東方狸囃子   作:ほりごたつ

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EX その18 現代社会での際会

 月に行ってとってこい。

 そうお願いしてきた飼い主様からは何をと聞かずに来たものだから、外へと出てきたはいいが明確な目的もなくて少し困った。

 が、元々何かをしようと動くより行った先でする事を見つけることが多かった気がする、なんて出だしから開き直って、久々の外の世界を楽しむようにぶらついている。

 数百年ぶりに見ている外の世界、随分と様変わりしていて色々と面白く、同時に色々と面倒臭い世界になったのだなと感じていた。

 最初に気がついたのは街道。

 昔は砂利か踏み固めた土の道しかなかったのに、今なんだか油臭くて硬い地面しか見られない。

 街道を行く者達も、人間が歩くか場合によっては荷物引きの馬がいた程度だったが、今では馬どころか駕籠者も見られなかった。

 代わりに見られるのは臭うガスを吐き出して騒音とともに揺れ走る鉄の箱、それが赤青黄色の三色から命令でも受けているように規則正しく走っている。ソレらが走る脇には同じような赤と青で表記された人間のマーク、こちらもこちらで色も形も様々な鉄の箱、作りから乗り物というべきか、それに習って止まったり通りを渡る際に道標代わりとしているようだ。

 

 人間が好き放題に歩き回っていた江戸の町中とは随分違うなと眺めていると、さっきの鉄の乗り物達にパァァァンと音を鳴らされた、目の前にいるのが見えないのだろうか、そう騒がなくとも聞こえるからやめてほしい。密閉された乗り物に何か言っても聞こえないだろうなと口パクだけで煩いと話すと、再度鳴らされて、それがやたらと耳に響く高い音で‥‥ちょいとばかり耐えられなくて、舌打ちしてから騒ぐソレを蹴り上げた。

 編み上げブーツで蹴り上げるとボンと凹む乗り物の顎、音と同じタイミングで乗り物の中の人間が白い粉と布に包まれて何やら騒いでいたが、先に煩くしたのが悪いと、集まってしまった視線をあちこちに逸らしてその場を後にした。

 

 何食わぬ顔でやらかして、町中を歩いていて妖怪だ何だと騒がれないのか?

 あたし自身もそれを思ったが、さして騒がれる事はなかった、尻尾も耳も出しっぱなしで特に逸らしたり、隠蔽したりしていないというのにだ。

 通りを進む度に何かけったいなモノを見る目で見られている感はあるが、そんな視線は幻想郷でもよく浴びるもので慣れきっているものだ、さして気にする事でもなかった。

 強いて気になると言えば、偶に言われている『あにめのコスプレ?』という言葉の意味くらいか。コスプレは兎も角あにめとはどういった意味なのか気になるが、それは後で守矢神社の風祝(元現代っ子)か、同じ時代に外にいただろう愛する姉さんにでも聞いてみようと思う。

 ちなみに言われるのは耳と尻尾だけで、シャツやコートについては違和感はないらしい、どこぞのスキマではないがその時代に則した姿で現れる事ができているようで、態々化けずとも奇異の目で見られるくらいで済んでいるというのが少しだけ可笑しく思えた。

 皆が皆寛大にでもなったのかね?

 いや、こういう格好をしているのが他にもいて、見慣れているって感じかな?

 もしくは回りを気にしなくなっただけってところだろうな、指も差されず遠巻きに見られるだけなのだからきっとそうだ。

 

 それはそれとて、とりあえず何からどうしたもんか。

 目下の目的地はお月様、それは変わりない。

 場所も空の上にある事には変わりないし、預かり、尻尾に巻きつけたままの月の羽衣も変わらず存在してくれている、言われた通りこれを握ればお月様へと行けるとは思うのだが‥‥このまますぐに向かっておつかいを済ませ帰ってしまっては面白くないとも感じている。

 お使いを申し付けてきたもう一人。

 元月のお姫様に早めにお願いと言われている、早く持って帰って来て欲しいような素振りも見られたが、折角の外の世界なのだ、こっちのみやげ話もきっと期待しているだろうと思い込み、そう言逃れれば多少遅れたところで問題ない、せいぜい苦笑いされるくらいで済むだろう。

 であればもう少しこっちの世界を楽しみたい、が、宛もなく何をドコから見たもんか、見るものが多すぎて嬉しい悲鳴を上げそうで少々困っている。

 それでもいつまでも困っているだけでは何もなくて笑えない、取り敢えずは情報収集でもするかと、少し先に見えていた本屋に向かった。

 店先に立つと勝手に開くガラスの引き戸、原理は知らんが自動で開いてくれて幻想郷にもない不思議だと思えた、外にも案外不思議が多いのかもしれないと感じながら、ふらりと立ち寄った書店で少しの調べ物。

 人里の貸本屋や営業に逸らない男の店だったならば『買わずに読むだけはやめろ』そう叱られる事請け合いの状態だが、こちらの世界では掃除用のはたきを持って回りをうろつかれるだけ。

 パタパタと横目に賑やかだが、なんの文句も言ってこないのだからいいだろうと、エプロン姿の女は放置してあれやこれやと読んでいく。

 

 最初は月やらの本を読んでいたがすぐに飽いた、読まずとも行けばわかる事だと気がついて、事前知識はない方が楽しいだろうと敢えて知識は取り込まずにおいた。

 次に手に取ったのは妖怪図鑑や歴史物の書物。

 こちらの二冊は結構面白かった、挿絵の入った本だったが、つるべ落としは髭面のおっさんだし土蜘蛛はまんまでかい蜘蛛だった、河童も頭に皿を載せた爬虫類っぽい感じで天狗はまんま嘴のついた鳥人間。歴史の方も辞典に載る聖徳太子(おじさん)と良く知っている太子では姿形も性別も違うし、平安貴族である藤原さん家の娘さんなんて、もしかしたらいたかもって一行載っているだけで詳しく書かれてはいなかった。

 どれもこれも見知った相手に似てもいないし、相手によってはかもではなくいるぞと、一人薄笑いを浮かべているとはたきを持つ店員があたしから離れていってくれた、楽しそうだから離れてくれたのかね?

 関わっちゃいけないと目で語ってくれていたし、気が利いてありがたい事だ。

 

 そんな事をしながら情報収集というなの観光をしていると、背に感じる複数の視線。

 振り返っても目が合う者はいない、かといって態々探す気もないしまたコスプレ云々言ってくる輩かなと、感じなかった事として長居した本屋を後にした‥‥こちらの金でも手持ちにあれば辞典やらを買って笑い話に出来たのに、惜しい。

 店を出てみると少し日が落ち始めていて、誰ぞ彼はといった頃合い。

 日が陰り始めると背の高い建物や町中の飲食店などから人工的な光が漏れたり、綺羅びやかな看板が煌々と灯り始めたりしていた。時間の動きに気が付くと自身の腹の虫の動きにも気が付く、栄養を得る体などとうに亡くしているというのに腹がなるのは何故なのか?

 多分日頃の習慣だろうな、慣れとは怖いと考えつつ暗くなり始めた道を目的もなく歩く、なんとなく路地を曲がって寂れた風合いの裏通りに入ると、先ほど感じた視線の持ち主だろう者達から声を掛けられた。

 現れたのは昼間には見られなかったタイプの男達。

 毳毳(けばけば)しさが感じられる傷んだ金髪姿や茶髪姿で、成人男性のくせに細い腕や足をした者達から声を掛けられた。

 

――お姉さん何その、尻尾? 耳までついてんじゃん、動くしすげえ本格的だわ。

――コスプレしてんの? 銀髪メッシュとか派手だね? 目もカラコン?

――わかった、コスプレ喫茶とかの人っしょ、それとも飲み屋さん?

――そんなイベントやるんだ、お店何処よ? 

 

 四人で囲んでくれてそれぞれニヤニヤと、顔に下心を貼り付けて話してくれる男達。

 口調から面倒臭いのが来たなと思いつつも、ちょっと仕入れるにはいいかなと話を合わせて男達の話題にノッた。飲み屋の娘かと聞かれたので少し進んだ道向かいの店だと答え、名前も聞かれたから、ゆかりだと微笑んで答えた。

 イベントはもう少し先で、頼んでいた物が出来たから着てみていると耳を触りつつ答えると、似合っていて可愛いと心にもない事を言ってきてくれた。

 下品な心丸出しの言い草が今も昔も変わらなくて、本当に情事は昔のままだとクスリと笑むと、これから飲みにでも行かないかと誘ってきた。持ち合わせがないしうちの店でどうかと返すと、奢るから行きつけに行こうと手を取られ、背の高い乗り物に押し込まれる形で乗せられた。

 

 両側を挟まれて二列目の席に乗せられる、引き戸が閉まると聞こえ視える下卑た笑いとその考え、それから感じられる今後の流れも当然ソレだろう。

 乗り物に乗せられてからはスカートのスリットしか見てこなくなったし、その奥が目的だとまるわかりでつまらない、こういうのも昔から変わらないと笑うと、何笑ってんだと急に息巻くひょろい男達。雰囲気からこのままお持ち帰りされるのだろうし、乗り物が動き出して知らぬ土地の知らぬところに連れられるのも面倒だ、そうなる前にと近くの男二人から張り倒して、次いで右前に座る男の椅子も蹴り抜いた。

 前の席にいたもう一人はヒィッと騒いで逃げたので放置、追うほどいい男でもなかった。

 頭やら顔やらちょっと凹ませ赤くさせたりして、すっかりと静かになったところで懐を漁り物色してから乗り物を出る‥‥つもりが、簡単に開いたはずの引き戸は開かず、ガチャガチャさせても動かないので少し薄れてすり抜けた。

 

 ヌルンと抜け出て戦利品、ちょっと平たくて折りたためず画面もでかいが、天狗記者のカメラっぽい機械と赤く濡れた財布っぽい物をそこらに放って、短い観光の持ち合わせならこんなもんでいいかと踵を返す。

 振り返りつつ財布を開きそのまま銭を取り出すが、小銭は持たずに紙幣だけ仕入れた、こちらの世界では銭よりも紙幣というのが有効だと香霖堂の店主から聞いている。三人分合わせて二十枚くらいになった三色のお札をコートの内ポケットに突っ込み、取り敢えずこれくらいあれば少しの滞在には十分かと財布を捨ててその場から動いたが‥‥それでも感じる何かの視線、本屋の時から感じるこれはさっきの男達だけではなかったのかと振り向くと、やっぱりいた熱視線の正体。

 

「うっわぁ、コスプレかと思ったら本物だったわ」

 

 目が合うとすぐに逸しキョロキョロ動かすお嬢さん、すり抜けた乗り物とあたしを見比べる黒い帽子をかぶった少女。誘拐犯の男とは違うキューティクル輝く茶色の髪を揺らし、同じ色合いの瞳に好奇心をいっぱいにして見つめてくれる。

 今までの相手と同じくコスプレと言ってくるのが何とも言えないが、それでもその後に続く本物って言い草は何かね?

 確認するように尻尾と耳をそれぞれ動かしてみると、動かす方向へと頭ごと視線を動かして興味津々だと教えてくれる外の人間。

 

「気になるの? 触れてみる?」

 

 無言で頷く赤メガネの少女。

 初対面。

 それも人間相手だというのに、何故か気安く接する事が出来るのはメガネ仲間だからだろうか?

 そうかもしれないな、あの三妖精のすぐ転ぶ縦ロールも初対面で失礼な事を言ってきたが、こけて飛び出たメガネを見て何故か許せたわけだし。

 幻想郷で他には姉さんと小鈴、それと森近さんに河童の誰かくらいしか思いつかないしな。

 貴重なメガネ仲間達を思い出していると、手をワキワキとさせて耳やら尾に触れてくる外の世界のメガネっ娘。

 

「もふもふだけど、結構冷たいのね? なんか巻かれてるし」

「それはまぁ、退っ引きならない事情ってのがあるのよ」

 

 気まぐれに誘ってみたら、羽衣で包んでいない先っぽをそれはもうナデナデニギニギと、好き放題にしてくれる薄紫色の少女。

 いや、紫色と言ってしまうとあの胡散臭いのと同じ色合いになってしまうな、アレと比べれば初々しさも若々しさも断然感じられるし、こっちは少女らしく菫色としておくか。

 しかし、プリーツスカートが翻るほどテンション上げて触ってくれて、もふもふと褒められて悪くない気分だが‥‥こちらから言い出した事でもあるが、そろそろ飽きてくれないだろうか?

 生身の人間が長く触るには毒だと思うぞ?

 実際どうかは知らんが。

 

「満足したなら離してくれない? 只の人間にはあんまり良いもんでもないと思うわ」

「思うってまた曖昧ね、それはどうでもいいけどさ、隠しもせずに堂々としてていいの?」

 

「目立つコスプレ女は小さくなって歩けって事かしら?」

「誤魔化さないで……貴方あれね、化け物の類でしょ? それもあっちの世界の化け物ね」

 

 赤いアンダーリムのメガネにかかる前髪をフフンと撫でて、どうだと話してくれる娘っ子。

 あっちの世界が幻想郷を差しているのか、どこか別の世界を差しているのか、そこまでは読みきれないが化け物ってのは正解だ、触らせたから気が付かれた?

 違うな、本屋から視線は感じていたし触れる前から本物だったと言ってきた、だとすればすり抜けた辺りで確信でも得て絡んできたのかね?

 さっきは見比べていたわけだし、そこから察して現れたと考えるべきか。

 

「世界云々は何処を差すのか定かではないけど、化け物というのは正解ね。わかっていながら怖がりもしない貴女は何? 只の人間‥‥にしては恐れもなさそうだし、図太い性格してるわね」

 

 種族天邪鬼ではないけれど、誤魔化すなと言われれば誤魔化したくなるのが性、そうしろと囁くあたしの性根の通りに話の筋を相手の方に逸らす。

 華奢な少女に図太いと、容姿の雰囲気からは見られない事を伝え、未だに触られている尻尾から手を振り払い、そろそろ終わりと仕草で煽る。

 普通の、それも外の人間相手に能力を使うなど考えてもいなかったが、いつまでも小娘を構っているほど暇でもない。いや、暇ではあるのだけれども‥‥そうしていては何も出来そうにないし、頭の中もそのメガネの縁みたいな色にしてあげて、テキトウに煙に巻こう。

 

「もうちょっとさぁ、度胸があるとか言い方ってあるでしょ? 全く、念願の化け物と会って会話まで出来て、願ったりだと思ったのに調子狂うわ」

「化け物に狂わされて喜ぶのはいいけれど、別の心配はしなくともいいの?」

 

 煽りは逆効果だったか?

 悪態付きながらも願ったりなどと言われてしまった。

 が、これで調子は外す事だ出来た、浴びせてくれた溜め息からも冷静さより呆れが感じられたし、上手い事興味が逸れたのだと良いように捉えて、今度は別の方向でからかっていこう。

 別の心配事は構わないのかと、思考の逸し先を撒いてあげるとなんの事かと傾いで少し悩み出す現代っ子、そう悩む事もないだろう?

 話す相手は自身が言った通りの化け物なのだから、そっち方面の心配くらいすぐに思いつかないとそのうちに痛い目を見る事になるぞ?

 こっちの世界に痛い目見せてくれる化け物が残っているのか、それも知らないし興味もないが。

 

「喰われるとか。こっちの人間なんて久しく喰ってないし、見た目も好みだし、来訪記念に味見してもいいかもしれないわ」

「えぇ~‥‥見た目も味にも自信ないから勘弁してよ、もっと可愛いのにしたら? あっちの人達の方が肉付きいいよ?」

 

 指で差された先を横目で見ると、スーツ姿の成人女性。

 黒のストッキングに短めのタイトスカートが合っていて確かに肉付きは良さそう、自分で着るならああいった物もいいなと感じるが喰うとなれば話は別だ。

 あれでは化粧が濃くて粉っぽい感じが舌に残りそうだ、年齢もこっちのメガネっ娘よりは十は上に見受けられるし、どうせ食うなら若い方がいい、推薦されたあれは又の機会と考えてパスしよう。

 

「残念、化粧臭いのは嫌いなの。貴女も十分可愛いし、メガネが似合うというだけでも合格点だから、美味しく頂くのになんの問題もないわ」

 

 勘弁してと突き出してくれたお手々を取り、手の甲を指先でつぅっと撫でる。

 腹に収めるという意味合いで言葉を吐きつつ、態度の方は別の意味で取って喰うと知らせてみると、軽い反応の拒否を示しながら手を振り払ってくれた。

 後はこのまま呆れるなりして消えてくれれば、好ましいメガネ仲間を喰わずとも済むのだが、振り払った手に手品師のような白い手袋はめて、何やら構えてくれるお嬢ちゃん。

 表情にはやる気が見えるが、何かやるってか?

 

「化け物の癖に俗っぽい趣味してるのね、それでも喰われるのは困るし‥‥手を出すって言うなら私にも考えがあるわ」

「俗な考えを体現させたのがこの国の妖怪ってやつだと思うけど? 構えてくれて、何か見せてくれるのかしら?」

 

 シャッという効果音でも聞こえそうな構え方で取り出したカードを広げ、こちらに向かって見せつけてくれるが、星やら□やらが書かれたタダの紙っぺらがなんだというのか?

 眺めていると四、五枚のカードを空中に放ってこちらに奔らせてくる‥‥が、所詮はタダの紙切れ、避けもせずに片手で払い、ペシッと地面にたたき落とした。

 これで抵抗なのかと見つめていると、片目を瞑ってニヤリと笑う一応の敵対者。次なる手品はなんだろうかと佇んでいると、カードが触れている地が持ち上がり、辞書でも閉じるような動きでバクンと閉まった。

 押し花にでもしてくれそうな勢いで閉じる油臭い地面だったが、閉じ切るタイミングに合わせて身体を霧散させその場から一旦消えた、再度バクンと鳴り合わさると、聞こえてくるのは勝利者の声。

 

「今時の女子高生(超能力者)を舐めたのが悪いのよ! 化け物なんて言うからどんなのかと思ったけど大した事ないのね! あっちの妖怪が皆これなら‥‥イケるわ!」

 

 トドメのつもりなのか、道路標識を浮かばせると閉じた地面に深々突き刺す女子高生とやら、女子高生ってのは昔で言う陰陽師的な職業だったりするのだろうか?

 ケラケラと笑い揺らす召し物も、言われてみれば何か制服っぽくも見える、術師というよりは鈴仙の格好に近い感覚もあるが、あれも月の軍人の制服らしいし、これも何かの団体に属している制服なのだろう。

 人外、というのは失礼か、現人神だという風祝も外では女子高生だったと聞く、ならば異能な者が属する団体が女子高生ってやつなのかもしれないが、その辺りはどうでもいいか。退治できて満足したのか去ってくれるようだし、このまま忘れてもらおう。

 アハハと笑い去る女子高生の背中を眺め、過ぎ去ったのを確認してから高い建物の上で顕現する。先ほどまでいた辺りを見下ろして外にもまだ面倒な異能者が残っていたかと頷いて、大きな看板に背を預け荒事終わりの一服を済ます。

 背もたれ代わりにしている電気式の看板には『煙草は二十歳になってから』なんて表示されたが大きなお世話だ、こちとらその十倍じゃきかん年齢だ。

 そんな事を馬に乗った異国人のおっさん相手に思い、煙を吹きかけぼんやりとした。

 一息ついて見上げる空。

 ちょっと遊んでいたせいでとっぷりと暮れ、逢魔が時というには暗くなった外の世界。

 映る絵が変わる看板を背に、副流煙を振りまいて思う。主しそうな人間も未だにいると知れた、もう少し探せば他にも変なのがいて楽しい事になるかもしれないが、尻尾に巻いた羽衣が夜風に靡いて早く使えと自己主張してくる。

 主張の後ろに朧気に見える気がする友人達の顔、そういやこころには少し出てくるとしか言ってなかった、あまり待たせても悪いし放置がバレれば南無三される。

 ならいいや、後は本題を済ませて戻るか。

 取り敢えず本来の仕事をしようと、バサッと月の反物を広げる。

 強い街の灯りを受けても淡い青に見える羽衣を握ってみると、行き先は決まっていると言わんばかりに引っ張り上げてくれた、このまま握っていればそのうちに到着するのかね?

 よくわからない原理で浮かび始めた月の乗り物をキュッと握って、か弱く揺らぐ月光が差す方へとフラッと舞った。


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