暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

29 / 32
お久しぶりです。
クリスマスに投稿しようと思って出来ませんでした。

ちょっとだけ、ほっこりするような話を書こうと思ったのに、なぜかこうなりました。
小さいザンザス坊ちゃんとレオの昔のお話です。


ちょっと昔のお話
クリスマスの奇跡


 

 

 

「坊ちゃん、今日はクリスマスですね」

「そんなの今日あれだけ騒いだから知ってるが、なんだ改まって?」

 

 そう。今日はクリスマスでした。

 坊ちゃんに親バカな正体がばれた9代目が、今年から『クリスマスは家で家族と過ごすものにするのだ!』という鶴の一声により、ファミリーがそれぞれクリスマスを過ごすことになった初めての年でもあります。

 坊ちゃんにとっては二度目のクリスマスですが、お父様と一緒に過ごせてとても楽しそうでした。

 ……9代目はその100倍くらい楽しそうでしたが。

 まあ、それはともかく、実はクリスマスの本番はこれからなのです。

 既にパジャマに着替えて(黒猫模様にした私はエライ)寝ようとしている坊ちゃんに声を掛けます。

 

「坊ちゃん、サンタクロースはご存知ですか?」

「サンタ?

 聖ニコラウスの由来のやつか?

 それとも公認サンタクロースのことか?」

「坊ちゃん、正しいけど違います」

「はあ?」

 

 何言ってんだ、コイツ?という胡乱げな眼差しを向ける坊ちゃん。

 坊ちゃんはまだことの重大さがわかっていないようです。

 

「正しいけど、子供としてはその答えは間違っているのです!!」

「は? 子供としてだと?」

「ええ!

 具体的に言うと、昔坊ちゃんと同じように答えてしまって、サンタクロースの格好をして喜ばせようとしていた叔父さま達の夢を壊してしまった幼い私のように!!」

「オマエもか」

 

 グッと拳を握りしめ、力説する私に呆れたように突っ込む坊ちゃん。

 

「何他人事みたいな顔してるんですか、坊ちゃん!!」

「他人事だろーが。

 俺になんの関係があるんだ?」

 

 私はやれやれと首を振ります。

 坊ちゃんはご自分の役割をまだわかっていないようです。

 即ち――

 

「今年こそあざと可愛く坊ちゃんは叔父さまのために『わあーい、サンタさんだ!!』と無邪気な子供を演じなくてはならないのです!!!」

「なんでだよ!?」

「何言ってるのですか、坊ちゃん。

 この日のためにボンゴレがヴェルデ博士のスポンサーになって、空飛ぶトナカイを作ってもらったぐらいに気合が入っているんですから、坊ちゃんは無邪気な子供にならなくてはならないのですよ!!」

「決定事項なのかよ!?」

「その通りです!

 これから、サンタクロースとして子供の夢を守ろうとする大人の夢を坊ちゃんは守らなくてはならないのですよ!!」

「既に夢なくなってんだろうが、ドカス!!」

「では坊ちゃん、今から練習です!

 今日はお昼寝いっぱいしたからまだ、眠くならないでしょう?」

「このためだったのかよ!!」

 

 ふふ、今日はたっぷり、3時間寝たから12時までは起きていられるはずです。

 

「では坊ちゃん『わあい! サンタさんだあ!!』と元気よく言ってみてください!!」

「誰が言うか、ドカス!!」 

 

 

  ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 雪は残念ながら降っていませんが、真夜中に程近い時間帯にシャンシャンと鈴の音が空から聞こえてきました。

 あれからなんとか『わあい、サンタさんだ(棒読み)』は言ってくれるように坊ちゃんと9代目が扮するサンタクロースを待っていましたが、ようやく来てくれたようです。

『さっさと来い』と身体全体で訴えている坊ちゃんも、文句を言いつつも待っていてくれました。

 なんだかんだ言って、坊ちゃんはお父様に甘いのです。

 窓に大きな影が映ったのを見て、私と坊ちゃんは窓を押し開け、そこに浮かぶ地獄の使者かと思った巨大生物が引くソリに乗った9代目サンタを見て――

 

「メリークリスマス!! 良い子たち!!!」

「「………………………」」

 

 同時に窓を閉めました。

 

「え? ちょっとどうしたのかな?」

 

 窓をトントンと叩き続ける9代目を無視し、無言のままとある番号に電話を掛けます。

 

「……なんだ、レオ。私は今忙しい」

「忙しいじゃありませんよ、ヴェルデ博士!!

 アレは何ですか!?」

「アレ?」

「アレですよ!!

 あの9代目が載っている巨大生物ですよ!!」

 

 私の叫びに電話の向こうでしばし、沈黙があり、『ああ』と納得がいったかのように平然と――

 

「トナカイのことか」

「あんなのトナカイじゃありませんよ!!

 少なくとも私の知識では、大きな角に時折雷のような光を纏わせ、百獣の王でも簡単に踏みつぶせそうな凶悪な黒光りするような蹄を持って、既に千人くらいひき殺しています! みたいな目つきをした生物をトナカイとは言いません!!!」

 

 私の訴えにまた暫く沈黙が落ち――

 

「……戦闘用のトナカイではなかったのか?」

「何でですか!?」

 

 戦闘用のトナカイって何!?

 

「なに。

 ボンゴレ9代目が欲しいという代物だから、てっきり光の速さで空も飛べ、凶悪な刺客も踏みつぶすような戦闘用のトナカイが欲しいかと思ってな」

 

 なんでそうなる!!

 私は半眼で抗議します。

 

「今日が何日か知ってますか!?

 クリスマスですよ!!

 クリスマスと言ったら、子供にサンタとプレゼントを運んでくる夢のある存在にきまってるでしょうが!!

 何考えているんですか!?」

「……名前はルドルフだが」

「名前だけ同じでも意味ありませんよ!!」

 

 っていうか、アレ絶対『瑠怒流怖』とかそんな感じの生き物ですよ!!!

 

「ふむ。てっきり戦闘用のものが欲しいのかと思ってな。

 ちょうど、試作の『死ぬ気の炎』で動く兵器を創っていたところだったので、スポンサー用に金と時間を惜しまず創ったものだったのだが、気に食わないなら返品も効くが」

「……もういいです……」

 

 やっぱりこの人もなんかずれてる気がする。

 ……もう、このまま合わせるしかないか。

 電話を切って、死んだ目になっている坊ちゃんの肩を叩き、無言のまま首を振るとそれでも坊ちゃんは小さく頷いてくれました。

 

「……レオ。開けるぞ」

「……ええ。坊ちゃん」

 

 覚悟を決めて、未だに叩かれている窓を二人で開け放ちます。

 

「おお!!

 メリークリスマス子供たち!!」

「……メリークリスマス。サンタクロースが来てくれるなんて思いませんでしたわ」

「……わあい、サンタさんだ……」

 

 ひたすらテンションの高い9代――ではなく、サンタクロースと対照的に私たちのテンションは0からマイナスに振り切れそうでした。

 もう台詞が平坦になってしまっても仕方がないことなんですよ。

 むしろ、頑張った方です。

 それでも喜ぶ(?)坊ちゃんに、サンタクロースは相好を崩します。

 

「そうか、嬉しいかザンザス。

 良い子が喜んでくれて、儂も嬉しいよ」

 

 大きな手で坊ちゃんを優しく撫でるサンタクロースに坊ちゃんの顔もほんの少し緩みます。

 ソリから降りて、坊ちゃんの前にしゃがみこむ9――じゃない、サンタクロース。

 

「いつも良い子な二人にプレゼントを持ってきたのだよ。

 受け取ってくれるかい?」

「……仕方ねえから、受け取ってやる……」

 

 ああ、仕方なさそうにしているけど、嬉しさを隠しきれてない坊ちゃんが可愛い!!

 叔父さま――もとい、サンタクロースも髭で覆われた顔をデレデレさせています。

 っていうか、サンタがスマホで写メってんじゃありません!

 夢をどこに持ってくつもりですか?

 そのとき、トナカイの瑠怒流怖が溜息とついたように見えました。

 鼻先で、主人の背中を突いて促しています。

 かなり、知能は高い設定なのでしょうか?

 

「おお、ルドルフすまんすまん。

 早速だが、二人にプレゼントだ。

 靴下はあるかね?」

「ええ、そこに用意しました」

 

 正確にはうちのメイド頭のアンナさんが編んでくれたのですが。

 大人の足が2本ぐらい入りそうな大きな靴下に、サンタさんは沢山のお菓子と、小さな包みをいれてくれました。

 あれ?

 思ったよりも小さいですね。

 9代目のことだから、世界中のおもちゃとか持ってくるのかと思っていましたが。

 

「さあ、明日の朝に開けてみておくれ」

「「ありがとう、サンタさん」」

 

 定型文通りに2人でお礼を言うと、ふ、とサンタさんの目元が真剣なものになります。

 

「……本当はこんなちっぽけなものではなく、『世界』をプレゼントしたかったのだが、まだ間に合わなくてなあ。

 そのうち、きっちりとリボンを掛けてプレゼントするから、待ってておくれ」

「……いらねえよ……」

 

 わー、何故かサンタクロースが最凶のマフィアのボスみたいな悪い顔してるー。

 何自分から、完全に正体ばらしてるのでしょうか、この人。

 ああ、坊ちゃんの目が遠くなってる。

 こんなブラックサンタよりも物騒なサンタクロース、夢も希望もないですよ。

 もう、せっかくほのぼのと今日を終わらせようとしたのに……。

 嘆息する私の目の端で何かが動きました。

 

「わっ! ルドルフ何をするんじゃ!?」

 

 見れば、瑠怒流怖が9代目の襟を加え、勢いをつけてソリに放り込んだところでした。

 爪で抉られたような3本の傷跡がついた左目が私達を見据えます。

 その人の頭蓋骨など容赦なく、ぐしゃぐしゃに出来そうな蹄が持ち上がられると、私と坊ちゃんの肩をそっと優しく叩き、「あ、待てルドルフ儂の話はまだ――」と叫ぶ9代目の載せ、空に走り去ります。

 最後に投げかけられた眼差しは、『強く生きろよ、子供たち』と語り掛けるような穏やかで優しいものでした。

 ヤダ、瑠怒流怖さんイケメン!!

 最初に、人を千人ぐらい引いたとか思ってごめんなさい!

 サンタクロースより、子供の夢を護るイケトナカイでした。

 

「……レオ。

 サンタクロースはともかくトナカイは子供に夢を運ぶ生き物なんだな」

「ええ、そうですね。

 トナカイがいれば、子供の夢は守られますね」

 

 私達はその姿が完全に見えなくなるまで、いつまでもいつまでも光の軌跡を残した夜空を見つめていたのでした。

 

 

 ――◇◇◇――◇◇◇――

 

 

 翌朝。

 随分と遅くに起きた私達は、ちょっぴりドキドキしながら、プレゼントの包みを開けたのですが―― 

 

「…………………………………」

「………………オイ……………」

 

 ……そこにはなんでも買える現実がたくさん詰まった『ブラックカード』が燦然と輝いていました…………。

 

「夢も希望もないじゃないですか!!!!?」

 

 翌年から私達が、サンタ禁止令を出したのは言うまでもありません。

 

 

 

 




実は守護者6人がトナカイの着ぐるみ(リアル)をきて、一緒に走ってくるということも考えたのですが、可哀想なのでクリスマスはお休みになりました。
瑠怒流怖さんはこわもてですがイケメンです!
そのうちまた、出てくるでしょう。
ここでは彼が実はボックス兵器の初代という設定です。

因みにイタリア語でクリスマスはBUON NATALE(ブオン・ナターレ)、サンタクロースはBABBO NATALE(バッボ・ナターレ)というそうです。
イタリアはキリスト教の国なので、熱心なキリスト教信者はクリスマスイブに教会に行ってミサに参加するそうです。
この二人はしないと思いますが。

次回はようやく彼が登場します。
何歳でしょうか?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。