東方狸囃子   作:ほりごたつ

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誰が誰だかわかればいいな そんな試み。


第三十話 異説文花帖

 -某所にて-

 

 自堕落な妖怪の筆頭とまでは言わないけど、だらけた暮らしはしてるね。

 でも、だらけている割に人の事を良く見ているし話も聞いてるわ、聞くわけないと思ってたけど、忠告通り寝間着を用意したり変に素直だったりするのよね。

 寝間着と言えば新しい着物着てるけど、あっちがいいね。

 髪と同じ灰色の着物なんて女か着るにゃ地味だ。

 今?

 知らないよ、どこかで誰かで遊んでるんだろうさ、家にはいなかったよ。

 

 

 みんな面倒だとか厄介だとか言うけどあれで結構優しいんですよ。

 前なんか早朝に起こしちゃったのに、あんまり怒らないでお風呂を貸してくれました。

 そうですね、私とお揃いの耳つけた事があったんですけど結構似合ってたんですよ、耳四つになるのに。私は紫のストレートな髪ですけど、少し内に曲がる癖のある髪もいいなって思いました。

 今日は竹林や人里では見てないですよ。

 

 

 まだ学級新聞書いてるの?

 よく飽きないわね。

 何か用事?

 ああそんなこと。

 別に語るような事もないけど、姫様の決闘見ながら酔って笑う人っていうのは珍しいわね。

 どちらか死んでも気にしている素振りはないし、まぁ気になるような事でもないけどね。

 負けが分かってて挑んでくるのも珍しいと言えるかもしれないわね、負けて悔しがってるようには見えないわ。

 私はここから出かけることなんてほとんどないから、居場所なんてしらないわよ。

 

 

 私の事が大好きみたいよ、困っちゃうわ。

 そうよ、だって何度も求婚しては難題寄越せってうるさいんだもの。

 私の難題を暇つぶしにしないでほしいわね。前なんて難題の物はあった、でも持ってきてない。

 見たかったら自分で見に行けなんて言うのよ。自分で難題受けておいてひどいと思わない?

 永琳が見てないなら私もわからないわ、来たら顔を見せろといってはいるけど。

 

 ――某所にて――

 

 え、あぁ口悪いわよねあいつ。あんたも知ってるでしょ、たまに来てるの知ってるわよ。

 そうね、ここで再会する前の事をあいつは覚えてなかったのよ。

 そりゃあ声もかけてないし、話してもいない。背中から覗いてただけなんだけど。

 でも目は合ったのよ。なによ、私が悪いっていうの? まあそうなんだけどね。

 ん、見かけてないわ。人里にでもいるんじゃない? ほら、甘味処とか。

 

 

 いいお客さんですよ。マメに来てくれるし、話も面白いし、髪いじっても怒らないし。

 たまにお客さん連れて来てくれたりもしますしね、あの八雲の式を連れてきた時は驚いたけど。

 ええ、年に一回うちで宴会なの、この前のは色気のある話で楽しかったわ。

 え、内緒です。

 そういえば屋台の準備を手伝ってくれた事もありますね。お礼を出したら気を使うなって言われましたけど。

 今日?

 わからないけど来るんじゃないですか、最近毎日来てくれてありがたいです。

 

 

 -某所にて-

 

 

 お、お前か。なんだ夕刊でも始めたのか?

 ああ、あの人か。まったくいつまでも子供みたいに言い逃れて、少しは自覚を持ってだな。

 そういえば原因はお前じゃないか!

 うん、まあそうだな、記事だけ読んで判断した私も浅はかだったと思う。

 しかしだな、そもそもはあんな風に、あ!

 待て何処へ行くんだ!

 まだ話は終わってないぞ!

 

 

  いつかのインタビュー以来ですか。いかがされました?

 あぁあの狸、何度も何度も旧地獄に行っては遊んで帰る不埒者の事ですね。

 私の立て札は何の為に立っていると‥‥いつか捕まえて話をしないと、とは思っていますが。

 貴女も妖怪の山の天狗ならあんな者との付き合い方は考えねばなりませんよ。

 さぁ、見かけても捕まえる前に逃げられてしまうので行き先などは。

 

 

 -某所にて-

 

 

 あら。こちらにいらっしゃるなんて珍しいですね、本日は何かご用事でしょうか。

 ええ、よく存じ上げておりますよ。

 たまにですが座禅を組んでいかれる事がありますし。

 はい、初めて外でお会いした頃からあの方は変わられる様子はございませんね。

 いえ、先日何かあったようですが詳しくは。

 気分屋な方ですから、いらっしゃるかはわかりません。

 

 

 珍しいね、何か用事でもあるのかい、ああ、あいつか。

 最近来て少し話したよ、普段は見られない顔を見せてくれてね、少し驚かされたよ。

 ああそうだね、それなりに前から知っているがあんな姿は見たことがなかったんだ。

 気になるなら探して聞いたらいいさ、私は手伝わないがね。

 今日は見かけてないし今少し忙しいんだ、すまないね

 

 

 なんだブン屋か、私を書くの?

 え、ちがうの?

 じゃあなに?あぁ~あの時のか。

 そうよ、少し前にいきなり呼び出されて、珍しい物見られて結構面白かったわ。

 話はそうね、私からは教えてあげない。

 だって私から話すような事じゃないし、記事にしたいなら自分で聞けば?

 居場所なんてわからないわよ、暇なら来るよう言っておいて。

 

 

 ん、おお新聞屋か。なんか用かの。

 あぁ、そんな事もあったのう、少し悪いことをした。

 それは内緒じゃ。

 知りたいなら自分で聞けばいいじゃろ?

 たまに一緒にいるのを見かけるくらいなんだ。

 仲良くしてくれているんじゃろ、なに照れんでもいい。

 ま、そのうち来るしいつでも会える。今日会えるかはわからんな。

 

 

 ――某所にて――

 

 

 三千世界は眼前に尽き。十二因縁は心裏に空し。

 

 

 

 あらあら天狗さん、いかがなされたのかしら。

 そうですわね、良い友人ですわ。一緒にお茶して語らうくらいには仲良しですのよ。

 この前もふらっと来てお茶して。

 そういえばうちの子見ませんでした?

 少し調子が悪くてまたメンテナンスをしないと。

 さぁ、会えるも会えないも一興ですわ。

 

 

 ――某所にて――

 

 

 え、あぁ宴会の後は来てないわよ。

 宴会の後?

 怖い怖い鬼を倒してくれって懇願されたわ。

 結局自分でどうにかしてたけど。そこはいいの?

 何よ、はっきりしない烏ね、あの後は少しだけ昔話に付き合った、それだけよ。

 内容は霧で煙で狸だったわね。

 え、はっきりなんて覚えてないわよ。

 だから宴会以来ここには来てないって言ってるでしょ、あんたもなんか言ってやってよ。

 

 

 お、そうだな。

 言ってることは正しいよ、あれから見てない、私が言うんだ間違いない。

 ああそうだぜ、私が弾幕ごっこの初陣だったはずで初黒星をあげたのも私だ。

 初陣といってもスペルも弾幕も考えてなかったけどな、なんだよそんな顔するなよ、傷つくぜ。

 さすがに私も猶予はあげたんだ、作らなかったあいつが悪いんだぜ。

 でも宴会のは中々楽しめたな、リベンジ受けてもいいって言っといてくれよ。

 しつこいな、ここには来てないし、私がわかるわけないだろ。

 

 

 おい、私には話は聞かないのか?

 あいつの昔話は当事者だからよく知ってるよ?

 それにその日の朝なんて私はぶん投げられて起こされたんだから、まあ私が悪かったんだが。

 あ、こら、どこ行くんだ、まだ話は終わってないぞ!

 待てこらバカ烏!

 

 

 

 ――某所にて――

 

 

 新聞は間に合ってるよ。

 

 

 ――上空にて――

 

 

 これだけ探していないなんて、何処にいるんだあいつ、たまには仕事なしでと行ってみたらいないし。

 いそうな所を回ってみてもいないし、たまにはなんて思ってみるんじゃなかったわ。

 人のことをいつもいないなんて言うけど、あいつもいないじゃない。

 全く、いないしもういいわ、あいつのせいであちこち飛び回って何か言われてもイヤだものね。

 でも、暇になっちゃったわ。

 どうしよう?

 そうだ、椛の所へ行こう、あの子をからかって鬱憤晴らせばそれでいいわ。

 

 

 

 

 先程からパチパチと気持ちのいい音がしている。

 聞こえるのはその気持ちのいい音と離れた位置に見える滝の音。

 直接飛沫がかかるような距離ではないが、大量の流水で空気が冷やされそこから吹く風がひんやりとして過ごしやすい、こんな快適な場所で毎日暮らしているなんて、この劣勢の河童が妬ましい。口には出していないが正しく使えているだろう、これで間違っていたらもう一度教わりにいかないと。

 しかし行くと大概厄介なのもついてくる、山の天辺降りて隠居したんだからもっと静かにしたらいいのに。この白狼天狗も苦労してたのかね、まあこの娘は今でも苦労しているけど。力で押さえつけられるのと、馬鹿にされながらも羽を伸ばす時間があるのと比べるなら今のがいいのか。

 こんな風に暇を見つけて好敵手と睨み合っているんだ、今の方が良さそうに見える、後数手くらいかい? 河童ちゃん‥‥そんな目で睨んでも今日はあたしは逸しちゃいないよ、それがお前の実力さ。

 

「参りました‥‥んもぅまた負けた」

「ありがとうございました、でも強くなったよ、にとり」

 

 負けて悔しいのか小さな癇癪を起こし、盤上を挟んだ相手に負け惜しみを吐く河童ちゃん、それを見ながら煙管をふかすあたしが気に入らないのか、さっきよりも悔しそうに睨んでくる。

 それでも睨むだけで何も言ってはこないのだ、実力で負けたものだと理解しているのだろう、悔しさを感じられるならもっと強くなれるだろう、そしてこの白狼天狗に勝ってあたしに勝ちを届けておくれ。

 

「囃子方様にしては今日は静かに眺めているだけでしたね」

「あたしがいつもうるさいような言い方するのね、椛」

 

 囃子方様なんてかたっ苦しい言い方よしてくれと言っても聞き分けがないのか、聞いた上でそう呼んでいるのかわからない、毎日真面目に仕事をこなす白狼天狗の犬走椛。

 今将棋をしながらサボっているだろうと思われるが真面目に仕事中だ、自身の千里眼で将棋盤を見ながらでもお山の周囲を見張るなんて簡単なことなんだと。今見てる景色と混ざったりしないのか気になるところだ。

 

「いつもは、ふむ。とか、お。とか呟いてるもんね」

「独り言を気にするようだからにとりは勝てないのよ」

 

 煙管咥えて嫌味ったらしく言うだけでこの河童ちゃんは騒がしくなってくれる、機械いじり以外の事であればこいつはちょろい。

 お空の作るエネルギーをなんやかんやしてウマイことする施設を作った時には感心するほどだったのに、結果はダメだったらしいがね。

 そういう新しい発想が出来るのは素晴らしい、山崩してダム作るとか思いつけない、その発想をそれ以外にも活かせれば爪が甘いなんて事もないのにな、河城にとりちゃんよ。

 そういえば文のカメラのメンテナンスもこの子がやっていたっけか。 

 

「うるさい、今日は調子が悪かったの」

「にとり、八つ当たりはダメだよ。そういえば囃子方様は今日は何用で?」

 

 はて何しに来たのだったか?

 将棋が中々面白くて忘れてしまった……ああそうだ、秋の姉妹神を探しに来たんだ、来月辺りにでも豊穣祈願をしたいから姿を見せてくれと、団子に釣られて伝言を任されたんだ。

 まぁ椛もいるし問題ない、すぐに見つかるだろうから、今はもう少しこの場を楽しんでいよう。

 

「用事はあるのよ、そして椛もいるわ。これで何も問題ないわね」

「それはつまりそういう事なんですね‥‥私は何を探せばよいのでしょうか」

 

 そんなに辛い顔をされても困る、どうせなら笑顔で引き受けてくれると嬉しい。悪いようにはしないよ、お前の上司とは違ってさ。

 それに今も続けている仕事の一環だ、それほど苦労はしないだろう、侵入者ではなく住人探しに変わるだけだ。

 

「勝ったのに負けた私より切ない顔してるよ、椛」

「試合に勝ってショウブに負けたのよ」

 

 ウマイこと言って見たのに笑い声が聞こえない、なぜ二人とも静かなんだろうか。聞こえなかったのか?なら反応してくれるまで何度でも言おう、そして笑おう。

 

「試合に勝ってしょ」

「笑えない冗談を二回も言わなくていいよ!」

 

 歯に衣着せぬ物言いを面と向かってくるこの河童、見た目こそ愛らしい少女なのだが中々に狡猾な性格をしていて非常に良い。

 人里の縁日で屋台を出していた事があったのだがその言い草も素晴らしいものだった。

『縁日の屋台なんて騙される方が悪いんじゃん』

『ちゃんとショバ代払ってるんだから文句言うなよ』

 こんな事を誰かに言い放ったらしい河童ちゃん、この言い草で人間を盟友と呼ぶのだ、その性格の良さが伺える言葉だと思えないだろうか?

 

「中々ウマイことを言ったつもりなんだけど、ダメかしら」

「私は負けたというより諦めたという心境なので、なんとも」

 

 あたしに向けての言葉を発しながらその顔は暗く東の空を眺めている、この娘がこんな顔をする時はあの態度が悪く出来が良い上司が近づいている時だ。

 厄介事が増えたと顔に書いてある椛を見ながら、うるさい友人が向かってくるだろう方向を見つめ煙管をふかした。




こういう口調だろうか、こういう話調子だろうか。
原作セリフやキャラの元ネタから考えてみるの面白いですね。

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