暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

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エレオノーラの日課と朝の風景。

オリキャラ出張ってます。

感想有難うございます。
可愛いザンザスに拒絶反応起こされないか、びくびくしていましたが、意外と評判良くて良かったです。

これからもしばらくほのぼのにお付き合いください。


挨拶はしっかりしましょう。

 

 目を開けるといつもと違う天井が広がっていました。

 

「……ここは……」

 

 胸元の温かな感触に視線を下げれば私の腰に手を回し、胸に顔を押し付けるように眠る坊ちゃん。

 ああ、そういえば。昨日は坊ちゃんの部屋で一緒に眠ったんでしたね。

 金細工のアンティーク時計を見れば、午前4時50分。

 いつも私が起きる時間です。

 

「……ぅ……ん……」

 

 気に入ったのか、私の胸から離れようとしない坊ちゃんを見て、疑問を抱きます。

 ――気持ちいいんですかね?

 10歳になっても一向に成長する気配のない胸なのですが。

 ……やはり私の胸は現世もBカップがせいぜいなのでしょうか……?

 ……人種が違っても、ひんぬーの呪いは魂に刻まれているとでもいうのでしょうか……?

 ……いーですよー。胸なんか大きくても邪魔なだけです。ふんだ。

 気を取り直し、腰に廻っていた腕を外し、音を立てないようそっとベッドを抜け出します。

 坊ちゃんの部屋を出て、自分の部屋で着替えます。

 いつもの執事服ではなく、黒の上下のトレーニングウェアです。

 ちなみに私の部屋は坊ちゃんの隣の部屋です。

 叔父さま達に頂いた大きなテディベアも抱えています。

 抱き枕の代わりになるかなーって。

 え? テディベアを抱いた坊ちゃん可愛いだろうなーなんて思ッテイマセンヨ。

 ドアを、音を立てないように開け閉めし、そっと天蓋から流れ落ちる絹の赤のカーテンを払います。

 って、あら。

 

「起こしてしまいましたか?」

「……どこに行ってやがった」

 

 不機嫌そうな赤い瞳に睨まれてしまいました。

 どちらかというと、不機嫌なのはまだ眠いからなのかもしれません。

 

「申し訳ありません。これから私は朝のトレーニングがあるので、少々外させて頂きます。

 坊ちゃんはもう少し眠っていてください。

 まだ5時ですから、あと3時間は眠っていて大丈夫ですよ」

 

 本来、子供の睡眠時間はかなり長いです。3~5歳は11~13時間、5~12歳でも10~11時間は必要です。

 昨日の就寝時間は9時だったので、8時まで眠れば11時間は眠れます。

 身体の成長には眠るということはとても重要なのです。

 坊ちゃんはまだ、もうすぐ5歳ですが念のため、後でお昼寝もしましょう。

 きちんと睡眠をとらないと、成長の過程で様々な障害がでてくるということは科学的にも証明されていますしね。

 あと、坊ちゃんの寝顔可愛いですし。すごく可愛いですし。

 昨日の疲れがまだ取れていないらしく、私に頭を撫でられて、再びウトウトし始める坊ちゃん。

 その横に、すかさずテディベアを入れると、反射的にそれを抱き込みます。

 肌触りがとても良いそのテディベアを抱き寄せ、無意識に顔を摺り寄せる坊ちゃんは――半端じゃなく可愛いです!!!

 何この可愛さ。

 坊ちゃんは私を萌え殺そうとしていると断言してもいいですよ!!

 あとで、叔父さまにも見せてあげるために、デジカメで寝顔をとっておきます。 

 あーかわいー。

 いつまでも見ていたいのですが、朝の日課を欠かすわけにもいきません。

 坊ちゃんの肩まで布団をもう一度掛けてやり、死ぬほど名残り惜しいのですが、その場をあとにしました。

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 地下2階にあるトレーニングルームに入ると、同じくトレーニングウェアを着た執事のクレイさんが先に準備運動をしていました。

 

「おはようございます。クレイさん」

「おはようございます、エレオノーラ様」

 

 私は呼び捨てでいいと言っているのですが、彼が様付けするためか、他のメイドさんたちも私は『エレオノーラ様』と呼ばれています。ああ、『レオ様』とも呼ばれますね。

 どこぞのスターを思い出させる呼び方ですが。

 

「昨日はザンザス様もよく眠れていましたか?」

「はい。今もぐっすり眠っています」

 

 せっかくですので、撮影したデジカメを見せると、あまり表情の変わらない彼がほんの少し笑顔を見せました。

 やっぱり坊ちゃんの寝顔は癒し効果がありますね。

 あとでメイドさんたちにも見せてあげましょう。

 デジカメをしまい、いつも通り私も身体を解すために、準備運動の代わりにしている太極拳を30分ほどやります。これすごく汗掻くんですよ。

 ガスなしのミネラルウォーターを飲んだあと、手首足首に重りをつけ、トレーニングマシーンで同じく30分ほど走ります。

 その後、組み手をクレイさんに相手してもらい、30分ほど投げ飛ばされたり、受け身を取ったりしながら、黙々と続けます。

 その後、ナイフの使い方や素早い撤退の仕方の指導を受け、クールダウンをしてから、朝のトレーニングを終わらせます。

 これが約2時間です。

 その後はシャワーを浴び、髪を乾かすのに30分ほど。

 私の髪は肩より少し長いくらいです。

正直乾かすのが大変なので、切ってしまいたいと私は常々思っています。

 ですが、皆さんがそのたびに『切っちゃダメ』と仰るため、未だに長い髪のままです。

 ……何なんですかね?

 身支度を整えると、市民の皆さんから寄せられる苦情や設備の不備に対する訴えの手紙やメールに目を通しておきます。

 中にはなぜかファンレターや変わった噂の話も書かれていて、意外と役に立つ情報もあるのです。

 こういった細かなことに素早く対応できることが、皆さんの信頼を得ることに繋がりますからね。

 以上が私の朝の日課になります。

 それでは、坊ちゃんを今度こそ起こしにいきましょう。

 

 

◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 今度はドアをノックしてから開けます。

 薄絹のカーテンを払うと、坊ちゃんは未だに就寝中でした。

 しっかりとテディベアを抱きかかえたままで。

 ああもう、可愛いなあっ!!

 このまま寝かせておきたいのですが、生活のリズムを作る方が健康には良いので、申し訳ありませんが、起こさせてもらいます。

 

「坊ちゃん、起きてください。もう朝ですよ」

「……う……ん……」

 

 よほど安心して眠れたのか、普通の子供のように目をこすりながら起き上る坊ちゃん。

 少しぼーっとしていましたが、すぐに不機嫌な顔になります。

 

「おはようございます、坊ちゃん」

「…………」

 

 無言のまま頷く坊ちゃん。

 うーん、これはいけませんね。

 

「坊ちゃん、朝の挨拶はおはよう、ですよ。

 挨拶は社会で生きていく中では大事なものですから、きちんと挨拶できるようにしましょう」

「…………」

「ちなみに私は挨拶も出来ないような奴は、どうしようもないバカだとしか思えません」

 

 にっこりと笑顔で言えば、苦虫を噛み潰したような坊ちゃん。

 社会に出れば、本当に基本中の基本なのが挨拶です。

 これが出来なきゃ、社会人として認められないと言っても過言ではありません。

 マフィアだろうがなんだろうが、挨拶ぐらい誰でもできます。

 挨拶することで威厳がなくなるんじゃないか、とか思いますか?

 その程度でなくなる威厳なんて、吹けば飛ぶ埃よりも価値がないですよ。

 辛抱強くお互い見つめあったままその時を待ちます。

 

「……おはよう……」

「おはようございます、坊ちゃん」

 

 ――良くできましたね。

 ぎゅっと思わず抱きしめれば、『うるせえ、カス』と怒鳴られますが、そんなことは些細なことでした。

 動きやすくシンプルですが、有名ブランドの服に着替えてもらい、洗顔と歯磨きを済ませてから、朝食を取りに向かいます。

 こちらでは朝食は菓子パンとエスプレッソやカプチーノなどが多いのですが、お願いした通り繊細な彫刻を施されたテーブルにはしっかりとした朝食が用意されていました。

 トマト入りのスクランブルエッグにソーセージにサラダ。

 ミルクティーとフルーツとクロワッサン。

 やっぱり朝食は働くためには沢山食べるべきですよね。

 もっきゅもっきゅと口いっぱいに食べものを詰めていく坊ちゃんは、どこか小動物を思わせます。リスとかハムスターとか。

 可愛い。

 可愛いのですが、やはりマナーとしての食事の仕方も覚えてもらわないとなりませんね。

 しっかり全て食べ終わると、クレイさんが追加でミルクティーを新たに淹れてくれました。

 ほんと、なんでもできるヒトです。

 オールマイティーが執事であることの条件だといわんばかりに、私はこの人が出来ないことを見たことがありません。

 そんなクレイさんが、私たちが一息ついたことを見越して、珍しく口を挟んできました。

 

「ザンザス様、エレオノーラ様。9代目はまだ出かけておりません。

 今からでしたら、十分お見送りに間に合うと思いますが」

「珍しいですね。それじゃ、これから『いってらっしゃい』って言いに行きましょうか、坊ちゃん」

 

 振り返れば、椅子から飛び降り逃亡しかけた坊ちゃんを初日と同じように捕獲し、抱っこしたまま玄関ホールに向かいます。

『放せ』とかなんとか言っていますが、それは右から左へ聞き流します。

 もしかしたら、私たちが朝食を食べ終わるまで待っていたのでしょうか。

 コヨーテさん辺りがその辺は気を利かせたのかもしれません。

 手の空いているメイドさんと、一足先に向かっていたクレイさん(いつの間に?)に見送られて、車に乗り込もうとしていた9代目を呼び止めます。

 

「9代目、お待ちください」

「おお、おはよう。エレオノーラ、ザンザス。

 見送りに来てくれたのかい?」

「ええ。

 この時間まで9代目がいらっしゃるのは珍しいですね」

「ああ、資料に不備があってね。

 それじゃあ、行ってくるよ。

 ザンザス、色々大変かもしれないが、しっかりな」

 

 ポンポンといまだ、俯いている坊ちゃんの頭を撫でると、車に乗り込もうとし――スーツの裾を掴む小さな手に9代目が気付きます。

 

「ザンザス?」

「…………」

 

 坊ちゃんが口をへの字に曲げたまま、お父様を睨みつけています。

 ――坊ちゃん? もしかして……

 口をもごもごとさせて、小さな声であることを言おうとしているようですが、9代目はわからなかったらしく、顔を坊ちゃんに寄せました。

 

「ザンザス、なんだい?」

「――ぃ、行って来い……」

 

 蚊の鳴くような小さな声での息子からの挨拶に、9代目はぽかんとし、破顔しました。

 

「行ってくるよ。ザンザス」

 

 すぐにぷいと横を向いた坊ちゃんのほっぺにキスを送ると、私の頬にもキスをして9代目は車に乗り込みました。

 周りを見渡せば、微笑ましい光景にコヨーテさんやメイドさんの顔が一様に緩んでいます。

 賭けてもいいですが、今9代目は車の中で悶えているに違いありません! 

 

 

「「「「「「「「「いってらっしゃいませ」」」」」」」」」」

 

 

 皆で頭を下げ、遠ざかっていく9代目を見送ると、私の腕の中でぶすっとしていた坊ちゃんがようやく顔を上げます。

 

「……オマエが――んだからな」

「はい?」

「オマエが挨拶できないのは、バカだとか言うからやったんだからな!!」

 

 勘違いするなよ!とか毛を逆立てた子猫のように唸る坊ちゃん。

 ぶすっとした表情ですが、赤い頬まで隠すことが出来ていません。

 

「そうですね。坊ちゃんはバカじゃありませんね」

「当たり前だ!」

「坊ちゃんは世界一可愛いと思います!」

「! ――バカかっっ!!」

 

 

 

 

 ―オマケ―

 

「どうすればいいんだ、コヨーテ……」

「何がでしょうか?」

「儂の息子が可愛すぎて、世界がいや、宇宙が危ない!!」

「…………(危ないのは9代目の頭の方では……)」

 

 





9代目が壊れるにつれて、密かに守護者の胃を圧迫していきます。


主人公は、坊ちゃんに挨拶とご飯を投げることをやめさせる予定です。
ですが、その代わりに壊れにくい机やクリスタルの灰皿を投げることがなり、サメの耐久が上がっていきます(笑)
ごめんよ、サメ。

ついでに執事のクレイさんは、数代前のヴァリアーの隊長とかいう無駄な設定があります。
オリキャラの設定とか考えるのが好きです。

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