楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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時期を合わせて書いてみました。

本作の中の時間は大体夏なのですが、「人間関係は今のまま、今回だけ時間が進んでいる」と言う風に考えていただけると助かります!



千棘。第48話「トロケテ」(1)

ある日の夜、楽は自室でくつろいでいた。

今日は万里花は用事があるからと、自宅に帰っていた。

何とは無しにテレビを眺め、ふと、ため息をつく。

「…ふう。あいつといない時間の方が最近少ねえから、いないと調子狂うな…」

そんな風に考えながら、ぼんやりとチャンネルを回している。

「…エアコン強くしすぎたかな、少し暑いな…」

そんな独り言を呟いて、ふと立ち上がる。

ぶぶぶっ…

そのとき、携帯のLINE通知が入ってきた。

送り主は万里花だった。

「…万里花か」

今さら一喜一憂するような関係ではないのだが、それでも、無意識のうちに顔が綻んだ。

「らっくん、こんばんは♪明日なんですけど…昼休みにお渡ししたいものがあるので、ぜひ空けておいてくださいね!あなたの万里花より♡」

「(投げキッスのスタンプ×30)」

最後におまけが付いてきた。

「うお…この感じ、少し懐かしいな。…渡したいもの…?…あ」

ふとカレンダーに目をやる。

今日の日付は2月13日。

「…ああそうか、もうそんな時期か。…去年は初めてチョコもらったんだっけな。

…あのとき、万里花と恋人になってるなんて、全然考えたこともなかったな…。…いや、それも失礼な話だな、俺…」

過去の自分を、少しばかり悔いた。

「…楽しみ、だな。…またあんな銅像みたいなのを作ってこなきゃ良いけど。味はすげえ良かったんだよな…」

また、少しだけ、顔が綻んだ。

外を見ると、この街にあまり降ることの無い雪が、静かに庭に舞い落ちていた。

 

 

翌日。

楽はいつもよりかなり早く登校していた。

「…万里花から受け取れると分かっていながら、他の人からのチョコを期待して、いつもより早く来ちまう自分に嫌気が差す…!!…ん、あれ…?」

ふと周りを見渡すと、普段ならば教室に1~2人居るかどうかの時間帯にも関わらず、既に自分以外に6人程居た。

皆男子生徒で、本を読んでいる人、仲良くだべっている人、色々居るのだが…この生徒たちにはある共通点があった。

みんな、明らかにそわそわしているのである。

楽が教室に入って来たときも、一瞬びくっと反応して楽を見て、『なんだ、おまえかよ…』と言う心の声が聞こえてくるようながっかりした顔をして各々の行動に戻っていた。

「…皆、考えることは同じなんだな」

そんな風に考えて、男特有の何とも言えない哀愁を感じていた。

 

そんなとき、教室に誰かが入って来た。

千棘だ。

「千棘、おはよう」

「あら、おはよう、楽♪」

二人はいつもの挨拶を交わす。

「?なんでそんな上機嫌なんだ?」

楽の言葉の通り、この日の千棘は誰が見ても分かる程に上機嫌だった。

「あ、え、ま、ちょっとねー!…ちょっと楽、こっち来てくれる?」

ふと、千棘が楽を教室の外に誘い出す。

「ん、なんだよ?」

千棘が言った通りに教室を出る楽。

『ちっくしょう…なんで一条のヤツだけ…』

『食中毒にでも会っちまえばいいんだ…!!』

等と言う恨み言が、教室内に蠢いていた。

2つ目に関しては、別に願う必要も無いレベルのことであったのだが。

 

「どうしたんだ、急に?」

楽が連れて来られたのは、階段のすぐ横の暗がりだった。

朝に通る人はまず居ない空間である。

「あ、あの…さ、躊躇したくなくて、朝会ったらすぐ呼ぼうって思ってたんだ…ご、ごめんね…?」

千棘は顔を赤らめて、手を後ろでまわしたままもじもじと動いた。

「(な、なんだよ…こんな仕草見たことねえぞ…?かわいいな…)」

千棘のしおらしい態度に、内心どきどきする楽。

「べ、別に大丈夫だって。それよりも、用は何なんだ?」

なるべく平静を装って答える。

「え、えっとね…これ、昨日作ったんだ!」

ばっ、と差し出されたのは、綺麗な包装紙に包まれたチョコレートだった。

「おお!すげえ…綺麗なラッピングだな!」

かける言葉に悩んだ末、出来る限りの悪手を選ぶ楽。

「あんたケンカ売ってんの!?それは鶫がやってくれたのよ!…出来たのが朝の6時で、私はもう体力の限界だったから…」

「え…?」

よく見ると、千棘の綺麗なブルーの目の下にクマが出来ていた。

「そんなに頑張って作ってくれてたのか…?」

「そ、そうよ、文句ある?」

「…いや、ありがとうな。」

そう言って、楽はにかっと笑う。

「…!と、とにかく!食べてみてよ、ほら!感想をすぐ聞きたいの!!」

楽の笑顔と優しい言葉に真っ赤になりながら、包装紙を剥がして行く。

 

「お、おお、じゃあさっそ…く…」

 

現れたのは、『元はどんな形をしていて、どんな大きさだったのか想像もつかないが、とにかく、あらゆる不出来・不祥事・災厄を万力で圧縮して押し込めて押し固めたかの様な漆黒の』物体だった。

「…これは…原料は…炭素とブラックホールと憎しみ?」

「なんでよ!?カカオとクリームと愛情よ!!」

「ウソだろ!!?どうやったらこんな、皇居の前にこっそり置くだけで日本国家が災いで崩壊しそうな禍々しい物が出来るんだよ!!?」

今までのレベルを軽く超える禍々しさに、流石の楽も動揺を隠せない。

しかし。

「…う…が、頑張ったのに…」

「!!」

千棘の瞳が潤んだのを見て、楽は罪悪感に襲われた。

「(こ、これを食べたら、多分俺は…死ぬ…)」

「(で、でも、千棘を泣かせるなんて真似…俺には…出来ねえ…腹を括れ…一条楽…!!)」

まるでこれから戦場(いくさば)へ出陣でもするかのような気合を入れる楽。

「…た、食べるぞ」

「…ぐす…え、ほんと…?」

千棘の顔がぱあっ、と明るくなる。

「せっかく俺の為に作ってくれたのを無駄になんか出来ねえ。俺が死んだら伝えてくれ。俺は、勇気を持って戦場に飛び込んだのだと…」

「何よその遺言!?逆に失礼でしょうがー!!」

そんな千棘の言葉も気にせず、楽がチョコ(?)を口にする。

 

「…」

 

「…どう?」

 

「…」

 

「…ら、楽…?だ、大丈夫…?」

 

「…」

 

「…ねえ、ちょっと、本当に、大じょ」

「ぶげらあっっっ!!!」

「!!?」

どごんっっっ

どごんっっ

どごんっ

どどどんっっっ

どどんっっ

どんっ

まるでスマブラでキャプテン・ファルコンが吹き飛ばされたときのような声を上げて、廊下の上下左右の面に縦横無尽に叩き付けられる楽。

「楽ーーーーーー!!!!!」

ドラマで恋人が、目の前で事故に遭ったかのような叫び声を上げる千棘。

原因は、完全に自分自身なのだが。

捨て台詞を残すことすら出来ず、楽は教室まで都合良く吹き飛ばされた。

 

 

 

続く。

 




意外と長くなったので細かく分けます!


それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!

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