東方狸囃子   作:ほりごたつ

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少し頭を使った物が書きたい、そんな話です。


第十六話 何見て跳ねる

 普段あまり活気のある里ではないのだが、年を通して騒がしくなる時期が数度ある。

 少し前の田植えもその一つだ。

 大人も子供も年寄りも総出でかかり、今年も無事に田植えを終えた。

 後は定期的な水の管理と、ある妖怪への小さなお願い事と収穫の季節を迎える前に収穫祈願を行って人里の稲作は収穫を待つだけとなる。

 水の管理は言わずもがな。収穫祈願はまだまだ先でこちらも言わなくても、どういった物なのか分かるだろうしどこでもあることだろう、この場では割愛させてもらう。

 

 最後に残った願い事、それはここ幻想郷でしか見られないものだろう、そもそも幻想郷以外では妖怪を見る事がまずないのだ、願う相手がいないのに行うことなどないだろう。

 さて、この小さなお願い事というものだが、とある虫の妖怪に少し控えてくれないかと、ちょっとしたお願いをするものだ。

 無理のない範囲でいいから稲に害虫がつかないようにしてもらえませんか?

 と、蛍の妖怪リグル・ナイトバグにお願い事をするものだ。

 蛍なら元々稲には無害だろうと思えるが、彼女には『蟲を操る程度の能力』がある。

 彼女が蟲を操れば稲に害虫が付くことがないのだ。

 

 そんな事をせずとも今は永遠亭に防虫の薬を頼めば作ってくれるだろうし、妖怪頼りにするよりもよほど人間として健全だ、だがそれでも彼女に願うのは、永遠亭は最近になって人里と交流を始めた新参である事と、薬が有料である事が理由だろう。

 永遠亭は新参でも良き付き合い方をしているし薬の値段が高いという事もないが、幻想郷の人里では金はあまり重要視されていない為流通が少なく、病気など万一の場合に永遠亭を頼るための物として、使わずに貯めておくことが多いのだ。

 

 そんな事情もあるがそれは別として、永遠亭よりもリグル・ナイトバグとの関わりのほうが長い、というのもある。とは言っても彼女は妖怪で人の敵だ、素直に従うこともないだろうと思えるのだが、本人としてはそうでもないようで、構える事なく話をし、願い通りに少しだけ蟲を操る。

 

 一度彼女に聞いてみたことがある、人を気遣い身内の食い扶持減らすのはどうなんだ? と。

 するとこんな答えが返ってきた。

 同胞が困るほど操ったりはしないし望まれてもいない。

 蚕など人間の暮らしで役立っている蟲はとても大事にされている。普段嫌われることしかない虫が好かれるのは気分がいいから、その気持ち少しだけ返すつもりと。

 それに好かれる類の妖怪でもない私が頼られるのは、ほんの少しだけ気持ちいい、とも言っていた。あたしの場合人を助けることなどそうないが、なるほど。気持ちがいいなら人の手助けでもいいのかと納得できた。

 

 甘味処で草餅を頬張りながら。

 まだ緑よりも茶が目立つ田を眺め、店主の爺さんと談笑して思い出した話だった。 

 あたしはこの時期になるとよくここにいる、少し薄めの生地にこし餡を包んだ草餅があたしのお気に入りの一つ。この時期になり顔を出すと何も言わずに草餅二つとお茶が出てくる、それくらいよくここに来ている。

 狸の姉ちゃんの分は毎年生地を薄くしてこし餡を包むんだ、笑いながらそう話す爺さん、本来はもっと生地が厚く粒あんを包むのだという。

 あたしの好みを把握され、毎年季節が巡ってくると今年もそろそろ来るだろうと仕込みをしてくれる、この爺さんは珍しく普通の人間の中で出来たお気に入りだ。

 名前も知っているくせに、自分の方が若いのだと知っているくせに。

 一貫して狸の姉ちゃんを通す爺さんをあたしは気に入っている。

 

 普段は二つ平らげて終わりなのだが今日は別に四つほど包んでもらった、これから向かう先への土産物だと言ったらこし餡五つ包んでくれた。

 土産なら好みのものを持っていけ、一個は贔屓のおまけだ後で食えと。

 小さい気遣いがとてもありがたかった。

 爺さんにまたねと告げ、土産包をぶら下げてあたしは迷いの竹林の奥へと歩いて行った。

 

~少女移動中~

 

「最近毛の艶が悪くて、体も以前より動かないし。あたし悪い病気なのかしら先生」

「そうね、手遅れね」

 

「それ以外にも酒も煙草も美味しく感じないの、味覚までダメになってきたのかしら」

「そうね、ダメね」

 

「後はそう、夜も長く起きていられないし。朝も目覚めてもすぐには動けないの」

「そう、残念ね」

 

「あ、これは最近の出来事なんだけど。その道の玄人に相談してもまともにとりあってくれなくて困っているのよ」

「そう、きっと無駄な相談なのね」

 

「先生、さっきから冷たくないかしら?」

「冷静でないと正しい判断は出来ないわ」

 

「それで、あたしの病名はなにかしら? 薬で治せればいいのだけど」

「病名は詐病。薬はそうね、あるけど意味がないと思うわ」

 

「薬があっても意味がないなら不治の病なの? あたしこのまま消えるのね」

 

 少し待つが返答がなくなった、どうやら相手にしてくれなくなったらしい。仕方がないのであたしもいつもの調子に戻そう、変に芝居して本当の病気になったら目も当てられない。

 妖怪が病に伏せるのかはしらないけれど。

 

「で、どんな薬出してくれるの? 永琳」

「馬鹿につける薬よ、姫様がまだ戻られないからって私で暇つぶししないで頂戴」

 

 呆れて物も言えないわ、と言った表情だが馬鹿につける薬とは。

 死んでも治らないんじゃなかったのだろうか。

 

「馬鹿を治せる薬を作るなんてすごいのね、伊達に長生きしてないわ」

 

 先人の知恵には有用な物が往々にしてあるが、永琳は先人の先駆けと言える人だろう。なんせ神代の頃から八意永琳しているのだ、その辺の長寿自慢が霞む程の相手だろう。

 永く生きているだけではなく、その頭脳も異常とも言える天才ぶりだ。月の頭脳の異名を持ち、自身の持つ『あらゆる薬を作る程度の能力』を十二分に活かした医療行為が一人で可能だからだ。

 万能すぎてこの世がつまらなくないのか、なんて考えた事もあったがたまにズレた答えを言ってみたり考えてみたりもする。

 捉えにくいが面白い人物である。

 

「あら、私は治せるなんて言ってないわ、つける薬と言ったのよ」

 

 ふむ確かに。

 

「馬鹿につける薬は作れたのに馬鹿は治せないの? なにそれとんち? 八意女史ともあろう人が変なこと言うのね」

「正確に言うわね、治せない事はないわ。治療という意味では治るの、でも治せないわね」

 

「うんむ? 益々面倒な事になってきたんだけど、このままじゃあたし馬鹿になりそう」

 

 これだけ馬鹿馬鹿言っているとどこかで妖精がくしゃみでもしていそうだ。馬鹿は風引かないというがあの妖精も風邪引いたりするのかね、いや氷精だし引かないか、それとも馬鹿だから風邪引いてもわからないか。

 

 ん? なるほどそういう事か。

 

「馬鹿につける薬はある、そして馬鹿は治る。けれど元が馬鹿だから治った事に気が付かず馬鹿に変化は見られない。だから治るけど治せない。これが答えでいいかしら?」

「正解よ。ね、貴方につけても効果はないけど悪くない薬でしょう?」

 

 言いながら何かを書き止め資料を閉じる、誰でもやる様な仕草だが永琳ほど似合う人もいないだろう。

 

「またとんち? さすがに理由がわからなくなってきたわ」

「ええそうね、今のはただの悪口よ。意味がないって所でかけて言ってみたけど気に入った? 少しは頭の体操になったでしょ? 丁度頭も柔らかくなった事だし次は姫様のお相手ね」

 

 この幻想郷であたしが口喧嘩で勝てない少ない相手の一人だ、さすが亀の甲より年の功を体現する人はちがう。

 

「私の頭脳は年齢関係ないわよ、そう生まれただけだもの」

 

 言葉にしてない嫌味まで返さないで欲しいわ、まったく。

 

 

 少し前に妹紅との殺し合いに勝ち機嫌のいい、ここ永遠亭の永遠のお姫様が風呂から上がりこちらに向かう気配がしてきた。

 お供に連れた妖怪ウサギがパタパタと歩く音がする。

 

「今日は快勝だったわね輝夜、機嫌が良さそうだわ」

「ありがとうアヤメ、そうね今日は機嫌がいいわ」

 

 迷いの竹林に隠れ住んでいた竹取の姫様 蓬莱山輝夜。

 少しでもおとぎ話を知っている人なら知らないはずがないだろう、竹取物語のかぐや姫その人だ。

 実際には竹から生まれたわけではなく、月生まれ月育ちのお姫様なのだが、過去に禁忌とされていた蓬莱の薬を飲んで不老不死となり罪人となった、と聞いている。

 その罰として地に落とされ竹取物語の話となるんだそうだ。

 後々聞いたことだが、月での暮らしに飽いて地に興味を持った時、蓬莱の薬を飲み罪人となれば地に行けると知って永琳に作らせ飲み、見事望み通りに落とされたらしい。

 どこぞの太子といいこの姫といい、幻想郷にいる高貴な生まれの方はやることが大胆な人が多いわ、と聞かされた時に感じた。

 

 お供に髪の水分を取らせながら輝夜が目の前で佇んでいる。

 風呂上がりで綺麗な髪がしっとりと濡れて輝きを増している、十分に温まってきたのか、頬もほのかに紅潮し化粧なしでも異性を虜にするだろう。

 そんな輝夜を潤ませた瞳で見つめ呟く。

 

「綺麗ね」

「そうよ」

 

「輝夜」

「何よ?」

 

「結婚して」

「イヤよ」

 

「いいじゃない減るもんじゃなし」

「減るわ」

 

「何が?」

「私の威厳と難しいお題」

 

 私の暇を潰しなさい、と自分の要求を突きつけて来ることは多いのに、こちらの要求は聞いてくれない。まったく我儘な姫様だ、やんごとない高貴なお方なのだから仕方ないとも言えるが。

 たまには下々の者の意見も聞いて答えてくれてもバチは当たらないとおもうのだが。

 訪れた際に渡した土産を膳に移した永琳が戻り、しばし三人で談笑する。 

 

「前のお題もこなしていないのに再度の求婚とは、アヤメの顔の皮膚は随分と厚いのね」

「あれは輝夜がいなくなってしまったのも悪い、それに輝夜も冗談だと言っていたじゃない。あたし今は本気なの。ねぇ結婚が嫌ならお題だけでもいいからさ」

「最初から暇潰しに何か頂戴と願えば姫様もお題をくれたかもしれないのに、やっぱり馬鹿なのかしら」

 

 輝夜が都で話題の中心だった頃、一度求婚したことがある。

 絶世の美女と都中で話題になり五人の公卿が結婚を申し込んだが、条件に出された難題がとても厳しいもので難航していると聞いて、これは面白い。自分も求婚し難題を聞いてみようと思い輝夜の元を訪れたのだ。

 その時のお題をこなす前に輝夜は月に帰る事になり、あたしは難題を取り上げられてしまったのだが。ここ幻想郷で再会するとは思わなかった。

 

「やろうと思えば昔のお題も出来るでしょう、なら先にそっちを済ませてから来なさいよ」

「だって難題じゃなくなっちゃったじゃない、持ち主が失くした頃にネズミより先に探し出せばいいんだし」

 

 なんの因果だろうか、以前出されたお題も幻想郷に来ている。それもうっかり失くす持ち主と共に。この出来事もあたしはそれなりに楽しめたのだが、今は目先の求婚を成功させたいので後回しにしよう。

 

 

「じゃあこうしましょう、私からのお題は出さない。でも変わりに永琳から難題を出してもらいましょう」

「こんなの嫁にもらってもうるさいだけだからいらないわよ、姫様が世話するならいいけれど」

 

「世話も躾もいらないわよ、ほら素敵な可愛い狸さんよ?」

 

 足を内股にし腰を曲げ小首を傾げ尻尾を振る、目が合った輝夜と互いにウインクをすると永琳からは小さい溜息が漏れた。

 

「はぁ‥‥わかったわ、じゃあお題を出します『灰雲の垂れ耳飾り』これを探して持ってきたらうちで飼ってあげるわ」

 

 長く生きて世を見てきたつもりだが聞きなれない物だ、正しく難題という物だろう。

 難題を聞いたあたしは二人の視線を気にせずに一人集中し思考する。

 まず言葉として聞き慣れた『耳飾り』字面からしてイヤリング、ピアス、カフスといった装飾品の類だろう。『垂れ』の部分も耳につけて垂らす装飾品と取れなくもない。こちらはこれで正しい推理だとおもう。『垂れ耳飾り』はこうと仮定し次に進もう。

 では『灰雲』とは? まずそのまま灰の雲。永琳が課す難題だ、普通の灰ではなく何か神事で使うような物を炊き上げた際の灰が空の雲と混ざる?いや『灰の雲』ではなく『灰雲』だ、分けずに言葉そのまま考えるべきだろう。

 

「真剣ね」と草餅を淑やかに口にする輝夜。

「そうね」と茶を啜る永琳。

 

 二人共あたしを眺めてにこやかにしている。難題を出した永琳はともかく輝夜も答えをしっているような表情だ。

 その場ですぐに思いつき言葉にしたような雰囲気が永琳からは見受けられたが、あたしは気が付かず輝夜はすぐに思いつくような物。なんだというのだろう。

 思考を戻す『灰雲』分けずに考えるなら灰色の雲、もしくは雲の灰といったところか。それでも耳飾りにできるようなものだ、手に取り加工が可能な物だろう。

 それとも比喩か、雲‥‥蜘蛛‥‥いつか人の世で覇権を持とうとしていた人間が蜘蛛が這いつくばった形に見える釜を平蜘蛛などといい欲していたな。こういう形から名づけているものだろうか?

 なるほど、こっちの線が怪しいかもしれない。『灰雲』にかけられるようなもの、なにかあっただろうか‥‥

 

「あらイナバ、お帰りなさい」

「うどんげ、頂物の草餅があるわ、固くなる前に戴いてしまいなさい」

 

 どうやら出かけていた鈴仙が帰ってきたようだ、声をかけられた鈴仙の足音がこちらに向かってくる。

 

「わあ草餅。あ、アヤメさんいらっしゃいませ。お土産はアヤメさんからですか?ありがとうございます、戴きますね」 

 

 笑顔でそう言うとあたしに向かい礼をする。

 頭の耳がピコピコと大きく揺れた。

 

「気にしないでいいわよ、あたしの分もあるし」

 

 鈴仙の『耳』確か取り外しが可能と言っていたな、ならこれも『耳飾り』と言えるのか、途中から前に向かって『垂れ』ているし、お題の『垂れ耳飾り』を分けずに形にするとこうなるのか?

 うん?

 毎日見慣れたこれが『垂れ耳飾り』だから輝夜はすぐに気がついた?

 そう考えればあたしより先に輝夜が気が付いた理由として筋が通る。

 なら今は鈴仙の耳を『垂れ耳飾り』として考えておこう。

 

 だがここまで考えて『灰雲』が思いつけないのはどういうことだ?

『垂れ耳飾り』が見慣れた鈴仙のものだとすれば『灰雲』も多分見慣れたものだろう、永琳ならそういうモノの言い方をしてもおかしくはない。

 ということは永遠亭にあるものだろうか?

 持ってこいと言うのだ、手に取り持ち運べるものだろうが……

 

「鈴仙ちょっと聞いてもいい? その耳って取れるって言ってたわよね? 替えもあるのかしら?」

「これですか? たしかに取れますし替えもありますよ」

「その替えには灰色の物ってあったりする?」

 

「灰色? 色はこの白と緑だけですね」

「そう、わかったわ。ありがとう」

 

 

 灰色はないか、でも近づいてはいるようだ、輝夜が笑った。

 しかし灰色は持っていないのか、なら鈴仙の耳じゃないのか?

 てゐの方?

 いや、てゐの耳が取れると聞いたことはない。

 鈴仙は玉兎だがてゐは妖怪ウサギだ、種族がちがう、耳も取れないだろう。

 なら他の妖怪ウサギ‥‥は違うな。

 あの子たちは人型を取れないものは見たままにウサギだ、耳がとれてほしくない。

 ふむ、ではなんだ?

 なにを見落としている?

 灰色の物‥‥いや灰色にする物?

 もしくはまだ灰色ではなく今後灰色になる物か?

 

「そろそろかしら?」

「さあ、わからないわ」

「主従で仲良さそうに、妬ましい。お題を解いてその鼻を明かしてあげるわ」

 

「姫様、アヤメさんは何かしてるんですか?」

「永琳からの難題を考えてるのよ『灰雲の垂れ耳飾り』ですって。イナバも知らない物よね」

 

「知らないですね‥‥あっ! だから私の耳を聞いてきたのか。でも私は灰色なんて持ってないし。私の‥‥」

「うどんげ、アヤメの思考の邪魔しちゃダメよ」

 

 

 分かってるのにわたしは知らない物ね、なんて白々しいこと言うわね輝夜。

 でも今少し変だった、なぜ永琳は口を挟んだ?

 鈴仙は何を言いかけた?

 私の?

 あたしの事を見ながら私のというのだ、比べたのはあたしだろう、そして会話の流れは鈴仙の耳にあった。ならあたしの耳がどうにかと言いかけて永琳に止められたのか。

 あたしの耳?

 垂れてもいないし鈴仙のように付け替えはできない、これでは垂れ耳飾りとはいえないだろう。

 だが止めたのだ、何かあるだろう。

 ダメだ思考が逸れた。

 先ほどの流れになる前は何を考えていた?

 そうだ、灰色にする物、もしくはまだ灰色ではなく今後灰色になる物という仮説を立てた所だ、これとあたしの耳?

 確かにあたしの耳は髪と同じ灰褐色だ、すでに灰色の物と見てもいいだろう。しかしそれなら『灰色の耳飾り』止まりだ、『雲』と『垂れ』を何処からみつければいいだろう‥‥

 

「ちょっと疲れたから一服するわ」

 

~少女一服中~

 

 永遠亭の庭で煙管咥えて考えながら空を見上げる、今日は雲ひとつない済んだ空だ。漂っているのはあたしの煙だけ‥‥煙?

 そうか、やっぱり比喩か。

同じように漂うようもの、これが『雲』か。

 

 出揃ってきたので少しまとめてみよう。

『灰』あたしの耳?

『雲』煙?

『垂れ』と『耳飾り』は前の仮説通りつなげて鈴仙の耳とした方が辻褄が合うだろう。

 

 ふむ、ならこれを材料に『灰』と『雲』を繋げよう、あたしの耳と煙‥‥浮かぶ?

 いや耳は何処行った?

煙で耳を形取る?

形取ったからなんだというのか。

 

 煙、あたしとは切り離せないもの、妖怪としての成り立ちに関わるもの。即ちあたし、か?

『灰』であたしの耳とするのではなく『灰雲』であたしとするのか?

 では、あたしの垂れ耳飾りとは?

持ってないぞ、そんなもん。

 

「考えは纏まったかしら?」

 

 永遠亭の庭にある小さな池の橋の上、そこで煙管をふかすあたしに声をかけてきたのは難題を課した永琳。

 

「一つの結論は出た、けれどそれは存在しないのよね」

「ならその結論を聞きましょう」

 

「あたしの垂れ耳飾り。でもあたしは持っていない。耳は垂れていないし取れて飾りになることもない。だから存在しないのよ、ないもの持って来いとは難題になってないんじゃないかしら?」

「あら、ないならあるようにすればいいのよ?」

 

 そう言うと背に回した手に持つ物を差し出してくる、それは見慣れたうさぎの垂れ耳飾り。

 

「あげるわ、着けて見せてから難題の品だと渡して頂戴」

「あー……なかったことにはならないの?」

「求められたから課した、それを貴女は解いた。さぁ、私の鼻をあかしてみせて」

 

 

 その後輝夜に見られて大笑いされた。貴女の物だとするのには臭い付けが必要よと、日が落ちるまで着けておく事を強要された。

 鈴仙はお揃いですねと何が嬉しいのか気を良くしているし。

 永琳からは短時間で見つけるとは大したものだわ、意外と似合っているわよ。とからかわれた。

 やはりこの人には叶わない。

 あたしのいる間に永遠亭に戻らなかったてゐに見られなかった事だけが唯一の救いだ。後ほど顔を合わせた時にひやかされるのはわかりきっているのだが。 


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