待っていて下さった方有難うございます。
優しさに涙が出そうになりました。
続きになります。
また、勝手な設定がありますが見逃してください。
SIDE:ガナッシュ
その部屋はマイナス五千度のツンドラ地帯と化していた。
「……………」
「……………」
「……………」
しゃりしゃりとリンゴの皮を剥く音だけが、この静かな空間に響いている。
誰も――と言ってもここにいるのは3人だけだが――言葉を発しようとはしない。
いや、というよりもそのうちの一人が発することを許可しないのだ。
無言の圧力によって。
ベッドに寝ている一人――9代目がこちらを縋るように見ているのが分かるが、俺は綺麗に視線を外させてもらった。
がーんと擬音語が見えるくらいにショックを受けているようだったが、今回ばかりは同情しない。
諦めたように眉を下げ、彼は口を開く。
「………その………エレオノーラ………」
「あ〝あ〝?」
冷気を発したまま、少女にチンピラなど一睨みで凍り付かせるような目で見られ(ご丁寧に威嚇音付きで)、9代目――ティモ兄は涙をこらえた目でこちらを振り返る。
俺は無情にも首を横に振ってやる。
ハンカチで涙を拭う姿をみても、絶対今回は心を動かさないからな。
ここにいるだけでもありがたいと思って欲しい。
他のみんなが『雷の守護者としてすべての災いを受ける避雷針となってこい!』とか言われて無理やりこの場に来させられたのだが、やっぱり来なければ良かったと思う。
真剣に凍り付きそうだ。
思えば、ティモ兄は昔から感情を押さえるということに長けていた。
俺は昔から彼の母親がボスをやっているときから、その配下の部下の子供としてよくティモ兄に遊んでもらっていた。
昔から、物静かであまり怒ることがなく、母親であるⅧ世にも特に我儘というものを言ったことがない人だった。
むしろ俺の悪戯の巻き添えをくらって、一緒に怒られてくれる優しい人だった。
人を傷つけ、殺すことを憂い、極力被害を出さないことを一番とする人だった。
奥方と結ばれた時も、感情を荒げるようなことは一切なく、二人仲睦まじく静かに寄り添うような人たちだった。
つくづく、Ⅷ世の血をほとんど引かなかったんじゃないかと思っていたが、この年になって――なんでこうなった?
はっちゃけるにも程があるだろう!!?
俺が会議の休憩中に家光経由で来たザンザス様の猫耳姿をうっかりみせてしまったのが、そもそも間違いのはじまりだった。
しょーもない理由で気絶したことを言いだせないまま、あれよあれよという間に騒ぎがどんどん大きくなって、ハロウィーンパーティー中の子供たちまで連れて来られてしまったのが一番辛かった。
このしょーもなさすぎる理由により、ザンザス様が初めて号泣し、エレオノーラが怒り狂ったのは仕方がないことだろう。
ぐすぐすと鼻を啜っていたティモ兄が意を決して、口を開こうとして――
「……叔父さま。私が何故こんなに怒っているかわかりますか?」
「……え……えーと……」
先手を取られ、ティモ兄の目が泳いだ。
たぶん、心当たりが多すぎてどれかわからないのだろう。
でも、一番の理由は――
「いいですか。
坊ちゃんの猫耳姿があまりにも愛らしくて、歓喜するのは分かります」
「「………………」」
言いながら、サイドテーブルに皮を剥いたリンゴを置き、切り分け芯を取り除いていくレオ。
「……ですが、そのせいで気絶して尚且つ組織中に知れ渡るような大騒動を引き起こしてどうするんですか?」
「……うう……すまない……」
静かな怒りが込められた声で追及され、しょぼーんとするティモ兄。
それを見てもまったく同情をせず、レオは続ける。
「……それよりも、何よりも――」
ナイフを握る手に力が籠もる。
「――坊ちゃんはそのせいで熱までだしたんですよ!!!!!!」
バキィィッ!!
振り上げたナイフがリンゴに突き刺さり、そのままサイドテーブルまで真っ二つになる。
レオの怒りの度合いが分かりすぎて蒼褪めるティモ兄。
――そうなのだ。
あの後、ザンザス様が熱を出し、寝込んだことによりレオの怒りはピークに達した。
その怒り、冬眠中に起こされたヒグマの如し。
男性陣が本能的に逆らえない程の迫力は、『母性』という女性の持つ本能の為せる業だろう。
実際、ザンザス様を看病している彼女は母親そのものだった。
うんうん唸っている額のタオルをこまめに取り替え、熱が下がるまでの3日間一睡もせずに、弱弱しく『レオ』と呼ぶザンザス様の小さな手を握って、『レオはここにいますよ』と声を掛けているその姿に俺たちはやめろとも言えず、様子を見ることしか出来なかった。
――ああいう時、男は無力だなあと思う。
ザンザス様が全快しても、ティモ兄に会わせないようにレオがしたのは、自業自得だろう。
「ああ、ザンくーん!!
パパンが悪かったよ~~~っっ!!!!」
「泣けばいいってものじゃありません!!
その上、先代たちにもしょーもないこと言ったでしょう!!!」
「しょーもなくないもん!!
ザン君は絶対にボンゴレを継ぐだけの実力があるし、それは皆認めてくれたもん!!」
「それだけじゃないでしょう!?」
「別にザン君がボンゴレ継げば、死んだ後も指輪の中でずっと一緒だっていったら、何故か引かれたけど、それだけだもん!!!」
「あほですか!! 十分に引かれます!!」
もんいうな。
駄々こねるな。
ベッドでゴロゴロするな。
完全に母親に怒られている子供状態のティモ兄を見ているのが辛くて、そっと目を逸らす。
……Ⅷ世があんまり構えなかったから、その反動が今出ているのだろうか。
レオすまん。
しかし、それでか。
要約すると、レオの前にⅠ世とⅡ世が姿を現し、彼女の懇願によりザンザス様は継承者として認められたらしい。
それだけ聞くならば、めでたいことだが、Ⅰ世が『本当にボンゴレを継ぐならば』という、なんとも言い難い言葉を残したらしい。
Ⅵ世の血を引くとはいえ、先代たちが自分の前に現れたことをレオは疑問に思っていたようだが、その疑問は今解けた。
――より、まともな人間に訊いておこうと思ったんだな。たぶん。
先代たちもこのはっちゃけ具合を見て、よほどドン引いたのだろう。
ぶっちゃけ俺も引いた。
Ⅷ世もさぞや頭が痛かっただろう。
ほんとどうしてこうなった?
継がない方がザンザス様のためになるとⅠ世も考えたんだろうか?
「メイドさんたちに坊ちゃんが倒れた本当の理由も言えないし、皆さんが『お父様が倒れたことにショックを受けてしまわれたんですね』と悲しそうに言われるたびに、どれだけ良心が傷んだと思ってるんですか!?」
「うう……」
『猫耳姿をみて気絶しました。』とは言えんよな……。
……本邸の使用人たちに本当のことを告げることも出来ず、ぼかして伝えたが、流石にクレイだけには真実を話した。
クレイとは数十年の長い付き合いだが、彼の目が点になったのを俺は初めて見た。
「叔父さまが原因で坊ちゃんがボンゴレ継げなかったらどうするんですか!?」
「そんなこと認めないもん!!
もしボンゴレを継ぐことを認めないなら、ボンゴレなんて小さなこと言わずに、世界を征服してザン君に継いでもらうもん!!」
「……同レベルか……」
何故か、ものすごく落ち込んでいるレオ。
とゆーか、そんなこと考えていたのか?
……あくまで冗談とか言葉の綾とかだよな……?
真面目にそんなことで世界が征服されてしまったら、どう言い訳すればいいんだ?
というか、9代目は穏健派だった筈なんだが、Ⅱ世より武闘派になってどうするんだ?
――Ⅷ世! 息子が暴走しているんですから出てきて諌めてください!!
『ごめん。無理』
なんか即効で、断られたような気がする。
ああ、もうレオに頑張ってもらうしかないか。
え? 主人を諌めるのも守護者の仕事だと?
――無理だ。
文句があるなら、誰か代わりにやってくれ。
だいたいあの後、9代目が倒れたと聞いて、今がチャンスとばかりに押しかけてきたあほな組織達をぶっ潰したり、他の同盟組織や下部組織の統制とかあって、忙しかったんだぞ、俺達は!
……まあ、怒りの矛先が出来てみんなで凹って魂から忠誠を誓わせたけど。丁度良い八つ当たり対象だったけど。
ビスコンティなんか、一人で2/5以上無表情で凹ってたからな。
本気で怒ってたな、アレ。
まあ、結果的に『9代目には守護者という鉄壁の守りがある』といい方向に皆解釈してくれたようだが……。
世の中結構、勘違いと思い込みで出来ているよな。
「ともかく!!
今回はずえったい許しませんからね!!!
二週間は坊ちゃんとは面会謝絶です!!!!!」
「そんなああああっっっ!!!
ザン君の可愛い顔や仕草や寝顔を見れなくて、2週間も過ごせと!?!?」
「過ごしなさいっ!!」
「いやじゃあああああああっっ!!!
レオひどい~~~~~~~~っっっ!!!!」
……この年でひっくり返って足バタバタさせてるティモ兄見るなんて……なんの罰ゲームだ……?
「ひどくありません!!
ともかく叔父さまが寝込んでる間に、守護者さんたち中心に迷惑かけまくったんですから、後始末が終わるまで、坊ちゃんとは会わせませんからね!!!」
「そんな!!
………………ザン君が愛らしく儂を呼ぶ声すら聞けずに2週間も過ごせと………………!!!」
ベッドの上に、手をついて愕然と呟く9代目。
その程度で済んで良かったと思う俺は薄情なのだろうか?
腰に手を当て、9代目の落ち込み様を見て、ふぅと嘆息するレオ。
「……その代わり、きちんとすべての仕事を終わらせたら坊ちゃんが一緒に遊園地に行ってくれるそうです」
「なんじゃと!?」
あ、復活した。
むしろ、いつもより生気が漲っているというか――死ぬ気の炎燃やしてないかアレ?
「坊ちゃんの天使っぷりに感謝してください!!」
「ザン君は天使じゃあっっ!!!」
一転して小躍りしそうなくらいはしゃいでいるティモ兄。
あんなことがあってショック受けたはずなのに、一緒に遊園地か……。
確かにザンザス様は天使かもしれん。
「ですけど、全部の仕事が終わってからですよ!
わかりましたね!?」
「どんな仕事でも、完璧に終わらせてみせよう!!!」
ベッドの上に仁王立ちになって、燃えている。
というか、死ぬ気の炎全開状態。
いまだけなら初代も超えるかもしれない――ってオイ。
レオが半眼のままオレに目配せしてくる。
『3か月分の仕事押し付けておいてください』
――了解。
俺が頷くと、奇跡的に割れた皿から零れ落ちることがなかったリンゴを渡され、退出するレオ。
飴と鞭は完璧と言いたいところだが、今のティモ兄はその程度罰にもならんような気がする。
ちなみにリンゴは猫さんに剥かれていた。
そのリンゴを半ば無意識に咀嚼しながら、横で燃えているティモ兄を眺めつつ、早くザンザス様といけにえ――もとい、守護者に押し付けて引退したいな俺は嘆息した。
SIDE:レオ
まったく9代目ときたら。
確かにもうちょっと親子仲良くなればいいなー、と思っていたけどここまで親バカというか、バカ親になるとは思いませんでした。
『原作』の不器用な父親ぶりはどこいったんだろう……?
今の9代目を『原作』の9代目が見たら、目が点になりそうですよね。
『原作』の坊ちゃんが見たら、憤怒の炎ぶちかましそうです。
今度あんなことやったら、実家に帰る――ことは出来ないので、ビスコンティさんの別邸(動物屋敷)に立てこもってやる!
……でも坊ちゃんは本当に天使です!
あんなことがあってとてもショックを受けたはずなのに、自ら遊園地に行ってもいいと仰るとは!!
坊ちゃんマジ天使!!!
一日マフィアランド貸し切ってもらって、コロネロ大佐に警備頼んでみましょう。
今回のラル教官の魔女姿や、以前バレンタイン教室で出し惜しみしたエプロン姿で交渉すれば1日くらい警備やってくれるでしょう!!
私ならやる。
そうと決まったら早速電話を――ってあら?
「坊ちゃんどうされたのですか?」
「レオ」
ひょこひょことこちらに向かって歩いてくる小さな主人に、首を傾げます。
私に何か用があったのでしょうか?
目の前まで歩いてきたのを見て、その背後にマーモン師匠がいることにようやく気付きました。
「師匠まで、どうかされたのですか?」
私が視線を合わせるためしゃがむと、坊ちゃんの口がニヤリと曲げられました。
――え?
「やれ! マーモン!!」
「やれやれ、報酬は口座に振り込んでおいてよ!」
突如として藍色の炎が私を襲いました!
しかし、それはすぐに収束し、消え去ります。
思わず庇った腕を下ろすと、二人の視線が私の――頭上に集中しています。
「――な、なんです?」
「よっし! 成功だな!!」
「ムム。まあまあの出来だね」
「はい?」
坊ちゃんが手を伸ばし、私の頭を撫で――って頭じゃない?
何か違和感が……?
……まさか……。
ある認めがたい事実に気付き、ポケットの手鏡を取り出し覗き込みます。
……見たくない……けど……
恐る恐る頭のてっぺんを見ると、ぴくぴくと動く黒い三角の耳が…………
坊ちゃんがドヤ顔で腰に手を当てている中で、私は熱いものが目に溢れてくるのを感じました。
途端に坊ちゃんがぎょっとしました。
「……坊ちゃん……酷いです……」
「……何がだ……?」
私は踵を返して走り出します。
坊ちゃん酷い!
「猫耳には年齢制限があるんですよ―っっっ!!!!」
81歳に猫耳はきついんですよ~~っっっ!!!
「なんでだよ!!??」
――◇――◇――
部屋に駆け込んで、毛布をかぶってぐすぐすしていると、扉の開く音がしました。
ベッドに飛び乗ったのかギシギシと音を立てて近づいてくる小さな人影。
「……オイ。
まだ、泣いてんのか?」
「……泣いてませんよ……」
どこか罰の悪そうな声音に私は毛布から顔を出しました。
既に涙は乾いています。
まだ、頭上には猫耳があるせいで、被った毛布を外したくはありませんが。
起き上がると、坊ちゃんに毛布を剥ぎ取られました。
あ!
「坊ちゃん!」
「別に似合ってんだから問題ないだろ」
「いえ、そういう問題ではなく……」
――81歳に猫耳は精神的にキツイのです。
坊ちゃんに頭上の猫耳を丁寧に撫でられます。
流石にマーモン師匠が作った有幻覚であって、私にもその撫でられた感触が伝わってきます。
気持ちいいのですが、少しくすぐったいです。
尻尾が少しゆらゆら揺れているのを感じます。
しばらく撫でて、ようやく満足したのか坊ちゃんが私の前に座り込みます。
じっとルビーの瞳に見つめられ、首を傾げます。
「坊ちゃん?」
「オイ、レオ」
「はい」
「オマエ、あの夜に何があった?」
「…………えーと……」
あの9代目の騒ぎから有耶無耶になっていたことをとうとう訊かれました。
えっと、ほんとのこというべきでしょうか?
「テメエは気付いてないかもしれねーが、あの日からオマエはずっとなんか悩んでるだろ?」
「……え?」
意外なことを言われて、ぽかんとしました。
悩んでいる? 私が?
思い当ることは…………ないこともないか…………。
どことなく自分が発した台詞に居心地の悪そうな顔をしている坊ちゃんに向き直ります。
それにしても――
「……良く気づきましたね。坊ちゃん。
私自身もなんか色々あったせいで、後回しにしようとしてたのに」
「フン。部下の変化にも気を掛けておくのは『王』の務めなんだろ」
照れたようにプイと横を向く坊ちゃん。
この小さな『王』の前では私ごとき小物が隠し事をするのは無理そうです。
あの日から私が気になっていることは――
「……あの日、ある方に坊ちゃんの傍に私がいることは坊ちゃんの可能性を奪い、ボンゴレに縛りつけていると言われました」
「…………」
あの日、Ⅰ世に指摘されたそれは、ずっと私の心に棘となって刺さっていました。
私は坊ちゃんの傍にいるべきなのか。
いていいのか。
そんな思考が坊ちゃんの看病をしている間にもぐるぐると回り続けていました。
9世の暴走はともかく(アレは私のせいだけじゃないと思います)、坊ちゃんが持つ可能性を狭めているとしたら、私はやはり傍にいるべきではないのでは。
――そんな考えが頭を過っても結局のところは、私はこの方の傍にいたいのです。
「……坊ちゃん、私は坊ちゃんの傍にいてもいいですか?」
「…………」
私に縋るように問われて、坊ちゃんは――大きく溜息を吐きました。
「……坊ちゃん?」
「……レオ……」
「……はい……」
坊ちゃんが口を開きます。
「――バカかオマエ」
「……え……?」
え? こんなに悩んだ私に対してその仕打ち?
酷いですよ、坊ちゃん!!
私の非難の視線も何のその。
呆れを多分に含んだ視線を向けながら続けます。
「オマエが俺を好きになることが俺を縛るだ?
笑わせるな。
俺がたかだか女一人に自分の意思を振り回されると思うのか?」
「……え…………と……」
……そういえばそうですよね。
坊ちゃんがたかだか私一人の感情に振り回されるか?
答えは否。
そうですね、一般人ならともかく坊ちゃんは未来の暴君様ですし、そんなことあり得るわけありませんよね!
やだ、私ったら自意識過剰。
Ⅰ世に言われたとしても、もう少し思考を柔らかくもたないと。
恥ずかしいですね、まったく。
それにしてもたった一言で私の不安を吹き飛ばしてしまうなんて、さすが坊ちゃん!!
「……何笑ってやがる」
「ふふ。坊ちゃんはすごいなあと思いまして」
「当然だろ。
俺は『王』なんだからな」
フフンと得意げに笑う坊ちゃん。
やだ、そのドヤ顔写真にとっていいですか?
「でもな、レオ」
「はい?」
「オマエが俺を好きだろうが、嫌いだろうがどうでもいいがな。
オマエは俺の部下なんだから、どっかに行っても絶対俺の処に戻って来いよ」
「え?」
唐突な台詞に戸惑っていると、これ見よがしに溜息を吐く坊ちゃん。
「テメエはほっとくと、一人で悩んでいきなりどっか消えそうだからな」
「そんな坊ちゃん」
こないだのことは不可抗力なんですが。
「誓え、レオ」
「御意に。私の『王』」
差し出された小さな手の甲にキスすると満足そうに、唇の端を上げる坊ちゃん。
その愛らしくも不敵な笑みに、私の今まで抑えていた感情が爆発しました。
「えい!」
「な――にしやがる!!」
藍色の炎が坊ちゃんを包み、そして世界で一番愛くるしい生き物――ニャンザス様が誕生しました!
心の赴くまま坊ちゃんに抱き付いて、耳を撫でまくります。
「坊ちゃん可愛いですうううううぅぅっっ!!!」
「テメエ、レオ! 元に戻しやがれ!!!」
「嫌ですっ!!
もう坊ちゃんを私が好きでもいいっていってくれましたし、私はこれから心の赴くまま、坊ちゃんを愛でますっっ!!!」
「そういう意味じゃねええええっっ!!!!」
「坊ちゃん、来年はホワイトタイガーで、再来年はキジトラニャンコになりましょうねっ!!!」
「テメエェ! もうちょっと落ち込んでろ!! このドカスっっっ!!!!!」
落ち込んでいる暇がもったいないので、拒否します!!
SIDE:ザンザス
俺が問いかければ、柳眉を下げ、頼りなげな顔をするレオ。
コイツのこんな表情は初めて見た。
理由を聞けば、バカじゃねえかと思ったが。
女の感情一つで、俺が本気で振り回されると思ってるのか?
ふざけんな、このドカスが。
テメエはそんなこと心配せずに、ずっと馬鹿みたいにいつも笑ってればいいんだ。
それより今回のこともそうだが、コイツはなんかどっかふらっといきそうだからな。
……何故かコイツを見てると、何かの役目を終えたら俺の目の前から消えるんじゃないかという、漠然とした予感のようなものが過る。
――させるかそんなこと!
勝手に俺の隣に立ったくせに、勝手にいなくなるなんて絶対許さねえ!
「誓え、レオ」
「御意に。私の『王』」
手を差し出せば、柔らかく暖かな感触が押し付けられる。
これが俺とレオの二度目の誓いだった。
「えい!」
――って何しやがる!!
また間抜けな猫耳姿に抗議されてもどこ吹く風で、全力で俺を抱きしめて笑ってるレオに、ほっとしてるなんて、俺はぜってえ認めねえからな!
先祖も引かせる9代目。
勿論、Ⅰ世が出てきたのはそれだけではありませんが。
別名、『逃げろヴァリアー』。
未来の坊ちゃんの部下たちの苦労が目に浮かびます。
なお、二人が猫耳姿で戯れているところはマーモンが写真に収めて9代目に売りつけました。
うっかりボンゴレの今期の予算すべて出しそうになったところを、ガナッシュに止められたというオマケがあります。
次回の話で幼少期編は終わりとなります。
あ、何回かありますが。