死後で繋がる物語   作:四季燦々

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第5話です。これが今年最後の投稿となります。
今回はオリジナル回となっているのでご了承を。


Daily

突然だが、この世界での暮らしというのは存外悪くない。むしろ快適と言ってもいいと思う。

 

寮生活で本来なら2人部屋なのだが、オレの場合は同居人がいないので実際1人部屋だ。ゆりはNPCの同居者を追い出したらしい。なにそれ酷い。

 

しかも家具もしっかりと完備している。学校生活で必要なお金は奨学金として配布される。まあ、お金をもらったところで飯を食うことぐらいにしか使えないんだけどな。その食事についても食堂が開かれているので困ることはない。

 

ようするに、普通に生活するには何一つ不自由はないのだ。そんな生活の中、今日もオレの1日が始まる。

 

「く、ふぁ~~。……朝か」

 

必要最低限の物だけを揃えた部屋のベットで目覚める。正直全然寝足りないが、今日は音無と日向と一緒に朝飯を食う予定なのだ。

 

「あ~……顔洗おう」

 

洗面所へと向かい顔を洗い、歯を磨く。SSSの制服を着て、部屋を出る。どうやら今日も良い天気のようだ。とりあえず音無の部屋へと向かうことにしよう。

 

 

 

 

「おーい、音無。起きてるか~」

 

コンコンコンと音無の部屋のノックをする。ちょっと待ってくれ!と言う声がしてガチャリと扉が開いた。

 

「オッス、音無」

 

「おはよう。さすが神乃、時間通りだな」

 

部屋の扉をノックすると音無が出てきて、簡単に朝の挨拶を。

 

「じゃあ日向の部屋に行くか」

 

「ああ。そういえば日向の相部屋って大山だったよな?だったらあいつも誘わないか?」

 

「オレはかまわないぜ。どうせなら大勢で食った方が楽しいからな」

 

そういうことで、大山も誘うことにしたオレ達は日向と大山の部屋へと向かう。とは言うが、音無の部屋と日向の部屋は隣同士なのですぐ横に行けばいいだけだ。そう思いノックをすると、出てきたのは日向ではなく大山だった。

 

「あっ、音無君、神乃君。おはよう」

 

「おはようさん、大山。日向起きてるか?」

 

「日向君?まだ寝てるけど?」

 

「あの野郎、自分から誘っといて寝坊かよ」

 

「日向君がどうかしたの?」

 

「一緒に朝飯食うことにしてんだ。大山もどうだ?」

 

「いいの?じゃあ僕も行くっ!」

 

「んじゃ悪いけど大山、ちょっとあがらせてもらってもいいか?」

 

「日向君を起こすんだね。いいよ、あがってあがって」

 

「お邪魔しま~す」

 

「お邪魔します」

 

日向と大山の部屋へとあがると中は意外と片づいていた。日向が片づけているとは思えないからたぶん大山がやってくれてるんだろう。

 

「ぐが~~ごが~~」

 

「どうしよう、なんかすっげームカつくんだけど」

 

「待って神乃君!さすがに寝ている人に向かって拳を握るのはダメだよ!」

 

「むう、仕方ない。じゃあこれで」

 

「ちょっと待て神乃!そのバズーカどうするんだ!?てか、どっから出した!?」

 

「ギルド特性持ち運び可能な早朝バズーカだ」

 

「本当、なんなんだよあの集団っ!!」

 

試に依頼してみたら快く造ってくれた。いや~、ノリが良い奴らでよかったよかった。

オレは一緒に渡された耳栓をつけながら悪い顔で言う。たぶん今オレは最っ高に黒い顔をしているだろう。

 

「まあまあ2人とも。ちょっぉ~と耳を塞いでてくれないか?」

 

「本当にやるの」

 

「日向、ドンマイ……」

 

2人が耳を塞いだのを確認。さあ~て、1発ぶちかますとしますか。

 

「3、2、1――――ファイア!!!」

 

ズドォォォォォン!!!

 

「くぁwせdrftgyふじこlpっ!?」

 

「おっす日向。起きたか~?」

 

「…………」

 

「あれ?起きないな。じゃあもう一発――」

 

「ちょっと待って!もうやめてあげて!!日向君気絶してるよ!心地よい眠りから一気にショックで気絶だよっ!?」

 

え~、つまんねえな。しゃーない、ここらで勘弁してやるか。

 

「スゴい威力だな。まだ鼓膜がビリビリするぜ……」

 

「そりゃあギルド特製バズーカだからな。音だけなら普通のバズーカと同じレベルだぜ」

 

「んなもん撃つなよ。何気にお前って鬼畜なところあるよな」

 

「そうか?ちょっとしたお茶目なんだけどな」

 

「じゃあ日向君を起こそうか……。今度は普通にだからね!」

 

「分かってるって」

 

とりあえずいびきすら止まり、白目をむいている日向の顔をペチペチと叩く。おーい、日向ー?生きてるー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなりなにすんだよ!?」

 

「だって、お前が起きてないのがいけないんだぜ?」

 

「だからって普通寝てる奴にバズーカ撃つか!?せっかくの良い夢見てたのにいきなり爆発ばかりの戦場の夢に切り替わったわ!!」

 

「朝から愉快な夢じゃねぇか」

 

「お前のせいだから!?そして全然愉快じゃねえからな!むしろ最悪の目覚めですから!!」

 

ようやく起きた日向は事情を聞くと、開口一番に怒ってきた。うるせえな。起きてないお前が悪い。だから僕は悪くない。

 

「まあまあ日向、落ち着けよ。もとはといえば言い出しっぺのお前がいつまでも寝てるのが悪いんだぞ?」

 

「……それを言われると何も言い返せねぇ」

 

さて、悪ふざけもこれくらいにして、そろそろ行くか。

 

「ほら、日向。さっさと着替えて食堂行くぞ。あっ、ちなみに大山も一緒だからな」

 

「ったく……。へいへい分かったよ」

 

そう言うと、日向は準備を始めた。その準備が終わるまでオレと音無と大山は部屋の外へと出て、朝食に何を食べるか話していた。ここはメニューも豊富だから迷っちゃうぜ。

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱこの食堂のハンバーグはうめぇ」

 

「朝からハンバーグって重くないか?」

 

「好きだから大丈夫。それに重さだけなら日向も唐揚げ定食だぜ?」

 

「いいんだよ俺は。あっ大山、その卵焼き一切れくれ」

 

「いいよ~」

 

和気あいあいと食事をとるオレ達。食堂には名前も知らない戦線メンバーがポツリポツリといるくらいだった。他の生徒はとっくに授業に向かっているのだろう。こういう時SSSにいてよかったと痛感する。

 

「食い終わった後はどうする?」

 

「特にする事はないからな。大山、何かしたいことあるか?」

 

「う~ん……僕は何でもいいよ」

 

基本的に自由だからな、この戦線。作戦無いとすっげー暇だ。

 

「とりあえず本部に行ってみるか。もしかしたら何かあるかもしれないし」

 

「それもそうだな」

 

そうと決まれば、さっさと朝食を食べ終わったオレ達は、食器を片付けて本部に向かう。食堂から本部へと向かう途中、運動場で体育をしている一般生徒を見かけた。どうやら授業内容は持久走らしい。朝っぱらからご苦労様です。

 

「あら、神乃君。良いタイミングで来てくれたわ」

 

「……?オレに何か用でもあるのか?」

 

「あなたにちょっと話があるのよ」

 

本部にはゆりとその傍らに遊佐がいるだけだった。どうやら他の戦線メンバーは留守にしているらしい。

 

「とりあえず座って。日向君達もいてくれても別にかまわないから」

 

「なんだなんだゆりっぺ。神乃に何する気だ?」

 

「別に悪いことさせるわけじゃないわよ。ねえ神乃君。ようやくだけどあなたの所属する班が決まったわ」

 

「おっ!ようやくか。随分時間がかかったな」

 

「で、どこなんだゆり?」」

 

「あなたには通信班に入ってもらうわ。そこで遊佐さんのバックアップをしてちょうだい」

 

「へえ、神乃は通信班か。確かに人員が不足しているしな」

 

通信班は遊佐を除いては数人ほどしかいない。何故ならそれ以外の所も人員が不足しており、わざわざ戦闘を行うわけでもない班に戦力を費やすわけにはいかないからだ。そんなところにオレを入れるってことは……どういうことだ?

 

「そんなに深い理由はないけど、あえて言うなら遊佐さんのご指名よ」

 

「遊佐がオレを?なんでまた?」

 

「あなたが皆さんの中で一番暇そうだからですよ」

 

あれ、目から汗が……

 

「お前オレのこと嫌いだろ」

 

「別に普通ですよ。この前の行動は軽率と思う反面……すごいと思いましたが」

 

「おおう、いきなり下げられて、いきなり上げられた」

 

面と向かってそんなことを言われると照れる。でもちょっとだけ嬉しい。

 

「と、まあそんな感じで2人はこれからパートナーってことでよろしく」

 

「よろしくって……軽いな」

 

実際、オレができることってあんのか?遊佐の後ろについて行くことしかできないねえと思うんだが。

 

「それでは私はこれで」

 

「あ、遊佐!……って行っちまった」

 

「相変わらずの無愛想だな…。天使といい勝負だぜ。なに考えてんのかサッパリだ」

 

「でも、遊佐さんは無表情でちょっと毒舌かもしれないけど、作戦の時にはアドバイスもくれるし、良い人だよ」

 

「そうよ日向君。遊佐さんは私のサポートも頑張ってくれてるのに。そんな風に言うなんて……最低ね」

 

「最低だな日向」

 

「酷いよ日向君」

 

「人間のクズだな」

 

「ちょっ!?別に悪口言ったわけじゃねえって!?ていうか、神乃!お前のセリフが何気に一番ひどい!!」

 

「「「「……………」」」」

 

ジトーっと部屋にいた全員で日向を睨む。最初はその視線から目を逸らしていた日向だったが、やがて耐えられなくなったのか、

 

「分かったよ!俺が悪かったよ!!だからそんな道端のゴミを見るような目で見ないでくれ!!」

 

と、観念した。あとでちゃんと謝っとけよ。

 

「オレは常に遊佐についとかなくちゃいけないのか?」

 

「そんなことはないわ。バックアップは作戦の時だけでいいわよ。個人的についていたいなら止めはしないけど。なに?惚れちゃった?」

 

「バッ!?そ、そんなわけないだろ!!」

 

ストーカーみてえな言い方すんな!!

 

「なに顔赤くしてんだよ」

 

「う、うっせーよ音無!別に赤くなんてなってねえ!!」

 

だから、別に何ともないって!!

 

「あれあれ~~?なんか怪しいぞ~神乃」

 

「お~しお前は首差し出せ。生きたまま介錯してやる」

 

「俺だけシャレにならねえ!?何でだよ!?何で俺に対してだけそんな反応なんだ!?」

 

「日向君だし」

 

「日向だしな」

 

「日向君だからね」

 

「ぐぅぅぅぅ!!俺の味方はここにはいないのか!?」

 

ぐぁぁぁぁと頭を抱える日向は無視しよう。ったく、冗談の通じねえ奴だ。さすがに本当に切ったりしねえよ。

 

「あの……神乃さん?どうして刀に手を添えていらっしゃるのでしょうか?」

 

おっと、いけねえ。つい無意識に。

 

「――――さて、今日は特に無いんだよな?じゃあ何する?」

 

「あなた達本当に暇そうね……。それだったらまた私の暇つぶしに付き合って「「「それだけは却下!!」」」ちょっとっ!こんな可愛い女の子の誘いを断るとかどういうつもりっ!?」

 

ふざけんなっ!お前の誘いとか青ざめることはあっても、赤くなることはねえよっ!だってロクなことねえからな!あと自分で可愛いとかいうな!!

 

「………しゃーない、学校内をブラブラするか」

 

「そうしよっか。じゃあ僕達は行くね、ゆりっぺ」

 

ギャーギャーと騒ぎ、終いにゃ銃を抜きそうな勢いのゆりから逃げるように、オレ達は本部から飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?もしかしてあそこにいるのってTKと松下五段じゃね?」

 

校内を歩いていると、校舎と校舎の間のひらけた場所でTKと五段が共に何かしていた。あれは……動きからしてダンスしてんのか?どこぞの蟹さんはダンスは苦手なようだけど。あとミルク好き。

 

「本当だな。あれは……踊ってんのか?」

 

「何か面白そうだな。行ってみようぜ」

 

オレ達は華麗なステップで踊るTKと、ぎこちない動きをとっている五段の元へと向かう。

 

「1、2、3、and turn」

 

「とっ、とっ、とっ……こうか!」

 

「oh……more speedy」

 

「……何してんだ2人とも」

 

TKは分かるが、五段が踊ってるとなんかシュールだ。お前柔道一筋じゃなかったのかよ。というか、お前の体格でダンスは難しいと思うぞ。あとフラフラしすぎじゃね?

 

「おお、4人とも。なに、TKにちょっとダンスを教わっていてな」

 

「なんでまた?」

 

「理由は特に無いが。言うならば、息抜きだな」

 

「息抜き?」

 

「1日中柔道の練習をしていても身につかないからな。たまには他の事に挑戦するのもいいものだ」

 

ダンスも嫌いじゃないしなと言う五段。加えてこの世界なら時間はいくらでもあるし焦ることは無い、ということらしい。そういえば、椎名はもう十数年この世界にいるとか言ってたな。

 

「お前達も一緒にどうだ?」

 

「オレはいいや。面白そうだけどたぶんできねえから」

 

さっきからTKが「Woooooooo!!」とか言いながらヘッドスピン始めてるけど、あれは無理だわ。頭痛そう。あっ、そういや前から気になっていたことがあったんだった。

 

「なあなあTK。お前って誰にダンス教わったんだ?」

 

「おっ?それは俺も知りてえな。どうなんだTK?」

 

ふと気になっていたことなんだが、もしかして自己流か?

 

「God of Dancing!」

 

「なっ!ダンスの神様だって!?――――て、誰だ?」

 

「よく分からんが、さすがTKだな」

 

よく分からんのに納得しないでくれ、五段。結局、TKのダンスについては誰に教わったのか、そもそも何のダンスなのか分からなかった。

 

ゆりは、TKは生前サヴァン症候群だったのではないかと推測している。サヴァン症候群とは知的障害を持ちつつも、ある特定の分野において天才的な才能を発揮するものらしい。本来であれば、岩沢が失った声をこの世界で取り戻したように障害と言うのは無くなるはずなのだが、TKは無くなっていない。このことについて、おそらくサヴァン症候群を能力として認識されたのではないか、とゆりは予想していた。

 

「しっかし本当にTKは謎だらけだな。ある意味個性だらけだぜ……」

 

TK達と分かれたオレ達はまたブラブラと校内を歩きながら話していた。

 

「僕からしたら羨ましいよ。僕なんて特徴がないのが特徴って言われてるんだよ……」

 

「お、落ち込むなよ大山。ほら、神乃!お前もフォローしろって!」

 

「え!?いや、何も大山が個性がないってわけじゃなくて、その――」

 

「えっ、本当!?じゃあ僕にはどんな個性があるの!?」

 

キラキラした目でオレを見てくる大山。えっと、大山の個性、個性………

 

「――童顔?」

 

「気にしていることをっ!酷いよ神乃君!」

 

「わ、悪い!え~と、音無パス!」

 

「え?え?俺かよ!う~ん、日向パス!」

 

「うえっ!?俺!?えっと、納豆好き?」

 

それは個性じゃないと思うぞ、日向。

 

「それ個性じゃないよね!!ただの好みだよね!というか、僕は童顔と納豆好きしか無いの!?」

 

「「「す、すまん……」」」

 

いや、思いつかないんだって、マジで。

 

「それにしてもそろそろ昼時じゃないか?」

 

「そういや腹が減ってきたな。食堂行くか?」

 

「そうだな。ほらほら、大山。むくれてないで行こうぜ。何か奢ってやるから」

 

「じゃあオムライス」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?皆さんお揃いで」

 

「高松と藤巻と椎名っちとひさ子じゃねえか。これまた珍しい組み合わせだな」

 

学食にはNPCの連中も大勢いたが、その中に8人掛けのテーブルに高松と藤巻と椎名とひさ子とがいたので近寄ってみた。

 

「お前らも昼飯か。一緒に食ってもいいか?」

 

「私はかまいませんよ。他の3人は……」

 

「別にいいぜ」

 

「アホ日向が隣じゃなければ」

 

「あさはかなり……」

 

三者三様の物言いだが、どうやらいいみたいだな。

 

「じゃあ、メシとってくるわ」

 

朝は結構ガッツリ食ったから、そうだな。五段オススメの肉うどんにでもするか。あっ、大山にオムライス奢らねえと。

大山にオムライスを奢り、自分の分の肉うどんを持ったオレはひさ子の隣に座った。他の奴らもそれぞれ好きな席に座ると、自分の昼食を食べ始めた。。

 

「ズズゥ~……、うーん。五段オススメなだけあるな。ダシも麺も肉もうまいぜ」

 

ふと、隣を見てみると、ひさ子が何やら自分の昼食をジッと見つめている。何か考え事をしているようだった。ちなみにひさ子はチャーハン。どうでもいいか。

 

「どうかしたのか?」

 

「……ん?何が?」

 

「いやな、なんかボーっとしてんな~と思って。何か悩みでもあんのか?」

 

「別に悩みってほどのことじゃないさ。その……ちょっと今後の私達について、な」

 

いつもの強気なひさ子ではなく、今日の彼女は少し表情が暗かった。オレの問いかけに答える声にも覇気がない。他の奴らはそれぞれの食事や会話に夢中でオレ達の会話には気づいていないようだった。

 

「私達ってガルデモのことか?」

 

「ああ。岩沢が消えて、ボーカルもいなくなっちまったからな。関根や入江もまだちょっと元気ないし」

 

「そうか……」

 

それを聞くと、岩沢の存在がどれだけ大きな支えであったかが分かる。でも、それは悲しんではいけないことだ。だって、岩沢は自分で納得して逝ったはずだから。

 

「もしかして寂しいのか?」

 

「寂しい……か。いや、もしかしたらそうなのかもな。私はあいつの歌声に救われたんだ。それからずっと一緒にライブをやってきた、心にさポッカリ穴が空いた気分だよ」

 

悲しそうに笑うひさ子。何とかいつもの自分を装おうとしているようだったが、全く笑えていない。逆に無理に笑っているその笑顔は痛々しかった。

 

「どうすればいいと思う?」

 

「……オレは正直何かを言えるほどお前らガルデモを理解しているわけじゃない」

 

「そう、だよな……。はははっ、ごめん変な事言って。このことは忘れ「――ただ」……?」

 

「お前達はいつも楽しく音楽をやってるほうがずっといい。少なくともオレはお前達に音楽を続けてほしい。もっともっといろんな曲を聞かせてほしい」

 

確かに中心の人物がいなくなることは辛いことだ。でもな、オレを含めてお前達には皆がついてる。一般生徒のファンもいる。全員がお前達の音楽を待っている。そんなオレの言葉に、ひさ子をは驚いた顔をしていた。

 

「――――サンキュ。だよな。私達は自分達だけでやってるんじゃないもんな。このままくすぶってんのは岩沢の奴にも、何より私達の為にもならないよな」

 

「なら、どうするんだ?」

 

とか聞いてみる。まあ、ひさ子の答えなんてだいたい分かってるけどな。

 

「新しいボーカルを探す、そしてまたバンド組むんだ。先にいっちまった岩沢にも自慢できて、あいつがうらやましがるくらいすっげーバンドをさ」

 

ひさ子は強い意志をもった目をして、さっきとは違う憑き物が落ちたような笑みを浮かべながらそう言った。そんだけ笑えれば、あとはもう大丈夫だな。

 

「――ありがとな、神乃。あんたに相談してよかったよ」

 

「なに、ファンとしてバンドを支えるのは当然だ」

 

オレのセリフにキョトンとするひさ子。何か変なこと言ったか?

 

「フフッ。あんたって、ほんと変な奴だな」

 

「なんか引っ掛かる言い方だな、おい」

 

変なって。そんなに変か、オレ。

 

「褒めてんだよ。ありがたく受け取っておきな」

 

「お、おう。ありが、と?」

 

「こっちこそ、ありがとな」

 

ひさ子にお礼を言われたオレは、照れて赤くなっているだろう顔を隠すために、肉うどんへと向き直った。

 

「うわ……」

 

麺がのびまくってスゴいことになっていた。でもやっぱりうまかった。

 

 

 

 

 

 

昼食を食べ終わったオレ達は、それぞれ別行動をとることになった。音無と日向は銃弾の補充のために武器庫に。大山は藤巻と一緒に行くそうだ。他の奴らもそれぞれ解散した。

 

で、オレはというと――――

 

「やっぱ昼寝は屋上が一番いいな」

 

邪魔な刀を脇に置き、屋上でゴロン。それはもう道端の猫並みにダラ~とだらけていた。やっぱ食後はこれだね!牛になるとか気にしない!

 

「今日は天気もいいし、腹一杯ですっげー眠、いから……な…」

 

そう呟いているうちにもウトウトとしてきたので、それに逆らわずに目を閉じる。暗闇の世界へと向かうとすぐに睡魔はやってきて、オレの意識を奪っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――そこでは

 

 

 

 

 

 

――――誰かが笑っていた

 

 

 

 

 

 

――――誰かが泣いていた

 

 

 

 

 

 

――――誰かが怒っていた

 

 

 

 

 

 

――――誰かが楽しんでいた

 

 

 

 

 

 

満ち足りているはずの場所。けれど何かが足りない場所。何だ、何が足りない?

………分からない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバッ!!

 

「ハアッ!ハア……ッ!――――夢、だったのか?」

 

妙な夢だった。具体的にどんなとは言えない。でも、胸の内に例えようのない気持ち悪さが渦巻いている。そんな感じの夢だった。

 

「ちっ、感じわりぃ……」

 

額に浮かんだ汗を拭いながら舌打ち。再び惰眠を再開しようと腕を後頭部で組んでゴロンと寝転がり、目を閉じようとした。

 

ヒラリと何かが舞った。

 

ブワァと弱く風が吹いたと思ったら、真っ白な何かが視界に入った。さらに綺麗な色をした金色の髪と色白な肌をした顔が――――ゑ?

 

 

 

 

 

 

 

「――――何をしているのですか?」

 

遊佐が寝ているオレを見下ろしていた。風で中身も丸見えなスカートを押さえようともせずに。

 

「(お、落ち着け!ビークールだオレ!ここで下手な態度をしようものなら、問答無用で嫌われる!これから一緒に行動する身としてはそれだけは避けたい!なるべく!冷静に!かつ紳士的にこの状況をのり越えるんだ!!)」

 

平常心、平常心と心の中で念じ、言葉を吐く。

 

「――――白」

 

し、しまったぁぁぁぁぁぁぁ!!隠そうとしたことの方が逆にでてきちまったぁぁぁぁぁ!!

 

「はいっ?一体何のこと――っ!?」

 

「お、お気づきになりましたか――って、待った!ストップ遊佐!これは不可抗力だ!別に覗きたくてっ―――ぐぶぉっ!!」

 

なにやら無表情なまま顔を少し赤くした遊佐は、慌ててスカートを手で押さえる。そして冷や汗を流しながら今だに仰向け状態のオレの顔面を、革靴を履いた足で容赦なく踏みつけてきました。脳内でものすごい音がした。でも、いつも冷静な遊佐にしては意外な反応だったから、少し新鮮でした、はい。

 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

土下座して謝るオレ。もはや靴すら舐めるレベル。

 

「もういいです。考えてみれば気づかなかった私にも落ち度はありましたから」

 

いや~許してもらえてよかったよかった。骨でも折れたんじゃねえかってくらい痛いけど。

 

「顔、大丈夫ですか?」

 

「若干傷つく言い方だけど、大丈夫だ。鼻血も出てねえし」

 

「そうですか。――――それよりあなたはここで何を?」

 

「暇だし、昼寝でもって思ってな。遊佐こそどうしたんだ?」

 

「私は校内の見回りをしながら天使の監視です。もっとも、現在は授業中なので必要ないようですが」

 

オレが寝たのが昼休みが終わってすぐぐらいだし。遊佐に聞いた時刻によるとオレの昼寝の時間はあまり長くはなかったようだ。

 

「それでは私はこれで」

 

そう言いながら体を翻し、屋上の出口へと向かう遊佐。オレは寝直そうとしたが、遊佐の一撃のせいで目がすっかり覚めてしまった。良い一撃持ってるじゃねえか。

 

「(どうせ次から一緒に行動することになるんだし、せっかくだからついて行ってみっかな)」

 

オレは脇に置いていた刀を腰に差し直し、さっさといなくなってしまった遊佐を追いかけて屋上をあとにした。屋上から出たオレはどこかへ行ってしまった遊佐を探す。すぐに追いかけたので割と早く見つかった。というか、遊佐はゆっくりと歩いていたからすぐに追いついてしまった。

 

「おーい、遊佐ーー!」

 

「……?まだ何か?」

 

「別に用ってわけじゃないんだけどさ、オレも一緒について行っていいか?」

 

「それは構いませんが……あなたのすることなんてありませんよ?異常が無ければただ校内を見回るだけですから」

 

「全然OKだ。そんじゃよろしく」

 

許可もいただけたので遊佐と共に歩き出す。時より教室の中を覗いてみると、古典、数学、英語などといった授業が行われていた。文系教科はなんとなく分かったが、理系、特に数学はチンプンカンプン。軽くめまいがした。

 

というか、こんな美がつく女子と共に行動していて、なおかつ2人っきりというなかなか良いシチュエーション。だが悲しいかな。ラブコメの波動は感じない。

 

「……………」

 

「……………」

 

会話がありません。てか、話す話題がありません。沈黙がメチャクチャキツいです。おかげでシチュエーションはバッチリなのに一切のイベントが発生しない。まあ、期待なんて全くしていなかいが。

 

「さきほどから私の顔をジッと見つめていますが……何か顔についていますか?」

 

「えっ!?い、いや!別にジッと見てたわけじゃねえよ」

 

「そうですか。では、ちょうどいいので仕事の話をしておきます」

 

これは予想外。意外にも話題を振ってくれたのは遊佐だった。

 

「私達の活動は主にゆりっぺさんへの状況の伝達係ですが、実はそれ自体は私だけでもできます」

 

「じゃあオレいらなくないか?」

 

「ですが、私を含め通信班は戦闘を行う場面ではその活動はできません。――――いえ、厳密にはできなくもないのですが、戦いの場では他の方々の足を引っ張ってしまうでしょう」

 

まあ、それぞれ得手不得手はあるだろうし、通信を戦場で行うのは大変だ。つか、まずできない。

 

「そこであなたには皆さんと戦いながら、かつ通信士の仕事も行ってもらいます」

 

「――――はいっ?」

 

つ、つまり作戦に参加することで、状況、敵の戦力、こちらの戦力、仲間の状態などをより詳しく伝えろってことか?

 

「そういうことになります。理解できましたか?」

 

「でもそれって早い話バトりながら通信士としての仕事もしろってことだよな。――キツくね?」

 

「それはもう。馬車馬のように働いてくださいね、期待してます」

 

そう思うのなら、少しは笑って言ってください。無表情で言われても全然期待されているようには思えないです。

話は以上だと、遊佐は再び沈黙。オレもこれからのオーバーワークの事を憂いながらその後へと付いて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーン、カーンコーン

 

「授業が終わったみてえだな。これから回るところは?」

 

「見回りをするところは全て終わりました。もう寮の方へ戻られてもかまいませんよ」

 

授業が終わり、結局何も起こることのなかった見回りも終了したオレ達は本部へと戻ってきた。扉に触れる前に合い言葉を言って本部へと入る。中ではゆりが何やらノーパソでカタカタしていた。

 

「あら、遊佐さんお帰りなさい。――って、なんで神乃君までいるの?」

 

「偶然屋上で鉢合わせしただけですよ。それよりもゆりっぺさん。見回りをしてきましたが、何も異常はありませんでした」

 

「そう、ご苦労様。それより、ぐ・う・ぜ・ん、鉢合わせしたね~へぇ~。」

 

「な、何だよ?」

 

「別に~……ここから出るときあんなに必死になってたのは何だったのかな~、とか考えてないわよ~」

 

「ガッツリキッチリ考えてんじゃねえか!!あと、本当にたまたま居合わせただけだからな!」

 

まあ、そういうことにしといてあげるわ、とゆり。ちくしょう。なんかメチャクチャ負けた気分だ。

 

「……?何のことだか分かりませんが、私はこれで」

 

「ありがとう遊佐さん。次の作戦の時もよろしくね」

 

「はい、では失礼します」

 

遊佐はそう言うと早々に本部から出て行った。こうなってはオレもやることはなくなってしまった。さっさと部屋へと戻るかな。

 

「んじゃ、オレも行くぞ」

 

「あっ!ちょっと待って神乃君。これを渡しておくわ」

 

「これって――インカムだよな?」

 

不意にゆりに呼び止められたオレは、彼女から黒いインカムを渡される。これは?

 

「あなただって通信班なんだから必要でしょ?言っておくけど貴重な物だから、壊したりなんかしたら……分かってるわよね?」

 

「お、おう……」

 

壊したら何されんだろ……。恐ろしくて聞けねえよ。

 

「ちなみに遊佐さんの型とまったく同じ物。つまり、お・そ・ろ・い」

 

「まだ言うかコノヤロー。つか、何だその語尾にハートがつきそうな言い方は。何度も言ってっけど、遊佐とは何も無いっつーの」

 

「なによ、面白くない」

 

楽しむなよ。悪趣味だぞ。

 

「まあ、いいわ。じゃあこれからの作戦の時にはよろしくね」

 

「どこまでできるか分かんねえけど、やれるだけのことはするよ」

 

大変な役割を任されちまったけど、これがオレに与えられた仕事だというのなら全身全霊とまではいかないが精一杯頑張るさ。

 

「ちょっと待って、神乃君」

 

本部から出ようとドアノブに手をかけるとゆりが引き止めてきた。

 

「今度はなんだ?」

 

「あなた、記憶の手がかりは何か掴んだの?」

 

「それが全く無しだ。思い出すのはいつになんのかね。でっ、それがどうかしたのか?」

 

「特に意味は無いわ。ただ、進展はあったのかが気になっただけよ」

 

なにやら真剣な表情で話してきたから何事かと思ったけど、意外にも心配してくれていたんだな。ありがとよ。

 

「そうかい。ならもう行ってもいいか?」

 

「…………」

 

「……ゆり?」

 

「え?ああ、いいわよ。引き止めて悪かったわね」

 

「別に構わねえよ。じゃあ、また晩飯の時にでも」

 

そう告げて本部から出たオレは、歩き出しながら考えていた。

 

「(ゆりの最後の様子……何か考えているようだったな。会話の流れからオレの記憶のことだと思うけど、何かが引っかかってるって感じだった?)」

 

少しおかしな様子だった我らがリーダーの事に頭を捻るも、結局その思惑が分かるわけもなく早々に考えるのを放棄した。そして、オレは晩飯まで時間を潰そうと寮の自室へと向かうのだった。さて、晩飯は何を食べようか。




はい。ということで神乃君の日常に焦点を当てたオリジナル回でした。
なるべく矛盾点が無いように書いたのですがどうだったでしょうか?

そう言えば、今更ですが某2525動画でAB!の一挙放送がありましたね。皆さんは見ましたか?僕は10話でまた泣きそうになってしまいました。やっぱりAB!はいいですね!

おそらく三が日の投稿は微妙だと思いますが、来年もよろしくお願いします。
それでは皆さん、よいお年を!

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