東方狸囃子   作:ほりごたつ

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111話 ゾロ目ですね


第百十一話 降り時は心得て

 酔い覚まし代わりに色のある話と行為をしてみれば、舞台の時とは違って注目を浴びてしまった、恥ずかしくはないがのろけているようで座りが悪い。自慢も出来てそれなりに心地よかったがさすがにと思い、逆上せてしまった頭を冷やそうと今は縁側に腰掛けて浮かぶ二人を眺めている。

 煙管咥えて見つめる先は炎を纏い降り続く雪を溶かしていく蓬莱人と、その炎の動をかき消すように静かに周囲に秘宝を浮かばせる蓬莱人、すっかり見慣れた殺し合い、正確な勝敗数なんてあたしは覚えていないが右隣に腰掛けている従者が言うには6:4で輝夜が勝ち越しているらしい。

 蓬莱人としての年季の違いから差が出るのかね、姫様よりも更に年季を感じられる女医さんに聞いても良かったが‥‥後が怖いので言葉を飲んだ。

 

 大きなバスドラムから重低音が轟くとそれが開始の合図となり、浮かぶ二人がおっ始めた。

 少し前にあたしと永琳の二人が上がっていた橋舞台、今そこには楽しそうに本体を叩く付喪神がいる。夜空で踊る蓬莱人二人の戯れに合わせて響く重低音、腹に心地よく耳に小気味いい振動、喧嘩のリズムを乱すどころかドラムのリズムに喧嘩が乗っかるような形に見える今の景色、ちょっとしたミュージカルのようで面白いものだ。

 輝夜と妹紅が外に出る際に雷鼓が叩いていいかと問うてきた、疼いて我慢出来ないのだそうだ、言葉を聞いていた輝夜から了承を得て今の状態となっている。

 ちなみに妹紅には聞いていない、屋敷の主の許可を得たから他はどうでもいいと思って聞かずにいたが、結構気に入ったようだ、いつもよりも瞳が燃えているように見える。

 

 心地よい振動を感じながら空を眺める。

 妹紅の放つ炎弾を綺麗な枝で一払いする輝夜、払った枝の軌跡が綺麗で少しだけ瞳に残った、一手目は輝夜といったところか、今日はどっちが死ぬだろうかね?

 回りの皆に聞いてみようか。

 

「永琳はどっちに賭ける? あたしは輝夜にするわ」

「私も姫様、って言っておかないと後で煩いわ」

 

「そうなの? 意外と器が小さいのね」

「甘えん坊なのよ、貴女達とは違って誰かがいると出さないけど」

 

 そんなものかと楽しそうに殺しあう賭けの対象を見つめる、不遜な態度と淑やかに笑う姿、後は要らぬ難題を押し付けてくる姿くらいしか見た事がないが、永琳にだけ見せる姿があるらしい。

 それくらいは当然か、互いに月人で互いに終わりの無くなった者同士なのだ、二人にしか感じられない物もあるだろうし、互いにしか見せない姿もあるのだろう、突く事でもない、つっつくのは無粋だろう。

 とりあえず話題を戻して残りの者にも話を振ろうか、兎達がどっちに賭けるかは予想出来るから、もう一人の半分人間にもノッてもらわないと賭け事にならない。

 

「てゐと鈴仙はどっちに張るの?」

「私も姫様で、多分聞いていらっしゃるし師匠と同じく後が怖くなりそうなので」

「それじゃあたしは妹紅にしようかな、不人気じゃ可愛そうだ」

 

「選ぶ理由がそれでも可愛そうだと思うけど、慧音は賭ける?」

「私は別に、妹紅が満足すればそれでいいんだが」

 

 元旦くらい頭のネジを緩めてくれてもいいと思うが、妹紅も多分気にしないだろうし‥‥言う通りにしてもいいが一人だけ仲間はずれのままにしておくのは興が削がれる、どうにかノセられないものかね?

 何かないかと耳をピクリとさせる、あたしの頭を台替わりに両手を載せて空を眺めるイタズラの先輩に助けを求めた、すると左耳の鎖を引いてあたしの問いかけに対し返答してくれる先輩兎、カフスから垂れるスイッチを引いてくれたし口撃を始めてみよう。

 

「慧音一人だけノリが悪いわよ、興が冷めるわ」

「いやだから私は‥‥」

「慧音が期待してくれれば妹紅は更に大満足、あたしゃそう思うけど?」

 

「いい事を言うわね、ついでに勝てば機嫌の良い妹紅をお持ち帰り出来そうね」

「むぅ」

「今日くらいはいいじゃないか、普段はいないのが頑張って拍子を取ってるんだよ? 偶には縦乗りしなよ、先生?」

 

 イタズラ兎とイタズラ狸が互いに鳴らす口三味線、雷鼓の叩くドラムにノセてリズム良く矢継ぎ早にまくし立てると‥‥少し悩んで慧音も妹紅に賭けてくれた、普段ならもう少し手間なのだが先輩とリズムのお陰で酷くチョロい石頭だ。

 硬い意志頭を上手くノセられたと機嫌を良くし尾を揺らすと、先輩兎にしたたかに踏まれた、尾を踏みながら左耳のスイッチを再度引かれる、調子に乗る前にスイッチを切られてしまってはこれ以上やり込めない、OFFにされたし静かに成り行きを見るか。

 ぼんやりと見つめていると隣に座る銀髪と頭の上の兎が二人で話を進め始めた、能力使って意識を逸らしておいたのに、スイッチ切られて能力も切ったりしたからかね?

 

「それで何を賭けたらいいかね」

「お金は必要ないし、何か一つ言う事を聞くってどうかしら?」

「親を差し置いて話を進めないでほしいんだけど」

 

「サマがバレたんだから降りなよ、見苦しいウサ」

「サマって、アヤメさんが何かしてたんですか?」

 

「賭けなんて言ったのにタネについては話さずあたし達をノセた、大方その辺に気がつかないように逸らしたんだろう?」

 

 これだから手の内がバレているとやりにくいのだ、楽しく賭けて一喜一憂するだけのつもりが種をばらされ真っ当な賭け事になってしまった。

 こうなったなら仕方がないか、運に任せて勝てる事を祈ろう、さすがに輝夜に向かう攻撃を逸らしたりはしないし、それをやったら全員からボコられそうだ。

 あたし以外で警戒するのはてゐの能力くらいだが、さすがに賭け事でどちらかに肩入れはしないだろう、あたしを親から降ろした言い出しっぺだ、それをやればあたしにしばかれると理解しているはずだ。

 

 争う二人と重低音を轟かせる付喪神をアテにして湯気を立てるお酒を含む、燗酒よりも冷が好みだが、雪を溶かして周囲に湯気を漂わせる妹紅を見るにはこちらの方が趣がある。

 湯気と共に立ち上る米の香りを楽しんで、小さなお猪口をぐいっと煽る、数度煽ってお猪口を頭の上に上げると、見た目だけは可愛らしい小さめの手が受け取った。

 受け取りそのまま差し出されて、お銚子から数度注いでは差し出されを繰り返した頃、空の方で動きがあった、長いこと血々繰り合っていた二人だが輝夜の腹が燃えている、妹紅の片腕を犠牲にした攻撃が上手い事決まったようだ。

 貫いて炎へと変じる妹紅の片腕、雪と湯気のせいで確認しにくいが片腕を囮にした両腕の使っての特攻、それが綺麗に刺さり炎上しそのまま爆ぜたお姫様、今夜は妹紅の勝ちらしい。

 賭けには負けたがそこそこに楽しめた雪舞台演目の二枚目だった。

 喧嘩の終わりと共に轟いた爆音にかき消されて重低音が止まる、空を見つめて不安そうな表情の雷鼓‥‥そういえば言ってなかった、がいいや、後で纏めて話しておこう。

 取り敢えず場を締めてもらいましょうかね、あたしは先に降ろされたから代わりの親に仕切ってもらう、耳を動かして促すと代理親が仕切ってくれた。

 

「勝った勝った、これは明日の朝餉が旨くなるね」

「負けちゃったわね、永琳」

「そうね、取り敢えずおしまいしましょうか」

 

 言いながら弓を引いて勝者の頭を一撃で射抜く、雪を引いて進む矢が頭を射抜いて突き刺したまま竹林の闇へと消えていった。頭を失いグラリと崩れ落ちながら炎上する喧嘩の勝者、慧音以外が勝者の終わりも見届けて小さな賭博場もお開きとなった。

 

~少女移動中~

 

 視界の先は随分と熱かったが燗酒だけでは温まり切れず、各々順番を決めて永遠亭の風呂に入った、最初に入ったのは演奏で汗を掻いた重低音娘、最初は一人で入っていたのだが先に復活した姫様が後から乱入して、二人ではしゃぐ声が聞こえていた。

 次に入ったのは年配組、賭けに勝ったてゐが永琳に背中を流してとお願いしたらしい、随分とらしくない可愛いお願いだが、これくらいにしておけば後腐れなくまたやり込めると笑っていた‥どうやら何かをしていたらしい、やはり侮れん‥‥後で聞けば、戦う二人には何もしていないが観戦側では唯一の人間である慧音に運を授けたらしい、なるほど一枚上手だった。

 三番手は慧音と復活した妹紅、二人で仲良く入るのはいいがまだ後がいるから湯を濁すなと意地悪く言うと予想以上に早く出てきた。温まるには短い時間で少し悪いと思ったが、勝って火照っているから十分らしい、それなら今夜の慧音も暖かいだろうし何も問題ない。

 最後に残ったあたしと鈴仙、気にせず脱衣場で着物を脱いでいる途中に鈴仙にジロジロ見られて少し困った。

 

「着物って小さく見えるんですね、やっぱり」

「着物だと下着付けないし、洋服より厚手だからどうしてもね」

 

「洋服の時は付けるんですか?」

「下はね、上はインナーで十分なの。何? 気にしてるの?」

 

 小さなタオルを頭に載せているだけのあたしに対してバスタオルで体を隠す鈴仙、同姓で気にする必要なんてないと思うがサイズを気にしてるのかね?

 注意力を逸らして隙を作り巻いているバスタオルを奪うと、小ぶりだが整った小山が目に留まる、戦場で受けた傷でもあって気にしているのかと思ったが、綺麗な肌で羨ましいくらいだ。

 

「何するんですか!?」

「湯船にタオルは無粋よ鈴仙、取って喰わないから安心なさい」

 

「本当ですか? 手が早いって聞いてますよ?」

「聞いてるって‥‥てゐ辺りかしら? 否定しないけど今はそうでもないわよ」

 

「嘘つきは信用出来ないです」

「じゃあ鈴仙に全部任せるから、自分を洗い終えたらあたしも洗ってもらえる?」

 

 え? という返答を聞きながら少しの煙を立てて獣の姿に戻る。

 地底の主に可愛いと褒められた姿になって裸の鈴仙に飛びついた、体重も軽い今の姿では押し倒せず両手で軽々と受け止められる。初めて見るあたしのこっちの姿を気に入ったのか、赤い瞳が少し輝いて抱かれる力が少し強くなるがそれは気にせずに尻尾で洗い場を指すと、両手で抱かれたまま風呂場へ向かいそのまま丸洗いされた。綺麗に全身洗われて鈴仙に抱かれたまま湯船に浸かる、獣の姿では足が届かず鈴仙の腿の上が丁度いい高さでありがたい。

 

「濡れてもそれほどしょんぼりしないんですね、尻尾」

「毛量が多いのよね、尻尾だけ」

 

 バシャンと音を立てて腿から追い立てられる。

 底に届かぬ足で掻いて檜風呂縁につかまり振り返ると、謝りながら再度腿で迎えてくれた、この姿でも話せるとは思っていなかったらしい、さっきのは独り言のつもりだったそうだ‥‥地底の二人に比べて可愛い反応で声に出して笑ってしまった。

 今の姿に似合わぬ意地の悪い笑いだと自覚しているが直すつもりはない、一笑いして表情に出るかわからないがニヤニヤとしているとボソッと何かを呟かれた。

 

「見た目と同じで中身も可愛くなればいいのに」

「何か言った? 元に戻ってもいいんだけど?」

 

 水面で尾を一振りして水飛沫を飛ばす、上手い事掛からずあさっての方向で小さな波紋を広げるだけとなってしまう、思惑通りにいかず、小さな口で小さく舌打ちをするとそれを聞かれて小さく笑われた。その笑みに何か言い返そうとしたが口は兎も角仕草は可愛いというお褒めの言葉を貰えたので、気にしないこととした。

 最後の番手だったからか少し微温くなった湯船。

 鈴仙ももう少し温まっていくようだし、もうしばらく腿を借りよう。

 親は降りたがここを降りるにはまだ早いし、一人で上がるには湯船の縁が少し高い。


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