ちょっとスランプ状態でした。
見に来ていて下さった方々有難うございます。
漸くあの人が出てきます。
ちょっとだけですが。
その炎の輝きは黄金にも似て――
◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇
「坊ちゃん」
ひょこり、と揺れるしっぽ。
「坊ちゃん」
ピクリとこちらに向けられる三角の耳。
「坊ちゃん」
返事の代わりに動く猫耳と猫しっぽが私を誘惑して離しません!
「ぼっちゃ~ん!!」
「だから、なんだ!!」
我慢できずに、抱きしめます!
坊ちゃんの愛らしさが世界を混乱させる原因だと気付いた神様が、使徒を送ってきたらどうしましょう!!
「坊ちゃん! 私は坊ちゃんのためならば、神様にだって喧嘩を売りますよ!!」
「わけわかんねーよ!!」
――◇――◇――
あの後は大変でした。
アイドルの出待ちってこんなんでしょうか?
熱狂的なメイドさんたちに皆で可愛がられて、ようやくその場を抜け出し、玄関に辿り着きました。
イタリアではまだまだハロウィーンはメジャーではありません。
が、そこはボンゴレの力でこの町は大々的ハロウィーンパーティーを行っています。
しかし、残念ながら私たちはお菓子をもらう側ではなく、届ける側です。
ボンゴレが保護下においてある数か所の孤児院に様子を見に行くがてら、子供たちにお菓子を届けに行きます。
こういった行事のときは料理やお菓子をあらかじめ届けてもらっているのですが、今日はせっかく坊ちゃんが可愛いので皆に見てもらう予定です。
という訳で、流石に本邸から孤児院までは遠いので、車で送って頂く予定なのですが、この方が来るのは予想外……でもないですかね?
「よお、ザンザス!!」
「家光!!」
あ、今坊ちゃんの尻尾がぶわってなった~!
写真、写真。
「随分可愛くなっちまって!
さあ、お兄さんが抱っこしてやるぞ~」
「ふざけんな!」
威嚇して、逃げようとする坊ちゃんをあっさり捕まえ、抱き上げる家光さん。
ジタバタしている坊ちゃんに――
「ほ~ら、ザンザス。お髭ジョリジョリしてやる~」
無精ひげで頬ずりされ、坊ちゃんの全身の毛が逆立っています。
「ニギャ~~~~~っっっ!!!」
バリバリバリっっっ!!!
何本もの赤い筋を顔に作り、家光さんが思わず手を離すと、坊ちゃんが私の腕の中に飛び込んできました。
しかも若干――涙目で!
尻尾は相変わらず膨らんだまま!!
なんですか! 萌え神様は私に出血多量で死ねと仰るのですか!
私は絶対に死にませんよ!
坊ちゃんが可愛いお嫁さんをもらって、坊ちゃん似の天使を抱っこさせてもらうまでは意地でも死にません!
ああ、坊ちゃんおめめを猫手でこすっちゃ駄目ですよ~
目が傷ついてしまいます。
ぐしぐし言っている坊ちゃんを慰めながら、家光さんに抗議します。
「家光お兄様!
坊ちゃんのマシュマロほっぺに傷が付いたらどうするのですか!!」
「……いや、レオちゃん。出来たら俺の傷の心配してほしいんだけど……」
「そんなのはご褒美ですから問題ありません!!」
「え~~~~~~~~」
何をそんなに不満そうな声を出しているのですか?
ニャンザス様に引っかかれるなんて間違いなくご褒美ですよね?
そんなことよりも――
「それより、なんで家光お兄様がここに?
てっきり9代目達と一緒に会議に出席なさると思っていましたが……」
「そう思ったんだがな。
ボスも守護者もいない状態で何か起こった時に、責任を取れる人間が一人はいるべきだと思ってな」
きりっとした顔で言い切る家光さんに――
「で、本音は?」
「こんな面白いことがあるのに会議とかしてる場合じゃないだろ!!」
私の突っ込みにあっさり豪快な笑顔で答える彼に、溜息を吐きたくなりました。
それでいいのか、門外顧問。
いえ、坊ちゃんの愛らしさをこの目に焼き付けたいという気持ちはよくわかりますが。
ただ、9代目に恨まれませんかね?
家光さんの他にもう一人の黒服の男性たちが控えていましたが、坊ちゃんと先生たちを写メっています。
ラル教官に『可愛いな』『似合うよ』と親しげに声を掛けているところを見ると、日頃から仲が良い人なのでしょうか。
「おお。そういえば、レオは初めてだったな。
紹介しとくぜ。コイツはターメリック。つい最近入ったんだが優秀なヤツなんだぜ。
もし困ったことがあって、俺がいなかったときはコイツに頼むといい」
「初めまして、エレオノーラ様。ターメリックです。
お噂は親方様から聞いています。
お会いできてうれしいです」
あー、どこかで見たことがあると思いました。
家光さんの右腕となる方ですよね。確か。
「こちらこそお会いできてうれしいです。
よろしくお願いしますね、ターメリックさん」
一通り挨拶が終わったところで車に乗り込みます。
ちなみに坊ちゃんは私の膝の上。
猫耳が顎に当たって気持ちいいです。
右隣にラル教官。
向かいにリボーン先生とマーモン師匠。
家光さんは助手席で、ターメリックさんは運転手です。
それにしてもみんな可愛いなあ。
坊ちゃんは特に可愛いですけど。
ああでも、坊ちゃんのあまりの愛らしさに思わず誘拐しようとする人も出る可能性が!
坊ちゃんを私の方に向け、真剣に言い聞かせます。
「坊ちゃん。お菓子をくれるっていう大人がいてもついていっちゃ駄目ですよ!」
「……………」
「……レオ、今日、ハロウィーンなんだけど……」
は! 師匠に突っ込まれて気付きました!
誰ですか! こんな簡単に誘拐できそうなイベント作った人は!!
仕方ありません。
これを皆さんに持ってもらいましょう。
懐から大きな星形のステッキを出します。
棒の先に大きな星がくっついており、ピンク、青、黄色、赤の4種類があります。
ピンクを教官に、藍色を師匠に、黄色を先生に、赤を坊ちゃんに渡します。
「なんなんだコレは?」
皆の視線を一斉に受け、私は胸を張って説明します。
「これはこの日のために技術開発部に頼んで作ってもらった、超強力スタンガンです!
お子様でも簡単に向かってくる悪漢や変質者に向けて振るだけで、瞬さ――じゃなかった昏倒できます!」
「「「オイ……」」」
「……ちょっと、今かなり危ないこと言ってなかった?」
恐る恐る訊ねてくるマーモン師匠。
ふふ、嫌ですね。
「可愛いは正義なので、問題ありませんよ」
「いや、ありまくりだろ」
冷静に突っ込むリボーン先生に、にっこりと私は微笑みます。
「大丈夫ですよ。
萌え神様も言っておられます。
『可愛いものに徒名すものはデストロイ』と」
「どこの邪神だ!?」
失礼な。邪神なんかじゃありませんよ。
「日本あたりからOTAKUのために生まれた由緒正しい神様ですよー。
今では世界に信者を増やしてます」
『可愛いものは愛でるものであり、性的に手を出す輩は殲滅しろ』との教えを布教中です。
「ハアハア言って、近づいてくる奴がいたら躊躇いなく食らわせてください。
坊ちゃんも教官も油断したらダメですよ。
可愛い子はいつでも狙われやすいんですから」
「「わかった」」
「オイお前ら、頬赤くして納得すんな」
「……さすがにやりすぎなんじゃないの?」
「ちなみに倒したヤツの財布は没収です」
「幼子に手を出す輩なんて、抹殺対象で決定だね」
「……誰か俺の代わりに突っ込んでくれるヤツはいないのか……?」
大丈夫ですよ、先生。
天性の突っ込みの覇者がそのうち先生を支えてくれます。
そんなこんなで萌え神様の教えを布教しているうちに、目的地に着きました。
車を降りれば見知った顔の二人が、古びた門の前で手を振っていました。
「レオ久しぶり!」
「元気だったか!」
「お久しぶりです! マリオさん、アデルモさん!!」
赤毛の美人のマリオさんと、人の良さそうな金髪のアデルモさん。
久しぶりに会う恩人たちの姿に私も笑顔で手を振り返しました。
あれ、チェルソさんはいないのでしょうか?
坊ちゃんの手を引き、彼らのそばまで行くとマリオさんが目を輝かせて坊ちゃんを見つめています。
「レオ! この方がザンザス様?」
「ええ、そうです。
この世界で一番可愛い方が、私がお仕えするザンザス坊ちゃんです!」
笑顔で紹介すると、何処か複雑そうな顔で坊ちゃんが二人と私を見比べています。
……どうしたのでしょう……?
坊ちゃんをみながら家光さんが苦笑しています。
「あー、しょうがねえな。
レオ、その二人のこと俺たちにも紹介してくれないか?」
「あ、そうですね。
失礼しました」
そういえば、この二人との関係を皆に話したことはありませんでしたっけ。
「ええと。
こちらのマリオさんとアデルモさんと今はここにいませんが、もう一人チェルソさんは私がこの孤児院にいたときに同室者だったと同時に、私の恩人なんですよ」
「恩人? どういうことだ?」
皆を代表したラル教官に問われ、ざっと説明します。
「ここの神父に売り飛ばされそうになったときに、3人が逃がしてくれて、そのときに9代目と会うことができたんですよ」
「売り飛ばされそうになっただと……?」
坊ちゃんが目を吊り上げて、怒りの表情を露わにします。
怒ってくれるいるのですか、坊ちゃん。
……すみません。でも、そのニャンコ姿では愛らしさが増しただけです……。
「そんな輩がいるとは許せんな」
「下種はどこにでもいるんだな」
「というか、運がいいねレオ」
口々にアルコバレーノ3人に言われて、頷きます。
まったく、あのとき9代目に会えなかったら、私の一生はどうなっていたのか。
本当にこの3人には感謝してもしきれません。
ここ1年ちょっと、坊ちゃんのことに掛かりきりで、あまり会いに行くことができなかったのですが、久々にちゃんと敢えて本当に良かったです。
それにしても――
「チェルソさんはここにはいらっしゃらないのですか?」
「あーチェルソはな、どうしても外せない用事があってなあ」
「ここにレオが来ることが分かっていたら、絶対にそんな用事蹴ってたでしょうけどねえ」
顔を見合わせ、悪戯っぽい笑顔を浮かべる二人。
そして何故かムッとする坊ちゃんと、何かを理解したかのようにニヤリと笑う先生たち。
「まあまあ、それはともかくみんなお待ちかねよ」
「そうそう、楽しみに待ってたんだぞ」
「あ、そうですね。
先に仕事を済ませてしまいましょう。
行きましょうか、坊ちゃん」
「ん」
微妙に頬を膨らませた頷く坊ちゃん。
あら……ご機嫌ななめですね……どうしたのでしょう……?
それでも坊ちゃんのニャンコ姿は絶大でした。
孤児院にいる子供たちにきゃーきゃー言われながら、耳を撫でられ、尻尾を引っ張られながらも耐えた坊ちゃんは立派でした。
先生たちは適当に子供たちをいなしながら、持ってきたお菓子を配っていましたのでそこまでのダメージはないようです。
「……なんであんな盛り上がれるんだ……」
「ふふ。坊ちゃん自分で思っているより可愛いですからねえ」
お菓子に気を取られた子供たちから解放され、庭の隅っこで一息つきます。
坊ちゃんの尻尾が垂れ下がり、かなりお疲れ気味のご様子です。
頭を撫でると、尻尾がちょっと立ちました。
猫は機嫌がいいと尻尾が立つのは証明されています。
「レオ。お前ここによく来てるのか?」
「ええ、まあ。
たまに坊ちゃんが9代目と出かける時なんかはよく」
「……なんでだ……?」
どこか不安そうな表情で問われ、少し考えます。
「そうですね。
まあ、色々ありますが、一番は皆に前のようなことが起こっていないか自分の目で確認するためですね」
ボンゴレがバックについているとはいえ、万が一ということが起こらないとは限らないのですから。
それに――
「もう一つ加えるなら、もしかしたらここが私の居場所だったかもしれないからですね」
「……居場所か」
「ええ。もしかしたら坊ちゃんもそうだったかもしれないでしょう」
「……そうだな……」
私も坊ちゃんも親がいない身です。
しかし、二人とも運よく良い大人に救われました。
でも、何かが一つでもずれれば私たちもこの子たちと同じような状況になっていたでしょう。
後ろ盾のない子供とは無力です。
どんなよからぬことを考えている輩にいいようにされても、何一つ気付かれずにこの世から姿を消すことも十分あり得るのですから。
実際、私も売り飛ばされそうになったのですから。
幸いにも私の背後についたボンゴレという組織は良識ある大人たちばかりだったので、この孤児院も以前より段違いに良い待遇をしてもらっています。
しかし、あのままの状態で放置されていた可能性もあるのです。
もしかしたら『原作』の骸たちも似たような状況で、施設での実験台にされたかもしれません。
――この子たちはそのようなことには絶対にさせません。
「可能性が少しでもあるうちは、気を付けないといけませんからね」
「……そうだな」
私が締めくくると坊ちゃんも頷きます。
ですがまだ、その顔には不安がこびりついています。
私はしゃがみ込むと、坊ちゃんの顔を覗きみます。
「坊ちゃん、どうしました?
何か不安なことがあるのですか?」
私の問いかけに言い渋っていた坊ちゃんですが、漸く覚悟したのか口を開きます。
「……オマエがここに来たいのは会いたい奴がいるからじゃねえのか……?」
「え?」
会いたい人?
えっと――
「だから、あのマリオやアデルモとか……チェルソとか言うヤツに会いに来てるのじゃないのか?」
「えと、まあそうですね。
あの3人はここでの恩人で、友人ですから。それは勿論」
「友人……か?」
疑り深く睨まれて、私も漸くわかりました。
「……もしかして、坊ちゃん。ヤキモチ妬いてたんですか?」
「! ちっげーよ!」
尻尾がパタパタ興奮したのか揺れています。
もう、可愛いなあ。
「心配しなくても、私は坊ちゃんが一番大好きですから」
笑って告げれば、坊ちゃんが目を見開き破顔しました。
「当然だ!!」
……一つだけわかることがあります。
坊ちゃんが結婚するとき私は泣きます。絶対。
3日ぐらい。
◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇
「坊ちゃん、手を離しちゃ駄目ですよ」
「おう」
あれから孤児院の皆とマリオさんとアデルモさんに別れを告げ、すぐに次の場所に向かいます。
今日中に5軒回るのは意外と時間的にはギリギリです。
2軒目の孤児院は町の外れにあるのですが、その孤児院の手前は道が狭く、段差もかなりあるため、車では入ることが出来ません。
そこで皆で車を降り、歩いて向かっているのですが、思った以上に道が狭い上に暗いので、下手をしたら誘拐なども簡単に出来そうです。
帰ったらここに電灯をもっと設置することを進言してみましょう。
先頭を家光さん、殿をターメリックさんが務めてくれているのですが油断はできません。
坊ちゃんの愛らしさは万人を狂わせる魔力があるのですから!!
え?
そこはボンゴレの子息が最重要じゃないかですって?
ふ。そんなものは坊ちゃんの愛らしさの前では塵に等しい価値ですよ。
ですから、こうやって手を繋いで――
「――え?」
ふと気づいたときには手には坊ちゃんのふわふわでぷにぷにした猫の手の感触がありませんでした。
というより、いつの間にかどこか開けた場所に私は立っていました。
あの孤児院につくまではこんな広場はないはずなのに。
目的地ですらない見知らぬ場所に焦って辺りを見回せば、他の皆も誰もおらず、私しかいいません。
薄い霧が漂い、夜を照らす僅かに掛けた月の光を反射しています。
――と、コツコツと石畳を誰かが歩いてくる音がしました。
警戒していると霧を真中から断ち切り、見知らぬ男性が目の前に立っていました。
ハロウィーンパーティーに参加していたのか、顔の上半分を覆う白い仮面とマントを羽織り、ストライプのスーツを着た金髪の、たぶん青年です。
……あれ、どこかで見たような気が……
怪訝そうな表情の私に、彼は優しく微笑みかけるとゆっくりと仮面を外します。
「……あ……」
仮面の下から出てきた整った面差し。
それよりも印象的な憂いを帯びた燃えるような金の瞳。
それはあの肖像画と同じ――
「……Ⅰ世《プリーモ》……?」
やっと、彼を出せました。
元々出る予定だったのですが、祖先全員出すべきか迷っているんですよね。
全員が詳しく描写されているわけじゃないので、性格は私のねつ造になってしまいますが。
いつの間にかお気に入りが900超えて、びっくりしました。
これもニャンザス様の人気の凄さということでしょうか。
萌え神様に祈りを捧げておきます。
うっかり1000とか超えたら、なんかやろうかな。
『原作』の方に主人公が行く話とか。
リボーン先生を疲労させまくる主人公たちですが、きっとそのうち某突っ込みの覇者が先生を助けてくれることを祈ってあげてください。
……むしろ苦労増したらどうしよう。