東方狸囃子   作:ほりごたつ

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EX その41 遊びに来た先

 目に悪い館内を案内されて進み、辿り着いた大空間。

 何度となく足を運んでいるからメイドの案内などいらない、そう考える部分もあるにはあるが、そうして一人で歩き回るといつのまにやら迷子になるのがこの屋敷、紅魔館。

 外からの見た目だけならそれなりのお屋敷ってだけで、一刻も歩き回れば一階部分は全部踏破出来そうな広さに見えるのだけれど、先を歩いて案内してくれたメイドさんの力のせいで、中はなにやらだだっ広いってのがここだ。

 少し訪れなかっただけであのホブゴブリンが寝食を過ごす部屋が出来ていたり、自称ハイセンスな屋敷の主が可愛いとべた褒めするペットを放し飼いにする部屋があったりと、見慣れない部屋や通路があるように感じられて、下手に一人で入らなくて良かったと地下に来て思っていた。

 

 知らないうちにといえば、今いる大図書館にも出来ていたか。

 初めて訪れた夜にはなかった物。

 正しくは物というか場所というか、本が犇めく空間にあったら湿気ってしまいそうな水量を湛えるモノが、今目の前で小さな波を立てている。

 海のない幻想郷、そして本来ないはずのプールで騒ぐのはここの末妹と、それに付き合う図書館の司書に、縦縞の水着っぽい何かを着ている魔女殿、残りは仕事を忘れて遊びまわる数人の妖精メイド達ってところか。別枠で見れば、プール近くにある本棚に黒いパパラッチもいて撮影しているみたいだが、こちらは撮らず一心不乱にフランを撮影していて忙しいらしい。

 あたしや文に比べれば若々しくて瑞々しい少女達、それを撮るのは楽しいようで、偶に風を起こして少女達の濡れ髪を流したり、飛沫を上げて演出しているが、また器用な風を吹かすものだな。水面を揺らしながら、遊ぶ連中の髪や水着を靡かせる風。

 稀にこちらにも吹いてきて、お前も早くと煽られるているけれど、これはこの場に吹き回された気まぐれな風としておいて、ついでにあの黒いのも、者ではなく、ちょっとした演出装置で、物だとでも思っておこう。

 

 あっちはそれでいいとして、眺める先の相手を思う。

 視界に映すは一番はしゃいでいる相手。赤いワンピース型の水着が似合う妹だが、その背中の羽の色を水面に写しつつ、キャッキャウフフと水面を乱しては相手してくれる司書殿をプールに沈めて笑っていて、随分と楽しそうだ。あんな風にはしゃぐ姿を見ていると噂など本当に噂なのだなと思える、気が触れていて幽閉される妹、身内も手を焼くほどで495年間もの長い時間閉じ込められている、それ故悪魔の妹なんて呼ばれているのだったか。

 それ自体は間違っちゃいない、彼女は実際吸血鬼で悪魔だ。

 そこは噂も事実も同義だとしても他の部分、気が触れているって部分は今の姿からは感じられない。時偶に加減を間違えて司書殿の腕を引いて腕を脱臼させてみたり、水着に手をかけて引っ張り、背で縛っている紐を解いてしまったりしているが、その辺は子供らしい無邪気さというか、悪戯心だとでも思えばなんて事はない。

 

「混ざらないのか? 遊びに来たんだろう?」

 

 置かれているデッキチェアに横になり、もうちょっと頑張れば溢れて眼福となるだろう司書殿の胸元と、それを執拗に狙う愛らしいお友達を眺めていると、同じくプールサイドにいる輩から問われる。隣に並ぶ椅子、あたしの座るものよりは少しだけ贅沢な作りに見える物、水を弾く素材で出来た寝椅子、形からすればシェーズロングとか言う西洋家具だったか、それに寝転びこちらを見る屋敷の主が聞いてきた。

 

「水場は苦手なのよ、水着は着るより眺める物だと思ってるの。というか、あんた達って流水ダメなんじゃなかったの?」

 

 隣りにいるやつ。

 妹と形は揃いで色違いの、白い水着姿でいる姉に、今の状況は問題ないのか聞いてみる。つい先程までは門番が膨らませた浮き輪に尻を収めて、プールに浮かんでいた吸血鬼。少し前に妹に下から持ち上げられて、盛大にひっくり返されたもんだからこちらに逃げてきたレミリア。そんな奴さんの身体を見つつ、司書殿とは違ってこちらはまだまだガキンチョだなといった顔で聞く。

 

「フンッ 品定めしながら何を言うかと思えば。流水は渡れないだけだ、ダメってわけじゃない」

「ふぅん、結構有名な弱点だと聞くけれど、実際は弱点らしくないのね」

 

「まぁな。そもそも私達から苦手だと言い出したわけでもない話だ、尾ヒレ背ヒレが付いてしまって色々と苦手だと言われるが、案外大丈夫なモノは多いんだよ」

 

 それもそうか、色んな連中から日光がダメだ十字架がダメだと言われているけれど、陽の光は日傘や日焼け止めで対策出来るらしいし、十字架なんてのも効かないどころか自身で真似てスペルカードにするくらいだったな。

 なんと言ったか、なんたらレッド?

 それともなんたらナイトメア?

 そんなハイセンスで、他の者には思いつきそうもない素敵なネーミングのあのスペル。ここに良く仕入れに来る黒白から聞くには、手を広げてはっちゃけたらあんな形になった、って話未来だけど、それがただの勢いからではなくて、なにか皮肉めいた部分もあって手を伸ばしている気がしなくもない。

 

「何か考えているみたいだな、足りないか?」

「雑多な事を考えていただけよ? でも、そうね、目は忙しいけど耳は暇だし、追加があるならついでに聞いてあげるわ」

 

「なら私も口の暇を潰すとしようか。プールも風呂も溜まっているだけで流れているわけじゃない、だから問題ないのよ」

「その理屈もわかるけど、中で動けば水流が出来るんじゃないの?」

 

 本人が問題ないというのだからそれ以上はない。

 そう納得してはいるが、一度話し始めるとあれやこれやと口をついて出る、大して興味もないような事だというのに聞いてみたくなるのはなぜだろうか?

 わからんな、理由などもどうでもいいか、悪魔本人が大丈夫だと話してくれているのだ。そういった悪魔の証明を立証するような考えに興じるなど、酷く面倒くさい。

 

「水流は水流、流水は流水で別物って事よ。詳しく述べるなら‥‥いや、わかるでしょ? これで」

「まぁ、そうね。本人がそういうならそれでいいわ」

 

 対して興味がなさそうに聞いているだけのあたしに説明するのが面倒なのか、後は勝手に結論づけて、だから大丈夫なのだと思ってくれていい。言いっぷりからはこう読み取れたので、本人から言われた通りにそうしておく。

 実際興味もないし、水遊びに戯れる姿も進行系で見ている為、本当にどうでも良かった。

 

「そう、それでいいのさ……しかしだ、そんなつまらない事を聞くくらいなら別に言う事があると思うが、そっちには触れないのか?」

「ひっくり返されてご立腹かと思って、突かなかったのよ」

 

「あれくらい、ただの遊びで腹を立てるほど小さくないわ」

「見た目はホントにただの子供なのにね。あっちも、引きこもりがちだっていうのがわからない活発さだわ」

 

 あたしが納得すると、一言多いとぼやきながら見る先を変えたお嬢様。

 かけていた丸いフレームのサングラスを頭に乗せて、プールの成分にでもやられたような赤い瞳で妹を眺め始めた。その視線に促されこちらも姉から妹に視線を泳がせる、水場だから泳ぐに掛けたというわけではない。フランがもう少し頑張れば今度こそビキニが剥がれるだろう司書殿と、それを握って楽しそうな妹の二人の間で、どちらを中央に捉えるか悩んでいるだけだ。

 そうやって眺めていると、司書殿からは救助の手が振られ、妹からはこっちにおいでという手が振られた。

 

「呼ばれているぞ、行かないのか? あっちで遊んでもいいし、妹と遊んでもいい。偶に来たなら少しは付き合ってくれてもいいんじゃないか?」

「言ったでしょ、水場は苦手なの。それに水着がないわ」

 

「ダメではなく苦手なだけなんだろう? なら少しは年長者らしく我慢してみたらどうだ? それに、水着も問題ないわ」

 

 パンパンと叩かれる吸血鬼のお手々。

 片手の平を四本指で叩いて誰かさんを呼んでくれる、その仕草から現れるのは当然のようにここの従者‥‥かと思ったら、呼ばれたのはその髪や生やす翼に似た色合いの水着を着ている誰かさん。キラリと光るレンズを覗かせ、プールの中の者達を写していたが、呼ばれて飛び出て即参上してきた。

 

「あやや? レミリアさん、呼びました?」

「呼んだ。確か、持ち込みの物が余っているって言ってたわね。こいつに貸してあげて」

 

 飛んできた烏に向かって持ち込みを出せと命じる主様。

 ちらりとこちらを横目で見てからそれに答える水着記者、自前で持込みって事はそれを誰かに着せての撮影って考えがあったのだろうが‥‥余っていると聞く限りあの門番かメイド長、もしくは良く来る黒白かそれを窘める役の人形遣いの分ってところか。

 前者三人の分だったとしたらあたしには着られないな、よくも悪くもサイズが違っていて、スッカスカになるか締め付けられるかしてしまってダメだろう。というかそもそも着替えて混ざる気は‥‥悩んでいるとレンズ越しにじっくりと見られる、なんだ、その数値を測るような視線は。

 

「そうですね、アリスさんに着せるはずだったものなら‥‥貸してもいいんですが、素直に着替えるとは思えませんよ?」

「さすがに文ちゃんね、言ってくれた通り、着るつもりはないわ」

 

 ちらりと本棚の上、先程まで陣取っていた辺りを見てからあたしの身体を見る天狗。

 先の視線も強ち間違ってはないかったようで、あたし自身が考えていたようにこちらの記者も人の身体を良く見るものだ。そういった事に対する審美眼は素晴らしく、清く正しい使い方をすれば素敵な物だと思えるけれど、使い道が邪に過ぎるって辺りがパパラッチな文らしさってやつか。

 文と見合いつつ当然着ないと二人で語る、それでも諦めないのか、文に対して何やら追加を語るお嬢様。何を言ってくれるのか、そこからどうやってあたしを懐柔させるのか、これもこれで面白いし、口を挟まず見ていよう。

 

「大丈夫よ、そこも問題ないわ」

「はて、大丈夫と言いますと‥‥どういった理由からでしょうね、面白い話になるなら是非とも記事のネタにしたいところですが」

 

「ネタになるかはわからないけど、そういった運命にあると私の能力が教えてくれているわ」

「レミリアさんの能力ですかぁ……それって眼に見えないからネタ作りの証拠にはならないんですよね」

 

「それでもネタになるのよ、アヤメが水着になりさえすればね」

 

 ここまで話してふと止まる、後はないかと見ていれば、もうないってな感じでこちらを見て、小さなその手を広げてみせた。

 ふむ、ちょっと期待して聞くだけでいたが、言いたい事を全部言わせてみればなんて事はない、自分が操るという運命がどうこうって力になぞらえて、あたしの運命をそう動かした‥‥って事を言いたいらしい。ともすれば、いずれは着替える運命ってのが訪れる事になるのだろう、ならここは話に乗っかり先に着替えて手早く済ませておく、という誘いに乗ってあげてもいいが、まだ遊びに乗るにはちょいと弱い。

 もう少し、後ひとつふたつくらいでいいから乗ってやろうと思わせるモノを言ってきてほしい。あたしはお嬢ちゃんやら愛称やらで呼ぶ事はやめたのだ、だというのなら不遜で高慢なここの主様らしく、あたしにも我儘を通してみせてはどうだろうか?

 ネタというか笑いの種にでもしたいのだろう?

 ならばそうしてみせろ、と、伝えるように、こちらも同じく平手を見せる。

 お手上げだ、そんな意味合いで伝わってしまう前に、そのまま指先だけを僅かに折って、もうちょっと何か寄越せと示してみるが、返ってきた言葉はここの主からではなく、煩いおねえちゃんからのお言葉。

 

「レミリアさんからのお話は兎も角、私に対してのツケもそろそろ払って頂きたいですね」

「また藪から棒な物言いね、ツケは払えないからツケなのよ? それを回収だなんて、記者はやめて、悪徳取り立て業にでも鞍替えした?」

 

「あやややや、払えないと開き直る方が悪質だと思いますよ? それに、そのような事を仰る割には回りがいいと聞いてますね」

 

 鳥っぽい取り立て業者に言い返し、そのお返事頂いていると、別の羽根付きがここが乗っかり時だというかのように身体を起こした。なるほど、お前さんはそっちの烏にノるか。

 ならば良し、二人同時に相手してやろう。

 そんな気概を口に込め、軽い文言を吐く‥‥前に、蝙蝠に先手を打たれてしまった。偶々時を同じくしている付け焼き刃のくせに良い連携を見せてくれるが、口煩いの天狗と目に煩い屋敷の主だから組みやすいってか?

 二人してはばたいてくれて、靭やかな羽根を伸ばす姿が優雅で妬ましい。

 

「この間の宴会か、確かにあの時は大盤振る舞いだったな」

 

「神社に奉納する分はあったんですねぇ」

「何処からくすねてきた金だったのか知らんが、アヤメの割にはあれこれ買って持ち込んでいたな、あんな姿を見せておきながら払えないなど、どの口が言うのか」

 

 先日の思い付き、嫌がるろくろ首を無理くりに連れ出して参った神社での事を言うか。

 あの時は確かに手持ちがあったし、神社に行く前に荷物持ちに結構な量の酒やら食い物やらを持たせて参加していた。そうしてそれを文に見られてもいるし、いつの間にか参加していたここの姉妹にも見られているはずだ。

 最初はお賽銭として奉納するつもりだったけれど、神事にあぶく銭を使うのはどうかと思い直し、ついでに言えば消え物にしてさっさと流通させてしまった方が、あの時にしてやられたと本屋の娘にバレ、文句を言われても問題ないだろうって考えから動いた事だったが‥‥

 

「裏目に出たわね、慣れない事をするもんじゃないわ」

「そうですね、不慣れな事をするから今のように突かれるのですよ?」

「だそうだが、どうする? アヤメ?」

 

「どうするもこうするも、文が代わりに言ってくれたじゃない、慣れない事はするもんじゃないの。だから着替えも泳ぎもしないわ」

 

 文がいいところを突いてくれたお陰で楽に返せた軽い口、自身の種族らしく突いてくれたものだから、あたしの藪から蛇を出すことが出来て随分と捗った。言い返すと何やら考え始める天狗記者、それを見ている吸血鬼。勝ち馬になるはずだった烏に乗っかりあたしを追い込んできたが、鞭を入れるのは少し早かったんじゃないか?

 再度手の平をニギニギして運命でもこねくり回している風体だけれど、そうやって見えない糸を操ったり捩ったりするのは今はやめて出来れば夜まで待ってくれ、その方があたしの意図が楽しい物になるはずだ。

 

「ではそこは諦めて‥‥支払いはどうします? 断るならモデル料以外の宛もあるんでしょう?」

「ないわね、今は」

「今はというのはなんだ? 今視えたモノがそれか?」

 

「ん? レミリアさんには何が見えたのでしょう? 内容次第ではそれを代金にしてもいいんですけど、是非とも聞かせてもらいたいですねぇ」

「これは今夜の流れ、か? ここにいる皆で空を見上げているが‥‥」

「それ以上は見えてないのね、そうよね、あたしの運命を見たというならそこから先はまだ読み切れていないもの」

 

 問いかける文に途中まで言いかけるレミリア、そいつらに向かってほんの少しだけネタバラシ。というか先にバラされてしまったので、持ち込んできた荷物を解いてその中身を見せ、一つ摘んで口へ運んだ。

 

「お団子、と、供物台ですか? 今夜お月見でも?」

「中秋の名月というやつか? あれは数日先ではなかったか?」

「お月様を愛でる練習ついでにフランちゃんの頑張る姿でも愛でようかと思って、話に乗ってくれるか、そして都合良くそんな夜になるかどうかはわからないけどね。まだ話していないし」

 

 何をさせるつもりか、そんな表情でいる二人を見つめ、ニヘラ笑いに興じていると、名を呼ばれたのが聞こえたのか、水を滴らせる良い女、って言うには少しばかり慎ましやかな体つきのお友達が飛んでくる。

 片手には司書殿が来ていた水着を持って、もう片手には縦縞の、話している内にいつの間にか巻き添えをくっていた魔女殿のパレオを持ったお友達。戦利品を両手に、呼ばなかったかと、寝転ぶあたしに視線の高さを合わせて聞いてきてくれた。

 可愛い顔が近ければ、大きなお目々も近くで輝かせてくれて、なんとも愛くるしいな、これは。

 

「呼んだわ、今夜暇してる?」

「暇だけど、何かするの?」

 

「デートのお誘いよ、場所は外‥‥といっても屋敷の庭だけどね」

「お庭でデート?」

 

「そ。で、どう? あたしからのお誘いは受けてもらえる?」

「暇だしいいけど、私からのお願いも聞いてくれる?」

 

 応えられるなら。

 そう返すと、一緒に遊ぼうと右手を取られた。

 これはまたどうしたものか、あたしのお誘いの為に聞いてあげたいところだけれど、本当に水だけは苦手で困りどころである‥‥が、ココは一つ願いを聞いてみるか。年長者らしく我慢をしてみろと諭された手前も、ついでにツケを返しておくいい機会でもあるわけだし。

 よくよく考えればあたしも水場は苦手だけれど、雨でずぶ濡れになったりするのには慣れているのだ。この吸血鬼姉妹も水がダメだと言われておきながら実際は風呂も入るし、プールで遊ぶ事もある。ならばあたしの水が苦手というのも食わず嫌いというか、思い込みというやつなのでは、と思わなくもない。

 これは弱点を克服だか払拭だかするチャンスでもあるか、それなら‥‥

 

「文、水着ってどれ?」

「遊んでくれるの? やったぁ」

「あやや、さっきまで渋っていたのに、どういった心境の変化ですかねぇ」

「そうだな、聞いておきたいところだ。フランからのお願いは聞いて、私達からの話では乗らなかった理由というのがあるんだろう?」

 

 着替えて遊ぶ、そうは言わずにあたしに渡すはずだった水着はどれかと問うてみる。そうすると、両手を上げて戦利品を放り上げた。そのを瞬間を狙っていたように魔女殿が魔法でも使ったのか、パレオを自分の方に誘導する。横目でその流れを確認して、ついでに流れた司書殿のトップスも確認し、手元に届く瞬間にそれを逸らす。

 手に収まる寸前で取れなかった水着、そうして掴もうとした片手は隠していた胸元から離れ、狙い通りの眼福物が‥‥見られる前に可愛いおへそで視界が埋まる、どうやら妹はワンピースではなくタンキニってやつだったようで、万歳したからおへそが見えたらしい。

 狙った物は見られなかったが、まぁ、いいか。これも可愛いお腹だと思えるし、乗らなかった理由に宛てがうにはこういった可愛いモノだと言うに限る‥‥姉組の二人は可愛いところなんて、水着姿以外は見せてくれなかったしな。

 

「可愛らしい姿でお願いされたからってだけよ、それだけ。着替えてくるから少し待ってて、それとも着替えから手伝って、遊んでくれたりする?」

 

 二人にはらしく返し、何かを言い返される前に動く。そのついでにフランに問いかけてみた。いつかのあたしも脱がされたし、そうやって誰かを脱がすのが好きなのならノッてくるかと思ったが、ここではノラずに先にプールに飛び戻っていった。

 なるほど、悪戯心より遊び心が優先だって事か。さっきのお戯れも、あたしが狙っていたモノとは別で、必死に胸を庇って逃げる司書殿や、それを眺めるだけで落ち着いていた魔女殿が面白くて、ソレに対して向けた遊び心ってやつなんだろう。

 

 そんな事を考えながら文のいた辺りに飛び上り、持ち込みっぽい匂いがする鞄を開けて、それっぽい水着を探してみた。出てきたのは、順に、白地に黒ドットのフリル付きワンピース、持ち主の記者らしい黒白ツートンのビキニ上下、後は部下のあの娘っぽい白メインで、所々に赤いラインの入ったモノトーンのワンピースぽいやつと、最後は紺色一色のやつ。後半の2つの内前者は言った通りだが、後者は下っ腹の辺りだけが開く作りで、後は飾りっ気のない二本の裁縫跡が目立つくらいで地味な物。

 この中であたしが着るならどれだろうか?

 フリル付きと地味な奴はさすがに着られないなと、残り2つを見比べていると、背中から声を掛けられた。

 

「どっちにするの?」

「どっちがいいかしら、ね?」

 

「ビキニのがそれっぽいと思うけど?」

「じゃあそっちじゃない方にするわ」

 

 言われると着たくなくなる、というわけでもなく、今回は素直に好みな方を選んでみた。

 前から見ればワンピース、背中側から見ればビキニのように上下分割して見えるコレ。色合いこそ生真面目白狼のそれに似ているが、前後で見た目にギャップが有るというのもまたいいだろう、屋敷に入る前には門番相手にそんな話をしたわけだし‥‥素直なビキニやワンピースでないって所もなんとなく好ましいし、これなら引剥される事もないしな。

 

 色々と考えつつゴソゴソと着替え終えた後、尻に食い込む水着を直していると、小さくカシャッと音が聞こえた気がしたが、そこは聞こえなかった事にして、カメラマンの方を一瞬だけ見て、目が合ったのを確認してから着替えの終わりとした。

 別に裸でもなし、撮られたところでなんちゃない。ついでにこれもツケの返済だと思えるし、これくらいの露出度であれば普段のスカートから見える足やへそとも、着物の脇からチラ見えする下乳とも大差ない。ならここは少しサービスしておくかと、わざとらしく屈伸をしてちょいと食い込ませてから、尻の布地を弾いて音を立ててみた。

 パンと小さく鳴ると、またカシャッと音が鳴る。

 

 見るなら中身だと自分では思うが、何やらこういった部分を好む者も一定数いると聞くし、そういった相手に売るならそれなりの金額で売れる‥‥といいな、その被写体が逸れているだろう写真。逸らした結果が何を写したのかは知らんが、あたしに向けてシャッターを切った事には変わりない、つまりはあたしは撮られて文は撮ったと認識しているって事だ。後々で現像した時に文句を言われそうだが、実際に撮影しているのだから、その時はそれを理由に煙に巻こう。

 なに、相手もあたしに慣れているし、これがダメでも多分何かしらで儲けを得るだそうさ。

 この記者もそう出来るくらいの年長者ではあるのだから。


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