東方狸囃子   作:ほりごたつ

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第九十七話 始原のビート・イット

 それなりの大事だった幻想郷をひっくり返そうとした異変、それからしばらく経った今ではすっかり話題に上ることもなくなった。異変に慣れていて飽きっぽく忘れやすい幻想郷の住人らしいなとちょっとだけ面白い。そう言う自分もほとんど忘れていたようで、今のように草っぱらに四肢を投げ出して大の字になり、お空に浮かぶ逆さのお城を見るまで気にしていなかった。

 

 雷鼓の話を軸にして考えるなら、全て崩れてなくなるのかなとあのお城の崩壊中には考えていたが、ある程度時が過ぎた今も変わらず逆さで漂うお城。崩れたのは天辺側の地面部分だけで、建屋自体は綺麗に残っているように見えた。

 寝そべりながら見上げる視点、そんな逆さまな視点で見るとまともな姿に見えるお城、騒ぎが過ぎた今では特に興味を惹く物件ではなくなったため、今のように偶に見上げて視界に入れる程度になっている。今になってみれば旬の内に観光できてよかったと思える。

 

 話ついでにあの異変でやらかしてしまった者達だが、出会った順に話そうか。

 最初はあたしを溺れさせてくれた人魚のお姫様であるわかさぎ姫、赤いお屋敷にお礼を言おうと向かった際についでに顔を出してみれば、案の定謝られて怯えられてしまった。

 死んでないから大丈夫と伝えると、それでも申し訳なかったと言ってくる彼女。引く姿勢も見えなかったのでしょうがないから代案として霧の湖の噂について教えて貰った、やはり巨大魚はいないらしい。あの噂は釣り人を釣り出す為のでっち上げだと住んでる者のお墨付きを頂けた。

 

 二番手は隠れて暮らしている場所ではっちゃけた柳の下のろくろ首、赤蛮奇。

 人里で暴れたせいでもういられないと言っていたが我儘通してどうにかなった、我儘通したあたしはともかくとして、満月ではない今日はもう大人しいあの人里の守護者に感謝はしているらしい。来るとは思わなかった宴会にも顔を出して、紅白の方にも里にいてもいいのか聞いたみたいだが、どうでもいいわと一蹴されていた。始まったばかりで酒もほとんど入っていない状態の巫女に聞けばそうあしらわれるとわかっていたが、シラフでどうでもいいと言われたのだから、言葉通り居ようが居まいがどうでもいいのだろう。

 気まぐれでも紅白の言ったいいとの言葉に肩を撫で下ろしていたが、素直に安心しないほうがいいと少しだけ助言しておいた。気まぐれで言われたのだから気まぐれで退治されるかもしれないとからかってみると、嫌な顔をされた。

 あたしとしてはちゃんとした助言のつもりだったのだが。

 

 次は今泉くん、竹林で瀟洒な従者にシバかれて永遠亭に置いてきた竹林のルーガルー今泉影狼。異変の時はほとんど話せなかったから、あの場で何があったのか聞きたかったが詳しく話してくれることはなかった、聞き出している時に咲夜の言った一言の『ガンス』で余計に口を閉ざしてしまった。そんなに物真似されるのが嫌だったのだろうか。同じく『ガンス』と突付いても良かったが、咲夜の隣からあたしの隣に座り直して良い香りが嗅げたから良しとした。

 永遠亭を出た後の事は知らなかったので、あの後に治療を受けたのか聞いたら打撲用のシップを貰っただけだそうだ。

 貼っているらしい足の方を嗅いでみれば、確かにそっちはシップ臭かった。

 

 こんなところだろうか、異変で知り合った他の者の話もあるがそっちは割愛しようと思う。

 ちっこい姫は寝ていたし付喪神連中は姿を見ていない、当然逃げ出した天邪鬼についてもわからないままだから話すことがない。

 それにそろそろ動かないと、いつまでも寝転んで休憩しているとこのまま寝てしまいそうだ。暦の上ではまだまだ夏だが空気自体は乾いてきて随分と過ごしやすくなった、調子にノッて寝こけてしまい風邪でも引いて鼻を垂らすのも格好悪い。

 夏とも秋とも言えない今の季節、そんな過ごしやすさのある空気の中で風にそよぐ野草の音を聞いて一人静かにだらけていると、視界に映る逆さの城から出てくる小さな点が見受けられた。

 しばらくぼんやり眺めていると点が棒になり人型になってこちら向かって降りてきた、青いお空の中で目立つ茶の短髪。黒のスカートから赤い糸を数本揺らしながらこちらへ向かってくる少女、どうやら一人は賭けに勝ったらしい。

 

「どっちがどっちか忘れたけど一人はうまくやったのね、良かったじゃない」

「姉さんも上手くいったわよ、その節はありがとう。助かったわ」

 

「それは何より、約束通り来るなんて妹は律儀なのね」

「姉さん達は準備の詰めで忙しいのよ、私は迎えに出されただけ~」

 

「達って事は雷鼓も一緒なのね、何? 演奏会でも開いてくれるの?」

「演奏するけど貴女はこっち側よ? ついでに聞くけどさ‥‥貴女、私の事覚えてないでしょ?」

 

「失礼ね、姉妹の妹の方でしょ? それよりこっち側ってどういう意味かしら?」

「そうじゃなくて名前! 八橋よ、九十九八橋!」

 

 ついさっき思い出したばかりだしさすがにそうそう忘れない、裸足で茶髪の方が妹でもう一人、姉の方は紫のショートカットだった気がする。姉の方は靴を履いていたような気がするがその辺は曖昧だ、一言二言会話したし覚えるには十分だったがすぐにいなくなった相手。正確な背格好までは中々思い出せなかった。あの時は今にも泣き出しそうな切ない表情だったから不憫に思い案を出したが、その後の沙汰はなく、あたしも気にしていなかった。

 それでもまぁいいか、こうして元気な姿を見せてくれたし姉も元気だというならなによりだ。取り敢えず話を進めてみようか、お礼を言うだけに来たわけではないだろうし。

 

「あたしは付喪神じゃないって言わなかった?」

「へ? 狸でしょ? なんなの急に~?」

 

「それくらいしか話してないし、こっち側ってどっち側かなって」

「あ~‥‥いいから来てよ、雷鼓が待ってる」

 

 そう言って先に城へと飛び立つ八橋、聞いたことに対して何も答えてくれないなんて別の意味でつれない付喪神だ。それにしてもこっち側って何の話だろうか、人妖って括りなら確かに一緒だが、煙管の付喪神ではないと教えたからまるっきり同じではないと知っているはずだ。

 迎えに来たと言っていたが何のための迎えなのか。礼代わりの演奏会というわけでもないらしいし、雷鼓に呼ばれる理由?後の為の準備がほぼほぼ終わったから、その後の手助けってやつに期待されたかね…とりあえず考察はいいか、行けば分かりそうだ。

 

~少女飛翔中~

 

 迎えに来てくれたお琴の後をついて逆さの城に入ってみたが、見た目には特に変わった気配がない、変わった事と言えばなくなったはずの魔力の嵐を再度感じるくらいか。打ち出の小槌はすでに魔力の回収期に入ったはずだしこれの原因はなんだろか。

 その辺のことも聞けば教えてもらえるのかね、興味が無いから別にいいか。再度感じる魔力の嵐に気を取られて足を止めていると先を飛んでいたはずの八橋の姿を見失う、迎えに来ただけで案内は別って事か?

 なんというかテキトウだな、おい。

 

 それでもいないものは仕方がないと真っ直ぐ中を飛び進む、逆さの床や襖を見つめて考えることはあの天邪鬼。今頃どこで何をしているのやら、あれだけの憎まれっ子だ、まだまだこの世にはばかるだろうし生きていればまた会うだろう。

 視界に映る逆さまを眺め逆さま大好きな奴の事を考えてちんたらと飛んで行くと、遠くに外の世界の太鼓妖怪を見つけた。魔力の嵐はあれから出てるらしい、重低音を響かせながら周囲に魔力を響かせるドラム。頼る側でなく振りまく側になるとは短い間でやるものだ。

 

「いい音ね、腹に響いて心地いいわ」

「来たわねアヤメさん、やっと準備が整ったのよ。後はやることをやるだけね」

 

「八橋は何も教えてくれなかったんだけど、何を手伝えばいいのかしら?」

「私達の演奏を聞きに来る客のお出迎え、客が誰かはわからないけど」

 

「察するに大事のようだけど、荒事なら勘弁してほしいわね」

「あら、手伝ってくれるんでしょう? 言葉を覆すなんて女が廃るわよ?」

 

「そっちで言ってくるなんて狡いわね、仕方がないし言った通りに少しだけ手伝うことにするわ。でもバレたくないしちょいと化けるわよ」

 

 言うだけ言って煙管を取り出す、火種を落として煙を纏う。纏う煙を変化させて自身の姿に重ね合わせる、全身キレイに煙に隠れて少しの時間が経った頃。ポフンと音を立てて綺麗に煙が掻き消えた、出てきた姿は見慣れない姿。

 黒のハットを目深に被り、ピタっとした細身の黒のジャケットに同じくぴっちりとした白のシャツ、下半身はタックの入った黒のパンツスタイル。靴だけは愛用のブーツそのままで少しだけ元の姿が残っているが、それはあたしが敢えて残した小さな遊び心。

 完全に化けて気がつかれないのは面白くない、どうせならなんでここにいるの? という三人娘の誰かの顔が見たい、そう思って残した部分だった。変えた姿に合わせて煙管もパイプへと化けさせてそれを咥えて一服すると、始終を見ていた白のタイトスカート妖怪が何か言ってきた。

 

「初めて見るけどそうやって化かすのね、髪色とか変わってないけどいいの?」

「どうせバレるだろうし、それならと思って雷鼓に合わせてそれらしくしただけよ?」

 

「バレたくないんじゃなかったの? 言ってることがおかしいわよ?」

「素でいると本気で退治されそうで、これくらいなら何やってんだと呆れられるくらいで終わるわ」

 

「誰かわからないって言ったつもりだけど、誰が来るかわかっている言い草ね」

「妖怪の起こす事だもの、それをとっちめに来るのは決まってるのよ。それで手助けだけど、やられない程度に足止めしたら逃げるからそのつもりでいて。気分が乗ればもう少しちょっかい出すわ」

 

「リズムには乗せるから良いところでノッてくれればなんでもいいわ、弾幕勝負って基本一対一なんじゃなかったの?」

「基本、よ? 九十九姉妹だって二人だし、三人一緒に出てくる別の音楽家もいるわよ」

 

 よくわからないけど任せるわと笑って言ってくれるドラム奏者、リズムはこっちで取るなんて言っているが何のことやら。しかし弾幕ごっこなんて地底以来か、前回はパルスィに化けてレーザー弾幕張ったけど今回はどうしよう?

 手伝いついでに雷鼓の弾幕に混ざってもいいが見たことないしスペルも見たことがないから、どんな風に混ざればいいか正直分からないのが本音。

 ちょっとした練習、はしなくともいいか…ぶっつけ本番で混ざるのも面白いだろう。

 

「それで、結局何をするの? 場合によっては今からでも断るつもりだけど」

「折角力と意思を持ったんだもの、道具だって自分の意思で楽しみたいじゃない」

 

「その意思を持って何を成すか、それが聞きたいのよ」

「楽園を築く、でもそれほど手広くなくていい。まずはこの城から道具の楽園にするのよ」

 

「なるほど、それならノッたわ…楽しい演奏会になるといいわね」

「なるんじゃないわ、するのよ…誰が来ても私のリズムに乗せてみせる。そういう力も授かったしね」

 

 自信満々といった表情でこちらを見やる堀川雷鼓、リズムに乗せるってのはそういう意味か。

 言うなれば『リズムに乗せる程度の能力』って感じだろうかね、戦闘向けって感じはしないがそういう能力を授かったのだし仕方がない。

 同じように戦闘向けでない能力だが酷い暴れん坊もこの幻想郷にはいるし…思い浮かぶのはあの可憐な笑顔。淑やかに微笑み日傘を回す幻想郷の力の一角、雷鼓がアレ程の力を宿しているのかは知らないがそんなのもいるし、能力だけが全てではないはずだ。

 まぁなんでもいいさ、他愛無い会話をしているうちに雷鼓の座るをバスドラムを中心に巻いている魔力の嵐も随分と濃くなった。これほど濃いなら城外にも漏れでているだろうしそれに気がつかない人間達ではない、なら盛大とは言わないが程々に出迎えよう。

 

~少女達歓待準備~

 

 雷鼓の響かせる重低音が遠くに聞こえる位置取りでとある少女と対峙する、変えた姿に消した尻尾と目深に被ったハットのおかげで初見バレはしなかったようだ。見慣れぬ相手を警戒する少女が見られて少し面白い。

 このまま睨み合いを続けていても足止めとしては十分だがそれはこの場にそぐわない、折角退治しに来てくれたのだからそれらしく退治されるのが異変における妖怪の立ち位置だろうし、真面目にやったところで弾幕ごっこでは勝てっこない、どうせ散るなら派手に散るように見せよう。

 煙管を化かしてパイプと成したそれを携えて、城内の空中で対峙する人間少女と少しの会話。紅白や黒白相手だったなら今頃始まっていそうだが、今目の前にいるのは敵対者として殺気を込めて睨んでくれるお屋敷の従者。逃げ出すことを考えるなら出来れば黒白が良かったが、おめでたい巫女に比べればマシか?そうでもないか、時間止められちゃあ逃げるも何もない。運の悪さは相変わらずと一人納得して出迎えるとしよう。

 

「ようやく来たわね、人間のメイドよ。打ち出の小槌の件はあたし達の耳にも届いているわ」

「あら、そうでしたか。この異常な魔力嵐の中では貴女も苦しいでしょう? ただの道具に戻して差し上げます」

 

「残念ね、読み違いよ? あたしは道具上がりじゃないわ」

「読み違い?」

 

「あたしにはここの魔力は必要ないわ、随分前からこうだもの」

「必要ない…付喪神ではないのですね」

 

「今はパイプの付喪神、誰かに使われる気は毛頭ないけど付喪神さんよ。頼まれてるし、出迎えてあげるわ」

 

~少女起動中~

 

 言葉言い切り妖気の塊を複数展開する、赤青黄と三色の妖気の塊を三つずつあたしを中心に円になるよう展開した、ぱっと見なら雷鼓のドラムっぽく見える塊からそれぞれの色と同じ色の弾幕を放つ。青の直進レーザーと赤の爆発機雷で追い込んで黄のへにょりレーザーで撃ちぬくのがあたしの狙い、だが真っ直ぐに進むレーザーも、目眩まし兼封鎖用の機雷も難なく見切られて躱される。

 最後に迫るへにょりレーザーも、対面している体を斜にするだけでなんなく避けてみせる紅い悪魔のメイド 十六夜咲夜。

 

 随分と余裕の見える回避だが言葉通りに余裕だろう、弾幕ごっこの場数が違う。

 解決に当たれば弾幕の中を飛び交い動いてきた者と、それを眺めて笑っていただけのあたし、練度が違って当然だろう。初段で放たれたあたしの弾幕全てを避けきり、お返しとばかりに赤と青のナイフの雨を繰り出すメイド、それをあたしは避けながらも受けていた。

 能力で逸らせば当たること等ないのだが弾幕ごっこは遊びの範疇、遊びで確実に当たらないなんて興が削がれる、そう考えるあたしは弾幕勝負では能力は使わない。能力の代わりに纏う煙をピンク色の盾にしてナイフを避けながら反撃を試みる、だが放つ弾幕は全て避けられて軽くあしらわれてしまう。

 

――実力差が酷い

 

 そう心中で愚痴るが頼まれた手前もある、まだまだ諦める気はなさそうだ。

 放たれ続ける緑色のナイフの滝の中で強引に体を翻して軸をずらす、煙の盾に当たる感触がなくなると羽織るジャケットの内ポケットから一枚のカードを取り出した。パイプを持っていない、空いた右手で掲げられたスペルカード、あたしの宣言と共に輝き意思を表した。

 

煙々羅『スモーキングモンスター』

 

 発動と共に咲夜の視界の先に薄い煙の集まりを複数現し具現化させる、その煙が蛇の体のようにうねうねと連なり、咲夜に向ってヌルリと迫る。コレが緑色の煙だったなら何処かの誰かが見せたスペルカードに近いと思えるが、このメイドはあの異変には関わっておらずネタバレはしていない、実態を探ろうと回避に徹しくれてあたしに少しの余裕ができる。

 出来た時間で軽く腕を組みパイプを吹かす、スペル発動直後から弾幕を放つ事をやめて咲夜から距離を取るだけにしている、元ネタがそういうスペルカードなのだから、模倣もそうするべきだと弾幕は撃たなかった。

 

 それが余裕に見えたのか、瞳を紅くして猛追する従者。

 煙の蛇に追われながらもあたしに対するナイフ弾幕は緩まず、纏う煙の盾がほとんど機能しなくなった頃、一枚カードを取り出した。

 

時符『デュアルバニッシュ』

 

 あたしの放ったスペルカードに向けて放たれる咲夜スペルカード、宣言と共に空間が一瞬モノクロになる。

 

――時を止められた?

 

 そう認識した瞬間に、メイドを追い掛けていた煙の蛇はその全ての煙弾幕を緑色の粒へと変えられてしまう。頭から尾まで緑色にされて一瞬だけ元ネタのスペルらしくなるが、そう見えたのは一瞬だけで緑の粒はすぐにメイドへと吸収された。

 あたしのスペルが破られると、同時にメイドの弾幕を受け続けていた盾も限界を迎えて、この弾幕勝負の終わりとなった。

 

~少女停戦中~

 

「カスリもしなかったけどスペル一枚使わせたし、中堅としては上々ね」

「貴方様と弾幕勝負になるなんて思いませんでしたが、アヤメ様は何故ここに?」

 

「あら、バレバレだったの?」

「出迎え、そう仰った時の口元。見慣れた意地の悪いものだったのでその時に」

 

「そこは帽子じゃ隠せないものね、まぁいいわ。咲夜の呆けた顔は一度見ているし」

「それよりも何故異変側に?」

 

「面倒と楽しいで楽しいが勝った、わかりやすいでしょ? それで、先に進むならもう少し足止めするんだけど」

「都合の良い天秤をお持ちで、仕事の合間に出てきましたので手持ちのカードも切れましたし…先は霊夢に譲りますわ」

 

 お屋敷の仕事もありますので、そう言って頭を垂れて姿を消す赤い屋敷の瀟洒なメイド。

 足止め出来れば上々と考えていたが追い返す事が出来るとは思わず、頼まれた仕事ができたと嬉しくなった。

 あの紅白が先に行っていると言う事は姉妹は黒白の方と出くわしたか、弾幕はパワーだと言い放つあの魔法使い。言う通り真っ直ぐゴリ押ししてくるあの子は雷鼓にたどり着くかね、そうなっていたら二対ニでちょうどいいか。メイドとやりあい一枚減ったが元々得意じゃない弾幕ごっこ、一枚くらいあろうがなかろうがどっちにしろ負けるだろうし細かいことは気にせずに、少し薄くなってきていた魔力嵐の大本へと向かい飛び立った。

 

 聞こえてくる重低音がやたら力強い、この追加の異変が始まった頃も力強く感じられたが今は本気で叩いているのか内に響くモノが感じられる力強さ。

 リズムに乗せるとは伊達じゃないな、あたしの胸の鼓動を高鳴らせる重低音。

 本気を出す程ではないが程々に高揚させてくれる雷鼓の轟かせるドラムの音、本人も楽しんでいるようで何よりだ。和太鼓のような大きな弾幕やらハートのような弾幕やらが色々と過ぎ去っていったし、それらが雷鼓が元気にはっちゃけてると教えてくれた。

 少しだけ早くなった鼓動に合わせるように飛んでいくと、随分とボロボロにされたドラムの付喪神と、少しだけ袖を破れさせているおめでたい巫女が対峙し弾幕を撃ち合う姿が見えた。

 これ以上近づくと巻き込まれてマズイ、そう思い二人を視界に入れられる辺りで止まりパイプを燻らせる。

 

 弾幕を浴びて痺れを切らしたのか、雷鼓が一枚スペルを宣言したようだ、ゆるく曲がる雷のような弾幕に切り替わった。それでもあの巫女には届いておらずスルスルと避けながら破魔の札の弾幕をミニ・スカートに浴びせている。

 終わりは近そうだがもう一盛り上がりありそうだ…雷鼓の顔はまだ諦めていない、それなら少し手伝うか。

 乗せられて少し疼くものもある、次のスペルにノっかるかね。 

 雷のスペルを破られて通常弾幕にきりかえたドラムの付喪神、あたしの通常弾に比べたら苛烈で美しい弾幕だがそれも全てかわされている‥‥本当にあの巫女は規格外でたまらない、撃っても撃っても当たらないと萎えてしまいそうだが、それでも抗う夢幻のパーカッショニスト。

 さすがに限界が近いのかふらつき出したな、この辺が横槍の投げ入れ時かね?

 あたしに向かってくる弾幕を逸らして雷鼓の横につく。

 

「鼓増やしにただいま参上ってね、楽しそうだし少し混ざるわ」

「口だけで来ないと思ったけど、読めないわね、アヤメさん」

「アヤメ? わざわざ退治されに来るなんて、どういう風の吹き回しよ」

 

「重低音で疼くのよ、発散させてもらうわ。霊夢」

「勝手にしたら、纏めて退治するだけよ」

 

「勝手にするわ。混ざるといってもよくわからないから、雷鼓に乗っかるだけだけどね」

 

 そう言って雷鼓の座る大きなバスドラムを叩いて煙を纏い姿を消す、大昔にいた礼儀正しい人間達。ニンジャと言われた奴らのように煙と共に姿を消して様子を見る、乱入して場がしらけるかと思ったがそうはならず再度争う流れになった。それでこそ異変の最後だ、華々しく終わらないとらしくない。

 消えたあたしなど無視するように互いに弾幕を撃ち合う両者、勢いを取り戻した弾幕勝負が盛り上がりを見せた頃、雷鼓が再度カードを宣言する。

 

『ブルーレディショー』

 

 宣言とともに雷鼓の姿が薄れて消えた、視界に映るのは警戒を緩めない博麗の巫女のみ。

 周囲を一瞥するようにぐるりと巫女が回ると、巫女を囲むように音符の弾幕が姿を現した、一つニつ三つ四つと巫女を四方から囲み放たれる音符の大量弾幕。

 混ざるならこれかね、煙に巻いた姿を解いて再度大きくパイプを吸って大きな煙を身に纏う。

 化ける姿は音符の弾幕、巫女を囲う四方に混ざるように二つに分かれて雷鼓の音符に混ざって音を放つ。合わせようともせずにノリに任せて放つだけで、雷鼓の操るリズムにノるあたしの音符弾。

 

 四重奏から六重奏に増えた音の津波の中を、カリカリという不協和音を立てて避けていく博麗の巫女。そのまま三十秒くらいの攻防が続いたが、四辺の音符を無視して間に入ったあたしの音符がお祓い棒で破壊された。

 先に壊されたのは煙と片腕を媒介に放った方、あのお祓い棒で小突かれただけでも痛いのに本気で払われれば保つことなどなく綺麗に掻き消えた右腕…邪魔で余分なヤツから潰す、上策だが同じように本体をやられる訳にはいかないと、スペルの途中で変化を解いてパイプに力を込めて投げつけ距離を取った。

 雷鼓の放つ音符とパイプが重なった辺りで再度お祓い棒で払われて、弾幕もろとも消されるパイプ、紛い物でもあたしの一部。パイプと片腕使ってスペル二枚消費できれば十分働いただろう、未だ姿を見せない雷鼓に小さく頑張れと伝えて逆さの城の影に隠れた。

 

 身を潜めて少しした頃、聞こえていた重低音が最後の響きを轟かせてから少しした今。

 隠れた瓦礫から周囲を伺ってみると、先ほどまで争っていた空中には両者の姿はなく、逆さの部屋の天井で片膝付いている付喪神とそれを見下ろす巫女の姿が見えた。

 魔力嵐も収まったし決着はついたか、後は最後にどうなるか…どうせなら最後まで付き合うか、抗う気はないが逃げる気もない。

 珍しく最後までノリ気で心地よくしてくれた両者に、少しの礼でも言っておきたい。

 

「予想通りの流れだけど、予想以上に面白かったわ」

「あぁ、まだアンタが残ってた。続けるのなら退治するけど」

 

「やる気はないわ腕もないし、欲しいなら腕でも首でもあげるけど?」

「神妙で気持ち悪い、終わったし帰るわ」

 

「そう、またそのうちに顔出すわ。ちっこいのも愛でたいし」

「嫌われてるから、来るならそのつもりで来なさいよ」

 

 言い切り飛び去る解決者、ここで見送るのは二度目か。ふらっと現れてふらっと解決して帰っていくこの幻想郷の巫女、派手に暴れるくせに終わった途端にいつも通りとは切り替えが早くて妬ましいが、それでも捨て台詞で嫌われてるからその気で来いと言ってくれる辺り、邪魔した事は気にしてないようだし、小さな助言もありがたい。

 言った通りにそのうち行くかね?

 隣で片膝ついてるのと、どっかで魔法使いにやられているだろう姉妹も連れて。

 

「お疲れ様、派手な演奏楽しかったわ。勘定も払ったしそろそろお暇するけど、何かあれば聞いてあげるわ」

「腕飛ばされたのに随分元気ね、こっちは足腰立たないのに」

 

「慣れているもの、痛いは痛いけど楽しかったし…そのうち生えるし細かいことはいいのよ」

「初対面でも思ったけど、大らかすぎて捉えにくいわね。あの巫女もリズムにノってくれないしアヤメさんもそのクチだった?」

 

「テキトウなのよ、それに楽しかったと言ったでしょ?ノセられて面白かった、またお願いしたいわね」

「また退治されろって?冗談、自分でやってよ。私は懲りたから別の方法で楽園を創るわ」

 

「どっちが懲りないのやら、それじゃまたね。縁あればそのうちに」

「足腰立たないって言ったのに、置いてくの?」

 

 歩けないなら飛べばいいだろうに、そこまでスッカラカンでもないだろう、軽口返してくるくらいなのだから。帰るつもりで姿を戻したあたしのスカートに手を伸ばしてくる名奏者。

 巫女にやられて先ほどまでの力強さは鳴りを潜めてしまったようだ、言う通り足腰立たずに一人で起き上がれない付喪神、払えば振りほどけるだろうが太鼓に頼られるのも悪くない、いつも鼓を打つ側なのだし、それらしく後片付けもしておくとするか。

 伸ばされた手を取り、すがってきた元鼓に肩を貸して城を出た。

  




雷鼓さんドラム格好いいですね、へにょりレーザーやめて下さいピチュってしまいます。
これにて輝針城はおしまい。

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