暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

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死ぬほど間が空いてるのに、温かい感想有難うございます。
皆様のおかげで頑張れます。

続きになります。

主人公にⅨ代目と家光さんが怒られています。


あったかもしれない邂逅 中編

 全てを話し終えると、レオさんは深い深い溜息を吐いた。

 

「――要約すると、坊ちゃんは自分が9代目の血を継いでなかったことを知らされなかった上に、9代目とどこかへ遊びに行くことはおろか、話すこともほとんどなくほぼ放置されていたということですね」

 

 こくこく頷くヴァリアーのみんな。

 改めて言うと信頼できる要素が何にもないな、9代目。

 

「……原作か……」

 

 ――原作?

 

 目頭を抑え、小さく呟きが聞こえたが、直ぐにレオさんはこちらに向き直る。

 

「その上、ツナくんはボンゴレの関係者であることを何一つ聞いてないのに、いきなりマフィア継ぐように言われて、後継者争いに巻き込まれて、一切なんの説明もされず、家光さんは虹の戦いでぶん殴ってきたあげく、奈々さんも巻き添えにしたわけですか」

 

 …………………あれ、こういわれてみると。

 

「ねえ、獄寺くん。

 うちの父親ってもしかして最低?」

「……えっと、あのⅩ代目、その、うちの親の方が酷いッスから大丈夫ですよ!!」

「まあ、ツナそのなんだ。元気だせ」

「極限頑張れ!!」

「まあ、駄目なのは確かですよね」

「駄目過ぎるんじゃない」

「……ボス元気だして」

「しょうもない奴なことは確かみたいぴょん」

「……ダメ親……」

 

 みんなの反応に虚しさを覚える。

 ……なんか、腹立ってきた。

 

「本当に二人ともどうしようもない父親ですね」

 

 不快そうに言い捨てるレオさん。

 心なしか、笑顔なのに米神の辺りがぴくぴくしていませんか。

 

「だいたい、孫が欲しいというよりも先に、坊ちゃんの信頼を回復することが先じゃないですか。

 見合いなんて馬鹿なことを言う前に、自分がすべきことをすることでしょう」

「「「「「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 思わず皆で拍手する。

 俺達の感動がわかってくれるだろうか。

 そう! その通りなんだよ!!

 一番やらなきゃいけないことが先にあるでしょ、Ⅸ代目!!

 

「ほんっと、その通りなんだあ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」

「そうねえ、まずはⅨ代目がボスとの信頼を回復してもらうのが先よねえ」

「あの状態で仮に孫が出来ても、見せてもらえるのか……?」

「ほーんと、王子たちが悩む必要ないじゃん」

「国家予算並みの報酬があっても、根本の解決をしない限り無理だね」

 

 ……うん。

 もうこれは俺達が考えてどうにか出来ることじゃないな。

 後は、Ⅸ代目に努力してもらおう。

 

 結論が出た途端、バーン!と音を立てて、ドアが開かれる。

 

「よおっ! ツっくん来てるって!?」

「おお、皆ここにおったのか。

 守備はどうかね?」

 

 父さんとⅨ代目が現れた!!

 加えて後ろから守護者さんたちも一緒に入ってくる。

 

 思わず全員の視線が微妙なものになる。

 それに気付いたのか、首を傾げている二人に――

 

「Ⅸ代目。家光さん」

 

 静かな――静かな声だった。

 

 掛けられた声の方に二人が振り向く。

 美貌の女性の緑色の瞳が鋭い光を帯びている。

 

「君は……」

「……誰かな?」

 

 見知らぬ美女に向けられた視線に混じった怒りの波動に、警戒しているようだが、俺達が何も言わないので、困惑の方が大きいのだろう。

 

「そこに座りなさい」

「「は?」」

「正座しなさい。

 このマダオども!」

「「はい」」

 

 重ねて命じられた言葉にボンゴレⅨ世と特務長の二人が正座する。

 うわ、すごい。

 というか、マダオって。

 

「――まるで駄目な親父。

 略してマダオよ」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「ああ! なるほど!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 何がなんだかわからない顔をしている二人に対して、にっこりとレオさんが微笑んだ。

 ただ、彼女を取り巻くオーラは怒りを隠すことはしていない。

 その迫力に、父さんとⅨ代目の顔に滝のような汗が流れだす。

 

「お二人とも、これまでの子供に対しての行い聞かせてもらいました」

「え?」

「え?」

 

「ふざけんな! このマダオどもっ!!」

 

 笑顔を一転させ、レオさんが怒りを叩きつけると、ボンゴレのトップ二人がビクっ!と震える。

 そんな縋るような目で見られても駄目だからね。

 ザンザスも起き上がって、この光景を信じられないものをみるような目をして見ている。

 

「Ⅸ代目!」

「はい!」

 

 母親に起こられたような子供のように、びくびくしながら返事する。

 実際、レオさんは悪いことをした子供を叱る母親みたいだ。

  

「いいですか?

 孫が欲しいとか言う前にまず、今までのザンザス坊ちゃんの信頼を完全に回復する方が先ですよ!

 今まで、さんざん坊ちゃんのことを放っておいて、それでいて見合いして孫の顔だけみたいなんて舐めてんですか!!」

「……で、でも……どうすればよいのか……」

「そんなに難しいことじゃありません。

 まずは誠実に坊ちゃんと向き合うこと。これが一番大事なところです」

「じゃ、じゃが……」

 

 縋るように、Ⅸ代目がザンザスに視線を遣れば、容赦なく息子はそっぽを向く。

 ガーン、と絶望の音が聞こえた気がする。

 

「だいたい守護者の皆さんも同罪ですからね!」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

 何がなんだか分からず、状況をみていた守護者さんたちも自分達に飛び火するとは思っていなかったのか、焦りの表情を見せる。

 更にレオさんは畳みかける。

 

「Ⅸ代目とザンザス坊ちゃんの事情は貴方たちも知っていたのでしょう?

 それならば、こんな状況になる前にお互いが歩み寄れるように、もっと仕事だけでなく、そちらのフォローもするべきでしょうが!

 ガナッシュさんとビスコンティさん以外はちゃんと妻子孫持ちなんだから!

 この親子がどんだけぎすぎすしてるか、わかってたんでしょうがっっ!!!

 少なくとも親としては、Ⅸ代目より実績があるんだから、どうすればよいのか進言するとか、親子で過ごす時間を増やすとか、秘書も兼ねてるんだけそういう時間も確保するとか出来なかったんですか!?」

「「「「「うぐっ!!」」」」」

 

 弾丸のごとく繰り出されたレオさんの正論に、守護者さんたちが倒れた。

 

 うっわ。

 すっごい。

 思えば、守護者さんたちの事情とか知らなかったけど、確かに家族がいたんなら、このⅨ代目とザンザスの親子関係が最悪なことぐらいわかっててもいいよなあ。

 確かにもっと時間を作るとかできてもいい筈だよな。

 

 俺達が感心していると、レオさんの視線が父さんに向かう。

 

「家光さん!」

「はいっ!」

 

 この状況に驚愕してた父さんが、自分に矛先を向けられて、一瞬で背筋を伸ばす。

 

「貴方も貴方です!

 息子に星になったとか、世界の交通整理をしていたとかそんなふざけたことで誤魔化していたくせに、中学生になった息子にいきなりマフィアを継げとかいったい何を考えているんですか!?

 しかも、なんの事情も知らせなかったですって!?

 ふざけないでください!!

 父親である貴方が、事情を一から息子に説明しなくてどうするんですか!?

 何もかもはぐらかしてなし崩し的に、継ぐことが出来るような世界ではないことも貴方は良く知っていた筈でしょう!?

 全てを告白して、その上で息子にお下座して頼みこむぐらいしなくてどうするんですか!?

 このマダオどもがっ!!!!」

「「うぐぅっ!!!」」

 

 父さんとⅨ代目が正論という名の弾丸に撃ち抜かれた。

 

 ……思えば初めてじゃないだろうか。

 俺達の事情をしっかりしって、その上で常識的な目線で怒った人って。

 

 レオさんが溜息を吐くと、懐から何かを取り出す。

 

「クロッカンさん。

 これをプロジェクターに映してください」

 

 何かを手渡され、守護者の一人であるクロッカンさんが言われるままに、机の横の穴に差し込む。

 本来ならば、もっと警戒しなくてはならないのだろうが、俺達やⅨ代目が何も言わないため、言われた通りに動いていく。

 と、同時に部屋が暗くなる。

 

「いいですかⅨ代目。

 貴方が坊ちゃんとの時間を過ごさなかったことで、何を失ったのか見せてあげます」

「え――?」

 

 同時にパッとプロジェクターにどこかのお屋敷の一部が映し出される。

 これは、前に見た本邸の玄関ホール?

 

『坊ちゃん、まだお父様は帰ってきませんよ』

『別に待ってねえ』

 

 そこに映るのは美少女と生意気そうな少年――つまり、レオさんとザンザスの小さい頃だった。

 わあ、二人とも小さい時があったんだなあ。

 

「……かわいい……」

「……ボスにも子供の頃ってあっただな……」

「二人とも可愛いわねえ」

「ああ、俺の知らないボスが!」

「うっわ、ザンザスもちっちゃいころあったんだな」

 

 皆が口々に感想を述べるが、Ⅸ代目は食い入るようにその映像を見ている。

 そして、ザンザスも。

 

『坊ちゃん、お父様が帰ってくるまでここで待つよりも、お部屋で待ちませんか?』

『………………』

 

 頑なにその場を動かないザンザスに、執事さんが(前、本邸で見た人)から渡された毛布で包むレオさん。

 

『坊ちゃんは本当にお父様が大好きですねえ』

『そんなんじゃねえ』

 

 ぷい、と横を向くザンザス。

 そんなザンザスをレオさんが優しく撫でる。

 と、どこかにいっていた執事さんが戻ってくる。

 

『お二人とも、Ⅸ代目がお帰りになったようです』

 

 ぱっと顔を輝かせるザンザス。

 

 ――えええ!?

 

『あら、思ったよりも早かったですね』

『おや――二人ともまだ起きていたのかね?』

 

 今よりも随分若いⅨ代目が姿を表す。

 

『おお、ザンザス!

 もしかして儂を待っていてくれたのかね!?』

 

 緩む顔を必死になって抑え、ザンザスを抱き上げるⅨ代目。

 

 ――えーーーーーーー!!

 

『坊ちゃん、ずっと9代目が帰ってくるのを待っていたんですよ』

『そうか――ありがとうザンザス』

『そんなんじゃねえ』

 

 ちょっとだけ赤くなったザンザスだが、Ⅸ代目にポンポンと背中を労わるように叩かれ、眠そうな目を瞬かせる。

 

『……親父……』

『ん? なんだね?』

『――おかえり』

 

 そう告げると幼いザンザスは眠ってしまう。

 まるでその腕の中がとても安心できる場所だと知っているように。

 

『うちの息子はなんて可愛いんじゃあ』

 

 口元を抑えて、プルプルするⅨ代目が感極まったように小声で呟く。

 

『レオちゃん、今日一緒にねてもいいかなあ?』

『いいんじゃないですか?』

『レオちゃんも一緒にねよう!!』

『仕方ないですね』

 

 話しながら、執事と守護者を伴い、廊下の奥に消えていく彼らの後ろ姿を最期に映し、映像は終わった。

 

 あまりにも衝撃的な映像に、誰もが声が出なかった。

 それをぶった切ったのはやっぱりレオさんだった。

 

「どうです?

 うちの坊ちゃんと9代目は?」

 

 食い入るように見ていたⅨ代目が我に返り、絶望したように手を床に着く。

 

「なんじゃこれはあああああああああああっっっ!?

 何故儂はこうならなかったんじゃあああああああっっっ!?!?」

「坊ちゃんと過ごす時間をさぼったからです」

「うわあああああああああああああああんんんんんんんんっっっ!!!」

 

 容赦ないレオさんの正論に、ひっくり返って手足をジタバタさせて駄々をこねる。

 癇癪をおこした子供みたいに。

 皆が引いている中で、レオさんだけは平然としている。

 

「あら、やっとうちの9代目と同じになりましたね」

「これ通常運転なんですか!?」

「ええ、他のことではこうはなりませんが、坊ちゃん関連のことではすぐに駄々こねますよ。うちの9代目は」

 

 えー、これ通常運転なんだ。

 皆が呆れる中で、ザンザスだけは今みた映像が信じられないのか、呆然としていた。

 コイツがそこまでなるなんて、本当にああいう交流ってなんもなかったんだろうなあ。

 

「ザンザス!!

 儂が悪かったから、やり直そう!!

 ヴェルデ博士に若返りの薬を作ってもらって、やり直そう!!!」

「ふざけんなっ!!」

 

 飛び起き、ザンザスに縋るⅨ代目。

 それを引き剥がそうとするザンザス。

 

「……あの、ツナ……」

 

 父さんがいつの間にか俺の傍に寄ってきていた。

 ものすごく気まずそうな顔で。

 

「……俺も色々父さんには言いたいことがあるけど、とりあえずこっちのことが終わってからね」

「……はい……」

 

 うなだれる父さん。

 今回は俺も色々指摘されたおかげで、父さんに山ほど言いたいことが出来た。

 しかし、今このカオスな状況でうちの方の親子喧嘩をしている場合ではない。

 守護者さんはオロオロしてるし、皆はさっきの映像が衝撃的過ぎて、もう一度見直しているし、ザンザスとⅨ代目はまだ収集ついてないし……

 

 レオさんだけはのんびりとこの状況を見ている。

 

「……なあ、ツナ。

 あの子は一体誰なんだ?

 ボンゴレの事情に詳しいみたいだけど、俺はあんな子みたことないぞ?」

「そりゃないよ。俺達だって今日初めて会った人だし」

「初めて!?

 の割には皆あの子に対して信頼がないか?」

 

 まあ、あれだけ俺達の微妙な思いをあっさり形にしてくれたからね。

 

「レオさんは平行世界のボンゴレから来た人なんだよ。

 そんでザンザスの家庭教師を務めた人なんだってさ」

「平行世界?

 そんなことがあり得――るか。

 あんなバズーカがあるくらいだし」

 

 まあ、確かに10年バズーカなんてあるくらいだしね。

 

「まったく。

 坊ちゃんという天使を授かったくせに、歩み寄ろうとしなったなんて信じられませんね」

 

 ――ザンザスが天使って。

 俺にとって天使ってあんまいいイメージないなあ。

 何故かというと――

 

「僕のこと呼んだ?」

「ちょ、ちょっと白蘭さん!

 勝手に入っちゃ駄目ですよ!!」

 

 そう、この堕天使のせいで俺の天使のイメージは最悪である。

 

 




まだ、もうちょっと続きます。

次はこれからの話のネタバレになります。

ニャンザス様も出てきます。

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