東方狸囃子   作:ほりごたつ

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~竹林小話~
EX その9 断てず、捨てられず、離れられず


 こ汚いあばら屋で一服中。

 煙管咥えて煙草を吸って口の端からわざとらしく煙を漏らしながら、永く短い眠りに落ちている少女の顔に吹きかけているが、全くと言っていいほど反応がなくてつまらない。

 起きていればなによ、なんて言ってくる相手だったりするのだが、今のようにお休み中ではそれも聞けなくてつまらない。はよ起きろと念じつつ副流煙を浴びせているのだが、壁板にも屋根板にも空いている穴から吹いてくる隙間風が結構強くて、居眠り少女に吹きかけた煙は隙間風にかき消されてしまった。

 こんなところでも邪魔してくるとは、スキマとは厄介なモノだ。 

 

 話を戻して。

 少しは直せばいいのにと思うが場所が場所だし、床や天井に開いた穴は致し方ない気がしなくもない。綺麗に抜かれた床板の穴からは土地柄生える竹がこんにちはしていて、丈の穂先はそのまま天井の上まで伸びている。

 穿った見方をすれば家の柱代わりにでもなっていそうなほどに太く、立派な竹が数本室内をぶち抜いて生えていて、地震に強そうな地盤で良い土地だと思える。

 が、同じ土地に建っている我が家も根っこから逸らさねばこうなっているのだろうなと、変なところで感心させられた。休眠期である今時期に輪切りにしておけば、暖かい季節を迎えた辺りに水を吸い上げ過ぎて綺麗に枯れていくとは思うが、他人様の家だし思いついてもやらずに放置しておく‥‥嫌なら焼くだろう、本人が。

 燃え尽きた煙草を捨てるのに煙管を竹で軽く叩いてから、未だ目覚めてくれない少女の横に腰を下ろして二度目の一服を始める。

 いつから死んでいるのか知らないが、そろそろ起きてもいいと思う。

 季節も冬から変わるのだから。

 

 妖怪神社の梅が見頃となり寒くはなくなってきた頃合いだが、同じくそろそろ起きだすスキマが吹かせてくれる風が肌に冷たく、暦の上だけでしか春ではないなと実感させられた。

 ここまで強い隙間風が吹いても何も動かない、何もない部屋。

 なんというか、いつ来ても汚くて何もない住まいだと感じさせてくれた。

 我が家も人の事を言えるほどではないが、ここのように屋内にいながら四季の風を感じられるほど、粗野ではないし自然と密接な暮らしぶりもしていない。

 我家の場合は寝起きを共にする羽毛布団から自然とインクの匂いがするし、外気を常に取り込まなければならないような環境でもない、寧ろある程度煙がこもってくれないとあたしとしては地味に困る‥‥同棲相手が困るとかは別問題として。

 取り敢えずいたずら好きか殺しても死にそうにない奴等しか訪れないので、壁や天井に穴があかない程度に手入れするくらいで今のところなんとかなっていたりする。

 

 あたしの性格を鑑みれば綺麗に整えられた屋内は想像しにくいかもしれないが、多分想像される以上に片付いていると思う、簡単にいえば散らかるほど物がないだけだったりするのだが。

 食器棚や箪笥、火鉢など少しの家具と、貰った写真立てやドラムのフルセットが置いてあるくらいで後はめぼしい物はないはずだ。

 こんな風に必要な物だけを置いて、不要なものは処分するなり片付けるなりする事を何というのだったか、外国の修行方法だかをもじって付けた名前があった気がしたが…

 思い出せないので後にしよう、そろそろ起きるみたいだ。

 ピクッと肩が揺れて、掛かっていた長い白髪が肩口から零れた。

 

「う‥‥ぁ‥‥」

「おはよう、それとも生誕、ではなくて再誕かしら? おはようよりおめでとうと言った方がいい?」

 

「け‥‥」

 

 け、とはなんぞや、言わずともわかる気がするがあえて聞く。

 あたしとアレを見間違える事などないはずなのだが、あっちほど厳しい表情はしないしあやつほど頭が硬いわけでもない。体躯の方もあの我儘ボディの女教師に比べれば華奢なあたしだ、ああいうのが好みなら間違えるはずがないのだが……

 

「け? なに? はっきり言われないとわからないわ」

 

「煙たい」

「でしょうね」

 

 頭を左右に振って、副流煙を散らして文句を吐く蘇りたてホヤホヤさん。

 思いついた『け』とは違っていたものが違う答えとして聞こえてきた、ふむ、間違っていたのはあたしだったか、ならばもう気にしないようにしよう。起きた、正確に伝えるのならば生き返っただな、意識を取り戻してあっち側から帰ってきた人間インフェルノ 藤原妹紅。

 寝起きから煙たいなど邪魔者扱いか、ってこれも間違った意味だな、この場合は吹きかけた煙草のせいで物理的に煙たいって事だ。

 

「衰弱死なんていつ以来だろ?」

 

 生き返ったはずなのにドコか眠たげな、半目くらいの朦朧とした目つきでいる妹紅さん。

 いつもは輝夜と争って血みどろになっているか、派手に燃えてしめやかに爆発四散している姿くらいしか見ないけれど、今日のような衰弱死も経験済みらしい。ただの健康マニアだと自称しているが死ぬほど衰弱する健康マニアがどこにいるのか?

 ここにいたか、取り敢えずだ久々らしい衰弱死開けに、こちらも久々であろう寝起きの一服でもしないかと煙管に葉を詰めて差し出してみた。

 

「文字通り死に方を選べていいわね、久々ついでにどう?」

「お、貸してくれるなんて珍しい。いいの?」

「別に減るもんじゃなし、偶にはいいわ」

 

「なら遠慮無く‥‥何年ぶりに吸うのやら、もう覚えてないわ」

「煩く喧しい伝統変質者にボヤがどうこうなんて言われてから禁煙してるんだっけ? 我慢なんてする体でもないのにおかしなもんだわ」

 

「アレはしつこいから仕方ないの、って変質者? なんの事?」

「幼女趣味があるみたいなのよね、いつだったかシャツだけの幼女を追いかけまわしてたの」

 

 あたしの煙管を咥えて寝起きの一服を済ましている妹紅を見ながら、スカートとカメラを持ったお山の変態の噂を少しずつ広めていく。

 人の事を血を好み人間の肉を喰らうなんて書くくらいなのだから、自分も未成熟を好み青い果実を喰らう鴉だと言われても致し方ないことだろう。広まった後辺りに我が家に乗り込んで来そうだが、自分で新聞のネタを作るマッチポンプも得意なのだし、これくらいはいい笑い話だ。

 きっと。

 

「ふぅん、アレにそんな趣味がねぇ。天狗ってみんなそうなのかな?」

「他にも知っているって口ぶりだけど、他の幼子好きっていたかしら?」

 

「知らない? 鞍馬山の天狗の話」

「鞍馬山って‥‥あぁ、そっちは可愛い男の子の話よね?」

 

「そうそう、あんまり可愛いからつい技を仕込んだって天狗がいたじゃない」

「あれって与太話じゃないの? その後大陸に渡ったとか色々言われてる人間の話でしょ?」

 

「大陸はわからないけど天狗は本当、実際見てるし」

 

 サンキュ、と煙管の咥える側をあたしに向ける妹紅。

 はいはいと、素直に受け取りそのまま三度目の一服をしながら結構昔にいた人間の男の話をする。箔をつける為の法螺話だと思っていたのだが、妹紅が言うには天狗の方は本当らしい。

 どちらかと言えば大陸に渡った話のが信憑性がありそうなものだが、実際見たと言うくらいなのだからそっちは本当なのだろう。知った所でどうでもいい話だが眉唾な話の裏付けをするにはこれくらいの与太話がちょうどいい。

 

「でさ、幻想郷の天狗ってどうなのよ?」

「もう一羽その幼女が大好きなのを知ってるけれど、あっちは母親目線に近い感じね」

 

「もう一羽って?」

「今どきの引き篭もり記者」

 

「あっちの記者か、天狗ってより新聞記者の趣味がそうなのかな?」

「かもね、天狗の事が気になるなんて珍しいわね。死んで気でも入れ替えた?」

 

 生憎死んでも変わらないと苦笑する死なない人間。

 自身の生死に関して随分と雑な観念を持っている言い方だが、死んでも死なず生きてもいない人間の感覚なんてそんなもんなのかもしれない。

 終わらない夜の異変時には『生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、死に死に死に死んで、死の終わりに冥し』なんて坊主の言葉を言っていたそうだし、言葉通り死がわからない体なのだから生死感もないのかもしれない。

  

「天狗ってよりは、山のほうに‥‥ちょっと、ね」

「妖怪のお山? 目覚めついでにそっちにも目覚めたの?」

 

「? 何の事?」

「カウガール且つ山ガールにでも目覚めたのかと」

 

「カウ?……慧音に言っとくわ」

「いいわよ、今のあたしに頭突き出来るのならお好きにって伝えておいて」

 

 小さく可愛い舌打ちをする牛の乗り手さん。

 上手い事言ったつもりが怪訝な顔になるのは乗られる側だったからなのかね、いや、単純にからかわれてお冠ってだけか。

 乗ろうが乗られようがどちらでもいい事は置いておいて、あっちの石頭だが正確には牛ではないらしいがパッと見は偶蹄目だし、ちょっと目が多くて叡智を司っていて、おまけに中国妖怪の長なんて言われるくらいで‥‥白鐸はきっと牛だろう、それくらいに慧音のはでかいもの。

 それはそれとて妖怪のお山に何があるというのか?

 話を切り出した時の顔は少し暗い、なにやら思いつめた表情だったように思えるがなんだろう、また面倒な事に巻き込まれそうな流れか、これは。

 だが致し方ないな、話の流れから聞かないわけにもいかないしからかうだけで知らんぷりすれば本格的に怒られそうだ、今も指先に炎を灯してゆらゆらさせてくれているし。

 

「で、お山がなんなのよ」

「あの山にいる神様の話でさ、背比べの話って知らない?」

 

「うん? 背比べって‥‥神様姉妹の話のあれ?」

 

 そうそうと頷いてくれるが、また随分前の話を知っているものだ。

 妹紅の話す神様姉妹の事だがこれはまだ妖怪の山が八ヶ岳として外の世界にあった頃の話、あたしも生まれていないくらいの大昔のお話で、いたのは近所の女医さんや今お山に住む神社の神様達くらいだろう。

 それでその姉妹、わかるだろうが秋じゃない、秋よりも片方は春っぽいか。

 なんでも大昔に富士山に住んでいた石長姫という姉と木花咲耶姫という妹の姉妹神が、住まいにしていた富士山と八ヶ岳とを比べてどちらが高いかなんて話をしたそうな。

 で、当時は八ヶ岳の方が標高が高くてそれが気に入らない妹の方が山を割り、八ヶ岳を今現在の外の世界にある姿にしたって事らしい。

 そんなわけで富士山よりも高かった八ヶ岳の存在は忘れ去られ、幻想郷での妖怪のお山の元となるって話なのだが‥‥よくよく考えれば変な話だ、神代の頃の話だというのに幻想郷の土地としてあるとか、成り立ちがよくわからん。

 が、いいな、対して重要でもないし。

 それで、これの何が気になるのか? 

 

「それそれその話、今でも山にいるのかなって」

「いるんじゃないの、見た事ないけれど」

 

 言いながら真上を向いて煙草を漏らす。

 ポワポワと漂い隙間風に吹かれて消えていくそれを見ていると、いるのか、と小さく呟くフジヤマヴォルケイノ。

 声色から真面目なお話らしいが、何がどう繋がっていくのかさっぱりわからず、まるで煙に巻かれているような感覚だ。

 

「アヤメってさ、そっちの神様とも面識ある?」

「あったとしたらいる、と、言い切ってるわね」

 

「知り合いってわけではないんだ?」

「知識として知っているだけね、お会いした事はないわ」

 

 聞かれた事に返答すると、そっか、とまた真面目な顔になるもこたん。

 暗く沈む顔からなんとなく後悔や懺悔といったモノが見て取れて、真面目な雰囲気に耐え切れなくなる前に内心だけでバランスをとっておく。

 ヤツメウナギやら焼き鳥やらをこんがりジューシーに焼き上げるもこたんと脳内で言っておけば、この暗い雰囲気に飲まれることも多分ないはず。

 

「あのさ、死んだ‥‥殺した相手に悪いと思った事ってある?」

 

 神妙な面持ちで何を言うかと思えば、また変な事を唐突に聞いてくるものだ。

 答えるならあたしはない。

 思うくらいなら殺さない、単純な理由だ。

 けれど、そう仮定して考えるならばどう感じるのだろうか?

 何故殺すはめになったのか、とかそういった事は取り敢えず捨て置いて、手にかけた者に対して詫びるとはどんな心理からくるのだろう。

 喰う為に殺めるのは当然として憎いから殺すという負の感情からくるモノもわかる、だが何かの理由があり殺めた者に対して後悔や懺悔と言った気持ちになった事は……多分ない、あっちゃいけないとも考えているし。

 一変死んで自身の終わりも体感した、その辺を少しだけ踏まえて考えてもよくわからん、から聞いてみるかね。

 

「あたしはないと言い切るけれど、何故悪いと思うの?」

「いや、ないならいいんだ。変な事聞いてごめん」

 

「構わないけど‥‥まぁ、いいわ」

 

 ちょっと俯く妹紅を余所にテキトーに話を切り上げる、普通の人なら追求するなり深く聞いたりすると思うが、本人がいいと言う事なのだし聞いてきた事を謝ってもきた。

 ならば聞かなかった事にするか忘れた事にしてあげるのが良い、決して首を突っ込むのが面倒臭いだとか、厄介な相談事を持ち込むなだとかは邪な心で切ったわけではない‥‥そんな心がないわけでもないが、今は薄い。

 それに、こういった物言いは大抵が込み入った事情ありきのものってのが相場だ、それを話してくれるのは嬉しく思うが聞いてあげたところでなにもしてあげられないというのもなんとなくわかる。

 

 あたしも妹紅も伊達に長く生きていない、自分の事は自分で出来るくらいの年寄りではあるわけ‥‥なのだが、このまま放っておくとまた衰弱して一回休みになりそうだしどうしたもんかね?

 今日訪れた理由は様子見なのだし、少しだけお節介をしてみようか。

 春から寺子屋に通い始める子供らの準備やら相手やらで、今時期忙しくて様子見にも来れない偶蹄目にお願いされての顔出しなのだから、偶にはあれを真似てお節介な世話焼き役にでもなってみるとしますか。

 

「なんでもいいけど似合わないわね」

「え?」

 

「燃え尽きないのが取り柄なのに、燃えカスみたいに燻ってるのが似合わないって言ってあげてるの」

 

「燃えカスって、私だって偶には‥‥」 

「死んでも変われないんでしょう? ならさっさと普段の姿に戻ってもらわないと、もう一回くらい殺してあげれば戻ったりする?」

 

 ニヤニヤと意地悪く、知らぬ人からすれば完全な煽りに聞こえる言葉を吐く。

 少しだけむっとする妹紅だったが、あたしが軽口だけで終わらせずに成長しなくなった細首に手を伸ばすと、少しだけ寄った眉根を更に寄せて瞳に強いモノが宿った。

 が、気にせずに首に触れた手から妖気を流し頭と鎖骨辺りまでを破裂させた。

 妹紅の返り血を浴びて顔も髪も、着ている着物すらも真っ赤にしながら残った胴体を眺めていると、ボウっと音を立てて燃え上がり火の鳥の羽を背に現しながら再び生き返るもこたん。

 

「いきなりなにすんのよ!」

「いきなりでないならいいのね、ならもういっか‥‥」

 

 パチパチと室内の竹を焦がしていく妹紅に向かいゆっくりと手を伸ばす、珍しく好戦的な自分が少し可笑しく意地の悪い笑みが強まった気がする。

 そんなあたしの顔を見てすっかりとやる気になった炎の蓬莱人。

 自宅の中だというのに何も気にせず、胸の前に両手を揃えそのまま炎を練り上げていった。結構な熱量があるようで赤や橙よりも白に近い色合いの炎が術者である妹紅ごと爆ぜた。

 一瞬で視界が白に染まる。

 熱量は逸すが勢いは逸らさずにこの身で受ける、でないと煽った意味がない。

 逸らさずとも焼かれなくなった、焼く肉がなくなったのだから当然だが曖昧な体に違和感を覚えつつ、勢い良く吹き飛ばされボロ屋の壁ごと弾かれて思った……いつだったかもこうやってガス抜きしたような気がするな、あの時も煽ってやったなと別のことを考えてぶっ飛んだ。

 派手に飛ばされ竹に打ち付けられると、いい感じに撓ってくれて少しだけ反動で戻る。空中で二度ほど前転してからシュタッと、何かの主人公の登場シーンらしく戻ってみると丁度自爆から戻った妹紅と目が合った。

 また燃やされるかな、と考えていたが炎は見えずちょっとだけ落ち着いたような、溜まったモノが体現通り弾けてスッキリとした感じでいる蓬莱人。ストレス発散に爆発四散はどうかと思うが、そうさせたあたしが言う事ではないな。

 

「派手にふっ飛ばしたわね」

「なんだよ、嫌味言うくらい元気じゃないか」

 

「あたしじゃないわよ? 家よ、あばら屋の事」

 

 取り敢えず景観の感想を述べてみると勘違いされたので訂正してみる。

 すると、復活した辺りで周囲を見回しはじめた。

 妹紅のいる辺りにはつい先程までボロ屋があったのだが、住まいの主のド派手な自爆に巻き込まれて燃えカスも残らずに灰燼に帰していた。

 言われてキョロキョロと、長い白髪を振り振りしながら見回す爆発娘だったが、すぐにやらかしたという顔になり、あたしの事を憎らしそうな瞳で見つめ始めてくれた、普段見せてくれるものはもうちょっと穏やかだがまぁいいだろう。

 死なないくせに死んだ魚のような、虚ろな半目など似合わないのだから。

 

「ねぇ、これどうしてくれんのよ?」

「さぁ? やったのはあたしじゃないわ、自爆したのが悪いと思うんだけど?」

 

「そうさせたのは誰よ!」

「それはあたし、でもスッキリして良かったじゃない。あってないような物なら失くした方がいっそ清々しいと思わない?」

 

「人事だと思って‥‥」

「他人事だもの、それでもほんの少しだけ悪い気もするからしばらくうちにいる?」

 

 全くもって悪いなどとは思っていないが、少しだけ来やすいように気を使ってやって来るかと誘ってみる。

 放っときゃまた死ぬかもしれないし、様子見するならうちにいてくれた方が楽で、ついでに後で来るかもしれない天狗記者を追っ払うのに役立てられそうだ。

 世話やき上手と仲の良い焼き物上手な焼き鳥屋が我が家にいれば、一応は鳥の範疇に入るあいつもしつこく粘ったりはしないだろうし、上手い事煽てれば石長姫様のお話も聞けるかもしれない。

 そう考えてのお誘いだったが、少し考えた後で再建するまでは人里に行くからいいと返されてしまった。

 

「再建ってまたボロ屋を建てるつもり?」

「ボロ屋って言わないでよ、あれで結構気に入ってたのに」

 

「何もなかったのに? 壁も屋根もないようなボロ‥‥」

「だからボロ屋はやめてって、断捨離したらああなっちゃったのよ。捨て始めたらあれもこれもいらないって思っちゃって」

 

 テヘっと照れるもこたんは可愛いがちょっとやり過ぎじゃなかろうか?

 掃除やら整理やらし始めると色々いらない物が見えてくる、そんな心境に共感出来る部分もあるにはあるけれど、それにしたってやり過ぎだ。

 せめて衣食住くらいは最低限置いておくべきだったろうに、普段死にまくっていて命も捨て慣れているから物もラクラク捨てられるって事なのかもしれないけれど‥‥見てくれる側の事を考えてあげればいいのに。

 誰がどの頭で考えるのか、と怒られそうな事を思いついていると家のお詫びに今から奢れと、肩を組まれて人里の方へと促される。

 面倒事を起こされてその相手に集っていく姿が、まるで普段の誰かのような感じに見えてしまって思わず声に出して笑うと、何がおかしいのかと変な笑顔で問掛けられた。

 喉に使えていた小骨がとれただけだと言うとよくわからない顔をされたが、実際よくわからんだろうね、妹紅が死んでいる間に思った事なのだから。

 取捨選択して捨てる事を断捨離と言うのだと思っていたが、住まいごと綺麗に失くした相手からそれを言われ、思い出させてもらえるとは思っていなかった。




新作のヤクザな姿勢で中性的な口調の妹紅よりも、永夜抄妹紅の方が好きです。

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