暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

16 / 32
お待たせいたしました。

皆さま評価、感想有難うございます。
増えてると『やらねば、書かねば』と思います。

この頃小ネタが溢れています。
ニャンザス様が教師だったら、とか設定考えると楽しいです。
まったく授業をしないニャンザス様。
しかし、テストで80点以上だと猫ぱんち。
100点だと耳を触るのを許可する。
全教科満点だと一日ぎゅっとしてよし。
主人公は全教科満点を死ぬ気で取ります。
皆さんはどうですか?

全開唐突に出てきたⅠ世。
今回はねつ造を更に弱火にかけてじっくり煮込んだねつ造具合です。
それでも良い方はどうぞお進みください。


ハロウィーンの夜に ③

SIDE:ザンザス

 

「……坊ちゃん……」

 

 大きな緑の瞳が潤んでいる。

 それをみて俺の心臓が大きく跳ねた気がした。

 俺の知る限り、レオがこんな表情を見せたことはなかった。

 それが今にも泣きだしそうな、頼りなげな顔でオレを見つめている。

 どうした?

 何があった?

 そう問いたいのに声が出ない。

 いつの間にか消え、いつの間にか帰ってきたレオに疑問をぶつけたいのにそれが出来ない。

 ただ――コイツが自分から言い出すのを待つしかできない。

 と、レオが動く。

 そっと俺の肩に手をのせ、真剣な表情のまま口を開く。

 知らず、俺の喉が嚥下する。

 緑の瞳に力が籠もり――

 

「坊ちゃん! 世界征服しましょう!!」

「何があった!?」

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 ハロウィーンは、古代ケルト人が起源と考えられている祭りのことで、もともとは秋の収穫を祝い、悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事です。

日本で言えばお盆と似たような感じでしょうか。

そう考えるならば、『死者』である彼が現れたことは確かにおかしくはないかもしれません。

しかし、何故?

 呆けたように私はただただ目の前の人物を見つめます。

 そっくりさん、ということはないでしょう。

 こんな存在感を持つ人がそうそういるとは思えません。

 肖像画よりも三割増しの美貌で微笑まれます。

 普通の人ならばぽーっとするのでしょうが、それよりも私には不安の方が勝ってしまいました。

 彼ほどの人物が何をしにここへ?

 ――は!

 もしや、坊ちゃんのあまりの愛らしさにご先祖さま達が結束して、指輪の中に連れて行こうとしているのでは!!

 分断されたのは私だけでなく、他の皆も分断されていたら!!

 坊ちゃん!

 いかに初代ボンゴレの王といえども、坊ちゃんを連れていくのならば容赦は致しません!

 刺し違えてでも、坊ちゃんは守ります!!

 私が悲壮な決意を固めて、改めて対峙しようと構えると、少し困ったように首を傾げるⅠ世。

 

「そんなに警戒しないでくれないか」

「……………………」

「何をやっている」

 

 まだ構えを解かずにいる私と困惑しているⅠ世の傍に、もう一つの人影が現れ、その姿に私は息をのみました。

 

「――Ⅱ世」

 

 Ⅰ世の呼称に彼らが本物だと私は確信しました。

 ボンゴレⅡ世。

 言わずと知れた坊ちゃんによく似た、ボンゴレをここまで発展させた方です。

 鋭い視線をこちらに向けます。

 坊ちゃんが30年ぐらい年を重ねた野性的なハンサムですが、瞳の色が青く、其処だけが坊ちゃんとは違います。

 ――ああ、坊ちゃんもこの頃にはきっと結婚とかして、子供も3人位いるんだろうなあ。

 その姿を見てみたかった!!

 あ……想像したら涙が……

 

「な、なぜ泣く!」 

「……お前の目つきが怖かったのではないか?」

「喧しい! ほら、泣くな」

「あ、すみません」

 

 白いハンカチをしゃがみこまれて押し付けられ、涙をふき取ります。

 どこか焦ったような顔のⅡ世は話に聞くよりもいい人に見えます。

 ――というよりもなんか、苦労人臭が漂っているような気が……。

 偶然触れた手は温かく、彼らが死者だということが信じられなくなります。

 確かにハロウィーンは死者が現れる夜です。

 しかし、こんな大物が跋扈しているのを見られたら、かなりの騒ぎになってしまうのでは?

 

「我々はそう簡単に生者の前には姿を現さないよ」

「……え……ではなぜ……?」

 

 私の心を読んだかのような答えに、目を瞬かせて問えば、静かにⅠ世が告げます。

 

「正確には俺は呼び寄せられたのだろう。

 君を見てわかった。

 俺は君に会うために出てきたのだろう。

Ⅵ世の子孫。

 ――名前は何という?」

 

 そう問われ、自分が名前すら名乗っていなかったことに気付きました。

 慌てて膝を付き、跪く形をとります。

 

「申し遅れました。

 ボンゴレⅥ世が子孫、エレオノーラと申します。

 偉大なるボンゴレⅠ世、Ⅱ世にお会いできて光栄の極みでございます」

「そう堅苦しくならなくて良いよ、エレオノーラ。

 愛称は何かな?」

「レオと呼ばれています」

「では我々もレオと呼んでいいかな?」

「光栄です」

 

 お許しが出たため顔を上げ、立ち上がります。

 柔和な笑みと厳しい表情、対照的な二人を前に私は疑問を抱きます。

 何故私にこんな大物二人が?

 

「……9世への用件の間違いではないのですか?」

「違うよ。間違いなく俺達の用があるのは君だ」

 

 断定され、覚悟を決めます。

 この二人が私のような者になんの用が?

 疑念の視線を送れば、Ⅱ世が溜息交じりに応えてくれました。

 

「――正直、俺は何故この場に来たのかわからん。

 だが、コイツが何かを予感したから出てきた。

 それだけだ」

「…………予感…………ですか…………?」

 

 Ⅱ世に睨むような視線を送られたⅠ世は、動じることなく佇んでいます。

 初代ボンゴレの予感といえば、ほとんど未来予知と言ってもいいものでしょう。

 しかし、それを何故私に告げにきたのでしょう。

 

「今世の10代目候補者は、随分と可愛らしいな」

「――は? え、え!

 坊ちゃんはとっても可愛いですよ!!」

 

 一瞬、何を言われたか分からず戸惑いますが、反射的に肯定します。

 坊ちゃんの愛らしさは、時代を超えるのです。

 

「それになかなか優秀らしいな」

「はい! その通りです!!」

 

 また坊ちゃんを褒められて嬉しくて、即座に返します。

 琥珀の瞳に黄金の炎が揺らめき――すっと細められます。

 

「――だが、ボンゴレの血は引いていない」

「…………ええ。その通りです」

 

 冷水を浴びせられたかのように、瞬時に思考が冷えました。

 

 ――上げて落とすなんてひどいですね。

 

 顔を引き締め、Ⅰ世と向き直ります。

 月明かりに照らされた柔和な笑みも、優しげな雰囲気も何も変わっていないはずなのに、その存在感だけが増した気がします。

 ……これが初代。

 ボンゴレを創設し、子孫から『王』と崇められている存在。

 冷たい汗が背を伝います。

『原作』と同じならば、彼は200年という年月を重ねている筈。

 エレオノーラとしての十数年と■■■■としての70年を合わせても、彼にとって私はまだまだひよっこでしょう。

 駆け引きが通じる相手ではありません。

 だから私が出来ることは――

 

「……確かに坊ちゃんはボンゴレの血はひいてはいません」

 

 もしかしたら、Ⅱ世の血を僅かでも引いているのではないかという期待もしましたが、今の時点でⅡ世が何も言わないのならばその可能性も薄いでしょう。

 

「ですが、坊ちゃんは今世の候補者の誰よりも優秀です。

 それはお二人の正統なる後継者であるボンゴレ9世もお認めになっています」

 

 既にその『王者』としても資質も、皆に知れ渡っています。

 ボンゴレ内でもザンザス様を支持する派閥は段々と大きくなっています。

 

「『血筋』というものに頼り切るには、このボンゴレは大きくなり過ぎているかと思います。

 より優秀なものが継ぐということは理に叶うことではないでしょうか」

 

 夜風が私の頬を撫で、夜気が体温を奪っていきます。

 それでも緊張で心臓はドクドクと脈打ち、熱が冷めるということはありません。

 黙したまま私の言葉を聞いていたⅠ世が、ゆっくりと口を開きます。

 

「だがいかに優秀といえども、『ボンゴレの血筋ではない』。

 それだけですべての意見が覆ってしまうのも確かではないか?

 それはまた新たな争いを生む可能性がある。

 それを踏まえて尚、彼をボンゴレの後継者にする必要があるというのか?」

 

 全てを見透かすような金の瞳に射抜かれて、全身が総毛だちました。

 ――確かに、Ⅰ世の台詞はすべて事実です。

『ボンゴレの血筋ではない』

 それは全ての意見を覆してしまう最凶の言葉。

 坊ちゃんを支持する私たちにとっては、永遠に消してしまいたい真実です。

 気持ちを落ち着けるためにゆっくりと息を吐き出します。

 

「……9代目が彼を正統後継者と認めたという理由では足りませんか?」

「――足りないな。

 彼はボンゴレに来なくても、いずれ大成するだけの器があるだろう。

 それでも彼はここに来てしまった。

 我が子孫の勝手な思惑で。

 そして、レオ――君が彼を更に縛っている。

 愛情という名の鎖によって」

「……え……」

 

 その指摘は私の心臓を掴みました。

 私の存在が坊ちゃんを縛っている。

 それは、それは………………

 

「……………………そう、なのかもしれませんね…………」

 

 吐き出された言葉は我ながら、苦痛に満ちていました。

 私がボンゴレにいる以上、坊ちゃんはボンゴレから離れようとはしないでしょう。

 初めて触れた『優しさ』や『愛情』を注いでくれる人を、子供は無条件で慕うものです。

 坊ちゃんもそれは例外ではないのでしょう。

 私が坊ちゃんを『好き』であることが、彼の可能性を妨げているのかもしれません。

 ですが――

 

「――坊ちゃんは聡明な方です。

その身にボンゴレの血を引いていなくとも、彼は既にこのボンゴレの行く末を真剣に考えています。

 争いが生まれるかもしれない?

 ならば、坊ちゃんが継いでも文句が出ないように、『死ぬ気』でボンゴレを改革していくだけです。

 それに、世代の交代にはごたごたなんてどんな組織でも起こります。

 有能な人物がこのボンゴレを継ぐことはボンゴレのためだけではなく、引いては弱者を守ることにもなります。

 ……私の存在が、坊ちゃんにボンゴレ以外の選択肢を与えないというのは確かかもしれません。

 ですが、私は本気で坊ちゃんの幸せを願っています。

 それだけは真実であることを信じてください。

 ――ボンゴレⅠ世、Ⅱ世。

その上で、どうかお願い致します。

 坊ちゃんをあなた方の後継者としてお認めください」

 

 跪き、深く頭を下げます。

腹にありったけの力を込めても尚、偉大な祖先たちに懇願するには勇気がいりました。

 力を抜けば、すぐにでも冷たい石畳の上に崩れ落ちてしまいたくなります。

 しかし、ボンゴレリングに認められることが正統後継者としての証になってしまうならば、どうしても代々のボスの承認が必要になります。

 リングの破棄ができない以上、直接彼らに頼み込むしか手はありません。

 一瞬が永遠にも感じるほどの沈黙ののち――

 

「……良かれと思ったことが、間違いだったと後悔するかもしれない。

 それでも君はそれを望むのか?」

「――はい」

 

 ……彼もまた後悔したことがあったのでしょうか……?

 

 顔を僅かに上げ、首肯すれば、Ⅰ世は一度瞳を閉じます。

 再び開かれた目は逸らすことができない程の気迫がこもっていました。

 この目の前では嘘などつけないでしょう。

 

「――命を懸けてでもそれを為せると断言できるか?」

「……はい」

 

 絞り出すような声でした。

 それでも偽りなく、私の本心から出た声でした。

 ふ、とⅠ世の表情も緩みます。

 張りつめていた空気もまた緩み、思わず息を吐き出しました。

 

「……すまない。

 随分と無理をさせてしまったようだ」

「……いいえ」

 

 曖昧に微笑みます。

 ですが、まだ決定的な言葉は聞けていません。

 脈打つ心臓を宥めながら、彼の言葉を待ちます。

 彼の視線が一度、Ⅱ世に向けられます。

Ⅱ世は微動だにしません。

それを確認してから、湖面に浮かぶ月のような神秘的で柔らかな瞳が私に向けられました。

 

「――いいだろう。認めよう」

「本当ですか!?」

 

 下げていた頭を勢いよく上げれば、大きな手が私の頭を優しく撫でます。

 本当にこれで坊ちゃんは後継者としての資格を得たのです。

 顔に笑みが広がっていくのが分かります。

 

「――ああ。

 君の『覚悟』は確かに受け取った」

 

 近づいてきたⅠ世の大きく、華奢な手が私の頭を優しく撫でて、離れると――

 

「ただ――彼が本当にボンゴレを継ぐならば(・・・・・・・・・・)だが」

「……え?」

 

 耳元で囁かれたその言葉の意味が、脳に浸み込むのには時間がかかりました。

 ……それはつまり、坊ちゃんはボンゴレを継がない、いえ――継げない可能性もあるということですか?

 

「それはどういう――」

 

 ――意味ですか。

 

 そう問いかけようとして、顔を上げた私の傍には誰もいませんでした。

 

「……Ⅰ世……Ⅱ世……?」

 

 呼びかけても返事はありません。

 辺りを見回せば、そこは先程までいた広場ではありませんでした。

 いつの間にか私は目的地である孤児院の前にいました。

 

「レオ! テメエどこに行ってやがった!!」

 

 坊ちゃんが真っ直ぐ私に向かって駆けてきます。

 その瞳が少し潤んでいるのが、夜目にもわかります。

 ずいぶん時間がたっていたのでしょうか。

 ……心配してくれていたのですね。

 こんな優しい坊ちゃんが、ボンゴレを継がなくて誰が継ぐのでしょう。

 ……いいえ。

 ボンゴレなんて言わず、いっその事――

 

「――坊ちゃん! 世界征服しましょう!!」」

「何があった!?」

 

 

SIDE:Ⅰ世

 

 

「……いいのか。ジョット」

「何を今さら。

 それに俺もこのボンゴレを子孫に必ずしも継いで欲しいとは思っていない。

 栄えるも滅ぼすも好きにすれば良い」

 

 ――一筋縄ではいかないだろうがな。

 

 胸中でひっそりと呟く。

 遠くに見える少女と弟に似た少年が、ぎゃあぎゃあ騒いでいるのが聞こえる。

 ……仲の良いことだ。

 彼女を見た時からわかっていた。

 その覚悟と深い愛情を。

 あの少年はボンゴレという巨大な組織に巻き込まれたが、それに勝るとも劣らないものを手に入れたのだろう。

 微笑ましく見ていれば、Ⅱ世が何かを問うような目をしてこちらを見ていた。

 視線で何だと問えば、少し躊躇う素振りを見せ、口を開く。

 

「……後悔しているのか……?」

「……何をだ……」

 

 彼が何を訊いているかなど、わかり切っている。

 

「スペードを置いていったことをだ」

「………………」

 

 D・スペード。

 俺の霧であると同時にⅡ世の霧という異例の守護者。

 かつて私が救いきれなかった友人。

 ……生を終えてもなお、彼はボンゴレに囚われているらしい。

 偉大な『王』と皆は呼ぶ。

 賢しい『王』と皆は呼ぶ。

 ……だが、実際には俺は友の一人も救い上げることすら出来なかったのだ。

 Ⅱ世の下でならば、彼は彼の理想を叶えらえるかもしれないと思った。

 それでも……それでも彼にはまだ足りなかったのだな。

 ――デイモン。

 私はまだお前を友だと思っているよ。

 お前は今どこにいるんだ?

 

「……奴は有能だった……」

 

 不器用な慰めに微苦笑を洩らす。

 

「……ああ、俺の自慢の友だからな」

 

 眉間の皺を2本増やしてしまった弟とよく似た少年と少女を眺める。

 

「思えば、俺達はあんな風に遊ぶことなどなかったな」

「……時代が時代だった。仕方ないだろう」

「そうだな。

 だが、今からでも遅くはないと思わないか?」

 

 深く溜息を吐く、Ⅱ世。

 それが答えだった。

 俺はにっこりと笑みを作ると、こう告げる。

 

「では、弟よ。

 黒猫耳を付けることからはじめるか」

「一人で付けてろバカ兄貴!!!」

 

 

 

 

 




Ⅰ世とⅡ世の過去を全力でねつ造しています。
D・スペードのことは上の立場としてはともかく、友人としてはまだ気にしているアニメ版の感じにしました。
Ⅱ世との仲は後世に伝わっている程悪くないことになっています。
むしろ苦労人なⅡ世。
彼もきっと猫耳が似合います。

ボンゴレの転換期を感じ取り出てきたⅠ世。
読者的には「なにその反則技」と思いかねない継承権の承認ですが、そう簡単にはいかないようです。
坊ちゃんが絡むと思考が右斜め上にぶっ飛ぶ主人公です。
ニャンザス様の苦労はこれからますますひーとあっぷします。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。