暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

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随分間が空いてしまいました。

リアルがちょっと忙しくて。
評価ありがとうございます。

続きになります。



ハロウィーンの夜に ④

 

 

 

――まさか、まさか、まさか。

 

 焦燥に急き立てられながらも、白い廊下を駆け抜けます。

 白衣の男女と何人かすれ違いますが、こちらの必死の形相を見たためか誰も何も言わず見送っています。

 坊ちゃんは家光さんに抱きかかえられたままでも、文句を言わず――いえ、言う気すら起こさず無言のまましがみついています。

 もしかしたら、私というイレギュラーがいることにより、こんなことが起こる可能性もあるんじゃないかと思っていましたが……

 目的地のドアを乱暴に開けると、室内に飛び込みます。

 

 そこにはベッドに横たわる9代目と、目を赤くし、泣きじゃくる守護者たち。

 

 ……そんな……まさか……。

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 何があったか聞きたがる皆を宥めて、他の4軒の孤児院を回ることを優先してもらいました。

 全てが何事もなく終わってから、漸く車の中で先程のⅠ世との会話を思い返しました。

 坊ちゃんは流石に疲れたのか、私の膝の上でぐっすりと眠っています。

ぎゅっと抱き付いて眠る様はまるで、私がどこにもいかないように留めているかのようです。

 猫耳が時折ぴくぴくと動いているのが愛らしすぎます。

 未だに猫耳は消えることなく坊ちゃんの一体化しています。

 本気でやれば一年ぐらい実体化できるんじゃないかと思います。

 マーモン師匠は『なんで君無駄過ぎるチートなのっ!!!???』と絶叫されてしまいました。

 それはともかく。

 ラル教官は私の右に、マーモン師匠は、今度は私の左脇に凭れて眠っています。

 なんでも『リボーンに凭れるなんて万が一もイヤだよ!』とのことでした。

先生は私の前で寝ています。

 ふふ。みんな可愛い。

 いつもならばもっとテンション高く、この光景をカメラに納めているのですが、流石にそういう気にもなれず、流れる街並みをぼんやりと眺めながら考えます。

 先刻は世界征服なんて中二病的発想を口に出してしまいましたが、幾分冷静になってみると、なぜⅠ世が私のようなものの前に現れたのかという疑問が湧き上がってきます。

 私が『特別な存在』なんてことはあり得ないでしょうから(特殊ではありますが)、9代目の説得だけでは足りなかったから、Ⅵ世の子孫である私からも話を聞いてみようとした、というところが妥当でしょうか。

 ……しかし正直なところⅠ世が、坊ちゃんが後継者になることを承認してくれるとは思いませんでした。

 今でもあれは夢だったのではないかと、私自身が疑いを持つほどです。

 けれども、実際に私があの場から消えていたことは事実であり、あの2人の存在感は私の心に刻まれていました

『原作』ではⅠ世はボンゴレがここまで大きな組織になることを望んではいなかったようです。

 だからこそナス――もとい、D・スペードと袂を分かつことになったのですから。

 しかし、ここはあくまで『原作』とよく似た『異世界』だと過程するならば、彼が坊ちゃんを後継者として認めることもあり得る……でしょうか?

 確か『原作』では継承するには超直感とボンゴレファミリーが権力の追及により犯してきた業を引き継ぐ覚悟が試された筈。

 後者はともかく、前者はどうでしょう?

 超直感という感覚が私にはピンとはこないのですが、常人を遥かに凌ぐ直感力というならば、坊ちゃんも十二分に持っていると思います。

 ……Ⅱ世は特に何も言いませんでしたが、もしかしてほんの僅かでも坊ちゃんはどこかでボンゴレの血を継いでいるのでしょうか?

 私のように正式には結ばれなかった血が坊ちゃんの中で受け継がれているとか?

 それともⅠ世は坊ちゃんが、自分がかつて率いていた組織と同じ理想を叶えてくれるを感じたとか?

 ……流石に自分でも苦しいとは思う理屈付けなのですが。

 それにⅠ世は『本当にボンゴレを継ぐならば』という、不安要素満載な台詞を置いて行って下さったのですから。

 ……前世の知識を持っているというのも意外と面倒なものです。

『原作』と違う行動を取られてしまうと、何か裏があるのじゃないかと邪推してしまうのですから。

『坊ちゃんが後継者として相応しいと認められた!』と喜ぶことができないのです。

 

「……眠らないのか、レオ」

「先生、起こしてしまいましたか?」

 

 いつの間にか、静かな視線が私に向けられていました。

 小さな赤ん坊にしか見えないのに、私を気遣う穏やかな眼差しはささくれだった心を鎮めてくれます。

 

「……何も喋りたくないなら、無理に言う必要がねえが、吐き出したいことがあるのなら聞くぞ」

「……本当に先生は世界一イイ男ですねえ……」

 

 突き放すこともなく、押し付けることもなく、ただ支えてくれるような優しい言葉。

 彼に夢中になる女性が後を絶たないことが良く分かります。

 

「……少し、知識をもっていることに、息苦しくなっただけです」

「……知っているからこそいえない、ということにか」

「………………」

 

 無言を肯定とします。

 私自身、先生やヴェルデ博士に話したことを今になって、本当に話してよかったのかと自問するときがあるのです。

 すでに私というイレギュラーがいるということで、私が知っている世界とは違います。

 それは事実です。

 しかし、それが良い方向に向かえば良いのですが、逆に悪い方向に転じることもあるでしょう。

 その影響がどの程度の大きさなのか、その可能性を考える度に不吉なものが胸を過ぎることがあるのです。

 かつてヴェルデ博士は私に言いました。

 

「どんな道を進むにせよ、その道を進んだことで回ってくる『ツケ』がお前にはあるかもしれない」

 

 あの時私は『覚悟』を決めなくてはと思いながらも、本当の意味ではこの言葉の重大性を考えていなかったのです。

 私の存在が悪い方向で『原作』の登場人物を変えてしまうことだってあるでしょう。

 バタフライ現象は本当に些細なことで起こるのですから。

 一度抱いた不吉な予感は拭うことが出来ず、胸元の坊ちゃんを抱きしめます。

 少しむずかるような声をあげ、目を覚ますことなく胸に顔を押し付けてくる坊ちゃん。

 

 ――坊ちゃんを幸せにしたい。

 

 そうⅠ世に告げた言葉は真実です。

 ですが、Ⅰ世はその言葉の裏に僅かに込められた私の気持ちも気付いていたのでしょうか。

 坊ちゃんが後継者として認められるのならば、『ボンゴレの血を引いていない』ことを告げなくても良いかもしれないと思ったことを。

 私はかつて9代目に進言しました。

 彼が坊ちゃんの本当の父親ではないことを告げるようにと。

 伝えないことは後々、悪影響を与える可能性があるのは確かです。

 ですが、時が立つほどにその真実を告げることが正しいのか迷ってしまいました。

 要するに私は怖くなってしまったのです。

 

 ――坊ちゃんに嫌われたらどうしよう。

 

 その一点を回避したくて、私はご先祖様たちに坊ちゃんを後継者として認めて貰うことに躍起になったのかもしれません。

 ……嬉しそうに私を見つめてくるあの瞳に憎悪が籠ったらと思うと、涙が出てきそうになります。

 この弱さは子供の身体に精神が引きずられているのでしょうか。

 9代目なんか、ショックのあまり世界を滅ぼしかねません。

 ……こんな不純な動機が僅かでも混じったことに自己嫌悪を感じてしまいます…… 

 

「……私は、本当に皆さまと出会って良かったのでしょうか……?」

 

 独り言のような疑問に、先生は帽子のつばをクイと上げて、

 

「――オマエは会わなかった方がいいと思うのか?」

「いいえ」

 

 それには即答しました。

 いまや私にとってここは漫画の世界ではなく、エレオノーラの現実です。

 彼らに出会えたことを後悔などするはずがありません。

 

「なら、いいじゃねえか。

 少なくとも俺はオマエに会えてよかったと思うぞ」

「……先生……」

 

 欲しい言葉を的確に言ってくれる彼に、漸く私も笑みを浮かべることができます。

 その時――

 

「レオ、起きてるか?」

「はい。なんでしょう?」

 

 こちらとのしきりとなっているガラス戸をずらし、家光さんが顔を覗かせます。

 ……何かあったのでしょうか……?

 その顔にはいつもの快活な笑みはなく、眉根を寄せ、何かを言いあぐねているかのようです。

 

「何かあったのですか?」

「……いや、それがな……」

 

 続きを躊躇う彼の珍しい姿に嫌な予感が過ります。

 合わせた視線は真剣な色を帯びていました。

 

「……9代目が倒れたらしい」

「なっ!!」

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇ 

 

 

 正直あの後はどうしてここまで来たのか覚えていません。

 急遽空港に向かい、自家用機で9代目達が会議を行っている場所へ行ったらしいのですが、その間私は喋ることも出来ず、無言のまま祈り続けていました。

 

 どうか9代目が無事でありますように――とそれだけを。

 

 しかし、駆け込んだ先で見たものは横たわる9代目と目を真っ赤に腫らした守護者たち。

へたり込みそうになる自分を抑え込み、比較的話の出来そうな雲の守護者のビスコンティさんに、縋りつきます。

 

「び、ビスコンティさん。

 ……きゅ、9代目はどうしたのですか……?」

「……………………」

 

 いつもならば、寡黙でありながらも私の疑問などにはすぐに答えてくれる彼が、耐え切れないといわんばかりに、そっと視線を外しました。

 

「どうしたのですか!!

 叔父さまはいったいどうしたのです!!!」

 

 思わずジャケットを掴んで揺さぶり答えを聞き出そうとします。

 

「……そのくらいにしといてやれお嬢ちゃん」

 

 振り向けば、白衣姿の青年が苦々しい顔で立っていました。

 ……どこかで見たことが……?

 

「シャマル!

 おい、どういうことだ!

 9代目はどうしたんだ!!」

 

 ! Dr.シャマル!

 医者としての腕は超1流の彼がこんな顔をしているなんて……叔父さまは……

 家光さんに肩を掴まれ、問われても彼は言葉を探すように言いあぐねています。

 

「……いや、それがな……」

 

 ちらり、と坊ちゃんを見て眉を顰める彼に疑問を抱きます。

 ……坊ちゃんには聞かせられない内容なのでしょうか……?

 ……それとも坊ちゃんに関わることで何かされたとか……?

 私が考えたようなことも坊ちゃんも思ったのでしょう。

 キッとDr.シャマルを睨みつけると、家光さんを促し、床に降ります。

 

「……言えよ。俺が関係してるんだろ」

「……いいのか……?」

 

 男に対しての気遣いなどどうでもいいと明言する彼が、躊躇っています。

 ……そんなにも9代目の容体は悪いと……?

 身体の奥から震えるような冷たい予感が湧き上がってきます。

 確かにどんなツケでも払う『覚悟』はしていました。

 でも、でも、でも!

 こんなのは嫌です!

 9代目! 坊ちゃんを置いていかないでください!!

 視線を合わせるのが辛いのか、床に視線を落としたまま――

 

「……実はな。その……」

「いい。Drシャマル。俺が話す」

 

 話し出そうとしたDr.シャマルを遮り、沈痛な面持ちのままビスコンティさんが進み出ます。

 静まり返った場で、彼が重い口を開きます。

 

「……実は9代目は……ザンザス様の猫耳姿を見て気絶した……。」

 

 ………………………………………………………………は?

 

 私達の脳が言葉の意味を処理しきれないまま、ビスコンティさんは顔を歪めて続けます。

 

「……具体的に言うと。

 メールで送られてきたザンザス様の猫耳姿をみて狂喜乱舞して床を転げまくっていた9代目に、我々が目を離した隙に飾ってあった壺が落ちてきて、ちょうど急所に激突されて気絶したところに傘下の幹部が入ってきて大騒ぎになった……………。」

 

 尻すぼみになっていく言葉が脳内に浸み込んでいき――

 

「「「「「「あほかあああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!!!!!!」」」」」」

「うわああああああああああああああああああああああああんっっ!!!!!!!!」

 

 ああ!

 しかも坊ちゃんのしっぽと猫耳がぺたんとなってすごくかわい――じゃなかった!

 可愛そうなことにっっ!!!

 

「ああ、坊ちゃん泣かないでください!」

「ふわああああああああんんっっっ!!!」

 

 泣きじゃくる坊ちゃんを抱き寄せ、あやしていると小さな手の感触が足の方に3つ。

 下を見れば、憐れみを込めた眼差しで首を振るアルコバレーノ3人。

 

「……こればっかりは仕方ねえ……」

「うむ。いかに生意気なガキとはいえ、泣きたいときはある」

「……そうだね。今回ばかりは金をもらわなくても同情するよ……」

 

 思いっきり同情を込めて言われて、頭を掻き毟りたくなります。

 

「――ってか何か!?

 守護者どもが泣いてるのって情けなくてないてんのかよ!?」

「……ああ。

 偶々俺も世話になってる組織に見てこいって言われて来たら、事情を渋々説明されて脱力したぜ……」

 

 そりゃするわ。

 守護者さんたちが躊躇う理由がどうしようもなく分かりすぎて涙も出てきません。

 こんなこと言えるか!!!

 皆の視線が怒りに転じて9代目に向かう中、よく見れば無駄に安らかな顔のまま――

 

「……ザンくん……ラブ……!!」

「「「「「「「「「「「「「………………………………………………」」」」」」」」」」」」」」」」

「うわあああああああああああああああああああんんん!!!!!!」

 

 ぶち。

 …………うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……………。

 

「物理的に消しましょう。」

「落ち着けレオ!!」

「気持ちは分かるが考え直せ!!!」

「ちょ、レオ様落ち着いてください!!!」

「止めなよ! 1ユーロの得にもなんないよ!!」

「エレオノーラ落ち着け!!!」

 

 坊ちゃんの泣き声に触発されて、死ぬ気の炎を右手に込めはじめた私を皆が寄ってたかって止めたため、結局、9代目は無事でした。

 

「私の苦悩と祈りの時間を返せえええええええっっっ!!!!!!!」

 

 

 

 





この小説は8割はシリアルで出来ています。

9代目が出てくると何故かギャグになってしまう……。
いつかはシリアスもでてくる。たぶん、きっと、おそらく。

イタリア語で大好き、愛してるTi voglio bene(ティ ヴォリォ ベーネ)だったのですが、長すぎるのでラブになりました。

シャマルはこのとき医者になってんのは早すぎんじゃないかとも思いますが目をつぶってくれるとありがたいです。

あと後日談を書いてこの話はお仕舞になります。
次は1週間後ぐらいにはあげられるといいなあ……

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