暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

26 / 32
感想、評価ありがとうございます。
意外とテュールさんが人気なんでしょうか。

今回はついに『彼』を出してしまいました。



ついに降臨

 それはどこにでもある平和の午後に投げ込まれた異物でした。

 

「レオ、オマエ俺になにか隠してないか……?」

「……坊ちゃん……?」 

 

 ドアを開けるなり言い放たれた、その探るような坊ちゃんの一言に私は戦慄しました。

 まさか……アレがバレてしまったのでは……?

 静かすぎる視線が私に突き刺さり、それに触発されるように私はもう逃げられないと覚悟を決めたのでした。

 

「……坊ちゃん……」

「……おう」

「……なんで、なんで私が18歳になった記念に、R18のエロゲ買ったのしってるんですか!?」

「知らねえよそんなの!!

 つーか、知りたくなかったわっっ!! このドカス!!!」

 

 坊ちゃんに吠えられて、私は思いっきり動揺しました!

 そんな! 恥ずかしいの我慢して告白したのに!!

 

「ええええええええええええっっっ!?

 そんな誘導尋問なんて!!

 ひどいです! 坊ちゃん!!」

「ひどくねえよ!

 というか、そんなこと準備もなしに聞かされた俺の方がひどいに決まってんだろうがっっ!!!」

「ええ~~~だって~~」

 

<前世>

 ゲームに興味を持つ。

 ↓

 年齢制限のあるゲームだった。買うのはちょっと恥ずかしい。

 ↓

 仕事に就く。

 ↓

 お金があっても、暇がない。

 ↓

 そのうちやる気がなくなる。

 ↓

 色々あって、逝去。

 

<今世>

 前世ではやれなかったことをやりまくろう。

 ↓

 そういえば、昔は出来なかったゲームがある。

 ↓

 今は精神年齢も問題ない。

 ↓

 外見年齢達成! よしやろう!!←イマココ。

 

 うん。私の判断は間違っていない。

 前世もちなら、1回はやるよね。たぶん。

 

「やだ、坊ちゃん恥ずかしいです~~」

「俺のがよっぽど恥ずかしいわ!! このドカス!!」

「え~、じゃあ何のことですか?」

 

 思い当ることはありすぎるような、ないような。

 坊ちゃんは苦々しそうな顔をして、口を開きかけ――

 

「レオ、ただいまにゃ」

「あら、お帰りなさいませ。ニャンザス様」

「それだあああああっっ!!」

「え? どうかしましたか、坊ちゃん?」

 

 私が抱き上げたニャンザス様を指差して、怒鳴る坊ちゃん。

 やだ、びっくりするじゃないですか。

 

「なんにゃ?」

「なんだじゃねええっっ!!

 なんだそのマヌケな生き物はああああっっ!?」

「そんな! ニャンザス様はマヌケな生き物なんかじゃありませんっっ!」

「そうにゃ! 無礼にゃ!!」

 

 ニャンザス様が黒猫しっぽをぶんぶんふって抗議します。

 やだ、カワイイ。

 

「この坊ちゃんの小さな頃に生き写しと言ってもいいニャンザス様を貶めるのは、たとえ坊ちゃんでもゆるしませんよっ!」

「うるせーよ!!

 つか、それどこから拾ってきやがったっ!!」

 

 えーっと――

 

「……そう、あれは私がバレンタインの時、エプロン姿の上『べ、別にオマエのために作ったんじゃないからな!』と顔を真っ赤にしながらツンデレる教官のビデオと引き換えに、コロネロ大佐経由で風師範に引き合わせてもらった頃の話です」

「……テメエは本当に何してやがる……?」

 

 大佐は即決で『言い値で買うぜコラっっっ!!!!』と私のお願いを叶えてくれました。

 愛に生きる男って単じゅ――素直でいいですよね。

 それはともかく。

 そう、あれは私が風師範に修行の一環で山道を、重りをつけて走らされていた時――

 とても辛かった私は、坊ちゃんの姿を思い浮かべました。

 今ここで、坊ちゃんが私のことを応援してくれたら、私はどんな修行も頑張れる。

 できれば、猫耳猫しっぽ付きで語尾に『にゃ』を付けて、あざと可愛くいってくれたら言うことなしと――

 

「バカか、テメエは」

「バカじゃないです」

 

 その時、奇跡が起こったのです。

 

『レオ、頑張るにゃ』

『はい! 坊ちゃん!!』

 

 随分リアルに聞こえた空耳だと思いつつも、私には天使の福音よりも効果がありました。

 その一言に元気づけられて、山頂まで猛ダッシュしてついに私は、その修行をやり遂げたのでした。

 山頂で待っていてくれた師範に労われ、渡された水を飲み干して、一息ついていると、師範が不思議そうな顔で私の頭上を見ていました。

 彼がこんな顔をするのは珍しいことです。

 

『どうかしましたか?』

『レオ。その頭の上にいるかわいい子は誰です?』

『は?』

 

 空を見上げた私を遮るような影が私に覆いかぶさりました。

 

『なんにゃ?』

 

 驚いて、頭の上の人物を降ろしてみるとそこには――

 

『にゃ?』

『にゃ、ニャンザス様!?』

 

「――世界で一番可愛い生き物が降臨していたのです!!」

「このドカス!!!

 要はテメエ、有幻覚でコイツを構築しやがったんだな!?」

「身も蓋もないですねえ、坊ちゃん。

 まあ、その通りなんですけど」

「消しやがれ!!」

「そんな、絶対いやです!!!」

 

 坊ちゃんの頼みでもそれだけは出来ません!!

 私の腕の中でうつらうつらしながら、時々にゃーと鳴いているニャンザス様を消すなんて!!

 萌え神様の罰が当たりますよ!!

 あ、猫耳がパタパタしてる。

 

「いいから消せっ!

 今日街を歩いていたら、ガキに『ニャンザス様が大きくなってる!』って指さされたんだぞ!

 何で俺がコピーみたいな扱いになってんだ!?」

 

 いつもよりムキになってるなあと思っていたら、そういう事情が……。

 一応、私も努力はしたんですよ。

 

「1回頑張って、ものすごく嫌だけど消そうとしたんです。

 でも無理で、師匠に相談したら……」

 

『――という訳なんですけど師匠、どうにかできますか?』

 

 可愛い師匠と可愛いニャンザス様の対面に、ビデオを録画しながら訊くと、師匠はなにやらブツブツ呟いています。

 

『……何コレ?

 有幻覚の構築固定に加えて、自我を持ち、どれだけ遠距離でも存在を希薄にすることがないなんて……』

『師匠?』

『てい』

 

 独り言を呟いていた師匠が、突如霧の炎を使います。

 藍色の炎が消えた後、師匠のモミジのような手の中には――

 

『スプーン?』

 

 師匠は黙ったまま徐に――

 

『えい!』

 

 それを遠くに放り投げます。

『キラッ』とか効果をつけてスプーンが消え去ります。

 それを見届けてから振り返ると、どこかやさぐれた雰囲気を纏う師匠。

 

『……もういいよ、レオだし』

『匙投げた!!』

 

「芸が細かいですよ、師匠!!」

「アホかあっ!

 というか、非常識と理不尽の申し子のアルコバレーノに匙投げられるって、テメエは何をやってやがる!?」

「いえ、まあ。

 完全に自我を持って、勝手に自分でどこでも行ってしまう上、まったく消えることがない有幻覚って珍しいっていうか師匠クラスでも非常識らしくて――」

 

 ついでに守護者の一人のクロッカンさんにも相談してみましたが、こちらも頭抱えました。

 無言で頭痛薬を置いて、退出させてもらいました。

 近頃は頭痛薬の分野でも最高峰とボンゴレは言われています。

 

「どうあっても、消せねえっていうのか?」

 

 苦虫を100ダース噛み潰したような顔で、言われても……。

 でも、その顔も可愛いです。

 

「ええ。

 それに、ニャンザス様は正式にボンゴレのマスコットとして、9代目に登録されましたし」

「何やってんだ、あのカス親父!?」

 

 9代目の執務室にニャンザス様を連れて行った後のことは、もちろんお分かりですね?

 私以上の興奮で心臓発作起こすんじゃないかと思うくらいの喜びようでしたよ。

 ボンゴレボスは。うん、これでもボスなの。

 その上――

 

「――死炎印付きでニャンザス様のことは発表されましたから、もう消去は無理ですよ」

「死炎印何に使ってやがるんだあああっっ!!!」

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

「――まあ、という訳で坊ちゃんに『あの件』は今のところバレていないようです」

「……そうか……」

「にゃ?」

 

 私が今日の出来事を報告すると、9代目は複雑そうな表情で膝の上のニャンザス様を撫でていました。

 ――なお、9代目はニャンザス様を膝に乗せると、仕事のスピードが100倍速まります。

 それはともかく。

 ここは9代目の執務室なので、防音も盗聴対策も一番完璧なところです。

 そして、私と9代目とニャンザス様の他にはガナッシュさんが秘書としてついています。

 

「叔父さま。まだ、坊ちゃんに言ってはいないんですよね、あのことは」

「……う……む……」

 

 私から微妙に視線を逸らし、頷く9代目。

 あのこととは勿論、坊ちゃんの血筋の件についてです。

 以前、私も坊ちゃんにそのことを伝えることが怖かったのは事実です。

 しかし、時が立つにつれ、坊ちゃんにそのことを告げなかった方のデメリットの方が多いと考え直しました。

 悪意を持った輩から聞くことと、善意と謝意を込めて伝えられるのとどちらが良いかと言えば、当然ながら後者になります。

 ……まあ、正直何かしらイベントは起こる気がするのですが……

 

「……叔父さま、言いにくいなら私から坊ちゃんに伝えますから」

「だ、だめじゃ!

 そんな重要なことを自分から伝えられないなんて、ザンくんに申し訳ない!」

 

 この時点で既に私と守護者さんにも申し訳ないですからね。

 あ、ガナッシュさんが嘆息しています。

 言って下さいといってから、ここまでズルズル引っ張ってきたんですから当たり前ですよね。

 

「パパン、どうしたにゃ?」

「ニャンくん……」

 

 見上げてくる愛くるしい大きな赤い瞳と黒猫耳に、9代目は一瞬瞳を和ませ、すぐに何かを決意したようでした。

 

「……にゃ、ニャンくん。

 済まないが、パパンにき、き、き、『キライ』と言ってもらえるかね……?」

 

 凄まじい葛藤がそのさりげなく小さな音になった一言に隠れ……てはないですね。

 身体はケータイのバイブ並に震えていますし、冷や汗がダラダラと顔中を流れています。

 そんなに嫌ですか?

 うん。嫌ですね。

 気持ちは分かります。痛いほど。

 

「にゃ? いいにゃ?」

「……………ああ。」

 

 一度小さく首をコテンと傾げてから、ニャンザス様は悪夢の台詞を言い放ちます!

 

「……パパンなんてキライにゃ」

「がはあっっ!!!」

 

 あ、吐血した。

 だけど、ニャンザス様にはかからなかったからいいか。

 

「予想はしていたが、やっぱりこうなるのか……」

 

 はあ、と深い溜息を吐くガナッシュさん。

 日に日に守護者さんの胃薬の使用量が増えて、そろそろ胃薬が主食になってしまいそうなので、一個くらいは悩みを減らしてあげたいとは思っているんですが……。

 というか、坊ちゃんがボンゴレ継ぐのを一番待ち望んでるのは間違いなく守護者の皆様ですし。

 もし、坊ちゃんが継がないなんていったら、絶望のあまり黒化してしまいますよ。 

 

「ほら、叔父さまいつまでも気絶してないで起きてください」

 

 まあ、それはともかくとして。

 未だに気を失っている、9代目の肩を揺すって――そのまま、身体が不自然に傾きます。

 ――え?

 

「9代目?」

 

 私は無言で脈を計ります。

 ……………………………止まってる…………………だと……………!?

 

「……息してないにゃ」

「ちょっとなにやってんですかああああああああっっ!!!???」

「アンタという人はあああああああああああああっっっ!!!!!!!

 ティモ兄起きやがれええええええええええええええっっっ!!!!!!」

 

 結局――

 私が『死ぬ気の炎』を電気ショックの要領で使用し、心臓マッサージをして事なきを得ました。

 ああ、またしょうもない理由で小技が増えていく……。

 9代目のショックの受け方の酷さに、この件はまた保留ということになりました。

 

「……ほんと、どうしましょうかね……?」

「なんとかなるにゃ」

 

 ……そうですか。そうだといいなあ……。

 

 

 




人それをフラグと呼ぶ。

ニャンザス様を降臨させてしまいました。
可愛いからいいかなって。
小さな原作主人公たちと戯れてほしい。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。