やたら細かくてすいません。
「……まずい……」
「ほんとになー」
「どうにかしてほしいわよね、まったく」
「アイツが神父なんてやってる以上、無理だろ……」
何をしているのかと言いますと、孤児院兼教会の一室で、夕食の野菜のくずと肉?らしきもの浮いたやたらうっすーいスープを啜りながら、みなさんとの会話になります。
あの後、私は孤児になりました。
親戚の引き取り手もなく、質素なお葬式を済まし、私をどうするかという話が持ち上がったのですが、青年――カルロさんが私を引き取ると申し出てくれたのですが、これは私がお断りしました。
まだ、若い彼の人生を摘み取るわけにもいきません。
……それに、なんというか私と母はやはり似ていますので、未練が残っても困りますからね。
というわけで私はこの地区の教会に引き取られたのですが、正直なところ申し出を受けておけばよかったと思っています。
まあ、冒頭の会話で察してくれると思いますが、この教会は正直腐っていました。
念のため言っておきますが、きちんとした体制をとっている孤児院はちゃんとあります。
ですが、それと同じくらいろくでもない奴らが経営している孤児院もあるわけです。
残念ながら、私はそこに当たってしまった訳でして。
他の皆さんいわく、3か月前まではまともな食事もできていたし、きちんと勉強を受けさせてくれていたとのことですが、どうもこの地域を支配しているマフィアが代替わりを起こしたときからおかしくなってしまったそうです。
前任の神父が高齢のため引退した――というよりさせられたあと、ここに赴任した神父は最低の人格を有した男だったのです。
なんというか、人間大のガマガエルが酒浸りになりながらニタニタ笑っているのを想像してくれれば一番いいと思います。
人を外見では判断してはいけない、とはいいますが。
正直なところ――近付きたくありません。
それと取り巻きにはみるからにチンピラといった感じの男が2人。
以前は女性のボランティアの方々が数人出入りしていたそうですが、そちらも出入りを禁止されたそうです。
当然衣食住の質も著しく下がり、現在こうやってマズイスープを啜っている状況なのです。
――貴様ら、食べ物の恨みは未来永劫許さんっ!!
あ、つい地が出てしまいました。
ああ、そういえばなんでずーっと敬語なのかというと、お嬢様らしい外見に合わせてということで、言葉遣いもそれらしくしてみようかなー、と思ってみたのですが、まあ、元庶民にそんなこと咄嗟にできるわけでもなく、母の真似をしてみようかとも思ったのですが、慣れないことはするものではないので、敬語に落ち着いているわけです。
まあ、それはともかくとして、こんな栄養失調を起こすしかないような状態で、一応健康な状態を保っていられるのは、ほぼ毎日来てくれるカルロ青年の差し入れのおかげでした。
私が家を離れるときに両親が残してくれた財産は、家も含めて処分を彼に任せました。
2割を彼の報酬とし、残りをすべて私が成人するまで預かってもらうことになりました。
報酬の方もいらないと断っていたのですが、そこは私が頼み込んだところ渋々頷いてくれました。
それでも私の心配をしてくれたのでしょう。
彼は3日と置かず、私の様子を見に来てくれました。
さすがに面会に来る人間を拒んでしまえば、怪しまれると思ったのか、彼らは面会の時は体裁を整えて私を彼の前に出すことにしていました。
もちろん、何をされているかなどは絶対に言わないよう脅迫付きでしたが。
ですが、初めから私は何も言う気はありませんでした。
彼は実直な青年ですので、ここの実態を知れば、何かしようとするでしょう。
しかし、ここは一市民が何かしようとしてもどうにもならず、奥底を知れば、彼自身に危険が及びます。
どうもこの孤児院はマフィアの裏の資金源にされつつあるようなのです。
「……そういえば、今日ガマガエルさんがどこかに電話していたんですけど、『とびきりの上玉が手に入ったぜ』と言っていたんですが、誰のことでしょうか?」
「「「オマエだろ(でしょ)っっっ!!!!!」」」
何気なく呟いたセリフにトリプルで突っ込みを入れられて気付きました。
そういえば、私現世では美少女――なんですよね。
あんまりにも前のイメージ強すぎて、忘れてしまうんですけど。
「あのクズ神父! ボレッリファミリーの手下かなんか知らないけど、いい気になって!!」
「落ち着けよ。ともかくエレオノーラ、オマエここから逃げた方がいいぞ。
前もそんな電話をした後に、ここにいた美少女がいなくなったんだ。
あいつらは嫌気がさして逃げ出したんだとか抜かしてたが、売り飛ばされたに違いないぞ」
「……その可能性が高い。
幸いにもオマエには親身になってくれるヤツがいるだろう。
そいつに匿ってもらって、どこか遠くに逃げたらいい。
ここにいても碌な目に合わないぞ」
ここで同室になった彼らは上から順に、赤毛のマリオ、金髪のアデルモ、栗毛のチェルソ(女、男、男)の私(今の)のほぼ倍の年上3人に口々に言われ、考えます。
確かに、私はカルロさんに匿ってもらえばなんとか逃げ切ることができるでしょう。
しかし、それは同時に彼らを見捨てることになります。
加えて、彼らが私に思った以上に執着しているならば、必ず追っ手を放つはずです。
何しろ私は『上玉』なので、金蔓としてはかなり価値があるはずなのですから。
そうなるとたぶんカルロ青年だけでは太刀打ちはまずできないでしょう。
彼はあくまでも一般人なのですから。
もし、ここのマフィアを御せるものがいるとするならば――
「――ねえ、マリオさん。
この地域のマフィアはどこかのマフィアの配下ではないんですか?」
「配下? そうね、確かにこのボレッリファミリーはボンゴレの下部組織のはずだけど……」
「ボンゴレといえば、温厚で通っているのに落ちたもんだよな」
「まあ、組織なんてどこも一枚岩とは限らないだろう。
それに、代替わりをしたことで方針が変わることはよくあるだろう」
……ボンゴレ。
この単語がでてくるということは、やっぱり……。
「……ボンゴレは今、何代目がボスでしたっけ」
「何言ってんの。9代目に決まってるでしょ」
……さすがにもうごまかすことは出来なくなってしまいました。
ここは『REBORN!』の世界でほぼ間違いないようです。
ならば、どうにか温厚で通っている9代目に接触を図るのが私と皆の最善の道になるはず……でしょう。自信はありませんけど。
幸いといっていいのか、私は『死ぬ気の炎』が使えるようです。
それを見てもらえば、彼が興味を抱いてくれるのではないでしょうか。
ただ他の人間に見られてしまえば、私が狙われる確率は跳ね上がります。
しかし――やるしかないようです。
「じゃあ、消灯したらすぐに抜け出せよ。
そのときは俺が腹痛だって騒ぐから。
その隙に、オマエは裏の門から抜け出せ。
結構高いが、まあなんとかなるだろ。道はわかるな?」
アデルモさんに言われて私は頷きました。
一応、見せてもらった地図を必至で頭に叩き込みました。
ここは町から少し離れた丘の上に立っているので、町に辿りつくまで子供の足では1時間はかかるでしょう。
その間に神父たちに気付かれず、私が逃げられるかは歩の悪い賭けではありますが。
皿を片付け、さっさと床に入ります。
電気代の節約なのか、八時にはすべての部屋の明かりが消されます。
月の明るい夜なのは吉と出るか、凶と出るか。
見回りの明かりが、ドアの隙間から照らした瞬間、アデルモさんが騒ぎ出します。
「――いってえ、腹がいてえよ!!」
「ちょ、大丈夫なの!?」
「おい、チーロ、クレート! 早く来てくれ!!」
小太りの男が二人、面倒くさそうに入ってきます。
酒瓶を抱えがらの見回りって……やる気がない人たちですね。
「いってえ、気持ちわりい」
「……食中毒かもしれない。吐いたものに触れば移るから、違う部屋に二人は移った方がいい」
チェルソさんに促され、私とマリオさんは扉から出ていきました。
一緒に出ていこうとした取り巻き二人を、彼らが引きとめています。
私たちはその隙に、隣の空いている部屋に移り、私は窓から逃げることにしました。
「気を付けてね」
「あなたたちも」
窓から外へ抜け出し、植え込みを通り抜け、裏手の門にまわります。
月のおかげで転ぶこともなく、歩けたのは良いのですが。
――って、アデルモさん。この門、思った以上に大きいんですけど。
室内で内職ばかりやらされて、外に出ることができなかった弊害がこんなところで!
門は高く、私のような小柄な子供でもその鉄柵の間を通り抜けることは出来ません。
――いえ、まだ手はあります。
目を閉じ、意識を掌に集中させます。
目を開いた瞬間――ボッと音を立てて私の掌からオレンジと紫の螺旋状の炎が燃え上がっています。
……まぐれでも気のせいでもなかったようです。
その炎を鉄柵に向かって放とうとした時――
「誰だ!」
「きゃっ!」
低い声と共に、私の手首は門の外から伸びてきた大きな手に掴まれました。
ここの神父の上司のマフィアでしょうか?
炎に照らされた独特の髪形をした4,50代ぐらいの男性は、私の炎をみて驚いているようです。
振り払おうとしても、所詮子供の力では無理な話です。
それでもなんとか逃げ出そうとする私を、彼はもう一方の手で肩を押さえ動けなくしてしまいました。
「9代目! 来てください!」
「えっ!?」
その声に焦っていた私は一瞬、頭が真っ白になってしまいました。
よく目を凝らせば、大きな黒塗りの高級車から降りてくる、見知った――いえ、初めて出会うはずの初老の男性が降りてきました。
私の手首を掴む彼と同じように驚愕の眼差しで炎を見つめています。
続いて降りてきた他の守護者(たぶん)達も同じような表情になっていました。
「いったいこれは――」
「……あなたはボンゴレ9代目ですか?」
目を合わせた彼が私の記憶と同じ顔だと確認できると、私はそう切り出しました。
「確かにそうだ。私を知っているのかね?」
怪訝そうな顔に私は軽く頷きました。
彼が目配せすると、男性が手を放し、私は漸く解放されたのです。
「君は――」
「申し訳ありませんが、9代目。そのお話は後にして、先に私のお願いを聞いてもらえませんか?」
「なんだね?」
たった7年の記憶と前世の70年の記憶を思い返し――覚悟する。
「私を買ってください」
彼らがそれぞれの顔で私を見る。
さあ、賽は投げられました。
ようこそ、ただのモブから関係者へ。
9代目出てきました。
孤児院の設定とかはどうなのか、という突っ込みがあるかもしてませんが、スルーしてあげてください。