暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

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またまた学生編といいつつ、まったく学生関係ないけど学生編と言い切る。

どうもお待たせしました。
待っていてくれた方ありがとうございます。

スクアーロのその後です。
この方もまったく調べてもよくわからないので、完全オリジナルで書いています。
鮫の口調に濁点がつきました。

戦闘シーンが本当難しい……


剣帝と新たな称号

 

 

 

「……くぅっ……っ……!!」

 

 ベッドに横たわり、荒い息を吐いている銀髪の少年。

 その傍らに座り、額のタオルを替えながら、私は悩んでいました。

 

 ……前から思っていたんですが……

 

「……スクアーロってマゾなんですか?」

「誰がだああああああああっっっ!!!」

 

 バネを切られた人形のようにいきなり飛び起きるスクアーロ。

 ついでに飛んできた水にぬれたタオルを片手で受け止めながら、返します。

 

「えー、だって坊ちゃんにあれだけ殴られても、なんだかんだ言いながらどんなこともやり遂げますし、挙句に自分の手を切り落とすって……」

 

 だからもう、常人では理解できない域までいってしまったのではないかと……

 

「ふざけんなあああああっっ!!

 この左手は剣帝テュールに勝つために切り落としたんだっ!!

 テメエが思っているような理由じゃねええっっっ!!」

「そんなに叫ぶと血圧上がって、傷に悪いですよ」

「だ・れ・の・せ・い・だあああああああああああっっっ!!!」

 

 声を振り絞ると、それで力尽きたのか音を立てて再びベッドにスクアーロが倒れ込みます。

 毛布を掛け直してやりながら、安堵の溜息を吐きます。

 いや本当に、人の趣味は色々とはいいますが、自分の身体をここまで傷つけないと満足できないようなのはマズイのでは、と思っていたのですが……。

 杞憂で良かったです。

 

 なぜこんなことが起こったのかと申しますと、1週間前に坊ちゃんがスクアーロにこう命じたのでした。

 

『現在のヴァリアーのボスである剣帝テュールを倒せ』

 

 後、5カ月で坊ちゃんは13歳になります。

 つまりはヴァリアーのボスに就任するということです。

 ですが、ボンゴレⅨ世の命令でその座を明け渡したとしても、現在のヴァリアーの人間は坊ちゃんを認めはしないでしょう。

 というわけで、新たなヴァリアーのボスの右腕として働く予定のスクアーロに、初めてまともな(←ここ重要)命令が下されたのでした!

 ハイ拍手~!!

 これまで、坊ちゃんには売店でパン買ってこい並みの命令しかされてなかったから、ついテンション上がりすぎて、こんな風になった可能性も!?とか、坊ちゃんに殴られ過ぎて、頭のネジが飛んでしまったのでは!?とか、9代目にいかに坊ちゃんが愛らしく天使かと延々親バカ全開でのろ気られたり、守護者さんたちには胃薬を渡されつつも『絶対に逃がさん!』というオーラでボンゴレからの退路は全て断たれたせいで、かなり遠い目をして黄昏ていたせいでとうとうプッツンしてしまったのでは!?とか考えていたんですが、色々考えた末のことだったんですね。

 ――しかし、そういえばスクアーロの手は、そんな理由で義手になったんでしたっけ。

 詳しく読み込んでなかったのか、そこら辺の記憶がどうも曖昧だったんですよね。

 でもまあ、正直常人ならば勝ちたくてもここまでのことはしないでしょうねえ。

 そういった意味では、彼もまたやっぱりまともではないということですが。

 ……まあ、私もヒトのこと言えた義理ではないので、深くは突っ込みませんが。

 

「……テメエはヒトをなんだと思っていやがるんだああああああああ?」

 

 漸く少し復活したのか、剣呑な視線をこちらに向けているスクアーロ。

 

「……え……と……」

 

 どうって……あ。

 

「――ヒロイン?」

「誰がだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!?!?」

 

 あ、サメさんの口調に濁点らしきものがっ!?

 さっきよりも勢いつけて飛び上がったせいで、タオルが明後日の方向に飛んで行ってしましました。

 えーだって……よく考えてみますと、『原作』ではボスの理不尽な我儘に耐えつつ、皆を苦労しながらまとめ、ボスの目的のために願掛けに髪を伸ばし、ボスのピンチに自らの身体をなげうっても救うという健気さ。

 …………………………………

 

「どう考えてもヒロイン!?」

「テメエの頭の中はどうなってやがる゛う゛ぅぅっっっっっ!!!」

 

 無事な方の片方の手で揺さぶれながらも、私は自身の考えが間違ってないと確信します。

 上に『薄幸の』とかはついちゃうとは思うけど。

 きっと皆さん頷いてくれると思いますよ。

 

「大丈夫ですよ。

 今の世の中、男が『ヒロイン』になるなんて珍しくないですし」

「な・に・がだいじょうぶなんだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 咆哮とともに、残りの力を使いきったのか崩れ落ちるスクアーロ。

 無理するからですよ、まったく。

 

「……今、すげえ理不尽なこと考えただろう゛お゛ぉぉぉ……」

 

 剣呑な目つきで唸るスクアーロににっこりと微笑むと、毛布を掛け直してやり、タオルを洗い直して額に置いてやります。

 

「まあ、あまり長居すると負担になるみたいですから、そろそろ行きますね」

「早く行けぇえ……」

 

 疲れ切った様子のスクアーロに、お大事にと声を掛けてから出ていきます。

 先程、Dr.シャマルに気が向いたら見てやってくださいとメールを送っておいたのですが、来てくれますかね?

 とりあえず坊ちゃんに彼の様子を報告しようと思い、坊ちゃんの部屋に向かっていたのですが、数分もしないうちに人影が私の行く手を遮りました。

 

「よお、エレオノーラ様」

「……テュールさん」

 

 徹底的に鍛えられた剣士としての肉体と、鮮やかな金髪を無造作に後ろに流し、右目は刃の傷跡が付いていますが、かなり整った顔立ちの青年。

 そして何より目立つのがあるべきところにない左手でしょう。

 街中を歩けば、目立ってしょうがないはずぐらいの存在感があってもおかしくはないのに、彼はまるでいきなりそこに出現したかのような唐突さで私の前に現れたのでした。

 

 ……これが、現ヴァリアーのボスの実力ですか……。

 

 僅かに垣間見た彼の力に目を見張ります。

 私だって、ある程度はアルコバレーノの皆様に鍛えられたおかげでそこらのチンピラどころか、2流の戦士には遅れをとることはないでしょう。

 しかし、目の前の青年はやはりというべきか、格が違い過ぎました。

 ……この人とスクアーロのどちらが強いかというと、なんとも言いきれません。

 ところで、この方に私が会ったのは、ついこの間、坊ちゃんについてヴァリアー隊を見に行ったときだけです。

 一体私に何のようなのでしょうか?

 まあ、だいたい予想はつきますが……

 

「何か私に用でしょうか?」

「まあな、俺の対戦相手の坊主はどんな調子だ?」

 

 やっぱり、目的はスクアーロだったようです。

 

「貴方に勝つために色々と無茶をやらかしていますが、闘志は漲っていますよ」

「ほお。少しは歯ごたえがあると思っていいのかな?」

 

 薄いブルーグレーの瞳が眇められ、揶揄するような台詞に私は軽く肩を竦めます。

 

「それは実際戦ってみればわかるのではありませんか?

 ――歯ごたえを感じているヒマがあるかはわかりませんが」

 

 私の台詞に彼は一瞬虚を突かれたように呆け、すぐに大声で笑いだします。

 

「面白い!

 アンタはあの坊主がオレに負けるワケないと信じてるんだな?」

 

 彼に問われて私は即答します。

 確かにどちらの実力が上かは私ではわかりかねますが。

 ですが――

 

「勿論です。

 スクアーロは坊ちゃんが選んだ剣士ですから」

 

 その言葉に彼はニヤリと笑うと、唐突に私を壁に押しやり、手を顔の横に叩きつけるように置きます。

 

「――なあ、オレがこの試合に勝ったら、オレの女にならないか?」

 

 息がかかるほど近い距離で囁かれ、目を見開きます。

 もしや、これが――『壁ドン』というヤツかっ!?

 前世も含めて初めてやられましたが、何故でしょう。

 

 ――イラっと感しかありません!!

 

 誰か私にときめくだけの『女子力』をプリーズ!!

 ……まあ、というよりなにより――

 

「ご冗談を」

 

 その手をそっとどかし、彼の腕の檻から抜け出します。

 彼もまたそんな私を止めることはありません。

 その目は既に『剣帝テュール』を追い落とすと言われたも同然の少年の姿しか映っていないのでしょう。

 私のことなんか、初めから眼中にないのです。

 うん。これならイラッとしてもおかしくないですよね。

 私の女子力が低いからだけじゃなく。きっと、おそらく、たぶん。

 

 引きとめて悪かったと、機嫌よく踵を返し去っていく彼を見送ったあと、今度こそ坊ちゃんの部屋に行こうと足を踏み出すと――

 

「……あの……」

 

 遠慮がちに呼びかけられた声に、私は再び足を止めるのでした。

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 ギンッッッ!!

 

 モニター越しに白銀の刃が噛み合い、力と力がぶつかり合います。

 闘技場として用意された岩と砂の世界では、2人の剣士が火花を散らし、互いを下すために全力を尽くしていました。

 

 あれから2か月後。

 ボンゴレの医療技術のおかげとはいえ、驚異的な早さで傷を治し、義手を自らに馴染ませたスクアーロはヴァリアーのボスの座を彼のボスに捧げるため、剣帝テュールに挑んだのでした。

 仕込み剣を己の手と同じものとして扱うスクアーロの技術は見事でしたが、目の前の剣士にはまだ余裕が残っています。

 伊達にヴァリアーのボスとして彼は君臨していなかったということは、その剣技の見事さをみればわかります。

 独立暗殺部隊ヴァリアーを率いる者には、純粋な『強さ』が何よりも尊ばれるのですから。

 それに加え、純然たる体格の差が徐々にスクアーロを追い詰めているように見えます。

 大人と子供。

 未だ発展途上の身体では、長引けば長引くほどスクアーロの方が不利です。

 それは彼にもよくわかっている筈です。

 しかし、相手はそう簡単に一撃を加えることを赦してはくれません。

 戦いは既に2日目に突入していますが、決着は果たしてつくのか……。

 とはいえ、つけなければスクアーロの体力が限界になるのもそう遠くはないでしょう。

 それに比例するかのように、剣戟はますます激しくなっていきます。

 既に私の目ではすべてを追うのは難しく、周りの人間たちも声を上げるのをやめ、真剣に目の前の光景を見守っています。

 ……真剣に、自分の賭けの対象を応援してもいる人もいるようですが……

 互いの剣が、相手の身体を掠り、斬撃が服を切り裂きます。

 ですが、致命傷は二人とも未だ受けていません。

 薄く笑みを浮かべていた剣帝が、すっと表情を消し、大きく後ろに飛び退ります。

 スクアーロが怪訝そうな表情で、彼を見つめています。

 

「――坊主、オマエの体力もそろそろ限界だろう?」

「……それがどうしたっていうんだ?」

 

 息を整えながらも、構えを崩さないスクアーロ。

 対してテュールさんは喜びを隠そうとはしませんでした。

 

「オマエの体力が尽きないうちに、オマエの本気の実力がオレはみたい。

 だから、次の攻撃で決着をつけないか?」

 

 その提案に、スクアーロは軽く目を見開きました。

 彼にとってそれは願ってもないことのはずです。

 しかし、何か裏があるのではないかとスクアーロが表情にだすと、テュールさんは笑いとばします。

 

「オレたちは剣に生きるものだ。

 そんなつまらねえ裏をかくことはしない。

 それはオマエもだろう」

「……そうだな……」

 

 その言葉にスクアーロも納得したのか笑みを浮かべ、剣を構えます。

 テュールさんも笑みを消し、大剣を無造作に構えます。

 風が砂を吹き散らし、舞い上がった瞬間――

 

「たあああああああああああああっっっ!!!」

「でりゃああああああああああっっっ!!!」

 

 互いに咆哮を上げ、剣が音を立て噛み合い、テュールさんより一瞬早く、スクアーロが次の一手の放ちました。

 

鮫特攻(スコントロ・ディ・スクアーロ)!」

 

 叫んだと思った瞬間――瞬く間に周囲のものが切り刻まれ、対峙していたテュールさんの顔に焦りが浮かびました。

 一瞬の隙。

 それを見逃すスクアーロではありません。

 高速で繰り出された剣が袈裟懸けにテュールさんを切り裂きました。

 一瞬遅れて、切られた部分から血が噴き出します。

 愕然とした表情のまま、ゆっくりと彼の身体が崩れ落ちていきます。

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 観客から歓声があがります。

 私は対照的に緊張していた身体から、漸く力が抜けました。

 スクアーロの完全勝利です。

 この場にいない坊ちゃんにも試合の映像は送られているので、この結果はすぐ知ることとなるでしょう。

 さてと――

 荒く息を吐き、ずるずると地面に座り込んでいくスクアーロとテュールさんに声を掛けるべく、備え付けのエレベーターで闘技場におりていきます。

 疲れ切った様子でこちらをちらりと見るスクアーロに軽く笑顔で労いの言葉を掛けてから、呼吸が浅いテュールさんの傍らにしゃがみ込みます。

 ゆっくりと私と視線を合わせたテュールさんは苦笑しながら口を開きました。

 

「……よお、エレオノーラ様……」

「無理に喋らなくていいですよ」

 

 瞬間、小さく咳き込む彼の口から血が流れます。

 既に、自分の死期を悟っているのでしょう。

 

「……中々、楽しい試合だったぜ……。

 最期なのが惜しいくらいにな……」

「じゃあ、最期じゃなくしてあげますね」

「「……は……?」」

 

 私の笑顔の宣言に、呆けた顔をするテュールさんとスクアーロ。

 それには構わず、私は集中し、死ぬ気の炎を操りました。

 手始めに、臓器の修復として『大空』と『雲』と『霧』で傷をふさぎ、完全に治癒するために、『晴れ』の炎を混ぜ込みます。

 細胞が活性化され、みるみるうちに傷が塞がるのを見て、二人が驚愕の表情でこちらを見つめています。

 体力や血液までは回復できないため、安静にしなくてはなりませんが、死ぬことはもうないでしょう。

 こまめに試していた死ぬ気の炎の治癒でしたが、成功したようで何よりです。

 

「さあ、これで死期は免れましたね。

 では――これからも馬車馬のように死ぬ気でボンゴレというか、坊ちゃんのために働いてもらいますから」

「――な! なんだそれはっ!?」

「いやですわ。

 敗者であるテュールさんには、拒否権はありませんでしてよ。

 まずは、坊ちゃんがいかに素晴らしい存在か、一晩掛けて教えて差し上げますから。

 今夜は――寝かせませんよ」

「女からその台詞を聞いて、恐怖しか感じないのは何故だ!?」

「もし断ったら――貴方の遺影は猫耳が生えます」

「っざけんなあああああっっっ!!!

 なんだそれはああああああああああっっっ!!!」

 

 葬式では泣けばいいのか、笑えばいいのか分からない人が多くなることでしょう。

 それにしても、簡単に死ねるなんて思っていたのかしら?

 

「貴方のように有能で人望があって、仕事が出来る人をみすみす殺すなんてしませんよぅ。

 これからもしっっっかりと働いてもらいますから、よろしくお願いしますね」

「オマエ、この間ちょっかいだしたの根に持ってんだろうっっ!!!」

 

 やだ。まさか。そんな。

 ふふふ。有能な人材を殺すなんて。

 日本人の『モッタイナイ』精神が、健在なだけでしてよ。

 

「俺は関係ねえ゛え゛え゛ぇぇぇぇっっっ!!!」

 

 何か叫んでいるスクアーロとテュールさんを両脇に抱えると、私は闘技場から医務室に向かって歩き出したのでした。

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 一晩があけて。

 いかに坊ちゃんが愛らしく、凛々しく、素晴らしい存在かと写真付きで、しっかりと教え込んだおかげで、テュールさんもしっかりとその脳みそに仕えるべき存在である坊ちゃんがどれほど素晴らしいか理解できたようです。

 先程から『ボスは素晴らしい……うう……ボスは愛らしい……ぐぅっ……』などと呟くようになりました。

 尚、隣で寝ているスクアーロも『ボス……どうにかしろ……』などと寝言を言っています。

 ふう。いい仕事をしました。

 そこへ、ドアをノックする音がしました。

 

「どうぞ」

 

 ドアから恐る恐るといった感じに顔を出したのは、赤毛の髪を肩で切りそろえた女性――とその他にも合わせて6人ほどの男女の顔が見えます。

 ついでに付け加えるならば、全員美形でした。

 

「あ……の……テュール様は……」

 

 初めに顔を出した赤毛の女性に問われ、私はベッドを手で指し、スクアーロを腕に抱えあげると、

 

「そちらで寝ていますよ」

 

 一言告げ、彼らを残し、部屋から出ることにしました。

 ですがドアを閉めてから、少し悪いと思ったのですが、聞き耳を立てさせてもらいました。

 

『……オマエら……何をして……』

『『『『『『ボス~~~っっ!!!』』』』』』

 

 何かが覆いかぶさったのか、軋むベッドの音、泣き声とどこか焦ったようなテュールさんの声が聞こえたのを確認し、私は今度こそその場を離れました。

 

「……う゛お゛ぉい。なんだ今のは……?」

「あら、起きましたか。スクアーロ」

 

 疑問の声を上げた彼に、説明してやります。

 

「まあ、当然というかあの人も今までヴァリアーで従えてきた部下がいるんですけど、彼が思っているほど彼らはドライではなかったんですよ。

 本気でテュールさんに憧れて、彼の傍にいたいと思っていた人たちがいるんです」

 

 彼はドアを振り返り、まだ騒がしい声を確認してから、すぐにこちらを向いて、

 

「それが今の奴らってことか」

「ええ、彼らは中でもテュールさんに拾われたみたいですしね。

 彼らにとって使えるべき主であると同時に、一番大事な人なんでしょう」

 

 あの日、私がテュールさんと別れたあと出会った赤毛の彼女は、この試合が終わったあともし、テュールさんが負けるようなことがあったら、その命を救ってもらえないかと懇願してきました。

 もちろん、彼女にもそれが自分の主を侮辱する行為であることはわかっていました。

 剣に生きる彼が、それを望むとは思えません。

 ですが――私は私自身の目的と彼女たちの望みのためにその願いを受け入れることにしました。

 

「……大事な主か……」

「主である以上のものもあると思いますけどねえ。

 まあ、自分で拾ったあの子たちを置いて死ぬのはちょっと無責任ですし」

 

 10代前半から後半の少年少女たち。

 あのまま、彼が死ねば彼女たちは命を絶っていたかもしれません。

 それか、ボンゴレに一矢報いてからと考える可能性もあります。

 彼らにとってテュールさんはそれほどの存在でした。

 それなのに、そのことに気付いてなかったのでしょうか。

 

「あれだけ惚れさせておいて、さっさと自分の目的のために死ぬなんて。

 勝手ですね」

 

 それに対してスクアーロが神妙な顔をしました。

 

「……それに関してはオレもなんともいえねえな……。

 そこに自分の相手になるだけの剣士がいるなら、何をおいてでも勝負しにいくかもしんねえ」

 

 それは――

 

「……でもな。今は違う」

 

 一言忠告しようとした私が口を開く前に、彼は続けます。

 目には真剣な光を湛えて。

 

「俺はザンザスの剣だ。

 だから俺の命はボスのためにある。

 ボスが俺に死ねと命じない限り、俺は死なねえ」

「ふふ」

「なんだよ?」

「いえ――」

 

 どうやら、私が何か言う必要はなかったようですね。

 

「そうですね。

 私たちは坊ちゃんの命を護るため以外には、死ぬわけにはいきませんね」

「おう。その通りだぜ」

 

 不敵な笑みを浮かべる私と同士であるスクアーロはとても頼もしく見えました。

 まあ――

 

「お姫様抱っこじゃなきゃもっとカッコがついたんでしょうけどねえ」

「誰のせいだあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 先程から、しっかりとスクアーロは私の腕の中で抱きかかえられていたのでした。

 その姿はまさしく――

 

「じゃあ、今日の勝利を祝って、貴方に『ヒロイン(真)』の称号を捧げましょう!」

「誰がいるかあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 




スクアーロに新たな称号が授けられました。
ちなみにレオはヒロイン(偽)かヒロイン(?)になってしまうので、主人公でいいと思います。
誰か女子力を上げる方法を教えてあげてください。

チートっぽい主人公ですが、チートではありません。
剣帝さんはレオの思惑により、生かされました。
そのうちまた出てくるはずです。


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