死後で繋がる物語   作:四季燦々

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遅くなりましたっ!
今回はオリジナル回となっています。どっちかと言うと遊佐さんの成分が強めです。
ちょっと後半に連れてダラダラとした感じになってしまったかもしれません。


contest

『第○回!SSSミスコンテストォォォォォ!開っ催!!』

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

司会の暑苦しい宣言に生徒(ほぼ男子生徒)がこれまた暑苦しい気合いの入った声で答える。

――OKなるほど分からん。どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えばそろそろコンテストの時期ね」

 

事の始まりは、ポツリと呟いたゆりの発言からだった。その日は特にやることもなくダラダラと本部で過ごしていたSSSメンバー。しかし、ゆりの発言に過剰すぎるほど反応して飛び起きる。

 

「おおおおっ!もうそんな時期かっ!」

 

「最近ドタバタしててすっかり忘れてたぜ」

 

「うわ~!楽しみだな~!」

 

「Enjoy contest!」

 

ある者はキラキラと目を輝かせ、ある者はニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべる。その様子にドン引きながら、オレは1番近くにいた高松にその理由を聞くことにした。ちなみにこいつは眼鏡を抑える指で隠しながらもニヤニヤとしていた。キモい。

 

「おい、高松。こりゃ何の騒ぎだ?」

 

「俺にも教えてくれ」

 

「ああ、あなたと音無さんは今年から戦線入ったので知らないですね。ゆりっぺさんが言うコンテストとは、SSSが1年に1度、内部だけで行うミスコンの事です」

 

「ミスコン?ミスコンってあの学園で一番の美人を~とかいうやつか?」

 

「ええ、その通りです」

 

ほう。そりゃまた青春チックなイベントをやってるじゃねえか。オレだって男だし、そういうのはちょっと楽しみだ。

 

「ちなみに前回は誰が優勝だったんだ?」

 

「ゆりっぺさんです」

 

「その前は?」

 

「ゆりっぺさんです」

 

「……じゃあ、その前は?」

 

「ゆりっぺさんです」

 

「「…………」」

 

高松の回答にオレと音無は同じことを考えたと思う。

――あれ?それって出来レースじゃね?

 

そんなオレと音無の怪訝そうな視線に気づいたのか、高松は1度眼鏡をクイッと上げ、先ほどのキモい笑みを消し真面目な表情をつくる。

 

「――票を入れないとあとが怖いですから」

 

超納得した。

 

「でもさ、そんな優勝者が決まりきってるコンテストの何が楽しいんだ?」

 

「結果と言うものも大事ですが、その過程も大事です。コンテストと言えば色々あるでしょう?」

 

「審査ってことだろ。どんな審査があるんだ?」

 

「1次審査は自己PRですね。得意な事、苦手な事、趣味、好きな物、アピールポイントとかです。特にこれを言えと言う項目は無いですね。自由に話す感じです。2次審査は……まあ、鉄板ですが水着審査です。3次審査はシチュエーション審査ですね。くじ引きで引いたシチュエーションで演技をしてアピール、と言った感じです」

 

なるほど。道理でさっきから野田のテンションがハイなわけだ。ゆりの水着やらシチュエーションやらなんて野田にとってはご褒美にしかならねえしな。にしても審査内容からして結構本格的にやるもんだな。

 

「でも、それってゆり以外の参加者に何のメリットもなくねえか?」

 

「優勝者と2位と3位にはゆりっぺさんのリーダー権限でお願いを1つ叶えてもらえるそうです。よほど変な事でもない限り自分の願いが叶うのですから、参加者にとってのメリットもありますよ」

 

参加する女子には願い事を聞いてもらえるという点が、男子には審査過程で知り合いの女子の色々な面が見えるという点が、それぞれメリットとなるわけか。

コンテストの概要についてオレと音無が把握していると、思い出したようにゆりが口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「――あっ、ちなみに私今回は参加しないから」

 

その発言に一瞬静まり返る本部。やがて、その言葉の意味を飲みこんだのか、絶叫が響き渡った。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

「な、何故だぁぁぁぁぁゆりっぺぇぇぇぇぇぇl!!俺はっ!俺はぁぁぁぁぁっ!!」

 

「マ、マジかよゆりっぺっ!?」

 

「気は確かかっ!?」

 

「こ、これは大変なことになってきたよっ!」

 

「今回のコンテストは荒れるなっ!」

 

「crazy……」

 

「あさはかなり……!」

 

よほどゆりの発言が意外だったのだろう。三者三様のリアクションをとっているが、そのどれもがやかましい。ふと、高松を見ると、こいつはガタガタと振るえながら眼鏡を取り、ハンカチで拭き始める。高橋名人もビックリな震え具合だ。

 

「こ、これは、すごいことになってきましたね……!」

 

「いくらなんでも驚き過ぎだろ。ゆりが出場を辞退しただけじゃねえか」

 

「そ・れ・が!異常な事だというのですっ!あのゆりっぺさんが出場を辞退した、これがいかに波乱を呼ぶかあなたには分からないのですかっ!!」

 

知らんわ。

 

「この辞退により、ついにゆりっぺさんという強大な壁が取り払われ、参加者達による苛烈な覇権争いが始まります。そう!言うなればこれは戦国時代っ!!ミスコン優勝という国土無双をかけた大航海時代の幕開けなんですっ!!」

 

「待て、落ち着け高松。色々と混ざってんぞ」

 

どんなミスコンだよ。悪魔の実でも食べるの?偉大な海の王でも目指しちゃうの?

 

「そうと分かれば、すぐさま戦線メンバーに通達だっ!今年のミスコンは面白いことになって来たぞっ!!」

 

『了解っ!!』

 

日向の一声に腕を振り上げて答えたアホ共は一斉に(洒落じゃないよ?)本部を飛び出していった。どうやら伝達に行ったらしい。あの~、ここに通信士がいるのですが、それは……。

 

残されたのは今だに現状を把握できていないオレと音無。何故かドヤ顔を決め込むゆりと泣き崩れる野田。そして静かに隅の方で佇む椎名だけだった。とりあえず一言。

 

「何これカオス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まあそう言うことで冒頭部分に戻ってくるわけだ。現在の時刻は夜。あのゆりの発言からわずか1日しか経っていない。驚くべき行動力である。

 

そんな夜の夕食も食べ終わり、これから自由な時間をゆっくりとくつろごうとする時間。いつもなら自室でゴロゴロとしているはずのオレなのだが今日は違った。場所は学園内唯一の体育館。そこには全SSSメンバーが集っており、ステージにはマイクを構えた日向が立ち、その奥の壁には『第○回!SSSミスコンテスト』とデカデカと書かれた看板が吊るされている。

 

その日向はというと、1度大きく息を吸いこみ高らかにミスコンの開始宣言。野郎共の野太い歓声の中、早くも会場は最高潮にヒートアップしていた。まだ出場者すら出てきていないのにも関わらずこのテンション。ちょっと怖い。

 

『さぁ~、始まりまったぜお前らっ!毎年恒例SSSミスコンテストッ!今回のメインの司会は俺、日向秀樹が執り行わせてもらうぜ!』

 

「お前の紹介なんざどうでもいいんだよっ!」

 

「さっさと出場者の紹介をしやがれアホ日向っ!」

 

「バカ日向っ!」

 

「日向引っ込めえええええ!」

 

『お前らうっせえよっ!?ちょっとくらい待ってくれたっていいだろっ!』

 

「「「「引っ込めっ!引っ込め!引っ込めっ!」」」」

 

『悪化したっ!?』

 

ギャーギャーとステージ前が非常に騒がしい。名前も良く知らないSSSメンバーのあまりの罵倒に日向が若干泣きそうになっている。そりゃそうだ。あんなに大勢に言われたらオレも折れる。

 

『うっ、ううぅ……。じゃ、じゃあさっそく出場者の紹介に移りたいと思います……』

 

あの状況でも司会を続けるとは司会の鏡だな、日向。やがて、明かりが消え、スポットライトが出現しステージの袖が照らされる。どうやら1人目の出場者が出てくるようだ。

 

『エントリナンバー1!そのギターのテクニックは神の領域っ!麻雀をやらせたら敵無しっ!長年ガルデモを支え続ける皆の姉御と言ったらこの人っ!ガルデモリードギター、ひさ子ぉぉぉぉぉぉぉぉ!』

 

「うぉぉぉぉぉぉ!ひっさ子さぁぁぁぁん!!」

 

「今日もかっこいいいっ!」

 

「姉御ぉぉぉぉ!!」

 

歓声の中ステージの袖から現れたのはギターを持ったひさ子。いつものようにポニーテールの髪を揺らし、堂々と壇上の真ん中へと歩いてくる。しかし、よく見ると若干顔が赤い。照明のせいだけというわけではないのだろう。

 

『続きましてエントリーナンバー2!正体不明のくノ一っ!しかし、実は可愛いもの好きというギャップっ!戦線最強にして無敵の戦士っ!椎名ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「椎名さぁぁぁぁんっ!俺だぁぁぁ!切ってくれぇぇぇぇ!」

 

「バッカ野郎っ!俺が先だっ!」

 

「今日もマフラーが凛々しいですっ」

 

次に現れたのは椎名。ひさ子とは違い、歓声を浴びようともいつもの調子を崩したりしない。悠々と壇上を歩いて待機位置まで歩いていった。

 

『そしてエントリーナンバー3!えー、ユイでーす。ハイ次』

 

「ちょっとっ!ちゃんとあたしの事もしっかり紹介してくださいよっ!あるでしょ、ほらっ!ガルデモの新メンバーで期待の新人だとか!超絶可愛い美少女だとかっ!ユイにゃん最高とかっ!」

 

『美少女(笑)』

 

「うがぁぁぁぁ!!絶対含みのある言い方したっ!ムカつく!」

 

『はいはい、分かったよ、ちゃんとやってやんよ。では、改めましてエントリーナンバー3!ガルデモのNewボーカルっ!その歌声には早くもファンが付き始めてると噂っ!今日も元気なお転婆美少女(笑)っ!ユイィィィィィッ!』

 

「ユイにゃんっ!――って、待てやゴラァァァっ!今絶対(笑)ってつけたでしょうがっ!」

 

『うるせえな。さっさと定位置に着けよ』

 

「この司会者横暴すぎるっ!!」

 

3番目はユイだった。もう出てくる前から日向と言い争いをしている。その勢いに他の奴らも思わず苦笑。見慣れてるオレ達からしてみれば、あれも2人なりのスキンシップだからだ。ちなみに、ユイはガルデモのメンバーとして認められたらしい。ひさ子がこれから鍛えていくと意気込んでいた。

 

『気を取り直して、最後の出場者!エントリーナンバー4!クールに見えて実は毒舌っ!この人無くては作戦の連携は取れないっ!無表情だが超優秀通信士っ!遊佐ぁぁぁぁぁぁ!』

 

「遊佐さぁぁぁぁん!罵ってくれぇぇぇぇっ!」

 

「寧ろご褒美ですっ!」

 

「今日も可愛いっすよぉぉぉぉぉ!」

 

最期に表れたのは意外なことに遊佐だった。いつものように金髪をツインテールでまとめ、インカムも忘れずに装着している。相変わらずの無表情で気持ち悪い声援に眉1つ動かさない。

 

「薄々気づいていたけどさ、この戦線って変態多いよな」

 

「そりゃアホの集まりだもの。そういう人もいるでしょう」

 

「いや、問題なのはそういう奴が多いってことなんだが……」

 

オレの隣で見ていたゆりの返答に思わず苦笑する。楽しいことは好きだが、ちょっとだけ出場者に同情してしまう。そんな感じでステージを見守っていたオレだが、ふと視界に入った人物がいた。具体的には下の方。

 

「お、俺はぁぁ……俺はぁぁぁ……っ!」

 

しつこいなお前っ!?何時まで泣いてんだよっ!

そこには膝をついた野田が今だに落ち込んでいた。ったく、昨日からずっとこんな感じだ。

 

「俺は、どうすればいい……?おい神乃っ!俺はどうしたらいいっ!?」

 

「ええいっ!まとわりつくな気持ち悪いっ!そんなに気になるなら本人に頼んでみろよっ!」

 

「そっ、そうかっ!その手があったっ!」

 

いや、寧ろそれしかないと思うんだけど。オレの意見に同意した野田はモジモジとしながらゆりに向き直る。おい、まさかここで言うつもりか?

 

「ゆ、ゆりっぺ……お、俺のために、水着とシチュエーションを――」

 

「嫌よ。なんで私が野田君の為にそんなことしなくちゃいけないのよ」

 

「ぐふぁっ!」

 

ですよねー。予想できた。

 

今度こそ本気で崩れ去る野田。何というか、良い年した男がここまでへこんでいるのを見るとちょっとだけ可哀想になってきた。仕方ねえな。提案したのはオレだし、ここらで助け舟を出してやることにしよう。

 

「おい、ゆり。じゃあ別にそういうことしなくてもいいからさ、ちょっとだけ耳を貸せ」

 

「なによ。言っとくけど変な事させないでしょうね?」

 

「させねえよ。野田に一言言ってもらうだけだ。えっとな――」

 

ゴニョゴニョとゆりに耳打ちをする。その内容にジト目でオレを睨んだゆりだったが、野田を見てやがて小さくため息をつき、今回だけだからねと崩れる野田の耳元へと顔を近づけ、何かを囁く。

 

「――――――」

 

――――ブッシャァァァァァ!!

 

「きゃっ!?」

 

ゆりが野田に囁いた。その瞬間、カッと野田の目が開き、鼻から凄まじい量の鼻血は拭きだす。それに驚いたゆりは慌てて野田から離れた。そして、野田は今度は血の海にドチャリと崩れ去る。その表情は天寿を全うしたかのように穏やか。ぶっちゃけ洒落にならない。

 

「お、おい神乃。ゆりに何を言わせたんだ?」

 

「ふっふっふ……。秘密だよ音無君」

 

突然の野田の奇行にドン引きながら音無が近づいてくる。言っておくがなエッチな事とかではない。えっちなのはいけないと思います!ただ野田が想像以上に純粋だったということだ。内容についてはご想像にお任せしよう。

 

『では、続きましてお待ちかねっ!水着審査に移るぜっ!』

 

オレ達がなんやかんやしている間に壇上ではミスコンは進んでいたようで、気がつけば1次審査が終了していた。しまった、野田のせいで見損ねた。

2次審査に移るのに際して着替えの時間が必要らしい。ミスコンはそこからしばしの休憩タイムとなった。

 

 

 

 

『ではこれから2次審査を開始するぜぇ!しっかりと見てろよお前らっ!』

 

『イィィヤッホォォォォォォ!!』

 

そして約15分後。準備が完了したのか、日向が壇上に表れた。他の奴らも次がガチで楽しみなのかもうテンションがおかしい。ヘリから飛び降りるプロ決闘者のような歓声を上げる奴もいた。エフェクト発動っ!って言って運命を背負ったHEROを使うんですね、分かります。

 

さて、オレも今度は気合いを入れてみるとしますか。べ、別に水着が楽しみだとかそういうわけじゃねえぞ?ただ、1次審査を他ちゃんと見れなかったからだから。ここからはちゃんと見て厳格に審査をしようと思っただけだから。

……はい、嘘です。水着超見たいです。だって男の子だもんっ!

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

まず最初に現れたのは、ひさ子。ポニーテールを揺らしながら現れたひさ子は水色のビキニを着ていた。運動神経がいいと聞いていたが、そのせいか非常にスマートだ。長く伸びた手足にもだが、一段と身を惹くのは首から下、腹から上にある部位だろう。以前日向とか藤巻とかが話していたので知ってはいたが……その、大きいな。

 

次に現れたのは、椎名。来ているのは普通のスク水だが、そこはミステリアスな椎名とのギャップが映える。ひさ子ほど大きくはないが、それなりにある胸。鍛えているそうだが、そうは見えない細めの手足。腰につけている短刀が何ともミスマッチだが、それが椎名らしいということなのだろう。水着にマフラーにという組み合わせは意味不明ではあったが。古式泳法とか超できそう。

 

3番目はユイ。着ているのは髪の色と同じピンク色のビキニで綺麗と言うよりも可愛らしい見た目だ。ひさ子と比べると残念の一言に尽きる一部があるが、キュッとしたくびれや小さなお尻が何とも艶めかしい。その反面本人は恥ずかしいのか若干照れ照れでいるもんだから、その差がすごい。壇上で司会をする日向もいつもとは違うユイの姿に役職を忘れて見惚れているほどだった。

 

「ふふふっ。皆可愛いわ。こうやって出場者じゃなくて傍観者に徹するのもいいものね」

 

「そうかい」

 

「次は遊佐さんだけど、どう神乃君?楽しみ?」

 

「まあ、楽しみじゃないと言えば嘘になるけど……」

 

「素直じゃないわね。そこは涎が出るほど楽しみって言っとけばいいのに」

 

「言うかっ!ただの変態じゃねえかっ!」

 

「あら?自覚なかったの?遊佐さんの下着見たくせに」

 

何故知ってるっ!?とオレが唖然としてると、ゆりはふふふっと笑い、秘密とだけ言った。くそう、誰だリークした奴。――って、遊佐ぐらいしかいねえな。

 

『さあ、次は最後!遊佐の登場だっ!』

 

我に返った日向が司会を再開する。バッと舞台袖に向かって手を広げ、ライトがそこに当たり、遊佐が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――思わず絶句した。

 

鮮やかな金色を揺らし黒色のビキニに白いパレオを腰に巻いた遊佐はいつもと変わらず無表情を貫いていた。天使と同じくらい色白の肌。それにより黒いビキニがより一層映えていた。大き過ぎず、かといって小さ過ぎない胸。くびれをつくりだしている細い腰にすらっと伸びた手足。一種の芸術のようなその容姿に、会場は見惚れ、そして大盛り上がりを見せていた。

 

オレは今だに何も言葉を発することができずにいた。全てを魅了するかのようなその姿に口をポカンと開けることしかできない。

 

 

 

――遊佐は、とても綺麗だった。

 

 

 

そんな騒音の中、遊佐と目があった。

 

「(うっあぁ……)」

 

思わず目を逸らす。バクバクと心臓が脈打っているように感じた。顔がカァァァと熱くなり、まともに遊佐を見ていられなかった。しかし、頭ではそう思っていても心は遊佐の姿を見たいと叫んでいる。意を決してチラリとその姿を見るが、本人は不思議そうにオレを見つめるだけ。すぐさまその視線に耐えられなくなりまた目を逸らす。それを何回か繰り返しているうちに水着審査は終了し、出場者は舞台の袖へと消えていった。

 

ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいっ!何だよアレッ!あんなの卑怯じゃねえかっ!不意打ちにもほどがあるわっ!つか、遊佐も何でオレの方見てんだよっ!耐えられねえよっ!

 

何とか顔の熱さをおさめようと、ゆっくり深呼吸をする。何度か繰り返しているうちにようやく落ち着いてきたものの、強烈なインパクトを生み出した映像は頭の中から消えなかった。

 

「あっはははっ!遊佐さんもやるわねぇ!私から見てもすっごく綺麗だったわ。そう思うでしょ神乃君?」

 

「やめろやめてお願いします。今は何も聞かにゃいでください」

 

「ぷっ!ふふふふっ!噛みっ噛みじゃない!そんなに良かったのかしら」

 

「いや、ホントマジ勘弁してください。とりあえず落ち着ききるまで待って」

 

「ふふふっ」

 

意地悪そうな笑みを浮かべるゆりに必死になって抵抗。ようやく落ち着きを取り戻したオレは最後に大きく深呼吸をした。

 

「やっと落ち着いた……」

 

「じゃあ、落ち着いたところで、どうだった神乃君?」

 

「……綺麗だったよ。ぐうの音も出ない」

 

「でしょでしょ!ほらほらっ!もっと他にないっ?」

 

グイグイ来るな今日のゆりは。あっ、もしかして。

 

「まさかとは思うが、お前が遊佐を出場させたんじゃないだろうな」

 

「あら、どうしてそう思うの?」

 

「遊佐が自分からこんなイベントに出るとは思えないしな。大方、自分の抜けた穴を遊佐で埋めさせたんだろ?」

 

「ふふっ、大正解。よく分かったわね」

 

あったりめえだ。付き合いもボチボチになってきたし、遊佐の考えもそれなりには分かるようなってきたんだぞ。今では表情の変化に10回中1回は気づくようになった。

 

「まあ、いい機会だしちょうどいいかなって思ったのよね。まったく、遊佐さんは綺麗なんだから、もうちょっと笑ったりすればいいのに。――――まあ、生前の弊害だから仕方がないのかもしれないけれど」

 

「あん?最後なんか言ったか?」

 

「べっつにー。何も言ってないわ」

 

話をはぐらかすゆり。その様子に不思議に思ったオレだったが、特に気にすることもなく視線をステージへと戻した。

 

『続きましてシチュエーション審査に移るぜっ!ちなみに出場者は事前にくじを引いてもらってるからなっ!もちろん俺も詳しくは知らないっ!いいかお前らっ!しっかり目とに焼き付けて、一言一句逃すんじゃねえぞっ!』

 

『うおっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『ではまず1人目!ひさ子の登場だ!』

 

日向の紹介により現れるひさ子はちゃんと制服に着替え直していた。今度は明らかに羞恥に顔を赤らめている。何をするつもりなんだ?

 

「や、やっぱり言わないとダメか……?」

 

『当ったり前だろう!皆待ってんだぜ』

 

「うっ……!こ、これも新しい機材のため、新しい機材のため……」

 

『では、ひさ子!張り切ってどうぞっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――お、お兄ちゃんっ!大好きっ!」

 

『ぐっぶぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

ひさ子の言葉に何人もの戦線メンバーが崩れ落ちる。中には吐血してる奴もいた。

 

「おいっ!しっかりしろっ!傷は浅いぞっ!」

 

「ま、まさかの妹キャラ……だとっ!なあ……高尾。俺、もうダメだ……」

 

「杉山の馬鹿野郎っ!こんなとこで死ぬ奴があるかっ!」

 

「俺はここまで、だな……」

 

「す、杉山?おい、しっかりしろよ……。杉山……杉山ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ステージ前は阿吽絶叫の渦に巻き込まれた。まさかのひさ子の妹キャラによる告白。ベタだが、姉御肌のひさ子がやると破壊力が凄まじい。オレも一瞬意識が飛びかけた。というか誰だ杉山。

 

『こ、これはすごい威力だっ!ひさ子ありがとうっ!』

 

「くぅぅ……!もう絶対こんなこと言わないからなっ!」

 

ちなみにひさ子はこのネタでしばらく関根にからかわれたりしていた。その度に顔を真っ赤にしながら関根にアイアンクローを浴びせることにあるのだが、それはまた別の話。

 

『では、次っ!椎名っちの出番だ!』

 

いそいそと退場していくひさ子をよそに次の出場者である椎名が呼ばれた。椎名はいつもの恰好――かと思いきや、違っていた。

 

「き、着物……だと?」

 

誰かが溢していたが、椎名の着物だった。暗めの印象の椎名だが、それが薄いピンクの着物とうまく調和しており、とても清楚で純大和撫子という感じに仕上がっている。つか、どうやってあの衣装用意したんだよ。

 

『さあ、椎名っちはメイドイン被服部の着物で登場だ!』

 

すげえな被服部っ!?着物作れるとか職人かよっ!?

 

そして椎名は黒子(大山だった)が持ってきた座布団に正座し、胸元から長方形の俳句を詠む時の紙を取りだしてただ一言。

 

 

――――君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな

 

 

そう詠み、一礼して立ち上がるとそのまま退場していった。シーンと静まり返る会場。だが、次第にパチパチと拍手が沸き起こり、やがて大きなものへと変わっていった。歌とはまた意外だったが、椎名の雰囲気と合わさってこれはこれで華やかさがあるな。もはやどんなシチュエーションなのか分かんねえけど。

後で聞いたのだが、あれは百人一首の中に登場する藤原義孝という人物の恋の歌なんだとさ。      

 

『んじゃ、次行ってみようっ!次はユイの登場だっ!』

 

次に登場したのはユイ。恰好は――小悪魔、ということなのだろうか?黒いドレスのような服、ちっこい角を頭に付け、悪魔の尻尾(おそらくいつも付けてるやつ)に黒いフォークのような槍、小さい羽と全体的に黒いがユイの雰囲気とはよく合っていると思った。

 

『ほら、ユイ。さっさとやれ』

 

「対応が冷たいっ!もっとなんか言ってくださいよっ!」

 

さっきに水着審査の時の感じはどこへやら。再び言い争いを始めるかと思われたが、ユイはニヤリとそれこそ小悪魔のように笑う。

 

「ではでは、ユイにゃんもやりますっ!あっ、先輩そこに立っててくださいね」

 

『何だよ……』

 

そうして向き合う形になる日向とユイ。やがて、ユイはニンマリと笑うと日向に問いかけた。

 

 

 

「――トリックオアトリート!」

 

『はっ?』

 

直訳するとお菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、ということである。ちなみに今この世界は6月だ。明らかに季節はずれなネタをぶっこんできたユイに、日向だけでなく会場全体がポカンとなる。

 

「ですから、トリックオアトリート!お菓子をください!」

 

『アホか。持ってるわけねえだろ』

 

「でしたら悪戯ですね」

 

『それこそアホだろ。悪戯しますって言われて悪戯させる奴がどこにる』

 

「先輩です」

 

『付き合ってらんねえ……』

 

疲れたように頭を振る日向。ニヤニヤとあくどい笑みを絶やさないユイ。何ともシュールな光景だ。つか、イチャイチャすんな。血涙流してる奴がいんぞ。

 

『はい、んじゃラスト――「今です椎名さんっ!」――どわっ!?』

 

日向が司会進行を再開しようとした瞬間、ユイの合図により椎名が日向の背後現れる。そしてそのままガシッと羽交い絞めにした。

 

『ちょっ!?椎名っちっ!?いきなり何すんだよっ!?』

 

「すまない。ユイに頼まれたのてな」

 

「ふっふっふ……どうですか私の作戦っ!真っ向から悪戯宣言することで先輩を警戒させ、背後から第3者である椎名さんに先輩を拘束させるという完璧な作戦はっ!では、椎名さん先輩を連れてってください」

 

「いいだろう。そのかわり約束は守れ」

 

「分かってますって!ちゃんと椎名さんが気に入るぬいぐるみを渡しますから!」

 

「ならいい」

 

『おいっ!俺司会だぞっ!椎名っちもユイに加担してないで早く離して――』

 

「悪いがそれはできない」

 

ドスッと日向に当身をする椎名。そのままカクリと糸の切れた人形のように気を失った日向を連れて舞台袖へと消えていった。あまりの超展開に会場はついていけていない。そしてユイはと言うと、日向の落としていったマイクを拾い、ニコリと可愛らしく戦線メンバーに笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

『では、ラストの人行ってみましょう!』

 

『お前がやるんかいっ!?』

 

何事もなかったように進行を進めるユイに会場全体の考えが迷わず一致した。最期の審査のラストの出場者を残しまさかの司会交代である。

 

「もう無茶苦茶だな……」

 

というか、これもうシチュエーションでも何でもないな。

 

『最後はこの人っ!遊佐さんですっ!ではでは~どうぞっ!』

 

ユイの元気の良い声に促され遊佐がステージ袖から現れる。着物、小悪魔ときて次は何なんだろうと考えていたが、遊佐は――メイドだった。それもミニスカメイドである。白いメイドカチューシャに黒白で統一されたメイド服。綺麗に伸びる足にはニーソックス履いていた。そこから見える絶対領域が何とも眩しい。さっきの水着よりも露出は圧倒的に少ないはずなのに、これはこれでくるものがある。

 

『遊佐さんはメイド服で登場ですっ!可愛いですねっ!』

 

ユイの紹介が終わり、会場がシーンを静まり返る。皆が遊佐の言葉を待っているのだ。それを感じ取ったのか、前で組んでいた手のうち、片手を胸元へと添え、その桜色をした口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――私の身は、ご主人様と共に」

 

『フゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

 

同時に浮かべたわずかながらの笑みに、爆発的に歓声が上がる。もうちょっと砕けた感じの、それこそお帰りなさいませご主人様レベルのベタさだと思ったがそんなことは無かった。遊佐の雰囲気に非常に合っており、レベル的にもこっちの方断然高かった。あと言葉の重さも。

 

おまけに、さっきから遊佐の視線がガンガンオレに届いている。それに対して、オレはもう一杯一杯だった。

えっ?何っ?なんなのその視線!?オレに何を求めてんのっ!?

 

つか、あいつよくあんなこと平気で言えるな。聞いてるこっちの方が顔から火が出そうだぜ。いや、その、グッときたのは事実だけどよ……。

 

ああっ、もう!くそっ、何か負けた気分だ。

悔しくなったオレは、ジト目でステージ上の遊佐を睨む。が、本人はというとそんなオレの行動の理由が理解できないのか、軽く首を傾げるばかり。ちくしょう、可愛いだろうがバカっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからついに投票へと移ろうとしたのだが、あまりに騒ぎ過ぎていたのだろう。パジャマ姿の天使が現れ、捕まらないように逃げるために結局ミスコンは有耶無耶になってしまった。

 

ようやく天使から逃げ切ったその日の夜。自室に戻ったオレはポケットに何かが入っていることに気が付く。何だろうと取り出してみると、それは始まる前にもらった投票用紙だった。それをしばらく眺め、何となく投票する相手の欄にペンを走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何やってんだか」

 

1度書き終わったそれを見たオレは、アホな事をしたと思いながらクシャッと投票用紙を丸めてゴミ箱に放り投げる。そして、そのままベッドにダイブし、逃げ回った疲れからか簡単に眠りの世界へと落ちていった。

誰の名前を書いたのかって?――――――秘密だ。




はい、ということで第8話でした。

ゆり達がどれくらい死後の世界にいたのか分からないので、あえて第○回と言うように表現をぼかしました。実際何年ぐらいいたんでしょうか?2,3年どころではないと思うのですが。(ギルドの発展ぶりからして)

ちなみにひさ子さんはユイ以外のガルデモメンバーとのじゃんけんで負けたから出場という裏話があります。ユイは自分から参加しました。いずれも新しい機材ゲットのためです。

椎名は人形を作る材料目的で出場しました。さすがに被服部からもらい続けるわけにもいきませんからね。

では、今回はここまで。感想、評価、アドバイスお待ちしています。次回は物語を進めて作中でも色々あったテスト回をしたいと思います。

ではでは。

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