暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

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感想有難うございます。
頂けるとまた頑張ろうと思います。

次の話への繋ぎとなります。

ようやく『彼』がでるための布石です。



女神との運命の出会い

 はあーい!

 皆様、ご無沙汰しております!

 エレオノーラでーすっ!

 なんでこんなにテンション高いかというと、今、私は日本にいるのです!!

 夢にまでも見た日本料理を堪能しまくるのが目的!

 ――ではなかったりします。

 というのも、隣には緊張した面持ちの家光さんと無理やりついてきた坊ちゃんがいます。

 ここは小さなアパートの一室のドアの前です。

 イタリアのお屋敷に慣れると、本当に日本の住宅事情って小さいなあと改めて思います。

 

「じゃ、じゃあレオ行くぞ」

「はいはい。っていうか、ここで10分も固まってるんですが」

「早くしろよ、ダメ光」

「うるせーよザンザス!!

 俺はテメエについて来いなんていってねえぞっ!!」

「はっ!

 レオがついて行くのに、俺がいかねえわけねえだろっ!

 だいたいテメエの嫁になんてなる可哀想な女の顔を見ておかないと、いざテメエが任務で逝ったとき、面倒みてやれねえだろが!!」

「縁起でもないこと言うな! このクソガキ!!」

「うるせえ!! このヘタレ!!」

 

 二人ともうるさいです。近所迷惑です。

 というより、ドアが開いてるんですが……。

 ドアの隙間から、日本人にしては色素の薄い長い髪と愛らしい顔立ちの女性が覗いています。

 

「ああ、やっぱり家光さん。と?」

「ああ! 奈々!!」

 

 ふんわりと微笑む顔はだいたいの人に安らぎを与える程、温かなものです。

 私は一歩踏み出して、一礼します。

 

「初めまして、奈々さんですか。

 家光お兄様の妹のエレオノーラです」

「ザンザスだ。オマエが奈々か?」

「ええ、はじめまして。桜井奈々と申します。

 どうぞ入ってください」

 

 そう。皆さまもうお分かりですね。

 何を隠そう、皆のママン。

 家光さんのお嫁さんになる予定の奈々さんに、私は会いに来たのでした。

 なんで、妹になってるんだと言いますと、こんなことがありました。

 

 

 ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 あの事件からしばらくたってから、家光さんが私を訪ねてきたのは随分と温かな午後でした。

 とりあえず、紅茶をお出しして、席についてから丸10分。

 あー、だの、うー、だの言っている彼に飽きた私は突っ込みました。

 

「――で、私はお兄様の未来の伴侶にいつ会いに行けばいいんですか?」

「な、なんで知ってるんだ!? レオ!!」

 

 なんでって。

 私は一口紅茶を飲んでから、告げます。

 

「そんなのとっくにCEDEFの上層部では知られてたでしょう。

 私もお兄様の様子がなんかおかしいっていうか、そわそわしていることが多いから本命出来たのかなーと思っていましたけど」

「う゛。

 ……レオちゃん鋭いな……」

「まあ、自分の事には皆それほど気付かないですよね。

 他人の恋愛はみんなの娯楽にはぴったりですし。

 すぐにバレるものですよ」

「そ、そうか?」

「そうですよ」

 

 それに、『原作』通りなら、このぐらいの時期に家光さんは奈々さんと結婚した筈です。

 

「で、その方はどういう人なんですか?」

「どうって、その、すげえ可愛くて、優しくて、笑顔が太陽みたいで――」

 

 いや、そういうのじゃなくて――というかさり気にのろ気ないでください。

 

「そうじゃなくて、家柄とか家庭環境とかです」

 

 私の台詞に家光さんが少し顔を顰めます。

 

「レオにしては珍しいな。

 そういうことにはこだわらないと思ってたが……」

「まあ、普通ならば拘りませんが。

 でも、結婚するのが沢田家光というより、門外顧問である貴方ならば話は別です」

「…………」

 

 沈黙する家光さんにさらに畳みかけます。

 

「門外顧問となると命を狙う敵が5ダースはいるでしょう?

 その人の伴侶になるということは、どんなに隠していても危険にさらされる可能性があるということです。

 そんな異常な状況にさらされることを『覚悟』できる人はそういませんから。

 まさかと思いますが、一般人とかいいませんよね?」

「…………………」

 

 だらだらと無言のまま汗だくになる家光さん。

 ……別に私は二人の結婚を反対しているわけではありません。

 何より、『沢田綱吉』が生まれることはこれからの歴史に何よりも重要だと思います。

 ですが、本当に相手の女性に何も知らせないままでいるのは、どうなのかと思った次第でして。

『原作』では『虹の代理戦争』で巻き込まれ、危ない目にもあってるわけですし。

 知らないままの方が安全でいられるともいいますが、それで自分はともかく子供が巻き込まれたら、普通の妻なら怒り狂ってリコーンとかすぐなりそうですし。

 そこのとこちゃんと考えたことあるのかなーと思って突っ込んでみました。

 

「………………………………レオ。」

「はい」

 

 無限とも思える沈黙の後で、家光さんが口を開きます。

 

「……正直、何度か考えたんだ。

 一般人である彼女と結婚していいかと。

 でも、何度考えても、彼女がいない未来が想像できないんだ。

 俺がオマエに言えることは、彼女と子供を命がけで守ると誓うことだけだ」

 

 真剣に、真摯な態度で13歳の少女に宣言する家光さんに、私は嘆息しました。

 まあ、出来ないことを考えても仕方がないですね。

 

「その台詞は未来の妻に言ってあげてください」

「じゃ、じゃあ結婚してもいいのか!?」

「いや、私が反対してどうにかなる問題じゃないと思うんですけど。

 叔父さまにはもう許可は頂いたのでしょう?」

 

 私は門外顧問の結婚の最終決断する立場にはありませんし。

 ボンゴレのボスの妻と違い、表に出なくてはならないこともないですし。

 ボスの妻はそうはいかないでしょうけど。

 家光さんは頷きましたが、まだ、どこかこちらの様子を窺う表情で私をみています。

 

「どうしました?」

「実はレオもう一つ頼みがあるんだが」

「はあ。なんですか?」

「あのな……その俺の妹として奈々に会ってほしいんだ」

「は?」

 

 何故にわざわざ妹?

 

「遠縁の親戚とかじゃなくてですか?」

「あー、なんていうか奈々と奈々のご両親に説明するときに、なんかこう上手く説明しようとして、そん時はなんか自分でも焦ってて、ワケのわかんないこといってたらいつの間に俺の親とレオの親が再婚して、血が繋がってない妹になった」

 

 なんでそうなった?

 まあ、結婚相手の親に対しては緊張するとは思いますが、そんな複雑な関係に。

 遠縁の親戚で上司が後見人としてついている妹みたいなもので……っていうか、これもややこしいですね。

 まあ、いいですけど。

 折をみて誤解を解いた方がよければ解けばいいんですし。

 

「いいですよ。

 それでいつ行くんですか?」

「あー来週の日曜日にでも出来れば」

「来週の日曜か。

 その日なら俺も行けるな」

 

 ……ん?

 顔を上げればいつの間にか坊ちゃんが腕を組み、私たちを見下ろしていました。

 以前より大人びた顔立ちの坊ちゃんに、年月の速さを感じます。

 うんうん。日々凛々しくなっていますねえ、坊ちゃんは。

 

「ザンザスいつの間に来やがった!!」

「たった今だ。

 オマエがレオに何か頼みに来たって聞いたからな。

 良からぬことでも頼むんじゃないかと思って監視にきてやったんだ。

 有難く思え!!」

「誰が思うか!

 どこから入ってたんだまったく!!」

「……坊ちゃんと私の部屋隣どうしですし、部屋はドアで繋がっていますし」

 

 たぶん、聞きつけて寝室のドアのとこから来たんでしょうねえ。

 

「なんだと!

 レオ! もう年頃なんだから、こんなクソガキが自由に出入りできないように鍵を掛けるか、ドアを完全にふさぐかしなさい!!」

「うるせえっ!

 テメエこそ年頃の女の部屋に入ってくんじゃねえ!!」

 

 年頃……ですかねえ?

 まあ、それはともかく。

 

「暴れて人の部屋壊さないでくださいね。

 立ち入り禁止にしますよ」

 

 ピタリ、と動きの止まる坊ちゃんと家光さん。

 何気に仲が良いのではないのかと思う今日この頃。

 動きがシンクロしてますし。

 

「ま、ともかく今度の日曜ですね。

 坊ちゃんも行けるんですか?」

「勿論だ。

 一人の女が不幸になるかもしれないんだぞ。

何が何でも優先されるだろう」

「くんな! クソガキ!!」

 

 表面上は真剣ですが、顔が笑ってますよ、坊ちゃん。

 楽しそうですねえ。

 まあ、家光さんの弱み握れるのは確実でしょうしね。

 

 そんなこんなで日曜日。

 私たちは前日から9代目のプライベートジェットで、日本に降り立ったのでした。

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 シンプルですが明るい色使いの部屋に通され、小さなテーブルを皆で囲んで座ります。

 

「どうぞ、粗茶ですが」

 

 あら、緑茶は久しぶりですね。

 おお、茶柱が。初めて見ました。

 

「有難うございます。

 改めまして、家光お兄様の妹のエレオノーラと申します。

 こちらは私がお仕えしているザンザス坊ちゃんです。

 ザンザス坊ちゃんのお父様が私とお兄様の上司に当たります」

 

 私の紹介に、ほんわりと顔を緩め、奈々さんは、

 

「ご丁寧に有難うございます。

あら?

 じゃあ、世界の交通整理の上司さんなのかしら?」

 

 …………この時からこの嘘ついてたんかい。

 

 私はにっこりと微笑んで――ついでに、家光さんの背中を捻りながらつねって――否定します。

 顔を微妙に歪める家光さんを、呆れた目で坊ちゃんが見ています。

 というか、子供が『お父さんの仕事何?』って聞かれたとき、どうするのでしょう?

 作文とか書いたら、先生もどう判断すればいいのか、困りますよ。まったく。

 

「あらあら、お兄様ったら。

 いつも人を笑わせる冗談が好きなのはいいですけど、ちゃんとした職業の方も伝えないと」

「あら、じゃあ冗談だったの」

 

 困ったように顔を赤らめる奈々さん。

 可愛い人だな。

 

「いいえ、こちらこそ申し訳ありません。

 お兄様はイタリアの貿易会社での情報収集と警備を任されています。

 それなりに高い地位にいるんですよ」

「まあ、そんなに偉いひとだったなんて……どうして教えてくれなかったの、家光さん?」

「あーいやーそのー」

 

 ちょっとだけ拗ねたような言い方の奈々さんに、家光さんが焦ったように明後日の方向に視線を彷徨わせています。

 ……たぶん、うまい言い訳考えられなかったんでしょうねえ、その時。

 

「あ、でも、警備ってどんなことやるのかしら?

 外国っていうとやっぱり、偏見なのかもしれないけど危険なこともあるのかしら?」

 

 少し心配そうな顔で可愛い奈々さんに見つめられ、家光さんが冷や汗をかきながら、こちらに助けを求める視線を送ってきます。

 ……さて、どうしたもんだか……

 

「あるな、危険なことは」

 

 沈黙を破ったのは坊ちゃんでした。

 私と家光さんが驚いて坊ちゃんを見つめても、淀みなく彼は語り続けます。

 

「正直なところ、他のそし――いや、業者たちとも対立することもあってな。

 物理的に黙らせようと、脅迫やそれ以上のことをやってくる奴もいる。

 その中で、家光の立場はかなり狙われやすいところにある。

 もしかしたら、オマエも危険な目に合うかもしれない。

 それでも、オマエは家光の嫁になる覚悟はあるか?」

 

 ……坊ちゃんが真剣にこんなことをいうなんて……。

 今の台詞が揶揄するものでなく、本当に目の前の女性を慮っての言葉であることは家光さんも横やりを入れることなく、成り行きを静かに――いえ、不安そうに見守っています。

 

 何度か、瞬きをしてから、彼女の何かを『覚悟』したような目が私たちを見返します。

 

「私、正直、覚悟とか言われてもなんともいいようがないんだけど。

 でも、私、家光さんにプロポ―ズされたとき、この人とずっと一緒に生きていきたいと思ったから。

 だから、どんなことがあっても頑張るわ。

 それに、一生守ってくれるんでしょう。家光さん?」

 

 菩薩のごとき笑みを浮かべ、家光さんに笑いかける奈々さんのその背後には神々しいまでの癒しのオーラが見えます。

 なんだ、この人は。

 たぶん、死ぬ気の炎が使えたらたぶん第8じゃなくて、第9の炎『宇宙』とか出てきそう。

 このすべてを包み込むオーラは、まさしく女神!

 感極まって泣いている家光さんを横目に私は奈々さんの手を取ります。

 

「奈々さん。

 貴方の覚悟は受け取りました。

 及ばずながら私も貴方を守ります。

 ですから――来世は男に生まれてくるので結婚してください」

「あら、どうしましょ」

 

 顔を赤らめて、はにかむ奈々さん。

 ああ、こういう清楚可憐な正統派美女もいいなあ。

 

「ちょっと待って、レオちゃん!

 ここは俺が奈々に改めてプロポーズするところだろっ!?」

「レオォォっっ!! テメエはなんでそう女好きなんだ!?

 このクソ光!!

 テメエがしっかりしねえからっ!!」

「俺のせいじゃねえだろっ!!

 テメエが情けねえからだろっ!!

 このヘタレガキ!!」

 

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ男性陣を置いて、和やかに日本での一日は過ぎていくのでした。

 この後、結婚式も色々あったのですが、それはまた後日に。

 




ママンは本当に女神だと思う。

旧姓は適当につけたものですが、どっかで出てきたことありましたっけ?

主人公の好みは幅広いです(笑)

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