最初の方は完全にオリキャラの説明のみとなっていますので、気長にお付き合いいただけると嬉しいです。
「初めまして、あなたの家庭教師を務めるエレオノーラと申します。
よろしくお願いします、坊ちゃん」
「失せろ。ドカス」
ふふふ。
慌てず騒がず、私は目の前の子供にしてはシャープな頬っぺたを摘まみます。
「ふぁにひやがる!!」
「んーー。あまり伸びませんね。これからいっぱいごはん食べないと」
「はにゃせ!!」
「……あの、エレオノーラ……さま……」
なぜにさま付け?
ジタバタ暴れる子供を押さえつけながら振り向くと、後ろでガナッシュさんが、なぜか蒼褪めていました。
子供の躾って初めが肝心ですよね。
「いえ……あの……」
ところで、なぜ私がこのいかにも生意気そうなお子様――ザンザス坊ちゃんの家庭教師となったかをせっかくですのでお話致しましょう。
すでにお気づきの方もいるかと思いますが、実は――私は前世を覚えていたりするのです。
まあ、いうなれば転生者というもの……なんでしょうかね?
お察しの通り平凡な日本人であり、漫画が好きなことと、多少料理が得意な女性でした。
因みに死因は末期癌で、享年は70歳でした。
え? と思った方もいらっしゃるでしょう。
ですけど、本当なんです。
私はちゃんと全うに他の転生者と呼ばれる方たちと違い、■■■■としての人生をきちんと終わらせたのです。
最後に旦那と子供たちと孫に見送られ、笑って(たぶん)死んだので、未練もないはずなのですが。
学生だったとか、青春をもう一度やり直したいとか、神様の手違いとか、そういった理由で死んではいないし、またやり直したいという気持ちは一切なかった……はずなんですけど。
まあ、生まれ変わるなら、イタリアとか外国で美人に生まれてみたいなーとか冗談半分でいった記憶とかはあるのですが、それが叶えられてしまうと、驚愕するというより、『なんでやねん』と突っ込みたくなります。
だって、私、前世は超平凡だったんですよ。
外見だってしいて言えば中の中。見る人によって中の上か中の下。
決して上には登れなかったのですが……。
今の私の外見は豊かな黒髪と碧の瞳が白い肌に映え、長い手足と幼いとはいえ均整のとれた身体、ふっくらとした桃色の唇は思わず吸い付きたくなるような、ロリコンじゃなくてもお持ち帰りしたくなるような美少女なんですよ!
たとえが悪くて申し訳ありませんが。
ああ、あと私の今の年齢は10歳になります。
それがどうして、このボンゴレに家庭教師として雇われたかと申しますと、これまた長いお話になりますが、よろしいでしょうか?
私の次の生は、イタリア女性とイギリス男性の間に生まれた一人娘というものでした。
もっとも意識がはっきりしたのは3歳ぐらいでしたが。
しかも、もっと困ったことに父親が事故で亡くなっていました。
母はどこかの上流階級のお嬢様だったらしいのですが、家と縁を切り、父と一緒になったらしく、絶対に家には帰らないことを固く決意していました。
それだけいやな家だったらしく、一人で立派に娘を育ててみせると抱きながら泣いていました。
幸いにも父は母と私に財産を多少は残してくれていたらしく、母子二人の生活は苦しいというほどのものではなく暮らしていけるものでした。
母は翻訳の仕事をしている他に、刺繍の腕もかなりのもので、お得意様も多くいました。
男性のお客様もいましたが、それは母目当てではないだろうかと私は思っていました。
なにしろ母は私と違い生粋のお嬢様でしたので、物腰も柔らかく、ふんわりとした栗色の髪をなびかせ、碧の瞳を細めて微笑むと、それだけで大概の男性はぽーっとなるほどでした。
こんな母ですので、結婚を申し込まれることなど日常茶飯時で、父の喪が明けてからも求婚者が列をなすような状態でした。
しかし、母は頑なまでにそれを断ってしまいました。
ですが人生を生き切った私としては、母はまだ若く、父には悪いのですが、もっと自分の幸せを掴んでもいいと思っていました。
私としても母と助け合って生きていくことに異論はなく、母が仕事に集中できるよう炊事、洗濯などを引き受け(ちゃんと電化製品のある時代なのは幸いでした)、学校に通いながらも同年代の子供よりも働いていたとはいえ、私は現状に何の不満も持っていませんでした。
母の仕事の中で多いのは日本語の本が多いようでした。懐かしい日本の本を読む機会は必然的に多くなりました。
前世ではイタリア料理好きが高じて、料理学校へ通い、その中でイタリア語やフランス語、ドイツ語などもかじっていました。
それでも日本語は私にとって懐かしく、忘れられないものでした。
しかしなぜかここには日本関係の日常品が多く、日本の本も多く入ってきているようでした。
昔日本で読んだ本も、覚えていた内容を母に伝えると、母は感心して私の訳を採用してくれました。
ですが、これが大変評判がよく、母への日本語の翻訳の依頼は増えることとなりました。
実際、訳すのは私でしたが。
そういえば、幼児がこんなに立派に仕事をやり遂げたことに母はちっとも疑問をもつことなく『お父様に似たのね』と嬉しそうに微笑むだけでした。
父は大層頭の良い方で、どこかの学校の教師だという話でした。
家には分厚い本が並んでいて、たぶん歴史学が専攻だったと思われます。
そんなこんなで私が7歳になろうとしていたときに、母にようやく二度目の春が訪れたのです。
お世話になっている出版社の方の担当が若い青年に代わって、2年ほど立つとこまめにアプローチしていた彼の思いが実ったのか、母も彼の思いに応えるようになりました。
私からみても彼は誠実で、頭の良い青年であるうえ、何より母を愛してくれているため私としても異論はありませんでした。
やはり、保護者としてはどこかの馬の骨にやるわけにはいきませんので。
――ですが、これでめでたしめでたし、というわけにはいかなかったのです。
その日は雨が降っていました。
固い石畳の上を私たちは急いで走っていました。
母と買い物に出かけた帰りのことでした。
彼がうちにくることになっていたため、ごちそうを作ると母は張り切っていました。
その時――
「まて」
何気なく私が振り向いた瞬間、視界に銀色の鈍い光が迫ってきていました。
「エレオノーラ!!」
母が私を抱きしめると同時に、銀色が、ナイフが母に振り下ろされました。
すべてが一瞬でした。
母が崩れ落ちるのも。
男が狂気を纏った笑みを浮かべるのも。
私が――衝動的に炎を放つのも。
「があああああああああああっっっ!!!」
苦しみの声を上げながら、男が炎によって消滅していきます。
私は茫然とそれを見つめ、情けないことに気を失ってしまいました。
次に目が覚めた時は、病院でした。
白い白い潔癖といってもいいほどのベッドの上に私は寝かされていました。
傍らには最高の日を最悪の日に変えられてしまった青年がいました。
泣きはらした赤い目で、母が亡くなったことを告げる青年に、抱きしめられながら私は自分に怒りを覚えていました。
――私が気を失わなかったら母は、まだ微笑んでいてくれたかもしれないのです。
涙を流す私を見て、ますます泣きじゃくる青年の背をあやすように叩いていると、警官が入ってきました。
もちろん彼らが聞きたいことは一つだけで、犯人を見たかということでした。
私は頷き、あの男が母に喪すら明けていないうちに言い寄ってきた男だということを思い出したのです。
警察は私に必ず犯人を捕まえると宣言し、今日は遅いからもう寝なさいと憐れみを込めた目で促しました。
私はいい子の見本のように大人しく、ベッドに入りました。
青年も私をもう一度だけ撫で、部屋を出ていきました。
全ての電気が消されても、私は寝付けませんでした。
母を殺した男は永遠に逮捕されることはないでしょう。
――何しろ私が消してしまったのですから。
その初めて殺人を犯してしまった事実の他に、もう一つ気になっていることが――
「……あの炎……」
私があの男を消した炎はオレンジと紫が螺旋状に混じり合ったものでした。
……確か、昔、あんな炎を操る話を読んだ気が……。
さすがに、数十年前のことですので思い出すのに一苦労、というわけではありませんでした。
なぜか私は、記憶はぼやけたところがあっても、前世で得た知識ははっきりと覚えているようです。
「……『死ぬ気の炎』……」
それは私がかつて読んだ漫画――『家庭教師ヒットマンREBORN!』で主人公たちが使用していたものに酷似していました。
じゃあここは――
「リボーンの世界……?」
すいません。
原作キャラほぼ出てませんね。
次回も説明回です。