感想、評価ありがとうございます。
主人公が家庭教師を引き受けるまでの過程です。
次こそザンザス出てくる予定です。
ちなみに9代目達に、ばらさなかった理由は必要以上に原作を壊すことの他に、以下の理由があるからです。
リ「なんで、9代目には真実をばらさなかったんだ?
9代目なら信じてくれただろうに」
エ「……私を娘として可愛がってくれている方々に、それを告げるのは酷かと……」
リ「……なるほど……」
まあ、何はともあれ私はリボーン先生の生徒になったのです。
彼には淑女教育の他に、勉強や教養も色々と教えてもらいました。
……また、数学と物理を学ぶ羽目になるとは思いませんでしたが。
数学がダメなんで、本当に大学はそれがないところを選んだくらいなんですが……。
化学や生物は好きなんですが、物理はわけわからなくなってしまいます。
それをまたやるなんてー、あーうー。
「……先生、もう駄目です!
数式が追いかけてくる夢を見ます!!」
「諦めんな。つか、お前中学生ぐらいで、数学の知識止まってるぞ」
「自慢じゃありませんが、数学は因数分解と一次関数で止まってます!」
「本当に自慢になんねーぞ。俺の生徒なった以上、完璧を目指してもらうからな!」
「あーうー(涙)!!」
まあ、こんな風に勉強も挫折しそうになりましたが、どうにかこうにかやり遂げ、数学も高校生のレベルぐらいまではやり遂げることが出来ました。
本当にリボーン先生は教えるのが、うまいのです。
一応私が女であるため、フェミニストの彼はかなり手加減してくれたようですが。
とはいえ、彼が教師となってくれたおかげで他の授業も随分楽しく学ぶことが出来ました。
やっぱり、教師というのは大事なんだなあと改めて思います。
後は、私が昔勉強やっておけばよかったなーと大人になって思うことが多かったことも起因していると思います。
学生のうちに勉強できるなら、しておいた方がいいですよー。あと読書。
本当に働きはじめると後悔すること多いですから。
まあ、暇を見つけて勉強する人は勉強しますけどねー。
閑話休題。
そんな風にリボーン先生やラル教官のおかげで3年間はあっという間に過ぎていきました。
ほんっとーにいろいろ合ったんですけどね。
それはまたの機会にお話しします。
そして――運命の日がやってきました。
その日私は叔父さまの執務室に呼び出されました。
秘書の仕事を守護者の皆さん(コヨーテさんやガナッシュさんが一番多いです)が暇を見つけては教えてくれるので、私としては馴染みの場所です。
しかし、その日は入った途端、部屋の雰囲気が違っていました。
いつもは和やかな雰囲気なのに、その日はピリピリというか、どんよりというか、なんといいますか、悩んだ表情を9代目や守護者さんたちがしていました。
「申し訳ありません、叔父さま、皆さま。遅れてしまいましたか?」
「いやレオ、エレオノーラ。よく来てくれた」
わざわざ名前を言い直すなんて、何かあると言っているようなものです。
しかも今は『原作』の20年前に当たります。
これはつまりアレでしょうか?
続きを大人しく待つ私に、9代目は重々しく口を開きました。
「――実はエレオノーラ。
私の子供が見つかったのだ」
「――子供。叔父さまのですか?」
驚いた顔を作り、鸚鵡返しに問えば、重々しく彼は頷きます。
「うむ。その子はザンザスといって、今年で5歳になる。
君と同じように死ぬ気の炎を生まれつき操ることが出来るのだ」
――ビンゴ。
やはり、暴君と呼ばれるヴァリアーの未来のボス――ザンザスのことでした。
しかし、私としては聞きたいことが多々あります。
まず、彼は初めからザンザスが実子ではないことを知っていたのか。
知っていたならば、なぜそのことを言わなかったのか。
ボンゴレリングを継ぐ条件に血筋というものがあるのならば、彼が初めから10代目を継げないということはわかっていたはずです。
それでもなお彼を10代目候補として育てたのは、初めから本気で彼を継がせる気だったのか、それとも他の候補の――言い方が悪いですが――当て馬にする気だったのか。
それをはっきりさせておきたいところです。
もし、本気でそんなこと考えているならば――シバキ倒します。
「その子が叔父さまの子というのは間違いないんですか?」
「……うむ、面差しがボンゴレⅡ世にそっくりでな。
それにリングもなしに炎を操ることが出来るのはやはりボンゴレの血筋だろうと」
「――ということは、叔父さまは子供作っておいて5年間も放っておいたってことですか?」
声にマイナス200度くらいの冷たさを纏わせば、叔父さまと守護者さんたちが冷や汗を額から流しています。
「……いや、そういう訳ではないのだよ。
ただ、子供のことは知らされていなかったというか」
「じゃあ、やるだけやって忘れ去ったということですか?」
マイナス500度ぐらいの視線を送れば、青い顔をして叔父さまが黙ります。
替わりにガナッシュさんが口を開きました。
「いや、エレオノーラ。9代目も事情があって――」
「どんな事情だろうと、避妊もせずにやるだけやって、しかも子供が出来たこともしらないでいたなんて最低以外の何者でもありません」
剣呑な視線が男性陣を貫くと、皆さん下を向いてしまいました。
……苛めるのはこのくらいにしておきましょうか。
「……叔父さま。私だって叔父さまが手を付けた女性を放っておく性格だとは思っていません。その子は叔父さまの子供ではないんでしょう?」
「……う、いや……」
目が泳いでいる9代目の代わりに、特徴的な髪形の守護者の1人が進みでました。
「――オマエに隠し事は出来ないようだな、エレオノーラ。
その通りだ。その子は9代目の子供ではない」
クロッカンさんが認めると、皆さんが肩の力を抜きました。
どことなく、室内の空気も緩みます。
「では、なぜその事実を告げなかったのですか?」
真実を知ることは辛いことですが、まだ早いうちに知れば傷は浅くなります。
それなのになぜ?
躊躇った末に、漸く9代目が口を開きました。
「儂はな、エレオノーラ。あの子の瞳を見てしまった。
あそこは随分とひどいスラム街の一角でな。
彼はそこでその炎を出すことにより迫害されていた。
だが母親にそれは儂の、次代の10世を継ぐ者の印だと言い聞かせられていたらしい」
確かに『原作』ではそういう話でした。
「それを否定しては、あの子がショックを受けると思ったのは確かだ。
しかし、それ以外にも理由はある。
彼に知能テスト受けさせたところ、高得点を叩きだしたらしい。
彼は間違いなく天才だ。
だが、天才とは異質でもある。
彼を保護し、孤児院で育てるという考えもあったが、それは無理だと私は思う。
エレオノーラ、君は天才だが精神的には成熟し、周りとの協調性もある。
だが、あの子は周りに合わせるということは出来ないだろう。
それは更なる孤独を生むことになる。
出来ることならば、あの子の暗い眼差しを晴らしてやりたい。
私自身、子供が出来なかったので、あの子が本当に息子ならばという思いもあるのだ」
……いろいろ考えていたんですね。
それを最初から言ってあげれば、『原作』の方もファザコンこじらせることもなかったんじゃないでしょうか。
「そこでな。同じ天才であるエレオノーラ、君にザンザスの教育を任せたいと思うのだ」
「私に……ですか?」
いえ、私実は天才でもなんでもないんですけど。
ちょっと知識と経験が人より多いだけなんですけどね。
「君ならば、ザンザスの気持ちもある程度察せると思う。
ぜひともこの仕事を受けて欲しい」
ボンゴレという組織に買われた私としては、断ることは初めから許されていません。
ですが、敢えてそれを聞いてくれるのは私の意見を尊重してくれるのでしょう。
本気で嫌がれば、たぶん諦めてくれるのではないかと思います。
10歳児に5歳児の面倒を一から十まで見てくれというのは、本来ならば『ちょっと待て』といいたくはなりますが、そこは一応クリアしてはいます。
私としては家庭教師という地位に就くとは思いませんでしたが、彼と接触する機会があればと思っていたので、願ってもないことでした。
ですが――
「――条件が3つあります」
「条件? なんだね?」
「まず1つ目は叔父さまが毎日その子と顔を合わせて話をすること。
仕事で無理なら電話とかでもいいですから、話す機会を作ってください。
2つ目は教育の内容は私が決めること。
他にも家庭教師を雇うことがあるとは思いますが、基本的な計画は私に決めさせてください。
3つ目は叔父さまがその子に本当のことをなるべく早く話すこと。
辛いことかもしれませんが、知っておかなくてはいけないことだと思います。
関係のない第3者に知らされたり、自分で知る前に必ず伝えてください。
よろしいですか?」
9代目がどこか不安げな顔をしています。
無理なことは言ってないとは思うのですが。
1つ目は私に対してマメに会いに来てくれることを考えれば、出来ないことではないと思います。
2つ目はまあ、彼には異論はないでしょう。
結構、ザンザスにはやらせてみたいことが色々あります。
3つ目はどうあってもやってもらわなくては困ります。
彼があれだけショックを受けたのは、それを父親から直接言われず、自分で知ってしまったからでしょう。
それを避けるためには、どうしても9代目から告げなくてはならないのです。
とゆーか、絶対にやれ。
「――この条件をのんで頂けますか?」
「……う、うむ。
だが、儂は見ての通り仕事で忙しく、あまり時間がとれんかもしれないのだが」
よそよそしい態度で呟く彼に、私は呆れて半眼になりながら、告げました。
「時間がないというならば、私に会いに来てくれる叔父さまはどう説明するんですか?
時間は作るものですよ。
改めて父親になることを自覚して不安があるかもしれませんが、ここに来る子供はもっと不安の筈です。
叔父さまから歩み寄るように努力してください」
「……うむ……」
だから、そんな叱られた老犬みたいな目しないでくださいってば。
自分の子供を持ったことがない男の人が、どんなに『ファミリー』としての長の立場が長かったとしても、不安になるのは当たり前のことです。
ですが、親子としてのコミュニケーションがしっかりとあれば、事実を聞かされたときショックを受けても多少はやわらげられるのではないでしょうか。
……まあ、私もそういう経験がないので、あくまでたぶんとしか言いようがありませんが。
「よろしいですね、叔父さま」
「……うん……」
なんかもう、母親に叱られている子供みたいですね。
ちゃんとフォローしますから、大丈夫ですよ。
見れば、守護者の皆さんの表情もどこか神妙になっています。
ですがこれで終わりではなく、その他にももう一つ聞いておかなくてはいけないことがあります。
「叔父さま、もう一つお聞きしたいことがあります」
「う、うむ。なんだね?」
ウサギのようにびくびくしている彼には悪いのですが、更に追い打ちをかけることになるかもしれません。
息を吸い込み、9代目にしっかりと視線を合わせます。
「その子はボンゴレの後継者としてお育てしてもよろしいのですか」
「……う……む……それは……」
私の台詞に叔父さまは口ごもり、また守護者の皆さんも困惑しているようでした。
しかし、この答えは是が非でも答えてもらわなくても困ります。
「叔父さま。私の知る限り、ボンゴレを継ぐには超直感というものが必要なはずです。
その子は叔父さまの、いえボンゴレの血を継いでいない。
それは事実なのでしょう?
その上でその子を9代目の息子として迎えるということは、その子は実質9代目の後継者として皆が認識するはずです。
それをいざという時に血が繋がってないから継承は無理だ、ということは酷過ぎます」
「う……」
「それに今現在ボンゴレには3人の後継者候補の方々がいます。
エンリコ様、マッシーモ様、フェデリコ様。この3人の方々は叔父さまに子供が出来ないと決まった時点で、後継者として育てられている筈です。
そこにふいに現れた実子などというものが出てきても、彼らは簡単に10代目の座を諦めることは出来ないと思います」
「いや、だが彼らはそのあたりはちゃんと弁えて――」
「弁える?」
その台詞に思わず笑ってしまいました。
随分と冷たい笑みになっていたらしく、部屋の雰囲気が凍りついてしまいます。
「……叔父さま、ヒトの嫉妬を舐めていますよ。
私の母の話ですが、母は昔、叔父よりも随分と出来が良く、先代――つまり私の祖父は母を女で愛人の娘にも関わらず後継者にしようと考えたことがあるそうです。
それを知られてから母は、叔父や正妻に殺されかけたのは数度ではないそうですよ。
叔父さまが9代目を継ぐときも、すんなり全てが上手くいったわけではないでしょう」
これはガナッシュさんと母の実家に行った後に調べた事実ですが。
彼らを見回すと、過去を思い出したのか、ある人は俯き、ある人は苦虫を噛み潰したような表情をしています。
それだけのことがあったのでしょう。
人は忘れることが出来る生き物です。
それはある意味幸せなことではありますが、今は無理やりにでもそれを思い出してもらいます。
「それを踏まえ、もう一度お尋ねします。
その子はボンゴレ後継者としてお育てして本当によろしいのですか?」
「……エレオノーラ、本当に君は10歳かね……?
聡明にもほどがある……」
溜息と共に吐き出された言葉の続きを待つと、諦めたようにもう一度嘆息し、守護者に目配せしました。
彼らが頷くと、しっかりと9代目がこちらを見据えます。
「エレオノーラ。
そこまで読むことができるのならば、私がどういう決断をしたのかわかるかね?」
言葉の意味を吟味し、結論を導き出します。
「――つまり叔父さまはあの3人より、その子の方がボンゴレの後継者として相応しいと超直感で感じ取ったのですね」
「その通りだ」
恐れ入ったと手を上げる彼を置いて、3人の後継者候補を思い浮かべます。
以前、リボーン先生の淑女教育を受けてから間もなく開かれたパーティーに出席したとき、彼らを紹介された時がありました。
3人とも特に悪い印象は受けませんでしたが、ボンゴレの後継者と言われてピンとくるものはありませんでした。
ただそれは私が『原作』を知っているからかもしれないと思って、特に思うこともなく無難に挨拶をして終わったのですが。
「このことを知っているのは守護者の方々と他には?」
「門外顧問である家光だけだ」
全てを吐き出すと、顔を手で覆ってしまいます。
たかだか10歳の小娘に見抜かれたことに相当ショックを受けてしまったようです。
いえ、まあ、経験と『原作』の知識があなたよりあるだけなので、そんな落ち込まないでください。
気を取り直したように背筋を伸ばした彼の視線が私を射抜きます。
優しい叔父さまではなく、ボンゴレ9世としての顔が私を見ています。
「その子は儂の息子として引き取る。
表向きはあの三人も後継者候補という看板は外さずにな。
しかし、あの子はボンゴレという血筋以上のものを秘めていると私は思う。
血に縛られ、形式に縛られ続けるということは愚かなことだ。
彼があの3人より優れているということはすぐに証明されるだろう。
それこそ皆が納得せざるを得ないだけのものを。
――そしてそれは君の腕次第ということになる」
今度は9代目が私を試すような台詞を告げます。
――それにしても、彼らが本当の当て馬という訳ですか。
少し気の毒な気がします。
ですが、彼らはボンゴレ以外の生き方が出来るかというと答えはNoでしょうし。
「ですが、9代続いたボンゴレの血統を途絶えさせることに、異論を唱える保守派の方々が必ずいる筈です。
その方々に彼らが担ぎ出されるということもあり得るのでは」
「それはさせん」
有無を許さず、低く断言されたその言葉に、私は覚悟を決めました。
「――わかりました。
この仕事、お引き受け致します」
そうして私はザンザス坊ちゃんの家庭教師を引き受けることになったのです。
9代目は揺り籠の事件がなければ、ザンザスをちゃんと10代目にするつもりだったんじゃないだろうか、という妄想から生まれたお話。
9代目は情に厚い人間ですが、それだけではザンザスを後継者にはしなかったんじゃないかなーと思ったのですが。
いかがでしょうか?
この話のザンザスは幸せに育つ予定……?