身内以外、異変解決に来るお客様も含む全ての外敵に対して向けられた八意永琳の決意に思えた。固く何かを誓う表情も美しく良かったのだが、それよりも異変解決後の宴会の場で紫から聞かされた、あの月を戻したのは守るべき主だということがわかった時の表情が秀逸だった。

 私の決意は何だったのかという呆れと何かの安堵感、輝夜に穏やかに微笑む永琳をその時初めて見ることが出来た。

 

 宴会からしばらくたってから永琳が話していたことだが、あの異変は来てほしくないお客様から身内を守るために起こした異変だったらしい。永琳が守る範囲にはいない身内でもないあたしを釣って動かしたのは、異変解決に来るお客様相手もそうだがもしもの場合の手駒としても考えての事だったそうだ。あたしが断る事は考えなかったのかと問い詰めると、その時は輝夜からお願いさせれば来るだろうし、それ以外にも手はあったのよなんて笑いながら話してくれた。もし輝夜のお願いを断っていたら何をされたのだろうか?

 少し気になったが壁に並ぶ色鮮やかな薬品を見ながら話す永琳に、それ以上を詳しく聞く勇気はあたしにはなかった。

 

 そういえばここまで話をしていない永遠亭の小間使いだが、てゐとはちがうお客様のもてなしをしていたようでナイフ怖い赤い目怖いと異変の後の宴会の場でも怯えていた。

 怯える鈴仙の視線の先には赤いお屋敷の主従が座り巫女達と何か話す姿があったが、鈴仙を気にする様子はなく宴会を楽しむ姿しか見えなかった。

 

「全部聞くと巻き込まれたってより、自分から巻かれに行ったみたい」

「普段の面倒くさがりなアヤメらしくないね」

「こやつは楽しめればなんでもいいんじゃ、少しの面倒でそれよりも楽しめるとわかればいいんじゃろうて」

 

「まるであたしが病んでいるような言い草ね、否定しきれないのが悲しいところだけど」

 

 人の思い出話に散々な事を言う友人達だが、その表情は皆笑っているのでこれもまあいいかとまた飲み始めた。お猪口を空けて景色を見ると少しだけ東の空が明るくなってきていた。

 

 今日もいつものように朝帰りだ。

 これで住まいに戻った頃に『今日もまた朝帰りか』といつものイタズラ兎が来れば少し面白い、そう思い、煙管から煙を漂わせた。  




幽冥の住人組なんてなかった。
ごめんなさい幽々子様、でも妖夢のショットが扱いにくいのです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。