東方狸囃子   作:ほりごたつ

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EX その6 心悲しい

 ぽかぽかと茹で上げられた卵生の娘。

 湯上がりタマゴ肌となり、つるつるスベスベの頬やら、キレイに洗われ手入れされた黒髪を撫でてニンマリと笑んでは、ジト目妖怪の三つ目に見られてたのが懐かしい。

 頼まれたやりたくない仕事を終えた後、黒猫と楽しげな会話をし他者には見せないような明るい笑みと、砕けた口調のさとりをしばらく見つめ愛でていたのだが、さとりが上がったのなら他の皆も出る頃合いかと考え、一度寝泊まりする部屋へと戻った。

 浴場やさとりの書斎からであれば目を瞑ったままでも戻れる部屋、自室と呼べるくらいにはあたしの匂いと煙草のヤニが染み付いた一回の角部屋に戻ってみれば、ベッドの上に投げ広げただけの開襟シャツは衣紋掛けに通され、白いジャケットと共に壁にかけられていた。

 ついでに言えば閉ざされていた出窓は開けられていたし、入浴前に使い汚したはずの灰皿はキレイに掃除されていた。

 いない間に誰か来たのか?

 なんて事を考えたが、シャツを掛けてくれて換気も掃除もしてくれる親切者などこの屋敷にはそういない。

 ここの主が書斎に訪れる前に入ったのか、その主に見てこいという命令を出された二本尻尾か、もしくはジャケットの持ち主、三人のうちの誰かだろうと特に気にせず部屋を出た…らば、浴場の方から笑い声が聞こえて、戻って見ればお空が逆上せて茹で上げられていた。

 

「やっぱり呑むべきじゃなかったのかしらね」

「あっつぅい、アヤメ冷たぁい…でも、あっつぅい」

 

「今日は余裕あるわね…」

 

 スカートのスリットを捲り上げ、生足さらけ出し正座するあたしの膝の上でピンク色の顔をしているお空。

 今日は完全にノックダウンせず会話する余裕があるらしい、さっきから暑いだの冷たいだの、うにゅぅだの似たような単語ばかり膝の上で呟いてくれている。

 全く、今更茹で上げられたところで、もはや茹で卵にはならないだろうに、なんでこの子はすぐに逆上せるのだろうか?

 身に宿す八咫烏の力で核融合なんて出来るようになったから、少しでも限界値を突破するとメルトダウンするようにでもなったのか?

 というかメルトダウンとはなんだ?

 どっかで誰か、はやらない店で会った黒白っぽい少女が同じく流行らない神社で、風祝や仙人相手に言っていた、核がどうこうなんて話にあったような…なんて事を考えていると数枚のタオルと水を張った桶を持った、互いの相方が脱衣場へと入ってきた。

 

「大丈夫? 調子に乗せ過ぎちゃったわね」

「太鼓のお姉さんは悪くないよ、気にしなさいでおくれよ」

 

 バツの悪そうな顔でタオルを持つバチの打ち手。

 その横には気にしないでと猫なで声で話す猫っぽい火の車。

 同じような髪の色をしながら何処かよそよそしいような、互いに借りてきた猫のように普段よりも静かな雰囲気に見えるが、こっちもこっちで初対面だと言っていたしこうなるのもわからなくもない。初顔合わせは兎も角として、猫の爪に引っかかれれば太鼓の膜なんて直ぐに裂かれてしまうだろうし、太鼓の響かせる重低音は、音に敏感な猫からすれば雷鳴でも轟いているように聞こえるのかもしれない。

 事実雷鼓の重低音は雷鳴のように地を響かせるし、雷様っぽい見た目で雷っぽい弾幕もあった気がする…戦う姿よりも別の姿ばかりを見ているから、そのあたりの記憶は曖昧だったりするが、多分そうだったはずだ。

 

「雷鼓がノセたの? だから風呂場で遊ぶなと言ったのに」

 

「う、ごめんなさい」

「お姉さんも叱らないでやっておくれ、悪いのはあたいなんだからさ」

 

 ゴトリと、結構な水量があるように見える桶をあたしの隣に置いて、両足をペタンと床につけて座るお燐。

 四つあるうちの頭に生やした方の耳二つを下げて、見た目から気落ちしているとわかる姿でお空を見つめている…あたしが先に上がり書斎でチョロチョロとしている間に何かあったのかね?

 大概の者にはおおらかな雷鼓の余所余所しい態度も気になるし、少し掘り下げてみるか。

 

「風呂場で何がどうしたらこうなるのよ、叱らないから言ってみなさいな」

 

「その、太鼓のお姉さんにノセられてね? ついつい調子に乗って話し込んじまったんだ、おかげで普段よりも長風呂になっちゃってね、烏なお空にはちょっと長すぎたのさ」

「パルスィさんが機嫌悪くなっちゃったからね、どうにかと思ったんだけど…失敗しちゃったわ」

 

 シュンとするお燐も、それを慰めようと手を伸ばしかけて止まる雷鼓も、どちらも普段見られず面白いが、お燐の言葉じゃないが二人とも気にしないでいいんじゃないか?

 少し聞いただけだがこれの原因はやっぱりあたしじゃないか、場を騒がしくして立ち去りやすいような空気を作るのにパルスィを利用させてもらったが、その後の風呂場の雰囲気までは考えていなかった。

 全く考えていなかったわけではないが、アレくらいで本気で怒るほど器量の狭い橋姫さんじゃないと知っているから、一番楽な手法として使わせてもらったのだけれど…よくよく考えればパルスィにも謝る事があった気がする。

 今はヤマメと鬼二人が再建したが、正邪の鬼ごっこの際に橋ぶっ壊れる原因を作ったのもあたしだったはず。実際に破壊したのは鬼二人であたしは被害者のはずだが、あの鬼っ娘が悪酔いする原因もそういえばあたしだったはずだし…

 

「お空、そんなに悪いのかい? さとり様も呼んでくるかい?」

 

 全く以て悪い事などはなく、以前の酒風呂で逆上せた時や、異変の時の熱暴走時よりもマシというか、比べるのが馬鹿らしいくらいにただ逆上せただけのお空。

 心配顔でメルトダウンした相方を見るのはあたしの顔が深刻だからか、真剣に考えていたのはお空の事じゃあないが、そんなに酷く見えるか?

 話したり、人の太腿に顔埋めてみたりと酷いようには見えないが…普段と違って中途半端に元気だから逆に心配なのかね?

 

「なら私が言いに行くから、燐ちゃんはついててあげて。アヤメさん一人にすると別の意味で心配だし」

 

 なんて事を言い出すのか、うちの嫁は。

 確かに手が早かったし、そういった面での信用のなさにかけては右に出る者が…いたな、胡散臭いスキマと同じくらいには信用されてなかった。

 まぁそれはいい、それはいいが雷鼓からそう言い切られるとさすがにくるものがある、真っ裸のパルスィを舐めたりさとりの吐息を荒くさせたりしたもんだからそういった勘ぐりでもされてるのだろうか。

 お空やお燐、覚姉妹辺りをそういう目で見たことはないはずなのだが、見る人が見ればそうも見えるのかね?

 それともあれか、温泉に浸かっている間の嫉妬心を未だに残してるのか?

 愛してるやら好きやらを言葉にして言ってはくれないが、独占欲だけは以前から強かったような気がする…なんて事を考えつつ熱冷まし中のお空の髪に手櫛を通したりしていると、あたしが熱を入れている相手はパタパタと歩き去り、脱衣場には眉尻下げて全身薄ピンク色のお空と、耳と尻尾を下げて凹むお燐だけとなってしまった…が、丁度いいしついでに聞くか。

 火の車が余所余所しく猫かぶる理由、それを伺いあたしも溜飲を下げよう。

 

「太鼓は嫌い?」

「急に何だい? 雷鼓さんは別に嫌いじゃないよ?」 

「雷鼓楽しい! 私は好き!」

 

 聞いてない方のペット、だんだんと熱を移しあたしの腿を温くしてくれた方から気持ちのよい返事があり心地よいが、聞きたい方のペットは目線を逸し、猫目だけ斜め上を向いてあからさまに恍けるような態度だ。

 本心を吐いてはいないとまるわかりに態度を見せるのはなんだろか?

 嘘ではなく癖だとでも言われたらそれまでだが、これは嘘をついているとはっきりわかる。

 長い事嘘をついて生きて肉体の死すら半分嘘にしたようなあたしだ、そのあたりの事は察する事が出来るし、以前に死なずの名医から教わった嘘判別法にも当てはまっている。

 素直なペットだと思っていたのだが、嘘までつかれるとは少しショックで…雷鼓の言い草といいお燐の態度といいなんとなく悲しいような気分にさせられる。

 凹みながら凹ませてくれるとはやるじゃないか、気に入らないからそこをつこう。

 

「お燐、嘘をつくならバレないようにすべきよ」

「お、お姉さんがそれを言うのかい!?」

 

「言うわね、騙すなら騙し通す。バレてもいい嘘ならネタバラシした後には笑えないとつまらない、今の嘘は気に入らないわ」

 

 機嫌の悪さも相まって、少しばかり悪い顔。

 自分でも嫌な顔になっているとわかるくらいに厳しい目つきとなっている、お燐の二本尻尾が太く天を衝くように真っ直ぐに伸びた事で、普段見せない顔になっているとわかる。

 が、例え相手がお燐でも気に入らない事があればそれは伝えるし、結果嫌われるならそれまでだ…こういう時、飼い主のように心を読めれば簡単なのだろうが、あたしが読めるのは空気くらいのもの。

 今流れる空気は張り詰めたもので、その空気の中、珍しくあたしに問い詰められ、叱られているような顔でこちらを見上げてくるお燐。

 反論があるのならいくらでも聞くが納得出来る反論を吐いてくれるだろうか?

 

「うにゅ? なんでお燐を虐めるの! 悪いのはアヤメなのに!」

 

「あたし? そりゃあ悪かったとは思っているけれど、パルスィもご機嫌斜めなくらいで怒ってはいないのでしょう?」 

「それじゃない! さとり様には言ったくせに! 私達にも雷鼓にも言ってないんだからお燐は怒ってもいいの!」 

 

 膝の上から見上げてつつ盛大に怒る地獄烏。

 そうやってカッカするとまた熱暴走してしまいそうだ、そんな事だから長風呂なんて自爆するのだというに…自爆だとわかっているからさとりも姿を見せず、窘めるつもりで少し放っているのだろうな、お空の普段操っている核融合に比べれば熱っぽいだけで危険もない…あえて言うなら、核融合は大丈夫で何故湯で逆上せるのか気になるくらいだ。

 まぁそれはそれでいいさ、ちょっと調子に乗ってしまい面白い話題に熱を上げただけで、以前よりも冷ややかな膝枕と濡れタオルで介抱していればその内に起き出すだろうし、気にする事でもない。

 

「こらお空、まだ内緒って言われたってのに!」

「あ! なんでもないよ! 忘れていいよ!」

 

「うん? 嘘ではなく隠し事って事かしら、お燐? それはそれで結構悲しいわね」

 

 わざとらしく耳も尻尾も垂れ下げて、瞳もほんの少し潤ませる。

 混ざりっけなし、純度100%の嘘泣きだが、耳と尻尾の方は結構本気で凹んでいる。

 いつだか蛍の少女にも感じたが、少女なら隠し事の一つや二つあって当然で、それが話したくない事だとしたらわざわざ聞き出すつもりもない。

 が、言われたってのが引っかかる、誰に何を口止めされているのやら…雷鼓か?

 二人してぎこちない、余所余所しい感じがしたのは揃って隠し事をしていたからだってか?

 俯くと視界に入るお空の顔。

 プンスカと熱っぽいモノを表しながら見上げてくるお空の顔に、冷却時の蒸気でも溜まったのかポツポツと何かが落ちるのが見える…あれ、潤ませる程度のつもりだったのだがこれは?

 

「なんでアヤメが泣くの! お燐を叱ってたのに!?」

「お姉さん泣いてるのかい!? 泣くほど悲しかったのかい!?」

 

「嘘から出た真ってやつね、真面目に凹んでるみたい」

 

 驚き顔の二人の顔でも見れば止まるかと思ったが、ポロポロと落ちるものは止まらず、お空の頬やら乾き始めた黒髪を濡らしていってしまう。

 もう少し早めに流れてくれればお空の冷却も早く済み、こうして泣かなくとも済んだ…ってそれでは冷却できないのか、やはり泣くとダメだ、頭が回らなくなる。

 なんとなく悲しい程度だったつもりがいつも素直な、愛らしいペット達と愛しい雷鼓が何やら隠し事をしていたってのを知っただけでこうも泣くか。

 ここまで女々しかった覚えはないが、体が変わってその辺も変わったか?

 まぁいいか、悩んだところで泣きやめる気がしないし、こちらに向って歩くパタパタ音も聞こえてきた。

 珍しい泣き顔でも見せれば隠し事をばらしてくれるかもしれない、パルスィの次は自身の涙も利用しよう、女の涙は武器なのだから。

 

「おかえり、一人?」

「さとりさんは残務処理だって言って…アヤメさん? 泣いてるの? 何がどうしてこうなってるの?」

 

「何がどうしてこうなってるのか、わからないから泣いてるのよ」

 

 おかえりと伝えると一瞬だけ動きを止める雷鼓。

 座るために止まったと考えればそれまでだが、なんて事ない仕草でもよく見ている者の動きに違和感があればそれはわかる、が今はいいさ、後回しだ。

 真っ赤な頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、俯くあたしの頭に手を添える嫁さん。

 クエスチョンマークを浮かべたいのはあたしの方なのだが、疑問の原因が代わりに浮かべてくれたしそれでよしとしよう、疑問を浮かべるよりも薄笑いを浮かべるほうが得意なあたしだ…早いとこ謎解きしてすっきりと笑おう。

 しかしあれだ、初めて見せる泣き顔に驚きつつも、あやすように撫で慰めてくれるのは非常に嬉しい…思わず笑んでしまいそうだが、今笑ってしまっては武器が使えなくなってしまう。

 利用すると気持ちを切り替えた時点ですっかり冷めているわけなのだが、出来ればこのまま、女々しくか弱い姿のままで色々と聞いておきたい。

 普段見せない姿なのだし、普段は使わない武器でも使ってどうにかネタを引っ張り出したいと、思考をめぐらし始めてみればネタの方から出張ってくれる。

 

「隠してたわけじゃないんだけど、ね? 燐ちゃん?」

「放っておけばそのうち言う事だと思ったんだけどねぇ、太鼓のお姉さん?」

「アヤメ! 挨拶は大事だよ!」

 

 隠していたわけじゃない、ほっとけばそのうちに言う、ついでに挨拶は大事だとそれぞれ繋がらないような事を言ってくる愛すべき三人。

 これらから考えられるのは、隠し事ではなくただ気が付かずにいただけの事を、雷鼓やお燐達が気づきそこに共感して共謀し黙っていたって感じだろうか?

 理知的な思考も覗かせる雷鼓や出会いから猫を被っていた猫っぽい妖怪のお燐が共感する部分がある、もしくは出来るってのはなんとなく理解できる、そういうずる賢さもあたしの好むところでもあるわけだし。

 だがお空まで共感するような事ってのが思いつかない。

 三人共それぞれ素直な相手、自分に素直なお燐に床では素直な雷鼓、お空は素直すぎてアホの子だ。

 アホの子と賢い者達の共通点…

 

「あれ、泣き止んだ?」

「もしかして嘘泣きだったのかい?」

 

 考える事に集中した為か完全に乾いたあたしのお目目。

 ちょっと本気で泣いたから少しばかり赤みがかった銀の瞳には、疑惑の目で見てくる二人とは違って楽しげに見上げてくるお空の顔が映っている。

 バレはしたがそれはそれだ、元々嘘泣きだったわけだし、バレたところで困る事もない、寧ろ開き直れて心情的には楽になれるかもしれないし、ここらでいいか平常運転に切り替えよう。

 

「両方よ、嘘から出た真だって言ったじゃない」

「泣き止んだならそれでいいよ! 泣くより笑ってるほうが可愛いよ!」

 

「あたしの味方はお空だけね、ついでに何を内緒にしてるのか教えて?」

「ヤダ!」 

 

 泣き顔から平常運転に戻してみたが、横から感じる視線が痛い。

 隣に座るお燐も雷鼓も、どっかの三つ目のような瞳であたしの事を見てきている、顔を見てはいないが向けられ慣れたこの視線は確実にそうだ…二人してあれに似るなよ、面倒くさくなる。

 それは兎も角として可愛いと嬉しい事を言ってくれるお空、褒めて味方になってくれたのかと思い教えてと可愛らしく聞いてみたらヤダって言い切られてしまった。

 こっちもこっちで素直じゃないつれない子になってしまって…また気落ちして、ほんの少し瞳が潤むとそれを一人だけ見ているお空が騒ぎ出す。

 

「また泣き出した! 今度は誰のせい!?」

「お空、教えてくれない意地悪をされてまた泣きそうよ?」

 

「うにゅ! だって内緒だって雷鼓が言ってた! 帰ってきたのに言ってくれないってブツブツ言ってた!」

 

 膝の上で焦り、自身を挟むように座った赤髪コンビの顔を見比べている愛らしい地獄烏。

 産んではいないがさすがはあたしの子だ、そのつもりなく本心を吐いてくれた。

 おかえりと言った時に止まったのはそういう事か、さとりには言ったのに、なんてお空が漏らしていたのは『ただいま』と雷鼓にもお空にも言っていないからか。

 すんなりと受け入れられて言うのを忘れていた、というより雷鼓に対しては言った気がしなくもないが…言ってないな、第一声はうらめしやだった。

 挨拶や躾に煩いなどと言っていたくせに、我ながら酷い挨拶だ。

 

「ただいま、お空」

「お! おかえりアヤメ!」

 

 教えてくれたお空にだけ伝えてみると、プルプルと振るえる雷鼓の右手が視界の端に入る。

 さすがに意地悪だったかなと、お燐と雷鼓それぞれに向ってただいまと言ってみたが、それでも止まらない雷鼓の振るえ。

 嬉しい振るえ、じゃあないな、怒り心頭という感じでもないし上手く言い表すのならなんだろう…思いつかないな、なんて振るえる雷鼓を置いてけぼりに悩んでいると良い音が脱衣場に響く。

 軽くスナップを利かせて、なんでよ! と軽快にスパァンといういい音を立てて鳴るあたしの頭、履いていたスリッパを脱いで振りぬかれたそれ。

 

「あぁ、スッキリした」

「…それは重畳ね、厠とか行ってないでしょうね?」

 

「あ」

 

 再度お空の顔に落ちる涙。

 元を正せばあたしが全部悪いのだから因果応報ではあるのだが、いくらなんでもこれはあんまりではなかろうか。

 ホロホロと泣きつつ無言で立ち上がると、お空の頭が床に落ちごツンと音を立てた。

 普段であれば謝るが、今日は泣かされた事もあるし謝らず口をツンとさせて見下ろしてやった。

 頭擦りながら嘴っぽい! なんて言って笑ってくれて何よりだが、楽しませるためではなく不機嫌だと現したつもり…ではあったがこの子にそこまで期待するのは無理か、怒るのがアホらしくなり脱力する。

 そんな力なく垂れ下げたあたしの手を取り再度風呂へと誘ってくる雷鼓、左手を取り謝りながら洗ってあげるからと苦笑し誘ってくる。洗ってくれて機嫌取りをしてくれるのならそれでいいや、ついでにもう一人の赤髪も再度風呂に入れて、も一つついでにあの黒猫も風呂に連れ込もう。

 物な雷鼓は兎も角、あたしやお燐という四足の雌が入ればあの子も楽しい反応を見せてくれるだろう。心悲しい気持ちにさせてくれた三人にあやしてもらい、落とした気持ちを裏返してもらうとしようか。

 




『心』続きのタイトルからちょろっと思いついたお話。
なんと読むのか、敢えてルビを振らずにおいておきます。

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