死後で繋がる物語   作:四季燦々

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すみません。遅くなりました。これからも投稿は3日に1回位の頻度になりそうです。でも、なるべく更新速度は落とさないようにしていくのでこれからもよろしくお願いします。

おまけに今回は長い挙句、中には「アンチじゃね?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。僕自身はそんなつもり書いたわけではないので、その点のご理解をいただけると幸いです。


Loneliness

「ついにこの時期がやってきたわね……」

 

ある日、本部で各々が過ごしていた時の事だ。さっきから窓の外を眺めていたゆりがポツリとそんなことを呟いた。

 

「どうしたんだよいきなり」

 

「天使の猛攻が始まるわ」

 

げっ!何それ。

 

「も、猛攻?な、何でだよ」

 

「――――テストが近いから」

 

「……はっ?」

 

テスト?何でテストが近いと天使の猛攻が始まるんだ?

ゆりの発言にいまいち理解が及ばないオレは頭を捻る。よく見ると音無も何の事だか分からないようでポカンとしていた。すると、それを見かねたのか、高松がクイッと眼鏡の縁を持ち上げて言う。

 

「特に疑問に思うことはないでしょう?天使の目的は私達に普通の高校生活をおくらせることです。ならばそれは学業を充実したものにするためテストで良い点を取らせる、という事につながります」

 

解説ありがとよ、高松。まあ、確かにそうだわな。好き勝手なことやってばっかが学校じゃねえもんな。でも、オレ勉強嫌い。

 

「で、どうするんだ?おとなしくテスト勉強でもするのか?」

 

「そんなことしたら消えちゃうじゃない。それに何より、周りを見てみなさいよ」

 

ゆりに言われ本部内を見渡す。 さっきから音無と高松以外のリアクションがねえと思ったら、他の奴らは「うおぉぉぉ……」といった感じに悶えていた。どうやら皆オレと同類らしい。

 

「――無理、だな」

 

「でしょ。私達は基本的にアホなのよ。テスト勉強なんかしたら成仏する前に精神的に死んじゃうわよ。この世界じゃ病まないけどね。気分的にしか」

 

「つか、オレも入ってんだよな、そのアホの中に……」

 

「今回は特別な作戦よ。テストを受ける天使を妨害する。そして、天使の成績を学年最下位にたたき落とすの」

 

……随分とえぐい事を考えるな。一応理由を聞いておこうか。

 

「少しは考えなさいよね。天使が生徒会長という席にいられるのは成績トップという理由が大きい。だから教師達の信頼も厚いわ」

 

「だから?」

 

「はあ……。いい、神乃君。天使が今の立場を失えば、彼女を味方する人なんていないわ。信頼も失った彼女にいったい何ができるというの?」

 

ふ~む……作戦の内容は分かった。それを実行する理由も分かる。でも……その、なんか卑怯くさいって言うか、外道って言うか、そんな感じ。あんまり乗り気になれそうにない。

 

「じゃあ、天使と同じ教室でテストを受けるメンバーを発表するわね。ちなみに教室の手回しはすでにすんでるから」

 

指名されたのはオレ、音無、日向、大山、高松、竹山だ。それにまとめ役としてゆり本人だ。

 

「じゃあ、解散!」

 

選ばれなかったものはよほど嬉しかったのか、爽快とした笑みで本部を後にした。なにそのマラソン走り切ったような顔。

そんなメンバーとは裏腹に、オレはモヤモヤした気持ちを消し去ることができないまま、作戦までの日数を消化するのだった。

 

 

 

 

 

 

それから数日が経ち、テスト初日となった。早速ゆりが指定してきた教室に集まるオレ達。

天使はすでに座席についており、教科書の内容をノートに取ったりと、テスト直前の勉強を熱心にしていた。

 

「まず、テストを受ける座席は初日のくじ引きで決まるわ」

 

そう言ってチラリと天使を見るゆり。天使は1番廊下側の前から2番目の席に座っている。

 

「いい、あなた達。必ずあの周りの席をゲットするのよ!」

 

「意外と大事な所で運まかせって……」

 

「まあ、そう言うなって。何とかなんだろ」

 

ちょっと楽観的過ぎないか、日向。これで引けなかったらオレ達ただのテスト受け損だぞ。

オレ達は元々所属するクラスはバラバラだ。それを他の連中がうまく調整してどうにか同じ教室で受けれる様にしたんだ。正直この作戦に気は乗らないが、今更後に引けないし気にしないことにしよう。そいつらの頑張りも無駄にするわけにはいかないしな。

 

「あっちゃ~!ハズレだ」

 

「私もです。天使からは遠いですね」

 

「うわ……全然ダメだったよ」

 

「俺は――ダメか」

 

次々に席を決めるためのくじを引いていくオレ達。しかし、やはり天使の周りの席を引き当てることは難しく、ことごとくハズレていた。おっしゃ、次はオレの番だな。

 

うぉぉぉぉぉ!オレのこの手が真っ赤に燃える!勝利(前の座席)を掴めと轟き叫ぶ!!

リ・コントラクト・ユニバース!シャァァァイニングドロォォォォォ!!

 

――――あっ、外した。

 

「すまん。オレも外れたわ」

 

「なになに?おっ!俺の隣じゃねえか」

 

座席表からすると、オレが引き当てたのは日向の左隣の場所のようだ。つっても、天使の近くじゃない以上全くもって意味ないけどな。やれやれと思っているオレの次に、今度はゆりがくじを引いた。

 

「キャー!やったー!1番よー!!――って!ダメじゃない!?このっ!このっ!」

 

どうやらゆりもハズしたらしい。自分が引き当てたくじを床にたたきつけ、ゲシゲシと踏みまくっていた。それを見届けた竹山が最後にくじを引きに行った。オレ達でそれなりに確率は下がったとは言え、まだまだ決まって居ない席はある。おそらく無理だろう。

 

「もう!誰かいないの!?前でも後ろでも横でもいいからっ!!」

 

「やっぱ運まかせに問題があr「1つ前を引きました」――って、なにぃ!?」

 

「よし!!ナイスよ竹山君!」

 

 

あっさり引き当てるとは……。これがシュタインズゲート――じゃなかった。竹山の選択か。

なんにせよ、行き当たりばったりの作戦だが、竹山の運の良さで次のステップへと進めることができそうだ。

 

「それじゃ、作戦内容を説明するわね。まず、竹山君」

 

「はい」

 

「解答用紙が配られた時に1枚余分にとっておいて。そして、その解答欄にはメチャクチャな解答を書くの」

 

なるほど。そうやって天使の解答を偽装するわけか。でも、ちょっと気がかりがある。

 

「メチャクチャな解答とは、具体的にどんなことを書けばいいのですか?」

 

「最初の教科って何だっけ?」

 

「物理です」

 

「じゃあ、将来の夢はイルカの飼育員とか書いといて」

 

うわぁ、バカっぽい解答だな。物理全く関係ねえし。

 

「で、回収する時に天使の解答用紙とすり替えることで成功よ」

 

「でも、ゆり。すり替えようとしたら天使に気づかれるんじゃねえか?」

 

音無がゆりに尋ねる。オレが気になっていた点もそこだ。前の席だとなおさらじゃないのか?

 

「そこで日向君!テストを回収する時に何かアクションを起こしなさい!天使の注意をひけるような飛びっきりの奴を」

 

「いきなり無茶ぶりかよっ!?ていうか、何かって何だよ!」

 

「何かは何かよ。それくらい自分で考えなさい」

 

ええ~なんだよそれ、と困り果てる日向。まあ、頑張れと言う意味合いも込めて肩をポンと叩いてやった。

 

「あっ!でも、名前のところには何て書けばいいのですか?」

 

もうすぐテストが始まるという時間になったので、引き当てた座席に座ろとすると竹山がふと気づいたように聞いてきた。んなもん、日向や大山が知ってるだろ。そんな風に簡単に考えたオレは、そいつらの方を見る。

 

「「「……………」」」

 

おい、なんか言えよ。

 

「天使?」

 

「バカ、そんなの書くわけにはいかねえだろ。普通に生徒会長――でいいんじゃね?」

 

「だよねー。物理のテストにイルカの飼育員とか書くぐらいバカなんだし」

 

おいおい、まさかこいつら……。

 

「もしかして知らねえのか?」

 

「「「……………」」」

 

思いっきり目を逸らしながら冷や汗を流す日向、高松、大山。ゆりは我関せずと言ったように聞いてないし、音無はオレと同じ日が浅いので知るわけがない。

 

「べ、別に生徒会長で通るだろうからいいだろ!」

 

「いやいや、自分の名前も書けないなんてバカすぎるだろ!?そもそもお前らが知らないことに驚きだよ!?」

 

「まったくだ。ていうか、お前ら一番古株じゃなかったのかよ」

 

日向の言い分に音無とオレとでツッコむ。つか、今気づいたけどここにいるオレと音無と竹山を除いた奴らはSSS創立メンバーじゃねえか!なのに知らないって……

 

「しょうがないじゃない。知る機会なんて無かったんだから」

 

「よく無かったな!」

 

ここにきてようやくゆりが口を開いたかと思ったら素っ気なく言葉を返す。そんなゆりの言葉に音無が驚きつつツッコミを入れた。

だが、少し引っかかる。ここまで行動力があり、長年天使と戦い続けているゆりが、敵の情報収集を怠るだろうか?ゆりは頭がキレる(学力には結びつかないようだが)し、いくらなんでもおかしい。

 

「じゃあ、音無君。あなた調べてきてよ。職員室にでも行けば名簿だってあるだろうから」

 

「うっ……!ああもう!分かったよ!行ってくる!」

 

オレが考えている間に話が進んでいたようだ。ゆりの言葉に教室から出るために扉に向かう音無。

遠目にそれを見送っていたオレ達だが、出る前に窓際の席にいた天使に音無は呼び止められていた。

 

そのままその場で話し始める2人。残念ながら会話の内容まではよく聞こえない。

 

「げっ!?天使に捕まっちまったぞ。大丈夫か音無の奴」

 

「大丈夫でしょ。天使だってこれからテストをする教室を真っ赤に染めるなんて暴挙はしないだろうし」

 

日向の音無の身を心配する声に興味が無いように答えるゆり。そこで、オレはさっき疑問に思ったことを本人に聞くことにした。

 

「……本当は知ってるんだろ」

 

「何よ、いきなり」

 

「とぼけんなっつーの。お前ほど用意周到な奴が敵対する相手の情報を知らないわけねえだろうが」

 

ちなみにこの会話はオレとゆりしか聞いていない。小さい声で話しているし、何より日向達は音無を案じてずっとそちらを見ていて、こちらの話には気づいていないからだ。

 

「……まあね。確かに知ってるわよ」

 

「なんで知らないなんて嘘ついたんだよ。正直に知ってるって言えばいいだろ」

 

「理由なんてないわ。なんとなくよ、なんとなく」

 

なんとなく、ね。一体何を考えてんのやら。やがて、天使と離れた音無がこちらに戻ってきた。

 

「“立華 奏”だそうだ」

 

「ああ、なんかそんな感じだったわね」

 

「知ってたんじゃねえか!?」

 

「忘れてたのよ。ほらほら、教師も入って来たことだし席につきましょう。テストが始まるわよ」

 

ゆりの言い分に納得がいかない様子の音無をなだめつつ、オレ達はそれぞれ自分達の席へと座った。先程言ったとおり1番最初の科目は物理だ。

 

開始の合図と共に、一般生徒が一斉に問題を解き始める。オレも裏の状態のそれを表にして、問題を見てみる。あっ、別に解くわけじゃねえからな。

 

「(うわぁお。全く分かんねんぜっ!)」

 

なんだこの『3.0Ωの抵抗のある回路に2.0Aの電流を流すと電圧は何Vか』とかいう問題は。

つか、Ωって何て読むんだ?現代語じゃなくね、これ。日本語でおk。

 

まあ、勉強してきたわけじゃねえから分かるわけないんだけどな。そんな感じで早々に諦めたオレは、鉛筆を転がし、腕を組んで寝ることにした。

眠りにはいる前に隣の席の日向を見てみると、ブツブツ言いながらテストの裏に何やら字を書いていた。気になったのでブツブツに耳を澄ましてみる。

 

 

「ちくしょ~ゆりっぺの奴、無茶言いやがって……。いっそのこと窓から飛び降りるか……?いやいや、何でそこまでしなきゃならねんだよ。天使の注意を引けなかったらただの無駄死にじゃねえか……。なら、あれか?いや、でもな~……」

 

 

 

――――頑張れ日向。

 

どうやら鬼気迫る顔で必死に書いていたのは、テスト後に天使の気を引くためのアイデアのようだった。顔を青くしつつ必死に描いているその表情がちょっと面白い。このまま聞いておくのもいいが、お楽しみは後にとっておくことにしてさっさと寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

「そこまで!後ろから解答用紙を集めてきなさい」

 

教師の声と共にクラスが一気にザワついた。さぁ、日向。お前の渾身のネタを見せてもらおうかっ!!

ガタッ!と日向が立ち上がりグランドを指差し出した。

 

 

 

「――な、なんじゃありゃぁぁぁぁぁ!!グランドから超巨大なタケノコがニョキニョキとぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

「でさ~、この問題――」

「やっと終わったー」

「なあ、どうだったー?」

 

まるでそんな声など聞こえなかったかのように、誰一人日向を見ようとはしない。あのアホ、思いっきりハズしやがったな。

 

「――アホ日向」

 

「ぐふぅ……!?」

 

音無のボソリと呟いた言葉に見事に撃沈する日向。

 

「チッ、しょうがないわね……」

 

ゆりにどうすんのかをアイコンタクトで聞こうとしたオレは見た。

舌打ちをして、机の下に隠すようにしているゆりの手に、何かのスイッチのような物が握られているのを。

 

――ピッ!

 

「えっ!?なにg――ぐはぁぁぁぁぁ!?!?」

 

ドゴォォォォン!!

 

小気味の良い電子音が聞こえた後に、なんと日向の椅子が爆発するように発射。日向は天元突破ァ!と言わんばかりに天井へと頭を強打し、白目を向きながら床へと崩れ落ちた。

 

あまりの光景にさすがにNPC達も天使も反応した。というか、ドン引いてた。

 

 

 

 

「待て待て待てぇぇぇぇ!?何だよさっきの!?」

 

休み時間へと入り、つかの間の休息と言わんばかりに一般生徒達はお喋りを始める。オレ達もゆりの下へと集まっていたのだが、そこに怒り肩で日向が歩み寄って来た。あっ、頭に天井の壊れた破片が乗ってる。

 

「あなたが失敗した時の為に椅子の下に推進エンジンを取り付けておいたの。どうだった?ちょっとした宇宙飛行士気分は」

 

「すぐに天井に頭ぶつけて墜落したよっ!!つか、推進エンジンなんてよく準備できたな!?」

 

「フォローしてあげたんだからいいじゃない」

 

「よくねえよ!!どんなフォローの仕方だよ!?フォローされて死にかけるってどういうことだよ!?」

 

日向がギャーギャー言っているが、今は無視。オレは1つの疑問を恐る恐るゆりに聞いた。

 

「なあ、ゆり。まさかとは思うがオレ達の椅子の下にも仕掛けられている、なんてことねえよな?」

 

「何言ってるのよ」

 

「だ、だよな~!こんなの日向だけに決まっ「当然あなた達の椅子の下にもバッチリよ」――悪魔かお前は!?」

 

「ゆ、ゆりっぺ!?一体いつの間に仕掛けたの!?」

 

「座席が決まってからすぐ」

 

「はやっ!?速すぎだよゆりっぺ!!」

 

なんでそこで無駄に行動力発揮しちまうかなぁっ!?お前なんて悪魔じゃなくて魔王だっ!この魔王め!

あれ?なんかしっくりくる。

 

「じゃあ、高松君」

 

「は、はい。なんでしょうか?」

 

「みんなの気を引く役お願いね」

 

やっぱりオレ達にも回ってくるのか……。推進エンジンのくだりから薄々感づいていたけど。

 

「そ、それは日向さんの役目なのでは?」

 

「狼少年の話、知ってる?」

 

「繰り返される嘘は信憑性を失う、ということですか……」

 

「そういうこと。なんのために体が軽そうな人達を選んだと思ってるのよ」

 

「推進エンジンで飛ばされるとは予想外ですよ!!というより、私はすでに飛ばされるの決定ですか!?」

 

珍しく高松がツッコミに回っている。それだけ飛ばされないために必死になってるってことだ。

 

「おとなしくやれ。そして天井に頭をぶつけろ」

 

「な、何としても皆さんの気を引ける何かを思いつかなければ……」

 

ポンと肩を叩く日向が眼中に入らないほど夢中で考え始める高松。というより、日向。自分はもう終わったとか油断してねえか?教科はまだ1教科が終わっただけだぞ。

 

「竹山君、首尾はどう?」

 

「問題ありません。天使にも気づかれていません。あと僕のことはクライスト「次の教科は何だっけ?」――世界史です」

 

「お前はいいよな。小細工するだけだし」

 

「何言ってんですか!こっちだって大きなリスクを孕んだ任務を帯びてるんですよ!」

 

「では変わって下さい!」

 

「嫌ですよ!」

 

「やっぱそっちに方がいいんじゃねえか!くじ運が良くて良かったな!」

 

「これは僕にしかできない神経のいる作業なんだ!そっちは飛ぶだけで頭使わなくていいじゃないですか!」

 

「んだとぉ!?こっちはバカってか!」

 

「お、おいお前ら。あんま騒ぐと――」

 

 

 

 

「――ゴラァァァァァァ!お前ら喧嘩すんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

キィィィィィン!!

 

近くで大声で叫んだゆりに、オレ達は思わず耳を塞ぐ。いつの間にかNPC達もこちらに注目してしまっている。

クラス中が注目する中、天使が無言で立ち上がる。あっ、ヤベッ。

 

「すまん!答え合わせでもめていた!今決着がついた!日向と神乃が0点だったことが分かった!万事OKだ!騒がしくして悪かった!もう大丈夫だ!」

 

「――そう」

 

納得したのか席へと座り直す天使。ふぅー……。なんとか音無が弁解に行ってくれて助かった。でもな、音無。

 

「さり気に日向に紛れてオレまで0点扱いしたよな、音無」

 

「わ、悪い。咄嗟に考えたことだったからさ」

 

「いんや、別にその通りだからいいんだけどな」

 

「待て。なんで俺は謝ったんだよ」

 

だって名前しか書いてない、解答欄だって真っ白だ。でも、中忍選抜試験の筆記試験だってこれで乗り切れるから、もしかしたら何点かもらえるかも。……ねえな。

 

「で、次の世界史ですが答えはどうしましょう」

 

「じゃ、地球は宇宙人に侵略されていることにして全問答えておいて」

 

どんだけ壮大な世界史になるんだよ。もはやSFじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

「はい!じゃあ、後ろから集めて」

 

キンクリして世界史のテストが終了。ちなみに今回は名前と選択問題を適当に答えておいた。間違いなく0点ではないな、おそらく。

 

「やるしかないか……」

 

「ん?どうしたのそこの君」

 

テストを前にまわしながら回収している途中に、高松が意を決したように立ち上がる。

 

「先生、実は私――」

 

そして、おもむろに自らの制服に手をかけ――

 

 

 

 

「――着痩せするタイプなんですっ!」

 

バサァと一気に脱いだ。――って、脱いだ!?

制服の下から現れたのは眼鏡の高松には不釣り合いすぎるほどの筋骨隆々の上半身の肉体。生半可なトレーニングではつかない立派なものだ。

 

「どうですか?」

 

「分かったから座りなさい」

 

「はい……」

 

教師の驚くくらい冷たい言葉におとなしく(諦めたように?)席へと座る高松。ちなみに教師は女性だった。

そして、教室には日向の時と同じような空気が漂う。つまり……

 

――ピッ

 

「ふんぬぅぅぅぅ!?がはっ!!」

 

天井へと飛ばされ、頭部を強打。そのまま落下した高松は倒れることことはなかったものの、力無く首をうなだれた。まるで真っ白に燃え尽きたボクサーである。

 

 

 

 

 

「――ったく、よくもまあ、あんなあさはかな案を自信を持って遂行できたものね」

 

呆れたように言うゆりに、高松はぐうの音も出ない。オレは内心であさはかなり、と心の中で呟いた。

 

「自信はあったんですが……。意外性があると言いますか、見かけによらないと言いますか。……陰で鍛えているので」

 

「いいから上着ろよ。そのままじゃただの変質者だぞ」

 

はあ……と落ち込んでいる様子の高松。確かに意外性はあったことは認めてやろう。

じゃないと、自信のある肉体を見せたにも関わらず、白けたあげく天井に飛ばされた高松がかわいそうだ。だから、服は早く着てくれ。

 

「今回も首尾はバッチシね、竹山君」

 

「抜かりはありません。そろそろクライス「じゃ、次は大山君ね」……」

 

「やっぱりきたかーー!!僕持ちネタなんかないよ!」

 

まあ、特徴が無いのが特徴の大山だからな。ボケまくってる姿は――もう大山じゃねえな。おい、誰だキャラコメとか言った奴。

 

「大山君の席は天使の斜め後ろで近いじゃない」

 

「え!?そ、そうだね!じゃあもしかしてネタやらなくていい?」

 

安堵したように笑う大山。よっぽどやりたくないんだな。だが、やっぱり我らがリーダーは非情だった。

 

「ええ!天使に告白してくれたら。」

 

「うん!――って、何だって?」

 

「天使に告白するのよ。『こんな時に場所も選ばずごめんなさい。あなたのことがずっと好きでした。付き合って下さい』って」

 

「ええぇぇぇぇぇ!?」

 

「言われた通りにするなら飛ばなくてすむわよ」

 

ダメだ。もうゆりが魔王以外の何物にも見えない。あまりに酷な提案に大山はこの世の終わりみたいな表情して絶望していた。

 

「なんだよ、告るだけでいいのかよ。なんかずるいぜ」

 

「そんな!?僕の身にもなってよ!そっちは肉体的ダメージですんだかもしれないけど、僕はメンタルのダメージがすごいよ!!だって、女の子に告白するなんて初めてだよっ!!しかもフラれるのが分かってるんだよぉぉぉ……」

 

「お、落ち着け大山。落ち着けねえのは分かるけど静かにしろって」

 

大山にしては珍しく大声で一気にまくし立てるように喋りだしたので一応止めにかかる。このままじゃさっきの二の舞だ。そう思って止めたわけだが、アホ日向が余計な一言を言いやがった。

 

「はっはっは!ウブな奴め。練習にはちょうどいいじゃねえか」

 

「僕は日向君と違って練習なんかしない!本気の恋しかしないんだよっ!!」

 

「なんだとぉ!?俺が偽りに染まった薄汚い恋でもしてるってのかよ!!」

 

あー、聞いてねえやこいつら。もう知らん。オレは耳を塞がせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴラァァァァァァ!てめえら喧嘩すんなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

シーン……

 

静まりかえる教室。耳を塞いでいたためどうにかキィーーンとならずにすんだ。

やがて、静かな音をさせて天使が立ち上がる。やばっ!といった感じに慌てて口を塞ぐゆりだが、もう遅い。

 

「すまん!ゆりの調子が不安定だ!原因は昨日夢に日向と神乃が出てきて――」

 

『今日の俺と明日の俺が同じ俺だと思うなら……気をつけな!』

 

『油断してると……落としちゃうぜっ!』

 

「――と、忠告してきたことによる。そして今、その忠告が事実であることをゆりが証明しちまったところなんだ!」

 

おい、音無。なんでまたオレまで巻き込んでんだよ。つか、それ誰だよ。

 

「日向君と神乃君は2人いるの?」

 

「あ、ああ…。そういうことになる」

 

「3人以上いるかもしれない?」

 

「へ?ああ、ありえる……」

 

「そう、お気の毒に……」

 

なんで信じてんだよ天使!?明らかに嘘だろ!そして、最後の「お気の毒に……」はどういう意味だよ!!

 

「今はもう落ち着いているから問題ない!万事OKだ!気遣いありがとな!」

 

天使はコクリと頷くと席に座った。それにホッとした音無がオレ達の所へと戻ってくる。

 

「誰が3人以上いるだ!?」

 

「誰が情緒不安定よ!?」

 

「こらこら、フォローしてやったのになんだその言いぐさは。お前らの自業自得だ」

 

オレは止めようとしてたじゃん!?頑張ってたじゃん!?なんで巻き込まれた!?

 

「さっき無駄に謝らせたお返しだ」

 

「あれ?何で分かったんだ?」

 

「普通に声に出てましたよ」

 

マジか……気づかなかったぜ。あと高松。教えてくれたのはありがたいが、いい加減服着ろ。

 

「で、次の解答はどのようにすればいいんでしょうか?」

 

「教科は何だっけ?」

 

「英語です」

 

「じゃあ、全部カタカナで答えててちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまで!後ろから集めてこい」

 

「立華さん!!」

 

英語のテストが終わり、回収を始めたと同時に大山が顔を真っ赤にして立ち上がる。ちなみにテストは選択問題だけ鉛筆を転がして答えておいた。

 

「こんな時に場所も選ばずごめんなさい!あなたのことがずっと好きでした!付き合ってください!」

 

「なら時と場所を選んで」

 

い、一瞬だ……。一瞬で大山を撃墜しやがった。教師座れと施され、静かに着席する大山。あまりにも寂し過ぎるその姿にかける言葉すら見つからない。

フラれるのが分かっていたとは言っても返事すらもらえないとは。あまりに不憫すぎる。

 

「あ~あ、やっちまった……」

 

言葉とは裏腹に微妙に笑っている日向が呟く。

 

ピッ!

 

そんな中、無情にも鳴る電子音。オレはせめて一瞬で終わればいいなと思った――

 

 

 

 

 

 

「ブゴフゥゥゥゥゥゥ!?」

 

――日向の苦痛が。

そう、推進エンジンで飛ばされたのは大山ではなく日向だった。

 

1度目の発射ですでに脆くなっていたのであろう天井は2度目の発射により今度こそ天元突破していた。日向は天井に首からぶら下がることとなった。ぶっちゃけかなりホラー。

 

 

 

 

 

 

「コラコラコラコラッ!!」

 

「いきなり何ですか、どこかの誰かさん?」

 

「お前の仲間だよ!つか、何で俺が飛ばされなくちゃいけねえんだよ!?意味分かんねえよ!?」

 

皆が集まるところにボロボロの状態で来て、バンッと机を叩きながら早口で言い立てる日向。ちなみに大山は音無に慰められながら号泣している。

 

「大山君は十分傷ついたじゃない」

 

「だ・か・ら!なんで俺が飛ばされなきゃいけねえんだよ!そして、大山にやらせたのお前だからな!!」

 

「すり替えはうまくいった竹山君?」

 

「無視かよっ!?」

 

「はい、問題ありません。あとそろそろクライ「ならいいわ」……」

 

「ゆりっぺ!なんとか――」

 

「そんなことより皆。おっひるにしましょ♪」

 

満面の笑みを浮かべるゆり。とうとう諦めたのか、日向も握っていた拳を力無く下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上で昼食をとるオレ達。昼休みだが、そこにはオレ達しかいない。作戦について話し合うためにわざわざ食べ物を買ってきたのだ。今頃一般生徒は食堂に行っていることだろう。そんな中、疲れたように日向が愚痴る。

 

「……あと何回こんなことすりゃいいんだよ」

 

「もちろんテストが終わるまでに決まってるじゃない」

 

「マジかよ……。明日はメンバー変えようぜ~~」

 

「ダメよ。TKとか松下君とか重そうだし」

 

「だから軽いからって選ぶなよ!つか、いくら飛ぶのがインパクトあるからって何度もやったら皆見飽きるだろうが!あ~、また飛んでら、みたいになるだろ!」

 

「あ~そりゃ言えてる。オレも日向の見るの飽きたし」

 

「だからってお前が飛ばないとかは無しな」

 

――チッ。うまく回避できたと思ったんだけどな。

 

「だから飽きないように錐揉みしたりギミックを加えたりしていくのよ」

 

「何が俺達を待ってんだよ!?こえぇよ!仲間だろ!?」

 

「なら協力しなさいよ」

 

「だからこえぇよ!?」

 

ゆりのこぼした言葉に背筋を震わせる日向。

 

「明日も告白させられるのかな……」

 

「次は下も脱ぐか」

 

大山は昼食も取らずに悟りを開いたかのような遠い目をして体育座りをしていた。高松はプロテインを飲みながらある意味物騒なことを言っている。竹山は無言でノーパソをカタカタと打っていた。おい、前者2人組。いいから正気になれ。

 

そんな時、オレは少し離れた場所の手すりに寄りかかり、なにやら考え事をしている音無に気づいた。不審に思い話しかける。

 

「どうかしたのか音無」

 

「あ、ああ神乃か。いや、ちょっとな」

 

「なんだ?話してみろよ」

 

音無は少しの間黙っていたが、やがてポツリと話した。

 

「――作戦はほぼ完璧だ。だけど、こんなことして何かが変わるのか?」

 

「そりゃあ、天使の周りの環境が、じゃねえのか?」

 

「そうじゃない。俺が言いたいのはそういうことじゃなくて――悪い、うまく言えない」

 

それっきり音無は黙り込んでしまった。結局、音無は何が言いたかったのだろうか。オレは音無じゃないから考えても分からない。だから、特に気にしないことにした。

 

そう。この時オレは、これ以上考えるのを放棄してしまった。そのことを近い未来、後悔することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もテスト期間中天使の妨害をしまくった。もちろんオレだってやったぜ?内容は恥ずかしいから言わんが。

ちなみに天井を目指した宇宙飛行士体験は回避した。どうやったかと言うと――

 

オレがネタでスベる

――ピッ!

「緊急回避っ!!」(隣に座る日向をオレの席に引っ張る)

「うおっ!?何すんd――」(日向がオレの席に座り、オレは避難する)

ブシューーー!バキッ!!

「ぐはぁっ!?」(日向撃沈!)

 

――以上だ。生命危機を回避するためだ。日向1人ですむなら安い代償だろ。外道?知らん。

 

とまあ、天井に飛ばされなくなったとはいっても本当に錐揉みさせられたり、日向に限っては窓からぶっ飛ばされていた。あれはヤバい。さすがに見てらんなかった。自分の身のために日向を犠牲にしたオレが言うのもなんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間はあっという間に流れテストは全て終了。オレ達の命がけ(何度も散らせた気がするが……)の妨害工作はようやく終わりを告げた。

 

「――流れ始めたわ」

 

「何が?」

 

「天使の全教科0点の噂よ」

 

――マジかよ。

 

「しかも教師を馬鹿にしたような解答ばかりだったと」

 

「そこまでやったか?」

 

確かにバカみたいな解答だった。しかし、教師を侮辱するものじゃ無かったはずだ。いや、噂なんて適当に付け足されたり、根本的にねじ曲げられたりするものだ。尾ひれがつくということだ。

 

「何をやってきたんだ貴様ら」

 

「飛んだり、錐揉みしたり、しまいにゃ窓から飛び去ったさ」

 

「なんだそれは……?」

 

野田がハルバートを素振りしながら日向に聞くが、返ってきた答えに怪訝な顔をしていた。まあ、聞いただけじゃ意味分かんないわな。

 

「でも教師はそんなもの天使自身の仕業じゃなく、誰かの仕業だと分かるだろ?」

 

「そんなこと分からないわよ。現実と同じ。教師からしてみれば生徒会長が不真面目な解答を提出してきた。なら、天使自身を呼び出して叱るに決まってるでしょ」

 

ゆりの言葉に黙り込む音無。もしかしたら何か思い当たることがあったのかもしれない。

 

「天使は弁解したと思うか?」

 

「さあ……。しかも全教科だからね。どうやって全教科の教師に弁解するっていう話よ」

 

「教師からしてみれば……まあ、1人っきりの反乱ってとこだろうな」

 

結局天使は1人っきり、か。自分もやっといてこんなこと言えた立場じゃねえけど……なんか、後味悪い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後。緊急の全校集会が開かれた。壇上には天使と球技大会で見かけた生徒会副会長(確か直井、だったっけ?)、そして校長だ。

 

「――――というわけでありまして、立華 奏さんには本日をもって生徒会長を辞任。つきましては副会長の直井君が生徒会長代理ということに――」

 

「そんな……!?」

 

「辞任じゃなくて、解任ね」

 

「ゆり……」

 

「はたして、一般生徒に成り下がり、大義名分を失った彼女に私達が止められるかしら?今夜オペレーショントルネード……決行よ」

 

急遽告げられた天使の会長の椅子からの転落。そんな時でも、天使は無表情のまま壇上に立っていた。

顔色1つ変えずに、敵意ある視線を向けられながらも、ただ真っ直ぐにどことも言えない視線を彷徨わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在オレはライブを行うガルデモのステージの袖から遊佐と一緒に演奏を見守っている。他のメンバーは天使が現れないか見張りをしているんだが、本当に現れるのだろうか。

 

「~♪~♪~♪」

 

NPC達はすごい盛り上がりを見せている。ちなみにこのステージはユイのガルデモのボーカルとしての初ステージでもある。歌声はこの前聞いた時よりも上手くなっている気がした。ひさ子にビシバシ鍛えられたのだろう。緊張している様子もなく、本当に楽しく歌っていた。

 

だが、ユイには本当に申し訳ないが、初ステージをのんびりと傍観できるほど今のオレにはゆとりがなかった。

 

「――なあ、遊佐。天使は来ると思うか?」

 

「テスト妨害の成果が全く無いのでしたら来ると思います。いつもの天使だったならば、ですが。気になりますか?」

 

「まあ、妨害に参加してた身としてはな。……正直な話、妨害が失敗していて、いつもの天使が来てくれればいいと少し思ってる」

 

「ゆりっぺさんが聞いたら張り倒されそうな発言ですね。何故ですか?」

 

「……なに、今回の作戦はあまり乗り気じゃなかっただけだよ」

 

「……そうですか」

 

遊佐はしばらく黙り込んだ後、では私は送風機の様子を見てきます、と言い残して離れていった。今だにオレには特別な仕事があるわけではないので、遊佐から借りている双眼鏡で会場の様子を観察することにした。

 

 

 

 

 

 

 

会場の盛り上がりは最高潮を迎えようとしている。そんな時、急にインカムに連絡が入る。

 

『神乃さん、聞こえますか?』

 

「遊佐か?どうした?」

 

『天使が現れました。すでに会場内へと入り込んでいるようです』

 

慌てて双眼鏡で会場を見渡す。どこだ?どこにいる?――――見つけた!!

 

「つか、外にいる奴らはどうしたんだ?まさか全滅なんてことはねえよな?」

 

『どうやら攻撃せずに素通りさせたようです。なんでも音無さんが天使の様子がおかしいとおっしゃったようで』

 

天使の様子がおかしい……?そう言われて改めて双眼鏡で天使の様子をよく観察してみる。

 

「(――確かに、言われるまで気づかなかったけど、妙におとなしいな。いつもみたいに真っ先にステージを止めに来たわけでもなさそうだ)」

 

天使が無表情なのは変わらない。だが、雰囲気というかオーラというか。覇気が全く感じられない。

 

「(やっぱりテストのこと気にしてんのか……?)」

 

そう考えると罪悪感に押しつぶされそうになった。オレ達が天使にしたことは、本当に正しかったのか。そう自問自答せずにはいられなかった。

 

天使はNPCの波に押されながら、食券が販売されている自動販売機に向かう。そして自動販売機までたどり着くと何かのメニューの食券を買っていた。何を買ったかはオレのいる位置じゃよく見えないが、食事を摂りに来たのだろうか?

 

『ゆりっぺさん、盛り上がりは最高潮に達しているようですが――はい、了解しました』

 

インカム越しに遊佐の声が聞こえてきた。どうやらゆりの指示を仰いでいるらしい。

 

「ゆりは何て?」

 

『送風機を回す指示が出ました。そちらの班にも繋ぐので1度通信を切ります』

 

「分かった」

 

遊佐からの通信が切れると、すぐに会場内にすごい風が吹き荒れる。次々にNPC達が持っていた食券が舞い上がり、ステージに当たるライトに反射してキラキラと輝いた。その光景はとても幻想的だ。無数に煌めく輝きはステージに立つガルデモメンバーをさらに際立たせ、ライブをさらに色付ける。

 

「(いつ見ても綺麗だな……。実際は定食やらなんやらの食券なんだけど)」

 

そう思いながら天使の様子を観察する。紙吹雪もどきの食券のせいで見つけるのに少し手間がかかってしまったが、なんとか見つけた。そして、オレは、そんな天使を()()()()()()()()ことを後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

――天使の食券も吹き飛ばされる。

 

――慌てて自分の食券を掴もうと手を伸ばす。

 

――だが、何も掴めず、伸ばした手は空を切った。

 

「――っ!あいつ……」

 

そんな中、オレは見た。見てしまった。諦めたように手を下ろす天使の表情は――悲しみという感情の色で染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

何百人もの生徒が楽しくそして笑っている中、たった1人だけ、孤独な少女が何も言わず、誰かに相手にされることもなく――――ただ悲しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ音無。それ、辛すぎて誰も手を出さないことで有名な激辛麻婆豆腐だぞ?猛者でも大盛のご飯と一緒に食うくらいなんだぜ」

 

「仕方ないだろ、これ掴んじまったんだから」

 

日向と音無の会話にハッとなり意識が戻る。どうやら料理を受け取るために並んでいるうちにボーとしてしまっていたようだ。オレは順番が回ってくると適当に掴んだ焼き魚定食の食券で料理を受け取り、音無と日向が腰掛ける席の真向かいに座る。

 

すると、オレの隣にとんかつ定食を持ったゆりが腰掛けた。ゆりはゆりで何か考え事をしているようで、さっきから一言も喋ろうとしない。

とりあえず飯食うか。そう思い、魚の切り身に箸をつける。うん、普通にうまいな。

 

向かいに座る音無が麻婆豆腐をレンゲですくうと口に運ぶ。もう何もかも真っ赤なそれは、口に入れる前からも分かるぐらいの激辛オーラを漂わせている麻婆豆腐だった。

 

「ハフ……!うおぉぉ!?ひ、一口で激辛ぁぁ!?」

 

「だ、大丈夫か音無!?」

 

口に運んだ瞬間、よほど辛かったのか「ぐぅぅぅ……」と悶える音無。そんなに辛いのか?

 

「ぅぅぅ――ん?でも、うまいぞ!日向食ってみろよ」

 

「ええっ!?嘘だろ……?じゃ、じゃあ一口だけ……」

 

音無の隣でオムライスを食べていた日向が促されるままに恐る恐る口に麻婆豆腐を含む。すると、見る見るうちに顔が真っ赤になった。ちょっと面白いな。

 

「辛ぁぁぁぁぁ!!痛い!?辛い!?すっげぇ痛い!?――だが、後から来るこの風味……。なるほど、こいつは味わい深いかもしれない」

 

「だろ!!神乃も食ってみろよ!」

 

「ええ~?……分かったよ」

 

オレはスプーンを持ってくるともう何が入ってんのこれ?と思わずにはいられないほど真っ赤な麻婆豆腐をすくい上げ、ゆっくりと口へと運んだ。

 

「……………」

 

「か、神乃?どうした?」

 

「か、辛ぁぁぁぁぁぁ!?なんだよこれ!?なんだこれ!?なんだこれっ!?意味分かんねぇぐらい辛いぃぃぃぃ!?」

 

舌がぁぁぁl!舌がぁぁぁぁぁ!!――うん?

 

「あ、あれ?うま、い?美味いぞこれっ!!」

 

辛みが少しずつ引いてくると、口の中には今まで食べたことの無いような味が広がった。香辛料の聞いた豊かな風味。具材の持つ味を最高レベルまで引き出している。やっべえ……マジで美味いんだけど。

 

「だよなっ!こんな麻婆豆腐食ったことないよな?」

 

「案外当たりメニューなのかもな」

 

「――それ、天使が買った食券よ」

 

「えっ?」

 

突然隣に座るゆりが口を開いた。

 

「こ、これ?」

 

「そうよ」

 

あの時、空へと飛ばされた食券を音無が手に入れていたのか。天使の異変に真っ先に気づいたのも音無。その天使の食券を掴んだのも音無。何という偶然だろうか。

 

ゆりの言葉に音無は食を進める手を止め、レンゲですくった麻婆豆腐をジッと見つめていた。そんな音無を見ているとさっき見た天使の様子が思い出される。

 

もしかして、天使がここに来たのは、ただこの麻婆豆腐が食べたかっただけじゃないのか?テストはボロボロ、生徒会長の席からは落とされ、味方は誰もいない。それで好きな麻婆豆腐を食べて、気を紛らわせようとしただけなんじゃ……

 

そうだとしたら、オレ達のしたことの意味ってなんなんだよ……。あんな女の子を寄ってたかって妨害して、そこから何が得られたって言うんだよ……。

 

「もしかしたらさ……」

 

「ん……?」

 

「今の天使だったら俺達の仲間になれるんじゃないか……?」

 

「はあっ!?」

 

音無がポツリとこぼした呟きにちょうど音無の後ろの席に座っていた藤巻が驚きの声を上げた。

 

「何言ってやがる!?これまでどれだけの仲間が奴の餌食に――って、いやぁ餌食っつーか皆ピンピンしてっけど、どれだけ痛めつけられてきたかっ!!」

 

「そうだそうだ!!今日はおとなしかったかもしれねえが、またいつ牙を剥くか!」

 

「そうだよ!寝首かかれねえぜ!?」

 

藤巻を筆頭に次々に他の戦線メンバーがテーブルを叩きながら異論を言い出した。

 

「愚問だったな、音無?」

 

「……そうみたいだな」

 

オレには音無がそんなことを思った理由がなんとなく理解できた。他の奴らからしたら馬鹿げた提案だったのかもしれない。でも、あの孤独な少女の姿を思い浮かべてしまったら……オレも音無と同じように思わずにはいられなかった。

 

同情でもエゴでも何でもいい。今更何言ってんだという話しだろう。

でも、だけど……オレは――

 

 

―――あの独りぼっちの少女が可哀想だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガチャン!!

 

 

突然扉が開かれ、腕章をつけたNPCがぞろぞろと食堂へと入ってきた。彼らは食事をする戦線メンバーを取り囲むかのように位置につく。

 

「なんだ貴様ら!?」

 

野田の声に答えるかのようにNPC達の中から1人の生徒が出てきた。銃を構えるメンバーもいたが、ゆりが相手が一般生徒だということで制する。

 

「そこまでだ。色々と容疑はあるが……とりあえずは時間外活動の校則違反により全員反省室に連行する」

 

NPC達の集団を割るように現れたのは帽子を被った生徒。

 

「僕が生徒会長となった以上、貴様らに甘い選択は無い」

 

生徒会長代理がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一般生徒には手を出せないオレ達は言われるがままに連行されるしかなかった。

 

そして、この生徒会長代理の登場はオレ達SSSを窮地へと追い込むものとなる。

――死後の世界で、血で血を洗うような戦いが始まろうとしていた。




はい、ということで第9話でした。

原作アニメの第5話はギャグ回のように見せて、実はシリアス。この話もそんな感じになっていますね。僕はシリアスを書くのは苦手なんですが……。

アニメを見たことがある人は分かると思いますが、次はもっとシリアスになります。でも、何とか伝えられるように頑張ります!

感想、評価、アドバイスもお待ちしています。
ではでは。

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