これからしばらくツナたち主人公メンバーは出てこないので、アルコバレーノとザンザスの話になると思います。
お気に入り、感想ありがとうございます。
励みになります。
それから3カ月ほどたった後、久しぶりに叔父さま達に会う機会がありました。
え? 武者修行していたんですよ。
なんでも教官が私のために使っていない有休をほぼあててくれたらしく、付きっきりで私の修行を見てくれたのでした。
この身体のスペックは思った以上にすごいらしく、どんな修行も順応することが出来ました。
私、前世では体育は普通中の普通だったんですけどね。
あ、そういえば裏マフィアランドにも行きましたよ。
コロネロにも会いました。
いかに教官が可愛いかということで、意気投合してメル友になりました。
後、照れ隠しでコロネロ大佐だけ、ぶっ飛ばされていました。
ツンデレ美味しいです。
それはともかく、久しぶりに会った叔父さま達になかなか見所があると、教官が言ってくれたのが嬉しくて、ついつい口が滑ってしまったんですよね。
「ラルが君の教官としてついてくれたらしいが、調子はどうだね?」
「はい! この調子なら、どんな変質者も一発でぶん殴って、股間に蹴りを入れて悶絶させることが出来ます!」
その時降りてしまった沈黙の気まずさと言ったら――
無言で顔を覆ってしまった、9代目と守護者さんたちを見て、あ、まずったとは思ったんですけど、あとの祭りでした。
……雨に濡れた老犬がキューンとか言っているような目で見ないでくださいってば――
後日、私にいったん修行は休憩して、他の習い事をしなさいというお達しが来ました。
ダンスにフラワーアレンジメント、ピアノ、なぜか茶道に書道、お琴なんていうのもありましたね。
どうも、私に女らしさを取り戻させようと必死に皆がなったようです。
……まさかコレがあんな騒動を齎すなんて思いませんでしたが……
そんな日々をしばらく送ったあと、さらに家庭教師を一人つけるということなので、叔父さまの執務室に行くとそこで私は、運命にであったのです。
「エレオノーラ、これから君の家庭教師となるリボーンだ」
「チャオっす」
黒いスーツを着こなす赤ん坊が一人。
それが主人公をマフィアのボスに育て上げる、最強にして最凶のヒットマン――リボーン。
彼に出会い、また私の人生は岐路を迎えたのです。
◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇
「CHAOS」
叔父さまの執務室を出てすぐに、私がそういうと前を歩く彼の足がピタリと止まりました。
振り返ったその深い闇色の瞳を見て、悲鳴を上げなかったのは教官の教育の賜物だと思います。
「……お前、何者だ?」
「――77歳のお婆ちゃんですよ」
私の言葉に納得できなかったのか怪訝そうな彼に言い直します。
「……それをお話したいので、付き合ってもらえませんか?
できれば、ヴェルデ博士も交えて欲しいのですが」
声は震えていなかったでしょうか?
あの殺気を向けられて、きちんと答えられたなら上出来だと褒めて欲しい程です。
クイ、と帽子を下げるとカメレオンのレオンが丸い目をくるりと回します。
そのユーモラスな姿に少し和むと、彼が再び顔を上げました。
「ヴェルデのことも知ってんのか?」
「ええ、あなたが黄のアルコバレーノで、呪いにかかってその姿になったということも」
あまり表情の変わらない幼い面差しが固くなったように見えました。
「……そこまで知っているとはな。
ヴェルデのヤツもどうしても必要なのか?」
「ええ、出来ればこれからのことを判断するのには、彼の頭脳も必要なんです」
「わかった。
2,3日かかるが、構わねーか?」
コクリと頷けば、彼は踵を返し――もう一度振り返りました。
「――逃げんなよ」
「逃げませんよ」
――逃げられませんしね。
約束通り、3日後に私とリボーンは浜辺に来ていました。
どこの浜辺かは伏せさせてもらいます。
絶対秘密ですので。
あたりに人気はなく、初夏らしく海を渡る風は涼しく気持ちが良いです。
青く広い雄大な海は、みていて心が癒されます。
白い砂浜に私はお嬢様らしく、リボーンが用意した白いワンピースと白い麦藁帽子をかぶり、大人しく待っていました。
彼曰く、『お嬢様らしくなるのは形から』とのことです。
ちなみに普段私は女性用の執事服を着ています。
ただしタイは何かのこだわりがあるのか、皆さんと違い私はリボンを指定されています。動きやすくていいですよ。
わざわざ見に来た叔父さま達も手放しで似合うと褒めてくれました。
スタンダードな服装だと思いますし、私も私以外の美少女がきてくれていたら、よろこぶんですけどねー。
とか考えていたら、突如として海面が泡立ち始めました。
ぼこぼこと大きな泡は大量の水飛沫となり、一匹の巨大クラゲが飛び出してきました。
「なんです!?」
「ヴェルデの潜水艇だ」
コレがですか。
見た目は本当にクラゲそっくりというか、そのものです。
その半透明な半球体がパカッと音がして、開きます。
まるで幼稚園児が想像する宇宙船のハッチのようです。
特徴的な緑がかった黒髪はハリネズミのように立ち、白衣と眼鏡という科学者の見本のような恰好に、無精ひげはまさしく、ヴェルデ博士その人でした。
でもちっちゃいです。
眼鏡の奥の瞳がこちらを一瞥して、
「その娘がオマエの言う我々の秘密を知るものか」
「挨拶もなしとは相変わらずだなヴェルデ。
自慢の頭脳に人とのコミュニケーションの取り方は載っていないのか?」
「ふん。口先だけで取り繕わなくてはいけないほど、どこかの誰かのように無駄な人生は送っていないのでな。
――だが、確かに無礼だったな。
初めまして、お嬢さん。私がヴェルデ博士だ」
「初めまして、ヴェルデ博士。エレオノーラと申します」
二人の舌戦なのか、挨拶なのかわからない会話に漸く私も入り込むことができ、ほっとします。
博士は忙しいようなのですぐに3人で砂浜に備え付けてあるビーチパラソルの下の白い椅子に腰かけます。
一応持ってきたアイスティーをテーブルに置きますが、二人は手をつけようとはしませんでした。
ああ、警戒しているんですね。
「毒なんか入っていませんよ」
自分で飲んでみせると、二人は紙コップに入った琥珀色の液体を凝視し、それぞれ口に含んでくれました。
「ほお」とリボーンからは感心したような声が上がります。
ふふ。紅茶の淹れ方にはちょっとうるさいんですよ、私。
ほんの少し和やかになったのをきっかけに、結論から話し始めます。
私が彼らの呪いとそれに纏わる物語、即ち『原作』を前世の記憶で知っているということを。
……改めて考えてみると、随分荒唐無稽な話ですよね。
でも実際そうなんだから、仕方ないんです。
アルコバレーノの呪いの話、死ぬ気の炎の話などを話しますが、原作の綱吉たちが活躍する話については話しませんでした。
一通り、彼らが信用できるまでのチェッカーフェイスの話まですると、私は一息に自分の分のアイスティーを飲み干しました。
二人は眉間に皺を寄せ考え込んでいます。
「どうですか? この話、信じてくれますか?」
「……信じがたいが、信じない訳にはいかないだろう」
「……そうだな。
俺らしか知らないことを、きっちり知っている。その上、死ぬ気の炎の効能まで知っているなら、信じない訳にはいかねえな」
その返答にほっとします。
信じてもらえなかったらそれで、アウトですから。
まあ、アルコバレーノでも類まれな頭脳を持つお二人ですから、的確なことを言えば信じてくれると思ってはいましたけど。
「けどな、エレオノーラ。
なんでこの話を俺たちにしたんだ?
俺とよりによってヴェルデに」
「よりによってというのは余計だが、確かに疑問だな。
ずば抜けた頭脳を持つという以上に、私たちでなくては駄目だという理由があったのではないか?」
「さすがですね。
ええ、実はこの話の他にご相談があるんです。
他の人たちにはこれを冷静に聞いてくれるかわからなかったので」
――マーモンとかは特に。
「その『原作』には呪いの解き方も載っていたんです」
パシャンと紅茶がテーブルにぶちまけられました。
リボーンの手が紙コップを倒したようです。
ヴェルデ博士も驚いたように、こちらを見つめていました。
「ということは、戻るのかこの身体は?」
ヴェルデ博士の冷静な声に、リボーンも我に返ったのか、罰の悪そうな顔で『すまねえ』と私に謝罪しました。
お気になさらず。
「一応、戻し方を私は知ってはいますが、それが行われるのは今から23年後のことなんです。
そして、その方法を思いつく子はまだこの世界には生まれてもいないんです」
だからこそ私はその話をすることが出来ないのです。
「なるほど。『原作』とずれることによってその方法が本当に呪いを解くことが出来るものかわからなくなるということか」
あっさりと私の答えを見抜くヴェルデ博士。
本当に頭のいい人たちとの話って楽でいいですね。
ですが――
「それもあるのですが、私としては『原作』を一部変えたいんです」
「なんだと?」
「どういうことだ?」
訝しげな表情を2人に同時に向けられ、頬を掻いてしまいます。
――というよりも、私が既に『原作』を知っていて、それを二人に話したことによって、すでに『原作』からずれているのではないかという前提があるのです。
「お二人とも『果てしない物語』というファンタジー小説はご存知ですか?」
「エンデのか?」
「確か現実世界の少年が、物語の世界に閉じ込められてしまうという話だったな。
この世界がそうだと、君はいうのかね?」
「いえ、この世界がそうだとは言いません。
正直、初めはその可能性も考えました。
ですが、私が知っている『原作』は今から20年後のものです。
つまり、今の時代は私が知らないというより、創られていない世界のはずなんです。
そのないはずの話の中に存在しているという矛盾が出てきてしまいます。
ですからここは『原作』と似たどこか別の世界だと私は考えています」
「つまりは異世界ということかね」
「平行世界という可能性は考えなかったのか?」
矢継ぎ早に質問され、考えていた答えを披露します。
「それも考えたのですが、何個か私が元いた世界とはかなり違う点があったので、それはないかと思いました。
第一に『死ぬ気の炎』というものがありません。
私たちの世界ではそれは想像の中の産物でした。
第二に私が生前住んでいた町を探してみたんですが、地図上にはどこにも存在していませんでした。念のため名前が変わったのかも調べましたけど、それもありませんでした。
第三にあなた方アルコバレーノの存在。
正直なところ、流暢な言葉を喋る二足歩行する赤ん坊なんていたら、どんなに隠していても噂になると思いますし」
最後のはあまり自信のない根拠ですけど、まだ二人に話していないトゥリニセッテやボンゴレリングの秘密もないでしょうし。
というかあったらあの漫画自体、闇に葬り去られてたでしょうし。
「ふむ。成程、『人が空想できる全ての出来事は、起こりうる現実である』ということか」
「どこぞの物理学者の言葉か。確かにな」
この世界でも某海賊漫画で有名になった名言をきくとは。
「ええ。漫画家や小説家などの俗にいうクリエイターなんて職種の人たちはインスピレーションが他の人より優れているのであって、違う世界の実際にあった話を物語として受け取っているという話もありますしね」
だから、ここは『原作』によく似た世界、原作者が受け取った世界と似て異なる原作の『平行世界』と私は思っています。
異世界の平行世界ってなんか、頭痛くなりそうな感じですけど。
「それで、お前はこの話を俺たちに聞かせてどうしたいんだ?」
「ふむ。何か私たちにさせようというのかね?」
させようという訳ではないのですが。
疑問に思っていることがあるのです。
「私が何かしたとして、呪いを解く可能性が低くなってしまうことはないでしょうか?」
「要するに君が本来、起こるはずの『原作』にちょっかいをかけ、物語を違うものに変えようというのかね?」
「……確かにその部分を変えると、この先がどうなるかわからない状態になることは確定すると思うんです。
でも、ボンゴレに関わったというか、関わらざる負えなくなった以上、私がその出来事に遭遇する確率は高いと思います。
その上で無視するのは私としてはしたくないんです」
例えば、あのザンザスはもう少し、父親と話す機会や自分の出生の秘密を知っていれば、クーデターを起こす必要などなかったのではないでしょうか。
骸たち黒曜組も早くに保護できれば、もっと子供らしい生活を送れたんじゃないか、と親になったことがある自分としては考えてしまうのです。
ですが、それをすることで呪いを解くことが出来なくなってしまえば、それはやはり困ります。
彼らの人生を台無しにするのもまた、心苦しく、どうすればいいのか悩んでいるのです。
特にマーモンは全てを掛けている程ですし。
「……なるほど、確かに呪いが解けなくなってしまうというのは、私としてはまあどうでも良いことだが、他のアルコバレーノ達はそうとはいえんな。私としても興味はあるが」
「……確かに他の連中には聞かせられない相談だな……」
黒く丸い瞳がいつもより暗く見えます。
それはそうですよね。
彼がその姿であることを割り切るのには、相当時間がかかったみたいですし。
「リボーン。君はもとに戻らなくても、良いのかね?」
「……てめえもわかってんだろ、ヴェルデ。
すでに俺たちは起こりうる可能性の一つを知ってしまった。
それだけでズレは生じていると考えていい」
……ですよね。
だけど、私としても誰かこの現象をわかってくれる協力者――いえ、相談できる人がどうしても欲しかったんです。
私一人の頭脳で考え込むのにも限界がありますし。
温くなってしまったアイスティーを啜りながら、胸中で呟きます。
そういえば、リボーンは読心術を使うという設定がありましたが、私の心は読めないんでしょうか。
「――お前の心はどうも読みにくくてな。
だが、顔色や表情からでもいろんなことがわかるぞ」
流石、世界最高の殺し屋と言われた男。
とっくに私の胸中などお見通しのようだったようです。
「そんな顔するな。
お前が誠意を持って話してくれたこともわかっている。
いずれにせよ、既にこの世界は『エレオノーラ』というイレギュラーがいる時点で、お前の知る『原作』とは違うんだ。
それにな。A地点からB地点に行く方法は一つだけじゃない。
徒歩でも自転車でもバイクでも車でも、方法が違ってもその場所には必ず着く。
呪いが解ける。
その可能性が高いことがわかって、俺としては感謝してるんだ。
だからお前がやりたいようにやればいい」
やだ、カッコいい!!
愛人が常に4人はいるというのは、伊達じゃないです!!
思わず頬を染めてしまいます。いい男はどんな外見でもイイ男ですねえ。
「ふふん。俺に惚れたか?
なら、俺の愛人になるか?」
あら、世界中のリボーンファンから殺されそうなお言葉をもらってしまいました。
「いえ、それはお断りします」
「まあ、そういうと思ったけどな。
なんでだ?」
「いえ、あなたみたいにイイ男の愛人というのも、違う人生を生きるなら楽しそうなんですけど……まあ、いろいろありまして」
毒殺は嫌ですしねー。
私食べ物への執着は昔からありますので。
「だけど、どうせなら男に生まれ変わってエロゲの主人公並みのモテモテ生活とか送ってみたかったです」
「……外見の割に残念な性格だな……」
「……9代目が泣いて頼んできた意味がわかったぜ……」
口々に呆れたように言われて私は口を尖らせます。
いいじゃないですかー。
可愛い女の子に囲まれて過ごす生活。
まあ、性的にどうにかなりたいとかいう訳ではなく、愛でたいだけなんですけど。
「まあ、とにかくこれからオマエは俺の生徒となるわけだ。
よろしくな、エレオノーラ」
「はい、よろしくお願いします。
リボーン先生」
小さな手を握ります。
安心させるように、口の端を上げる彼は赤ん坊なのに本当にカッコいいです。
「……話は以上ということだな。
なかなか興味深い話だった。
もう一つ忠告するならば、前世は前世と割り切り、この世界でも生きるために努力を惜しまないことだ。
前世の知識や経験だけに頼り切るならば、この世界に生きる意味などないに等しいのだからな」
……本当にそうです。
私はその努力をこれからしなくてはなりません。
それこそ――『死ぬ気』で。
「後はどんな道を進むにせよ、その道を進んだことで回ってくる『ツケ』がお前にはあるかもしれない。
そのツケを払う覚悟はしておくことだな」
……確かにそういうことがあるかもしれません。
そう、私自身がしたことが大きな歪を作ってしまうかもしれません。
そのツケ払う覚悟――ですか。
これもまた覚えておかなくてはなりませんね。
ヴェルデ博士が椅子から飛び降り、砂浜に着地します。
いつの間にか日がだいぶ傾いてしまいましたね。
忙しいのにお手間を取らせまして。
お礼と言っては何ですが。
「ヴェルデ博士。待ってください」
「なんだね?」
「お礼という程のものではないのですが、これを暇があったら見てください」
そっとヴェルデ博士のモミジのような手に押し付けたそれは――ドラ○もんのDVDでした。
「なんだね、これは?
ジャッポーネのアニメか?」
「はい、その中に出てくる道具はどれも世界中の人の憧れなんで、天才ヴェルデ博士なら作れるかもしれないと思って、暇つぶしにでもしてみてください」
どこでもドアとかタケコプターとか、ビッグライトとか夢ですよねー。
この世界にもあったドラ○もん!
えらいですよ。
22世紀の発明をヴェルデ博士は作れるのか?
ちょっと、やってみて欲しかったんですよねー。
「……ふむ。それ程までに人類の夢だというならば、試してやらんこともない。
参考として受け取っておこう」
「はい。今日は本当に有難うございました」
深々と頭を下げる。
「ふむ。その素直さをいつまでも持てるようにな。
間違ってもその愉快犯からいらないことを学ばないことだ」
「うるせーよ。
変態科学者のお前にはいわれたくねーよ。
エレオノーラは俺が立派な淑女に育ててやる」
追い払うように手を振るリボーン先生を一瞥すると、すぐに興味を失くしたようにクラゲに乗り込んで、海の中に沈んで行ってしまいました。
後には小さな波が揺れ動く、静かな海が広がるのみです。
その光景を眺めていた私たちでしたが、リボーン先生がこちらを振り返ったことで、私の背筋も自然と伸びました。
「さてと、エレオノーラ――いや、レオ。
俺の修行は厳しいぞ」
「はい、先生!」
「よし! いい返事だ!
末は手すら握らせず10億貢がせるような、立派な淑女にしてやるからな!」
「……………」
……それは淑女というより悪女の間違いではないでしょうか……?
ドラ○もんの道具をヴェルデ博士は作れるのか!?
一度やってみたかったので。
日本の会社でそれぞれの技術を合わせて作るということをやっているらしいので、ヴェルデ博士なら作れるんじゃないかと。
あと主人公の性格はかなり残念です。