東方狸囃子   作:ほりごたつ

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なんでか続いてしまいました。


EX その10 焼き物上手

 肩組むもんぺは白髪揺らして、組まれたあたしは着物の袖と白徳利を揺らして、似たような髪色の二人で肩を組み歩く迷いの竹林。

 ここに住んで長い二人が迷いもせずに向かった先は、竹林と人里の間で営まれているいつものたまり場、夜雀屋台。『八ツ目鰻』と四文字書かれた紺色の暖簾の『鰻』の部分をいつもの様に潜りつつ、ただいまとあたしの席へと腰を下ろすと、おかえりなさいと迎えてくれる女将さん。

 一緒に来た若白髪は『ツ』の辺りに腰掛けて、少しスペースを開けて二人で座る。

 特に気にする距離感があるわけではなく、誰かさんは右の端に腰掛けるのに左手で煙管を持つことしかしない為、妹紅が気を使って離れて座ってくれているだけだ、彼女のように気遣いできる女は素晴らしいと思う。

 席につくとあたしも妹紅もいつものとしか頼まない。

 わざわざいつものと頼まなくても、いつも通りその日の小鉢料理と冷酒が出され、いつもの白焼きが八藤丸印の炭で焼かれ始めるのだが、それでも言うのは気分だろう。

 注文に対して、はいと笑顔で頷いてくれる女将が可愛らしくてわざと言っているフシもあたしにはある。

 

「うちで一緒になるのは多いけど、揃って来るのは珍しいですね。それにアヤメさんの奢りだなんて余計に珍しいわ」

 

 パタパタと団扇を仰ぎ火加減を見る屋台の女将。

 ミスティア・ローレライが客席を見ずに珍しいと言ってくれるが、確かに珍しい気がしないでもない。ご近所さんらしくここで合流してそのまま飲み、互いが満足した頃にお先と言ってバラバラに帰ることばかりで、一緒に来店する事は少なかったかもしれない。

 妹紅も似たような事を考えてたのか、屋台の屋根を見上げてから小さく頷いていた。

 

「今日はお詫びの奢りなのよ」

「お詫びなんて、今度は何やったんです?」

「今度も何もしてないわ、いつも何かしてるように言われるのは心外ね」

 

「何もしてないってどの口が言うのよ、人ん家失くしてくれたってのに。謝りもしないって酷いと思わない?」

「それはそれは、大変でしたね」

「ふっ飛ばしたのは自分でしょうに。それに代替案は出したわ、妹紅が乗ってこなかっただけよ」

 

「わざと煽ってきたくせによく言うわ」

「煽りとわかって乗るのが悪いわ」

 

 小鉢つついて酒を含みつつ互いに悪態をついていく。

 言葉尻だけ聞いているとどちらも口悪く話していて、また一騒動ありそうな雰囲気に聞こえるかもしれないが、あたしも妹紅も荒れているわけではない。妹紅の方もスッキリと爆発四散した後で後腐れもないし、あたしは腐る体がないのだから残るものもない。

 ただ先程の騒ぎをぼやいて女将に話しているだけだ、言われている女将もまた騒いでこの人達は、くらいにしか見てくれないので気安く話せて楽である。

 

「女将はどっちが悪いと思う?」

「ん~、アヤメさんかな?」

「女将まで‥‥そうやって何でもあたしのせいにすればいいのよ」

 

 グラスを傾けながら妹紅が話すと女将がそれに乗っていく。

 同士が出来た妹紅がイタズラに笑うと女将も同じ様に笑ってくれるが、何でもかんでも人のせいにしてくれてからに、それでもほんの少しだけ悪かったかなと感じているから素直に奢ってやる気になったのに。

 グラスに残った冷酒を煽りつつ、どうせあたしが悪いんですよと、しっぽを振ってそっぽを向くと女将からお酒と言葉のおかわりを注がれた。

 

「珍しくツンとして、ホント素直じゃない」

「そうよ、性悪で人に迷惑をかけるのがあたしなの」

 

「開き直るんだから確かに性悪よね」

「妹紅さんも茶化さないの、言う割に素直に奢るんだから‥‥だから悪いのはアヤメさんだって言ったのに」

「ん、どういう事かしらね?」

 

 注がれたお酒をチビチビ飲みつつ、グラスを口に付けたまま聞き返すと笑みを明るいものに変えて女将が答えてくれた。

 

「どこかで悪いと思っているから奢ってあげるんでしょ」

 

 ニコニコと笑みながらそんな事を言われてしまってグラスを傾ける手を止めてしまった。恥ずかしいからというわけではなく、あっさりと読まれてしまってそちらに驚いた為だ。

 久々に感じるこの雰囲気、曖昧に濁し煙に巻くのをモットーにしているのにすんなりと内面を読まれてしまって困りモノだが、以前ほど困ると感じないのは理解者がいるというのは悪くないと気がついたからだろうか?

 

「なによ、やっぱり悪いと思ってるんじゃない」

 

 イタズラに笑っていた妹紅がなにかが繋がったかのような、スッキリハッキリとした顔になりあたしの顔を覗きこんでくる。確かに悪いとは思っているがやっぱりとはどこにかかってくるのだろう、住まいを灰燼に帰してしまった事に対してか?

 それなら悪いと思っているが‥‥

 

「やっぱり?」

「ほら、質問したでしょ?」

 

「あぁ……家の方はほんの少し悪いと思っているけど、そっちは悪いと思ってないわよ? 殺したって死なないんだから悪びれる事もないでしょ?」

「また物騒な話になったわ、輝夜姫だけじゃなくてアヤメさんとも殺し合う事にしたの?」

「一方的に殺されただけ! そっちは悪くないってアヤメの価値観ってズレてない?」

 

「妹紅には言われたくないわ、断捨離もいいけど着替えくらいは多めに用意しなさいよ……ねぇ、女将?」

「う~ん、そうねぇ‥‥」

 

 鼻を鳴らして会話を進めていき、女将も巻き添えにしてみる。

 綺麗に死ねば元通りとなるため着替えも必要ないらしいが、死ななきゃ戻らない上に風呂もないようなあばら屋に住んでいるものだから、極稀に気になる時もある。

 それでも鼻を摘む程ではないから特に指摘したりはしないのだが、世話焼きついでにそのあたりもつついてみる。嫌味な笑い顔のあたしから吐かれた文言は全く効かなかったが、女将の可愛らしい嘴に突かれて多少気にはしたらしい。

 

「アヤメは兎も角女将にまで言われたし、今後は少し気を使うわ」

「口が減らないけどいいわ、その方が乗られる方も嬉しいと思うわよ」

「乗られる方って‥‥そうか、妹紅さんはやっぱりそっちなんだ」

 

 始まりとは逆に、あたしと女将が似たような笑い顔で妹紅を見つめる形になる。

 余計なところにまで飛び火したのが気恥ずかしいのか、さっきまでの誰かさんのようにそっぽを向いて酒を煽る妹紅だが、その態度で肯定してしまったと考えたりはしないのかね。

 まぁいいか、仲良き事は美しき哉というしこれ以上追求するのはやめておこう、女将はこういった話が好きだし、そろそろ話の筋を逸らさないと藪から蛇が出てきそうだ。

 

「アヤメさんはどっちなのかしら? 乗る方? 乗られる方?」

 

 どうにも蛇は既に出てきた後だったらしい、久しく食していないが偶にはと思い出てきた蛇も美味しく頂いておく事とした。キラキラとした顔で聞いてくる女将さんに、両方だと笑って答えると女将よりも妹紅から色々と聞かれ始めた。

 カウガールだの言ったからその仕返しのつもりだろうが、こちらからの藪蛇も気にせず貪っていく、聞かれた事全てにどちらとも取れるような物言いで返答をすることにしよう。

 下手に否定するよりはそうした方が丸め込める、騙しや誤魔化しはあたしの道だ、蛇程度でどうにかなる事もない。

 

~少女達酒宴中~

 

 そこそこ呑んでそこそこ話して、キリがいいところで妹紅と二人屋台を後にした。

 二人とは言ってもそれぞれ帰る先は真逆。

 あたしは自分の住まいへ帰り、あっちは里へと歩み始めた。

 別れ際にいつでもどうぞと話してみると、偶には顔を出すとだけ言ってもんぺに両手を突っ込んで歩き去っていった妹紅。ほろ酔いで笑っていた顔には蘇りたての時みたいな暗いものはなかったし、あの雰囲気で行くならそう悪くもないだろう。

 後であたしも顔を出して世話焼き教師をからかっておこう、乗ったのか乗られたのか、餌を探す狸らしく根掘り葉掘りと聞いてみてどんな顔をされるのか今から楽しみだ。

 そんな事を考えながら真っ直ぐに我が家に向かって歩いているが一向に帰り着かない、来る時は素直に来れたのに帰りは戻れないとかどういった状況だ、これは?

 住み着いて幾久しいし、迷いの竹林だから迷うなんて事はないと思うのだが、なんで帰れないのだろうか?

 

 暫くウロウロ歩いても一向に帰れない我が家。

 帰りたいのに帰れない、通りたい帰り道がわからない状態でも気にせずにブラブラと歩いて、なんとなくそれっぽい鼻歌を歌い歩く。

 フンフンと女将のように歌うのは何処かで聞いたわらべ唄。

 唄の通りに行きはよいよい帰りはこわいって感じになっているが、あたしの場合は行きはシラフで帰りが酔い酔いだ、細道というほど狭い竹林でもないし取り敢えず何か原因があって帰れないのだから、それを探って帰り着くかね。

 

 ダラダラ歩いて進んでいくと見慣れないちっさいのが三人と、見知った相手が大小二人いた。見慣れない方は全員背中に羽がついていて、見知った方は頭に耳が生えている。

 よくよく見れば大きい方はまるで無軽快な座り姿をしている。

 色のある話をした後で少しだけムラムラしている気がしなくもないし、アレでも拝んで目の保養でもしておきますか。

 能力を行使し本気で全てを逸らす。こういう時に無駄遣いしないでやる時にやれと思われそうだが、まさに今があたしのやり時だ、きっと。

 その場にいる誰にも気が付かれずに移動する。

 なにやら話す見慣れない三人の背中側へと動き、それと対面するように座り込んで石の上で丸出しになっている大きな方、鈴仙の正面に回ってから煙管咥えてそれを拝む。ミニ・スカートなのだからもう少し気を使えばいいのにと考えなくもないが、こういう抜けている所がこの子の良い所だと思い込み、もうしばらく楽しむ事にした。

 覗きこまなくとも見えるのは白と水色のストライプ、可愛いとは思うけれど、もうちょっと色気があるのを履いてもいいんじゃないだろうか?

 人里で人気もある兎さん、オドオドとした態度の中には派手で大人びたものが隠れている、なんてギャップでも作ってみればその手の趣味の者達にも人気が出そうなものだが。

 悶々とした事を考えていると四人の立ち位置が少し変わる。

 何かを話す四人だったが、岩の上で丸出しでいた鈴仙が降りると見覚えのある妖精が岩に乗り元気に話し始めた。

 

「で、そのてゐさんを見つければいいのね!」

「なら私の能力でいけるわ、生き物なら場所がわかるもの」

 

 岩の上で立つ妖精、なんといったかサニーなんたらいう妖精の横にいる青リボンを頭に乗っけた妖精が、ドヤっと胸を張る。

 なんだろう、この偉そうな姿といい、見た目といい見覚えがあるが‥‥あぁ、終わらないお姫様に似ているのか、輝夜に比べれば前髪が短くて眉毛丸出しだがそれは良しとしよう。

 小間使いが丸出しなのだから姫に似てる奴も丸出しにもなろう。

 

「妖精なのに凄いのね、大したもんだわ……出来るというならさっさとお願い、でないと私がお師匠様に怒られるんだから」

 

「赤青ツートンに怒られたくないからって偉そうね、ストライプ娘」

「!? アヤメさん!? いつから!? っていきな‥‥見ました?」

 

「見ました、もうちょっと色気のあるやつ履きなさいよ、そういうのはてゐの方が似合うと思うわ」

 

 静観に飽いて話に混ざるとビクッと飛び退いた狂気の月の兎。

 妖精相手だから少しだけ偉そうだったが、声をかけると短いスカートを大げさに抑えて、頬を染めてくれた。唐突に話しかけたからか、ついでに他の三人も驚いてくれて何よりだ、唯一動きを見せなかったのは奥で聞き耳を垂らしていた妖怪兎詐欺だけだが、あれはカウントせずともいいだろう。相手をすると余計なしっぺ返しをもらいそうなのであの年増は放っておく。

 とりあえず赤くなった大きい兎とその他三人をからかうか、一人は少しだけ話した事がある気がせんでもないし、多分会話出来るだろう。

 

「そもそも見せる為の物じゃ‥‥それよりいきなり現れないでください」

「いきなりでないと驚きを提供できないわ。それで、鈴仙はいて当然としてそっちは竹林で見ない妖精ね、一人は見たことあるけど二人は初めましてのはずよね?」

 

「サニー? 知ってる?」

「ほら、前に話した、霧の湖で氷精から逃してくれた狸の妖怪」

「あぁ、サニーの能力が通じない胡散臭いのってこの狸さんなのね」

 

「ふぅん。助けてやったというのに、言ってくれるわね」

 

 唯一名前を知っているサニーレタスだかミルクだかいう妖精に問いかけるミニ輝夜、どうやら素直に話してくれたようでもう一人の亜麻色髪の縦ロールから正直なお話も聞けた。

 返答すると、あ、とだけ言って口を開いたまま固まる妖精さん達。

 特に最後の一言を行ってくれた奴は栗みたいな形の口で固まってくれている、ちょっとどんくさく見えるその口に何か突っ込んでやろうかと手を伸ばすと、後ろに下がって半歩でコケた。

 コケた拍子にポロッと飛び出たメガネ。

 なんだ、珍しいメガネ仲間か、それなら今のは許してやろう。

 

「で、貴女達はなんで鈴仙に捕まってるのよ?」

「それが‥‥」

 

~妖精説明中~

 

「というわけなんです」

「そうなんです」

「そうだったりします」

 

 三人並んで話してくれる赤青白の三妖精、それぞれ順にサニーミルクにスターサファイア、ルナチャイルドというらしい。

 サニーは以前に会っていたからそれほど警戒もされていないが、他の二人は警戒心たっぷりといった感じで見てくれる、逸らせばなんちゃないがそうしては面白くないし放っておこう。

 今はこっちの三人よりも、あたしが迷った原因の方を攻め立てようか。

 

「てゐを見つけないと竹林から出さないねぇ、あたしが迷ったのは鈴仙のせいだったわけか」

「そうなんです、アヤメさんも手伝ってくださいよ」

 

 話を聞けば高草郡の光る竹が欲しいという話で、それを見つけるのにてゐに話を聞かなければならない、でないと目的の物が見つからずお師匠様に叱られるとの事。

 それで光る竹の在り処を知っている妖怪兎詐欺をとっ捕まえるまでは、竹林の中の波長をズラして逃げられないようにしているのだそうだ。

 上目遣いで探すの手伝って、と乞う姿は可愛いけれど今はほろ酔いで何かするのも面倒臭い、あるかないか探す物を探してあげるほど暇でもないしテキトーにあしらって逸らして帰ろう。

 こっちの三妖精もいつになったら帰れるのかという感じだし、叱られるなら一人で叱られてくれ、あたしらを巻き込むな。

 

「面倒だから今はイヤ」

「えぇ~いいじゃないですか、ちょっとくらい」

 

「でも頭だけなら貸してあげる、光る竹が欲しいなら輝夜でも竹に突っ込んだらいいのよ」

「そんな事したら輪をかけて怒られるじゃないですか!」

 

「怒られたらいいじゃない、どうせ叱られるなら楽しいイタズラしてから怒られたほうがいいわ」

「てゐじゃないんだから‥‥叱られて終わりだったらそうしてますよ、叱られて更に見つけてこいと言われるからこうして探してるのに」

 

 ただでさえ萎びた付け耳を更にしなしなとさせる鈴仙がブツブツとなにか話すが、呟きながら自分の世界へ引き篭もってしまったらしく、見かけた時と同じ様に座り込んでしまった。

 また見えるかと思い屈んでみるが、今回は両足揃えて座られてしまいお宝は見られない。

 出し惜しんで焦らす事でも覚えたのかと悩む鈴仙を見ていると、すっかり放置していた妖精達から何をしてるのかという目で見られた。

 

「あの、私達帰りたいんで、出来ればその兎をからかわないで貰えると助かるんですけど」

「迷惑被った分はからかってやったしそうね、飽きたし帰りましょうか」

 

「え? 今は出られないんじゃ?」

「あたしは出られるの、帰るなら出口まで送ってあげるわ」

 

「? どうやって帰るんです?」

「どうにかして帰るわよ、じゃあ鈴仙、頑張ってね」

 

 妖精三人それぞれと話しつつ助けを求める元軍人にサヨナラを告げてみると、こちらの世界に帰ってきてそんな~と弱々しい声を発してくれた。

 探す宛もないならついて来いと誘ってみると、列の最後部を渋々と歩き始める優曇華院。

 煙管咥えて煙巻きつつ、先頭を歩いていくとすぐに戻れた竹林の入り口。少し前まで管を巻いていた夜雀の屋台を見ながら、なんで? という顔で悩んでいる三妖精にさっさと帰れと伝えてみると、よくわからない顔のままひらひら飛んで帰っていった。

 鈴仙の能力をあたしが進む方面だけ逸らして、見える所だけ乱れた波長が届かない状態にすれば帰れると踏んだが上手くいったようだ。

 帰りたい三妖精はどうにか帰して飛んで行く背を見送る、見送りついでにその場で再度の一服をして、そのまま煙を竹林の竹やぶの中へと流していく。

 探すのはあの年増なイタズラ好き、探すといってもすぐ近くにいるのだろうが。

 

「それっぽいの見つけたわ」

 

 流した煙と撒いてきた煙に触れた幼女姿の年増を感知すると、それに向かって煙を集めてみる。

 そのまま手の平を軽く握るような仕草を見せて鈴仙に差し出した、二度三度とニギニギしてみると竹林の奥でもうちょっと優しくやらキツイやら、アンやら変な声が聞こえてきた。

 前のは兎も角最後のはわざとらしいぞ、年間通してイケる兎だからって幼女姿で喘がないでほしい。

 

「んあ? 今のは?」

 

 その変な喘ぎ声は隣の鈴仙にも聞こえたようで、こっちもこっちで変な声を出して、竹林の兎は皆こうだったのだろうか?

 それとも永遠亭住まいの兎だけがこうなのか?

 まぁいいか、どうでもいい。

 

「てゐよ、見つけたいんでしょ? 先でふん縛ってあるのがそうだから行ってきたら?」

「手伝ってくれたんですか! てっきりからかわれて終わりかと思ってました」

 

「似たようなサイズが多くいたんじゃ探すのに手間なのよ、それにあのままじゃ煩くて寝られそうにないし、いいからさっさと行ったら?」

 

 凹み顔から安堵した顔へと表情を張り替えて、元気よくありがとうございましたと言い逃げするのは構わないが、弄くった波長は戻してくれてもいいんじゃなかろうか。てゐをとっ捕まえれば解除されるのだろうけどダメだろうな、喘がれて気持ち悪いから緩めたら逃げられた感じがする。

 ニギニギしても声も聞こえないし、何かを握っている感覚もない……偶には世話焼きな一日を過ごしてみるかと思って最後までお節介してみたが、どうにも上手く締まらないモノだ。

 

「おかえりなさい」

「ただいま、まだ開いてるのね」

 

 格好つかないなと頭を掻いていると背中から声を掛けられた、あたし達のやり取りを見ていたのだろう、いつもの様に微笑みながら暖簾を持った女将さんにおかえりと迎えられた。

 笑んでいる女将に向かってまだやってるのかと聞いてみると、持っていた暖簾を背に隠して、仕方がないといった笑みに変わった。

 

「閉めようかと思ったんですけど、帰って来たならまだいいですよ」

「いや、閉めちゃっていいわ」

 

「あら、いいんですか? 残り物で良ければ何か‥‥」

「いいから、偶には付き合なさいよ」

 

 暖簾をかけようとしていた女将を捕まえて、片付け途中の長腰掛けへと促し隣に座らせる。

 そのまま白徳利を揺らして渡すと、ちょっと考えた後で、先ほどの仕方がないという顔で笑って受け取ってくれた。

 徳利に口つけてちょっとだけ傾けている女将を見ていると、なんとなく悪戯心に火が着いてしまい徳利の底を少しだけ上に押し上げたくなってしまった‥‥というか、思いついた時には既に持ち上げていた。

 二度ほど喉を鳴らしてからやめて、と上げていたあたしの手を叩くミスティア。

 

「もう、イタズラしないでほしいわ」

「なんか見てたらやりたくなっちゃって、なんでかしらね?」

 

「私に聞かれても困るわ」

「そうよね、それより一人で飲んでないで渡してもらえないかしら?」

 

 はいはいと、妹紅がいた時と同じ様にイタズラな笑みを浮かべて徳利を返してくれるが、そんな顔をされてはあからさま過ぎてバレバレだ。

 ミスティアのようにちょっとだけ徳利傾けて飲むと案の定底に手を伸ばされる、がその手は逸らして触れさせなかった、徳利の角度を下げてしてやったりと笑んでやると可愛らしい口を尖らせてくれる。その顔を見て晴れ晴れとした気持ちになるのは何故だろうか?

 あれか、慣れない親切で動き続けた一日だったから、日が変わって朝に近い今になってその反動がきたのかね?

 蓬莱人に世話焼いて、焼かれた白焼き喰って、更には兎と妖精に世話を焼いて。

 悪戯心に火が着いたのは一日通して焼き過ぎたからかもしれないな、と随分と都合がいい事を考えていると、夜雀女将から夜雀少女へと立場を変えたミスティアがフンフンと歌い始める。

 徳利煽りつつそれを聞いていると、朝日の上り始めた幻想郷の空が若干暗くなる感覚を覚えた。可愛いイタズラをしたからその仕返しのつもりなのだろうが、これはこれでまたいいだろう、お陰様で朝日が眩しくない。

 拙いイタズラをされて良いと感じるのはなんでだろうか?

 燻ってるのが似合わない等と妹紅に言っておきながら、自分も似合わないお節介などしていたから、今のような空気が良いモノに感じるのだろうか?

 まぁいいさ、鰻と炭の違いはあれどもミスティアも妹紅も焼き物上手には違いはないのだし、偶には焼き物に凝る一日というのも良い。




メガネルナチャイルドは可愛い。
そして深秘録でまたもメガネっ娘が出てしまった、執筆意欲をそそられます。

余談ですが漫画儚月抄と求聞史紀、文花帖のサルベージが成功してしまったのでその辺りも今後つらつらと。

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