暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

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まだ説明回です。
やっとサブキャラでてきます。

評価ありがとうございます。



まだまだ続く説明回

 私を買ってほしいといったときの彼らの顔は、なかなかに見物でした。

 当たり前ですが、性的な意味ではありませんよ。

 この『炎』の価値を買ってほしいという意味ですからね。

 もちろん、彼らもそれはわかっていたようです。

 詳しい話をしてほしいと言われ、車の中で(目茶苦茶豪華でした)事情を話し、ボンゴレの下部組織であるボレッリファミリーがこの孤児院を好き勝手していることと、私のような見目が良い子供は売り飛ばされているらしいことを理解すると、彼らは怒りの表情を浮かべていました。

 ……どうやら、彼らは本当に『白』のマフィアのようです。

 私の前の世界ではマフィアには『白』などなく『黒』一色という話でした。

 本当に世界が違っているのだと、しみじみ感じていると、9代目が守護者の皆さんに指示を出し、彼じきじきにボレッリファミリーのボスに電話をかけています。

 感情を抑えた声ですが、多分に怒りを含んでいるので、電話越しの相手の怯える顔がみえるようです。

 自業自得過ぎて、同情は出来ませんが。

 

「エレオノーラ待たせたね」

「いえ、ボレッリファミリーのボスはどうでしたか?」

 

 私が訊ねると、彼はうっすらと笑みを浮かべ、

 

「部下がやったことだと、しらを切っていてね。

 情けないことこの上ないが、私としても部下に当たる彼にいい様にされてしまったから人のことは言えないか」

「……小規模の組織の長とボンゴレのような大規模な組織の長では、比べるのは酷だと思いますよ。

 全ての組織に目を光らせるのは難しいと思いますし。

 それにこんな子供の話を聞いて、すぐに実行に移してくれる方がボンゴレのボスだというのは私たちとしては有難いことだと思います」

  

 労りと謝辞を込めた私の言葉に彼は驚いたように、目を瞬き、表情を和らげました。

 

「ありがとう。

 そういってもらえると私としても嬉しいよ。

 しかしまるで、君の物言いは大人のようだな」

 

 はい。実はあなたより大人なんです。

 ――などと、言えるわけがありませんので、曖昧な笑みで誤魔化しました。

 ちょうどそのとき守護者の一人――コヨーテさんが、戻ってきて孤児院にいるチンピラ2人とガマ神父を捕らえたと報告してきました。

 これで、一安心です。

 あとは、私の問題になります。

 コヨーテさんが行ってしまうと、9代目が私に向き直ります。

 

「それで、エレオノーラ。

 君を買ってほしいということは、君はその炎のことを知っているんだね」

「……はい。詳しくは知りませんが、これがボンゴレの力の象徴であることと、大変な力を秘めていることはわかっています」

 

 私がこの炎が出るきっかけであった母の死と、私がこの世から消し去ってしまった男の話をすると、彼は驚愕に目を見開きました。

 

「この炎の力は強大です。

 ボンゴレ以外の組織がこの力を持つものを知れば、どんな手を使ってでも手に入れようとするでしょう。

 私自身、この炎の力を持っている以上、平穏な人生を送れるとは思えません。

 すでに私は一人の人間の命を奪っているのですから」

 

 覚悟を決めて言ったはずの言葉は、思った以上に私の心に重く響きました。

 固く握りしめた私の手を、大きく暖かな手が包み込みます。

 

「……君はその年で色々なものを背負ってしまったんだね。

 大丈夫だ。これからは君の重荷は私が請け負おう。

 少なくとも君が大人になるまでは、君をボンゴレの保護下に置こう。

 それで、いいかい?」

 

 真摯に語り掛ける彼に、私もようやく笑みを浮かべるだけの余裕ができ、その手を握り返しました。

 

「はい、よろしくお願いします。9代目」

「いや、それはよろしくないな」

「はい?」

 

 茶目っ気をたっぷり含んだ悪戯っぽい目が、私を見ていました。

 なんのことでしょう?

 

「9代目なんて味気ないから、『叔父さま』と呼んでくれると嬉しいな」

 

 ウインク一つでそう返され、私は苦笑して、言い直します。

 

「はい。よろしくお願いします。叔父さま」

 

 相好を崩す彼に私はこっそり、胸中で呟きます。

 

 

 ――あなたは私の子供とほぼ変わらない年なんですけどね。

 

 

 その日の夜は大変な騒ぎでした。

 何しろ、元凶を処分できただけではなく、巨大組織のボスがじきじきにこんな小さな孤児院に現れたのですから。

 9代目――ではなく、叔父さまが子供たちに謝罪とこれからはこんなことがないことを約束し、私をボンゴレに引き取ると話すと、皆が、特にあの3人は驚いていました。

 特にチェルソさんはどこか落ち着かなそうな顔で私を見ていました。

 いつも冷静な彼にしては珍しいことですが、また遊びにくることを約束するとずっと握りしめていた手をようやく離してくれました。

 ……なんだったんでしょう?

 守護者の皆さんや叔父さまが妙な笑顔を浮かべていたのが、気になるといえば気になりますが。

 それと、忘れてはいけないのがカルロ青年です。

 こちらは、今日は夜も遅いので翌日、話に行くことになりました。

 私はその日はボンゴレの本邸に連れていかれ、適当な部屋を一室与えられ、ぐっすり眠りにつくことが出来ました。

 次の日は朝食をたっぷりと摂って(素晴らしい!!)、執事さんが見立ててくれた服を着てカルロ青年に事情を話しに行きました。

一緒についてきてくれたのはガナッシュさんでした。

9代目はとてもお忙しいそうなので。

 彼もまた驚いていましたが、私を危ない目に合わせないでくれと、何度も頼み込む姿にやっぱり母の選択は間違っていなかったと改めて思いました。

 父になるはずだった青年に別れを告げ、車内に戻るとガナッシュさんが口を開きます。

 

「そういえば、エレオノーラ。

 君のお母さんの実家がわかったぞ」

「……そうですか」

 

 私の気のない返事に彼は首を傾げています。

 あの温厚な母が2度と戻らないと断言していた家なんて、たぶん碌なもんじゃないと思うんですよね。

 まあ、一応、母の死を伝えるために元貴族で今は会社経営をしているという母の実家に行ってみたのですが、結論を申し上げますと――最悪でした。

 私が母の娘だということを告げ、執事に連れてこられた応接室でしばらくガナッシュさんと2人で待っていると、一人の金髪碧眼の美形ですが横柄そうな40代ぐらいの男性と20代ぐらいの軽薄そうな青年が、入ってきました。

 私が母の娘だと名乗ると、不快そうに鼻を鳴らし、私の目の前で愛人の娘の分際で碌でもない女だったと異母妹のことを罵り、私を政略結婚の道具にはちょうどいいだろうと言い捨てました。

 その間に息子らしい青年はへらへらとこちらを見下すように笑っているだけでした。

 ……本当に最悪以外の何物でもありません。

 母が帰りたがらない理由がわかりすぎるぐらいです。

 ですが、私よりもっと腹に据えかねていた人物がいました。

 私の叔父にあたる男は(認めませんけど)、ガナッシュさんに向かって、もう帰っていいと偉そうに、手を振ります。

 が、その手を彼は無造作に掴みました。

 不快そうな顔をした男が、彼の表情をみて固まりました。

 静かな怒気を孕んだ顔のまま、彼は自分がリングを見せ、ボンゴレの守護者であることを告げました。

 血の気が下がるっていうのはああいうことを言うんですねえ。

 あからさまに狼狽える二人に、私をボンゴレが引き取ったことと2度と私にかかわらせないことと、ボンゴレは何があっても彼らと取引することはないことを言い捨て、私を連れて彼はこの醜悪な家から出ていきました。

 車内で何度も済まないと謝る彼に、私の方が困ってしまいました。

 別に彼が悪いわけではないのですが。

 確かに私が見た目通り子供だったら、きっと半端じゃなく傷ついたでしょうが。

 幸いと言っていいのか、私の中身は成熟しており、予備知識を与えられていたため、傷つくことはありませんでした。

 ――母の悪口を言ったことに対しては許しませんけど。

 私を庇ってくれたことと、二度と関わらなくてすむことは嬉しかったので、素直にお礼をいったら、やっとほっとしてくれたようです。

 まあ、そんなこんなで私は正式にボンゴレの所属になりました。

 あと、後見に立ってくれたのはガナッシュさんでした。

 最初は9代目がなると言ってくれたのですが、流石にそれはお断りしました。

9代目が炎を操る子供の後見人になった、なんて周囲に知れたら、ボンゴレボス候補なんていうものにいつの間にかなっている可能性もあるかもしれません!

そんな死亡フラグをダース単位で立てる地位なんて欲しくないですから!!

 ついでに私は6代目の血を引いているらしい、とのことでした。

なんでもこの人は最初の恋人と結婚するはずだったのが、お兄様がなくなりボンゴレを継ぐことが正式に決まって、その時すでに身籠っていた恋人が身を引いて消えてしまったとのことでした。

 その方が私のひいひいお婆さんに当たるとかなんとか。

6代目は彼女を探したそうですが、その行方を掴めても、ボンゴレの争いに巻き込むことを恐れ、結局彼女とよりを戻すことはなかったようです。

それはともかく私は本邸の執事さん、メイドさん(皆、40代以上)の仕事を手伝ったり、9代目の秘書の仕事を覚えたり、孤児院のボランティアをしたり、家庭教師の元で勉強するなど、充実した生活を送っていました。

皆さんとても優しくしてくれて、守護者の皆さんや叔父さまも忙しい中で必ず顔を見に来てくださって、とても有難いのですが、困ったことが一つありました。

どうも、守護者の皆さんや9代目が代わる代わるプレゼントしてくれる綺麗な女の子らしい服を着て街を歩いていると必ずと言っていいほど――変態と遭遇するのです。

 

……美人でもいいことないですね……

 

 イタリア人というとなんとなく明るいナンパを想像するのですが(それもいますが)、それとは正反対の

『君とボクは結ばれる運命なんだ』とか。

『君の美しさをずっと閉じ込めていたい』とか。

『君を私の人形にしてあげよう』とか。

そういう特殊性癖を持っている人たちに必ずと言っていいほど追い掛け回されるため、私は前から考えていことを叔父さまに告げました。

 

――強くなりたい、と。

 

 これは私の目的を達成するためにもずっと考えていたことでもあるのです。

 一度、ボンゴレの関係者ということで誘拐されかけたこともありましたし。

 9代目達も納得してくれました。

 その教師役の人と今日お会いすることが出来るということで、落ち着いた色合いの高価な家具の揃った応接室で、座り心地の良いソファーに大人しく座っていると、ドアが開いて大柄な青年が入ってきました。

 金に近い茶の髪に、日に焼けた肌を黒のスーツに包んだ彼は私を見て、その茶目っ気たっぷりな琥珀な瞳を軽く見開きました。

 

「――君がエレオノーラかい?」

 

 問われ、私は立ち上がると日本式にお辞儀をしてから顔を上げます。

 

「はい。エレオノーラと申します。レオとお呼びださい。

あなたが私の先生ですか?」

 

 ちなみに私の愛称はレオになりました。

 無理やりなのはわかっていますが、なんか一番しっくりきたんですよね、コレ。

 彼は琥珀の瞳を眇め、

 

「いや、俺は違うな。

 俺は沢田家光――チェデフ、ボンゴレの門外顧問に配属されている。

 よろしくな」

「よろしくお願い致します」

 

 沢田家光――いうまでもなく主人公、沢田綱吉の父親です。

 ですが、彼は思った以上に若いため、結婚もまだなのではないのでしょうか?

 彼の年齢が分かれば、この時代が『原作』からどれだけ離れているのかが分かりそうです。

 

「失礼ですが、家光さんはおいくつですか?」

「おいおい、家光さんなんて堅苦しいな。

 気軽に『お兄ちゃん♡』って呼んでくれてもいいんだぜ?」

 

 ……その時の私の気持ちをなんと表現すればいいのでしょうか?

 生温―い気分で、なんと返せばいいか考えます。

 ええと――

 

「……お兄様、でよろしいでしょうか?」

「んー、それもいいな!

 それで俺の年だっけ。ぴっちぴちの15歳だぜ!」

「15歳……」

 

 確か、彼が『原作』に出てきたときの年齢が38歳だから、ここは『原作』より、23年離れているということですね。

 ……つまり、まだ原作の主要キャラたちは誰も生まれてきていないか、ボンゴレに関わっていないということですか。

 ……どうしましょう……?

 

「ん? どうした?」

「あ、いえ、なんでもありません」

 

 私の浮かない表情が気になったのか、顔を近づけてくる彼に慌てて首を振ります。

 まあ、ともかく今は決意したことをやり遂げるべきです。

 

「ところで、私の先生があなた――じゃなくてお兄様でないなら、誰がなるんでしょうか?」

「あー、そろそろ来るはずだぜ。時間には厳しいヤツだからな」

 

 さて、誰が私の担当になるのでしょうか?

 コンコン、とドアを叩く音――やけに低いところから聞こえた気がするのですが……

 

「失礼する」

「お。来たな。

 エレオノーラ、紹介しよう。

 うちの門外顧問のエース、ラル=ミルチだ!」

「…………」

「ラル=ミルチだ。お前の教官となる。

 私のことは教官と呼べ……どうした?」

「おーい、レオ?」

 

 固まる私を、家光さんとラルが、あのラル=ミルチが覗き込みます。

 私が『REBORN!』のキャラで好きだったラルが!

 だから、叫んでしまったのは仕方がないのです!

 

「教官! 可愛いです!」

「なっ! かわい、違うそんなことはどうでもいい!」

「教官! 抱きしめてもいいですか!?」

「だから、そんなことはどうでも――何!?」

 

 私の腕は教官の避けようとしたスピードを上回り、彼女を腕に閉じ込めます。

 

「かわいー! かわいーです!! 教官!!!」

「かわっ! 違う! 放せ!!」

「可愛い、可愛い、カワイイーっっ!!!」

「ちょ、家光なんとかしろっ!!」

「ははっ! 良かったな、仲良くなれそうで」

 

 本能の赴くまま、しばらく抱きしめ、ほっぺスリスリしてから満足してようやく離すと、彼女は絨毯に手を付き、愕然として何か呟いています。

 

「……なり損ないとはいえ、アルコバレーノの俺のスピードを上回るだと……!?」

 

 ――萌えは全てを凌駕するのです。

 

「じゃあ、あとは二人で仲良くやれよ~」

「はい、ありがとうございました」

「ちょっと待て、家み――」

 

 無情にも重厚なドアが彼女の鼻先でぴしゃりと音を立てて閉まりました。

 行き場のない手を毛足の長い絨毯が敷かれた床に叩きつけると、彼女は小さな体でこちらに向き直ります。

 ああ! 可愛い!!

 私が目を輝かせているのを見て、若干居心地悪そうなラルが口を開きます。

 腕を組み、胸を張って立つ彼女は子供が威張っているのとは違い、威厳がありますが――その仕草さえ、やっぱり可愛いのです。

 

「それでお前は強くなりたいということだが、どのぐらい強くなりたいんだ?」

 

 漸く気を取り直したらしく、こちらを鋭い眼差しでラルが見つめてきます。

 

「どのくらいとは?」

「例えば、コイツを倒したいとか、なんか具体的なものがあるならその方が俺もやりやすいからな」

 

 そういわれて考えます。

 どのくらいの強さですか……。

 できれば――

 

「――自分の目標を叶えるくらいの強さ、でしょうか?」

「目標?」

 

 小さな眉がピンと跳ね上がります。

 私は頷き、ゴーグルが外されて晒し出された素顔を見つめます。

 ――かわいい。それはともかく。

 

「ええ。できるだけ強く、次はどんな奴もぶっとばせるように。

 守られるではダメなんです。

 私は――守れるようになりたい!!」

 

 その私の宣言に一瞬、彼女は目を見開き――ニヤリと笑いました。

 

「いい覚悟だ。

 改めて、オマエの教官のラル=ミルチだ」

「エレオノーラと申します。これからよろしくお願いします、教官」

 

 差し出された小さな手を握り返し、私も答えます。

 これは私の覚悟。

 あの時、母を守れなかった悔しさなど、もう二度と繰り返さない。

 その覚悟をする。

 

「よし! じゃあ早速始めるぞ!」

「はい! 教官!!」

 

 ドアを乱暴に開け、壁に叩きつける教官を見て、私もこのぐらい強くなりたい!と改めて思いました。

 ……ちょっと修理代大変そうですけど……。

 

 

 

 




ちょっと、長くなりました。
次は主要キャラ出てくるはずです。

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