ある土曜日の朝。場所は楽の家でのこと。
布団の中でもぞもぞと動き、楽が起きた。
「う~ん…まだ8時か…あれ、万里花は…?」
時計で時間を確認した後、ふと隣を見ると、万里花が居なかった。
前夜は万里花が楽の部屋に泊まりに来て、いつも通り(そう、いつも通り)のことをして二人で一緒に寝ていたのだが、その彼女が見当たらない。
「あれ…万里花~?」
寝起きの弱々しい声で呼びかける。
返事は無かったが、代わりに少し遠くから鼻歌が聞こえてきた。
「ふんふ~ん…♪あ、らっくん!おはようございます♪これ、動きやすくて良いですね♪」
「あ…」
万里花は、旅館で見かけるような女性用の作務衣を着て、ほこり取りを持っていた。
それは、前日に楽が『気が向いたら着てみて』と言う程度の気持ちで渡したものだったのだが、いざ万里花が着てみると、家庭的で且つどことなく色っぽさが漂っていて、何とも言えない魅力がにじみ出ていた。
「?どうなさいました?」
「あ、いや、それ…すげえ、似合うなって…」
楽は万里花をぽーっとした表情で凝視したまま言う。
「…あ、ありがとう、ございます…」
楽の予想外の好反応に、万里花は顔を仄かに赤くして照れた。
「…少し早めに目が覚めた上に、身体の調子がとても良かったので…せっかくなので掃除させてもらいました♪…もうじき、毎日掃除する立場になるんですものね♪」
そう言って、ほこり取りを両手で持ってにこっと笑う。
「お、おう…」
ここで『そうだな!』なんて乗る訳にも行かず(内心乗りたかったのだが)、照れて目を背けながら返事をした。
「…ふわ…」
「あら、お疲れですか?」
楽の大きなあくびに、万里花が気遣いの声をかける。
「…まあ、2時過ぎまでその…してたし、な」
恥ずかしさからか、少しばかり、歯切れ悪く答えた。
「なんでおまえはそんなに元気なんだ?」
「うふふ…♪らっくんとすると、毎回次の日とても元気なんですよ!♪身体も心もらっくんで満たされて、らっくんの腕の中で眠るって言うのがこんなに幸せだなんて…ああ、出来るならもっとたくさんこうして頂きたいですわ♪」
「は、恥ずかしいこと言わねえでくれよ…それに、これ以上頻度を増やしたら、もうそれ同棲になっちまうし…」
この頃、大体週2~3ペースで楽の家に泊まっていた。
お互いの親にも現状は伝えていて双方納得しているし(ちなみに両家とも、派手な宴を開いていた)、楽の家としても、万里花が来る度に美味しい手料理を笑顔で振る舞ってくれるため、組の者にとって、万里花はすっかり家族のような存在になっていた。
「あらー、いけず♪」
そんなことを言いつつ、万里花は掃除を再開した。
「…」
楽は、万里花が鼻歌混じりにほうきがけをするのを眺めていた。
時刻は8時半。
休日と言うこともあり、まだ、この街のいつもの喧騒は聞こえてこない。
スズメのさえずる音が聞こえる、静かな朝だった。
「なあ、万里花」
「?はあい?♪」
ふと、呼びかけた。
「…今後ろから見てたけど…改めて、おまえの尻ってでかくてやらしい形してるよな…あ」
楽が言葉の途中で万里花を見ると、ほうきを持ったまま真っ赤になって俯いてしまっている。
「(…やっべ、朝から何言ってんだ俺…ちくしょう、昨日の余韻が…)」
爽やかな朝とは言え、自分の恋人をまじまじと見ていたことにより、昨晩の出来事を思い出してしまっていた。
「…もう。…いくらでも、お好きなように、触ってくださいまし♪」
「…!おまえはもう…最高だな…」
「…♪」
そんな楽のセリフに対し、怒らずに、優しく返す、この万里花の寛容さに楽は度々感動していた。
「ふー。これくらいでよろしいですかね!♪」
「ああ、すげえ綺麗になったよ…本当にありがとな。」
「えへへ…はい♪」
家の廊下や楽の部屋は、万里花の掃除により見違える程綺麗になっていた。
楽も割と小まめに掃除をしていたのだが、万里花はその数段上を行く手際であった。
「らっくんのお嫁さんになるからには、これくらい出来ませんと!」
そう言うと、えっへん、と胸を張った。
「(ああもう今すぐ嫁さんに迎えてえ…)いやほんとすげえよ。ありがとな。」
「はい♪時間は…まだ、9時半ですか。どうしましょう?」
掃除は2時間弱で終わったのだった。
「ん~、まだ店も開いてないし、腹も減ってねえな…少し、テレビでも見ながらゆっくりするか」
「はい♪」
二人は、座椅子に楽が後ろ、万里花が楽の足の間に入った状態で座ってテレビを見始めた。
「このワイドショーに出てるこの人が好きなんだ」
「へー、そうなんですのね♪」
他愛無い会話をしながら、仲良く一緒に見ている。
しかし、20分も経った頃、万里花のすぐ後ろで、楽がこっくりこっくりとし始めた。
「あらあら、やはりまだ眠いんですのね?」
そう言うと、手を後ろに伸ばし、楽の頬に手を当てた。
「ん…わりい、そうみたいだ…ふわっ…」
楽は再びあくびをした。
「うふふ、いいんですよ♪お布団に入りますか?」
「ああ…」
「お休みなんですから、ゆっくりしましょう♪」
万里花はそう言うと、ゆっくりと作務衣を脱いだ。
作務衣用の白い下着姿になる。
露出こそ少ないものの、万里花の豊満なボディラインが見事に浮き出ていて、何とも言えない艶っぽさを感じる。
「おお…それ、色っぽくて良いな…ふわあ…」
「うふふ、ありがとうございます♪ほらほら、お布団に行きましょうね~♪」
万里花のことを褒めながらも、意識が朦朧としてよたよたと歩く楽。
そんな楽の腰に手を当てて、万里花は楽を布団のところまで連れて行く。
そして、二人で布団の中に潜り込んだ。
「う~ん…万里花、あったけえな…それに、良い匂いがする…」
「…♪」
いつもなら万里花が楽に抱き付くようにして寝ているのだが、この日は楽が万里花に甘えるように抱き付いていた。
「うふふ…甘えるらっくんも新鮮でかわいいですよ♡」
そんなことを言いながら、万里花は楽の頬をつん、とつついた。
「う~ん…もっとくっついていい…?」
楽はそう言うと、もぞもぞとしながら更に近付き、万里花の胸に顔を押し当てるようにした。
表情はいつもと違い、気の抜けきった、恋人である万里花にしか見せないであろう腑抜けた顔をしている。
「(…か、かか、かわいいですわ~~~~!!!!しゃ、写真、写真…しまった、携帯は台の上に…抜かったーーー!!!)」
新鮮な楽の姿に、一人本気で悶える万里花。
気付くと、楽はすー、すーと静かに寝息を立てていた。
「…安らかな顔をしちゃって…♪」
そんな楽の様子を、万里花は幸せそうに微笑みながら見つめている。
すると。
「う~ん…むにゃ…まり、か…」
「?寝言かしら…?」
「…むにゃ…俺が…守るから…な…」
「!!!!!!(ほわあああーーーーー!!!!!)」
楽の寝言に、激しく動揺する万里花。
しかし、楽を起こすまいと、必死で声を上げるのを我慢する。
「(ななななんて凛々しくてかっこいいことをおっしゃるのですかーーー!!!しかもこんなかわいい寝顔で言うなんてギャップがーーーーー!!!!!ほわあああーーーーー♡♡♡!!!)」
楽を起こさぬように、静かに、しかし激烈に、悶える万里花。
そして数十分後。
「…んあ、すっかり寝ちまってたか…。…なんでヘッドバンキングしてんだ…?」
万里花は、先程の寝言の後も度々楽が繰り出してくるかわいい仕草や寝顔・寝言にその度悶え、しかしそれでも楽を起こすまいと必死に身体の動きを抑えるうちに、気付くと動きは大きいが楽に影響を与えない、首での動きに落ち着いていた。…落ち着いてはいないのだが、落ち着いた。
「…は!実は…かくかくしかじかで…」
万里花は、楽の仕草や寝言のことを事細かに話した。
順番や詳細まで、見事にきっちりと記憶していた。
「俺、そんな恥ずかしいこと言ってたのか…」
楽はかああっ、と顔を赤らめた。
「うふふ♪とーってもかわいかったですよ…?♪」
万里花は穏やかな笑顔で、楽の頭を撫でながら言った。
「うう…でもまあ、万里花にくっついて寝たらすげえ気持ち良く寝れたし、別に寝言で言ったのもただの本音だからいいか」
「…ふわ…」
楽のこっ恥ずかしいセリフに、万里花は顔を赤らめた。
「…もうちょっと、ここで寝ていいか…?」
「…はい♪どうぞなんなりと…♪」
こうして、二人の穏やかな休日の朝は過ぎて行った。
続く。
万里花の家庭的な面は、一緒に居る時間が長ければ長い程にどんどん発揮されて行くんだろうなと。
楽が家では和服と言うことで、万里花も着たらどうなるだろうなーと思って、服装のくだりを入れてみました。いかがだったでしょうか(^^)
久しぶりにエロの気配がほとんど無いものを書けて、初心にかえりました!w
ここから何話分かは、のほほんとしたものを書きたいと思います!
それでは、今回もお読み頂きありがとうございました(^^)!!