東方狸囃子   作:ほりごたつ

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第九十五話 下国者、祭りの後

 輝く針のお城の地の底、いや条件としては天辺なのか?

 逆さまだから言い回しが妙なことになってしまい、なんとも言えない気分にされる。

 まぁそれはいいか、大した事ではない、変な事を考える暇があるのなら底で天辺な辺りにいるあの子でも辛かったほうが面白いだろう。輝く針らしさのない薄暗いその底でやたらと目立つ紅白の衣装、通年通して脇を晒して時期によっては見た目で冷える少女。普段は持たないお祓い棒を携えている今代の博麗の巫女、それの正面にはこれまた小さなお椀被り。

 事は終わった後らしく異変で見せる気迫は鳴りを潜めていて、いつもの気怠げな姿で佇む空飛ぶ不思議な巫女 博麗霊夢

 

 ここにいるのは巫女さんだけで一緒に来たはずの他の少女達はいなかった、終わった後は興味が薄れ何か別のことでもしようと動き出したのかね、片方は泥棒にもう片方はその撃退に忙しい彼女達だし、そうかもしれない。そういえば彼女達の持っていた妖物はどうなったかね?

 黒白の魔法使いは愛用の魔道具がおかしいと言っていたし、蒼白のメイド長はその気なく動かされて扱いに困ると言っていた妖物。どちらもそれなりに困っていたようで、持ち歩いてはいたが異変で使う事はなかったようだ。妖物から発射された魔力光だったならろくろ首は動けなくなっていただろうし、あの短剣で切られていたら狼女は丸刈りだろう‥‥狼女に限ってはそっちのほうが良かったかもしれない、毛の処理が楽になりそうで本人喜びそうだ。代わりにいい香りが薄れてしまうがそこは色香なりで代用できるだろう、狼らしく偶には取って食うなりしてそっちを漂わせればいい。

 

「異変の中心で顔見せて何も言わないなんて、ついでに退治されたい?」

「こんにちは霊夢ちゃん、今日も可愛いわね。御機嫌如何?」

 

「だからってわざとらしくするなら本当に退治するわよ?」

「お疲れ様、そのちっこいのが元凶かしら? 小人族とは聞いていたけど予想以上にちっこいのね」

 

「さっきまではもう少し大きかったけど、それより小人族って事誰から聞いたの?」

「友人の誰か、ヒントは暇している奴ね」

 

「ほとんどじゃない、まぁいいわ。何しに来たのよ?」

「観光ついでに元凶の顔見物と反逆者を嘲笑いに、もう一つ追加で解決した巫女さんを褒めに来たのよ」

 

 褒めて頭でも撫でくり回そうと手を伸ばすが、破魔の御札を割り入れられてそれは拒否されてしまう、やられたところで減るもんなんて髪の油くらいだろうに。健康的でつやつやと輝く黒髪、少しくらい減っても問題ないだろうに、つれない巫女さんだ。

 言葉だけで褒め称えて壁により掛かる異変の元凶を見やる、俯いているからか被っているお椀のせいで顔も見えなければ体もほとんど見えない姿。やられたてなら反撃もできまいと襟首摘んで手に乗せる、魔法の森の人形遣いが見たら気に入りそうなサイズだ。

 

「こんにちは元凶さん、無事退治されて気分はどう?」

「‥‥だーれ? 巫女に気が付かれ退治されて、更に屈辱を上塗りしてくる貴女は誰?」

 

「囃子方アヤメ、霧で煙な可愛い狸さん。出来ればお名前くらい教えてほしいわ、鉢かづき姫様?」

「違う人を出さないで、私は一寸法師の末裔よ」 

 

「立てた仮説を本人に肯定してもらえて光栄ね、ありがと鉢かづき姫様」

「だから‥‥少名針妙丸‥‥人違いだからやめて」

 

「スクナ‥‥ちっこいし神様だったりしたりもする?」

「そっちも人違い、なんなの貴女? 人の話を聞けない妖怪?」

 

 名前を教えたのに中々教えてくれなかったイケズな小人、異変の元凶らしく一端の誇りや挟持はあるようで間違いをきちんと訂正してくれる、形はちいさいが気概や器は大きそうな小さなお姫様だが‥‥しかしまぁ随分と弱々しいな、ぱっと見ではそれほど焦げてもいないし会話もそつなくこなしてくれるが、態度は弱々しく消え入りそうだ。

 霊夢にやられて凹むのはわかる、この巫女さんは色々と狡いもの。むしろやられてもこれくらいの傷で済んでいるのだから、異変を起こせるだけの力ある大物として小さな胸を張ってもいいはずだ、何に弱っているのかね?

 まぁいいか小人は一旦置いておこう、おかしいと感じる物を払う方が先だ。

 あたしの皮算用ではあの反逆者を嘲笑ってからこの元凶に会う予定だったのだが、すでに最後の締めまで終わっているというのに、嘲笑うための材料がここにはいないし道中にもいなかった。

 逃げたか、逃がしたか?

 前者はともかくとして、逃すなんてこの巫女らしくないが‥‥何か興味を持ったかね?

 いや、ないか、あたしでもなし。

 取り敢えず土産話を増やすか、些細な事でもあの暇人には新鮮だろう。

 

「霊夢、もう一人くらい異変の首謀者がいると思うんだけど逃したの?」

「逃げられたのよ、魔理沙と咲夜が追いかけて出て行ったけど…多分追いつけないわね」

 

「泣く妖怪がもっと泣く巫女さんらしくないわね、解決させる為の気概でもひっくり返された?」

「ひっくり返されたのは空間よ、さすがに慣れてないもの。小物の癖に結構やるわよ、あの天邪鬼」

 

「一泡吹かされてご立腹なんて可愛いわね」

「あんたで腹ごなししてもいいんだけど」

 

「あたしじゃ(もた)れるからやめたほうがいいわ、今はやる気もないし簡便してよ」

「今も、でしょうに。解決してスッキリしたのにモヤモヤするわ」

 

 そう言いながらも相手をしてくれる愛らしい楽園の巫女、あまり可愛がって怒らせては本当に退治されるしこのくらいにしておこう。あたしの掌で傷つき動かないこっちも気になるし。

 この姿は随分と愛くるしいが、後ろに転がる小槌を振るには少々頼りないサイズに思える、お伽話のように誰かに振らせるのかね。それなら振るのは共犯者である正邪だろうか?

 アレが秘宝を投げ捨てて逃げ出すわけがないだろうし、これはどういう状況なのかね?

 

「針妙丸、そう呼んでも? お姫様」

「なんでもいいわ、もうなんでもいい」

 

「体で名を表すなんてやられたてにしてはいいわね、粋だわ」

「何の事?」

 

「掌から逃げるでもなく神妙な面持ち、なんてね」

「なんとでも言ってくれて構わない、馬鹿にされるのは慣れてるし騙されるのもさっき慣れたから」

 

「あの二枚舌にやられたの? それはそれは、辛辣で気持よく抉ってくるものね」

「アヤメもやられたの?‥‥なのに気にしてないの?」

 

 まるっきり気にしていないわけではない、けれどあの程度では凹まないし騙しや化かしは常の事、仕掛けることが圧倒的に多いが仕掛けられることもある、前回は仕掛けてきたのがたまたまあの天邪鬼だっただけ。一々気にしていたら尻尾が禿げ上がっても足りないくらいに騙し騙されているから今更だ、とあたしは思えるがこの姫様は随分と堪えたようで、軽口言ってもノッてこず小馬鹿にしても反応が薄い。これはあまりいい状態とはいえない、ただでさえ忘れ去られていた小人族なのだ、このまま心を病んでしまっては消えてしまってもおかしくない、関わりない相手だし放っておいてもいいが‥‥なんかするかね?

 名で呼んでくれたお礼代わりに。

 

「体に似合うよう気も小さいのかしら?」

「代償を払っているの、知らなかった代償だけど」

 

「派手にやらかしたもの、対価もそれなりにあるわけね」

「正邪の口車に乗らなければこうは‥‥なったわね、私も正邪も知らなかった代償だもん」

 

「互いに知らず使ってしまい、貴女は縮み正邪は逃げた。随分な差があるわね」

「‥‥そうね、でも逃げ出す前に悪いと言ったのよ? あの正邪が一言謝ったの」

 

「あれが口で言っても真逆でしょ? ならバカにされたんじゃないの?」

「そうかもしれない‥‥けど」

 

「歯切れが悪いわね、そう思いたいなら思ってればいいじゃない。考え方なんてそれぞれよ?」

「そんな事言われても……」

 

 軽くつつく程度では態度を改めてくれないか、ご先祖様は相手を突っついて退治したぐらいだしそういった耐性でもあるのかね。しかしどうしたものやら、大して知りもしない彼女に何をどこまで言えば程々になるのか。

 言いすぎても終わりを早めるだけだろうし、放っておいても終わるだけ、手も出せなけりゃ口も出せない微妙な感覚、機微に目敏いつもりだったがいざとなるとあたしも大した事がないな。

 掌で弱る小さなお姫様、目線の高さまで上げて愛らしい姿を眺めていると黙っていた巫女に取り上げられた。

 

「見世物じゃないんだから、そろそろ降ろしてあげなさいよ」

「愛でていただけよ? それに降ろしても動かないから消えるだけだわ」

 

「動けるのに動かないのが悪い、なにもしないで消えるのなら消えればいいのよ」

「退治しておいてまた随分と手厳しい」

 

「退治されるような事するのが悪い、気に入らないならまた何かしたらいいのよ」

「その時も当然退治するのよね?」

 

 それが何かと顔に書く八百万の代弁者、いつでもどこでも変わらない。相手が何であろうと変わらない物言いが可笑しくてクスクスと笑っているととお祓い棒で小突かれる、異変で使わなかったくせにあたしには使うのか。

 軽くコツンでも巫女の物、触れたところが熱くて痛い。涙目になりながら禿げたりしてないよなと両手で弄るが取り敢えずツルリとした感触はなくてホッとした、それでも気になり二人を放って弄っていると耳に手が当たり鎖が鳴る、それを切っ掛けにするように笑い出した者がいた。

 

「フフッ面白くない、こいつの言い草も面白くないけどこんな姿にしてくれた正邪も面白くない!」

「気に入らないならどうすんのよ、座ったままじゃ何も変わらないわ」

 

「言われなくても動くわよ、まずは傷を治してそれから体も戻さないと」

「そのサイズでいいじゃない、可愛いわよ? 手乗り姫様」

「チャチャいれない、アンタは黙ってなさい‥‥なら戻るまで家にいるといいわ、小さいの」

 

 ちょろっと口を挟んだらピシャリと窘められてしまった、真面目な空気に耐え切れずつまらないチャチャを入れたのがまずかったか。余計なことをするなという冷ややかな巫女の視線が刺々しくてちと痛い。懲りずに追加で何か言ってもいいがこの視線で目覚めてしまうのも困るし、今日のところはこれくらいにしておこう。しばらくは神社に行けばどちらもからかえるのだから、後は神社で楽しもう。

 巫女の手に乗り出口を見やる一寸法師、こっちも自分で動いちゃいないがあれなら大丈夫だろう、下ではなく前を見ている、後は進めば事もなしだ。僅かに頷いていると少し浮いてこちらを振り返る巫女、あたしはこのまま見送るつもりだが、まだ何かあるかね?

 

「一緒に行かないの? こんなところ、まだ何かある?」

「廃墟巡りも楽しいものよ? 飽きたら神社に顔出すわ、どうせ宴会するんでしょ?」

 

「さっさと来なさいよ、咲夜一人じゃツマミが足らなくなるわ」

「善処するわ、気をつけてね」

 

 何に? という顔をしてくれる巫女に色々と、とだけ告げて振り返る。少しだけ訝しげな顔をしていたから気がつかれたかと思ったが、能力使って気を逸らしておいて正解だった、それでも小さく気がつくなんて勘にしちゃあひどすぎる勘だ。

 そうは思わないか天邪鬼?

 あたし一人になったのだし出てきてくれるといいのだが‥‥探してもいいが少し手荒になりそうでそうはしたくない、少しばかり気に入らない事があってちょっとお説教したい気分なのだ、早く出てこい天邪鬼。外を探していないのだから、逃げたフリして居るんだろう?

 周囲を探す素振りもせず煙管咥えて腕組みするだけ、しばらくそうしていると背後でガラっと音がした。

 

「何故バレた?」

「あたしならそうしないから、それを返してカマかけたのよ」

 

「狸の癖に素直に逃げるのか、狐七化け狸八化けなんて言葉だけか。化かさずに逃げるなんて、矜持はないのか古狸?」

「煽りのつもり? 馬鹿じゃないの? 尻尾生やしてるのよ? ヤバけりゃ巻いて逃げるのが一番。つまらない矜持で狩られちゃソレこそ廃るわね、今の正邪みたいに」

 

「ハン、尻尾を巻いて逃げ出して誰かに慰めてもらうのか、相手は誰だ? 八雲か? 式か? 誰でもいいが無様だな! 強者の癖に無様で笑える!」

「甘えられる相手がいないなんて可愛そうね、いつも一人常に一人、理解者なんて誰もいない。常に孤独な天邪鬼、孤独にも反逆して輪に混ざれば楽なのに。宿す力と同じ、小さな矜持が邪魔をしてそれも出来ない矮小な小者」

 

「あぁそうさ、味方なんて誰もいない。理解者なんて何処にもいない、逆襲の天邪鬼。それが私だ、鬼人正邪だ! つまらないものの為に矜持を捨てるつもりはない!」

「言う事は格好いいわね天邪鬼、それなら何故詫びたの? 利用するだけ利用して切り捨てるつもりだったんでしょう?それなら好都合じゃない、何を謝る事があるの? 何に対して謝ったの?」

 

 言うだけ言ってから大きく煙管を吸って火種が赤々と灯る、薄暗い輝針城内では随分と目立つ灯り。正邪はあたしの背後から動かず背中越しで会話をしている、あっちはあたしの背を見ているのだろうがあたしは正邪を見つめない。ひっくり返して考えればこの姿勢が対面していると言えるだろう、向こうから視界に入ってくるなら気にしないが、今のあたしは正邪に対してこうして話すと決めたのだ、あたしからは曲げない。

 しかしそんなに手酷くやられたのかね、矜持は捨てないと大見得切ってくれたのはいいがその前が本当に格好悪い。味方が欲しい、理解者が欲しいと随分と女々しい物言いだ。勢いだけで話すなんてらしくないぞ天邪鬼。

 

「私が姫に謝るだと? 天邪鬼らしく悪いと言ったんだぞ? どういう意味かわかるだろ? それもわからんバカだったか? あぁそうだな、口を滑らせて巫女に一撃もらうくらいだもんなぁ」

「正邪が言葉にのせた意味、そんなものはどうでもいいのよ。受け手が感じた事が全て、皮肉だろうが嫌味だろうが伝わらなければ意味がない、ソレもわからないバカは誰?」

 

「詭弁を言ってなんだってんだ、例え姫がそう感じても言った私はそれで全てだ。騙しや化かしじゃ勝てないと思っていたが、この程度か古狸? 誘わなくて正解だった、お前は使えない唯の狸だ!」

「貴女程度で扱えるほど軟でも簡単でもないわ、勝ち負け程度に拘って見る目がないわね天邪鬼。勝敗がそれほど大事なコトかしら? 勝とうが負けようが面白ければなんでもいいのよ」

 

「それが強者の考え方だって言ってるんだ、私達は負ければ終わり。後は無様に這いつくばるか滑稽に死んでサヨナラだ、負けてもそうはならないお前に私の気持ちはわからない!」

「負けた割には元気に話しているのは誰? 無様に負けて這いつくばって逃げられもせず隠れてバレて、鬱憤晴らしに人を使って‥‥貯まってしまった鬱憤程度も己一人で発散出来ない、そんな小者が誰もいらない必要ないなんて言うのは、滑稽ね」

 

「……黙れ! 這いつくばる者の何がわかる! 常に笑って傍観して負けた奴を無様だと笑ってくれて! そんなお前に何がわかる! 知りもしないのに嘲笑うな!」

「本心吐くまで長いわね、散々人の事罵ってくれて饒舌で妬ましい‥‥けどまぁいいわ、少し訂正してあげる。これでも結構負けてるし無様に焦げたり死にかけたり色々してるのよ?」

 

 へべれけ子鬼に追いかけられて死にかけ異変に巻き込まれて焼死しかけて、恐ろしい実験に使われ死にかけ外の世界で消えかけて。よく生きてるなと自分でも思う、思い出しただけでも結構辛い。

 特に実験、他は自滅や殺し合いだから気にすることはそうないが、理不尽な実験だけは未だ許せず根に持っている。ちょっと思い出しただけであの神様に見せた信仰心に近いものが消えていくと自分でもはっきり感じる、がいいか祟り神様一筋に戻るだけだ、問題ない。

 それよりこのクソ生意気な天邪鬼、知りもしないのに嘲笑うなと言い切ってくれたがそれを知るあたしなら嘲笑ってもいいって事だな、ひっくり返して言っているんだ。笑い飛ばして欲しいんだろう?ならば期待に応えよう。

 

「言うだけ言って静かになってなんだ? 次は何で笑ってくれる? ほらさっきみたいに笑えよ、滑稽なんだろう? 矮小な小者が這いつくばる姿が惨めで笑えるんだろう? 笑えよ!」

「惨めね、笑えないわ。滑稽で矮小な小者、やりたい事も一人では成せず他者の力を利用しても成せず。それも失敗して今は唯の狸相手に八つ当たり、本当に惨めで笑えない…つまらない」

 

「笑うだけ笑って一人で呆れて強者様は勝手が出来ていいな! こっちは生き延びようと使えない小者をたらし込んで‥‥姫も謀り毎日必死だったってのに! 一人で耐えて生き抜いてやっと掴みかけたのに! あの巫女のせいで全部おジャンだ!」

「負けたのも誰かのせい、失敗したのも誰かのせい。全部が全部他人任せ、貴女は何をしていたの?小者の癖に高笑い?似合いもしないのに?そう出来る器もない癖に、呆れも無様もないじゃない。只々哀れなだけ、小悪党にもなれやしない」

 

「煩い! 煩いんだよ! 言われなくたってわかってる! 一人で出来る力がないから利用して上手く使ってやったのに! なんでこうなった!? どうしてこうなった!?」

「言ったでしょう? 見る目がないって。暴れ慣れない輩や目覚めたての付喪神くらいでどうにかなるほど軟じゃなかった、それだけの事でしょうに。何をそんなに傷つくの? 貴女は笑っていただけでしょう? 誰かのように、高い所から」

 

「お前とは違う! 最初からそう在って常に笑っているお前なんかと一緒にするな!」

「そうね、一緒ではないわ。あたしなら謝らないもの、利用して捨てたらそれまでよ‥‥悪は悪らしく、中途半端に謝って成りきれないなら、最初から他者を利用すべきではないのよ」

 

 何を言っても折れる事はないだろう、そういう妖怪なのだから。それなら捻ればそれでいい、好きにひっくり返してくれても構わない。やれるならやって見せてほしい、捻れを返しても逆にねじれるだけと気がつくだけだ。

 捻れて締めて気がつけばそれでいいが気がつかなければ締めきって終わり、自らを反逆者だと言うのだからこれにも反逆してくれるのだろうか?

 出来れば返してほしい、ここまで悪態を吐き合える者もそういない。

 

 ガラガラと周囲で音が鳴る、魔力が尽きて落ちているのか?

 それならそろそろ潮時か、出来ればもう少し遊んでいたいのだが。そんな思いをかき消すように小さく揺れて音を立てる輝針城。揺れが小さくなったり大きくなったりと少しずつ不安定になっていく、揺れに合わせて崩れていく壁や床。逆さまでも崩壊する順番は変わらず地面の部分から崩れていく、天井である地面が抜け落ちて少し光が差した。

 光が指すと人影が伸びる、こうなってもまだ居るらしい。あたしの他に伸びる影がもう一つ、頭に小さな角を生やした鬼に成りきれないかわいそうな天邪鬼。逃げずに居るならもう少し付き合うか。

 

 

「返答はないの鬼人正邪、悪いと謝ったわけではないんでしょう? それならその意味を教えてくれるとうれしいのだけれど」

「言わなくともわかるだろう! いい気味だと、無様だと嘲笑っただけだ。私を信じて力を使い、私に代わって代償を払った姫を‥‥笑っただけだよ」

 

「誰かのように?」

「そう、高みから笑い余裕を見せて動かない。何があっても揺らがず曲がらない、唯笑うだけのお前のように姫を笑っただけ」

 

「一緒にしないで、人を落とし所に使わないでほしいわ」

「なんなんだよ、嘲笑いに来たくせに笑わず説教してくれて。何がしたいんだよ…」

 

「そうね、訂正するわ。元を正せば観光に来たのよね、失敗して全部崩れて後がない珍しい小者を見物しに来たのよ」

「余計に質が悪い、調子も狂うし疲れるし。お前‥‥面倒くさいよ」

 

 程々に遊んで程々に見たしもういいか、お決まりのセリフも頂けてとりあえず満足。面倒くさいと言われて満足するなんて自虐的なモノにでも目覚めたかね、もしそうなら少し面倒で困るな。

 まあいいか考えこむのも面倒くさいし、落としきれず中途半端なのが癪だがこのまま続けても落ちないだろう。魔力の嵐も感じなくなったし、本格的に潮時だろう。引き際良くしておかないと逃げられる物も逃げられなくなる。 

 

「よく言われるわ、とりあえず逃げたら? ここもなくなるんでしょう?それに長居すると家賃請求しに大家が来るわ」

「また見逃すのか、今度こそ八雲に愛想つかされるぞ? それでいいのか?」

 

「もうフラれたしどうでもいいわ、それにその気ならもう捕まえてるわよ?その気にならないうちに逃げなさい」

「フラれたならそれこそ突き出せばいいだろ?」

 

「見に来ただけだと言ったでしょう? 捕まえに来てはいない、自分から捕まる天邪鬼なんてらしくなくて、笑えないわね」

「もういいよ、好きにしてろ。付き合いきれんからもう行く」

 

 ガラっと瓦礫の動く音がして背後の誰かが飛び去ったと教えてくれる。

 あたし以外誰もいなくなった異変の本拠地輝針城。

 いつかのようにまた見られているかとも思ったが、声をかけることはなかった。

 正邪にも言われたがフラれたんだったなと、二度も逃してはさすがに呆れてくれたかね?

 それなら面倒事も減るし胡散臭い笑みを見ることもなくなるが、それはそれでつまらないような切ないような。柄にもなく恩返しなんて考えたのがマズかったのか?

 いやそうじゃあないな、恩返しなんて言いながら幻想郷をひっくり返そうとした反逆者を逃しているんだ、フラれもするし呆られもするか、胡散臭くて嫌いだと散々言ったが、見なきゃ見ないで寂しいものだあのスキマ‥‥けれどもう遅いか、すでに逃した後なワケだし、ここで考え続けても始まらないし終わるだけだ。

 再度ガラッと音を立てて崩れていく逆さ城、空いた天井へとゆるく飛び観光名所を後にする。さっきまでいた場所も崩落し見えなくなった、崩れて小さくなっていく輝く針の城。築くのは大変だが崩れるのは一瞬か、よくわからない何かと比べるように崩壊していく城を見ていた。




裸足で手乗りサイズの針妙丸可愛い、リリパットなんて二つ名も付いてましたがそのうちコロポックル扱いもされそうですね。


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