東方狸囃子   作:ほりごたつ

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EX その23 地上の姫と地上のタヌキ

 甘美な味わいだった小指から愛用の煙管に咥える物を変え、見つめる先は変わらない永遠の庭。

 またいつもの一服か、そう言われてしまいそうだがいつも通りで何が悪いのか、元々変化のない妖怪さんなのだ、変に新しい事でも始めてしまえばあり方が変わってしまいそうで、それは怖い。

 だからこそいつもの通り煙管を燻らせているのだが、見つめる先は随分と様変わりしていたりする、たったの数日過ぎただけだというのに何故ここだけ春めいているのだろうか?

 

 幻想の世界に戻ってきても過ぎていたのは外と同じく一日くらい、時間的な意味ではほとんど変わっていないのだが、この永遠の屋敷から望める庭はすっかりと模様替えしていた。

 ここに来るまでに通ってきたあの妖怪神社や人里では未だ冬の名残が見えた、けれどこの屋敷だけは何故か暖かく、ここだけほんの少し暦がずれているような錯覚を覚える。

 というか実際ここだけ春だ、日差しも風も心地よい暖かさが感じられる。こう過ごしやすいとあの空調完備の屋敷を思い出す、けれどあそこよりもこちらのほうが過ごしやすい。

 妖怪のお山に住まうあの仙人モドキの自宅も過ごしやすかったが、あそこは年中変わらない気候で、それはそれでつまらなくもある、暑さ寒さなどの自然の恵みは出来る限り享受したいあたしとしては、春を感じられるこの屋敷のが好ましいと思える‥‥機会でもあればまた行ってみようとは考えているけれど。

 前回は嫌な顔をされたが次は手土産、なにか甘いものでも持っていけば口悪くお茶でも出してくれるはずだ、節分で少し手助けしたやった恩もあるわけだし。

 

 さて、早速考えが飛んだ気がするが今日は飛んだと自覚している、だから話もすぐに戻せる、あたしは愚かだが馬鹿ではない。それでこの気候だが、どうせまたヤブ、じゃなかった野暮な医者がへんてこな薬でも作ってばら撒いた。『これは乾季を暖気に変化させる薬なの』とでも言って、怪しい色合いの薬でもその辺に振り撒いたのかと考えていたが、どうやらその読みは外れらしい。

 

「昼寝したくなるお天気ね」

「春はあけぼの、というけれど、昼下がりの陽気な今が一番よね」

 

「そうよ、朝方なんて肌寒いだけだわ」

 

 ご尤もな事を仰るのはここのお姫様。

 庭を眺めて縁側に腰掛けていたら、チョイチョイと手招きされて輝夜のいる外廊下の延長、舞台造というのだったか?

 廊下の床面が外に向かってせり出すように延長され、何か催し事でも出来そうな雰囲気がある廊下、そちらの方に呼ばれてしまい、隣に座って二人で日向ぼっこ中というのが今現在だ。

 この暖かな日差し、これは輝夜の能力で起こした事らしい。

 永遠と須臾を操るお姫様の須臾部分、感じ取れない些細な時間をより集め、他の場所よりもほんの少しだけ春の訪れを早めたらしい、あの春告精が聞いたら商売上がったりだと泣きそうな事を平然としてくれて、なんとも出来る飼い主様だと思う。

 柔らかな日を浴びてぽかぽかと暖まるあたしのコート、光を取り込みにくい白のはずがそれでも温まる冬の装い、最初は良かったが十分に温まった今は少し暑くて脱ぎ畳むと、隣で足を畳む姫が両手を床について這い、上半身だけ寄せてきた。

 

「またすぐに脱いで、はしたないわ」

「このまま着ていて脇汗を滲ませる、なんてのよりはいいでしょ?」

 

「汗ねぇ、亡霊が汗なんてかくの?」

「かくわよ? 冷や汗とか」

 

「それならいいじゃない、脇が冷えれば夏場も涼しくなりそうね」

「涼しさなら十分、間に合ってるわ」

 

 知ってるわ、そう言いながら腿に乗る輝夜の頭。

 中途半端な亡霊らしく、中途半端に冷えるあたしの体温が心地よい、そんな事を前回の膝枕の時に言っていた輝夜姫。そうだろうともさ、ライブの後にいいなんて言った通り、あっちの太鼓も自分から抱きついてくるくらいなのだから。

 今はまだいない付喪神の事は後に回すとして、珍しく素直に笑い、可愛い顔で嬉しい事を言ってくれる輝夜。そんな事を言われてしまっては無碍にも邪険にも出来ず、もぞもぞと揺れる黒髪が少しくすぐったいが、感触も楽しむ事として、愛玩動物らしくされたい放題にされている。

 落ち着いてはモゾモゾと動いて、輝夜のぬくもりを吸収していない冷えた部分を探すように腿の上で動いているお姫様、そんな飼い主に尻尾を出すと良い物を見つけた顔で抱いてくれる。

 らしくない、意地の悪さが見えない状態となっている気もしなくもないが致し方ないだろう、この姫と主治医からは外飼いのペットだと言われ、あたし自身それを利用して月旅行を楽しんできたのだから、飼い主から受ける多少の弄りは気にしない事としていた。

 

「心地よい冷え具合よね」

「あたしは微温くなるけどね」

 

「ねぇ、アヤメ」

「なに?」

 

「夏場はうちにいなさいよ」

「嫌よ」

 

「いいじゃない、減るものではないわ」

「減るわ」

 

「何が?」

「自由な時間と難題を受ける機会が」

 

 私の涼となりなさい。

 我儘な飼い主らしく上から物言いが降ってくるが、言ってくる顔はあたしの顔を見上げてくる形で、それならばと、いつかのやり取りとは真逆の雰囲気になるように会話を進めてみた。

 この会話も耳飾りの難題を課せられた時にしていたのだったか、たかだか数年前の事なのに随分昔の事に感じる、会話相手が随分昔から知っている相手だからだろうか?

 こんな事もいつだか考えたな?

 これを考えたのは‥‥

 

「そういえばいいの? 出開帳を拝顔するんじゃなかった?」

 

 そうだった、その出開帳に来た寺の奴等相手に考えたのだった。

 嫌な顔を見せてくれたネズミ殿の後をついて回っていた時の事だったはずだ、はっきりとは覚えていないが多分そう、というかそうだと思っておく。

 よくある話で深く思い出すことでもない、どうしても気になるなら今日来ている本人に厭味ったらしく聞けばいいし、今はここで愛でてくれる飼い主様と微睡んでいる方が好ましい。

 

「今は日向ぼっこの方がいいわ。輝夜こそ呼び出しておいて相手しないの?」

「私はお姫様だからいいの、長く姿を晒すとありがたみも減るわ」

 

「目的の物は見たからもう用済み、とは言わないのね」

「言わないわ、うちのペットがただいまと言う先だと聞いたしね、邪険にも出来なくなったのよ」

 

 気を利かせた、そう言えばいいのに言わない姫。

 やんごとないお生まれだから下々の者に対して気を利かせる事はなどはない、って感じだろうかね、なんというかこれもあれだ‥‥ツンデレって奴に近い気がする、言い方が悪く遠回りだからそう聞こえないが。

 それでも良しとしよう、永遠に変われない姫様が変わってしまっては異変になってしまう、そうなったらまた怖い人間少女が屋敷に乗り込んでくるし、今度は無料でおもてなしをしろと言ってくるに違いない。それは非常に厄介なのでこれ以上話を掘り下げるのはやめておこう、ペットだけれどあたしは穴掘り兎ではないわけだし。

 

「寺の皆に対してはそれでいいとして、他のお客様の相手はしなくてもいいのかしら?」

 

 命蓮寺の皆が出開帳で訪れている今、皆と言っても住職と雲付きは来ておらず、それ以外のメンバーで寄り集まって遊びに来ただけの話だが‥‥そしてそれと同時に開かれている月の物品の展示会。月都万象展(げっとばんしょうてん)と名づけたのだそうだ、今回で数回目の開催になるらしい。

 近所に住んでいながら知らなかったのは、あたしが月の事に興味がない為、ついでにソレが理解されていて話を振られもしなかったからだろうな、少し眺めてそれなりに楽しめたがそれだけだった。詳しく知りたいとは思えなかったし、触れて浮かび上がる紙の書物だとか、原理がどうこうと話されても詳しく知れる気もしない、持ち帰ってきたタレの味は結構気に入ったけれども。

 

「それもいいのよ、人間の相手は永琳とイナバに任せているから」

「相手をするのが面倒臭い、とも言わないの?」

 

 寺の皆の他にも結構な数の客が来ている。

 少し早めに着いてしまって最初の客を迎える手伝いをさせられた為、ある程度だが誰が来ているのかは知っていた。寺は端折るとして他を上げるならば煩い方の天狗記者、それとツートンカラーの人間少女達に里の人間達、その引率に来た里の守護者達は見た。

 最初と最後のはともかくツートンカラーの相手はしなくてもいいのか?

 輝夜も一応は退治された側の者だったろう?

 

「言わないわ、だって私はお姫様だもの。高貴な者の姿はチラ見せくらいの方がいいのよ」

 

 チラ見せという割に顔を出せばやれ暇だ、何かないのかと仰ってくれるやんごとない奴。

 ただの出不精が何を言うのか、と感じられなくもないが月の異変が起きるまでは身を隠してやり過ごしていたわけだし、引き篭もりになっても致し方無いのか。

 月からの迎えをヤリ過ごしてからどれ位隠れていたのかは知らないが、あたしの前から消えてこっちで再開するまで隠れっぱなしだとすれば‥‥ゆうに千年以上か、それだけの期間かくれんぼをし続けているとか、髪も長けりゃ気まで永いのかねここの人らは。

 腿から広がり溢れる黒髪、艶やかな姫の御髪(おぐし)に手櫛を通して思いに耽る。

『永く楽しませて』

 そう言ってきた輝夜は暇を潰すというよりも、永くいられる相手でも求めていたのかね。

 なんてペットらしく主を想うと、永遠に生きる主が言葉を述べる。

 

「外にいた頃もこんな感じだったでしょう?」

「そうね、門番に止められたのが懐かしいわ、すんなり通してくれなくて焦れったかったわね」

 

「あれはお祖父様のお考えからよ、私の考えではないけど‥‥あんな風に匂わす程度でいた方が神秘性も感じられるでしょ?」

「神秘性ねぇ、科学の発展したところで生まれたくせに、よく言うわ」

 

 開かれている展示会。

 クラシック部門・アカデミック部門・と色々括られたカテゴリーのその中、ミリタリー部門に置かれている物から考えれば、月に神秘も何もない気がする。

 外の世界もそれなりに科学が進んでいたがまだ思いつく事が出来たようになっただけってくらい、例えばお山の白狼天狗みたいに遠くの相手を見ながら顔を合わせて会話ができたりとかね。

 出来ればいいなと考えてそれを出来るようにする知恵は素晴らしいが、輝夜達がいた月からすれば可愛い玩具程度だろう。

 例えに使ったミリタリーで語れば、なんだったか、片手で持って弾幕を張れる銃もおっかないものだと思うが‥‥あれだ、月の天才が物理的に語れる熱量の最大値で云々とか、宇宙の始まりが云々とか言っていた爆弾なんて外の世界じゃまだムリだろうな。

 爆弾の説明を受けてもわからない、理解するつもりがないって顔をしていたらすげえ熱い爆弾だって教えてくれた事だけ覚えている、あの八意永琳が『すげえ』なんて下品な言い方をするくらい熱い、それはきっと思いつかないくらいの熱さなのだろう。

 

「アヤメにしては頭が硬いわね」

 

 実際のところはどれくらい熱いのか、わからない事を考えていると、腿にぬくもりをくれる姫様から冷えた言葉を言い放たれる。

 頭が硬いとは聞き逃せない言い草だ、いつでも柔軟な発想をしてそこから誰かを馬鹿にするのがあたしなのに、硬いと言われてしまっては困る。

 

「どういう意味?」

「科学が発展しているからこそ幻想的で、神秘性もあるって事よ」

 

 フフっと笑んで瞳を覗きこんでくる。

 赤みを帯びた黒の瞳、そこに結構な悪戯心を忍ばせて訪ねてくれる姫。

 

「知りたい? ならおねだりしなさいな」

「ねだろうにも、振る為の尻尾は抱かれたままよ?」

 

「それなら他を考えなさい、硬い頭を柔らかくしてね」

 

 抱かれ温くなった尾を見て話すと要らぬ難題が振ってきた。

 全く以てこいつは、欲しい時には寄越さぬくせに本当にいらない時にだけ難題をぶん投げてきてくれるな、誘い受けして話さないとか人としてどうなのかと思える。

 が、厳密には人ではなくて死なず終われずの蓬莱人だったか、言われたあたしも人ではないし、とすれば人の理など関わりのない事か。

 であれば、ここは諦めて考えるかね。

 何かしら思いついて鼻をあかす、その方があたしらしいだろうし、多分それに期待もされている気がする、裏切っても楽しめるだろうがここは一つ応えてみせようか。

 でないと後で面倒臭い。

 

 さて、まずは硬いと評された頭をどうにかしたい。

 取り敢えずの取っ掛かりを作るならば何故頭が硬いのか、硬くなったと思われるのか?

 あたしにしてはって言い草だ、普段のあたしならもっと柔らかい頭をしてるのにって言い方だと思える、というかそうでありたい。

 ならその原因は?

 これはすぐにわかる、外に出たからだ。

 非常識が常識として満ちる世界。

 幻想郷から外に出て、常識だけがまかり通り非常識は許されない世界の空気を吸ったから硬くなったって事にしよう、街道のルール一つでも雁字搦めだった外の世界だ、空気も多分硬いはず‥‥スーツ姿のお姉さんの胸やら腿やらは変わらず柔らかそうだったが。

 そういえば化けてみたあの格好だが、マミ姉さんも気に入る感じだったようだ。

 永遠亭を訪れた仏門一派よりも早くここに着いたあたし、いつも通りだらだらしていたらちょっと手を貸せなんて兎詐欺に言われ、輝夜に見せていたスーツ姿にうさ耳つけさせられて来客のご案内をさせられていたのだが‥‥その時に妖怪寺のご一行に見られてしまった。

 ナズーリンには口の端だけで笑われ水蜜にもププッと笑われたが、ぬえと姉さんは懐かしい格好だなとか言い出して、その場で同じような格好に化けてみたりしていた。

 グレーなあたしに黒いぬえ、紺の姉さんとスーツ三人娘となったが、ぬえだけは普段の格好と大差がないような感じに見られた、普段から絶対領域出しっぱなしだからだろうか、ギャップがないなんて化け甲斐がないなあいつ。

 

「思いついた?」

「ギャップっていいわよね?」

 

 余計な事ばかりに気を取られ、本筋から逸れていた思考。

 そんな中問いかけてきた輝夜に問い返すが、なんの話かと更に聞き返されてしまった、あたし自身もどうしてそうなったのかわからなくてなんの話からそうなったのだったか、再度考え始めてしまいそうになる。

 けれどそうなる前に輝夜姫からありがたい苦言が寄越された。

 

「不真面目なくせに、そうやって真面目に考えるからダメなのよ」

 

 思案内容はともかくとして、あたしの頭はまだ硬いらしい。

 柔らかそうな唇で語ってくれる永遠亭の主、そのまま手を伸ばしてまた頭を寄せて‥‥ってなるかと思ったが伸びてきた手は頬を過ぎて米噛み近く、メガネのフレームへと伸ばされる。

 これはなにか期待できそうな、外されて先日のご褒美以上の物が、なんて思ったが柔らかな唇に触れられる事はやはりなく、親指をレンズに当ててクイッと捻られた。

 あたしの視界が歪んだ指紋で埋まる。

 若干曇って見にくい為目を細めると、姫の表情が晴れる。

 

「もっと柔らかく、見方を変えてみなさい」

 

 別になくとも見えるから汚れようとも問題ないが、眼鏡はあたしの大事な物、慕う姉と共通している大事な化け狸要素だ、そんな物に何をしてくれるのかこの姫様は。

 曇る視界に見えるのは、ボヤケた輝夜が人様の物を汚して破顔するお顔。

 子供染みた悪戯をしてくれて笑むこいつに向かってちょいと睨むと、そうやって目を細めている方が見なくていい物、見なくてもよかった物が見えなくていいわね、なんて言い渡された。

 つまりはどういう事だ?

 見えなかった事にして取り敢えず言われた事だけ考えろ。

 そんな事でも言いたいのか?

 それでいいなら考えずテキトウに返すぞ?

 

「何も魔法や不可思議だけが幻想的って事ではない、って感じかしら?」

 

 見てきた物を一旦忘れ、促された形、見知った物から難題を紐解く、特に謎解きしてからの答えではなくただのこじつけを述べてみる。

 外では夢物語となっている魔法や、あたし達妖怪などの不可思議要素、こちらの世界では日常で常識と呼べるモノ、外では見られる機会が殆ど無いモノ。ソレらを輝夜の言った言葉にむりくり繋げて話してみると、その言い方では少し足りないという答えが返ってきた。

 これで足りないか、なら後は科学の方でもこじつけてみるかね。

 

「科学も理解できないくらいに過ぎれば未知の物、神秘的な物となる‥‥ってのでどうかしら?」

「なる、ではなくて変わらない、というのが私の考える百点だけど、及第点にはしてあげるわ」

 

「厳しい採点ね、もっと甘めに付けなさいよ」

 

 それらしくなるように言葉を繋いで言ってみた。

 こんなもんでどうかと話してみた結果、百点はもらえなかったが合格点はくれるらしい、メガネからあたしの頬へと移動した手が擽るように優しく撫でてくれる。そのまま抑えて引いてくれれば、そう思えるくすぐったさが頬から感じられるが及第点ではこの程度だろう。

 まぁいいさ、今日のところはこれくらい愛でてもらえれば十分だろう。

 

「そうしてあげてもいいけれど、いいの?」

「よくないわね、今日のところは今のご褒美で我慢するわ」

 

 欲した唇見ていたからか、ペロッと下唇を舐めて言ってくれる輝夜。

 それを寄越せと少し考えていたのはバレバレだったらしいが、考えただけでいらないと思っているのもバレているらしい、全く、聡い上に意地の悪い輩はこう言う事になるとすぐに気が付いてくれて困る。

 つれない姫様からくれると見せてくれるご褒美、アホの子らしく飛びつけば甘美な思いに浸れるのだろうが、今日は釣られない事とした。

 でないと後で怖い事もわかるからだ。

 今は屋敷内で寺の皆と話しているだろう永遠の従者も、その寺で居候している旧知の二人も怖いが……それ以上にバレると怖いのが、今日はあたしの家にいた。

 永遠亭で催されているお月様のイベント、今日はそこに顔を出すと伝えたところ、九十九姉妹を連れて後で行くわなんて言っていた太鼓様、独占欲の強いあいつに輝夜とちょっと戯れているところでも見られれば‥‥確実に後で痛い目にあうとわかる。

 布団の中で痛くされるなら構わないが、いつかのように内面を痛くされては‥‥

 困る以上のモノがある、生前以上に精神面に引っ張られるようになった今のあたしだ、下手すりゃ立ち直れんし酷けりゃ消える恐れもある。

 雷鼓や輝夜と交わした破りたくない約束がある以上早々消えるわけにはいかない、どちらも口約束でその二人それぞれの為にあたしが我慢するってのもなんだかなと思えるが、ソレもソレでいいだろう。期待は裏切るモノだと言い切っているあたしが期待に応えたい、そう思える珍しい相手達なのだから。

 

 褒美に釣られないあたしをどこか寂しげで、儚げな瞳で見てくる月の姫。

 そんな姫の黒髪、腿に広がる長い髪を(すく)い上げ、鼻を鳴らす。

 日を浴びて暖かな御髪から仄かに香るのは、柔らかく芳しいモノ、少し早い春の匂い。




予想以上に長くなってしまった竹林+儚月抄はこれにて終い。
後はまた思いつき次第って事で。

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