東方狸囃子   作:ほりごたつ

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ガールズトーク ではないですね。
ガールズのトークではありますが。


第十九話 卓談義 ~弐沈~

 昔々、まだ人間が神様を神様として心の底から信じていた頃。

 神々を崇め奉る事が生活の中に当たり前にあった頃の話だ。

 その頃はなんでもかんでも神を想って行われることは大概が神事とされた。

 それこそ田植えでも商売でも、なんでもだ。

 神社仏閣への参拝・奉納は当然として、道祖神や地蔵様に手を合わせ感謝をしたり、子が七歳まで生き元気に育てば神への感謝をしたりと。

 この辺りは今でも当間の神事として残り執り行われているが、昔はもう少しちがうものも神事ととして執り行われていた。

 

 そんな少しちがう神事の一つに人が神を想い造っていた酒がある。

 神に近い清純な者、もしくはそれに近しい立場の者、例えば神に仕える純潔な巫女。

 その巫女が自らの口で原料を噛み吐き溜めた物を口噛みの酒として神に奉納していた。

 人の唾液で原料のデンプンを糖へと変える。

 それをある程度吐き溜め、その辺りに漂っている自然界の酵母に任せて醸させた。

 なんともおおざっぱな造りのお酒だ。

 

 

「という酒を人間は造ってた事があるのさ」

「口噛み酒ってやつかい、姐さん」 

{そんなお酒があるのね。味は?おいしいの?}

 

「あたしは飲んだことがない、だからわからん」

「酒と名のつくものなら何でも飲んでいるような勇儀が味を知らないなんて、本当にあるのか疑わしいわね」

 

 前述通りにパルスィとゆっくり二人飲み、というわけにはいかず。

 予想通り勇儀姐さんが何処からか騒がしくやってきて、今は姦しく三人+一人で卓を囲んでいる。

 三人+一人なんて変な言い方をした理由はあたしの隣にいる、はずの少女。

 最初からいたのか、途中から参加したのかわからないがいつの間にか隣に座り、いつの間にか飲み食い始めていた目を瞑った覚り妖怪。

 楽しんでいるのか、酔っているのかすらわからないこの娘。

 毎度の事ながらよくわからない。

 姉の方はまだ口車にノッてくるし会話も楽しめるが、こっちの妹、古明地こいしは本当によくわからない。

 姉が言うには、他者の心を読みそこから嫌われるのが怖いから自ら心を読む第三の目を閉じた、なんて話で、その結果本人の意識とは関係ない無意識での行動をするようになったそうだ。

 見た限り本人に明確な意識があるのかも分からないが、なにかしらはあるのだろう。動く無意識といった存在であるため、誰かに認識される事もなくフラフラ流れて、どこかしらで何かしらしているそうだ。

 そうだ。ようだ。と曖昧な言い方ばかりだが、あたしにだってよくわらないんだ。

 聞いて体験した以上の事は言えない。

 少しだけわかるとすれば、隣に座ってくれて一緒に卓を囲んでもいい、それくらいの仲だと思ってもらえているのかもしれないって事くらいか。  

 

「あたしは嘘は言わないよ、酒はあった。でも飲めなかった」

{飲めなかったの?}

 

「ああそうさ、食い意地の張った同胞がそれを飲んで目の前で溶けて散ったんだ。そういうもんだと思って飲めなかったのさ」

 

 飲めなかった酒の代わりに目の前の盃を煽る鬼。そりゃあそうだ、神に使える者が神を想って自ら造った酒なんだ、穢れを払うありがたい物になっていてもおかしくはない。それでも話で味の検討はついたな、ひとつ知らない酒の味を教えてあげるとしましょうか。

 

「神事で祀られたお神酒を飲んで死ぬとはそりゃまた豪胆な鬼さんだ、飲んだ酒もさぞかし美味かったんだろうよ」

{天にも昇るおいしいお酒って事?}

 

「先にオチを言ったのは誰かしら? 姐さん?」

「あたしじゃないさ」

「つまらないオチね」

 

 二人じゃないなら妹か。

 無意識からのボケ殺しされては言い返す言葉もない‥‥どうして仕返ししてやろう。

 この妹にイタズラするのがとても難しくて面白い。

 あたしが気が付けない相手をどうやってはめてやろうか?

 そうだね、少し思いついた。

 先に頼んだ肴もなくなったし追加で頼んで仕掛けよう。

 うまくはまればめっけ物、外した時は笑ってネタバラシだ。

 

「あ、お兄さん、追加の注文いい? 焼き物四本ずつ適当に、それと出汁巻きと焼き味噌お願いね」

「おい、あたしの酒も出してくれていいよ。まだ置き酒があるだろう?」

「四本ってまだあの妹はいるの? 気がつけるなんて妬ましいわね」

 

 いるかどうかは正確にはわからないが、隣の肴が減っていくんだ、きっとまだいるだろう。

 ならいる体で頼んでおけば割り当てに困ることもない。

 頼んだ肴が届くまで三人+一人での愉快な話。

 パルスィからは、勇儀は少しくらいは後先考えて飲め! という、鬼にはどう考えても無理な要求を言われていたが、姐さんは気にせず笑っていた。無茶な要求を言われても笑い飛ばして済ませる辺り、姐さんがパルスィを気に入っているのがわかる。

 毎日毎日他人の良いところ見つけては妬んでいる妖怪だ、人の良いところをズバズバと、おくびもなく言い放つ様は見ていて清々しい。あたしはこの辺が気に入っているのだが、姐さんはどう思っているんだろうね?

 そんなパルスィは今も横で、ヤマメは何処で油売ってるの? だの、知らないところで楽しんでるなんて妬ましいだの言っているし。

 もしかしてもう酔っているのだろうか。

 

 パルスィを笑いながらあたしも少し場の波に乗る。

 普通にしたら整った顔立ちで可愛らしいのに、さとりはジト目ばかりで勿体ないね。

 と、姉の話題を振ってみる。

 すると、お姉ちゃんにも結構可愛いところあるよ?

 お空が火加減間違えて間欠泉地下センターが吹っ飛びかけてオロオロしてたのは可笑しかったわだの。

 お燐とお空が風呂に入った後の毛や羽毛の掃除を一人で楽しそうな顔してやっているだの。

 色々と身内の可愛いアピールが出てきた。

 無意識でこれだけ色々出てくるんだ、よほど姉が好きなのだろう。

 話の内容は、可愛さよりもからかうネタにしかならないようなものばかりだけど。 

 そんな取り留めもない話を膨らませては笑っていると頼んだ肴も大方揃う。

 

「そうだ姐さん、盃貸してよ。賭けの報酬もらわなくっちゃ」

「おう、使え。そして楽しんだら二回戦だ、その白徳利寄越せ」

{あれ、焼き鳥が逃げてくよ?}

「またやるの?血の気が多くて結構な事ね」

 

 以前の弾幕ごっこ(物理)で勝った報酬、鬼の四天王の持つお宝。

 星熊盃を借り受け、借りた盃に自分の酒を注ぐ。

 一升入る盃に並々注がれ揺らめく水面をひと睨み。

 それをそのままするっと飲み干す。

 盃をぐいっと空けてしばし無言、余韻を味わう。

 尻尾が無意識に揺れる。

 

「うん‥‥うまい。酒器が変われば味も変わるって聞くけどこの盃はさすが別格、ゆっくり味わえないのが残念だわ」

「そうだろうそうだろう、自慢の品さ」

{おかしい、全然掴めないわ}

「本当に美味しいのね、いい顔するわ妬ましい。そういえば、さっきから勝手に焼き鳥が動きまわっているけど何かの催し?」

 

 飲み慣れた自分の酒でもまるで格が変わったようにウマイ。

 この星熊盃の効果だろう、注がれた酒のランクを上げるという酒好きにはたまらない名品だ。

 もう何度か話した姐さんとの弾幕ごっこ(物理)で勝った報酬で、酒宴の時には貸してくれという条件をつけてこうしてたまに借りている物だ。

 あたしの大事な白徳利を狙われたんだ、借りるくらいはいいだろう。

 勝ったら寄越せでもよかっただろうが、取り返しに来た! と喧嘩売られるのが目に見えるので、この借りるという案は中々良い案だったと自負している。

 さて、酒も楽しんだしそろそろいいかと能力を解く。

 オチを言われた仕返しに焼き鳥にちょっとしたイタズラをしたのだ、串に向かって伸ばされる手から逸れるようにと。

 気が付けない妹に直接能力行使は難しいが、こっちなら楽なもんだ。

 

{やっと捕まえた!}「あたしもこいしを捕まえた」

 

 念願の焼き鳥を掴んで立ち上がり、喜ぶこいしの腹をぐるっと尻尾で一巻き。

 こんな風にはしゃいで存在アピールでもしてくれなきゃ、こうして見つけて捕まえるなんて事出来やしない。

 

「いきのいい焼き鳥だったわね、こいし」

「お、妹。モフモフで羨ましいな」

「あはは、捕まった」 

「あら、まだいたのね」

 

 楽しそうに焼き鳥を頬張るのはいいんだが、串を触った手でそのまま尻尾を撫でるのはやめてくれないか妹さん。

 濡れるのはまあいいがべたつくのはちょっと嫌だわ。

 始まってからしばらく過ぎたが、やっと三人+一人から四人の宴会へとかわった。

 

 何度かこうしてとっ捕まえて分かったことだが、『こいしが捕まっている』と認識できれば姐さんもパルスィもこいしに気が付き会話もできる。

 尻尾に包まれた誰かがそこにいると分かる事が大事なようだ。

 後はこのまま四人で騒いで、ほどほどに場が盛り上がった頃にはヤマメとキスメも来るだろう。

 いつも途中でいなくなりお代も払わず消えていく。

 タチの悪い妹妖怪を酔い潰す勢いで飲ませながら地底の酒宴は続いていく。


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