楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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第4話「スケダチ」

1時限目。

 

 

楽は考え込んでいた。

 

 

「さっきの橘の態度は・・・昨日宣言してた「新しいアプローチ」と考えてまちがいないんだろう・・・。

 

あの感じ・・・一昨日の観覧車でキスを迫ってきたときとすごい似てたな・・・。

 

まさか意図的にやってくるとは・・・!

 

・・・めちゃくちゃ、かわいかっt」

 

 

顔のにやけに気付き、全力で首を振る。

 

 

「うおおおおちがうちがうちがう!!いやたしかにかわいかったけど!!

 

かわいかったけど!!俺には小野寺がーーーー

 

いやしかし本当にかわいかったな・・・

 

・・・はっ!ぬがーーーーー!!!」

 

 

ものすごい葛藤。いつまで続くのか。

 

 

「楽、どうしたの・・・?さっきから授業中だってのににやけたり険しくなったり・・・」

 

 

右の席から千棘が話しかけてくる。

 

 

「ああ、いや、なんでもないんだ。すまねえな。」

 

 

「そう?ならいいんだけど・・・気持ち悪かったわよ?」

 

 

「流れるように悪口を言うんじゃねえよ・・・」

 

 

凹む楽。

 

 

「(いけねえいけねえ、こんな表情豊かになってちゃあ周りに状況がばれちまう。)

 

 

(そうだそうだ、)

 

 

俺には小野寺が・・・」

 

 

「?一条くん、呼んだ?」

 

 

左の席から小野寺が話しかけてくる。

 

 

「(!?!!??しまったーーー心の声が漏れ出ちまったーーー!!!これじゃマックドバーガーのときと同じじゃねえかーーーー!!!)

 

あ、ん!?いや、その、小野寺はあの問題わかんのかなーと思って!!どう!?」

 

 

「あ、あの加法定理を使った問題?うーん・・・公式が難しくて覚えづらいんだよね。何も見ずにテストで書けるようになるにはまだ時間がかかるかなあ・・・。」

 

 

「そそそ、そうか!そうだよな!難しいよな!」

 

 

 

 

「おーい、一条、お前さっきからよくもまあそんな堂々とでかい声でおしゃべり出来たもんだな。」

 

 

副担任の先生の声。

 

 

「(うおおしまった、動揺しすぎて声がでかくなってた!!)は、はい、すみません!」

 

 

「俺は男に厳しいのはわかってるよなー?よーし、一条、お前この問題を前に出て解いてみろ」

 

 

「(マジか・・・授業内容全然頭に入ってなかったのに・・・)は、はい・・・。」

 

 

とぼとぼと前に出る楽。千棘と小野寺は心配そうに見ている。

 

 

「な~にやってんのよばかもやし・・・まったく・・・。」

 

 

「一条くん、大丈夫かな・・・。」

 

 

黒板を前に立ちすくむ楽。

 

 

「これは・・・公式も覚えてない今の状況では絶対に解けねえぞ・・・ちくしょう・・・」

 

 

 

ここで、一部始終を見ていた橘目線。

 

 

「楽様・・・小野寺さんとあんなに話しているなんて・・・羨ましい・・・。

 

は、楽様が注意を・・・あ、そんなに前に出されるなんて・・・

 

悔しいけども学業の面でわたしにサポートする能力なんてただのひとかけらもありませんわ。しかしこの問題は公式さえ覚えていれば解けると先生はおっしゃっていたはず。

 

かくなる上は・・・本田!」

 

 

目配せのみで本田を呼ぶ。教室横に生えている木の枝に颯爽と現れる本田。

 

 

「お呼びでしょうかお嬢様。」

 

 

「本田、楽様に加法定理の公式が見えるようにカンペを出してちょうだい!」

 

 

「承知しました」

 

 

全てアイコンタクトのみでの会話。なぜこんな複雑な会話が成り立つのか。

 

 

 

 

再び楽目線。

 

 

「あ~どうしよう・・・」

 

 

「おーいどうした一条、解けないのか~?」

 

 

先生が意地悪く言ってくる。ちなみに他の男子生徒は軒並み(集以外)

 

 

「へへへ・・・クラスのアイドルをはべらせやがって・・・天罰だ・・・!」

 

 

と言った雰囲気。楽を助けてくれそうにはない。

 

 

困り果てる楽。

 

 

「あ~・・・ん?・・・んん??」

 

 

左の窓にふと目をやると、そこにはテレビのADばりのカンペを持った本田が。

 

 

そこには加法定理の公式がでかでかと書かれている。

 

 

ちなみに先生は窓側から楽の様子を見ているので、本田に気付く様子は無い。

 

 

「!?あの人はたしか橘の・・・なんにせよありがたい!これで解ける!」

 

 

先生にばれぬよう本田のカンペをちらちら見ながら解く楽。

 

 

見事解ききった。

 

 

「ちっ・・・」

 

 

先生と男子生徒たちの怨念が充満する。ここまで露骨だともはや清々しい。

 

 

「楽様ーーーよかったですわーーー!!」

 

 

机の下でガッツポーズをとる橘。

 

 

本田は楽が問題を解いたのを確認するとすっと消えた。

 

 

 

「あら、やるじゃないもやしのくせに・・・」

 

「一条くん・・・解けてよかった・・・」

 

 

ほっとする千棘と小野寺。

 

 

 

ちなみに。

 

 

「あの人はなに・・・忍者かなにか・・・?」

 

「楽を助けてくれたみたいだけど、すごいね~あの動き」

 

「あのような手練れが一体どこから・・・なぜ一条楽を助けたのだ・・・?」

 

 

クラスでるりと集と鶫だけは本田の存在に気付いていた。

 

 

 

授業後。

 

 

「橘!」

 

 

「はい♪なんでございましょう楽様?」

 

 

「さっきはありがとな!まさかあんな形で助けてくれるとは・・・」

 

 

「うふふ、どういたしまして♪楽様のためとあれば私いかなる手段も問いませんことよ!」

 

 

「(それはそれでどうなんだろう・・・)と、とにかく助かったよ、ありがとな!」

 

 

「はい♪」

 

 

 

 

 

「方法にはびっくりしたけど、橘はいいヤツだな。」

 

 

「(こりゃあいずれは惚れちまうな俺も)」

 

 

「そうだn・・・おい、またか集。」

 

 

「ばれたか・・・二回目で少し俺も慣れたからばれない自信あったんだけどな」

 

 

「わかるわ!!」

 

 

「しかしお前もノリツッコミとはいえ、惚れちまいそうって言葉に一瞬乗りかけたよな?」

 

 

「ううううるせえ!!」

 

 

「はっはっはっ♪」

 

 

くらげのように身体をくねらせ、高笑いしながら去る集。

 

 

「ったく・・・。」

 

 

 

「ふふふ、楽様のために働くことができて満足ですわ♪さてと、次は・・・昼休みですわね。」

 

 

 

続く。

 


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