暴君の家庭教師になりました。   作:花菜

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一見主人公がまともなような話が続きましたが、こちらが平常運転です。

やっと新しいキャラ出てきます。


私の可愛いものセンサーは正常のようです。

 

 

「坊ちゃん! 坊ちゃーん!」

 

 ただいま坊ちゃん行方不明。

 ――というほど大げさなものではないのですが、先ほどの経済の授業が終わってから姿が見えなくなってしまいました。

 いえ、ちゃんと屋敷にはいるのはわかるのです。

 私の可愛いものセンサーは超直感を上回ると自負していますので(断言)。

 ある一室の前で足を止めます。

 そこは何個か大きな美術品があること以外は他の部屋と変わりません。

 しかし、部屋の奥に置いてある私の背丈程の男性の胸像の前までいくと、その目を同時に指で押さえます。

 ガコン! と何かが大きく動く音がすると一拍おいて、胸像の台座の下に大人がやっと通れるくらいの穴が開きます。

 隠し部屋への入り口の一つです。

 坊ちゃんと色々探検しているうちに見つけたものの一つなのですが、9代目達が知っているかどうかはわかりませんが、今のところ私と坊ちゃんの秘密基地となっています。

 内ポケットからペンライトを取り出し、毛布を持って中に入ります。

 また音がして、勝手に穴が閉じていきます。

 それには構わず、暗い道を照らしながら進みます。

 ひんやりと空気は湿っており、外と比べてだいぶ寒いです。

 石畳の通路は時折、ネズミらしき影が通る以外は誰の姿も見えません。

 しばらく何度か通路を迂回しながら歩いていくと、目的の場所に辿り着きました。

 間違いありません。私の可愛いものセンサーが反応しています!

 石壁に同化しているような扉を、力を込めて押すと、ぎぃぃと鈍い音を立てて開きます。

 そこは2畳くらいの広さしかない小さな部屋でした。

 アンティークのテーブルと椅子、それにソファーが置いてあるので、それだけで随分と狭くなってしまっています。

 その狭い空間の中で、椅子の上に小さな影が一つ。

 

「坊ちゃん、ここにいたのですね」

「……レオ……来たのか……」

「はい、私は坊ちゃんの護衛も任されていますからね」

「……フン……」

 

 あら、あまり元気がないというか、気のないお返事ですね。

 何か考え事をしていたのでしょうか。

 でしたら、一人にしておいてあげた方が良いでしょうか。

 

「……別にいてもいい……」

 

 心を読んだような言葉に、帰りそうになりましたが再び、坊ちゃんと向い逢います。

『いてもいい』ということは『いて欲しい』ということらしいので、テーブルに置いてあった電燈式のランプを灯すと、ペンライトをしまいます。

 坊ちゃんを抱え上げると抵抗することなく、身を預けてきます。

 随分と長くここにいたらしく、身体がかなり冷えています。

 やっぱり寒かったのか、ぎゅっと私の熱を奪うかのように抱き付く坊ちゃん。

 持ってきた毛布で身体を包み、坊ちゃんを抱きしめたままソファーに座ります。

 瞬間、埃が舞い散り光に照らされキラキラと輝いていました。

 見ている分には綺麗な光景なのですが、結構掃除した筈なのに、埃は吸いきれていないということですねー。

 そんなことを考えていると、坊ちゃんが私のジャケットを引っ張りました。

 

「どうしました、坊ちゃん?」

「…………」

 

 一向に言葉を発しようとしないため、私なりに推理していたことを口にします。

 

「今日の経済の先生と何かありましたか?」

「……………………」

 

 ムッとする坊ちゃん。

 まあ、推理なんて大層なものではありませんよね。

 お昼まではいつもの通りで、先刻の授業の後に坊ちゃんの様子がおかしくなったのですから。

 

「……何か嫌なことを言われたのですか?」

「……大したことじゃねえ。『薄汚いドブネズミが人の真似をするとはな』と言われただけだ。ラテン語で」

「なんですって――」

 

 私の腹の底から怒りが湧き上がってきます。

 

「失礼な! 坊ちゃんはドブネズミなんかじゃありません!

 可愛い可愛い黒猫ちゃんですよ!!」

「テメエの方が失礼だ!!」

「百万歩ゆずってもジャンガリアンハムスターですっ!!!」

「このドカス!!!」

 

 ふしゃー!と毛を逆立てた子猫のように威嚇する坊ちゃん。

 ほら! こんなに愛らしい坊ちゃんのどこがドブネズミだというのですか!

 坊ちゃんは黒にゃんこ! これは譲れません!!

 

 ふーふー言っている坊ちゃんを宥めながら、考えます。

 坊ちゃんがあまりにも有能であるため、半年立った今では専門的な知識は私だけで教えるのは無理だということが判明いたしました。

 そこで、それぞれの専門家を家庭教師として新たに9代目に雇ってもらったのは、10日前のことでした。

 どこかの有名な学校の教師を経て、裕福な家庭の子息の家庭教師をしている方だと言われていたのですが。

 ――どうやら、知識はあっても無能だったようですね。

 私の専攻は礼儀作法や一般知識、教養の他には歴史と語学が得意分野になります。

 因みにリボーン先生と死ぬ気でやったことのおかげか12か国の言語が習得できました。

 え?

 どうしてそんなに覚えられたのかですって?

 ……………………………………………………………人間知ラナクテイイコトッテイッパイアリマスヨ…………………………………………。

 ま、まあ、それはともかく、必然的にそれらを教えることが多くなりますが、私がまず語学で教えたのは、イタリア語、英語、そしてラテン語の3つでした。

 イタリア語は教えるというより、確認と綴りなどのチェック程度でした。

 英語は使用する国がかなり多いので、初めのうちにと考えていたものでした。

 そしてラテン語。

 これは勿論、習得が一番難しいものです。

 しかし、ヨーロッパの言語はラテン語から派生したものが多くあります。

 つまりこれを習得すれば、他のヨーロッパの言語の習得も容易となるのです。

 まあ、そういう訳で坊ちゃんにはラテン語を教えたわけですが……

 

「――フン。あのカスは俺がラテン語を習得しているなんて、夢にも思わなかったらしいがな」

「……わかる筈がないと高を括っていたのでしょうが……バカですね……」

 

 ちょっと落ち着いたらしい坊ちゃんが鼻を鳴らします。

 愚かにも程がありますね。

 仮にもボンゴレの御曹子の前で不用意に、場合によっては死に至るかもしれない暴言を吐くとは。

 どうせわかりっこないと思っていたのでしょうが、少しでも想像力があるのならばそのようなことを口にすることは出来なかったでしょう。

 監視カメラが音声も拾うタイプのものならば、親バカ全開の9代目にでも知られれば、次の瞬間にこの世とおさらばするかもしれません。

 それに意外と人間、自分に向けられた悪意には敏感なものです。子供ならなおさら。

 坊ちゃんが『気に食わないヤツだから、追い出せ』と命じれば、彼は放り出され、明日から路頭に迷うことは必然です。

 ボンゴレの子息に無礼を働いた教師を雇う人など、よっぽど価値がない限り、いないでしょう。

 何はともあれ、器の小さい教師に当たってしまったものです。

 教師というものは、勉強を教えるという他に、その人格や精神が生徒の手本になることも少なくありません。

 そういった意味で、責任重大な職業だと思います。

 偉そうなことを言っていますが、私は坊ちゃんに勉強以外にも何か教えられているでしょうか?

 うーん。

 まあ、それはともかく――

 

「どうしますか、坊ちゃん?」

「何がだ?」

 

 顔を上げ、怪訝そうな表情をする坊っちゃん。

 え、それは勿論――

 

「あの教師への処分ですよ。

 ボンゴレの御曹子への無礼を見過ごすわけにはいかないでしょう。

 坊ちゃんの繊細なガラスハートを傷つけたわけですし」

「誰がガラスハートだ。

 この程度のこと悪口のレベルですらねえ。

 第一――」

 

 いったん言葉を切り、ヒタリと炎に似た赤い瞳が私を見据えます。

 

「テメエは俺があいつを組織の連中に命じて処分させたら、幻滅するんだろ」

 

 ふん、と鼻息荒く言い放たれ、うっすらと笑みを浮かべます。

 あらあら、ぼっちゃんてば。

 

「……わかっていましたか?」

「当たり前だ。

オマエも意外と質がワリーしな。

 どうせアイツへの対処も授業の一環にする気だろう」

「ふふ。坊ちゃんは頭が良いですね」

 

 そこまでわかってしまっては仕方ありませんね。

 確かにそうです。

 彼のような輩はこれから掃いて捨てるほど出てくるでしょう。

 それをいちいち気に食わないで処分していては、キリがありません。

 それよりも何がこの手の輩に効果的な対処の仕方なのかを、この際なので考えて欲しかったのです。

 この程度の小物に組織の力をぶつけるなんて、それこそ三流のやることですし。

 

「それで、どうしますか?

 別に辞めさせるだけなら簡単ですよ。

 こちらの望むものとは違っていたと告げれば良いだけですし」

「……フン。いや、こういう手はどうだ?」

 

 耳に口を寄せられ、語られた内容を聞いて私は思わず笑ってしまいました。

 

「流石ですね。坊ちゃん」

「ふん。当たり前だ」

 

 そう言いながらも、どこか得意げな表情を浮かべる坊ちゃん。

 さて、これであの教師がどういう行動に出るかで、次の教師を雇うかが決まりますが。

 次はどうしましょうか。

 一般公募の方が意外と良い先生がいるかもしれませんね。

 リボーン先生に教えてもらうことも考えたのですが、今は色々忙しいそうなので。

 

「坊ちゃん、寒くなってきてしまいましたし、とりあえず部屋に戻りましょう」

 

 坊ちゃんが頷くのを確認すると、彼を抱え上げたまま元来た道を戻ります。

 真っ白な毛布はクレイさんのチョイスですが、坊ちゃんの褐色の肌に対しするようで、とっても可愛いので、ぜひ明るいところで見たいです。

 ……ちょっと、汚れたかもしれませんが……。

 それにしても坊ちゃんがドブネズミなんて、許せませんね。

 坊ちゃんはニャンコ、黒ニャンコ! 異論は認めません!!

 そのためには――

 

「坊ちゃん、今年はハロウィンで黒猫ちゃんになりましょうね!」

「なんでだ!?」

「坊ちゃんが、いかにニャンコ姿が似合うか、世間に知らしめるためです!!」

「アホか!! 誰がするかそんな恰好!!!」

「去年は残念ながら、坊ちゃんを合法的にコスプ――もとい仮装させることが出来なかったので、今年はぜひ!!」

「今テメエ、コスプレとかいいやがっただろ!!」

「語尾はにゃーでお願いします!!」

「誰が付けるか!!」

 

 

   ◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

 そんな微笑ましい(?)やり取りから一週間後。

 私と坊ちゃんは、屋敷の一室で新しい経済の教師を待っていました。

 え? この間の教師はどうしたかですって?

 辞めましたよ。勿論。

 次の授業の前に私が――

 

『先生はラテン語が得意だと、坊ちゃんが仰っていました。

 私も坊ちゃんにラテン語を教えた身としては是非とも先生のラテン語を聞いてみたいので、本日の授業はラテン語でお願いできますか?』

 

 ――と言ったところ、蒼褪めて急用が出来たと言って、帰ってしまわれました。

 ええ、お察しの通り二度と戻ってくることはありませんでしたよ。

 これに対して平然としていられるならば、そのまま雇用すると坊ちゃんは言っていたのですが。

 やはり、小物でしかなかったようです。

 調べてもらったところ、その日のうちにイタリアを脱出したそうなので、お会いすることは二度となさそうです。

 永久にびくびくしていそうですが、自業自得ですね。

 お給料も破格的に良かったのに、それも振り込まれる前に辞めてしまったようです。

 たった一言で、これまでの人生もこれからの人生も(こちらは別に特に何かする気はないのですが)台無しにしてしまうことがありますので、皆さん気を付けましょうね。

 ま、それはともかく。

 今回の教師は一般公募にしてみました。

 リボーン先生に頼んで作ってもらったテストを受けてもらい、点数が高い人を何人か選び、面接する予定だったのですが。

 今日の面接は一人だけです。

 なぜかと言いますと、その一人だけが満点をとったからでした。

 リボーン先生もこれを解くなんてなかなかやるな、と褒めていたくらいでしたし。

 他の方々は70点ぐらいがせいぜいで、似たり寄ったりでした。

 そこで、この方を第一候補にしたのですが、採点をしたのは他の方なので、私はその方のプロフィールも知りません。

 今日面接の時に、書類の類もすべて持ってくるとのことでした。

 なんでも家光さんが『レオは絶対に気に入るぜ』と言って、当日のお楽しみということで教えてくれなかったのです。

 クレイさんの淹れてくれたカプチーノ(今日はハムスターの絵付き)を飲みながら、坊ちゃんに目を遣ると、すでに退屈そうにあくびをしています。

 

「どんな方でしょうね、坊ちゃん」

「さあな、あの教師よりはマシなヤツが欲しいところだな」

 

 それは確かに。

 ですが家光さんが『私は気に入る』といったくらいなのですから、きっと――

 

「あら?」

「? どうした?」

 

 怪訝そうに問われますが、私の視線はドアに釘付けになってしまいました。

 私の可愛いものセンサーが激しく反応しています。

 ノックする音に「どうぞ」と返すと、ドアがゆっくりと開かれます。

 

「失礼するよ」

 

 ぱたん、とドアが閉まる音。

 ちまちまと私たちの前まで歩いてきたのは、まるでゲームに出てくるようなローブを纏った赤ん坊。

 特徴的な逆三角のタトゥー、への字に曲げられた小さな口、そして――ぷくぷくのほっぺ。

 

「「…………」」

「やあ、君たちが僕の生徒かい?

 僕はマーモン。

 採用されれば、経済の教師になる――」

 

 彼(?)が何かを言い切る前に、私の身体が反射的に動いてしまいました。

 

「マーモンゲットおおおおおっ!!!」

「え!? ちょ、何この子!?!?」

 

 がしっ!と抱きしめ、本能の赴くままほっぺをスリスリします!!

 

「やあ、マーモン可愛い!!!

 ほっぺほんとにぷにぷに~~~っっ!!!!!」

「ちょ、なんなの!!??

 っていうか、ほっぺが摩擦熱でどうにかなる~~~っっ!!!」

 

 ジタバタする彼を逃がさないようにしっかり抱きかかえたまま、満足するまで抱きしめほっぺスリスリしてしまくります!

 ああ、ラル教官と同じくらい好きなマーモンに出会えるなんて!!

 私は幸せです!

 

――はっ! 冷たい視線!!  

 

 見れば、氷のような冷たい視線を送る坊ちゃん。

 ああ、違いますよ!!

 

「坊ちゃん! これは浮気じゃありませんよ!

 脊髄反射で可愛いものに抱き付いてしまっただけで、私が一番可愛いと思っているのは坊ちゃんですから!!」

「…………」

 

 プイと横を向いてしまわれました。

 本当ですってば~~~っ!!

 

「いいからいい加減離してよ!!」

「あ、すみません」

 

 確かにマーモンを抱っこしたままでは説得力がありませんでした。

 私が離すと、ぴゅっと音を立てて坊ちゃんの傍に隠れてしまいました。

 坊ちゃんとマーモンのツーショット!

 これは撮影しなくては!!

 可愛いは正義なのです!

 そして可愛い+可愛いは大正義なのです!!

 私がデジカメをフル稼働させていると、ノックの音とともにドアが開かれます。

 

「よー! レオ、ザンザス新しい家庭教師の面接は済んだか?

 っていうか、予想通りだな……」

 

 私がパシャパシャとデジカメで二人を撮影しているのをみて、苦笑いを浮かべる家光さん。

 そういえば、これは面接でした。

 ですが――

 

「面接するまでもなく、採用します!」

「……オイ……」

「え? ちょ、僕としては考えさせて欲しいんだけど」

 

 私を警戒するように窺うマーモン。

 しかし、私はその迷いを捨てさせる方法を知っています!

 

「お給料は破格ですよ!!」

「これからよろしく生徒たち!!」

 

 がしっと互いの手を握り、採用が決定しました。

 

「あー、いいのか?」

「リボーン先生のテスト問題を解けるくらいですから、優秀であることは間違いないでしょうし。

 可愛いですし。すごく可愛いですし」

 

 大事なことなので二回言いました。

 

「……リボーン……?」

 

 マーモンが呟いたのを私は聞き逃しませんでした。

 そこへ――

 

「チャオっす。

 新しい教師の採用がは決まったのか?」

「リボーン!?」

 

 なんの気配もなく現れた黒いスーツ姿の赤ん坊に、フードを被った赤ん坊が警戒している姿はまるで――子猫のじゃれ合いのようです!

 撮影撮影。

 

「……バイパー……?」

「……フン。そんな名前知らないね。

 僕の名前はマーモン。人違いだよ」

「お前ら、やっぱり知り合いなのか?」

 

 家光さんの問いに、不承不承といった感じでマーモンが頷きました。

 

「……ただの腐れ縁さ。

 もう一切関わる気はなかったのに、こんな形で出会うなんて……」

「……まあ、会ってしまったものは仕方ないだろ。

 俺の生徒も関わっているしな」

 

 私を視線で指すと、マーモンがあからさまに嫌そうな顔をしました。

 

「彼女君の生徒!?

 いったいどういう教育してるのさ!?

 出会い頭にほっぺを摩擦で消失させられるかと思ったよ!!!」

「……それに関しては俺の教育以前の問題だな……」

「前から、アレなワケ!?」

 

 引きつった顔を向けられ、テヘとかポーズしてみます。

 あ、坊ちゃんの視線が冷たいものから、生温くなってしまいました……。

 あう。

 このままでは家庭教師としての威厳が!

 

「えっと、とりあえず紹介させて頂きますね。

 こちらはザンザス様。

 9代目のご子息です。

 私はエレオノーラ。坊ちゃんの家庭教師をしております」

 

 改めて、挨拶すると胡乱げな表情でこちらを見つめるマーモン。

 

「子供が家庭教師?

 ふぅん、リボーンが生徒にするだけあって、随分優秀なんだね」

 

 若干、マーモンの中で私の地位が上がったようです。

 実は『淑女教育』がメインでした、とか言ったらどういう反応するのでしょうか。

 というか、貴方も見た目子供というか、赤ん坊ですからね。

 

「いえ、専門分野はまだまだですので。

 これから経済の関係はあなたにお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ふーん。

 まあ、口の利き方はこの愉快犯より確実に出来がいいね。

 いいよ、わかった。

 お給料さえ破格なら僕は文句ない」

「ええ、それは9代目から毟り取ってください」

「……前言撤回。確実に彼女、君の生徒だね……」

「……これは俺の教育じゃないはずだ……たぶん……」

「あー、まあ、ともかく採用なら、俺は9代目に報告してくるぜ」

「あ、待ってください。私も一緒に報告しに行きます。

 坊ちゃんはどうします?」

「行く」

 

 短く告げる坊ちゃん。

 先生たちに目を遣ると、軽くリボーン先生は手を上げて、

 

「行ってくれ。

 ちょっとオレはコイツと話がある」

「僕は話なんか――」

 

 断ろうとしたマーモンに先生が小さく耳打ちすると、硬直してしまいます。

 

「ちょっと君!」

 

 怒鳴るマーモンを手で押さえながら、もう片方の手を振られたため、私たちはその場を後にしました。

 

 

◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

SIDE:ザンザス

 

「ああ! これからさらに可愛いものに囲まれる生活が送れるんですね!!」

 

 幸せそうに、デジカメを抱きしめるレオに、苦笑する家光。

 俺は溜息を吐いた。

 コイツの生徒になってから、何度吐いたかわからない。

 よく『坊ちゃん、溜息を吐くと幸せが逃げちゃいますよ~』とか言っているが、そういうならもっと理性的に行動してみろ!

 ……まあ、そんなレオなんて面白くもなんともねーだろーが……。

 

「坊ちゃんもマーモンも可愛いですね~!

 ああ、明日からの授業が楽しみです!

 最新式のデジカメ買ってこないと!!」

「撮る気かよっ!?」

「勿論です! こんな私得な光景すべて撮影しておかないと、後悔するどころの騒ぎではありません!」

 

 断言されて脱力する。

 コイツを見ていると本当に――

 

「あ、そうです坊ちゃん。

 私は坊ちゃんの家庭教師になって、勉強以外の何かって教えられていますか?」

「なんだ突然?」

 

 小さく首を傾けるレオ。

 

「いえ、前の教師を見ていてなんとなく思ったのですが、教師の仕事って勉強以外にも生き方とか精神性とかも自然と教えているものなのかもしれないと思いまして。

 私は坊ちゃんに何か伝えられていますか?」

「…………」

 

 ほんの少し困ったような複雑そうな視線を向けられ、考える。

 あと、家光。テメエはそのニヤついた顔を今すぐやめろ!

 オレがレオに教えてもらえたことは――

 

「……まあ、それなりにな……」

「え、ほんとですか? 何をです?」

「そうだぞ、ザンザス。けちけちしないで教えろよ」

「黙れ、家光」

 

 期待に満ちた表情のレオから顔を背け、話を逸らす。

 

「それよりも、アイツの給料そんなに破格に出来るのか?

 アイツかなりの守銭奴みたいだぞ」

「大丈夫ですよ~。この坊ちゃんとマーモンのツーショットの写真を見せれば、二つ返事で好きなだけ出してくれますよ」

「まあ、そうだな」

 

 なんでだ?

 

「親父がそんな写真くらいで、破格の給料なんて出すのか?」

「「…………」」

 

 なぜか二人とも生温い笑顔で俺から顔を背ける。

 なんだ?

 

「さ、急ぐぞ! お前ら」

「そうですね、さっさと参りましょう」

 

 オレの疑問は解消しようとせず、速足で歩きだす二人に連れられながら、さっきの問いを反芻する。

 

 レオがオレに教えてくれたこと――

 

 それは――人生は楽しむものだということだ。

 誰かと一緒なら尚のこと。

 

 ――なんか悔しいから言ってやらねえけどな。

 

 

◇◇◇――◇◇◇――◇◇◇

 

 

SIDE:リボーン

 

 ドアが閉まると同時に、バイパー――今はマーモンがオレを睨みつけてくる。

 

「ちょっと、どういうことさリボーン!

 呪いが解けるかもしれないって!!」

「落ち着けよ。あくまでかもしれないってだけだ」

 

 顔をこれでもかと近づけられ、それを手でひょいとどけてやる。

 

「かもしれないって何さ!?

 僕はそのかもしれないすら、何十年と辿り着けなかったのに!

 君はなんでそのことを知りえたのさ!!」

 

 ……まあ、オレが知ったわけじゃないが。

 

「――とあるヤツに可能性を示されてな。

 それに関しては変態科学者のお墨付きだ。

 だから、可能性は高いとオレは踏んでいる」

「ヴェルデのヤツまで!?

 いったいどういうことなのさ!!」

「……オレとしてもその方法に対しては詳しくは知らない。

 だがそいつは、鉄の帽子の男のことやオレたちアルコバレーノのことまで知っていた。

 可能性としては十二分に高い」

 

 幾分冷静になったのか、マーモンは顎に手を当て考え込んでいる。

 

「何、そいつはルーチェみたいな未来予知が出来るってわけ?」

「ある意味ではそれに近いものだな。

 予知とは言い難いが」

 

 流石に漫画の『原作』といっても信じられないだろう。

 

「それに戻れる可能性があるのは、今から20年後らしいがな」

「な! なんでそんなに遅いのさ!?」

 

 狼狽えるマーモンにオレは肩を竦めて見せる。

 

「戻れる方法が確立していないらしい。

 その方法を思いつくのは、ある少年らしいが。

 その子供は生まれてもいない状態だ」

「……なにそれ……そんな不確定なものを信じろっていうの……?」

「信じるか信じないのはオマエの勝手だ。

 だが、一度戻れないと思った時よりは希望の光は見えてこないか?」

「フン。希望の光かと思ったら、地獄の噴火口の入り口だったりしてね。

 まあ、そのことは記憶にとどめておくよ。

 僕は僕で元に戻る方法は探し続けるけど」

「ああ、好きにすればいい」

 

 もう一度小さく鼻を鳴らし、踵を返すマーモンにオレは声を掛けた。

 それは気まぐれだったのか、それとも――

 

「オレの生徒を頼むな、マーモン」

「! 君がそんなセリフを言うなんて、熱でもあるのかい?」

 

 驚愕の表情を向けられ、若干決まり悪くなり、帽子を下げる。

 確かにオレらしくはない。

 だが――

 

「オマエも生徒を持てばわかるさ。

 アルコバレーノは生徒を大事にする。

 何しろラルにも気に入られているみたいだからな」

「ちょ、ラル=ミルチまであの子の教育してるワケ!?」

「まあな。

 なかなか見所があるらしいぞ」

「……とんだ危険人物じゃないか……」

 

 冷や汗を流すマーモン。

 代わりにラルは結構、以前に比べればほんの少し、アリの触覚ぐらいは女らしくなった気がしないでもない。

 可愛い服に着せ替えさせられたり、バレンタインにチョコレートを一緒に作ったりなどとレオに可愛がられているらしいからな。

 

「――と、とにかく僕は行くよ。

 とりあえず、お給料の分は働くつもりだからね」

「ああ、頑張れよ」

 

 ドアが閉まり、いつの間にオレの手の平まで降りてきたレオンの尻尾を撫でる。

 

「レオン。これからどうなるんだろうな。

 なりそこないも含めてアルコバレーノが3人も揃っちまった。

 これも予定調和なのか、聞きたいところだがそうもいかねえ。

 ……待つだけの身がこれ程辛いとは思わなかったぜ……」

 

 いつも通りのユーモラスな瞳を動かし、慰めるように尻尾で手を叩かれる。

 相棒はこれだけ泰然としているのに、オレが動揺してるなんて許されねーな。

 

「ありがとな、レオン」

 

 舌を出す相棒の背を撫で、扉を開く。

 

「さあ、次の仕事はどっかのへなちょこを立派な跡継ぎに教育することらしいぜ。

 ヒットマンが育てる仕事を二度もすることになるなんてな」

 

 苦笑交じりに呟き――そして俺は次の仕事場へ歩き出した。

 

 

 





やっぱり可愛いものセンサーはアホ毛とかがいいんでしょうか。
可愛いものが近づくとピコピコ動くとか。

やっとマーモン出せました。
彼(?)がいないとどうしても書けない話があるので。
リボーン先生が某ファミリーに向かうようです。
どこぞの10代目の出番はあるのでしょうか。

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