荒れ果てた世界に転生(う)まれたけど、私は元気です りろーでっど   作:ラッドローチ2

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2話からいきなり、リメイク前とは大きく違う展開になる不具合。
主に、チョイ役だった宿屋のお姉さんの出番大幅増加+宿屋と酒場の関係強化なお話です。
後、じみーーーにダメ人間ソルジャーがしょっぱなからダメ人間だったりします。


02 姉の心、妹知らずってヤツだね!

 

 

 今日も今日とて、砂埃を巻き上げた汚れた風が吹き抜ける荒野。

 

 そんな荒野の岩陰に、少女ことアルトは父の形見でもある愛用のボルトアクション式ライフルを手に構え、機会を待っていた。

 

 狙う獲物は、ピンク色の不定形の体の中央に血走った目を持ち、体の各所から複数の細い触手をゆらゆらと伸ばす化け物……殺人アメーバである。

 

 普通のソルジャー、むしろ戦車に乗っていないハンターですら真正面から簡単に蹴散らせる程度の化け物であるが、それでも少女は彼らの前に姿を現すような行動をとる事はなく。

 

 軽く深呼吸し、ライフルのサイトを覗き込んで殺人アメーバの急所である血走った目へ狙いをつけ、次の瞬間発砲。

 

 放たれた第一射は狙いを違える事なく獲物の目玉を撃ち貫いて絶命させ、慌ただしくなり始めた獲物たちの様子にアルトは構うことなくリロード、第二射を発砲する。

 

 二発目の弾丸もまたアメーバの目玉を貫通して目標の命を容易く奪い去る。

 

 立て続けに二匹の仲間が絶命した状況に、さすがのアメーバ達も異常事態を察知したのか散り散りバラバラに逃げ始めるが……。

 

 物陰に逃げ込む前に、三匹目の目玉を弾丸が潜り抜けていき。無事逃げおおせた一匹を除いて屯していたアメーバ達は屍を晒す事となった。

 

 

「よし、絶好調っ」

 

 

 使い始めた当初はロクに狙いもつけれなかったライフルであるが、生き残るために必死に腕を磨いた努力が齎した結果に、少女は自然とその顔を綻ばせる。

 

 前世では血を吸いに来る蚊や、日々の生活を脅かす虫くらいしか殺した事がなかったアルトであったが……。

 

 鉄と荒野と瓦礫の世界に産まれおち、早15年近く過ごした今のアルトにとっては化け物の一匹二匹、殺害してもなんら痛痒を感じない程度には逞しく成長していた。

 

 

「さーて、早くはぎとらないとダメになっちゃうな。っと」

 

 

 双眼鏡を取り出し、周囲の安全状況を確認した上で岩陰からアルトは這い出し。

 

 小走り気味に残骸を晒すアメーバの元へ急ぎ、不意打ちによる砲撃を受けなかったことに安どのため息を吐きつつ、少女は剥ぎ取り用のナイフを手に持つ、そして。

 

 

「うへぇ……どれだけやっても、コレには慣れないなぁ……」

 

 

 独特なぬめりと生臭い臭いに少女は顔をしかめつつ、テキパキと選別しつつ目的の『ぬめぬめ細胞』をはぎとってはビニール袋へ詰め込み。

 

 最後に粘液と肉塊がこびり付いた手をタオルでふき取ると、少女は立ち上がりライフルを担ぎ直して次の獲物を狩るために歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 あれから時間をかけて、少女は『いもいも細胞』と『とりのササミ』もきっちり確保に成功し。

 

 これまたいつもの酒場である、驚愕の騾馬亭へ卸しに行く。

 

 しかし、一つだけ違う事があった。

 

 

「マスター、厨房借りていい?」

 

「……藪から棒になんだ。笑えないジョークはその貧相な体くらいにしておけ」

 

「めっさ酷い事言われたー!?」

 

 

 無愛想かつやる気のないマスターから代金を受け取りつつ、小柄なアルトはカウンター越しにマスターを見上げ、上目遣い気味に若干猫を被りつつお願いし。

 

 拙い猫かぶりを看破したマスターは、辛辣な言葉でソレを一刀両断。わかっていたとはいえ容赦のない返答に思わず涙目で反論するアルトであった。

 

 そんなマスターの様子に、昼間から酒をかっ食らっている自称ベテランソルジャーのスキンヘッドが眩しいディックが口を挟む。

 

 

「おいおいマスター、さすがにひでぇんじゃねぇの?」

 

「そうだよディックさん! もっと言ってあげてよ!」

 

 

 想定してなかった方向、酒場の常連からの言葉にそーだそーだ!と強気になるアルト。

 

 そんな少女の想いを受け取り、酔っぱらったソルジャーはキリッとした表情で言い放つ。

 

 

「その貧相な体が……良いんだろうが!!」

 

「信じたボクが馬鹿だったよーーー!!」

 

 

 自称ベテランソルジャーであり、決して腕は悪くない男であるディック。

 

 唯一の難点は、小さい女の子が好きという性癖であった。

 

 

「そぉい!!」

 

「ナッパ!?」

 

 

 そんなダメ人間一直線なソルジャーは、顔馴染みのハンターが容赦なく踵落としを決めて無理やり沈黙させられたりしているが。

 

 その光景について誰一人言及する者はいなかった、ある意味コレも驚愕の騾馬亭の風物詩である。

 

 

「……で、何でまた厨房を使いたい?」

 

「……あー、えーっと……ちょっと新メニューに挑戦したくて」

 

 

 そんなスキンヘッドソルジャーが撃沈させられる光景をやる気のない目で眺めつつ、マスターはちんまい卸売業者、アルトへ視線を向けて問いかけ。

 

 一連のハイスピードアクションな流れに思考が若干置いてけぼりになったアルトは、気を取り直しつつマスターからの問いかけに素直に応じる。

 

 

「新メニュー? ふん、まぁいい……宿屋の方から回って着替えてこい」

 

「やったー!ありがとうマスター!」

 

 

 アルトの両親も知っており、その関係で幼いころからアルトを見てきているマスターは少女の物理的台所事情が芳しくない事を思い出し、面倒くさそうに了承を出す。

 

 その返答に少女は顔を綻ばせて喜ぶと、小走り気味に酒場を出て行く。

 

 そして、隣接している宿屋の扉を開き……。

 

 

「シェーラ!割烹着貸してー!」

 

「藪から棒に何言い出すのよ、このまな板娘は」

 

「親子そろって酷い?!」

 

 

 幼馴染の、宿屋の看板娘(山盛り)兼宿屋の店主であるシェーラに開口一番で割烹着のレンタルを申請。

 

 そんな入ってくるなりトンチキな事を言い出した幼馴染のまな板娘(文字通り)の言葉に、シェーラと呼ばれた女性は父親譲りなやる気のなさそうな目で容赦ない言葉のナイフを突き立てた。

 

 

「冗談よ。その様子だとハンター辞めて従業員になりに来た、ってワケじゃなさそうね?」

 

「うん、実はかくかくしかじかで……」

 

「まるまるうまうま、ってワケね。いいわよ、適当にサイズが合うヤツ見繕って着替えていってね」

 

 

 妹分のように想っている幼馴染にハンターなんていう危険な職業は辞めてほしい、などと思ってる事などおくびにも出さずにシェーラは適当に割烹着レンタルの許可を出し。

 

 地味にアルト自身も前世の記憶があるとはいえ、色々と世話を焼いてくれている姉のような存在の言葉の裏を理解しつつも、表情に出さず呑気にお礼を言って更衣室へと入っていった。

 

 そんな、小動物のような物理的にも体型的にも小さい少女の後姿を眺め、シェーラはため息を吐き……。

 

 

「ほんっとに、危険な事も荒事も嫌いなくせに。なんで変に遠慮してんのかしらね……あのアホの子は」

 

 

 あまり客が来ないのを良い事に、シェーラは宿の受付のカウンターで頬杖を突きながら……誰も聞いていない独り言をつぶやいた。

 

 アルト本人はと言うと、単純に縁故採用がごとき勢いでお世辞にも経営状態がよろしくない宿に勤めるのは如何なものか、という非常に単純な理由でシェーラの好意を断ってたりするのだが……。

 

 

「アンタ一人生活できる程度に給料出すくらい、ワケないって言うのよ。ほんとにもう」

 

 割と顔に出やすい妹分の事を思いながら、アルトよりも少しばかり年上なだけの女性は重い重い溜息を吐いた。

 

 




いきなりシリアス終了のお知らせ、ヤツは良いヤツだったよ……。
次回は、例のアルトが荒野の料理人として動き出したきっかけの料理を出します。お楽しみに!

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