東方狸囃子   作:ほりごたつ

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EX その28 和合の衆

 ちょっと嵩張(かさば)る風呂敷包みの土産を携え、ちんたら進むは枯れ葉道、季節は春になったけれど、ここ迷いの竹林の地面は秋冬に蓄えた枯れ葉に覆われていて、足元を見るだけではまだ春らしくないなとも思えるけれど、他の部分ではしっかりと暖かな季節を感じ取れていた。

 足元では乾いた音を鳴らしているが、その少し上、膝や腿にはスカートのスリットから風が入り込み、少し冷たい春宵の頃を肌に覚えさせてくれる。もう少し上がった辺りの開襟シャツの開いた胸元や、肌着の脇が空いた黒インナーからも宵風は感じられるが、上半身はまた別のモノを感じている為こちらは特に例えない。

 その身体の上の方で感じるのは右肩にかかる少しの重み、原因はお姫様、赤い着物から緑の和服へと着替えた姫がいるせいで、あたしも肩辺りがほんのりと温かい‥‥のは好ましいが、その姫の髪から僅かに香るお酒の匂いと、見慣れず似合って見えない緑の着物が鼻について変に可笑しい。

 

「荷物が多くてよかったわね、濡れても着替えがあったんだもの」

 

 濡れ窄み少し小さく、色濃くなった紫髪を口の端だけで笑いつつ話す。

 すると、一瞬だけ苛立ちを瞳に込めて見返されるが表情通りの言葉は飛んでこない、代わりに飛んできたのはやらかしたという蹉跌(さてつ)の声。

 

「う~ん‥‥ちょっと詰め込み過ぎたわ、失敗失敗」

 

 酒臭い頭であたしの持つ荷物と顔を見比べている針妙丸。

 粗相、というか自爆か、ソレをやらかしてからは凹んだり開き直ってみたりしていて、何やら落ち着かない素振り、今も手拭いで雑に水分を取った髪を撫でつつ失敗だと述べている。

 

「とりあえずその頭と服をどうにかしないとね、酒臭いのが肩にいたんじゃ飲まずに過ごした意味が無いわ」

 

 あたしの肩を腰掛け代わりにしている針の姫、そいつに向かって悪態を吐くと素直にごめんなさいと頭を掻いた。大概は大きめのお椀に乗って、それより小さめのお碗を被った姿でいるが、今は乗りも被りもせずに人に乗っている針妙丸、なんでまた彼女がこうなっているのか?

 腹ごなしを済ませ屋台を出ようとした時だ、手伝いのお駄賃として食わせてもらった物なのに気に入ったから代金払うわと、大きな荷物のどこかにしまい込んだガマ口財布を探す最中、お碗をひっくり返し一升瓶を倒したせいで、今の酒臭い一寸法師の出来上がりとなっていた。

 

「洗い張りしないとダメかなぁ?」

 

 人の髪を手すり代わりにしている姫が、枯れ葉積もる地面を眺める。

 洗い張りか、これが全身ずぶ濡れとなっていたのならば必要だろうが、幸い頭から被った程度で済んでいるのだ、ならば乾かすだけでいい気もしなくもない。

 

「浴びたのは頭だけで、服には少し飛んだだけでしょ? アルコールだし乾かすか、最悪染み抜きだけでいいんじゃない?」

「それで済めばいいんだけど‥‥気に入ってるのになぁ」

 

 先ほどとは打って変わって、頭は竹林の空を見上げ氣は落とす姫様、安物の染み抜きくらいなら出来なくもないけれど、針妙丸の着物はあたしにさとりが譲ってくれたアレと同じで正絹(しょうけん)着物ってやつだ。手入れが大変だが他の繊維に比べて光沢があり、通気性や保温性も悪くないし、厚い生地でも柔らかめでしなやかさがあり着心地が良い、所謂高級品ってやつだな。

 素人が下手にやると縮んだりしてしまうくらい面倒な生地ではあるけれど、あたしは汚れには縁遠いから問題ないが‥‥姫は気を使っていたのだろう、乗り物としてくれている姫が肩の上であばたのような凹み顔だ。少し前からこんな風であまりに浮き沈みが激しいものだからちょっとだけ可哀想に思い、取り敢えず自宅に寄って干すくらいさせてあげようと思っていたりする。

 

「どの辺? もうちょっとで着くの?」

「もう少しよ、そろそろ見えるわ」

 

 先を見やる肩乗り姫様にもう少しだと説明を入れると、話している間に見えてきた誰かの住まい。ぱっと見は結構なボロ屋だけれどもそれなりに手入れはしており、隙間風が吹くような穴や雨漏りがするような孔はない平屋。外には薪割り用の台座があるだけで斧はない、煙管か手刀で割れるので斧は必要なかったりする、最近はこれにドラムスティックという代わりの斧もあるにはある一軒家、まぁなんだ、あたしの家だ。

 ドラムスティックで思い出したが、いるかいないかわからない雷鼓への言伝は今はついでとなっている、現在はとりあえず重そうな荷物を一時預かりしておくかと、我が家に向かって歩いているところだ。 

 

「あれかぁ、なんか思ってたのと違うわ」

「参考ばかりに聞くけれど、どんな家だと思ってたのよ?」

 

「家っていうか‥‥洞穴?」

「悪くない発想ね、そんなところに住んでいた事もあったけど、今はあそこがあたしの巣よ」

 

 そうなの? と問いかけてくる姫にそうなのと雑に返し、内心では別の事を思う‥‥いつかの魔法の森で見た、古く暖かであまり思い出したくない夢を思う。あの時の夢も暖かな光を感じる場面から見られた、その光を求めるように穴蔵から這い出すと待っていたのは小さな子供、笑顔のままで抱きついてきて幼子の温もりを届けてくれた童子の顔。今になって考えればあれも春っぽい温かさだったのかなと思えなくもない、心地良い温かさだったが僅かな時間が過ぎればなくなる温かみ、あれは春って季節には似合いの温もりだったのかもしれないなと、子供の顔を思い出せなくなった今になって感じ取れた。

 

「お、灯りが点いてる」

 

 少し前に見た昔の事を考えていると、今を生きる姫様の声が現実に戻してくれる。

 言う通り我が家には灯りが見え、誰かしらがいるのがわかった。

 

「誰かいるってだけでしょ、いつもの事よ」

「誰かって‥‥あぁ、あの付喪神か」

 

「かもしれないし、別の誰かなのかもしれないわね」

 

 いるとすればあたしの太鼓かその回りにいる楽器連中、もしくはちょっと前に連れてきたお面の付喪神も可能性としてはあるか、あのスキマと兎詐欺はいるというか、最早いて当たり前に近いから頭数には含まない‥‥後は鴉の二人かどちらか一人、妹妖怪も来るがあれはいてもわからんし、これも数の内に入れられないな。

 置かれている湯のみの数は七つくらいのはずだが顔を出す奴等はソレよりも多いな、暇な天人も来たしその付き人役も来た事があるか、そこにいたりいなかったりする鬼も来て人を殺めてくれたのだったか。天邪鬼も見た気がするし、なんだ、昼間に訪れた店よりも我が家の方が流行っている気がするな‥‥

 

「……アヤメの家なのよね? それとも集会所を間借りしてるの?」

「あたしの家よ、集会所ってのはあながち間違っていない気もするけどね」

 

 ふむ、その言い草は言い得て妙だ、来る者は拒まず去る者は追わず、そんな感じで日々を暮らしているあたし、荒らさないのなら誰が来ても気にしないし、誰かが来たところでもてなしたりはしない。あたしが進んでお茶を淹れたりするのはあのスキマと兎詐欺くらいか、他の連中にも出したりしているが、それは一服している最中だとか飯時だとか、こちらのタイミングに来たからついでに出しているだけだ、狙って出しているわけではない‥‥はず。

 暗くなり始めた竹林の中、小さく灯る我が家を見つめ、今日は誰が来ているのかと足を止めて眺める、が、止まってすぐに揉み上げあたりを軽く引っ張られ、取り敢えず行こうと先をせっつかれた。まぁそうだな、考えても致し方なし、帰ればわかる事か。

 上半身、右肩に感じる春っぽい微細な温もりを楽しみつつ、誰かが灯した迎えの明かりに向かって歩みを進めた。

 

~少女帰宅中~

 

「あ、お帰り」

「お帰り~、お、姫だ~」

「ただいま?‥‥姉妹揃ってなんでいるの?」

「ただいま、誰が来ているのかと思えばあんた達だったのね」

 

「なんでって、打ち合わせとかで偶に来てるのよ?」

「そうそう、今日はちょっとした用事で来たんだけどね~」

「用事を作って来るなんて珍しいわね」

 

 我儘な鬼っ子や我の強い天邪鬼に抜かれたり外されたりして、少し動きの悪い玄関扉を開くと目が合った二人。琵琶もお琴も久しぶりに見る気がするが、特に驚くような相手ではないから気にせずに挨拶済ませ、姫を風呂場に下ろしてから携えていた荷物を開く。

 卓につく二人に並んで座ると、降ろした姫が奥で騒ぐ、どうやらサイズがデカイらしくて自分一人じゃ水を張るのも火を入れるのも大変なようだ。帰宅の一服ついでに煙管に火を入れ煙を流す、長い管のように煙を硬め流しの蛇口と繋いで撚る。姫のサイズなら足首分も貯まれば十分だろう、そのまま少し放置して溜まった頃に妖術で火を入れた。

 

「なにそれ、お土産? ちょっと酒臭いね~、飲んできたの~?」

 

 姫の『もうい~よ~』が聞こえてきたので水を止める、キュッと蛇口を捻ると『ありがと~』も聞こえてきた。少し話したらあたしも入るつもりだし先に少しでも湯があれば後で楽だ、これもついでとして、この感謝は聞くだけで返事はしなかった。

 そうして姫をシカトして屋台で借りた女将の風呂敷、三羽の雀がチュンチュンと飛び回っている姿の描かれたソレを畳んでいるとお琴の妹が寄ってくる。

 

「酔うほどではないけれど、着物と姫の頭が少しね。こっちも大半は姫の荷物よ、そういや雷鼓は? 一緒じゃないの?」

 

 問いかけてきた妹に返答すると『石鹸とかあったら頂戴』なんて聞こえてきた、霧雨の道具屋で買ったものの残りがまだあったなと台所の戸棚を見ると視線の先に動く八橋、そのまま探して持っていってくれた。妹役ってのはやはり気が利いて妬ましいな、なんて眺めていると、先の会話のお返事を姉の方から頂戴出来た。

 

「だから帰宅早々で風呂なのね。雷鼓は里に楽譜取りに行ってるわ、私達は留守番中」

「そ、ならお留守番してくれてた二人にお駄賃あげるわ」

 

 ゴソゴソと姫の荷物とあたしの荷を分けていく、普段は乗っているお碗と蓋の両方を取り出して中から包みを取り出した。中身は八つ目の焼いたやつ、本当は自分のアテ代わりだったのだが留守を守ってくれた相手に差し出すにはちょうどいいだろう。

 対面で見ているだけの姉と隣に座っていた妹の間くらいで包みを開く、さすがに少し冷めてはいるだろうが見た目も味もそれほど劣ってはいないはずだ、焼き待ちの間に姫は濡れて、それから真っ直ぐ帰ってきたわけだし。

 湯気立つほどではない、天狗の丸文字が見られる包紙に触れれば温かいかな、くらいに冷めてしまったヤツメウナギだったけれど琵琶の琴線を引くには十分だったようで、いいの? と目で聞いてくる弁々、当然とわかるようにどうぞと平手で促した。

 その流れを見ていたのか、戻ってくる途中の八橋が流しに寄ってテキトーにあたしと雷鼓のお箸を取り出す、四本握って卓に戻りそのまま姉に差し出すお琴な妹。使い終えたら洗ってくれると知っているから構わないが、この姉妹のどっちがどっちのお箸を使うのか?

 それが気になり、荷解きする振りをしてチラチラと眺めていると、あたしの方を手に取った弁々と一瞬だけ目が合った。

 

「あぁ、アヤメも食べる?」

 

 人のお箸を使う奴から問われ、返事なく口だけ開けるとほれと口に運ばれた、姉役も姉役でそれらしく面倒見がよく妬ましい。差し出された身を舌で味わうと思った通り少し冷めているが、味も風味も問題ないな。土産として喜んでもらえるものか、それを確認するようにモグモグと咀嚼しつつ、分けた荷物の姫の方からお酒の香る着物を取り出した。

 お人形遊びにでも使えそうなサイズの赤い着物、立場からもわかるが触れたおかげで余計に上等な物だというのがわかる、どこまで濡れたのかと嗅いでみると焦って頭をかばった時に濡れたらしい袖だけが酒臭かった。

 

「いつもの姫の着物だね‥‥酒臭いのはそれか~」

 

 そういう事だと知らせるように濡れた袖を摘んで見せると、姉妹揃って鼻を鳴らす。ひくつかせた顔そのままに二人してこちらを見てくれるが、この視線には覚えがあるな、こうやってまたかと見られる時は十中八九あたしのせいだと思われている時だ。普段が普段だからそうとられても仕方がないとは思えるけれど、これもあたしのせいにされるとは、人を何だと思っているのかこの姉妹は。それでも身に覚えがありすぎるし、口内に物も残ったままだから何も言い返したりはしない‥‥が、これをやらかしたのはあたしではなく姫本人だ。

 ソレくらいは教えておこうと思わなくもないが、いいか、やっかみはあたしの糧だ、このままにしておこう。

 

 濡れて色濃い小さな着物、それの特に酒臭い部分、袖の下の袋部分を見つめ、このままにしておくとここだけ染みやら跡にでもなってしまいそうだが、あたしに出来る事もなく、どうしたもんかと首をひねる。

 頭の向きが捻くれると、視界にはウマイ魚を食べながら人の白徳利に手を伸ばす妹が収まった。飲みたいなら飲んでも構わないが手を出す前に一言くらい断れ、躾とまでは言わないがその心が伝わるように、わざとらしく右手を徳利に向けて能力を使う。八橋が手を伸ばすとその度にあちこちに動いていく徳利、数度繰り返した辺りで手から逸れる徳利とあたしを見比べる琴古主。

 

「呑んでもいいけれど、呑む前になにか言う事ないの?」

 

「ケチ~、どうせ減らないんだからちょっとくらいいいじゃな~い!」

「おねだりも出来ない相手にはケチなのがあたしよ。それに、無くなりはしないけど減りはするのよ?」

 

「そうなの? 無限に湧いてくると聞いてるけど」

「雷鼓から聞いていたのとは少し違うのね」 

 

 無邪気で悪戯好きな妹と話していると姉の方も混ざってきた、二人して土産を食べ終え妹は後ろに反ってこちらを見る、姉の方は肩肘立てて頬杖をつく姿。姉妹のわりにはあんまり似てない姿だが、興味を持つ対象やノリの良さは似ているのかね?

 それなら二人同時にからかってみるか、偶に顔を見せてくれたわけだし、姫の風呂上がりを待つまでの暇つぶし代わりには丁度いいだろう。

 

「中に住んでる酒虫が水を酒に変えてくれるのよ、ちょっとずつ無限にね」

「へぇ~酒虫かぁ、この中にいるのか~」

 

「鬼の一種だって話だけど結構可愛いのよ?」

「鬼で可愛い? どれどれ‥‥」

 

 妹が追いかけていた徳利を姉がラクラクと掴み上げる、あれ! なんで!? と妹が騒ぐがそりゃあそうだろう、実際に逸らしていたのはあんたの手の方で徳利自体には能力は使っていないのだから。

 

「ちょっと見にくいけど、このヌメッとしたのがそう?」

「そうよ、山椒魚みたいで愛らしいでしょ?」

 

「うん、ちょっと可愛いかな」

「趣味が合うわね弁々、なら弁々だけは呑んでもいいわ‥‥でも注意しなさいよ、あんた達がそれで酔ったら夜遊びでもしたくなるかもしれないから」

 

 姉さんだけズルいと騒ぐ妹を見つつ、徳利を覗きながら口元へ運んでいた姉にも少しの注意を言ってみるけれど、これはただの冗談だったりする。姉妹と同族である雷鼓は散々呑んでいるけれど、夜出かけたくて我慢できない状態になったなどは聞いたことはない‥‥別の意味では酔いに任せて我慢が効かなくなってくれてもいいのだけれど、話が春色に逸れそうだからこれはここまでとしておこう。

 でだ、雷鼓でそうなのだからそのようになるわけはないとわかってはいるが、折角思いついた暇つぶしだ、もう少しだけ悩んでもらいもう少しだけあたしの戯言に付き合ってもらおう。

 

「どういう意味?」

「さぁ、どんな意味合いでしょうね」

 

「そんな効果があるとは聞いてないけど‥‥本当にそうなるの?」

「さぁね、試してみたら? 成るも八卦成らぬも八卦、なったらなったでどこかに遊びに出たらいいだけよ」

 

 聞いてくる姉妹それぞれにさぁと雑に返事すると、妹は頭を傾けジグザグ模様のシャツを若干真っ直ぐにして考え、姉の方は少し透けて見えるシャツの袖を組み、悩んでいると姿で思考を透かして見せてくれた。

 なんでもないただの冗談だというのに、どちらも結構真面目に考えてくれているようだ、こうやって言葉を聞いてくれて悩む姿を見せてくれるのは本当に楽しい。ニヤニヤと二人を眺め煙管を楽しむ、二度ほど煙を吐き出すと身体と頭の先から煙、じゃなかった、薄い湯気でも出しそうに頬を春色にした針妙丸が風呂から上がってそのまま歩き、卓のど真ん中で正座した。

 

「お風呂、お先に頂きました、ありがとね」

「どういたしましてよ、それよりこの後どうしようか?」

 

「う~ん、今日は日も落ちたし、お風呂入ったら出かける気分でもなくなっちゃったのよね」

「なら泊まっていきなさいな」

 

「でもそうすると着物がなぁ‥‥」

「そうねぇ‥‥とりあえず何かで包んであたしのバッグに入れときなさいな、あの中なら多分劣化しないから」

 

 聞き慣れてきたそうなの? に言い慣れてきたそうなのを返し、腰のベルトに通してあるバッグを開く。今でこそ洋装に合う姿となっているが元を正せば鬼の秘宝『減らずの空穂(うつぼ)』ってやつだ。使っても中身は減らず変わらない、これはバッグごと水没させた事で経験済みだから変化はしないと実証できている。少しばかり煙草臭くなっているかもしれないが、多分その匂いも中身が変わらないのだから着物には移らないだろう、だから大丈夫。

 そっくりそのまま姫に話すと小さく畳んで持ち込みの風呂敷で包み始めた、そうしている姫を眺めていると悩んでいた姉楽器が話し始めた‥‥鬼ではないが小さな者が歩いたのを見たからか、付喪神らしい謎解きが出来たようだ。

 

「さっきのって百鬼夜行に掛けたって事?」

「そうよ、付喪神が鬼の身体から出た酒を飲む、そうしたら夜行にでも出たくなるかなって、ただの思いつきよ」

 

「雷鼓がそうなったことは‥‥」

「今のところないわね、どう? 答えを得られてスッキリした?」

 

「「スッキリしない」」

 

 頬を膨らませてそんな事かと顔に出す八橋と、ジットリとどこかの妖怪のような目つきになって見てくれる弁々が、違う形で不愉快さを表しながらも全く同じタイミングで言った一言。

 顔つきも声色も若干違うのに、それでも同じタイミングと同じ拍子で言ってくるのが可笑しくて、耐えられずクスリと声を漏らすと、また意地の悪い顔をしてと三人から言われてしまった。

 姉妹は兎も角、針妙丸までそんなところだけ似なくともよい、そう感じたがこれは似ているのではなく合わせがウマイのだろうなと思い込むことにした、その方が楽器の姉妹に宛てがうには似合いの言葉だろうと思えたから。

 新たな思いつきを一人笑うと、和気藹々と三人が弁々目そっくりの瞳になっていく。

 なんだよ、そんな目で見てくるなよ。

 その目は明日にでも行くはずの地底の主の方がお似合いだ。

 

 


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