妖怪も足を踏み入れないような原生林。
一言で表すならそう表現する場所、それが幻想郷の魔法の森。
木々が太陽の光を遮り、日中でも薄暗くじめじめとしている森、ここにしか生えない種類のキノコが幻覚を見せ立ち入った者を惑わすという話は結構有名だ。
そんな怪しい森の近くにわざわざ店を構える変わり者がいる。いつものように座って、客であるあたしが店内にいるというのに手元の書物に目を落とし読みふける男、森近霖之助がそう。
ぱっと見た限りでは背の高い人間の青年といったところだが、半人半妖の身らしく普通の人間の何倍も生きていると言っていた。店を開いておきながら儲ける気があるのかないのかよくわからない。が、そんなことはあたしには関係がない、今日はこの男に聞きたい事があって訪れているのだ、とりあえずこちらに興味を持ってもらえるようにしよう。
「茶屋ではないし、お茶が出てきておもてなし、なんてのは思っていないけれど……いらっしゃいませもないなんて、本当にここはお店なのかしらね」
霖之助の営むこの店、香霖堂の戸を開いた時に目があったきりで、それから一言も本から話さない男に少し嫌味を言ってみる。
「お客様なら歓迎するし接客もしよう、しかしひやかしの相手をするくらいなら本でも読み進めたほうが有意義な時間だと思わないかい?」
そう言うとまた視線を本に戻す男。雨宿りだの、暇つぶしだのと、お買い物以外の用事で訪れ続けてきたせいですっかり客とは見られていないようだ。
「今日は珍しく購買意欲を持ってきてるんだけど、持ち帰るようにするわ」
霖之助の座るカウンターの奥に積んである、未整理と書かれた箱を見つめながらつぶやく。
「ハァ‥‥なにか気になるものでもありましたか お客様」
しおりを挟みパタン、本を閉じるとようやくこちらを気にする素振りを見せた。
「ちょっと探しものがあってね、森近さんなら拾ってきてないかな、って」
大概のものは人里、霧雨の道具屋で揃うためこの店が繁盛することはない。霖之助自身からも繁盛させようとする姿勢が見られないし、並ぶ品も癖のあるような物。飾ってあるだけで非売品と表記された物が目立つが、中にはこのお店でしか入手出来ない物もあった、今日の狙いはそんな物である。
「外の物かい? 最近はこれといって入荷していないが」
二つの結界で外の世界とは切り離されたこの幻想郷で、この店は唯一外の世界の品物を並ぶ店だった。といっても霖之助自身がどうにかしているわけではない。幻想郷には外の世界からモノが流れ着く場所がある、そこに出かけては拾ってきたものを店に並べているというものだ。仕入れ値ナシの丸儲けでウマイ話だと思えるが、幻想郷でも割りと危険な場所なので、値段=労賃といった感じだろう。
「河童が作った物だけどここならありそうな気がしてね、聞いてみようと思って。こう、小さい提灯からホースが二本伸びていて、そのホースで液体を移動させる時に使うやつなんだけど」
「ああ、あれなら在庫があるね、多少形が違うものがあるけれど液体を移動させるという用途は変わらないものだ」
形と用途を伝えると思い当たるものがあったのか、いそいそと探し始める。
積まれた未整理の箱を弄ってみたり、奥に消えてしばらく物音だけを聞かせてくれる店主さん。
暫くしてから戻ってきて出してくれたソレは、形は様々だが同じ用途の物数点。
「これだこれ、結構便利なんだよこれ」
目先にある数個の内の一番近くにあったポンプを手に取り、程々に柔らかそうな赤いところをフカッフカッっと、何度か摘んでみる。
「商品をむやみに触らないで貰いたいね、そんなに強い材質じゃないようだし」
ごめんごめんとカウンターに戻すと、
「それで、いくつくらい入用で? すでに伝えたように在庫はあるから多少多くても構わないよ」
「いや、一つで十分。消耗品だけどしばらくはもつだろうから。ああそうだ、森近さん、聞きたいんだがこれの正式名称はなんて言うんだい?」
そう言って購入予定のポンプを摘む。
筒先を店主の眼鏡に向けてフカフカさせると、動かない古道具屋の前髪が揺れた。
「使ったことがあるんじゃなかったのかい?」
「河童のところで使ったことはあるんだが、あたしは『燃料のあれ』とか『シュポシュポ』とか呼んでいたし、それで通じるから正しい名前は知らないんだよ」
説明に納得したのか、静かに頷く。
「にとりの‥なるほど、君が選んだそれは『醤油チュルチュル』というのが正式名称だよ。形の違うものは『石油ポンプ』という名前だ」
あたしのポンプの横に他のものも二三並べられる。
「へぇ、ホースの付いている位置がちょっとちがうだけなのにこれらは名前がちがうのか、同じような物なのにね」
フカッフカッと醤油チュルチュルを摘んでみる。
「僕の能力を知らないわけではないだろう? それは『醤油チュルチュル』だ。間違いないよ」
彼のもつ『道具の名前と用途が判る程度の能力』の力だ。
彼が知らない、見たこともないものでも名前と用途がわかる能力だという。非常に便利なように思えるが正しい動かし方や動力源などはわからない等、なんとも痒い所に手が届かない能力だと思う。
「作った河童に後で名前を教えてやろう、あの娘は『にとりポンプ』なんて呼んでいたけど正しくは『にとりチュルチュル』だったよってね『チュルチュルにとり』でもいいかもしれないね」
そう言い意地悪に笑ってみせた。自分の作った物がすでに外にあったと伝えると、発明品に命をかける彼女はきっと面白い反応を見せてくれるだろう。
何か汚いような物でも見るように目を細める霖之助が何か言いかけた時、入り口の外で何やら物音がした。直後、香霖堂の扉をドカッと箒で突き破る勢いで開き少女が入店してくる。いつもの事のなので特に慌てたりはしないが、その度に強い扉だと感心する。
「よう! 香霖! でかいキノコが取れたんだ、台所を借りるぜ。なんだアヤメもいるのか、仕方ないからお前にも食わせてやる」
左手に下げた籠からはみ出すキノコをあたし達のいる方に掲げ快活に笑う黒白。あたしに気が付くと、一瞬残念な表情を浮かべるがすぐに笑顔に戻った。
「あたしの分はいいわ、怪しいキノコを食って泡吹きたくないし」
「僕も遠慮しよう、魔理沙。食欲もそれほどないしね」
二人とも魔理沙の方は見ずに答える。
「遠慮しなくてもいいんだぜ、これはうまいんだ、いっぱい取れたしたまには私が食わせてやる」
返答を聞き流し台所に向かうこの少女。人の話は後回しにして自分のやりたい事を楽しそうにやる、本当に自由な少女だ。この少女は出会った時からこんな調子なのでもう気にしてはいない。
初めてあった時にもこんな風に押し切られて、弾幕ごっこをする羽目になった。
普通の人間に狸が一杯食わされた時の話だ。
~少女想起中~
真っ赤な霧が幻想郷を覆う異変『紅霧異変』
それが終わり少しした頃、香霖堂の店主で暇潰しをしている時であった。
乱暴に扉が開けられて黒白の少女が入店してきた。
「物は大事にしてくれといつも言っていると思うんだけどな、魔理沙?」
扉は見ずに声だけを掛ける霖之助から視線を移し入り口の方を見ると、黒と白のモノクロカラーに箒を携えた少女が立っていた。
「見たことない顔だな、香霖の知り合いか?それとも襲いに来た妖怪か?私は霧雨魔理沙、普通の人間の魔法使いだ 後者なら痛い目見せて追い出すぜ?」
へへっと笑い構えてみせるこの魔法使い、にこやかに物騒な事を言うものだ。
家を飛び出し一人で森に住みたまにやってきてはツケで買い物をする、そんな黒白の魔法使い見習いがいると店主が言っていたのを思いだす。
愚痴の割には表情が穏やかだったのが印象的で強く記憶にある。この娘の格好と霖之助の態度を見る限りこの少女がその娘なのだろう、そう感じ取れるような雰囲気があった。
「自己紹介で脅されるってのも中々ないもんだ、囃子方アヤメよ。森近さんから聞いてない? たまにこうして暇を潰しているんだけど」
手のひらを魔理沙に向けて自己紹介。やる気はないよと仕草で伝えてみせるが、はたして理解してもらえるだろうか。
「そんな妖怪の話聞いたことないな」
即答される。
「客でもない妖怪を誰かに紹介なんてしないよ」
霖之助にそう言われ確かに説明する義理も縁もないな、と納得した。そんな霖之助とあたしのやりとりを見た魔理沙は警戒を解いてくれたようだ。それから少し会話をし、慣れてからは魔理沙の止まらない口撃が始まる。
~この間の赤い霧の異変覚えてるだろ? あれは私も解決に動いたんだぜ! まぁ、最終的には霊夢にいいところを持って行かれたけどな~
~でも吸血鬼には会えたんだぜ、妹のほうだったけど。変わった羽してたんだが、外の世界だとあんな羽のコウモリもいるんだな~
~アヤメは狸の妖怪なのか、それなら尻尾は増えるのか?~
~化け狸の鍋でもつつけば不死や不老に近づけると思うか?~
~聞いてくれよ、香霖はひどいやつなんだぜ……~
ちょっとした自慢や質問、他にも店主への悪口やら、表情をコロコロ変えながら話す魔理沙は、良くも悪くも印象に残る元気な少女だった。
「まあいいや、そんなわけでアヤメ。出会った記念に弾幕勝負といこうぜ」
幻想郷で最近流行りだした弾幕ごっこ。力の差がある人妖でも対等に戦えるとして、急速に広まりつつある新しい遊びである。妖怪の起こす異変でも行われるものだそうで、その強さを競うよりも美しさや優雅さを競い合うものだそうだ。
先日の紅霧異変でもこの遊びが行われ、結果人間が異変を解決してみせた。
湖の上空でおめでたい色をした巫女と氷の妖精が射ち合っているのを見かけたが、確かに綺麗で良いものだと思った。自身でやりあうよりも見ながら酒の方が、なんてあたしは思ってしまったのだが。
「争うなら外で、出来れば遠くでやってくれると助かるよ」
「あたしとしては、今は弾幕ごっこよりもここでぼんやりしていたいんだけど」
座る店主からは遠回しに魔理沙を連れて出て行ってくれと言われるが、あたしはカウンターに頬杖付いて拒否の姿勢を表す。
「なんだよ、売られた喧嘩は買おうぜ?今ならスペルカードのおまけ付きだ」
そう言って数枚のカードを取り出し、一枚一枚柄も絵も違う物があたしの前で扇の様に広げられる。
「弾幕もスペルカードも考えていないわ、カードは持ってすらいないし。拳も使えない相手に喧嘩を売るのはひどいんじゃないかしら?」
挑発されても気にもとめずカウンターから動かない。喧嘩と言ってくるくらいだ、やる気も用意もないものを嫐る気はないのだろう。諦めてと態度で示す。
「むう‥‥それもそうだな、じゃあ次に会うまでにちゃんと考えておけよ?次は逃したりしないからな」
とても残念な顔をされたが興が乗らないのだ、身を引いてもらうことにした。
「忘れてなければ用意しておくわ」
すっかり臨戦態勢になっていた魔理沙をなだめていると、あたしたちのやりとりを眺める霖之助が何かを渡してくる。
「良ければつかってくれ、売り物じゃないしお代はいいよ」
そう言って白紙のカードを渡された、スペルカードだ。用意するつもりがないのがバレバレだったらしく、勝負しない理由を潰されてしまった。
「‥‥ありがとう森近さん、用意がいいのね」
「それを楽しんでくれて、うちに来る頻度が下がればいいと思っているよ」
少しだけ色を浮かべ笑顔でお礼の言葉を吐くと、とてもいい笑顔で返答された。
〆
あの日は素直に引き下がってくれた魔理沙だったのだが、後日出くわした時には宣言通り有無をいわさず弾幕勝負を挑まれた。
「お、アヤメじゃないか あの時はお流れになったけど今度こそ勝負だ!」
以前見せた笑顔を浮かべあたしに対し構えてみせる。
「あら魔理沙、誘いは嬉しいけれどまだルールも把握してないしスペルも考えてないよ」
渋ってみせるとすこし考える表情をした後、とっ捕まった。
「次は逃さないって伝えたはずだぜ、それにルールは簡単だ。当たらなきゃいいし当てればいい、それだけだぜ。カードは私に負けた後ゆっくりと考えればいいんだ」
簡単だろ、そんな顔で理不尽な事を言うもんだと思ったが、そのまま魔理沙の勢いに押し切られる形で勝負を受ける流れになってしまった。
「初陣前に何か言っておくことはあるか?」
「そうね、出来れば慣れるまで手加減してくれると助かるわ」
力なく首を振り、弱者アピールを試みるが効果はなく、空中で対峙する魔理沙からの気配りだろうか、最後通告があたしに突きつけられた。
「習うより慣れろだ、そこは頑張ってほしいんだぜ!」
空中で対峙するあたしにそう言うと箒に魔力を込め加速する魔理沙、上下左右にと三次元的な動きで周囲に弾幕をばら撒き、あたしに狙いを定めてくる。
「手取り足取り教えてくれる、優しい先生のが好みなんだけどね」
聞いたルールを思い出す限り被弾したとしても痛い、悪くともすげえ痛いくらいで済むだろう。 そんな事を考えながら迫る弾幕を回避していく。開始数秒で被弾終了なんてのはさすがに楽しくないだろうし、あたしの練習にもならない。乗りかかった船だ、やれるだけやってみよう。
「やっとやる気を見せたな、じゃあもっと練習させてやる」
放つ弾幕の種類を増やしあたしの動きを制限してくる魔理沙。こっちは慣れていないのも相まって逃げても避けても追い掛け回され、だんだんと余裕がなくなってきていた。
忙しい初陣になったわね、と一人愚痴る。そうしてぼやきながらしばらく逃げまわっていると、弾幕や動きもなんとなくわかってくる。これくらいなら凌いでいられるかと思った矢先、箒にまたがる魔理沙がこちらに叫ぶ。
「避けるのはうまくなったじゃないか!ならこいつはどうだ!」
――魔符『スターダストレヴァリエ』
宣言と同時に魔理沙が左手のカードを掲げるとキラキラと輝く星形の弾幕がコレでもかと迫ってくる。
「おお、こいつは綺麗で厄介だ、どう逃げたらいいかわかんない」
初めて味わうスペルカードはとても綺麗な星だった、今が夜であたしが下から眺める側だったなら、素晴らしい星見酒が味わえたことだろう。
「悪態付くなら余裕だな、うまく躱すか綺麗に当たるかしてくれよな!」
「スペルカードのない相手、それも初心者にこれはないんじゃない!?」
素直な感想だったのが魔理沙には余裕からくる軽口と思われたようだ。放たれる星の勢いが増していき、避けるよりもかすり当たりする事のが多くなっていく。
返答しながら逃げ回るがルートがまずかったのだろう、逃げ道がどんどんなくなっていく。
「持っているのに作らないのが悪いんだぜ?」
ごもっともである。
以前に次回はと言われたはずだ、これについては言い逃れ出来ない。
「そうね、あたしが悪かったわ! ッつっ!」
会話する余裕などなかったのに話していたのがまずかった。弾幕が左大腿部に当たる、予想通り結構な痛みが走る。女の子が遊ぶ綺麗で楽しいものなのよ、なんてあの隙間から聞いていたが、なるほど綺麗で楽しい痛みだ。幻想郷の過激な少女達にはちょうどいいのかもしれない。
「やっと一回被弾したか。そのまま落ちてくれても良かったんだが、初心者にしちゃいい逃げだな」
「結構痛いのね、少しびっくりしたわ」
攻撃に成功し嬉しいのか今までにない笑顔を見せる魔理沙とは対照的に、あたしの顔はしかめっ面だ。当たりどころが悪ければ死人も出る、そう聞いていたが実際に食らって納得だ。
「ならもっとびっくりさせてやるぜ!」
そういい魔理沙が魔道具を構え再度カードを掲げた。
――恋符『マスタースパーク』
先ほどのように大量の弾幕を撃ってくるかと構えるが少し様子がちがっていた。
手に持つ魔道具に力が流れ込み光を纏っていく。
「痛いで済むか、食らってみるといいぜ!!」
魔理沙の叫びと同時に放たれた高出力の魔力の光線。
周囲に光と音を轟かせながら高速で迫るそれに、どうしたもんかと一瞬動きが止まる。思考に気を取られた分時間が過ぎ、もう避けきるのは無理な間合いになってしまった。
「本当に! 勘弁してよね!」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ
強引に体を捻り、ギリギリで光線から体をずらす。
あたしの妖気と魔理沙の魔力が干渉し音を立てる。
掠めた袖が焼切れて地面へと落下していく。
腕もかすめていたようで触れた右腕が焼かれたように熱くなった。
「これも避けるなんて凄いじゃないか!ちょっと見なおした」
関心する魔理沙だが、その声には驚きと悔しさが混ざっているのが伺える。切り札のようなものだったのだろう、さっきまでの笑顔は見られなかった。
「褒めてもらえてありがたいけど、本当にギリギリだったわよ。似たようなのを見てなければ今頃まる焦げだったかも」
「へへっそれなら次はだった、じゃ終わらせない!」
再度魔道具に魔力が込められ光を纏っていく。
「今度はおまけもつける!」
魔道具から放たれた魔力光と共に魔理沙から弾幕がばら撒かれる。先ほどと同じようにどうにか捻って避けきろう、その考えは甘かった。考えていた逃げ道を弾幕で潰されもう後がない。
「うん、これは参った あたしの負けね」
迫る魔力の光を前に、変に冷静な頭になったあたしはそのまま光に飲まれていった。
~少女墜落中~
「お、当たったな! 私の勝ちだ!!」
「そうね、今日はあたしの負け。人間の小娘に驚かされる日がくるとは思わなかったわ」
勝負が決まり戦闘態勢を解いた魔理沙が近づいてきた、あたしは素直に両手を広げ降参と告げる。
「私のとっておきを食らってピンピンしている相手に褒められても嬉しくないな」
褒めたというのに募っ口をしてスネるような仕草。あれで落とす自信があったのだろうが、当のあたしは元気なものである、あくまでも本体はって事だが。
「そうでもないわ」
そういって魔理沙に尻尾を向ける。
プスプス焦げるあたしの縞尻尾。
直撃はした、だがあたしは妖気を込めた尻尾を盾にし受けきったのである。
「こんなもん傷のうちに入らないじゃないか」
「あら、大事な大事な尻尾が焦げて結構傷ついてるのよ?」
大事な尻尾を指さしてこんなもん扱いされたことに一瞬ムッとしたが、生えてない相手に気持ちはわからないだろうと考えた。
本当に、常に毛並みを整え一番気を使っている尻尾を傷つけられたのだ。結構凹んでいる。
「私としては撃墜したかったんだが?」
「犠牲がなければ多分落ちてたわ、大したもんよ」
まったくこの娘は物騒なことしか言えないのだろうか?
素直に感心したことを告げるとやっと満足したのか、いつもの笑顔を見せてくれた。
「なぁ、アヤメ」
「何かしら?」
「避けるばかりでなく反撃しても良かったのに、なんでなにもしてこなかったんだ?」
全部終わってから聞くことか?‥‥と思ったが悪びれることもない彼女に素直に答えよう。
「言ったでしょう? 考えてないって」
少しだけ意地悪に笑いそう言った。
「……本当に考えてなかったのか、てっきり弾幕くらいはあるもんだと思った」
一瞬呆けたがすぐにヤレヤレといった表情になる。
「そうね、思った以上に楽しめたし、真面目に考えるようにするわ‥‥もう焦がされたくないし、倒す手段は必要よね」
気の抜けた表情をする魔理沙を横目に尻尾を撫でて、本気で凹むあたしだった。