東方狸囃子   作:ほりごたつ

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第百十五話 始めた狸、あちこちへ

 住まいを離れて幻想の空、腰掛け漂うバスドラムの金具が冬場の空気で冷えていて少しばかり尻が痛いが、乗せて運んでもらっている手前だ、文句は言わずに静かな飛行。

 正面から向かってくる粉雪を逸らして身に受ける冷風も逸らして、隣の肩を抱き寄せて触れ合う所だけで暖を取りつつ、幻想郷の東の端へと向かっていった。

 神社に向かう雪道中、どこまでも真っ白な景色の中に遠くで浮かぶ白以外が視界に混ざる、片方は青と薄い紫の見た目からして寒い様相、もう片方は赤や黄色の暖かな色合いで可愛らしいピンクの日傘を差した可憐な姿。後者は兎も角として前者に会えたのは運が良かった、少しだけお願いしてみて、出来れば吹雪を和らげてもらおう。

 肩に回した腕を少し動かし前に追いついてほしいと伝えてみると流れる景色が早くなりあっという間に追いついた、声が聴こえるくらいまで近寄るとこちらに振り返り足を止めてくれた二人。

 振り返ってくれた二人に向かって手を振ると小さく片手を振ってくれた、そのまますぐに追いついて横に並んで声をかける。

 

「雪花の中の冬に花。随分と粋で妬ましいわね、二人共」

「妬まれるのはそっちじゃないの? アヤメこそ、太鼓打ちから太鼓乗りになったの?」

 

「乗りもするし乗られもするわ、さすがに叩かれないけどね」

「アヤメさん二人は?」

 

「寒い方がレティ、暖かそうな方が幽香‥‥話くらいは聞いた事ない?」 

 

 冬の妖怪に花の大妖かと二人に聞こえない声で呟くお隣さん、思った通りどこかで話は聞いているようで二人を見つめる視線が変わった、初めてあった時に見せた顔、落ち着き払って余裕を見せる表情で互いに紹介を済ませる友人達。

 少し話して二人が先を飛んでいた理由も聞けた、レティさんが太陽の畑に顔を出したついでに幽香を引っ張りだして初詣だそうだ、行く先が同じなら話は早い、このまま付いて行ってついでに巻き込もう。

 

「それで、肩なんて抱いちゃって‥‥なになにそうなの? 話しなさいよ」

「自慢してあげたいけど寒くて口が回らないのよね」

 

 言った瞬間に吹雪が弱まる、例年ならお願いしても微笑むだけで吹雪や寒気を弱めてくれる事なんてないのに、興味があればこうも変わるのか、まぁいいか、お陰様で視界が開けた。

 あれやこれやと細かく聞かれてテキトウに返していく、話している間に組が入れ替わり冬と狸、花と鼓に別れて移動。先を飛んで行く二人を眺めながらレティさんをあしらっているうちに目的地である神社が見えた、大きな紅い鳥居が雪に埋まり巫女のような色合いに見える。

 それに気づいてクスリと笑うと、隣の冬妖怪が春のように微笑んだ、何か笑える事があるなら是非とも教えてほしいものだが、ソレを聞く間もないままに神社に降り立ち社務所に入る。

 中を覗けば炬燵に入るツートンカラーが二人と、頭から角を生やしたのが一人‥‥もう一人小さいのがいるはずだが姿が見えない、まだまだ戻り切るには魔力が足りないと思っていたが意外と早く集まったのかね?

 なんて思っていると山のように盛られたみかん籠の後ろから顔出した小さな姫様、小さすぎて見えなかっただけか、相変わらずちんちくりんで可愛いお姫様を薄く笑んで見つめていると、ツートンカラーが騒ぎ出す。

 

「初詣に賽銭も入れないなんて、あんたらわかってるでしょうね」

「お、荒事か? 退治初めなら私も混ぜろよ、霊夢」

「初詣はついでよ? 今日はお願い事をしにきたの、結界緩めて貰えない?」

 

「魔理沙、早速あの狸から退治していいわよ」

 

 炬燵から這い出してくる黒白ツートンをへべれけ幼女が鎮めてくれて、そのまま足を引っ張り炬燵へと引きずり戻されていった。お陰様で助かったと小さく手を上げ感謝を伝える、両眉を上げて返答してくれた鬼っ娘と眉間に少しの皺を寄せる巫女を横目にして社務所を抜けて台所に立った。

 来て早々に水仕事、開口一番で機嫌がわるくなったのでとりあえず追加分のお茶でも、そう思って何も言わずに台所に立つと背に誰かの声を受けた、花の香りを纏うお嬢さん、こうして二人で話すのは久しぶりか。

 

「頼まれもしないのにお茶の準備なんて淑やかになったわね、名前らしくなったじゃない」

「幽香に褒めてもられるなんて、何か悪い事でもありそうだわ」

 

「悪い事ね、例えば大事なモノが壊れる‥‥とか」

「モノにもよるけど‥‥怒るわよ?」

 

「あら怖い、それなら壊されないように気をつけなさい」

「言われなくとも、そんな事を言いに来たの?」

 

「わかってるならいいのよ、怒らせたお詫びにお手伝いしてあげる」

 

 沸かした湯で人数分のお茶を注いでお盆に載せて持たせると文句も言わずに運んでいった、正月早々挑発なんてどういった腹積もりかね?

 いや、挑発ではなかったか‥‥言葉はともかく殺気も何もない態度で接してきただけだった、あたしが過敏になり過ぎただけか。それでもなんでか気に掛かるのは何故だろうか、虫の知らせってやつだったりするのか?

 いやいや、花の妖怪が知らせてくれたのだから虫と言っては失礼だろう、鼻につくかぐわしい香りを届けてくれたって事にしておこうか。

 

 そろそろ思考を切り替えて次の手を考える。

 紅白には断られてしまったわけだし次はなにで狐を狩ろうか?

 結界を緩める以外に藍を釣り出す方法とは?

 油揚げ炙っても釣れないだろうしあの黒猫も今日はいない。

 台所に腰掛けたままで煙管から煙を立ち上らせて何もない空間を眺めていると、悩む必要なんてないなんでもない事だったと気がつく、紫の眠るこの季節なら藍一人でも開けたり閉じたり出来たはずだ、それならどこでも覗けるだろうし、結界に関わる場所なら常に見ているはずだ。

 結界に関わる事なら今のこの場所は都合がいい‥‥ついでに言えば花やら鬼やら太鼓やらと、随分と危なっかしい妖怪達が揃っている、要の場所に集まる大妖を放っておく事はないはずで、今頃は覗き見に躍起になっているはずだ、試しに呼んでみるかね?

 

「藍、見てる?」

 

 吐いた煙が漂うだけの何もない空間に、いつも見慣れた胡散臭い瞳の空間が開かれる、中から出てきたのは当然八雲の式。冬場によく見せる疲労感のある瞳でこちらを見てくる藍に軽く尻尾を振って挨拶、ほんの一瞬だけ尻尾に目をやると小さくため息をつかれた。まだ何も言っていないがさすがに長い付き合いだけの事はある、これだけでもおねだりしていると伝わったらしい。

 

「暇つぶしなら他を当たれ」

「八雲の式様にお願いがあるんだけど」

 

「お願い?」

「白玉楼にいるだろう騒霊の姉妹、ついでに幽々子にも話していいわ」

 

里の守護者(はくたく)の件か、騒霊は兎も角幽々子様まで巻き込むのか?」

「巻き込むなんて聞こえが悪いわ。美味しい物が食べられるかもしれないし、いてくれれば抑止力になるわ」

 

「どこに対しての抑止力なのか、聞いておきたいな」

「テンションの上がった妖怪連中と人里の一部の人間、ついでに言えばあたしに対しても」

 

 ある程度の数が集まれば騒ぎになるのがこの幻想郷だ、暴れればどうなるかなんてわかっているからそうはならないが、保険が多ければ楽になる、その為に幽々子を巻き込んでおきたい。

 彼女のようなどちらにも属さない立場の者がいてくれれば両方に対して抑止力となるし、最悪の場合は能力で静かにできる頼れる生命保険だ、最悪の時に使ったなら元凶であるあたしも一緒にサヨウナラだと思うが‥‥そうならない為の枷として敢えて近くにいてもらって、あたしが踏ん張りどころで逃げ出さないよう尻尾を掴んでおいてもらいたかった。

 

「ふむ、珍しく追い込むのだな。言伝を届けるくらいの余裕はある、騒霊にはなんと?」

「楽器の付喪神とセッション、ヴォーカル招いてライブでもどう? くらいかしら」

 

「心得た、日取り等が決まったなら再度呼ぶがいい」

「我が家で呼べばいいの?」

 

「自宅で構わん、私が紫様より預かる前からお前の家は覗きっぱなしだ」

「預かる前って‥‥それ、ちょっとした自爆よね?」

 

 何も言うなと言い逃げしスキマの中へと消えていく金毛九尾。

 いつから覗きっぱなしなのか知らないが忘年会の夜には起きていたし、つまりはそういう事なのだろう、しかし聞きたくなかったな、藍の言葉通りだとすればあれ以降は藍に丸見えだったという事になる。見られても構わないと考えた情事なら兎も角として、全部‥‥全部か、後で雷鼓に謝っておこう。

 

 完全にスキマが消えたのを確認して火種を流しに落とす、ジュッと鳴るのを確認してから社務所に戻ると何の話かと素敵な巫女さんに絡まれてしまった、どうせならこの子にも抑止力になってもらうか、人里の寺子屋主催で社会科見学をすると話し始め、それから儲け話へと少しずつ話を逸らしていった。

 全部は話さずテキトウに囃し立てると最初に乗って来たのは黒白、酉の市で売れ残ったガラクタを捌くのに屋台を出すと言い出した、それを受けて巫女の方も悩み出すが、勘を売ればいいと煽ててみると一寸の姫と一緒になって運勢占いをやる事に。

 この流れだと鬼っ娘もノッてくるかと思ったが今回はパスするらしい、飲み屋を開くのもいいが酒は自分で飲んだ方がいいそうだ。あたしの徳利で良ければ奢ると餌を撒いて少しだけおねだりしてみると暇を潰す程度に手伝ってくれる事となった、この人なら丁度いいし気が変わる前に押し付けようと言葉に甘えて天界への宣伝を頼む、この間遊びに来た我儘天人への少しのお詫びと、まだ誘っておらず了承を得られていない面の踊り子の保険代わりに龍宮の使いへ伝言をお願いした。

 おねだりついでにレティさんにもお願い事をしてみる、当日の天気をどうにかしたい、あざとさを捻り出し可愛い顔して尻尾を振って、試しにお願いしてみたらすんなりと引き受けてくれた、これで天気の心配はなくなる。

 最後に幽香だが誘う前に気が向いたら遊びに行くと先手を打たれてしまった‥‥まぁいい、それなら壁の花にでもなってもらおう、静かに微笑んでいるだけなら可憐なお嬢さんだし、景色を彩るにはうってつけだ。

 

 そのままの流れでちょっとした会議となって、妖怪神社で色々と話し色々と決めた。

 まず決まったのは開催日。

 旧暦で言うお正月、どうせやるなら他の祝い事も抱き合わせにしようと主催者権限で押し通した日程だ、各々準備もあるからもう少し準備時間がほしいと言い出しきたが、出店くらいは用意するとごり押して数日後の十八日が予定日となった。道教の宣伝には丁度いいだろうし、娘々辺りを誘うことが出来れば多分他のもノッてくるだろう、ついでに太子を誘致出来ればちゃんとした古典も教えられそうだ。 

 十二分に集まりそうだしこんなもんでいいかと思ったが、あっちの神社を除け者にすると後で煩そうだと言ってくれた巫女の勘を信じて、お山の神社も誘ってみる事にした、早速行くかと片足立になった時に巫女に尻尾を握られる、何も言わずに開いている手の親指で分社を指してくれる素敵な巫女。そういえばあったなと、小さな分社に向かって呼びかけてみたがうんともすんともいわない分社。

 訝しげな顔で首を傾げていると紅白ツートンカラーに笑われる、一杯食わされて眉間に皺を寄せてみるともう一人のツートンカラーと手乗り姫にも笑われた、足元を掬われて地に立てないので、何も言わずにドラムに腰掛けそのまま静かに飛び出した。

 

~少女移動中~

 

 細々とした決め事は儲けたい連中に任せて助言通りにお山に到着、普段とは違う空からの入山ルートだったが最初に会うのは見慣れた天狗。空から振っている白粉を肩に塗りいつも以上に真っ白な狼天狗、頭には頭襟の赤とそれ以外の赤を差し色にしていてちょっと小粋な風に見える。

 新年の挨拶を済ませて面を上げた時に髪に見えた赤く小さな髪留めボンボン、使ってくれているようで何よりだ、今日は珍しく椛に用事だと伝えると、隣にいる雷鼓とあたしを見比べて小さく溜息をつく。

 溜息をつき呆れる椛に、銀杏拾いよりも面白くしたい物があるから出来れば目玉を貸してくれと頭を下げてお願いすると、初めて頭を下げたのが功を奏したのかすんなりと引き受けてくれた。

 

 椛に探してもらうのは天狗記者のどちらか、出来ればアウトドアな方と会えると嬉しい、生命保険を使わずに済ませる為の介護保険としてあいつらの新聞を利用したいのだ。

 昼間ならいないだろうがもうすぐ日も落ちるし、鳥目なあいつらは住まいに帰って来てもいい時間帯だ、 次の新聞用の尾ヒレ背ヒレ作りに悩み、機嫌が悪くなる前に少しおねだりしておきたかった、が先に見つけたのは別の者。

 文を見つけた椛と移動を初めてすぐに発明バカとおかっぱを見かけた、こいつらも話が分かる相手だしついでに抱き込んでおくか、出店作りを押し付ければそっちに割かれる手間も減る、下手な言い訳をせずにビジネスパートナーとして誘ってみよう。

 

「研究費用を稼ぐ儲け話があるんだけど、にとりも一口乗らない?」

「お前が持ってくる話に裏がないわけがない、なにやんのさ」

 

「ざっくり言えば人里をライブ会場にして、テキ屋も出してついでに授業ってところ」

「授業?」

 

「里の子供の社会科見学って感じになればいいと思ってるわ」

「上手くいくの? 儲かる算段がないんじゃちょっとねぇ」

 

 イマイチ食いつきが悪い河童二人、確かに旨いだけの話なんて怪しいし普通ならノッてこないだろう、ましてや仕切りがあたしなのだから、こいつらに信用されなくても仕方がない。

 しかし、このままだと河童にフラれてしまうし何か説得力のあるものはないか?確実とまではいかなくてもいいが、儲かるだろうと思わせるだけの何かを話して釣らないと。

 子鬼のパワハラを使わずにやり込めるモノ、ねぇ…あたしを寒空に追い出してくれた巫女を使うか。

 

「霊夢が話にノッて占いをする、儲かる理由にならないかしら?」

「博麗の巫女の勘かぁ‥‥ちなみに‥‥」

 

 当然こうなるだろうと思った流れ。

 それに関しては止めるつもりはない、上手くやってくれればそれで良い。

 

「主役はあくまでも里の子供って事を忘れないでね、アレにバレたらあたしまで頭突きされるわ‥‥バレないように上手くやりなさい」 

「話がわかるね、上手くやるよ。それで、私達は何を作ったらいいのさ?」

 

「テキ屋の屋台を幾つか、賭けるなら笑えるモノにしなさいよ」

 

 普段は信用ならないがそういう話では信用できると、変な信用のされ方をしているが正しい評価で言い返せない。

 とりあえず神社で決めた事を話して出店の仕切りと現状の参加者を伝えておいた、萃香さんの名前が無い事に安心したのか、片方の口角だけを上げて笑むにとり。

 食いつきは悪かったが釣ってしまえばトントン拍子で話が早い‥‥いや、ドンドン拍子にしておこう、あたしのリズムに相手をノセてくれる相方がいてこその話の早さだ、ついていっていいかと尋ねられて何の気なしに連れてきたがお陰様で大助かりだ。

 帰ったらうんと可愛がってあげないとならないな、姉妹をちゃっちゃと追い払って夜のライブと洒落込もう。

 

 藪から出てきた河童のお陰で人足も増えてこれで出店の方は問題ない、調子よく話が進んで口を出し惜しんでいられたしそろそろ会いたい所なのだが‥‥そう悩んでいる間にあっちから来てくれた、真っ白な雪の中で目立つ真っ黒で綺麗な翼と黒い髪。

 嫌味な営業スマイルを貼り付けて喧しく絡んでくる清く正しい介護保険、いつもなら口煩いと邪険にするが今回はそれがありがたい。

 

「あややや、これはこれは竹林の昼行灯さん‥‥と一緒にいるのは、おぉ!この間の異変の‥‥」

「ライブ会場は人里、人妖関わらず参加で出店もあるわ、日にちは今月の旧正月」

 

「え? ちょ、もう一回」

「お年玉のつもりだったんだけどいらなかった?」

 

 新年初顔合わせだし折角なら記事のネタをあげようと思ったのだが、聞いていなかったらしい、出会い頭で捲し立ててでっち上げる為の何かを聞き出す算段だったみたいだが、まさかあたしからネタを振られるなんて考えていなかったのだろう。

 格好良く出ようとするから聞き逃すのだろうに、仕方がないから条件つけてもう一度だけ話してみるか、少しくらい勿体ぶって見せた方がこいつに話すのには効果的だろうし。

 

「いや、だからもう一回話してよ」

「いいけどはたてにも伝えてくれる? 出来れば同時に発行だとありがたいわ」

 

「同時? う~ん‥‥そうなると特ダネ‥…」

「にはならないわよ、結構広まってるはずだし」

 

 なんだ、と一瞬で興味を失う清く正しい射命丸、そう気落ちしないでほしい、こちらとしては嘘八百のヒレを付けてその辺りにばら撒いてほしいのだから。

 けれどこのままだと逃げられてしまいそうだな、先程までのようにドンドン拍子とはいかない交渉をどう進めるか少し悩む。最終手段の鬼っ娘ハラスメントを使う手もあるが、これはまだ使いたくないし……リズムに乗せる事を突然やめた相方に視線を移すと、悩むようなよくわからない表情をしている。

 瞳の色も髪型も似ている紅い頭と黒い頭が悩んで見えるこの景色。

 これを変えるにはどうしたもんか?

 思いつかないからいいか、腹を割ろう。

 

「じゃあ言い方を変えるわ、利用されて頂戴」

「利用って既に広まってるんでしょ? 意味ないじゃない」

 

「文らしく煽ってくれればいいのよ、紙面はそうね『眼と耳は付喪神の能と演奏に、舌は夜雀に酔いしれる』みたいな? 首謀者はあたしでいいわよ」

「昼行灯が面倒事を引き受けるなんて、どういう風の吹き回し?」

 

「主役はいるしあたしは裏方だもの、灯した後は見向きもされない行灯らしくていいでしょ?」

「行灯を灯しただけの客寄せパンダにしては愛らしさが足りないわね」

 

「こう見えても人里で人気あるのよ、嬉しいけれど少し困るのよね……恐れてもらわないと消えるかもしれないわ」

「意図が読みきれないけど、何かしらの理由はあるのよね?」

 

 一瞬バレたかなと思ったがどうやら引っかかったくらいのようだ、磨きをかけるのは翼だけにしておいてくれ。勘まで鋭くされてしまったらからかう時に邪魔になる、記者モードのこいつはただでさえ口煩くて面倒なのに、これ以上突っ込まれると厄介払いにバラしてしまいそうな自分が少し嫌だ。

 面倒嫌いのあたしが自ら面倒事に首を突っ込むその理由、これはあたしのセッティングした舞台なのだ、人里で事を成すと知られれば邪魔を入れてくる輩がいるはず‥‥人の住まう里で主犯として騒げば確実に横槍が飛んでくるだろう、槍で突いてくるのはろくろ首のように里で静かに暮らしつつ、偶にこっちを狙ってくる者達。人攫いであるあたしを恨み続けている者達がまだいるはず、阿求と慧音のお陰もあってあれから襲われてはいないが、襲うに襲えなくて鬱憤も恨みと同じく溜まっているはずだ。

 人間側と妖怪側それぞれに抑止力を用意はしたが、それはあくまで人里内での事、一歩でも外に出れば何かしら仕掛けてくるだろう、里の中はそれらの抑止力にぶん投げれば面倒事なんぞ起きないだろうし問題ないが、それでも舞台を白けさせる野次はいらない、野次を飛ばして囃し立てるのはあたしだけで間に合っている。

 あいつらが狙ってくるとすれば一番盛り上がっている時か、始まる寸前の期待高まる頃合いを見計らって来るはずだ、あたしが潰すならそのタイミングで仕掛ける、始まれば奴らでは止められないだろうし、有る事無い事を二人に書いてもらって横槍を投げ入れる先を増やして貰いたかった。

 記者の二人には本当に申し訳ないが、デマゴーグを広めるためにあたしに利用されて欲しい、あたしは捻くれたアジテーターとして撹乱し出来ればそいつらを静かにしておきたいのだ、一人なら気にしないが花のに着けられた鼻に付く匂いが消せなくて気になる。

 目に付く雑草は生えてないが、この騒ぎにのっかり根っこから絶やしておきたい。 

 

「撹乱よ、ただそれだけ」

「撹乱って何を乱すのよ」

 

「これでもモテて困ってるのよ? 偶に遊びに来る退治屋さんに生活リズムを乱されたりね」

「‥‥なるほど、それで同時に発行なのね?」

 

「そう。時間も場所も全部バラバラにして、主犯はあたしってとこだけ一緒にしてくれればいいわ」

「構わないけど、報酬は?」

 

「お祭りの期間中誰でも好きにインタビュー、勿論文とはたてだけ」

「報酬にならないけど‥‥いいわ、アヤメが自分から動くってのがネタになりそうだし利用されてあげる」

 

 素直にありがとうと微笑むと、後でアヤメの記事を書くわよと背中で語りながら飛び立つ幻想郷最速の介護天狗、見る見る間にいなくなり風を置き去りにして去っていった。

 報酬にならないから嫌だと言われるかと、新聞記者をバカにするなと怒られる覚悟で話してみたがどうにか甘えることが出来た。

 インタビューなんて何時もしている事だし報酬になんてなりゃしない、好きになんて言ったみたがインタビュー相手に答えさせる保証は報酬内容に含めていない、先ほどの場の雰囲気で聞けば勝手に勘違いしてインタビュー相手に答えてもらえる報酬だと思い込む、と引っ掛けるつもりだったがさすがに甘くはなかったか。

 しかし今までよりも随分と手こずった、口八丁でやってきたのにあたしに都合の良いリズムに甘えた結果がこれか、最後は付き合いから出た気遣いに甘えただけだったし、立つ瀬どころか溺れて当然の散々な騙し合い。

 姐さんに聞かれたらまた叱られそうで怖いが、寺は既に回った後だ、姐さんは更に後回しに今は神社を目指すとするかね、このお山で用があるのは神様連中だけになったわけだし。

 厄神様や秋の二柱も同じく後回しにして守矢の二柱に話を通しておこう、あの二柱も出来ればリズムに乗せてもらいたい相手だったが、ノリが悪くなってしまいすっかり静かな相方に期待は出来ない。文との交渉くらいからすっかり静かなあたしの鼓、悩む理由はなにかしら?

 

「河童の時から静かだけど、拍子を取るのはやめたのかしら」

「最初はノリ気で手伝ったけど聞いてるうちにちょっとね、聞いてもいい?」

 

「なんでもお好きに」

「楽しそうな催しだけど、準備だけしてそれでいいの?」

 

「それってどれかしら?」

「あちこち回って頭を下げたりツテを頼ってみたり、なのに主役は人間の子供だとか人気者は困るとか言ったし‥‥」

 

 何を聞いてくるかと思えばそんな事か、まぁ気がつかなくても仕方がない、あたしにとっては当たり前になり過ぎている感覚で、特に話してはいなかったのが悪い。

 催しの中心にいるのも面白いがあたしの立ち位置はそこじゃない、催し物を端まで見通せる数歩引いた辺り、そこがあたしの心地良い立ち位置だ。ドラム叩いて注目を浴びる雷鼓には理解されないかもしれないが、この立ち位置があたしにとっては心地いいし、こういった行事は始まる前が一番面白いのだ。どう言えば理解してもらえるかなんてわからないが、とりあえず伝えておくか‥‥隠さなくてもいい者にはきっちり話しておいた方がいい。

 

「雷鼓、あたしは何かしら?」

「霧で煙な可愛い狸さん?」

 

「正解、では狸がするのは?」

「騙し合いに化かし合い?」

 

「それも正解だけど追加するわ、企み事も大好きなのよ」

「企み事って今回の件よね? なら首謀者らしく真ん中で騒がないの?」

 

「騒がないわよ? 企み事を企んでいる今が一番面白いから‥‥企みが成ったなら後は企てた通りになるよう動くだけよ」

「よくわからないけど、取り敢えず今が一番面白いって事でいいのよね」

 

 その通り。手駒集めて好きに配置して、後はそれらが思った通りに動くように頭を使って考える、こうしている今が一番楽しい、使えるものはなんでも使って周到に準備し、何があってもどうにか出来るように筋道を掘る今が楽しい。

 引き篭もり魔女の言葉じゃないが、研究した結果は研究した通りにしか起こらないものだ、それなら全力で笑うために全力で準備に走り回る。頭なんぞどれだけ下げても減らないし、元が無料(ただ)なのだからそれで済めば安いものだ、土下座しろと言われれば土下座するし、売れと言われれば‥‥それは怒られるからやめとくか。

 とりあえず思いつく限り集めておけば後は勝手に盛り上がってくれるだろう、掘った筋道以上に面白い道の駅になるかもしれないが‥‥ありがたい事に参加者が増えて、何処に転がるかわからなくなった企み事、楽しみで不安で誰にも邪魔されたくない小さな企み事。

 規模こそ違うがここを作った時のあいつ(ゆかり)の気持ちがなんとなく分かる気がする。

 

「そうね、そうして全て終わった後で横にいてくれれば至福って感じかしら」

「真っ直ぐに恥ずかしいこと言うわね」

 

「何? 照れてるの? 偶にしか本心言わないからよく聞いておいたほうがいいわよ?」

「はいはい、じゃあ終わるまでお預けね」

 

「それは困るわ、まだ三日もあるし‥‥浮気するわよ?」

「我儘ね、仕方がない」

 

 焦らしてあげると肩を抱かれて押し倒された、バスドラムの上で押し倒されて唇が触れ合う瞬間、後ろから咳払いが聞こえてくる、そういや目のいい天狗がまだいたなと思い出し、少しだけ顔を横に向けると釣られてそっちを向く赤い髪‥‥見られたくらいで気を取られ離れてしまうようでは、まだまだ。

 

~少女移動中~

 

 サクサク登ってお山の神社、鳥居を潜り雪のない庭先を進み入ると家族揃って社務所で団欒中だったようだ、三人で卓を囲んでまったりしているところに上がり込む‥‥前にこっちでは先に参拝を済ましておく。

 乾と坤を司る二柱がおられるからか、本来なら積もっているはずの雪は飛ばされて空気も少しだけ暖かく参拝する余裕もある、それなら先に済ませておいた方がいい、形だけはきっちりしておかないと神様らしく煩くなるかもしれないから。

 二拝二拍手一拝と流れるように参拝を済ませて最後に頭を上げると、視界に映ったのは正面に立つ神様二柱、そのまま年始のご挨拶も済ませて少しだけ宣伝もしていくが、それほどノリ気ではないようだ、早苗は何かするらしいが。

 てっきり信仰集めに利用するかと思っていたが、予想が外れるとは思わなかった、初対面の早苗と雷鼓が何か話している間にその辺りを少し聞いてみれば、子供が主役のお祭りを利用するほど廃れてはいないと怒られてしまった。

 外で廃れたくせに何を言うのかと思ったが、外の神社で執り行われていた縁日なんかは楽しそうに眺めていた事もあった、見た目子供な祟神様と普段は気さくな軍神様、どちらも無邪気な面を見せる御方ではあるし早苗のことも愛しているし、これで案外子供好きなのかもしれない。

 

 ここも問題なく纏まったし次は何処を抱き込むか、残る所は赤い屋敷と霊廟くらいか?

 いや、地底と三途の川も残っていたか、けれど地底は便宜上不可侵となっているし三途は年中無休の仕事場だ、さすがにそれをほっぽり出せとは言えないな。

 ならば今回はやめておこうか、万一の時の逃げ場所として残しておくのも悪くない。

 後は天界くらいだが、あそこも鬼っ娘に頼むことが出来たしそっちは任せておくとしよう。

 さて、次はどちらへと行こうかね? 


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