東方狸囃子   作:ほりごたつ

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幕間 文々。新聞

~~~読者の皆様は覚えているだろうか、筆者が以前に命掛けの取材を敢行し記事にした恐ろしい妖怪のことを。人の争いを心から楽しみ、傷ついた人の血肉を喰らい狡猾に笑う恐ろしい妖怪がこの幻想郷にいると記したことを。あの妖怪に筆者は再度遭遇する事に成功したのである、この悪逆非道の妖怪が気でも狂ったのか博麗神社で不定期開催されている宴会に参加するというのだ。きっと幻想郷を揺るがすような大きな思惑があっての参加なのだろう、私はこの幻想郷に住まう一人の者として、正義に生き真実を追い求める新聞記者としてこの妖怪の悪事を許すわけには断じていかない。もし私に危険が迫り、命を落とすようなことがあったとしても私は幻想郷の皆様に真実を伝える事をやめ……~~~

 

「さすがに脚色しすぎよね、というかあいつ、人里に普通にいるし」

 

 途中まで書いた記事を丸めて投げる、カサッと乾いた音がした。今月はずっとこんな調子だ、記事を書こうと筆をとりある程度までは書くのだが途中で詰まり捨てることになる。

 いっその事休刊にでもすれば気が楽になる、それは自分でもわかっているのだがスランプで休刊にした事をあいつ(はたて)に知られると何を言われるかわからないし、私のプライドもそれは許さない。

 ギリギリまで悩み、それでもダメなら今月は天狗の話題で埋め尽くそう。

 

「それこそダメね、はたてにもアヤメにも笑われるわ」

 

 不意にアヤメの名前が出てきた。定期購読もしてくれないあいつに笑われるとなぜ思ったのだろう。そうか見られているからだ、今座っている机の隅にアヤメの写真を立てたんだった。

 前回の宴会で不意に見せた照れ笑いする顔。あまりに珍しい表情だったからたまに眺めて笑っていた。 これに見られているから名前が出たんだわ、そう思って引き出しにしまおうと思ったが魔が差した、私はあの時これを里でばら撒くと言ったのだった……清く正しい新聞記者として嘘をつくのはよくないわよね?

 そう聞いた写真のアヤメは笑顔だ。

 良し、頑張るわ。

 

~~~読者の皆様は覚えているだろうか、筆者が以前に命掛けの取材を敢行し記事にした恐ろしい妖怪のことを。人の争いを心から楽しみ、傷ついた人の血肉を喰らい狡猾に笑う恐ろしい妖怪がこの幻想郷にいると記したことを。あの妖怪に筆者は再度遭遇する事に成功したのである、この悪逆非道の妖怪が気でも狂ったのか博麗神社で不定期開催されている宴会に参加するというのだ。きっと幻想郷を揺るがすような大きな思惑があっての参加なのだろう、私はこの幻想郷に住まう一人の者として、正義に生き真実を追い求める新聞記者としてこの妖怪の悪事を許すわけには断じていかない。もしもの時は私の命を省みる事なくこの妖怪を止めてみせよう、そう心に誓い宴会に望んだのだが私は全く別の光景を目にすることになったのだ。

 

 あの、他人の苦しみと悲しみを啜りながら生きていた妖怪が、巫女の提案を受け弾幕ごっこを始めたのである、これは全く予想していなかった。命のやりとりを楽しむあの妖怪が少女達の遊びに興じ始めたのだ。

 しかもあの紅い霧の首謀者レミリア・スカーレット氏の忠実な下僕、紅魔館の門番を守り続ける紅美鈴氏と五角以上の勝負を繰り広げたのである、紅美鈴氏の放つ弾幕やスペルカードを華麗に避けきり、あろうことか自身のスペルカードを使って見事勝利したのだ。

 スペルカードも面白い物で人里の者でもわかる昔話を模した物だ、子供と一緒に眺め元のお話を当てっこしても楽しいかもしれない、機会が訪れたら一度見せてくれるよう頼んでみるといいだろう。

 人里の甘味処で季節の甘味を頬張り茶を啜っているという目撃情報を私は聞いている、ある筋から聞いた正しい情報なので間違いなくあの妖怪に出会えるだろう。

 しかしあの妖怪が極悪な思考をしている事には変わりない、最低限の礼儀と言葉使いには十分に気をつけて、何か甘いものの一つでも奢ってみれば気を良くしてスペルカードを見せてもらえるかもしれない。

 もしスペルカードを見せてもらう事に成功したら私、清く正しい射命丸にその時のお話を詳しく聞かせていただきたい、貴方の情報はきっとあの妖怪から身を守る術へと繋がる事になるからだ。

 そして、この記事をまだ知らないという人がいれば是非教えて上げて欲しい、少しでもあの妖怪『囃子方アヤメ』の犠牲者が減っていくことを望んでいる私、射命丸文からの切実な願いである。~~~

 

「こんなもんかな、さて写真をと‥‥」

 

 再度アヤメの写真を手に取るが動きが止まる。

 数秒悩んでその写真はまた引き出しに仕舞われた。

 変わりに手に取られたのは弾幕ごっこの時の物。

 美鈴が最後波に飲まれる寸前、船に乗り少しだけ楽しそうな表情を見せるアヤメの写真だった。

 それを一纏めにし封筒にしまうと、封をしたタイミングと同時に烏の鳴く声がした。

 

「はいはい今出ますよ、記事も纏まりいいタイミングだわ。誰だか知らないけど丁度いいわ。発行前の希少な物を先に読ませてみましょう」


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