楽×マリー『オネガイ』その後   作:高橋徹

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第12話「スケート」

橘とるりの会話が始まった頃。

楽と集は歩きながら話していた。

「…今日は特になんだけど、ここ最近橘と二人で話そうとすると、やたら会話が止まるんだよな。なんか今までは気楽に話せてたのに、なんか照れくさくてよ。なんでだろ?」

楽が集に疑問を投げかける。

「…おまえ、それマジで聞いてんのか?」

「え?なんか俺変なこと言った!?」

「…あのな、今までは万里花ちゃんがいくらおまえにアプローチしてきても、おまえは彼女を本当の意味で意識してなかったんだよ。だから会話をするときも、常に一歩引いた状態で話すから会話が止まるなんてことは無かった。

でも、今はちがうだろ?今は思いっきり彼女のことを意識してるから、いざ話そうとすると考えすぎちゃって何を話したらいいかわかんなくなるんだよ。意識してるがためってこと!」

「…そ、そうなの…か…。」

「なんかな、今日のおまえと万里花ちゃんの雰囲気を見てて思ったんだよ。おまえが小野寺と話してるときの雰囲気と似てるなって。」

「…!マジか…。」

「…ま、今までずっと好きだったんだから、ここに来て即座に『俺は小野寺じゃなくて橘が好きになりましたー!』なんて言えやしないだろうし、おまえ自身納得がいかないだろ?

だから、もう少し、気楽に万里花ちゃんと接してみろよ。それでまたときめいて、一緒に居て安心して、『もっとこの子といたいな』なんて風に思うようになったらまた言ってくれ。」

「…今の時点で、そういう風に思ったことが何度もあるわ…。」

「…え、マジ?…ああ、まあ、そうだろうな…。こりゃあいよいよ時間の問題かねえ!」

「…俺は…」

「だーかーら!今は気楽に気楽に!まったく変なところで真面目だかなんだかわかんない考え方しちまうんだからなー楽は!」

「…ありがとな。」

 

楽の心が、徐々に、いや、本人の中では徐々にと思っていても、実際にはもうゴール一歩手前まで変わっていた。

 

 

一方、その頃の千棘・鶫・小咲の一団はと言うと。

「いや~コーヒーカップって意外と楽しいのね!ついついはしゃいじゃった!♪」

「そうですね、お嬢と回るコーヒーカップは非常に楽しかったです・・・」

「千棘ちゃん…鶫ちゃんと乗ったときと同じ勢いで回すのはちょっと…うぷっ」

「わーーー小咲ちゃん大丈夫!?ごめんごめーん!!」

 

尾行と言いつつもしっかり遊んでいる3人。

それを前方から見つめる橘、集、るり。

「「「何やってるんだか…」」」

このとき、楽だけは気付いていなかった。

 

 

そして4人は次に遊ぶ場所を探していた。

「お、ここスケートリンクなんてあるんだ!中で涼むこともできるし良さそうだね~♪みんなどう?」

「ああ、良いと思う」

「わたしもまあ、多分大丈夫よ」

「わ、私も…お、おそらく…だ、大丈夫ですわ…???」

「いや万里花ちゃん、語尾が不自然に上がってるよ!?本当に大丈夫!?」

「橘、無理はするなよ?」

「楽様、ありがとうございます…。単純に、ただ単純に、自分の運動神経に自信がないもので…。

…!あ、いや、ぜひとも行かせてください!!」

「んあ!?どうしたんだ急に?」

「なんでもありませんわ!さあ皆さん行きましょう!♪」

何か閃いた顔になった後、急に元気になった橘。

「(ふふふ…まともに出来ないからこそ…楽様にアプローチするチャンスですわ…!!)」

なんとも分かりやすい企みだった。

 

中に入り、各々靴を履いてリンクに上がる。

「うお、やっぱり初めてだと立つのも大変だな…」

「るりちゃん、大丈夫~?俺が支えようか!」

「結構よ」

「即答しなくても…。」

そんなやりとりを3人がしていると、橘が遅れて入って来た。

「こ、これは、おっと、思った以上にきゃっ!あっ…とっ…難しいですわ…ねあわわわ!」

一人で大パニックになっていた。

見かねた楽が助けに入る。

「ったく…しょうがねえな。俺も立つのがやっとだけど、支えよ」

「ぜひお願いしますわ楽様!!」

「食い気味!?」

慌てっぱなしではあるが、橘の思惑通りに事が運んだ。

「(ふふふ…やりましたわ…!!さあここからイチャつきますわよ~~~!!)あ~れ~!楽様~!このままでは転んでしまいます~♪」

「おい、ちょっ、橘!おまえそれ立つ気ねえだろ!ばか、あんまりしがみついたら…!」

ずるっ

どすーーーんっっ

「!?ちょっと、一条君と橘さん、大丈夫!?」

「楽が下に!おーい大丈夫から…く…」

「…あら?痛くありませんわ…?楽様はどこ…に…」

3人が固まる。

寄りかかってくる橘をなんとか支えようとした楽は、思いきり滑ってしまい橘の股下をくぐり抜けて転倒した。同じく転倒した橘を上手いこと守れはしたが、楽の頭は完全に橘のスカートの中、より正確に言えば橘のお尻の下敷きになっていた。

「う、うーん…なんで真っ暗なんだ…?く、苦しい…。」

気が付いた楽は、状況を把握しようと手をあちらこちらに伸ばした。

さわっさわっ

もにゅっ

「ひんっ!?ら、楽様…!?」

楽の手は、最終的に橘のお尻を鷲掴みにしていた。

「ん、橘?どこにいるんだ?あれ、なんだこれ…触り心地が良い…?」

状況が理解出来ず、橘のお尻を揉みしだく楽。

「んあ…ら、楽様…こんなところで…んん…あ、だめ…ひう…」

思わず甘い声が漏れる橘。手で口を必死に押さえている。

がしっ

ずるずるっっ

「うおっ!?眩し…あれ!?」

そのやりとりを見るやいなや、楽を引きずり出するり。

「一条君…あなた今何をしたかわかってるのかしら…?」

「あれ、宮本…?え、何をっ…て…」

視線を後ろに向ける。

尻もちをついて顔を真っ赤にしている橘。

先程の真っ暗な状況。

柔らかい感触。

橘が上げた甘い声。

「…なんてこったい。」

自分がやらかしたことに気付き、興奮と血の気の引きを同時に感じる楽。

「…すみませんでしべぶらああっっっ」

垂直に振り下ろされたるりの手刀でスケートリンクに埋まる楽。

 

~5分後~

「(やっと抜けた…)た、橘、さっきはそのごめんな。」

「い、いえ、いいんです、楽様は私を守ろうとしてくださったのですし…。

…あ、で、でも、ああいったことは…せめて二人きりのときに…。あんな声、楽様以外に聞かせたくありませんから…。」

ばぶしゃあああっっっ

「!!?楽様!?」

盛大に鼻血の噴水を上げる楽。

「…そのセリフは…反則だ…ぜ…」

かくっ

「楽様ー!!?」

息絶える楽。その表情は満足気であった。

 

それから20分程経つと、皆それなりに滑ることが出来るようになってきた。

「ふー、だいぶ慣れてきた…な…!?」

楽が目にしたのは、超速で滑る千棘と鶫の姿だった。

「あはははは!これすごい楽しいわねー!」

「ですね、お嬢!」

プロ選手と見紛う程のスピード。もはや周りの迷惑になるレベルだった。

「あ、あいつら何してんだ!?」

「(あらま、見えるとこに来ちゃったのか)うーん…スピードスケート?」

「いやそうじゃなくて!おーい!千棘!鶫!何やってんだー!?」

「あ、(しまったばれちゃった…ま、良いか!楽しいし!)楽ー!何ってスケートよスケート!」

「だからそうじゃなくて!なんでここにいるんだよー!?」

「えー!なにー!聞こえなーい!」

あまりに速度を出し過ぎて、楽の声がまともに聞き取れない千棘。

「なんでそんなスピード出せんの!?まったく…って、あれ、小野寺…!?」

千棘がどんどん飛ばして滑っているコースの近くで、膝をがくがくと震わせながら立とうとしている小野寺がいた。

「あ、い、一条くん…!い、良い天気だね!?」

「なんで急に天気の話!?大丈夫か?」

「う、うん、だ、大丈夫だよ!」

つるっ

「あっ…?」

「!!おい、あぶね…!!」

「!?小咲ちゃん!あぶな…!」

「お嬢!!小野寺様!!」

 

滑る千棘と転倒した小野寺がぶつかりそうになり、すかさず助けに行く楽と鶫。

 

どーーーーーんっっっ

ずしゃああああっっっ

 

「う、うーん…あれ…なんともない…?あ、小咲ちゃん!鶫!あと…楽も!?ちょっと大丈…ぶ…」

「う、うう、お嬢と小野寺様は無事…か…」

「あ、あれ、私こけちゃって…それか…ら…」

3人が同じように固まる。

「う、うーん…?あ、みんな大丈夫か…って、あれ…?」

何がどうなればこんな状況になるのか、小野寺と千棘と鶫が並んで仰向けに倒れ、そこに楽が覆いかぶさるように倒れていた。楽の両手はそれぞれ小野寺と鶫の胸をしっかり掴み、顔は真ん中にいた千棘の胸にばっちり埋めていた。

ぼっぼっぼっぼっ

ぼわっぼわっ

楽、千棘、鶫、小野寺がそれぞれ真っ赤になる音と、千棘、鶫が発火する音が続けざまに聞こえた。

「あ~…3人ともそれぞれ揉み心地が違って、異なった魅力が…」

「おのれはーーーーーー!!!!!!」

ごががががががっっっ

「うぼあああああ!!!」

格闘ゲームばりのコンボ攻撃をくらう楽。

「…で、ですよね…」

 

その後、瀕死の楽に話しかける小野寺。

「あ、あの…私を助けてくれようとしたからあんなことになったんだし…あの、その、私は気にしてないからね…?お、お、お大事にーーー!!」

赤面且つ楽と目を合わせることも出来ぬまま、ダッシュで去った小野寺。

「ま、待ってくれ小野寺…。な、なんてえ日だ…がくっ」

楽、ご逝去。

 

そんなこんなでスケートを堪能した一行は、次の場所に行くことにした。

「あー楽しかったな(身体はぼろぼろだけど)…ん、どうした橘?」

楽が外に出ようとしたとき、楽の袖を橘がくいっと引っ張った。

「楽様…私の胸なら、いつでも、いくらでも、触って下さっていいんですよ?」

「ば、おまえ何言って…」

橘をよく見ると、少し俯き、頬を膨らませていた。どうやらすねているようだ。

「おまえ、さっきのこと気にして…?」

「…。」

「…まったく、おまえはかわいいな…。」

そう言って、楽は橘の頭にぽんぽんと手を置いた。

「…!…♪」

言葉はなくとも、ころころ変わる表情で心情の変化が読み取れた。

「…行こうか。」

「はい♪」

次の目的地へ向かう4人であった。

 

 

 

続く。

 

 

 




書いていたら思いの外膨らみまして、ダブルデート編、まさかの4話構成になりそうです(白目)いつの間にこんなことに・・・。しかし書くのは楽しいので引き続き頑張ります!

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