東方狸囃子   作:ほりごたつ

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弾幕ごっこを書くのは難しいですね。
三次元に飛び回る感覚がなんともつかめません。


第十一話 門番と宴

 あれやこれやと準備を進め、後は料理が出揃えばはい終わり。という頃にはすでに太陽は見えなくなっており、篝火を灯した境内だけが明るさを放っている。暖かな灯火に照らされると、待ってましたの乾杯もあり、楽しい宴も始まった。準備していた頃には姿の見えなかった者、話を聞いて飛び入りで参加した者等がおもいおもいに過ごしている。

 

 あちらには椅子やテーブルごと館から運び出し、およそ神社には似合わない西洋風の椅子に腰掛け、不安と顔に書いた姉がいる。先程からあちこちが気になるが行動には起こせない妹を見つめ、そんな妹の動きに合わせて表情がコロコロと変わり忙しそうな姉。

 その姉妹のそばを離れず佇む門番は、仕事中だと言って酒こそ飲んではいないが、表情は柔らかくそれなりに楽しんでいるのが伺える。眺めていると門番と視線が重なり、目だけでお互い挨拶した。もう一人、あれらの側にいるはずの使用人の姿が近くにないのを不思議に思ったが、なるほど人間の集まりにいるらしい。

 あのお嬢ちゃんも気を利かせるという事を覚えたようだ。

 

 その横では妹紅と慧音が疲れ果てた鈴仙を労っている。

 準備に追われる鈴仙をフォローするよう買い出し等外回りをしていたようで、慧音があたしに気づいたのは宴の始まる少し前だった。顔を合わせた時にはまた小言かなと思ったが、さすがに空気を読んだらしく何も言われる事はなかった。

 妹紅がこちらを見てお前もこっちに来いと手招く仕草をしたが、頭に角を生やす仕草をしたら伝わったらしく笑っていた。

 

 メイン会場である境内でおもいおもいに楽しんでいる皆々をぐるりと眺めつつ、準備中にはいなかったもう一人。あたしをこの場に呼んだ張本人射命丸文と、縁側に並び静かに盃を傾けていた。

 

「呼んだはいいけど本当に来るとは思わなかったわ」

「来て欲しかったのか来ないで欲しかったのか、わからない言い様ね」

 

「なんとなく誘っても来ないと思い込んでたからね、少し意外だっただけ」

「友人からのたまの誘い、顔を出してもいいと思ったのよ」

 

「すんなり来るならもっと早くから誘ってみるんだったわ」

 

 そう言うと隣の女、射命丸文は黙り、俯いてしまう。

 

「あのね、お願いがあるのよ」

 

 何事かと思ったが、滅多に見られない真剣な表情を見せてくれる、揺れる篝火に染まる真顔は真摯な姿勢に何故か思えて、見つめている間に文に両の手を取られていた。

 珍しい表情と態度、これは大事でも言われるかと考え、真面目に話を聞く素振りを見せた。

 

「アヤメに担ってもらいたい役割があるの……」

 

 少し屈み、下から見上げるような姿勢を取ると瞳を潤ませて、握られた手に力が込められる。不意に見せた憂いのある表情、女らしさが強く見える姿に驚き硬直した瞬間、文に羽交い締めにされる。

 

「お相手、任せたわよ……萃香さん捕まえました、もう出て来られてもいいですよ」

 

 文の言葉を切っ掛けに、あたし達の眼前に霧が萃まりだんだんと人の形を成していく。纏まった霧が実体を得て、腕組みしながら現れたのは頭に二本の角を生やした幼女。

 かつての妖怪の山の頂点であり、今でも鬼の四天王と恐れられている伊吹萃香だ。完全に実体を表すと、腕から下がった鎖を鳴らしあたしの顎を捕まえた。

 少し目を細めながらこちらに顔を近づけてくるちびっ子を眺め、初めての出会いもこんな風に睨まれたなと思い出し、軽く笑った。

 

「顔見るなり笑うなんて性悪は変わらないか。射命丸ご苦労さん、後は私がもらうからもういいよ」

「煮るなり焼くなり好きにしてくださいね、萃香さん」

 

 あたし達から離れてそう言うと、小さく笑った文は境内の輪の中に消えていった。普段見せない姿で動揺を誘ったのはこのためだったか。

 

「久しぶりね、萃香さん。相変わらず小さくてなによりだわ」

「そういう所もそのままだね、もう一度潰されないとわからないかい?」

 

 文に離された手、撫でようとした右手を取られ強めに締め付けられる。話しながら込められる力が一層強くなっていき、このままでは本気で潰されかねない勢いだ。

 

「可愛いものは愛でるものですわ、と偉い人に教わったのよ」

 

 胡散臭く笑ってみせると呆れたのか、右手が開放された。

 

「真似はいいよ、変に似ていて気が滅入る。そんなことより今日こそは私の酒に付き合ってもらおうじゃないか! 勇儀から聞いてるんだ、やり合って飲み明かしたって! なんだい、楽しそうなことはいつもあいつとやりやがって!」

 

 聞き逃せない発言があり反論しようと思ったがここは我慢、プンスカと怒りを露わにする幼女をなだめるように頭を撫でる。

 

「やり合ったっても弾幕ごっこよ、少し暴れて酒飲んだだけ」

 

 腕やらがなくなる殴り合いだったけど、あれは立会人が弾幕ごっこだと認めたものだ。ちょっとばかり互いの距離が近いもので、弾幕よりも肉体で語るような内容だったがあれは正しく弾幕ごっこ。

 

「ごまかさなくてもいいさ、そこもきちんと聞いてるよ。なに、私ともやり合えって話じゃないさ。ここでやったら霊夢が怖い」

 

 ちらりとめでたい巫女を見る。

 黒白・青白・緑白とカラフルな集まりがある中に混ざる紅白。四人で好きに話して笑っているが、どれも暴れ出すと手に負えない原色達だ。笑いながら語り合う姿を見る限りは、ただの少女とそう変わらないように思えるのだが。

 

「幻想郷の人間は怖い人達が多いからねぇ、萃香さんでもかたなしか」

 

 そう言って笑うと釣られて萃香さんも笑った。

 

「退治される鬼だ、退治する人間はそりゃ恐ろしいさ。そんなことよりさっきの続きだ、酒の方くらい付き合ってもいいんじゃないか?」

 

 そう言うとまた睨んでくるが、先ほどとは変わって、子供がイタズラにかかった相手を見るようなあどけなさの見える睨み方だ。

 

「それは喜んで、というよりも今日はそのつもりだったわ」

 

 二人で企んだのか、この鬼が天狗に上からお願いしたのかは知らないけれど、今日は元々そのつもりだった。こいつがいるって話は聞いていたわけだし。

 

「なんだ、それじゃ天狗を使って余計な事する必要なんてなかったじゃないか」

「お陰で珍しいものが見れて気分がいいわ、あんな乙女な文はまず見られない」

 

 企みが無駄だったとわかり少しだけ肩を落とす子鬼だけれど、良い物が見られたと言って文の顔を思い出しクックッと笑ってやる。すると、それなら私も見たかったなんて笑う。話ながら何処かから刺すような視線を感じたが今は気にしないでおこう。

 萃香さんの盃にあたしの酒を、あたしの盃に萃香さんの酒を注いで静かに乾杯をし、会わなかった時間を埋めるよう、互いにああだこうだと語り始めた。

 

~少女達乾杯~

 

 宴会に萃まった皆々が持ち寄った話題が尽きたのだろう、先程より少し静かになった。

 これくらい静かに飲む方がいいな、そう思い始めた頃合いに、宴会場所の提供者が、そろそろ何か見たいわね、と、立ち上がり周囲を見渡す。グルリ眺める中であたしと目が合うと指差し、面倒事を言ってきた。

 

「初参加なんだからあんた、面白いことやりなさい。狸なら宴会芸くらいあるでしょ」

 

 腹太鼓でも打てというのか、芸事はもっぱら見る方で覚えがない。唯一身に付いている鼓も今は手元にないし、腹は叩いて音が出るほど丸くない。どうしたもんかと考えていると黒白が立ち上がり、話し始めた。

 

「アヤメのスペルはまだ見た事ないんだ、ちょっと披露してくれよ! さすがにもう考えてあるだろ? ないとか言い出すなら今度は丸焼きにするぜ?」

 

 返事を待たずに軽く構え、八卦炉をこちらに向けて煽りを入れてくる。

 用意がないって返事を待っているのだろう、準備万端といった表情だ。

 

「あやや、いいネタになりそうですね。記事にするなら『竹林の昼行灯、弾幕勝負の実力はいかほどか?』こんなところでしょうか。普段やる気の見えない方です、注目された時くらいは何かやってもらいましょう」

 

 次いで、ここぞとばかりに割り入ってくるのは新聞記者。この煽りはさっきの仕返しだろうか。文の煽りにのっかるのは少し癪だが‥‥場をしらけさせるのも気分が悪いか。

 

「そうね、いつも眺めてばっかりも悪い。弾幕ごっこの先輩方に評点つけてもらいましょうか」

「厳しい採点つけてやろう、さぁ相手は誰だ? 立候補者がいないなら私がリベンジ戦してやってもいいんだぜ?」

 

 ほんの少しだけやる気を見せると黒白は驚いた表情をしたが、すぐに破顔しリベンジを挑めと煽ってくる、単に自分がやりたいだけなのが見え見えだ。

 

「あたしが決めるわ、そうね‥‥そこの門番が相手して」

 

 おめでたい巫女の口から想定外の名前が出てきた。言われた方は我関せずで過ごしていたのだが、いきなりの指名に皆からの注目が集まる。視線浴びる事に慣れていないのか苦笑いをする美鈴。

 

「あー‥‥私ですか、もっと強い人がいますよ?」

 

 少し困った顔をしてとぼける美鈴だが‥‥

 

「魔理沙から聞いたけど、あいつ初心者よ? なら慣れるにはあんたが適任だわ。それにあんたの弾幕綺麗だし、余興には持ってこいよ」

「口がうまいですね……そう褒められては見せないわけにはいきませんし、正直得意じゃないですが、アヤメさんさえ良ければやりましょう」

 

 言い方こそ柔らかいが気分はすでに切り替わっているのだろう、いつもの穏やかな雰囲気よりも少しだけ熱いものが見える。

 

「こちらこそお願いするわ、魔理沙と違って優しく手ほどきしてくれそうだし」

「必要であれば。ですが出来れば全力でやりたいですね」

 

 加減というものがわからない相手よりよっぽど安心できる相手で助かったと思ったが、にぃっと笑うと先ほどより強い眼差しを見せる美鈴。

 その笑顔が加減はしますよ、という笑顔であればいいな、そう思った。   

 

~少女起動中~

 

 互いの声が聞き取れるくらいの距離で両者浮かんでいる。

 足元からは、

――早く始めろー!

――美鈴頑張ってー!

――負けたらしばらく飯抜きよ!

 と、片方ばかりにヤジ混じりの声援が飛んできていた。

 

「信頼されてるのね、妬ましいわ」

「あはは、なんですかそれ」

 

 キッと美鈴を睨んで妬んでみるがさらりと笑い流される、まだまだ眼力が足りないようだ。

 

「萃香さんとの話で思い出した友人の口癖、面白いでしょ?」

「貴女と話すと調子が狂う、余計なおしゃべりはしません。何枚にしましょうか?」

 

 軽口をちょいと言ってみたが求めた返答はなく、変わりにまっすぐに見つめ返された。

 一言挨拶し構えを取る美鈴、隙の見えない構えに長く鍛えた努力が見える。

 

「あたしは使えるのが二枚くらいしかないんだけど?」

 

 着物の袖口から二枚ほどカードを取り出す。

 魔理沙に負けた後に考えたあたしのスペルカードだ。あれから結構経っているが未だに二枚しかない紙ッペら。他にも数枚作ってみたがどれもしっくりこない仕上がりになったため、最終的にこれでいいかと残ったのがこのカードである。

 

「なら互いに二枚としましょうか、では参ります」

 

 言葉と同時に体を回転させ美鈴を中心とした螺旋状の弾幕を放ってきた。

 赤く輝く妖気弾がうねりながら迫る。

 

「言葉で語らず弾幕で語るのね。格好いいわ、ホント妬ましい」

 

 言葉を返し弾幕の動きに逆らわない円軌道で回避していく。

 途中逆回転を織り交ぜるなど変則的な弾幕が飛んでくるがどうにか対応し凌ぎ切った。

 

「初心者という割に、避け慣れてますね」

「見るのには慣れてるからね、応用すればどうにかなるわ。じゃあ次はこっちの番」

 

 回転を止めた美鈴に褒められた、真っ向から褒められて少し機嫌が良くなった気がする。

 ノセてくる為の煽てとも取れるが今はお戯れだし、それっぽい返答を済ませ、妖気の塊を自身の周囲にばら撒く。ふよふよと漂い青く灯るそれから青いレーザーを放ち、美鈴目掛けて走らせていく。

 数発放つと撒いた順に塊が霧散していった。

 

『レーザー数発分の移動機雷ってところでしょうか』

 

 分析しながら体捌きのみでかわしていく美鈴、弾幕ごっこでは美鈴の経験値の方が上だ。

 

「もっと動いてほしいんだけど」

 

 数を増やし美鈴を捉えようとするが、体捌きと少しの動きで難なく回避された。

 

「まっすぐな軌道なのであまり怖くないですね」

「じゃあこっちの評価もお願いするわ」

 

 余裕を持って回避され言い返す言葉もないが次のモノの評価もお願いしてみる。

 会話をしつつ取り出した煙管を燻らせ、一枚目のスペルカードを掲げ宣言した。

 

――隠符『屋島狸の隠し事』

 

 宣言し、漂わせる煙を集めて大きめの編笠を現す。

 緩い回転をしながら姿を見せた編笠を一瞥し、煙管で美鈴を指す。

ゆらゆら軌道を揺らしながら美鈴へと飛ばした。

 見構える美鈴にある程度近寄ると急回転し、彼女が先に見せたものに近い螺旋状の弾幕が放たれた。

 

『追従型? 少々厄介ですね』

 

 編笠の弾幕を自身の弾幕で相殺し、いなしていく美鈴。

 流石にやるもんだと、華麗に避ける中華小娘を見て薄く笑い、追加で告げる。

 

「それだけじゃ終わらないわ」

 

 あたしの側にさらに二枚の編笠を創り、それらもふらふらと美鈴を追いかけさせる。

 増やした編笠も突撃させ、そのタイミングに合わせて青い妖気の塊を作り出し、レーザーでの援護射撃を開始した。

 援護射撃と数の増えた弾幕。今までは楽々避けたり捌いたりしていた門番だったが、手数の増えた弾幕により相殺するだけでは苦しくなってきたようだ。回避行動がだんだんと大きなものになっていく。

 通常弾とは真逆の面倒なスペルを考えるなぁ、そんな愚痴が聞こえそうな気がした。 

 

『避け続けるのもそのうち限界が来るし、ならば!』

 

 美鈴がカードと共に宣言する。

 

――虹符『彩虹の風鈴』

 

 先ほどとは比較にならない回転から鮮やかな光の弾幕が放たれた。

 動きこそ同じ螺旋状だが、その質も量も通常弾とは比較にならない。

 色とりどりの力を持った螺旋が編笠の螺旋を飲み込んでいく。

 放った編笠が光に飲まれ、小さな爆発と共に消え失せた。

 

「あら、耐久力を見直さないとだめね」

 

 一枚目のスペルブレイク、それでも気にすることではない。余興で勝ち負けに拘るなど野暮だ、楽しく撃ちあい出来ればそれでいいと思っている‥‥それにだ、そもそも得意な事でもない。

 編笠を飲み込んだ光の螺旋が迫ると周囲の妖気塊を壁代わりにし、冷静に回避行動を取っていった。

 それでも逃げるばかりではジリ貧になるのが目に見えている。カリカリと鳴る妖気の干渉音は気にせず、螺旋の動きに合わせ体を捻らせながら美鈴の周囲に妖気塊を展開していく。

 現れた塊から青いレーザーを照射しあたしに届く光の螺旋を消し飛ばしていく。

 展開された塊が丁度なくなる頃美鈴の回転が止まり、あちらもスペルブレイクとなった。

 

「凌がれてしまいましたか、お上手ですね」

「先に破られてしまったわけだし、自信は持てそうにないわ」

 

 爽やかな笑みを浮かべるも構えをとかない美鈴に参りましたと言うように、軽く両手を広げ小首を傾げて見せる。

 

「いやいや、経験の少ない相手とは感じられません。変わった種類のスペルカードだったので意表をつかれました」

 

 そう言いながら二枚目のスペルを取り出す。

 

「私の変わり種もお見せしますよ」

 

――華符『彩光蓮華掌』

 

 宣言と同時に美鈴が突撃かましてくる。

 このまま突っ込んでくるのか、そう身構えるが、間合いの外で急停止された。

 不意の停止。

 これがどんな手なのか考えていると、緩急の緩と共に美鈴から放射状に弾幕が放たれる。予想していなかった攻撃に戸惑うも、さきほどの螺旋に比べれば弾幕は薄い。身体を捻じり、その身を翻らせながら美鈴との距離をとって回避していく。

 しかし、そんな気合とカンで避け続けるのにも限界があろうな。ならばこちらももう一枚、落とされる前に見せておこう。美鈴の猛追から逃げ回りながらあたしもカードを手にとった。

 

――猛火「かちかち囃子歌」

 

 宣言すると掲げるスペルカードが輝き美鈴の視界を奪った。スペル発動中の為動きが止まることはないが、目が慣れるまでの一瞬動きが鈍る。

 

「止まると背中が危ないわ、火傷したら辛子味噌を塗られるわよ?」

 

 晦ました視界の外、美鈴の目線から外れた上空に逃げ、声をかける。

 言った背中を注意するように、それも突撃の速度は殺すことないまま後方に目を向けると、美鈴の背後、少し離れた位置に燃え盛る薪の山が現れていた。

 背負う炎の弾幕が燃える髪色の女に向かい飛んで、迫る。

 

『また追従型!?』

 

 あたしを追う事を一旦諦め、薪の山を置き去りにするよう速度を上げるけれど、あたしの放ったソレは美鈴から離れることはなく一定の距離を保ったまま追いかけていった。

 

「離れてみると蓮の花に見えるのか、なるほど綺麗だわ。ああいうのも考えてみるか……あ、時間過ぎてくれたわね」

 

 上空に移動し一人呟いていると、美鈴の速度が下がりだした。

 立場逆転か、そう見るやいなや足元に現した泥船に乗り、スペルの効果時間が切れた美鈴を追う。

 空中を水面に見立てて滑る泥の船、その船体で波を立てながら美鈴に迫る。

 炎に追われ船に追われ、反撃する余裕が無い美鈴を追い越す。

 船が立てる波型の弾幕を使い回避ルートを少しずつ潰していき、追い越す。

 抜いてすぐに急旋回し、美鈴を追い込んだ。

 

 前後からの弾幕に逃げきれなくなった美鈴はついにその波に飲まれることになった。

 

~遊戯終了中~

 

 

 お疲れ様、と風呂から上がった美鈴に声をかける。

 波に飲まれ濡れネズミとなった美鈴が神社の温泉から戻ってきたところだ。

 

「いやあ参りました、追いかけていたはずが追い立てられるとは思いませんでしたよ」 

「こちらこそ、いい勉強になったわ。改善点も見えたしなにより楽しかった」

 

 濡れた髪をかきあげながら爽やかに笑う美鈴、負けたというのに後腐れなく出来るのが弾幕ごっこのいいところである。

 あたしも実戦運用して耐久力という課題と次のスペルの案が思い浮かび、悪くない収穫があったので笑顔で答える。

 

「お役に立てたなら何よりです、対峙して感じたところなんですがあのレーザー、いくら通常弾でもあれだけだと少し頼りないと思いますよ」

 

 負けた相手に助言をくれるとは優しい対戦相手だ。きっと他の相手との弾幕ごっこを想定しての助言なのだろう、ありがたいことだ。今後も率先してやる事などない、ないと思いたいが。

 

「他の色もあるのよ、美鈴が加減してくれたから出し惜しみしてたわ。意外と余裕があったみたいね、あたし」

 

 そう言い、赤と黄の妖気塊を出してみせ少しだけ弾幕を撃つ。少し進んで弾ける赤い妖気弾。黄色のレーザーは途中から曲線を描き曲がってどこかへ飛び散っていく。

 

「こんな感じのを考えてみたのよ、搦め手で撃つなら面白そうでしょ?」

「確かに面白そうですね、これなら加減するんじゃなかったかも……次はきっちり全力でやりましょう!」

 

「申し出はありがたいけど美鈴のスペルは受けるより見るほうがいいわ、聞いた通りに綺麗だもの。蓮の花は気に入ったわ」 

「ありがとうございます、アヤメさんのスペルは変則的ですね。追従されるの厄介ですし。特に炎の弾幕の方、どれだけ速度を上げても引き剥がせなくて困った」

 

 苦笑いを浮かべながらもあたしのスペルを褒めてくれた礼として、他の人には内緒よ、と少しだけネタバラシをしてみる。

 

「あれは速くはないのよ、相手に合わせて動いてるだけで。美鈴が止まればあれも止まったの、そういう風に作ったの」

「それはまた変わり種ですね、なんでまたそんな風に?」

 

「あれは背負った薪なのよ、常に背中で燃えているの。背中が肉体から離れるなんてないでしょ? だから離れないの。かちかち山って昔話、知らないかしら?」

「昔話? 日本のやつは私はあまり。でもそういった逸話になぞったんですね。そう言えば他のみんなからの評価はどうでした? 温泉ご一緒した妹紅さんたちには割りと好評でしたが」

 

「魔理沙や霊夢からはレーザーはともかく泥船は綺麗じゃないと言われれるし、妖夢からは薪背負うのは貴女の方ですよね、なんて言われたわ」

 

 ついでに言うなら鈴仙は疲労と酒で寝てた。

 

「なるほど、お嬢様方はきっと私と同じで元のお話は知らないでしょうね。それでもつまらないなんてのは誰からも言われていないし、いいんじゃないですか」  

 

 そうね、と二人で笑った。

 

 こんな風に言われるだろうなと、予想していたものと概ね一致した評価を受け、あたしとしては満足だったのだが、予想外な事に萃香さんと文からは面白いと素直に褒められた。予想外だったので柄にもなく照れてしまったのだが、そこを写真に取られてしまった。それも狙いか、天狗記者。

 新聞に使ったらあの時の顔に化けて妖怪の山飛び回るぞ、そう脅してたみたが、なら私は写真を里にばら撒くわと互いに引かない状態となってしまった。

 横で幼女が一人笑っていたが、笑い事ではないというのに。




美鈴の弾幕綺麗ですよね
紅魔郷は難易度高くてクリア出来た事ないんですが、
美鈴には会えてます。

アヤメの弾幕・スペルの元ネタなんかを一言ずつ
弾幕は信号機の色から
青はまっすぐ進めレーザー
黄は注意してねのへにょりレーザー
赤は止まるらないと弾けるよ、という少しのブラックジョークも混ぜて

どこぞのアメコミのビーム脳みたいですが、俺ちゃんのほうが好きです。
黄色の注意は本来の意味とは少し違いますがそのへんは雰囲気で。

スペルカード
隠符『屋島狸の隠し事』
日本三大化け狸、屋島の禿狸より
編笠被ってハゲ隠し ということで

猛火「かちかち囃子歌」
有名な昔話カチカチ山から
最後に狸は溺れ死ぬと記憶してましたが、最近はそうでもない話もあるみたいですね。


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