東方狸囃子   作:ほりごたつ

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EX その11 商売上手

 春宵に酒と夜雀の囀りを味わい、ほろ酔い気分でフラフラ帰宅。

 帰宅途中は狂った波長に惑わされたが、酔いを覚ますにはちょうどいいとフラフラ迷って飽きるまで竹林を彷徨った。少し歩いてアォォンというご近所さんの遠吠えを聞いた辺りで飽き始め、能力使って弄ばれた波長を逸らしつつ真っ直ぐに家路に就いた。

 逸らして真っ直ぐとは我ながらひねくれていると感じられるが、あたし自身がひねくれ者なのだ、逸れたくらいが真っ直ぐなのかもしれないと、どうでもいい事を考え玄関扉をガラッと開けた。開け放つと視界に入るのは座卓に置かれた見慣れない賽銭箱。

 二つの神社で見るよりも随分と小さくて可愛いソレ、見慣れず気になるがまずは着替えやらが先だ、肩から下げていた白徳利を卓に置き、細帯解いて大事な着物を衣紋掛けにかける。見慣れたピンクのワンピースがなんでか先にかかっていたが、それを考えるのは後回しにするとして、身軽になったしまずはまったり一服しよう。

 

 肌着代わりの緋襦袢開けさせて、朝日を浴びつつダラケて微睡む。

 朝帰り自体は久々でもないが、朝から酔っ払ってこうしてダラケてみるのも結構久しぶりだ。以前ならこのまま寝ていたなと、偶にはそれもいいかもなと寝床に入っても良かったが、蓬莱人に向かって鼻を鳴らした後だったと思い出し、少し手間だが湯を沸かして風呂に入った。

 酔いに任せてあのまま眠り年配兎詐欺に見つかれば、生活ぶりを改めたんじゃなかったのかと口うるさく言われそうだったと、湯船で一息付いてから思い出した。

 長風呂はせずにさっさと上がり、パパっと水気を拭った後は面倒だからそのまま寝る。

 潜り込むのは当然自分の寝床。

 というよりも今日はあたしの寝床しかない。

 愛する鼓は相変わらずいたりいなかったりする為いない時は基本一人だ、戻るまでは維持管理してくれていたようだが、あたしが現世に帰ってきてからは以前の様な半同棲生活に戻った。

 

 いたらいたで二人で楽しむ、いなきゃいないで一人を楽しむ。

 束縛するつもりもないしされたくもない為、今くらいの暮らしがあたしには丁度いい、などと考えるのはそこそこにそろそろ寝るとしますか、いつまでもダラケていては布団の中で待っている誰かさんが焦れてしまう。

 少し盛り上がる最速天狗柄の布団を半分捲り、モゾモゾ潜って中で捕まえる。

 帰ってきたら寝るとわかっていて中で待っているのだからこうされても仕方がないと思ってくれているのだろう、攻撃も口撃もなく静かで暖かさも丁度良い抱き枕だ。

 サイズ的にも小さいし、丸くなって寝るあたしには丁度いいサイズの兎詐欺枕。

 結局鈴仙には捕まらずに我が家に来たようだ。

 

「あのさぁ、せめてなにか言いなよ」

「サイズがちょうどいいわ」

 

 白の下着とドロワーズという見た目だけは幼女らしい姿で潜んでいるのをとっ捕まえると、見本のような舌打ちを打つ抱き枕。

 余計な事は言わない、どうせイタズラ目的だろう。

 内緒で寝ていてあたしが気づかずに床に入り、上手い事雷鼓と鉢合わせすれば楽しい騒ぎ、そんな事を考えての行いだろうが残念ながらあっちは暫く戻ってこない。堂々と逃がさないように抱きしめる事からそれについても気が付いていそうだが、ソレについては何も言わずに敢えて放っておく事としよう、意外と抱き心地が良いから本格的に眠くて考えられん。

 丁度いいサイズと暖かさでうとうとし始めると、抱きまくら役から温い吐息が漏れた、温いのはあたしの体温だけで十分だから吹きかけないで欲しい。やめろと伝えるために揉んでみるが反応は薄い、揉む為のモノが薄いのだから反応も薄くて当然かも知れないが、寝間着ぐらい用意しろと叱ってくれた相手が我が家で、それも下着姿とは何の冗談だろうか?

 誘ってるのか?

 んなわけないな。

 よくわからないイタズラの理由を考えていると本格的に眠くなってきた、このまま寝るなと体を抱く手を強かに引掻かれたが、さして痛くもないしこれは放置して、ササッと惰眠を貪るとする。

 

~少女惰眠中~

 

 太陽が高くなった頃目覚めれば一人。

 それでも布団の中で一人というだけ。

 抱きまくらは先に目覚めて、我が物顔で卓につきお茶を啜っているようだ、わざとらしい啜り音が聞こえて煩い。起きたと知らせるように布団から尻尾だけ出して振ってみると、コトリと卓に湯のみが置かれる音と立ち上がる音が聞こえた。

 動きから聞こえるのはお茶の準備、相変わらずの目覚まし時計役もしてくれるようだ、お休みからおはようまで面倒を見てくれて随分とお優しい兎詐欺さんだが、こうまで優しいと後が怖い気がするがそれはそうなった時に考えよう。

 

「おはよう、てゐちゃん」

「もうこんにちはの時間よ」

 

「目覚めの挨拶だからおはようでいいのよ」

 

 減らず口を含んで挨拶してみるとフンと鼻を鳴らされて湯のみを差し出された。

 ササッと下着だけを身につけて対面するように座り、無言で手に取って口元へと近づける、口に含むと鼻を抜けていく柑橘系の香り。以前は日本茶派だと言っていた気がしなくもないが、こっちを淹れてくれるとは珍しい事もあるものだ、寝起きの頭をスッキリとさせてくれる風味を味わい煙管を咥えると、寝る前の話をほじくり返した穴掘り兎。

 

「雷鼓は帰ってこないし、アヤメは普通に寝るし、何のイタズラにもならなかったわ」

「あら、何かしてほしかったの?」

 

「してくれないと雷鼓に告げ口出来ないってだけウサ、師匠の言う通りで抱かれ損ね」

 

 ウサなどとわざとらしくつけてくれて、話すつもりはないとでも言いたげな兎詐欺さんだが、それは捨て置いて抱かれ損とは何の話だろうか?

 永琳と色のある話などした覚えはない‥‥事もなかったな。

 今の状況に当てるなら多分あの時の話だ。

 二枚舌と一寸の姫がやらかした輝針城での異変。

 あの時に輝夜を夜伽に誘ったが振られて、その後永琳からのお誘いをあたしから振った事があったようななかったような気がする、アヤメもつれないじゃないなんてあの女史に言われた覚えがある。

 

 丁度今のてゐのように微笑んでいた気がするが、あの時の永琳からのお誘いはそっちのお誘いだったのか。今になって感じるがあの時に断ったのは勿体なかったかもしれないな、あの月の頭脳に誘われるなんぞ二度とない事だったはずだ。今後あったとしてもあの時に邪推した実験やらの方で誘われるだけだろうし、あの時に頷いておけば良い冥土の土産が出来たかもしれない、今となっては何かしらの実験に誘われる事もないわけなのだし、医者要らずの体は便利だがそれはそれで悲しい気もする。

 それはともかく、なんでまた告げ口等とつまらん噓をついた?

 ついでにこの兎詐欺が微笑むってのはなんだ?

 情事の後で満足したならわかるが、手は出してないぞ?

 咥え煙管で固まって、何もない天井へと上る煙を見つめていると、淑女のような微笑みからいつもの悪い笑みへと顔色変えて話すイタズラ兎詐欺。

 

「まぁいいや、ちょっと付き合いなよ」

「なに? 布団に戻ったらいいの?」

 

「それはもういいからさ、儲け話にのっかりなって」

 

 先に飲み切った湯のみを置いて代わりに箱を手にすると、奉納と書かれた札がピラピラとあたしの視界で揺らされた。いつの話か覚えていないが、兎詐欺と呼ばれるようになった行いをこの箱使ってやらかしたんだったか。

 詐欺の片棒を担いでくれと誘ってきている兎詐欺さん。

 特にやることもないし、こいつから誘ってくる事などあまりないから悪くない。

 少しだけ乗り気になりニヤリと笑んでみせる、するとてゐの両手に収まっていた賽銭箱が差し出された、見慣れない物持たせてくれて幸せ兎詐欺のカバン持ちに、いや、箱屋にでもなれって事かね?

 

「あたしは箱廻しじゃないんだけど?」

「知ってるさ、幇間(ほうかん)だろ?」

 

「てゐをおだててもいい事ないし、持ち上げられるほど偉かったかしら?」

「それじゃないね」

 

「これじゃないの? なら今いないから鳴らせないわね、叩かれるより噛まれる方がイイらしいけど」

 

 言い終わるのとほとんど同時、被せ気味でお惚気はいらんと怒られるが別に惚気けたつもりはない、幇間なんて言われたからそれらしく返しただけだ。

 太鼓持ちやら太閤持ち達の事を言ったのだったか、幇間って奴等は。

 太鼓打ちの男芸者の事を言うとか言わないとかって言葉だったはずだから、それに習って今の愛用鼓を言ってみたがそれの何が悪いのか?

 いや、悪くはないのか。

 太鼓持ちで太鼓打ちだと思われているからそう言われたのだろうし、昨年の正月に永遠亭の庭先で太鼓なんて打ったからそれを覚えてくれているのか?

 今頃言ってくるくらいに記憶に残っているのなら案外気に入ってくれているのかもしれないな、腹黒兎詐欺の師匠からのお誘いじゃないが、こいつから良い意味で覚えられる事もそうない事だとは思うし、取り敢えず乗ってみるか。

 屋台で乗りも乗られもするとも言ったし、偶にはコイツに乗ってみよう。

 

「姉さんに習った事もあるけれど、ほとんど我流だから野幇間(のだいこ)よ。で、それ持たされて何させられるの?」

「野幇間でもなんでもいいさ、兎も角行くわよ、まずは人里ね」

 

 小さな賽銭箱を人に放ってさっと立ち上がる先輩兎。

 あたしの方はまだお茶も残っているし外に出られるような格好でもないのだが、さっさと着替えると目で語ってくれて随分と煩い、話していても黙っていても煩い兎さんで非常に困る。取り敢えず燃え尽きた煙草の葉を火鉢に落とし、ダラダラと着替えていると尻を引っ叩かれた、スナップ利かせてくれてスパァンと鳴らしてくれるのはいいが相手が違う。

 あたしは打つ側で打たれる側じゃない、打たれる側は今日はいないと言ったろう?

 

~詐欺師移動中~

 

 ダラダラ着替えて、ダラダラ歩いて。

 やる気なく口笛でも吹きながら兎を追って、着いたは里の出入口。

 入り口付近で浮いている憲兵役の赤い首だけに手を振ってみると、チラリと見られてからすぐに視線を逸らされた、本体ではなく首だけだからつれないのか?

 首なのだから話す舌はあるはずだ、首を括ったわけでもないのだからこんにちはくらいあってもいいと思うが‥‥いや、あの飛頭蛮は本体もあんな感じだったなと思いつつ、てゐと並んで里の内へと歩んでいく。

 あたしもてゐもどちらも飛べるが地面を歩くほうが多い二人、あっちは軽快に飛び跳ねている事も多いけれどそれでも飛ばずに地を行く事が多いのはなんでだろうね。

 なんとなく聞いてみたら地に足つけて生きる方があたしの好みだ、そんな事を言い返された。堅実やら手堅いやらとは程遠い詐欺師の癖に何を仰る兎さんと思ったが、騙すのにも手順がいるし突飛な噓は言わないからあながち間違っていないのか。

 なんて感心し頷いていると、てゐが少し話した里の人が寄ってきて、頷いて動いた視線の動きと同じタイミングでカコンと賽銭が入れられた。てゐが何を話したか知らないがこちらを見ながら手を合わせる里の人、あたしがこの里で拝まれる事などないと思うが、一体何を話したのやら。

 

「そういや雷鼓はドコ行ったのよ?」

 

 手腕に関心していると全く関係ない事を聞いてきた、両手を後頭部で組んで見上げお伺いを立ててくれるが、なんでまたいきなりその話をするんだか。

 突拍子もない会話の流れで何が言いたいのか分からないが、まぁいいか、野幇間として付いて来ているのだし拍子を取るつもりで太鼓の話題を返しておこう。

 

「打ち合わせって言ってたわ」

「ふぅん、それで帰ってこないのか。寂しい暮らしに戻ったねぇ、アヤメ」

 

 ニシシと笑うロリータ兎。

 楽しげに笑ってくれるが言われるほど寂しくはないと感じている、いればいたで面白いがいなきゃいないで別の楽しみがあったりする、今朝の兎詐欺枕なんかもその別の楽しみってやつになるだろう。ついでに言えば今もこうして構ってくれているし、本当に親切な優しい兎詐欺さんでありがたく思う。

 

「代わりにてゐが構ってくれるみたいだし然程寂しくもないわ、今朝は抱き心地の良い枕になってくれたし」

「人の失敗をいつまでも言わないでくれる?」

 

「失敗だなんて珍しいことを言うわね、てゐの事だからあれで終わりってわけではないんでしょ?」

 

 成功するか失敗するかわからないようなイタズラをこの兎詐欺がするわけがない。

 こいつがしでかすイタズラは十中八九成功する。

 今までの行いからそう確信を得つつ問掛けてみるが、アレはアレで終わりだと笑ったままで教えてくれるイタズラ兎詐欺。本当にないのか再度聞くが本当にないと返される、これでは拍子抜けだが出だしも突拍子もない流れだったし、どうでもいいか、気にしないでおこう。抜けた拍子を整えるつもりで、リズムよく尻尾揺らすと機嫌でもいいのかと言われたが、悪くはない。普段は冷水浴びせてくれる事しかしない白兎詐欺が珍しく構ってくれているのが存外面白く、気分が良い。

 

「てゐが遊んでくれるからゴキゲンね」

「そりゃ良かった、あたしは儲けてアヤメは楽しい、構ってやる甲斐があるわ」

 

「そうね、構ってくれて重畳よ‥‥暮らしぶりを見なおしたから分けて貰えるようになったのかしら?」

 

 何の話だったかと、垂れ耳をピクリとさせてからしらばっくれる幸せうさぎ。

 毎日自堕落に過ごすあたしには分ける幸運はないと言ってくれていたはずだが、毎日ではなく、今朝のように時々自堕落に暮らす程度になったから運を分けてくれるようになったのだと勘ぐってみる。邪推した通りに軽口吐くと、余計な事考えていないで、以前のお説教の代金回収に付き合えとイタズラに笑む因幡の白兎。

 見慣れた笑い顔にはいはいと返し、言われた通りに無言でついて行く。

 次に向かうは里の中央辺り。

 霧雨の大店がデーンと構えるちょっとした広場、というか交差点だから広くなっているだけか、牛車も馬車もないけれど道が交差している十字路なのだから交差点でいいだろう。

 そこを通り過ぎて橋を渡ろかという所で次の獲物を視界に捉えた、柳の下で佇んでこちらを見ずに背中を見せる赤頭、なんとなく浪漫を感じるような赤い外套を着た妖怪を見つけた。 

 

「あ、いたわ、本体」

「どれ、お、いたいた」

 

 詐欺師とペテン師の二人連れで入り口にいた生首の本体に近寄る、わざとらしく足音鳴らして近づいてみれば逃げるかもと思ったが、逃げも隠れもせずにじっと動かない里に隠れるデュラハン娘。二人でニヤニヤ近づいていくと綺麗に背中を向けてくれるが、それは気にせず頭とっ捕まえて持ち上げ回した‥‥というのに、目は合わされず視線を逸らす赤蛮奇。

 能力使っていないのに逸らさないでほしい。

 

「何しに来た?」

「さぁ? あたしはついて来ただけよ?」

「ついてってそっちの兎に? 詐欺師二人がつるんで何しようって言うのよ?」

 

「一緒にされたくないねぇ、あたしゃ真っ当な商売をしに来たってのに」

 

 商売?

 と持ち上げた頭と声を揃えて問うと、そうウサと話すてゐ。

 賽銭箱なんて持ちだして、以前のイタズラの再現でもするのかと思っていたが今日は真っ当な商売なのだそうだ、売り物なんて何も持ち出していないが口八丁で何を売るつもりだろうか?

 面倒な奴等に捕まったと表情を暗くする赤蛮奇とは対照的に、騙し甲斐のあるやつを見つけたと朗らかに嗤う因幡の腹黒白兎。暗い顔した柳の下のデュラハンと明るく嗤う白兎、春というにはまだ早いが二人合わせて柳暗花明(りゅうあんかめい)のようだと笑ってから気がつく、コイツは兎で花ではなかったなと‥‥それなら別の何かが当てはまるか?

 なんて事も考えたが面倒でやめて、そのままでいいやと思い直した、蛮奇からは詐欺師二人と一緒くたにされたし、あたしが菖蒲(あやめ)なのだからこの兎は杜若(かきつばた)でいいだろう。

 思いつきの割には然程悪くない例えだと一人頷いていると、真っ黒な腹から売りつける言葉を杜若がポツポツ並べ始める。

 

「いいから賽銭入れなって」

「なんで私が」

 

「いいものを売ってあげると言ってるのさ」

「何もいらない、必要ない、間に合ってる」

 

「何もいらないってか、幸運もいらないって? 巡りが変われば今みたいに絡まれる事もなくなるよ? きっとね」

「もう遅いからいらないけど……」

 

 頭と離れている赤い胴体に擦り寄っていくてゐが猫なで声で話す。

 幼子と然程変わらない体でクネクネと動くが、その体型で色気振りまこうとしても全く以て香らなくて、なんの意味もなさそうだ。それでも悪くない商品が並んだな、四十葉のクローバー分くらい運がいい兎詐欺さんからそれを売ってやると言われ少し悩み始めた買い手側。赤蛮奇にくっつくとチラリとこちらを見て頭も寄越せと指で仰いできたので、言われた通りに持ち上げていた頭を放る、ろくろ首も投げられた瞬間に頭だけでも逃げればいいのに逃げようとはしないようだ。

 逃げればもっと面倒臭いとでも考えたか?

 それは多分正解だ、やっぱりこいつは敏いなと隠れ住む妖怪を眺めて感じていると、付き纏って話すてゐを邪険に払ってから賽銭箱に少し入れた。

 悩んだ結果買うことにしたのだろうか?

 それにしてはよくわからない表情だが?

 モヤモヤとした顔色を浮かべている赤蛮奇を真っ直ぐ見て教えろと視線で語ってみる。

 それらしく押してみると結構素直に話してくれると知っているから、なんとなくそうしてみたがそれくらいではネタバレしないろくろ首。

 柳の下の妖怪なのだからさっさとネタバレしろ。 

 

「いらないんじゃなかったの?」

「運の代金じゃない、これは別の代金よ」

 

「別ってなにさ?」

「売りつけられた恩の代金、わかったならもういい? サボりと見られて白鐸から一発、なんてあったらたまったもんじゃないわ」

 

 文字通り言って逃げた妖怪の人里警備隊員。

 最後に聞き返したてゐにではなくあたしに言っていく辺り、恩があるのはこっちだろうがあいつに対して何かしたっけか?

 正邪の逃亡劇で取られた半裸写真を真似て化け人里の中を歩いてみたりして、ひっそりと影に隠れる本人に変わり存在アピールなどはしたが、あたしがした事などそれくらいしか思い当たらない。恩を着せたというよりもぬれぎぬを着せたくらいしかしていないわけなのだが、あいつあれでマゾ気質でもあったのだろうか?

 

「さっきの人間といいろくろ首といい、結構な改善ぶりだね、アヤメ」

「どちらも思い当たらないのがなんとも、ね」

 

「前者は娘が世話になったってさ、ろくろ首は鈴仙から聞いてるよ。我儘通したらしいじゃないか」

 

 イタズラ兎詐欺が悪戯に笑みポロポロとネタばらししてくれる、前者はどうやらコックリさんで呼び出してくれた娘の親らしい。恋のお悩みを聞いてあげてそれとなく背を押した結果、いい感じの良縁となったそうだ、身を固めるには数年早い気もするが両家とも悪い感じではなく互いに息子と娘のように可愛がっているそうな。

 後者の方は言わずもがな、異変の時に里内でやらかした事をなかったことにしたからだろうがあれはあたしの我儘を通しただけだ、礼を言われる事ではないし感謝などされてしまえばほくそ笑む事も出来ず、困る。

 

「どちらにも何もしてないわ、あたしが楽しんだだけよ」

「あんたの事なんてどうでもいいウサ。やられた側が何かされたと感じて、その結果が良ければ全て良しって言うだろ?」

 

「それでも腑に落ちないわね、前者は兎も角赤蛮奇にはもうちょっと困って貰いたかったんだけど」

「さっき困らせてやったんだからそれでいいって思いなよ、里にいるからあぁやってからかってやれるんだし」

 

 兎も角なんて言ったからか伸ばした指で腹を突いてくる兎さん。

 そこらに広がってる角生やした幼女じゃないんだ、腹をつついてくるのはやめてほしい。ツンツンと突かれる腹を見ながらどちらにも何もしていない、ちょっと背を押しただけだとしつこく返答してみると、妖怪が関わるならそれくらいのがいいだろ、なんて何処かの姉みたいに程々でいいじゃないかと肯定されてしまった。

 あざとさを消して老獪な顔になる先輩妖怪、見た目が幼いからあれだがコイツも幻想郷では珍しい獣上がりの年上妖怪だったなと思い出し、それに肯定されなんとなく嬉しくなった。意識せずとも自然と揺れる縞柄尻尾をチラリと見られ、今度は本当に機嫌良さそうだと言われてしまうが、全く以てその通りだ。

 素直に上機嫌だと返すと、一瞬止まってからニヤッと笑われた。

 偶に素直さを見せるとこんな顔しかされない、と鼻を鳴らして軽く睨むがその視線もさほど効かず、お説教の代金回収は出来たから後は一人でやると賽銭箱を奪われた。

 

 一人にされてしばし悩んだ後気がつく。

 上手い事あたしの功績を使われて小遣い稼ぎに利用されただけではないのか?

 そういった結論に至りあの兎詐欺め、と思ってしまったが追いかける事もなく金も取り返そうとは思わなかった。テイよく騙されてうまい汁を吸われたが今日のアレは杜若だったな、それならば似た者に騙され利用されただけだと素直に諦め一人笑って場を濁した。




少し補足を。

幇間(ほうかん)
宴会で盛り上げる事を職業とする人達や、太鼓持ち、男芸者という意味合いの言葉。
『幇』だけですと助けるという意味合い、幇助するなんて言いますね。
『間』と合わせて、人と人の間に入って間を助けるって意味だそうです。
幇間と書いて「たいこ」や「たいこもち」と詠む場合もあるそうな。

野幇間(のだいこ)
師匠に付かずに見よう見まねで上記を行う人の事を野幇間というそうです。
ちなみにのだいこで変換できました、驚きました。

柳暗花明(りゅうあんかめい)
柳の下は暗いけど花は明るく咲くよねという字面そのままの言葉。
春めいた景色に中てる、故事成語だか四字熟語だったはずです。

菖蒲・杜若ですがこれも、いずれ菖蒲か杜若ということわざです。
どっちも似ていて違いがわからん、甲乙つけがたいなって意味だったはず。
語源の花が似ている様から、だそうな。

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